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Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
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平成27年度名誉教授懇談会及び職員等の栄誉の祝賀会 開催報告

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11月27日、東工大蔵前会館(Tokyo Tech Front)くらまえホールにおいて、恒例の名誉教授懇談会及び職員等の栄誉の祝賀会が開催されました。

当日は、90名以上の名誉教授及び9名の栄誉の祝賀対象者が出席し、盛大に会が催されました。

栄誉の祝賀対象者代表挨拶 末松安晴 栄誉教授

栄誉の祝賀対象者代表挨拶 末松安晴 栄誉教授

名誉教授とは、本学を退職した教授のうち、本学の教育上又は学術上の功績があった方に与えられる称号です。また、名誉教授及び本学教員の中から、過去1年間にノーベル賞や文化勲章、叙勲、褒章など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた方が、栄誉の祝賀対象者となります。

祝賀会は祝賀対象者の紹介・記念品贈呈に始まり、新名誉教授の紹介、三島学長の挨拶と近況報告等の順で進められました。

引き続いて、懇談会が行われ、出席者全員和やかな雰囲気のうちに閉会しました。

新名誉教授代表挨拶 奥田雄一 名誉教授

新名誉教授代表挨拶 奥田雄一 名誉教授

三島学長による近況報告

三島学長による近況報告


~異分野融合による未来産業技術の創成~精密工学研究所公開2015 開催報告

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10月30日、「精密工学研究所公開2015」が開催され、秋晴れの下、企業の研究者・開発者を中心に、学外から120名近い参加がありました。

精密工学研究所とは

精密工学研究所

「精密工学における学理と応用」を理念に1954年に設置された研究組織で、東京工業大学附置研究所のひとつです。情報工学、電子工学、機械工学、制御工学、材料工学といった異なる領域の研究者から構成され、分野融合による先端的研究を推進しています。従来の精密工学の枠組みを越えた新たな学術領域を創成すると共に、「ものづくり研究分野」への展開をめざして、社会に貢献しています。

精密工学研究所公開2015

精密工学研究所では、最新の研究成果を紹介する研究所公開を、毎年開催しています。今年は「異分野融合による未来産業技術の創成」のキャッチフレーズのもと、各研究室の一般公開に加え、午前・午後とも、各1時間程度のテーマ別ラボツアーを各4コース設定し、多くの方にご参加頂きました。

  • ラボツアー:工作技術センターにて

    ラボツアー:工作技術センターにて

  • ラボツアー:手術支援ロボットの紹介

    ラボツアー:手術支援ロボットの紹介

また、午後からはすずかけ台キャンパス 大学会館において、技術講演会を開催しました。新野所長のあいさつの後、佐藤誠教授による「VR環境とハプティクスインタフェース」および北條春夫教授による「精研における基盤機械技術研究 ~動力を伝える歯車~」の講演がありました。

  • 佐藤誠教授の講演

    佐藤誠教授の講演

  • 北條春夫教授の講演

    北條春夫教授の講演

知能化工学部門の佐藤教授は、VR(仮想現実)環境を直接操作するために、ストリング型力触覚提示デバイスSPIDARの研究開発を行っています。講演では、SPIDARについて概説し、力触覚提示を伴う様々なVR環境を紹介しました。

精機デバイス部門の北條教授は、第2次大戦以前から脈々と続けられ、現在の機械技術の基礎を構築してきた歯車の研究について講演しました。歯車は、動力を適切に負荷に伝える要素であって、今後展開が加速する電気自動車にとっても必須のアイテムです。この必要性を分かりやすく説明し、そこに潜む技術的課題とその取り組みの現況の一部を紹介しました。

学外に加え、学内からの参加もあり、約110名という多くの方々にご聴講頂き、盛会となりました。どちらの講演も、最新のトピックスに加え、精密工学研究所の歴史を踏まえた研究の推移の説明が含まれ、非常に興味深い内容でした。

参加者のアンケートでは、今後の各研究の方向性についても示唆に富むご提案をいただきました。精密工学研究所公開は、所員ならびに説明を手助う大学院生にとっても、よい刺激となっています。具体的な共同研究などのきっかけにもなっており、今後も産業界との重要な接点として、より有効なものとなるよう工夫・改善しながら開催していく予定です。

問い合わせ先

精密工学研究所 事務局

Tel : 045-924-5963

第3回日中大学間核燃料サイクル学術討論会(ASNFC2015)を主催

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12月2日~5日の4日間、西9号館 ディジタル多目的ホールとコラボレーションルームにおいて、本学原子炉工学研究所と中国・上海交通大学との共催による国際シンポジウム「第3回日中大学間核燃料サイクル学術討論会(ASNFC2015)」が開催されました。日本側の議長は東工大 小澤正基 教授、中国側の議長は上海交通大学の韦悦周(ウェイ ユェヂョウ)教授が務めました。

討論会の様子
討論会の様子

このシンポジウムは、原子力の最終段階である、核燃料サイクルの基礎科学を主題としています。上海交通大学で開催された、2011年の第1回、2013年の第2回では、核・放射化学、再処理(湿式、乾式)、分離変換工学、先端分離技術などの基本的トピックスを取り上げました。それらに加えて今回からは、放射性廃棄物、除染・廃炉、材料、熱流動・熱化学及び安全性など、今日的課題や周辺技術にも議論の幅を広げています。その結果ASNFC2015には、日本の44名と中国の35名を含め、アメリカやロシアなど世界9カ国から90名の参加者と77報の投稿論文が集まり、核燃料サイクルの科学技術に対する世界的注目度を裏図けるものとなりました。

核燃料サイクル:
原子力発電の使用済燃料の中に含まれる、核分裂していないウランや、原子炉内で生まれたプルトニウムを再処理して取り出し、燃料として再利用すること。もう一度原子力発電の燃料としてリサイクルでき、エネルギーを長期にわたり安定供給することが可能となる。

開会式では、本学から三島良直 学長、岸本喜久雄 大学院理工学研究科工学系長、矢野豊彦 原子炉工学研究所長が、歓迎のあいさつを行いました。続く本会議では、柴之芳 中国科学院院士(中国側名誉議長)、山脇道夫 東大名誉教授(日本側名誉議長)の講演がありました。

続いて開催された討論会について特筆すべきは、日本からは東工大を始めとして東大、近大から13名の学生が、中国からは上海交通大学を始めとして清華大、四川大、蘭州大などから10名の学生が出席したことです。また、全ての論文が口頭発表されました。

閉会式では、当該分野での日中双方の若手研究者の育成の一助になることを願い、日本7報、中国5報の論文発表に対して、優秀学生論文発表賞とウランガラスで作成した記念品が授与されました。

優秀学生論文発表賞の受賞者と日中の両議長
優秀学生論文発表賞の受賞者と日中の両議長

原子力は、エネルギーの安定的な供給確保、および、地球温暖化対策として重要な役割を担っており、核燃料サイクルは原子力の持続可能な発展に必要不可欠です。本シンポジウムを通じて、日中双方の大学における燃料サイクル基礎分野の目覚ましい学術的レベルアップが確認されました。

ワイン科学研究センターで試飲

ワイン科学研究センターで試飲

なお、討論会の合間を縫って毎夕、初日は歓迎会、2日目は晩餐会、3日目は招待講演者会合が催され、参加者一同始終和やかな雰囲気で活発な議論と交流が交わしていました。さらに最終日には、中国、アメリカ、ロシア、ポーランド、韓国などから総勢40名の参加を得て、山梨県北杜市と甲府市へのツアーが挙行されました。抜群の天候にも恵まれ、三澤ワイナリーから晩秋の富士山遠景や南アルプス・甲斐駒ケ岳の絶景を臨むことができました。山梨大学のワイン科学研究センターでは奥田徹センター長から発酵生産に関する講義と試飲も行われ、12時間弱に渡る強行日程にもかかわらず、一同大満足な様子でした。

これらの成果を踏まえ、次回のASNFCは、2017年に中国・蘭州大学で開催される予定です。

お問い合わせ先

原子炉工学研究所
Email : asnfc2015-local@nr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2962

東工大生が箱根駅伝8区に出場予定~2年連続の快挙

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松井将器さん

松井将器さん

本学陸上競技部 松井将器さん(工学部機械宇宙学科4年)が、第92回東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)に、関東学生連合チームの復路8区(平塚~戸塚:1月3日)としてエントリーされました。

松井さんは前回大会も関東学生連合チームのメンバーとして出場し、復路9区(戸塚~鶴見)を見事完走しました。今回も出場すれば2年連続の快挙となります。

前回と同様今回も、東工大の青いのぼり旗と横断幕を掲げて、松井さんに沿道から熱い声援を送る予定です。今回は辻堂と藤沢に集まって応援を予定しています。当日の現地での応援に関する詳細は、本学陸上競技部 箱根駅伝特設ページouterをご覧ください。声援、よろしくお願いします。

