本学職員を装って、保証人宅に電話し、保証人の勤務先を聞くという不審な事案がありました。
本学では、保証人の勤務先を問合せることは一切ございません。
保証人の皆様並びにご家族の皆様におかれましては、このような不審な電話に十分注意していただくとともに、関係各位にも注意を呼びかけてくださるよう、併せてお願いいたします。
東京工業大学理事・副学長(教育・国際担当)
お問い合わせ先
学務部教務課長
Tel: 03-5734-3001
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藻類の「眼」が正しく光を察知する機能を解明
―「眼」の色は細胞のレンズ効果を防ぐために必要だった―
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の植木紀子研究員、井手隆広研究員(現・理研CDB研究員)、若林憲一准教授らの研究グループは、単細胞緑藻クラミドモナスが示す走光性(照射される光に反応して生物が移動する性質[用語1])の正と負が、眼点への色素集積を失った突然変異株では入れ替わることを発見した。
クラミドモナスは鞭毛[用語2]を使って水中を泳ぐ生物で、細胞の光反応行動の実験材料としてよく用いられる。クラミドモナス野生株のゲノムに対しランダム変異導入[用語3]を行って、「野生株と逆の走光性を示す突然変異株」を単離した。次世代シーケンサー[用語4]などによって、逆の走光性を示す原因となる遺伝子を同定したところ、カロテノイド色素[用語5]の生合成に関わる酵素に変異が入っていたことを突き止めた。
この色素は光受容体付近に存在し、これまでは細胞の光受容の指向性を高めるために存在すると考えられてきた。しかし色素を失った細胞がなぜ逆方向に泳ぐのか検証したところ、細胞が凸レンズの役割を果たして集光し、光源が光受容体の反対側にあるときのほうが光を強く感じていることを示す結果が得られた。
細胞レンズ効果は、透明な細胞ではその存在が知られていたが、緑色のクラミドモナスにおいてもはっきりとしたレンズ効果を持つことがわかった。
これらの結果から藻類は、自らの細胞が持つレンズ効果に打ち勝って正しい光源方向を察知するために、光受容体周辺にカロテノイド色素を濃縮・配列させたと考えられる。
この成果は、東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の久堀徹教授、田中寛教授、法政大学の廣野雅文教授、基礎生物学研究所の皆川純教授、重信秀治特任准教授らのグループとの共同研究によるもので、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に4月27日(米国東部時間)に掲載された。
クラミドモナス(学名Chlamydomonas reinhardtii, 和名コナミドリムシ)は、淡水に棲む単細胞緑藻の一種である(図1)。2本の鞭毛を平泳ぎのように動かして水中を泳ぎまわり、かつ葉緑体で光合成するという、動物と植物の両方の特徴を合わせ持った生物である。
細胞に1つ「眼点」と呼ばれる光受容器官を持ち、光の指す方向を正確に認識する。光源方向に泳ぐ正の走光性と、逆に光源から逃げて泳ぐ負の走光性を適宜切り替えることで、生存に最適な光環境へ向かう。このような特徴をもつクラミドモナスは、鞭毛の運動調節、光合成、藻類の光環境適応行動など、広い研究分野で実験材料として用いられている。
光受容器官である眼点は、カロテノイド色素を豊富に含んだ顆粒が積層しているため、顕微鏡で観察すると赤い点のように見える(図1)。そのすぐ近傍の細胞膜に光受容タンパク質「チャネルロドプシン[用語6]」が存在する。このタンパク質は、光を受容すると開く陽イオンチャネルであり、流入した陽イオンがもとになる反応経路によって、細胞は光受容したあとの運動調節を開始する。
この「色素顆粒層」と「光受容タンパク質」がペアになっていることが、クラミドモナスの高指向性光受容を可能にしている。色素顆粒層は光をよく反射する性質をもつため、細胞の外側から来た光は増幅され、細胞の内側を通ってきた光は遮蔽されて受容体に届かない。クラミドモナスは、この「細胞の外から来た光しか感じない」というしくみよって、光の指す方向を正確に知るのである。
光受容後、2本の鞭毛(眼点に近いシス鞭毛と遠いトランス鞭毛に区別される)は打つバランスを変えることによって方向転換をする。光受容時にトランス鞭毛を強く打てば正の、シス鞭毛を強く打てば負の走光性を示す。若林准教授らは、数年前に活性酸素薬剤と活性酸素除去剤によって野生株の走光性を正または負にそれぞれ固定できることを見出したが、これらの薬剤の作動メカニズムはまだ不明である。
では、この眼点色素が失われたらどうなるのか。これまでは、「光が細胞の外からきたのか内から来たのか区別できなくなり、走光性を示さなくなる」と考えられてきた。
今回研究グループは走光性の正と負が決まる反応経路の同定を目指し、その経路に異常があると考えられる突然変異株の単離を試みた。野生株ゲノムにランダムに変異を導入し、得られた突然変異体群の中から、野生株と逆の走光性を示す新しい突然変異株を単離することに成功した。lts1-211と名付けた株は、野生株が正の走光性を示すときに負、負の走光性を示すときに正の走光性を示す(図2)。次世代シーケンサー[用語4]による全ゲノム解読などにより、lts1-211がカロテノイド生合成経路で機能する酵素に1アミノ酸置換変異をもつことがわかった。lts1-211細胞を詳細に顕微鏡観察すると、確かに眼点の色素が見られなかった(図2)。
眼点色素がないlts1-211はなぜ逆の走光性を示すのか。研究グループは「細胞レンズ効果」を仮定した。透明で球形の細胞が凸レンズのように振る舞って集光することは、ある種の菌類などで知られている。クラミドモナスにおいても、葉緑体色素を完全に失った透明な細胞では、レンズ効果を示す可能性は指摘されていた。しかし、それは直接には証明されておらず、また、葉緑体が正常で緑色の細胞がレンズ効果を示すか否かは議論が分かれていた。もしもレンズ効果を示すとすれば、光源が光受容体側でなく、その裏側にあるときのほうが、細胞は「より明るい」と感じるはずで、光源の方向を勘違いするだろう(図3)。
そこで、細胞がレンズ効果を持つか否かを確かめるために、顕微鏡光源付近に絵を置き、野生株細胞からフォーカスを少し上にずらして観察したところ、確かに絵が結像した(図4)。緑色の細胞がレンズ効果をもつことが初めてはっきりと示された。lts1-211が野生株と逆の走光性を示したのは、色素顆粒層の欠失により、細胞レンズ効果によって光源方向を勘違いしたせいだと考えられる。
つまり、眼点に存在している色素顆粒層は、「それがあることでより高い指向性が得られる」という補助的な役割ではなく、「それがなければ細胞のもつレンズ効果によって光源方向を逆側だと勘違いしてしまう」という、走光性の正と負を切り替える制御にとってなくてはならない構造であることが判明した。
今回得られた新しい突然変異株によって、走光性の正負の切り替えの反応経路の「根元」の部分が明らかになった。しかし、正常な色素顆粒層をもつ野生株が正負を切り替えるための、その後の反応経路の詳細はまだ明らかになっていない。今後、光受容以後の走光性の正負切り替え機構の解明を行っていきたい。そのような成果が得られれば、藻類の光受容システムの進化や、ヒトを含めた真核生物の鞭毛に共通した新たな鞭毛運動調節機構の理解につながると考えられる。