東工大基金

陸上競技部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

1月の学内イベント情報

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2016年1月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2016年1月の学内イベント情報

本学教員7名が科研費審査委員の表彰を受彰

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本学教員7名が独立行政法人日本学術振興会より平成27年度科研費(科学研究費助成事業)審査委員の表彰を受け、12月9日に三島良直学長から表彰状と記念品が手渡されました。

今回表彰された教員は次のとおりです。

大学院理工学研究科(理学系)

岡田哲男教授

大学院理工学研究科(理学系)

遠藤久顕教授

大学院理工学研究科(理学系)

山口昌英教授

大学院理工学研究科(工学系)

鼎信次郎教授

原子炉工学研究所

松本義久准教授

大学院総合理工学研究科

長谷川純准教授

フロンティア研究機構

鎌田香織特任准教授

審査委員の表彰とは

独立行政法人日本学術振興会では、学術研究の振興を目的とした科研費の業務を行っています。配分審査は、専門的見地から第1段審査(書面審査)と第2段審査(合議審査)の2段階で行われます。

適正・公平な配分審査がおこなわれるよう、審査の質を高めていくことが大変重要とし、同会設置の学術システム研究センターにおいて、審査終了後、審査の検証を行っています。

さらに平成20年度からは、検証結果に基づき、第2段審査(合議審査)に有意義な審査意見を付した第1段審査(書面審査)委員を選考し、表彰することとしています。平成27年度は約5,500名の第1段審査(書面審査)委員の中から189名が表彰されました。

学長らとの記念撮影
学長らとの記念撮影

お問い合わせ先

研究企画課研究推進グループ

E-mail : efund@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3806

藻類を使ったアンモニア生産の可能性―ラン藻の遺伝子発現を制御して放出させることに成功―

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要点

  • ラン藻(シアノバクテリア)の遺伝子発現を調節する新技術開発
  • 代謝系酵素の発現調節による有用物質の生産に成功
  • 環境負荷のないアンモニア生産に道筋

概要

東京工業大学資源化学研究所の久堀徹教授と肥後明佳特任助教(JST・CREST研究員)の研究チームは、原核光合成生物であるラン藻[用語1]を利用し、産業的に有用な含窒素化合物を生産することに成功した。代謝系酵素の発現調節を可能にするシステムを開発、窒素固定型ラン藻[用語2]の代謝系酵素の発現調節にこのシステムを適用し、ラン藻の体内で生産された含窒素化合物を効率よく細胞外に放出させた。

この技術を発展させることで、今後、地球環境に負荷をかけずにアンモニアなどの有用含窒素化合物を生産するシステムが確立できれば、ラン藻の応用範囲を大きく広げることになる。

研究成果は12月18日発行の日本植物生理学会機関誌「プラントアンドセルフィジオロジー(Plant and Cell Physiology)」電子版に掲載された。

研究の背景と経緯

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスによる温暖化が地球規模の環境問題となり、人間の活動によって大気中に放出される二酸化炭素量の削減は人類共通の吃緊(きっきん)の課題である。この問題を解決するために、光合成生物による油などの有用化合物生産が注目を集めている。サトウキビやトウモロコシなど緑色植物を利用したバイオエタノール生産は既に実用化されているが、その耕作規模が大きいため食糧生産に必要な作物の耕作との競合が問題視されている。

一方、微細藻類[用語3]は水系で繁殖するため、基本的に食糧生産とは競合せず、増殖した藻類の取扱いが容易であるため、注目を集めている。すでに、一部の単細胞緑藻では、燃料生産の実用化を目指した大規模培養も試みられている。

微細藻類の一種、光合成原核生物であるラン藻は、緑色植物がもつ光合成を行う細胞内小器官(葉緑体)の起源となった生物といわれ、物質生産に適した微細藻類として注目されている。

ラン藻は光合成によって大気中の二酸化炭素から糖を生産するが、大気中の窒素を取り込み窒素化合物に変換する種もいる。産業界で重要な窒素化合物はアンモニアであり、全世界では年間1億6千万トン生産されている。この生産には水素を大量に必要とし、水素は化石燃料から作られている。そこで、久堀教授らは窒素固定型のラン藻の能力を利用して化石燃料に依存しない含窒素化合物の生産を目指して研究を行ってきた。

研究成果

ラン藻を活用して有用物質を生産するためには、代謝系を目的の物質生産に適するように改変する必要がある。ところが、これまでラン藻では遺伝子発現制御技術、とりわけ遺伝子発現を抑制する技術の開発があまり進んでいなかった。このため、久堀教授らは代謝経路に関わる酵素の遺伝子発現を人為的に制御する技術をまず開発した。

今回、研究のモデル生物として用いた窒素固定型の糸状性ラン藻Anabaena sp. PCC7120(以下、アナベナ)(図写真)は数珠状に増殖するが、窒素源の乏しい条件で培養すると数珠状の細胞のところどころにヘテロシスト[用語4]と呼ばれる特殊な細胞が形成される。この細胞で大気中の窒素を直接アンモニアに変換する窒素固定反応が行われる。ほとんどの生物は大気中の窒素を窒素源として利用できないので、この機能は極めて重要である。

固定されたアンモニアはその後、アミノ酸などに変換されて細胞内で利用される。そこで肥後特任助教は、アナベナに利用可能な遺伝子発現制御システムを開発し、窒素同化の代謝系酵素の発現を制御することで、アナベナが生産する窒素化合物を細胞外に放出させるシステムを構築した。

まず、すでに様々な生物で遺伝子発現制御に用いられている転写[用語5]抑制因子TetR(抗生物質であるテトラサイクリン[用語6]でその機能を制御することができる(図中1))を利用して、遺伝子発現制御システムを構築した。

この方法を特定の酵素の発現を抑制できるアンチセンスRNA[用語7](図中2)の発現制御に利用して、微量のテトラサイクリンを用いて特定の酵素遺伝子の発現を制御できるシステムを構築した。実際に、この方法でラン藻の生育に必須な窒素同化の鍵酵素であるグルタミン合成酵素[用語8]遺伝子の発現を抑制したところ、窒素固定条件下で含窒素化合物が生産され、効率よく培地中に放出される(図中3)ことを確認した。

アナベナのヘテロシストと遺伝子発現調節システム

図1. アナベナのヘテロシストと遺伝子発現調節システム

ヘテロシストは矢じりで示した丸い細胞である。図中のアンチセンスRNAの発現はTetR転写抑制因子により抑制されているが、テトラサイクリンを結合するとその抑制が解除される。その結果、発現するアンチセンスRNAが目的の酵素の発現を抑制することにより窒素固定経路のアミノ酸への流れが阻害され、余分な窒素化合物が細胞外に放出される。

今後の展開

今回の研究により、アナベナの代謝経路を目的に合わせて改変する技術を確立することができた。また、実際にこの技術を利用して、アナベナが大気から取り込んだ窒素をアンモニアとして培地中に放出させることにも成功した。この技術を発展させることで、今後、地球環境に負荷をかけないラン藻を用いた有用含窒素化合物生産システムの構築にも道を拓くものと期待される。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出outer」研究領域(研究総括:松永 是 東京農工大学・学長)の支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] ラン藻(シアノバクテリア) : 光合成を行う原核光合成生物で細菌の一種。光合成を行うチラコイド膜という膜構造を細胞内に持つ。原始の時代に真核生物に食べられて細胞内共生したことにより、緑色植物の葉緑体の起源となった生物と考えられている。

[用語2] 窒素固定型ラン藻 : 細胞内にニトロゲナーゼという酵素を持ち、大気中の窒素からアンモニアを直接生産することのできる機能をもったラン藻。

[用語3] 微細藻類 : ラン藻のような原核光合成生物から緑藻など真核光合成生物まで、主に単細胞の藻類の総称。物質生産に利用できる生物として注目されている。

[用語4] ヘテロシスト : 異型細胞とも呼ばれ、厚い細胞壁に覆われている。ヘテロシストに存在するニトロゲナーゼは酸素が存在すると簡単に壊れてしまうため、ヘテロシスト内は嫌気的(酸素のない状態)に保たれなければならない。そのために、ヘテロシスト内の光合成装置は酸素発生を行う部分を欠いている。

[用語5] 転写 : 遺伝子発現では、DNAに保存されている遺伝子情報が、まずRNAに写し取られ(転写という)、このRNAの情報をもとにアミノ酸が数珠状につながってタンパク質が合成される(翻訳という)。

[用語6] テトラサイクリン : 放線菌が作る抗生物質のひとつで、微生物のタンパク質合成を阻害する。このため、細菌感染症の治療薬として用いられているが、近年、耐性菌(テトラサイクリンが効かない菌)が増えている。

[用語7] アンチセンスRNA : 特定のRNAと相補的な配列を持ったRNAで、特定のRNAに結合することで、特定のRNAが持っている情報がタンパク質に翻訳されるのを抑制する。

[用語8] グルタミン合成酵素 : アンモニアとグルタミン酸からグルタミンを合成する酵素。グルタミンは細胞内で様々なアミノ酸の原料として使われている。

論文情報

掲載誌 :
Plant and Cell Physiology
論文タイトル :
Efficient gene induction and endogenous gene repression systems for the filamentous cyanobacterium Anabaena sp. PCC 7120
著者 :
Akiyoshi Higo, Atsuko Isu, Yuki Fukaya, Toru Hisabori
DOI :

問い合わせ先

資源化学研究所附属資源循環研究施設
教授 久堀徹

Email : thisabor@res.titech.ac.jp

資源化学研究所附属資源循環研究施設
特任助教 肥後明佳

Email : higo.a.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5234 / Fax : 045-924-5268

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

染色体構造を調節するメカニズム解明に成功―2つの制御因子によりコヒーシンがDNAを乗り降り―

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要点

  • 染色体構造の調整に不可欠なコヒーシンと制御因子を試験管内で再構成
  • コヒーシンの DNA 結合・解離反応のメカニズムを解明
  • 発がん、不妊などの分子レベルの基礎研究に貢献

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の村山泰斗助教と英国フランシスクリック研究所のフランク・ウルマン博士の研究グループは、染色体構造の調節に必要不可欠なコヒーシン複合体[用語1]が2つの制御因子によってDNAに乗り降りを繰り返し、染色体構造の調節を行っているという制御のメカニズムを解明した。細胞からコヒーシンと制御因子を抽出、DNAと結合する反応と離れる反応を世界で初めて試験管内で再構成し、実現した。

染色体構造の制御は、正確な遺伝子発現や細胞分裂に不可欠であり、発がんや遺伝疾患、不妊などと密接な関係がある。このため、今回の研究成果はこうした疾患の分子機構の基礎研究に貢献すると期待される。

染色体構造の調節には、巨大なリング状のタンパク質複合体が関与しており、その一つがコヒーシンである。コヒーシンは、ゴムバンドのようにDNAを束ねることで、染色体特有の構造を形成していくと考えられていたが、そのDNA結合の分子機構は分かっていなかった。

この成果は12月17日発行の米科学雑誌「セル(Cell)」に掲載された。

研究成果

東工大の村山助教らはコヒーシンと、その制御因子のローダー複合体[用語2]と Pds5-Wapl 複合体[用語3]を細胞から単離・精製し、DNAに結合する反応とDNAから離れる反応を試験管内で再構成した[用語4]

この実験結果の解析により、1. ローダー複合体はコヒーシンと結合、コヒーシンのリング構造を折り曲げることによって、リング構造の内側にDNAを入れること 2. Pds5-Wapl はコヒーシンリングの特定のつなぎ目を開いてDNAをそこから放出することが明らかになった(図1)。コヒーシンは、これら2つの制御因子によってDNAに乗り降りを繰り返し、染色体構造の調節を行っていくと推察される(図1)。

コヒーシンのDNA結合・解離反応のモデル

図1. コヒーシンのDNA結合・解離反応のモデル

コヒーシンは、補助タンパク質(ローダーと Pds5-Wapl) の働きによりリングを“開いて”DNAに乗り降りする。 コヒーシンはDNAを束ねるように結合することにより、染色体同士をくっつけたり、染色体の構造を調整すると考えられている。

背景

DNAには生物をかたちづくるのに必要なすべての情報が書き込まれている。DNAは非常に長い分子で、細胞の中ではタンパク質と結合した染色体という形できちんと折りたたまれ、収められている。

この染色体構造の調節を行う重要なタンパク質複合体の一つがコヒーシンである。コヒーシンは巨大なタンパク質のリングで、ゴムバンドのようにDNAを束ねてはたらくと考えられていた(図1)。しかし、コヒーシンがDNAに結合する機構はよくわかっていなかった。

研究の経緯

村山助教らは、細胞からコヒーシンとその制御因子を抽出して精製し、そのDNA結合反応を世界で初めて試験管内で再構成した。この新規の実験系を用いて、コヒーシンのDNA結合と乖離反応のメカニズムの解明を目指した。

今後の展開

コヒーシンや補助因子を直接分子レベルで観察し、コヒーシンが補助因子によってどのように制御されるかについて、さらに詳細に解析してく必要がある。また、コヒーシンの活性はタンパク質修飾[用語5]によっても制御されているという報告があり、そのメカニズムについても、試験管内再構成系によって明らかにしていくことが求められる。

また、近年の研究で、コヒーシンの機能異常・低下が発がんや不妊と関連があることが報告されている。このため、今回研究で得られた知見は、発がんや不妊などの分子機構の基礎研究に貢献すると期待される。

用語説明

[用語1] コヒーシン複合体 : 巨大なリング状のタンパク質複合体。元々、染色体間の接着を行う本体として発見されたが、近年、それに加えて染色体構造の制御にも重要な役割を果たしていることがわかってきた。

[用語2] ローダー複合体 : 2つのタンパク質からできている複合体で、コヒーシンが細胞内で機能するのに必要。

[用語3] Pds5-Wapl 複合体 : コヒーシンに結合する複合体で、コヒーシンのDNA結合の調節を行うと考えられていた。ローダー複合体、Wapl ともに、その機能に異常があると発生異常を引き起こすことが知られている。

[用語4] 試験管内再構成 : 機能タンパク質を精製し、その活性を測定する方法。これにより研究対象としているタンパク質の機能解析を行うことができる。

[用語5] タンパク質修飾 : 低分子化合物や小さいタンパク質をターゲットとなるタンパク質に結合すること。代表的なものとして、リン酸化、アセチル化、糖鎖修飾などがある。

論文情報

掲載誌 :
Cell
論文タイトル :
DNA Entry Into and Exit Out of the Cohesin Ring by an Interlocking Mechanism
著者 :
Yasuto Murayama, Frank Uhlmann
DOI :

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 生体システム専攻
助教 村山泰斗

Email : ymurayama@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3766 / Fax : 03-5734-3781

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


「第二外国語の競演」開催報告

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2015年12月16日、外国語研究教育センター主催の「第二外国語の競演」が、ディジタル多目的ホールにて行われました。第二外国語として、ドイツ語・中国語・フランス語・ロシア語・イタリア語を履修する学生が参加するイベントで、当日は58人が来場しました。

出場者のみなさん
出場者のみなさん

第1部:朗読コンテスト

その年ごとに決まったテーマがあり、各語学でテーマに沿った原稿を用意し、出場者はそれを読み上げます。今年のテーマは「友情」でした。

ドイツ語は、ニーチェの「ツァラトゥストラ」から「友人について」、中国語は、友情を語った唐詩から李白や王維の詩を三首取り上げました。フランス語は、アレクサンドル・デュマの「ある恋愛」から恋情抜きの男女の友情について語る部分を抜粋、ロシア語は、チェーホフの「少年たち」から子供たちが夢見る冒険と秘密の共有を描いた部分を抜粋、イタリア語は、ヴェルディのオペラ「ドン・カルロ」から濃厚な男同士の友情を描いた歌の一節を取り上げました。

第2部:留学体験談

実際に留学をした3名の学生が、写真や映像を使いながら留学先でのさまざまな体験を発表しました。

ドイツのミュンヘン工科大学へ留学した学生は、研究プログラムや現地での交流に加え、本場ビールの話などもあり、盛りだくさんの内容でした。イタリアのミラノ工科大学へ留学した学生は、志望動機から授業内容、休暇の過ごし方、留学前の準備や注意点まで、多岐にわたる詳細な内容で、これから留学を考える学生にとって、想像のしやすい発表でした。中国の清華大学へ留学した学生は、留学前と留学後の自分を分析し、最後は「感謝」という一言で発表を締めくくりました。

時には笑いも交えながら、質疑応答も含め和やかな雰囲気でした。

第3部:スピーチコンテスト

朗読コンテストとは異なり、参加者が自由なテーマで原稿を作成し発表するコンテストになります。今回は中国語を履修する学生から2名、フランス語から1名、イタリア語から1名が出場しました。