本研究は基礎生物学研究所共同利用研究「次世代DNAシーケンサー共同利用実験」のサポートを受けて実施された。
用語説明
[用語1] 走光性 : 生物が照射される光に反応して移動する性質。光源方向に近づく場合正の走光性、離れる場合負の走光性と呼ぶ。光走性(ひかりそうせい)とも。
[用語2] 鞭毛 : 真核生物細胞から生える毛状の運動する細胞小器官。細胞の推進力を生み出したり(精子など)、細胞の周囲に水流をつくったり(気管上皮など)、生体にとって重要な機能をもつ。ヒト体内には脳室、気管、輸卵管、精子などに運動性鞭毛・繊毛(鞭毛より短く本数が多いが、鞭毛と本質的に同じもの)が存在し、それらの運動異常によって生じる「原発性不動繊毛症候群」の研究にクラミドモナスは重要な役割を果たしている。
[用語3] ランダム変異導入 : 遺伝子組換え技術を使ってゲノムDNA上のある特定の塩基配列だけを狙って変異を導入する「部位特異的変異導入」に対して、紫外線照射などを使ってDNAに無作為的に変異を導入する手法。
[用語4] 次世代シーケンサー(第2世代シーケンサー) : 100塩基長程度に短く切断されたDNA断片の塩基配列を同時並行的に数千万以上決定することで、一度の大量の塩基配列データを取得するDNAシーケンサー。
[用語5] カロテノイド : カロチノイドとも。黄~赤色の天然色素。クラミドモナス眼点には主としてβカロテンが含まれる。
[用語6] チャネルロドプシン(ChR) : 光を感受すると構造変化してイオンチャネルとして機能する膜タンパク質。クラミドモナスにはChR1とChR2の2つがある。このうちChR2は、マウスなどの特定の神経細胞に発現させ、光照射によって興奮させることで神経活動と個体の行動の連関を研究する「光遺伝学」と呼ばれる技術に応用されている。
論文情報
掲載誌 : |
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America |
論文タイトル : |
Eyespot-dependent determination of the phototactic sign in Chlamydomonas reinhardtii |
著者 : |
*Noriko Ueki , *Takahiro Ide, Shota Mochiji, Yuki Kobayashi, Ryutaro Tokutsu, Norikazu Ohnishi, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Kan Tanaka, Jun Minagawa, Toru Hisabori, Masafumi Hirono, and Ken-ichi Wakabayashi (*共同筆頭著者)
|
DOI : |
問い合わせ先
科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
准教授 若林憲一
Email : wakaba@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5235 / Fax : 045-924-5268
法政大学 生命科学部
教授 廣野雅文
Email : hirono@hosei.ac.jp
Tel : 042-387-6132
基礎生物学研究所 生物機能解析センター
特任准教授 重信秀治
Email : shige@nibb.ac.jp
Tel : 0564-55-7670 / Fax : 0564-55-7669
取材申し込み先
東京工業大学 広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661
法政大学 広報課
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Tel : 03-3264-9240 / Fax : 03-3264-9639
東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の伊藤繁和准教授、植田恭弘大学院生、三上幸一教授のグループは、ベンゼン誘導体からふたつの水素を取り去った化学種である「アライン」にリンを含む環状アニオン化学種を組み合わせる化学反応によって、結合不足(開殻一重項)状態にある複素環化合物を安定的に合成する手法を開発した。
合成した複素環化合物はしきい値電圧の低い有機トランジスタとして機能できるため、省電力電子デバイス等への応用が期待される。また、フッ化水素を容易に検知できる材料としても有用である。
成果は5月2日、ドイツの化学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
ふたつのラジカル[用語1]を含む複素環化合物[用語2](1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイル、図1)は、リン原子の効果によってふたつのラジカル電子が反平行となった一重項状態[用語3]にある。このような「結合の足りない」状態は開殻一重項とも呼ばれ、極めて不安定であるのが普通だが、適切に置換基を配置することによって空気中でも扱えるようになる。我々は以前、この開殻一重項複素環化合物がp型半導体[用語4]としての性質を示し、しきい値電圧の低い電界効果トランジスタ[用語5]として機能することを見出していた。
図1.
安定した化合物を得るための方法として、複素環開殻一重項分子のリン上に芳香族構造[用語6]を導入すると、分子の特性を制御することができることがわかっていた。その方法として我々は芳香族求核置換反応[用語7]を見出しているが、導入できる置換基が電子不足な芳香族置換基に限られ、p型半導体として有用な複素環開殻一重項構造を活用できる化合物を合成するには不向きであった。
導入できる置換基が電子不足な芳香族置換基に限られていた理由は、合成前駆体である複素環アニオン[用語8]の求核性が低いためであった。
そこで今回我々は、ベンゼンからふたつの水素を取り去った「ベンザイン」の求電子性に着目した。ベンザインは、ひずんだ炭素-炭素三重結合構造を含む極めて不安定な化学種として古くから知られており、その反応化学を利用して有用な有機化合物が数多く合成されている。高い求電子性を示すベンザインを導入する置換基として用いれば、合成前駆体の複素環アニオンが問題なく反応して安定した化合物が得られると考えた。
まずグラムスケールで合成供給可能なホスファアルキン[用語9]とアルキルリチウムから誘導したリン複素環アニオンを調製した。次にこれに反応させるアライン(ベンザイン構造を持つ分子種)の発生法を種々検討したところ、温度を注意深く制御しながら2-シリルトリフレートとフッ化物イオン試薬による発生法を適用することによって、複素環アニオンに芳香族構造が効率よく導入され、対応する開殻一重項化合物を空気中で安定的な濃青色固体として得ることに成功した。
用いるアライン前駆体の構造を変更すると、導入できるアリール構造[用語10]を変化させることができる(図2)。
得られたリン複素環開殻一重項化合物の溶液を用いて簡便なドロップキャスト法[用語11]で電界効果トランジスタ素子を作成したところ、しきい値電圧-4 Vでp型の半導体挙動を示した。また、フッ化水素(HF)を付加すると色調が黄色に変化し、塩基を作用させればフッ化水素がはずれて元に戻るため、フッ化水素検知物質ともなる(図3)。
図2.