発表内容は、1年間中国に留学して考え方が変わったという話や、新しい言語を学ぶ真の目的とは何か、またフランスで知り合い、親の転勤で離れ離れになってしまった親友との日本での奇跡的な再会のエピソードなど、バラエティに富んだものでした。

ベストパフォーマンス賞は、本当の国際化とは何かをイタリア人の叔母との出会いによって教えられ、英語だけに偏らず、英語のできない人の立場も考えた言語習得に臨むようになったという心温まる発表をした、イタリア語の学生に贈られました。

お問い合わせ先

外国語研究教育センター 外国語準備室

Tel : 03-5734-2287

平成28年度大学入試センター試験を「東京工業大学」で受験される方へ

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平成28年度大学入試センター試験

1月16日(土) ~ 1月17日(日)

東京工業大学
大岡山試験場
/ 大岡山キャンパス
田町試験場
/ 田町キャンパス(附属科学技術高校)

期間中キャンパス内への受験生及び試験関係者以外の立ち入りを制限させていただいております。

注意事項

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的に確認をお願いします。

試験場へのアクセス

東京工業大学試験場は以下の2つの会場があります。お間違えのないように今一度ご確認ください。

大岡山試験場 / 大岡山キャンパス

東急大井町線・目黒線「大岡山駅」下車1分

  • 改札を左手に出て、マクドナルド前の信号を渡るとすぐに正門があります。

田町試験場 / 田町キャンパス(附属科学技術高校)

JR山手線・京浜東北線「田町駅」下車2分

  • 芝浦口(東口)方面に進み、エスカレーターを降りてすぐ右手に正門があります。

地下鉄都営三田線「三田駅」下車5分

  • A4口を出て、JR田町駅方面へ。以下同上。

なお、試験室等の詳細を記載した試験場案内については、1月15日(金)に「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報に掲載いたしますので、確認をお願いします。

平成28年度大学入試センター試験を「東京工業大学」で受験される方へ

TBSテレビ「未来の起源」に大友研究室の吉松公平助教が出演

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本学、理工学研究科応用化学専攻 大友研究室の吉松公平助教が、TBS「未来の起源」に出演しました。吉松助教の研究する「超伝導体のスイッチング」ついて紹介されました。

吉松公平助教
吉松公平助教

吉松公平助教のコメント

今回、TBSテレビの「未来の起源」の取材を受けさせて頂きました。初のテレビ取材でしたが、スムーズに受けることができたと思っています。番組の中で、私が最近行なっている研究の1つである「超伝導体のスイッチング」を紹介しています。短い時間でも皆様に研究内容を分かってもらえるように、わかりやすい説明を心掛けました。放送時間は1月17日の22時54分からとなっておりますので、是非ともご覧下さい。

  • 番組名
    「未来の起源」
  • タイトル
    電池を超伝導に切り換える
  • 放送日
    TBS: 1月17日(日) 22:54~23:00
    (再放送)BS-TBS: 1月24日(日) 20:54~21:00

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大生のリードで全日本学生競技ダンス選手権優勝

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2015年12月13日、埼玉県草加市の獨協大学35周年記念アリーナにて、第60回全日本学生競技ダンス選手権大会(東部日本学生競技ダンス連盟主催)が開催されました。本学舞踏研究部からは9組が出場し、奥野貴さん(工学部土木・環境工学科4年)と東京外国語大学の白石志織さんの組がラテンアメリカン・チャチャチャの部において見事優勝しました。

気合いの入った踊りを見せる奥野・白石組
気合いの入った踊りを見せる奥野・白石組

気合いの入った踊りを見せる奥野・白石組
(写真提供:月間ダンスビュウ(山内)、内田寿美)

喜びを分かち合う奥野・白石組
喜びを分かち合う奥野・白石組
(写真提供:月間ダンスビュウ(山内))

競技ダンスとは

男女がペアになって踊る競技ダンスは、社交ダンスとほぼ同じですが、社交ダンスが社交を目的としているのに対し、競技ダンスは競技会にて技術を競うことを目的としています。学生の競技ダンスには、大きくわけて男女が組んで踊る「スタンダード」と、基本的に男女が離れて踊る「ラテンアメリカン」があり、それぞれ4種目ずつ、全部で8種目のダンスがあります。

スタンダード

  • ワルツ
  • タンゴ
  • スローフォックストロット
  • クイックステップ

ラテンアメリカン

  • チャチャチャ
  • サンバ
  • ルンバ
  • パソドブレ
  • スタンダード種目に出場の高橋・木村組

    スタンダード種目に出場の
    高橋・木村組
    (写真提供:竹植希)

  • スタンダード種目に出場の杉村・平田組

    スタンダード種目に出場の
    杉村・平田組
    (写真提供:竹植希)

  • ラテンアメリカン種目に出場の鈴木・八田組

    ラテンアメリカン種目に出場の
    鈴木・八田組
    (写真提供:今橋紗希)

土木・環境工学科 4年 奥野貴さんのコメント

文武両道に、東工大生であることを誇りに思い、自分の信念を貫いて、賢く日々を過ごしたことが結果に結びついたのだと思います。今までの人生、感謝することばかりです。この場をお借りして各方面の方々にお礼を申し上げます。ありがとうございました。

優勝の喜びを爆発させる奥野貴さん
優勝の喜びを爆発させる奥野貴さん
(写真提供:月間ダンスビュウ(山内))

東工大 舞踏研究部について

東工大舞踏研究部は、学生競技ダンス連盟に所属する大学公認の部活で、共同加盟校の白百合女子大学と杉野服飾大学と共に活動しています。部員数は現在、東工大生30人、白百合女子大生14人、杉野服飾大生8人の合計52名。競技会にむけて日々練習しています。

2015年度の主な成績をご紹介します。

  • 第110回東都大学学生競技ダンス選手権大会 26校中5位
  • 第96回東部日本学生競技ダンス選手権大会 32校中9位(この大会より一部校に昇格)
  • 第99回国公立大学学生競技ダンス選手権大会 13校中3位

お問い合わせ先

舞踏研究部

E-mail : tsubame.buken@gmail.com

片山卓也名誉教授が平成27年秋の叙勲を受章

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平成27年秋の叙勲において、片山卓也名誉教授が瑞宝重光章を受章しました。長年にわたる、教育と研究への多大な貢献が評価されたものです。

片山卓也名誉教授
片山卓也名誉教授

経歴

  • 1962年3月
    東京工業大学理工学部卒業
  • 1964年3月
    東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了
  • 1964年4月
    日本IBM株式会社入社
  • 1967年6月
    東京工業大学工学部助手
  • 1974年1月
    東京工業大学工学部助教授
  • 1985年2月
    東京工業大学工学部教授
  • 1991年4月
    北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授
  • 2000年4月
    東京工業大学名誉教授
  • 2008年4月
    北陸先端科学技術大学院大学学長
  • 2014年3月
    任期満了により北陸先端科学技術大学院大学退職

コメント

学生時代と教員時代の前半を東工大の自由な雰囲気のなかでのびのびと過ごしました。情報科学が日本で認知される、丁度その時期に学生時代を過ごしましたが、わが国でこの分野を築いておられた榎本肇先生と飯島泰藏先生から直接ご指導を受けることが出来たことは大変幸せでした。また、教員時代は優秀な学生に恵まれ、彼らと一緒にソフトウェア工学の研究に打ち込みました。その後、国立大学に起こった大学院重点化の一環としてつくられ、その設立に東工大が深く関わった北陸先端科学技術大学院大学に移りました。それまでは大学の管理運営などには全く興味が無かったノンポリでしたが、教育・研究に加え大学経営などの貴重な経験をさせていただきました。東工大、北陸先端大を通して充実した大学生活を送ることが出来たのは、東工大時代の諸先輩のご指導のお陰ですが、今回の瑞宝重光章の受章を機に改めてこれらお世話になった方々にお礼申し上げます。

お問い合わせ先

広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

同済大学長が東工大を訪問

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同済大学長が東工大を訪問

12月2日、中国の同済大学ペイ・ガン学長一行が本学を訪問し、三島良直学長、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)等と懇談をしました。懇談にはペイ学長の他に、同行したフゥァン・ユー大学院副院長、タン・ホンウェイ グリーンビル・新エネルギーセンター副主任、フゥァン・シァォジェ国際交流処アジア部主任が出席し、本学塚田由佳国際連携課長も同席しました。

本学と同済大学は2007年に全学協定を締結して以来、研究、学生交流を活発に行っています。ペイ学長が本学を訪れるのは今回が初めてで、一行は両学の交流をさらに深めるための意見交換を行うことを目的に来訪しました。

懇談では、三島学長が本学の概要を紹介するとともに、現在本学が取り組んでいる教育改革や文部科学省によるスーパーグローバル大学創成支援事業の説明をしました。ペイ学長は、中国でも大学の国際化を推進するために、政府が同様の取り組みを行っていると述べ、オンライン教育や日中の大学と企業を巻き込んだ産学連携等について、三島学長等と意見を交わしました。懇談の最後に、ペイ学長は同済大学が来年夏に開催を予定している「アジアにおける都市と地方開発の現状」をテーマとする学生交流プログラムを紹介し、本学の学生にもぜひ参加して欲しいと話しました。

三島学長、丸山理事・副学長
ペイ学長

(左から)三島学長、丸山理事・副学長、ペイ学長

1907年に上海市北部に設立された同済大学は、理学、工学、医学、文学、法学、哲学、経済、経営、教育の9つの学科学部の研究型総合大学で、中国国家が指定する重点理工大学の一つです。特に、土木工学、建築学の分野で高い水準を誇り、中国のリニアモーターカーの開発拠点となっています。

本学建築学専攻(デザインコース)の研究室と同済大学の建築都市計画学院は、1995年から毎年1週間程度の建築設計スタジオ・ワークショップを合同で開催しています。また上記とは別に、2014年からは建築系エンジニアリング分野の研究室が同済大学の土木工学院と連携して、毎年夏に上海と東京で交互に研究発表ワークショップを開催しており、両学の学生や教員が参加し活発な交流活動が行われています。

S字ストロークか?I字ストロークか?―最適クロール泳法のメカニズムを解明―

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研究成果のポイント

  • 競泳自由形の泳法に関して、最適な泳法とその推進力発揮メカニズムの解明を試みました。
  • S字かI字か、腕のかき方にまつわる論争解決に向けて、最新流体計測解析技術を応用しました。
  • 目的(効率or速度)によって最適泳法は異なり、渦の作用がキーポイントであることが判明しました。

概要

国立大学法人筑波大学 体育系 高木英樹教授、国立大学法人東京工業大学 大学院情報理工学研究科 中島求教授らの研究グループは、最先端の流体計測解析技術をヒトの水泳運動、特にクロール泳に適用し、最適なクロール泳法の探究とそのメカニズムの解明に取り組みました。

競泳界では長年にわたって、曲線的に水をかく(S字)のと、直線的に水をかく(I字)のとでは、どちらが速く泳げるのか、論争が続いてきました。本研究では、水泳の流体力学に関する、国内外の最新の計測・解析データから、最適なクロール泳法について多角的に議論しました。

結果として、中長距離で効率(より少ない身体発揮パワーで推進力を得る)が求められる状況では、S字でかいた方が良く、短距離で効率より速度が重視される場合にはI字でかいた方が良いとする見解が得られました。また、2つの泳法は推進力発揮メカニズムが異なり、S字ストロークでは手の向きが変わる局面において、渦対の発生により非定常揚力が発揮され、I字ストロークでは、直線的に移動する局面において、カルマン渦の放出により抗力が発生することが明らかとなりました。

本研究により、2つのストロークパターンに関して、特に渦の発生過程の違いがそれぞれの推進力発生メカニズムに大きく影響していることが世界で初めて明らかになりました。渦の発生等により瞬間的に発生する力は非定常流体力と呼ばれ、昆虫や鳥類の飛翔研究においてそのメカニズムが解明されてきましたが、ヒトの水泳運動においても同様の現象が出現することは、これまでの準定常状態を想定した推進理論と大きく異なるもので、重要な発見と位置づけられます。

なお、本論文は、高木英樹(筑波大学)、中島求(東京工業大学)、佐藤陽平(ポール・シェレール研究所・スイス)、松内一雄(筑波大学名誉教授)、ロス・サンダース(シドニー大学・オーストラリア)の共同執筆論文であり、2015年12月23日付「Journal of Sports Sciences」でオンライン公開されました。

研究の背景

2016年開催のリオ・デ・ジャネイロ五輪に向けて、各種目で予選競技会が開催されています。中でも競泳は日本のお家芸とも言え、オリンピックや世界水泳においてこれまでに多くのメダルを獲得しています。体格やパワーに劣る日本人が、なぜ海外の大型スイマーと伍して戦えるのかについては、水中という特殊な環境要因が影響しています。陸上では地面をある力で蹴ると、その力とほぼ同様の反作用が働き、身体を動かす原動力となりますが、水中では、どんなに力強く水をかいても、かき方が悪いと、いわゆる「のれんに腕押し」状態となり、思うような反力が得られません。そのため、身長や筋力で劣っていても、「水をつかむ」技術が優れていれば、日本人が海外の大型スイマーに勝てる可能性があるのです。

しかし、どうやって水をかけば効率よく推進力が得られるのでしょうか?長年に渡る研究にも関わらず、未だ結論は出ていません。特に、S字を描くように曲線的に水をかくのと、I字を描くように直線的に水をかくのとではどちらが有利なのか、現在でも論争が続いています。

そこで本研究では、水泳の流体力学的分野において、それぞれに先端的手法を用いて研究に取り組む以下の5名の研究者が最新の研究成果を持ち寄り、論議を重ねることによって、最適泳法の探求とそのメカニズムの解明に取り組みました。1)高木英樹(筑波大学):人体圧力分布計測、2)中島求(東京工業大学):ロボットおよび人体シミュレーション、3)佐藤陽平(ポール・シェレール研究所・スイス):数値流体力学、4)松内一雄(筑波大学名誉教授):粒子イメージ流速計測法、5)ロス・サンダース(シドニー大学・オーストラリア):水中泳法分析

研究内容と成果

水泳人体シミュレーションモデル(SWUM)を用いて、ヒトの筋出力特性を考慮した最適泳法シミュレーションを行った結果、最も少ない身体発揮パワーで効率よく推進力が得られる泳ぎ方は、肘を曲げて、指先が曲線を描く、S字ストロークに類似した泳法でした。一方、最も速度が高くなる泳ぎ方は、肘をあまり曲げずに、指先が直線的に移動するI字ストロークに類似した泳法です(Nakashima et al., 2012)。実際の競泳レースにおいても、400m自由形以上の中長距離種目では、S字を描くように水をかいて好成績を上げるスイマーが多く、50~100m自由形のように短距離種目においては、ほぼまっすぐにかくI字ストロークを採用するスイマーが多数です。なぜこのようにS字とI字に分かれるのでしょうか?泳速度はストローク頻度に比例するため、泳速度を上げるためには、腕を速く回す必要が生じます。本来は肘を曲げて、S字をかいた方が効率が良いのですが、ストローク頻度が一定程度以上に高まると、肩まわりの筋力特性が制限因子となって、曲線的にかくことができなくなります。そこで、あえて効率を犠牲にしてでも腕の回転数を上げるために、肘をあまり曲げないで、まっすぐかくようになると推察されます。

ではS字にかいた場合と、I字でかいた場合で、推進力発揮メカニズムは異なるのでしょうか?ヒトの泳動作を再現できる水泳ロボットを用い、手部における流体力、圧力分布、流れ場の計測を行った研究成果(Takagi et al., 2014)をもとに検証を行いました。その結果、S字のように曲線を描いて水をかくと、図1上に示すように、手の進行方向が変わる局面において渦が放出され、その渦の影響によって手部周りの循環渦の向きが逆転し、手背側の圧力が急激に低下して、瞬間的に大きな揚力が発生することが明らかとなりました。一方、I字のように直線的に水をかくと、図1下に示すように、手部の両サイドから交互に渦(カルマン渦)が放出され、手背側の圧力が低下するとともに、手掌側は水が当たって圧力が上昇するので、結果的に手掌と手背で圧力差が生じ、抗力が発生することが分かりました。

水泳ロボットがクロール泳を行った時の手部周りの流れ場
図1.
水泳ロボットがクロール泳を行った時の手部周りの流れ場 上図がS字ストロークを行った場合の手部周りの渦を示す。赤色が反時計回りの渦を表し、青色が時計回りの渦を表す。肌色の楕円が右手を表し、図の左から右へ移動する。上図ではインスウィープ[用語1]からアップスウィープ[用語2]に移行する際に、時計回りの渦(青色)が放出され、その渦の影響で手部周りには逆の時計回りの渦が発生する。手部周りの渦は手背側の圧力低下をもたらし、結果的に手部の移動方向べクトル(Uh)に対して垂直方向に揚力が作用する。下図はI字ストロークを行った場合の手部周りの渦を示す。I字ストロークでは、比較的大きな迎角を保ちながら直線的に手が移動する。この時、手部の両端からは回転方向が逆の渦が順番に放出され、この渦をカルマン渦と呼ぶ。この渦の影響により手背側の圧力は低下し、逆に手掌側の圧力は上昇するので圧力差が増大し、結果的に手部の移動方向べクトル(Uh)に対して逆向きの抗力が作用する。