図3.
今回開発したアラインを用いる開殻一重項複素環化合物の合成法を活用することで、より安定で性能の高い有機半導体やセンシング材料の開発につながると期待される。
用語説明
[用語1] ラジカル : 不対電子をもつ分子種。フリーラジカル、遊離基ともいわれ、一般に不安定である。
[用語2] 複素環化合物 : 炭素以外に他の原子1個以上を含んだ環状構造(複素環)をもつ化合物。ヘテロ環化合物ともいわれる。
[用語3] 一重項状態 : 全スピン量子数がゼロの状態。電子のスピン量子数は1/2で、反平行(1/2と-1/2)だとゼロになる。
[用語4] p型半導体 : 導電に寄与するキャリアが正孔(ホール)である半導体。
[用語5] 電界効果トランジスタ : Field Effect Transistor(FET)のこと。ゲート、ソース、ドレインの3種類の端子から構成され、ゲート端子に電圧をかけると、ソース・ドレイン端子の間に電流が流れる仕組みである。このとき、ゲート端子にかける最小電圧をしきい値電圧という。
[用語6] 芳香族構造 : ベンゼンや、ベンゼンと同様の化学的性質を示す分子構造。
[用語7] 芳香族求核置換反応 : ベンゼンなどの芳香族芳香環上にある置換基が、電子を豊富にもつ求核試薬の攻撃を受けて置き換えられる反応のこと。
[用語8] アニオン : 陰イオンなどとも呼ばれ、負の電荷をもつもの。
[用語9] ホスファアルキン : リンと炭素の三重結合を含む化合物。メチンホスフィンやホスファニトリルなどとも呼ばれる。リンと炭素の三重結合を含む星間分子も知られている。
[用語10] アリール構造 : 芳香族性をもつ炭化水素構造。
[用語11] ドロップキャスト法 : 電界効果トランジスタ素子を作成する方法のひとつで、ソース・ドレインを装着した基板に溶液を塗布する。下図参照。
論文情報
掲載誌 : |
Angewandte Chemie International Edition |
論文タイトル : |
Access to Air-Stable 1,3-Diphosphacyclobutane-2,4-diyls by an Arylation Reaction with Arynes |
著者 : |
Yasuhiro Ueta, Koichi Mikami, Shigekazu Ito |
DOI : |
問い合わせ先
物質理工学院 応用化学系
准教授 伊藤繁和
Email : ito.s.ao@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2143 / Fax : 03-5734-2143
取材申し込み先
東京工業大学 広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661
東京工業大学と野村総合研究所が連携協定を締結
~サイバーセキュリティ分野で世界をリードする研究・教育を推進~
東京工業大学と株式会社野村総合研究所(代表取締役社長:此本臣吾、以下「NRI」)は、4月28日に、「NRI・東工大サイバーセキュリティ教育研究共創プログラム(以下、「本プログラム)」に関する連携協定を締結しました。
この協定は、2016年4月から2年間にわたり、東京工業大学とNRIが、「サイバーセキュリティ」に関する研究・教育の推進を図ることを目的としています。本プログラムを通じて両者で共同研究を行うとともに、NRIグループ等からも講師を派遣する「サイバーセキュリティ特別専門学修プログラム」を開設し、高度なサイバーセキュリティ人材の育成を推進します。
インターネットに代表される、情報通信ネットワークの整備、および、情報通信技術の高度な活用の進展とともに、サイバーセキュリティに対する脅威も深刻化しています。サイバー攻撃による個人情報や知的財産の流出は、社会に対して重大な影響を及ぼし続けています。日本経済団体連合会から「サイバーセキュリティ対策の強化に向けた提言」(2015年2月17日)が出されていますが、その中で、現在わが国で大きく不足するサイバーセキュリティ人材の育成に関して企業と大学の連携が重要、と述べられています。
こうした社会的要請を背景に、本プログラムでは、東京工業大学とNRIとがサイバーセキュリティ分野の共同研究の実施と、NRIが長年の経験で得た実践的なサイバーセキュリティ攻撃に対する防御技術を提供する形で学生の教育を推進します。
また、東京工業大学は、NRIと連携する本プログラムをコアとし、楽天、NTT、産業技術総合研究所の協力も得て、東京工業大学情報理工学院に「サイバーセキュリティ特別専門学修プログラム」を2016年4月に開設しました。
東京工業大学では昨年4月に、情報セキュリティの分野で産学官の連携研究を推進する母体となり、企業ニーズ等に対応することを目的とした「サイバーセキュリティ研究推進体」を学内に設置し、連携先を模索していました。一方NRIは、新しい社会のパラダイムを洞察しその実現を担う「未来社会創発企業」として、IT(情報技術)分野をはじめとする先進的サービスを提供していくことを経営の基本としています。情報セキュリティ分野に関しては、「NRIセキュアテクノロジーズ」という専門会社をグループ内に有しており、昨今、サイバー攻撃やその被害が急増するなか、高度なセキュリティ人材の教育と防御技術の研究のパートナーを求めていました。
志を同じくする両者が、世界をリードするサイバーセキュリティ人材の教育と先端的な研究を実践的に大きく進めていくために、今回の協定締結に至ったものです。
NRI・東工大サイバーセキュリティ教育研究共創プログラムを設置し、以下の2分野で、連携を推進します。
共同研究
サイバーセキュリティ分野において、攻撃手法の解析を行うとともに、攻撃からの防御を行うためのツール・技法・実用化手法などに関する技術的研究を進めていきます。
人材教育
修士課程、博士後期課程、または専門職学位課程に在籍する学生を対象に、サイバーセキュリティ特別専門学修プログラムとしてNRIグループ社員が講師となる次の2科目を開講します。
お問い合わせ先
国立大学法人東京工業大学 広報センター 武田
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975
株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部 潘
Email : kouhou@nri.co.jp
Tel : 03-6270-8100
東京工業大学工学院電気電子系の西山伸彦准教授らは、従来の手法より低い温度で、異なる材料を糊剤なしで接合するプラズマ活性化接合[用語1]を利用して、シリコン基板上に半導体レーザを実現することに成功した。これによりCMOS電子回路[用語2]プロセスを利用した大規模シリコン光集積回路の作製に威力を発揮する。シリコンはその物理的性質上、効率よく発光することができず、光源を一括集積する手法の開発が課題となっていた。
半導体レーザ構造を結晶成長技術によりInP基板[用語3]上に形成した基板と、SOI(Silicon on Insulator)基板[用語4]を用意し、2つの基板に真空チャンバ中で窒素プラズマを照射した。その後150℃で2つの基板を貼り付けることにより、ハイブリッド基板を作製した。この150℃という接合温度は、従来の水分子を利用して接合する親水化接合に比べて半分以下の温度であり、これにより熱膨張係数差(熱により物体が膨張する度合いの差)による接合基板へのストレス低減が期待できる。またこの接合温度でも、その後の作製に十分な接合強度を有することができる。
このようにして作製したハイブリッド基板を加工して、半導体レーザを作製した。初期的な実験としてSOI基板に光回路を形成しないものを利用したレーザでは、室温において発振動作を実現し、しきい値電流[用語5]64mA、しきい値電流密度850A/cm2を実現することに成功した。次にSOI基板に光回路を形成したものにおいても、同様に発振動作を達成した。シリコンリング共振器[用語6]をハイブリッド領域の前後に配置することによって、リング共振器の共振波長に一致した波長でのレーザ発振を得た。
IoT(Internet of Things)、ビックデータや人工知能などの高度なデータ処理技術は、データセンターやスーパーコンピュターの発展に立脚している。これらの発展のためには、個々の部品の高速化とともに並列化技術が重要である。これまで部品やボード、ラックをつなぐ配線には電気配線が利用されてきたが、伝送帯域拡大を目指して光配線への置き換えが進み、将来的には、チップの直近まで光が浸透することが予想されている。この実現のためには、電子回路チップに利用されている材料であるシリコンとの親和性を担保しながら、大規模性を有する光集積回路を作製するシリコンフォトニクス[用語7]呼ばれる技術が注目されている。
しかしながら、シリコンは間接遷移半導体[用語8]であり、電流を注入しても効率よく発光することができず、光源を実現することが困難である。これに対し、従来の半導体レーザで利用されているIII-V族半導体[用語9]、特にInP材料を異種材料接合技術を利用してシリコン基板に形成する技術が注目されており、いかに大規模でそれぞれの材料の物性を変化させることなく形成するかをポイントに研究が進められてきた。
今後は、さらなる低温(室温)にて接合できる技術を利用してハイブリッド半導体レーザを実現すべく、研究を進めている。将来的には電子回路チップの直近に本技術を用いた大規模光集積回路を集積することが可能になるであろう。
図1.
図2.
用語説明
[用語1] プラズマ活性化接合 : 真空の空間に置いた2つの基板にプラズマを照射し、表面の不純物を取り除き、表面を活性化した状態(物質をくっつきやすい状態)にして接合する手法
[用語2] CMOS電子回路 : CMOS(Complementary Metal-oxide-semiconductor: 相補型金属半導体酸化膜)トランジスタを利用したゲート構造の組み合わせで構成される電子回路。一般的なデジタル回路の基本構成。
[用語3] InP基板 : インジウムと燐の化合物で構成される単結晶でできた半導体基板のこと。この上に積層される材料により光ファイバ通信で主に利用される赤外線を発光する半導体レーザが作製できる。
[用語4] SOI基板 : シリコン単結晶基板の上に絶縁物である石英があり、さらにその上にシリコン層がある構造の基板。もともと電子回路で電子を絶縁物で閉じ込めるために作られた基板であるが、近年光回路用の基板としても多く利用されるようになった。
[用語5] しきい値電流 : レーザ発振動作を開始する電流値のこと。この電流以下では発光ダイオード(LED)として動作している。
[用語6] リング共振器 : リング形状の光が伝搬する導波路をつくり、その周回長さに応じた光の波長を通したり止めたりできる部品のこと。
[用語7] シリコンフォトニクス : CMOS電子回路で利用されているシリコン材料を利用して光部品を実現する技術。CMOS作製技術を利用し、高精度、大規模に部品を形成することができる。また、光学特性においてはシリコンをSiO2で包み込んだ構造にすることでおおきな屈折率差をとることができるため、光が強くシリコンに閉じ込められ、従来に比べて小型の部品サイズを実現することができる。
[用語8] 間接遷移半導体 : 半導体中の電子や正孔(+の電荷をもつ粒子のようなもの)は、結合してそのエネルギーの差が光となるが、構成する原子の性質上、結合しにくく、高効率に発光できない半導体のこと。一方で直接遷移半導体と呼ばれる種類の半導体は、結合しやすいため、高効率に発光できる。直接遷移半導体は、III-V族半導体に多い。
[用語9] III-V族半導体 : 原子周期表におけるIII族原子とV族原子の組み合わせで結晶ができる半導体のこと。主に利用されている材料はGaAs(ガリウム砒素)やInPである。これらの材料は直接遷移半導体であるため、光分野でレーザなどの光源材料として利用される。
論文情報
掲載誌 : |
Japanese Journal of Applied Physics, 52, 060202 (2013). |
論文タイトル : |
Low Threshold Current Density Operation of a GaInAsP/Si Hybrid Laser Prepared by Low-Temperature N2 Plasma Activated Bonding |
著者 : |
Yusuke Hayashi, Ryo Osabe, Keita Fukuda, Yuki Atsumi, JoonHyun Kang, Nobuhiko Nishiyama and Shigehisa Arai |
DOI : |
問い合わせ先
工学院電気電子系
准教授 西山伸彦
Email : nishiyama@ee.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3593
「バクテロイゴ」は、プレーヤーが腸内細菌になりきり、腸内での生存をかけた陣取りバトルに挑む腸内細菌ボードゲームです。山田拓司講師(開発当時)監修のもと、大学院生命理工学研究科の学生達が、腸内細菌が私たちの腸内でどのように生活しているかということを楽しく理解し、腸内細菌そのものに興味をもってもらおうと考案しました。
2015年12月15日にリバネス出版より発売され、現在、全国の書店、東工大生協で販売されています。
「バクテロイゴ」は、小学生から一般の方々が参加したサイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」や子ども向け科学イベントでも大変好評で、子ども達から「とても楽しかった!」「もっとやりたい!」「勉強になった」といった声が多く聞かれました。開発した学生たちにとっても、このゲームを活用したイベントを通じて、研究テーマを広く伝えるスキルを磨く良い機会になっています。
画期的な取り組みとして、日本経済新聞の「キャンパス発この一品」(2016年3月30日朝刊)でも紹介されています。
ご興味がある方は、書店等にてお手に取ってみてください。
2016年4月1日付で就任した、三矢麻理子監事からの挨拶をご紹介します。
この度、非常勤の監事に就任致しました三矢です。
私は現在、公認会計士として、財務諸表や税務申告書の作成やコンサルティング、会計監査や上場会社の監査役の仕事をしております。
東京工業大学は、父と母方の祖父の出身校と聞いておりましたので、そのような大学の監事のお話を戴いた時、何かご縁のようなものを感じずにはいられませんでした。
東京工業大学は大きく変わろうとしています。そのような時期に皆様と一緒に働けることを嬉しく思います。到らないところも多々あるかとは存じますが、監事の仕事を通じて本学に貢献したいと思っております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
このたび、東工大教員8名が、平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「若手科学者賞」を受賞しました。
「若手科学者賞」は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。
科学技術分野の文部科学大臣表彰には、「若手科学者賞」の他に、特に優れた成果をあげた者を対象とする「科学技術特別賞」、顕著な功績をあげた者を対象とした「科学技術賞」等があり、「科学技術賞」でも本学から4名の教員が受賞しました。
「若手科学者賞」を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。
現在のデジタル計算機は、安定な素子を用い高速で正確な演算を行う情報処理系であり、プログラムや事前知識が与えられない状況には対応できません。それとは異なる方式で情報を処理する生物や自然現象に学んだ革新的計算原理が求められていました。私は、単細胞アメーバ生物・粘菌の時空間ダイナミクスを利用して組合せ最適化計算を行う実験系を開発し、これをモデル化した解探索アルゴリズムを定式化しました。さらに、このモデルを物理的相互作用や確率的揺らぎを生じるナノデバイスを利用して実装できる事を示しました。本研究成果は、膨大な候補の中から条件を満たす解を効率的に発見したり、自然現象の大規模シミュレーションを実行できる小型・低消費エネルギーの計算機の開発と、社会生活や学術研究に影響を与える革新的計算パラダイムの開拓に寄与することが期待されています。