さらに実際のスイマーがクロール泳を行った場合の手部周りの流れの可視化結果(Matsuuchi et al., 2009)によると、ロボットの実験同様に、手の進行方向が変わる局面において、時計回りの渦が放出され、それと対をなす反時計回りの渦が手背側に発生していました。これらの渦の影響により、非定常な揚力が手部に作用したと考えられます。(図2、3参照)

泳者がクロール泳を行った時の手部周りの流れ場
図2.
泳者がクロール泳を行った時の手部周りの流れ場 ストローク中盤インスウィープからアップスウィープへと移行する局面(図3参照、(a)→(b)→(c)→(d)の順)における手部周りの流速ベクトルおよび渦度。図中の小さな矢印は流れの方向と強さを表す。また赤色は反時計回りの渦で+印が渦中心、青色は時計回りの渦で◯印が渦中心を表し、色が濃くなるに連れて渦度が増加する。図2-(b)の●は、泳者右手の指を表しており、図中で手部が左から右へ移動する際、手背側に2つの渦対(+と◯)ができ、2つの渦の間に流れ込むジェット流が観察される。このジェット流の作用により、瞬間的に大きな流体力が手部に作用し、推進力として貢献する。(Matsuuchi et al., 2009)
クロール泳における手部の軌跡と局面

図3. クロール泳における手部の軌跡と局面

以上のように、最適な泳法を探っていくと、S字かI字という二者択一ではなく、種目の長短によってどちらかが主に用いられたり、あるいは両方の要素を取り入れるのが良いと考えられます。そして2つのストロークパターンでは、推進力の発生メカニズムが異なることが明らかとなり、特に渦の発生過程の違いが大きく影響していることが世界で初めて解明されました。このような渦の発生等により瞬間的に発生する力は非定常流体力と呼ばれ、昆虫や鳥類の飛翔研究によりそのメカニズムが解明されてきましたが、ヒトの水泳運動においても同様の現象が出現することは、これまでの準定常状態を想定した推進理論と大きく異なり、重要な発見と位置づけられます。

今後の展開

今後、さらに本研究を発展させ、個人差(体格、筋力、テクニック)を考慮し、あるスイマーにとって本当に最適な泳法はどうあるべきか、テーラーメイドで対応できるよう、検討を進めます。同時に、ヒトの水泳運動という、非定常でたいへん複雑な流体現象について、最新の流体計測・解析技術を用いて、メカニズムのさらなる解明に取り組む予定です。

用語説明

[用語1] インスウィープ : インスウィープとは、クロール泳において泳者が入水後、手のひらが体幹の中心軸方向に向き、手先の位置がだんだん深くなるストロークの局面を指す。

[用語2] アップスウィープ : インスウィープ局面の後、手のひらの方向が内から外へ変換し、水面近くまでかき上げるストローク局面を指す。

参考文献

  • Matsuuchi, K., Miwa, T., Nomura, T., Sakakibara, J., Shintani, H., & Ungerechts, B. E. (2009). Unsteady flow field around a human hand and propulsive force in swimming. Journal of Biomechanics, 42(1), 42-47. doi: 10.1016/j.jbiomech.2008.10.009 outer
  • Nakashima, M., Maeda, S., Miwa, T., & Ichikawa, H. (2012). Optimizing Simulation of the Arm Stroke in Crawl Swimming Considering Muscle Strength Characteristics of Athlete Swimmers. Journal of Biomechanical Science and Engineering, 7(2), 102-117.
  • Takagi, H., Nakashima, M., Ozaki, T., & Matsuuchi, K. (2014). Unsteady hydrodynamic forces acting on a robotic arm and its flow field: Application to the crawl stroke. Journal of Biomechanics, 47(6), 1401-1408. doi: 10.1016/j.jbiomech.2014.01.046 outer

論文情報

掲載誌 :
Journal of Sports Sciences
論文タイトル :
Numerical and experimental investigations of human swimming motions
(和訳)水泳運動を対象とした数値的・実験的解析結果についての考察
著者 :
Hideki Takagi, Motomu Nakashima, Yohei Sato, Kazuo Matsuuchi and Ross Sanders
DOI :

問い合わせ先

筑波大学 体育系
教授 高木英樹

Email : takagi@taiiku.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-6330

東京工業大学 大学院情報理工学研究科
教授 中島求

Email : motomu@mei.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2586

(取材・報道に関すること)

筑波大学 広報室

Email : kohositu@un.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-2039 / Fax : 029-853-2014

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


役員会トピックス:アカデミック・アドバイザー制度を新設

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

1月8日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

アカデミック・アドバイザー制度を新設

2016年4月から教育改革の一環として、新たにアカデミック・アドバイザー制度を設けます。学生が自ら学修の質を高めるとともに有意義な学生生活を送るため、学生1人に対し2名の教員がアドバイザーとして、きめ細やかな学修支援を行います。

GPA(グレード・ポイント・アベレージ)制度を導入

本学では、教育課程を通じて学修の状況及び成果の客観的評価を示す指標として、GPAを用いた制度をこれまで4年間試行してきました。これを2016年4月から本格的に導入し、厳格かつ透明性のある学修の評価を行うとともに、学生の能動的学修及び教員等による的確な修学指導を推進して、さらなる教育の質の向上を図ります。

その他の主な審議事項

  • マイナンバーの取扱いに関する規程等の整備について

1月18日13:20 記事内の見出しに誤りがありましたので、修正しました。

紋野雄介研究員が第32回井上研究奨励賞受賞

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大学院理工学研究科機械制御システム専攻奥富・田中研究室の紋野雄介研究員が、第32回井上研究奨励賞を受賞しました。

同賞は、公益財団法人井上科学振興財団が、理学、医学、薬学、工学、農学等の分野で過去3年の間に博士の学位を取得した37歳未満の研究者で、優れた博士論文を提出した若手研究者に対し井上研究奨励賞を贈呈します。毎年4~9月に全国の関係大学長に候補者の推薦を依頼して選考を行い、12月に40件を決定します。受賞者には賞状、メダル及び副賞50万円が贈呈されます。今年の贈呈式は平成28年2月4日に開催される予定です。

紋野雄介研究員
紋野雄介研究員

受賞対象となった研究テーマ

単板撮像素子を用いた実用的なワンショットマルチスペクトルイメージングシステム

紋野研究員のコメント

博士論文研究では、ワンショットマルチスペクトルイメージングシステムを開発いたしました。このシステムでは、通常のRGBカラーカメラの様に、ワンショット撮影で人間の視覚特性を超える分光情報を取得できるため、様々な応用への発展が期待されています。この度は、名誉ある賞を頂いたことを大変光栄に思っております。博士課程の主指導教員である田中正行准教授、副指導教員の奥富正敏教授、共同研究者の方々、研究室メンバー、友人および家族にはこの場を借りて深く感謝申し上げます。今後も関係者への感謝や貢献の気持ちを忘れずに、精進していきたいと思っております。

東京工業大学・カリフォルニア大学サンタバーバラ校 合同シンポジウム開催

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東京工業大学・カリフォルニア大学サンタバーバラ校 合同シンポジウム

2014年4月に締結したカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)との全学協定に基づく連携強化を目指し、同大学の学長、教員および学生を東工大に招き、2015年8月26日(水)~28日(金)の3日間の日程で合同シンポジウムが開催されました。

1日目:大学概要と研究発表

1日目、この日午後から始まったシンポジウムは、東工大の三島良直学長とUCSBのヘンリー・T・ヤン学長の挨拶から始まりました。両学長が、それぞれ大学概要と両大学の交流への期待と展望について語った後、東工大の安藤真理事・副学長(研究担当)とUCSBのティム・チェン研究担当副学長補佐が、各大学における研究の強みや特徴、研究施設等について説明しました。

  • 三島良直学長

    三島良直学長

  • ヘンリー・T・ヤンUCSB学長

    ヘンリー・T・ヤンUCSB学長

本学のシンボルマークを指し、「ENE-Swallow」の名前の由来について説明する伊原学教授
本学のシンボルマークを指し、「ENE-Swallow」の
名前の由来について説明する伊原学教授

続いて、各大学の研究発表が行われました。東工大からは、大学院理工学研究科化学工学専攻の伊原学教授が、スマート・グリッドを利用したエネルギー管理システム「ENE-Swallow(エネ・スワロー)」とこの技術を活かした環境エネルギーイノベーション棟(EEI)を紹介しました。UCSBの電気情報工学専攻のマーク・ロッドウェル教授は、同大学における最近の半導体研究とVLSIのためのIII-Vトランジスタおよびミリ波無線システムの研究結果について講演を行いました。

1日目の締めくくりとして東工大蔵前会館で催された情報交換会には、双方の研究者が出席し、翌日の発表および分科会に向けて親交を深めました。

UCSBにおける半導体研究について説明するマーク・ロッドウェル教授
UCSBにおける半導体研究について説明するマーク・ロッドウェル教授

2日目:研究発表(続き)及び分科会

前日に引き続き、2日目の午前は研究発表が行われ、UCSBの教授陣が以下のテーマについて講演を行いました。

  • 「UCSBにおける制御、通信、信号処理について」
    ジョワオ・へシュパンヤ教授(電気コンピューター工学専攻)

  • 「電気コンピューター工学、電子工学及び光通信に関する研究の概要:半導体と分子光学アンテナ」
    ジョン・シュラー 助教(電気コンピューター工学専攻)

  • 「UCSB におけるシステム設計・検証とモバイル・コンピューター・ビジョンに関する研究」
    ティム・チェン教授(電子情報工学専攻)

  • 「UCSBにおける情報科学研究動向」
    アムル・エル・アバディ教授(情報科学専攻)

  • 「UCSBにおける化学工学専攻:ナノ材料の合成、解析と応用」
    マイケル・ゴードン准教授(化学工学専攻)

  • 「二相材料の3Dプリンティング」
    マシュー・R・ベグレー教授(機械工学・材料学専攻)

昼食後、関口秀俊副学長(国際連携担当)が、今後の円滑な研究者交流のために重要な日本学術振興会(JSPS)等の競争的資金を活用した本学の経済的支援の枠組みを紹介しました。前日伊原教授から紹介のあった環境エネルギーイノベーション棟(EEI)を見学した後、分科会が催され、UCSBの教授陣が各専攻の研究室を訪問し、両大学の研究者がそれぞれの研究について議論する場が持たれました。

3日目:分科会、分科会総括、学生ワークショップ総括

シンポジウム最終日となる3日目の午後、午前に行われた分科会を踏まえ、参加者全員がディジタル多目的ホールに集まり、分科会の総括と、シンポジウムと並行して行われていた学生ワークショップの総括が行われました。

化学工学専攻を訪れたUCSBのマイケル・ゴードン教授は、同専攻の大河内美奈教授と共に、今後の共同研究の可能性と、両大学の学生や研究者の交流の実現に向けて話し合ったことを報告しました。

マイケル・ゴードン教授(左)と大河内美奈教授(右)
マイケル・ゴードン教授(左)と大河内美奈教授(右)

国際学術情報センターの一色剛教授は、UCSBのティム・チェン教授とアムル・エル・アバディ教授を迎えて交わされた議論について報告しました。東工大のスーパーコンピューターTSUBAME2.5についての説明の後、チェン教授とエル・アバディ教授を交え、サイバー・セキュリティー、コンピューター・ビジョン等の分野の教育や研究協力の可能性、さらに両大学の研究者や学生の具体的な交流方法についても話し合われたとの報告がありました。

  • 一色剛教授

    一色剛教授

  • ティム・チェン教授

    ティム・チェン教授

庄司雄哉准教授
庄司雄哉准教授

電気電子工学専攻では、庄司雄哉准教授がマーク・ロッドウェル教授とジョン・シュラー助教の案内役を務めました。研究室を訪れたロッドウェル教授が、同専攻で行われている研究とUCSBが高い関心を持っている研究とに非常に重要な共通点があることに言及し、将来の共同研究の可能性について示唆したことを報告しました。

畑中健志准教授の所属する機械制御システム専攻では、ジョワオ・へシュパンヤ教授とマシュー・R・ベグレー教授を迎えて分科会が行われました。へシュパンヤ教授は、サバティカル制度(長期の教育研究休暇制度)を利用した研究者の交流は実現性が高いと述べ、交流の継続に期待を寄せました。また、べグレー教授は、研究者1対1の研究交流の可能性に言及し、自ら本学の研究者を積極的に受入れる意向を示しました。

ジョワオ・へシュパンヤ教授(左) 畑中健志准教授(右)
ジョワオ・へシュパンヤ教授(左) 畑中健志准教授(右)

小林覚講師
小林覚講師

最後の分科会報告は、UCSBの材料学専攻長であるトレサ・ポロック教授を迎えた材料工学専攻の小林覚講師が行いました。ポロック教授は、2007 年に東工大に滞在した経験から、若手研究者の交流の重要性を強調し、1ヶ月~1年程度、相手側機関に滞在し共同研究を行うことを提案しました。

ポロック教授と竹山教授による共同研究

材料工学の分野では、東工大の竹山教授が、UCSBのポロック教授と約10年間にわたり共同研究を行っています。ポロック教授は、東工大の環境エネルギー協創教育院(ACEEES)の活動にも協力する等、2人は両大学の懸け橋的な役割を果たしてきました。両教授は、近年の高温化材料の分野でも共同研究を実施しており、本シンポジウムではその成果発表も行われました。

ポロック教授は、分野の垣根を越えた共同研究の利点を繰り返し述べるとともに、才能ある研究者や専門の機材や装置を共有することは、両大学にとって非常に有益であると力説しました。

  • トレサ・ポロック教授

    トレサ・ポロック教授

  • 竹山雅夫教授

    竹山雅夫教授

全体総括ではこの他、シンポジウムと同時進行で開催されていた学生ワークショップの報告も行われ、最後に丸山理事・副学長(教育・国際担当)の挨拶をもって、3日間のシンポジウムは閉会しました。

今回のシンポジウムにより、両大学の研究者が共同研究の可能性を見出し、また学生ワークショップにより、研究と教育の双方において、今後の更なる交流が期待される結果となりました。今回のシンポジウムを起点に、両大学の間でより幅広い分野での交流が進むことが期待されます。

細胞を模倣した微小反応容器のコンピューター制御に成功―人工細胞や分子ロボットの開発に期待―

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要点

  • 化学反応をコンピューター制御できる人工細胞型の微小反応容器を開発
  • 生命機能に学ぶ高機能な分子コンピューターや分子ロボットの開発に期待
  • 『生命とは何か?』を解き明かす技術や医薬応用に期待

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科の瀧ノ上正浩准教授らは、熱平衡状態[用語1]から大きく離れた系の化学反応をコンピューター制御できる「人工細胞[用語2]型微小リアクター」の開発に世界で初めて成功した。

細胞が膜小胞によって化学物質を取り込んだり排出したりする現象に着目して制御理論を発案した。この制御理論に基づき、マイクロ流路技術を利用して微小な水滴を電気的に融合・分裂させ、微小水滴の内外への化学物質の供給と排出を制御する微小な化学反応容器(人工細胞型微小リアクター)を開発した。さらに、このリアクターを利用し、熱平衡状態から大きく離れた化学反応に特徴的なリズム反応(化学物質濃度が増減して規則的なリズムを刻む反応)を自在に制御することに成功した。

開発したリアクターは「生命とは何か?」という根源的な問いを解決する手助けになるとともに、将来は細胞を模倣した高機能な分子コンピューターや分子ロボットの開発、細胞状態のコンピューター制御に基づくモデル駆動型の生命科学・医薬研究分野への応用などが期待される。

研究成果は1月20日(英国時間)に英国科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)」のオンライン版で公開された。

研究の背景と経緯

細胞は分子の自己組織化[用語3]や自発的な分子反応によって機能を発揮する超精密で超高機能なシステムである。このような細胞システムの原理を解読し、それらの機能を取り入れた人工システムは、人間の知的社会生活を豊かにするとともに、エネルギーを効率よく利用するデバイスの開発や持続可能なシステム構築のために重要であり、科学技術の究極の目標の一つといえる。しかし細胞のように微小なスケールで、このような化学反応を制御することは難しく、制御するための新しい理論や技術の開発が望まれていた。

細胞のような自己組織化的に機能するシステムは、熱平衡状態から大きく離れて、化学物質の供給や排出を伴う化学反応(非平衡化学反応)に基づいている。細胞のように微小なスケールでこのような化学反応を制御することは難しいが、近年マイクロ流路技術とよばれる非常に微小な液体を操作する技術でリアクターを構築し、このような化学反応を制御する試みが世界的に注目されるようになってきた。

しかし、従来の方法では化学物質の供給や排出はできるが、送液するためのポンプやチューブ内にある大量の液体すべての流速を変化させないと、リアクター内外への反応基質の供給と反応産物の排出を制御することができないため、制御精度の低さや、応答時間が遅いという問題があった。そのため、外部から任意のタイミングで任意のコントロールを加えることや、反応状態の情報を元にフィードバックをして制御することなど、非平衡化学反応を精密かつ動的に制御することは困難だった。