今回の受賞は、私と私を支えて下さった共同研究者の皆様にとって、大きな意味を持っていると考えます。これまでは、粘菌アメーバとコンピュータという一見関連のなさそうな概念をつなげようとする研究に対し、面白そうだけれども実現性に関しては疑問符を感じるという捉えられ方をすることがよくありました。しかし、ソフトウェアだけではなく、ソフトウェアと連携して革新的なハードウェアを開発する、という方向性を真剣に追求するには、粘菌アメーバのような比較的単純なアーキテクチャの生物から学んだ計算原理を探ることが理に適っていると信じ、研究を進めて参りました。そうした研究をこのたび文部科学省から正当に評価していただけたことを大変うれしく思います。これを機に、これまでとは違った期待を受けることを喜び、日本から革新的ハードウェアによるイノベーションを生み出すため、さらに邁進していきたいという思いを新たにしております。
工学的に重要な分野において、メタマテリアルの導入を行うことに取り組んでまいりました。
特に、光通信で一般的に使用されている光集積回路にメタマテリアルを応用することを目指して、小型光変調器などをはじめとした各種デバイスの研究を推進しております。
この度は、本活動に対しこのような栄誉ある賞を賜ることができ身に余る光栄に存じます。
これもひとえに学内外関係者の方々のご支援によるものであり、この場をお借りして心より御礼申し上げます。
次世代の電子材料候補として、軽く、柔軟な有機材料の需要が高まっており、特に高分子の新規分子設計、機能化方法の開発が望まれています。東工大に着任して以来、「電子を試薬とする電極反応」に魅せられ、電極電子移動に基づく導電性高分子の機能化に関する研究を推進してまいりました。
また、電極電位分布を自在に制御し、高分子膜に転写する画期的な手法を開発し、傾斜機能表面などの創出にも成功しています。
今回、このような栄誉ある賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。研究室学生を含む共同研究者、学内外関係者の方々のご支援に厚く御礼申し上げます。
また、本研究業績は、「東工大挑戦的研究賞」ならびに「研究の種発掘」支援により得られたものであり、この場をお借りして感謝申し上げます。
新しい分子の創製は、化学研究の醍醐味の一つです。我々は、ケイ素やゲルマニウムなどの高周期14族元素を配位子として持つ新しい遷移金属錯体を設計・合成し、これらを触媒として利用することで、これまで困難だった分子変換を可能にする新しい合成反応の開発を目標に研究を行ってきました。
その結果、二酸化炭素や不飽和炭化水素分子を有用有機化合物へと効率的に変換できる新しい合成反応を種々実現するとともに、従来の金属触媒とは一線を画するユニークな触媒機能を解明することができました。
今後も、独自の分子触媒で切り拓く新しい合成化学を目指し、研究に励んで行きたいと思います。
本研究は、本学岩澤伸治教授のご指導の下、多くの本学学生・博士研究員の方々と行ってきたものです。
素晴らしい共同研究者達に恵まれたおかげで、お互い切磋琢磨しながら、研究を楽しむことができたと感じています。この場を借りて改めて感謝いたします。
生体組織に対して外部加振によって振動を励起し、発生した振動特性を計測すると硬さを推定することができます。硬さから病変組織を診断する新規手法について、定量性を向上する手法の確立、新規手法を生体組織に適用する際の安全性の確立、また、内視鏡へ適用するための小型化に関する基礎技術を確立してきました。
この度は、このような名誉ある賞を受賞することができ光栄に思います。受賞することができましたのも学生時代からこれまで指導して下さった方々があってのことです。この場を借りてお礼申し上げます。
まだまだ勉強不足ではありますが、これを励みに世の中に役立つ成果がでるよう、研究活動を続けてまいりますので今後ともご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。
受賞対象となった私の研究は、太陽光エネルギーを吸収して水を分解し水素を製造する、「光触媒」と呼ばれる魔法の粉を開発するというものです。水素はクリーンエネルギーキャリアとして近年その重要性が増しており、地球上に豊富な水と無尽蔵な太陽光エネルギーから作り出すことができれば大変魅力的です。特に粉末状の光触媒が使えれば、太陽光が降り注ぐ広大な面積にも展開できる可能性があり、将来的な実用化への道筋も見えてきます。
私は、これまでに報告されていない、すなわち地球上に存在しない人工化合物に着目して研究を進め、オキシナイトライドとよばれる材料群が太陽光水分解に有効な光触媒となることを明らかにしました。さらには、光触媒上で起こる表面反応促進に着目することで、最終的には、緑色植物の光合成に匹敵する太陽光エネルギー変換効率を人工系ではじめて実現することに成功しました。
受賞にあたり、関係者の皆様には厚く御礼を申し上げます。特に、学生時代に指導してくださった堂免一成先生(東京大学教授)、原亨和先生(本学教授)、難しい局面で一緒に頭を悩ませ議論してくださった共同研究者の皆様、そして日々支えてくれた家族・友人らに感謝いたします。今回の受賞を励みとして、今後も研究・教育活動に励んで参ります。
近年、希少金属の代替を目指した「元素戦略」の研究が多く行われています。本研究の狙いはさらに一歩進んで、資源的に豊富で環境負荷の小さな元素のみを 使って、これまでにない新しい機能物質を設計することです。
そこで、着目したのは結晶中の原子ではなく、それらの間の空隙でした。カルシウム、アルミニウムおよび酸素という地球上に豊富にあり、ごくありふれた元素から成る金属酸化物結晶(セメント原料、電気を通さない絶縁体)の中の隙間に電子を包接させることで金属伝導性と電子を放出しやすい、低仕事関数という新機能を付与することに成功しました。また、宇宙で最もありふれた元素である水素を陰イオンとして取り込ませることで酸化物に高濃度の電子を注入し、その電子伝導性を制御できることを実証しました。
本受賞は、共同研究者である本学のスタッフや学生、および学内外の関係者のご支援、協力によるものです。この場をお借りして心より感謝申し上げます。今後は、本研究で示された物質設計指針を実際に役に立つ材料の実現につなげていきたいと考えております。
タンパク質などの自然界に存在する生体分子は、多様かつ高度な構造と機能に満ちており、生物学者に限らず、有機合成化学者にとっても魅力的なものであります。私は、こうした生体分子に見られる構造や機能から着想した全く新しい機能性分子を開発してまいりました。
機械的運動を行うタンパク質から着想した分子機械や、細胞膜で物質透過を担う膜タンパク質の立体構造を模倣した超分子イオンチャネルなどが代表例です。今後も「自然から着想した機能性分子開発」というコンセプトのもと、一層、研究に邁進してまいりたいと思います。