研究成果

瀧ノ上准教授らは細胞が膜小胞によって物質を取り込んだり排出したりする現象(エンドサイトーシス・エキソサイトーシス)に着想を得て制御理論を構築し、マイクロ流路技術を利用して人工細胞型微小リアクターを開発した(図1a,b)。この人工細胞型微小リアクターにより、細胞のように、微小な水滴を電気的に融合させたり分裂させたりして、微小水滴の内外への反応基質の供給と反応産物の排出を精密にコンピューター制御することを実現した。

また送液速度を一切変更しなくても微小水滴の融合分裂の頻度を変更するだけで、リアクター内外への反応基質の供給と反応産物の排出を制御することができるという理論的基盤(パルス密度変調制御[用語4])を構築した。この原理を用いて人工細胞型微小リアクターを制御しているため、高精度で、応答時間も非常に速い制御が可能になった(図2)。

このリアクターを用いて、非平衡化学反応において最も特徴的な反応の一つであるリズム反応を自在に制御することに成功した(図1c,dおよび図3)。リズム反応とは、化学物質濃度の増減が自発的に規則的なリズムを刻む反応で、反応基質の供給と反応産物の排出がうまく制御された環境でのみ発生する。リズム反応は代謝回路や体内時計など生命システムの様々な場面に見られる重要な反応で、リズム反応を制御できたことは細胞内の生化学的な反応を含む、他の非平衡反応にも応用できることを示唆している。

(a)人工細胞型微小リアクターの概念図。マイクロ流路に固定された「人工細胞型微小リアクター」に、化学物質輸送用の微小水滴が融合と分裂を繰り返すことによってリアクター内外への反応基質の供給と反応産物の排出を実現する。(b)人工細胞型微小リアクターと化学物質輸送用の微小水滴の融合分裂の様子。電圧を加えることで融合が起こる。(c)人工細胞型微小リアクター内で化学反応が起こり、溶液内のpHの増減(水素イオンの増減)が観察された(リズム反応)。pH値の大小に反応して蛍光強度が変わる試薬を用いて計測しており、明るい状態(白い状態)はpHが高い時で、暗い状態(黒い状態)はpHが低い時を示す。(d)水素イオン濃度の増減をpHの相対値で表示してグラフ化した。
図1.
(a)人工細胞型微小リアクターの概念図。マイクロ流路に固定された「人工細胞型微小リアクター」に、化学物質輸送用の微小水滴が融合と分裂を繰り返すことによってリアクター内外への反応基質の供給と反応産物の排出を実現する。(b)人工細胞型微小リアクターと化学物質輸送用の微小水滴の融合分裂の様子。電圧を加えることで融合が起こる。(c)人工細胞型微小リアクター内で化学反応が起こり、溶液内のpHの増減(水素イオンの増減)が観察された(リズム反応)。pH値の大小に反応して蛍光強度が変わる試薬を用いて計測しており、明るい状態(白い状態)はpHが高い時で、暗い状態(黒い状態)はpHが低い時を示す。(d)水素イオン濃度の増減をpHの相対値で表示してグラフ化した。
(a)パルス密度変調制御の原理。青線で描かれたパルス波pによって、赤線の波形のように時間変化する物質流入出量q(t)を実現した。パルスの密度が高いところが物質流入出量が大きくなる。Tはパルスの周期、wはパルスの幅を示す。
図2.
(a)パルス密度変調制御の原理。青線で描かれたパルス波pによって、赤線の波形のように時間変化する物質流入出量q(t)を実現した。パルスの密度が高いところが物質流入出量が大きくなる。Tはパルスの周期、wはパルスの幅を示す。
(a)人工細胞型微小リアクター内でリズム反応をフィードバック制御する際のコンピュータープログラムの概要を示す。(b)フィードバック制御によって水素イオン濃度が増減するリズム反応が発生するような実験条件を自動的に探索する。(c)リズム反応が長時間維持されることが確認された。
図3.
(a)人工細胞型微小リアクター内でリズム反応をフィードバック制御する際のコンピュータープログラムの概要を示す。(b)フィードバック制御によって水素イオン濃度が増減するリズム反応が発生するような実験条件を自動的に探索する。(c)リズム反応が長時間維持されることが確認された。

今後の展開

この研究の結果、複雑な化学反応を人工細胞型微小リアクターで制御できるようになるため、技術的なイノベーションとしては、細胞を模倣した高機能な分子コンピューターや分子ロボットの開発が期待できる。分子コンピューターや分子ロボットは、電子コンピューターが不得意な計算や作業を分子反応によって実現する次世代のシステムとして期待されており、世界的に研究開発が盛んになっている。

さらに細胞状態を常時モニタリングし、細胞の遺伝子発現状態や細胞分化を理論的なモデルに基づきコンピューターで制御するモデル駆動型の生命科学や医薬研究への応用も期待される。また「生命とは何か?」という人間の根源的な問いを物理学的な手法によって解明していく一つの手段になることも期待されている。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「細胞機能の構成的な理解と制御」研究領域における研究課題「非平衡人工細胞モデルの時空間ダイナミクス定量解析」(研究代表者:瀧ノ上正浩、平成23年度~平成27年度)および文部科学省 科学研究費補助金の支援のもとで得られたものであり、東京工業大学の杉浦晴香技術補佐員、伊藤真奈美修士課程大学院生、奥秋知也修士課程大学院生、お茶の水女子大学の森義仁教授、千葉大学の北畑裕之准教授との共同研究である。

用語説明

[用語1] 熱平衡状態 : 物質やエネルギー(熱)の出入りがなく、変化が起こっていない状態。生物でいえば、生きていない状態。

[用語2] 人工細胞 : 細胞の構造や機能を模倣して構築される細胞様の人工的な微小カプセルや微小リアクターを人工細胞と呼ぶ。細胞をモデル化したシステムで、実際の細胞より単純なため、生命システムの物理学的・生化学的な研究のツールとして使われている。さらに、有用な物質を生産するためのリアクターとしての応用や薬物送達システムなどの医薬分野への応用も検討されている。

[用語3] 自己組織化 : 規則・秩序を持つパターンやリズムなどが自発的に作り出されること。雪の結晶の成長、心臓の拍動、動物の体表模様のパターン、受精卵からの個体の発生など様々な自己組織化現象が知られている。

[用語4] パルス密度変調制御 : 図2に描かれているように、電圧のON/OFFのパターンの違い(パルス波の密度の濃淡)で正弦波やのこぎり歯状の波など様々な波形を近似的に作り出す制御方法。今回の研究では様々な波形の物質の流入出のパターンを作っている。類似の方法はLEDライトの明るさ調節や情報通信などにも使われている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Pulse-density modulation control of chemical oscillation far from equilibrium in a droplet open-reactor system
著者 :
Haruka Sugiura, Manami Ito, Tomoya Okuaki, Yoshihito Mori, Hiroyuki Kitahata, and Masahiro Takinoue*
DOI :

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻
准教授 瀧ノ上正浩

Email : takinoue.m.aa@m.titech.ac.jp,
masahiro.takinoue@takinoue-lab.jp
Tel : 045-924-5680 / Fax : 045-924-5680

(JST事業に関すること)

科学技術振興機構 戦略研究推進部
川口哲

Email : presto@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3525 / Fax : 03-3222-2064

(機関窓口)

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

ニュースレター「AES News」No.4冬号発行

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東京工業大学 ソリューション研究機構先進エネルギー国際研究(AES)センターouterが、ニュースレター「AES News」No.4冬号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する、開かれた研究拠点「イノベーションプラットフォーム」です。ここでは、低炭素社会のエネルギーシステム実現に向けたソリューション研究開発を推進しています。

また、学内外の教員と会員が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

こうした日ごろの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、AESセンター企業・自治体会員および本学教職員の連携を深めるために、AESセンターではニュースレター「AES News」を、今年度より季刊誌として発行しています。今回は第4号となる冬号のご案内です。

ニュースレター「AES News」No.4冬号

第4号・2016冬号

  • 金谷年展特任教授
    巻頭記事「エネルギーレジリエンス評価の時代へ」
  • 共同研究部門紹介(東芝共同研究部門、日立製作所共同研究部門)
  • AES活動報告(2015年10月~11月)
  • 共催・協力・後援等活動報告(2015年10月~11月)
  • AES行事開催予定

ニュースレターの入手方法

PDF版

バックナンバーも同URLよりご覧いただけます。

冊子版

  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚

  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

お問い合わせ先

ソリューション研究機構 先進エネルギー国際研究(AES)センター
Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429

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