最後に、本受賞はひとえに学内外の関係者、学生、共同研究者の方々のご協力によるものでございます。この場をお借りして心より感謝申し上げます。
このたび、東工大教員4名が、平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「科学技術賞」を受賞しました。
「科学技術賞」は科学技術分野で顕著な功績をあげた者を対象としたもので、「開発部門」、「研究部門」、「科学技術振興部門」、「技術部門」、「理解増進部門」に分かれて表彰されています。
日ごろの研究活動、研究成果を認められ、本学からは「研究部門」で2名、「理解増進部門」で2名が受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰には、「科学技術賞」の他、特に優れた成果をあげた者を対象とする「科学技術特別賞」、高度な研究開発能力を有する若手研究者を対象とした「若手科学者賞」等があり、「若手科学者賞」でも本学から8名の教員が受賞しました。
「科学技術賞」を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。
二酸化炭素を炭素資源として再利用し、有用な有機化合物へと変換する方法の開発は、化石資源の枯渇の問題に対する一つの解決策となりうるものです。しかし二酸化炭素は反応性が低く、効率の良い触媒的な二酸化炭素固定化反応の開発研究は、これまで立ち後れていました。
我々は、独自の遷移金属錯体触媒の創製、ならびに新たな触媒系の構築に基づいて、入手が容易な有機分子と二酸化炭素を直接反応させ、有用な化合物へと変換することのできる効率の良い反応を開発し、二酸化炭素の再資源化への道を切り拓くことに成功しました。
本研究により、ベンゼンやトルエンなどの原油にも含まれる芳香族炭化水素や不飽和炭化水素を直接二酸化炭素と反応させるなど、従来困難であった触媒的二酸化炭素固定化反応を種々実現することができました。今後さらに新しく効率の良い二酸化炭素の資源化反応を開発していきたいと考えています。
これらの成果は、なかなか思うように期待する反応が進まない中、粘り強くさまざまな試行錯誤を繰り返し、新たな可能性を見出してくれた学生の皆さんの献身的な努力なしには、なし得なかったものであり、研究室の皆さんに心から感謝したいと思います。
信号処理は観測データから価値の高い情報を推定するための基幹技術として、古くはユークリッドの時代から現代に至るまで、常に強力な数理と共に発展し、今やほとんどの計測システムや情報通信システムに応用されています。現代の信号処理技術の多くは、ガウスの「最小二乗推定」やフーリエの「直交関数展開」の戦略を踏襲しており、「(線形代数で学んだ)部分空間を用いた情報表現」と「直交射影定理(ヒルベルト空間に拡張されたピタゴラスの定理)」を共通の土台としています。私たちは「部分空間では表現できない情報を精密表現する数理」と「最適化の数理」の融合が生む相乗効果こそが信号処理を飛躍的に進化させる鍵となることを確信し、この方針を土台に据えた普遍的アルゴリズムの開発を目標にしています。
凸解析学の目覚ましい進化のおかげで、「表現の困難さ故に、信号処理や逆問題の分野で効果的に活用されることのなかった重要な情報」の多くが、実は「非拡大写像の不動点集合(全ての不動点からなる集合)」として統一表現可能であることが解ってきました(図1、図2参照)。
本研究で開発された「ハイブリッド最急降下法」は、「不動点理論の数理」と「凸最適化の数理」の融合の賜物であり、世界で初めて「非拡大写像の不動点集合上の凸最適化問題」の解決に成功した汎用アルゴリズムです (図1)。さらに、このアイディアを大胆に拡張することによって、「適応射影劣勾配法」を開発し、「凸関数列の漸近的最小化問題」を解決することにも成功しています。これらは非拡大写像の不動点表現に潜む驚異的な情報表現能力を丸ごと信号処理機能に活かすための基幹アルゴリズムとなっており、数多くの逆問題や適応信号処理問題やオンライン学習問題に応用され、優れた性能が実証されています。
このたびは、長年取り組んできた研究を高く評価していただき、大変光栄です。一緒に研究してきた研究室の学生諸君や共同研究者の方々の多大な御協力に深く感謝しています。長い信号処理の歴史の中で本研究の真価が試されるのはまだまだこれからですが、ようやくスタート地点に立つことができたように感じています。これからも信号処理、最適化、逆問題の領域でよい研究ができるよう一層楽しんで参りたいと思っています。
受賞業績:「プログラミングを用いた理科教育実践による小学生の理解増進」
研究概要
情報通信技術(ICT)が日々発展する昨今、プログラミング教育の低年齢での導入が計画されるなか、児童の科学的論理的思考を育むためにどのような役割を担うのか検討することは必要不可欠です。本理解増進では、小学校の理科でプログラミングを用いることを前提に、児童によるプログラミングを教科教育の活動の一部として取り込んだ授業を展開しました。
本活動は、児童の「科学的な仕組みへの深い理解」「モデル化とシミュレーションによる問題解決力の育成」「論理的思考能力の育成」など、理数系の深い理解と学ぶ力の獲得に寄与しています。
受賞者
西原明法 工学院 特任教授
栗山直子 リベラルアーツ研究教育院 助教
齊藤貴浩 大阪大学経営企画オフィス 教授 (元 本学大学院社会理工学研究科 連携准教授(2016年3月まで))
大田区教育委員会や大田区立清水窪小学校等のご協力により進めている、私達の取り組みを評価していただいて大変光栄です。今後このプログラミング教育を他の多くの小学校にも展開し、さらなる理解増進を図りたいと考えています。
また、この学習をした児童達が科学への興味を持ち続け、将来社会に貢献してくれることを期待しています。
このたびの表彰は、大田区立清水窪小学校の児童の皆様、校長先生や諸先生方、実践授業の際に手助けをいただきましたすべての皆様のご協力、ご支援の賜物です。心より感謝申し上げます。
今後も科学的な根拠に基づく効果的な教育方法を実践し、その普及を目指して精進してまいりたいと思っています。
この取り組みを開始する際にご指導をいただいた東京工業大学名誉教授鈴木正昭先生に深く感謝するとともに、東京工業大学基金:日本再生プロジェクトのご支援に感謝いたします。
3月15日東京工業大学地球生命研究所(ELSI)のELSIホールにて、「映画『オデッセイ』監修 NASAジム・グリーン氏 一般講演会」を開催いたしました。本講演会は参加申込み開始から、わずか4日間で定員の120名に達するお申し込みがありました。
アメリカ航空宇宙局(NASA)の惑星科学部門ディレクターであり、現在上映中の映画「オデッセイ」の科学監修を務めたジム・グリーン氏は「The Martian: Science Fiction & Science Fact (訳:「オデッセイ」の科学における空想と現実) というタイトルで講演を行いました。
グリーン氏は、映画で描かれていたが現実には起こらないこととして「人が吹き飛ぶような砂嵐」「ソーラーパネルの砂埃を払うという日課」「水の調達に対する苦労」「オレンジ色の夕焼け空」などを取り上げ、なぜ火星で起こらないのかを1つ1つ科学的に解説しました。
映画のシーンを例に挙げ、火星の環境について解説する講演は一般の方にもとても分かりやすかったようで講演後に行ったアンケートでも、約90%の方に「分かりやすかった。面白かった」とご回答いただけました。
そして話題はNASAのこれからの火星ミッションに移りました。2045年の火星への有人着陸を目指し、現在NASAでは広大な大地を持つ火星の中でたった1つの着陸地点を決めるために、世界中の科学者が知恵を寄せ合っていることや、日本が行っている火星衛星のフォボスとダイモスの探査計画がとても重要であることを語りました。
講演後の質疑応答時間では「先生はどのような植物を火星に持って行きたいですか?」という質問に、グリーン氏は「火星の土壌は、アルカリ性が強い場所と酸性が強い場所があります。アルカリ性が強い場所では豆類やアスパラガスの栽培が適していて、酸性が強い場所では、イモが適しています。そして、NASAは事前に着陸地点の土壌を十分に分析し、地球上でその土壌を再現し、何度も植物を育てる実験をするでしょう。」と答えました。その後、「でも僕はアスパラガスがあまり好きではないから、ジャガイモがいいな」と付け加え、会場を沸かせました。
ELSIでは、今回のイベントのようにたくさんの方々に興味を持っていただける講演会などを今後も開催していく予定です。
4月17日に埼玉県草加市の獨協大学 35周年記念アリーナで開催された第112回東都大学※学生競技ダンス選手権大会(東部日本学生競技ダンス連盟主催)にて、本学舞踏研究部が優秀な成績を収めました。同部からは出場した8組のうち、ラテンアメリカン・ルンバの部に出場した鈴木孝信(理学部地球惑星科学科4年)・八田みずき(白百合女子大学) 組が見事優勝、そして団体でも26校中4位となり上位入賞を果たしました。
パートナーやコーチの先生とずっと願っていた優勝だったので、やっと達成できて感無量です。また団体としても4位になることができ、2016年度良いスタートを切れたと思います。
次の東部日本選手権も部員一同努力を惜しまず頑張っていきます。応援よろしくお願い致します。
男女がペアになって踊る 社交ダンスとほぼ同じものですが、社交ダンスが社交を目的としているダンスであるのに対し、競技ダンスは競技会にて技術を競うことを目的としています。学生の競技ダンスは、大きくスタンダードとラテンアメリカンにわかれており、それぞれ4種目ずつ、全部で8種目のダンスがあります。
男女が組んで踊ります。
基本的に男女が離れて踊ります。
東京工業大学舞踏研究部は、学生競技ダンス連盟に所属している大学公認の部活です。共同加盟校として、白百合女子大学と杉野服飾大学と共に活動しています。部員数は、東工大生:21人、白百合女子大生:9人、杉野服飾大生:8人(2016年5月現在)です。競技会にむけて日々練習しています。
科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターは、このほど季刊誌「AES News」No.5 2016春号を発行しました。
本学では、2016年4月1日付けで研究体制が刷新され、新たに科学技術創成研究院(IIR)が誕生しました。このIIRのもとには6つの研究所・センターが置かれ、そのひとつが旧ソリューション研究機構AESセンターを母体とする、本AESセンターです。
AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越え、低炭素社会の要となる再生可能エネルギーや省エネを極限まで取り込んだ先進エネルギーシステム実現に向けて、企業や行政等が対等な立場で参加する開かれた研究拠点「イノベーションプラットフォーム」を目指しています。
同センターでは、前身組織がその活動をより多くの方々にご理解いただき、企業、自治体会員および本学教職員の連携を深めるために年4回発行していたニュースレター「AES News」を引き継ぎ、今回通算で第5号となる2016春号を発行しましたのでご案内します。
第5号・2016春号
PDF版 |
資料ダウンロード | 先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)東工大ソリューション研究機構
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国立大学法人東京工業大学(学長:三島良直、以下「東工大」)と株式会社みらい創造機構(代表取締役:岡田祐之、以下「みらい創造機構」)は、大学での研究成果を社会に一層生かすため、組織的な連携協力に関する協定を5月13日に締結しました。
東工大では本年4月より教育、研究の両面において大胆な改革を開始しており、これらの成果を社会や経済システムに還元し、社会の課題・要請に迅速に応える産学連携活動の一層の強化に取組んでいます。みらい創造機構は、新規事業創出と育成支援に多くの実績を持ち、東工大ともこれまで共同研究・学術指導の推進、人材教育支援、ベンチャー育成支援等を行ってきました。
今回の協定により、両者の協働活動を一層強化し、大学の技術・人材を活用したベンチャー創出・育成のプラットフォームの構築に加え、産学連携、国際協働活動、起業家教育等を組織的に推進していきます。特に、卓越したリーダーの下で、先端的な研究を推進する東工大の新たな研究体制「研究ユニット※」の仕組みを活かし、社会的要請を踏まえた新たな研究ユニットの創成・運営に取り組むとともに、海外企業、大学、研究所での国際産学連携を推進していきます。
東工大との連携活動を加速・充実させるために、みらい創造機構は東工大関連ベンチャーを中心に投資するベンチャーキャピタルファンドの組成を準備中です。ファンド組成の暁には、東工大の未公開発明の早期開示を基に、技術系ベンチャーの創出を加速する取組みをともに積極的に推進していきます。
お問い合わせ先
東京工業大学 広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975
みらい創造機構 広報担当
Email : contact@miraisozo.co.jp
Tel : 03-6311-6958
画像情報教育振興協会(以下、CG-ARTS協会)が実施した「2015年度前期CGエンジニア検定エキスパート」において、大学院情報理工学研究科情報工学専攻修士2年(受賞当時)の犬飼康裕さんが優秀な成績を収め、文部科学大臣賞個人賞を受賞しました。
CGエンジニア検定は、文部科学省認可のCG-ARTS協会が実施している画像を中心とした情報分野のスキルアップを図るCG-ARTS検定試験の1つで、CG分野の開発や設計を行うエンジニア、プログラマのための検定です。難易度により、ベーシックとエキスパートの2種類に分かれており、犬飼さんは2015年度前期エキスパートにおいて、上位前位の受験者に与えられる上述の賞を収めました。
エキスパートでは、CGとディジタルカメラモデル、座標変換とパイプライン、モデリング、レンダリング、アニメーション、画像処理、視覚に訴えるグラフィックス、CGシステム、知的財産権、関連知識の10個の分野から出題されます。2015年度のエキスパートの受験者数は400名前後、合格率は約50%となっています。
この度はこのような賞を頂くことができ光栄です。
私は学部時代にアニメーション研究会に所属していて、他メンバーと共同して手描きアニメーションを制作していました。そこでアニメ制作に3DCGを利用しようとフリーの3DCGソフトを触ったことがきっかけでCGに 興味をもち、セルアニメ調の見た目で出力できるように試行錯誤したのですがなかなかうまくいかず、それによりCGの原理や理論的な側面を学ぶ必要性を感じました。勉強に使用した教科書がCG-ARTS協会のものであったことから同協会の開催している検定を知り、折角勉強したことであるし、力試しだと思い受験しました。
最近では日本のセル調アニメにおいても「楽園追放」など全編フルCGで制作された作品が人気を博しており、また「ガールズ&パンツァー」「アイカツ!」など手描き作画と組み合わせて利用されることも多く、 これからもアニメーションにおけるCG技術の重要性は増していくものと思われます。さらにアニメに限らず、3Dプリンタの普及等によりCGは画面内だけのものではなくなっており、これからさらに生活の中に溶け込み、より身近なものとなっていくでしょう。
現在所属している小池研究室は直接CGを研究対象にしている訳ではありませんが、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションや情報可視化といったテーマにおいて間接的に利用することは多々あり、CGの知識を生かせる環境にあります。そのため、今回学んだ知識をこれからの研究に役立てていければと考えております。
東京工業大学グローバル理工人育成コースによる実践型海外派遣プログラムで、10日間~1ヶ月間海外に留学した計68名の学生による報告会が、4月28日および5月11日の2日間開催されました。今年の春の実践型海外派遣プログラムでは、6つの超短期海外派遣プログラムと、1つの海外英語研修プログラムが実施されました。
本学は、「卓越した専門性」と「リーダーシップ」を併せもち、グローバル社会で活躍できる人材を育成するため、様々な海外派遣プログラムを開発・実施しています。
「グローバル理工人育成コース」は、学士課程学生を対象とし、世界の企業、大学、研究所、国際機関等、様々なフィールドで活躍できる人材を育成することを目的として設置されました。「国際意識醸成プログラム」、「英語力・コミュニケーション力強化プログラム」、「科学技術を用いた国際協力実践プログラム」、「実践型海外派遣プログラム」の4つのプログラムにより構成されています。実践型海外派遣プログラムのうち、アジア、欧米各国の大学、研究機関、企業、NPO等を受入れ先とした1ヶ月以内のプログラムを、「超短期海外派遣プログラム」と位置づけています。
今回は以下の日程で、各プログラム参加学生からの報告が行われました。
各回とも多くの学生が参加し、活発な質疑応答が交わされました。
超短期派遣プログラムに参加した学生からは
など、本プログラムが今後の学生生活や将来設計の参考になったといった声が多く聞かれました。
今年の夏には、インド、スリランカ、タイ王国、ドイツ・オーストリア、スウェーデン王国の5つの実践型超短期海外派遣プログラムと、オーストラリアで行われる理工系学生のための海外英語研修プログラム、の合計6つのプログラムを実施します。
今後も、海外経験を積みたい、語学力を強化したいという東工大生のニーズに応えていきます。
お問い合わせ先
東京工業大学 国際室
Email : intl.sgu@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3433
グローバル人材育成推進支援室
Email : ghrd.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520
東工大の生命理工学院では、複雑で多様な生命現象を理解しようとする研究から、ライフサイエンスとテクノロジーの知識を駆使した工学的な研究に至るまで、幅広く行われております。
大隅良典栄誉教授が行うオートファジーの研究もその一つです。オートファジーとは、一言で言えば、細胞内で自分自身のタンパク質が分解される仕組みのことです。最近では、オートファジーの機能をコントロールできれば神経疾患などの治療に役立つこともわかってきており、この分野の研究に力が注がれています。
こうした功績が認められ、大隅栄誉教授は2015年にカナダのガードナー国際賞および国際生物学賞を受賞しました。ガードナー国際賞は、医学に対して顕著な発見や貢献を行ったものに与えられる学術賞で、医学に関する賞として最も顕著な賞の一つです。また、国際生物学賞は、生物学の奨励を図ることを目的として昭和天皇の在位60年を記念して創設され、生物学の研究において優れた業績を挙げ、世界の学術の進歩に大きな貢献をした研究者に授与されます。これらの受賞を記念して2015年11月に開かれた講演会では、大隅栄誉教授の他に、生命理工学の分野で研究を進めている以下4人の研究者が、各々の講演テーマに沿って生命理工学の面白さを高校生たちに伝えました。
その様子を動画にまとめましたので、ぜひご覧ください。
東京工業大学(以下「東工大」)、東京医科歯科大学(以下「医科歯科大」)、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(以下「EPFL」)は医用工学分野での国際共同研究とイノベーションの創出についての議論を深めるため、4月19日に医科歯科大で3大学共同ワークショップを開催しました。
東工大とEPFLは、昨年6月にEPFLで共同ワークショップを行っており、今回が2回目の開催となります。今回のワークショップではテーマが医用工学ということから、医科歯科大にも参加いただき、3大学から関連の各3名、合計9名が研究成果、及びその成果の実用化についての発表を行いました。東工大からは、工学院機械系の土方亘准教授と松浦大輔助教、科学技術創成研究院の西迫貴志助教(開催当時・現准教授)が登壇しました。
また、東工大・医科歯科大の双方の成果を活用するリバーフィールド株式会社の発表もあり、最先端の技術と医療の融合についての有意義な会合となりました。
ワークショップでは、手術用ロボット、ウェアラブル、バイオセンサー等医用工学分野の広範囲な最先端の技術と医療への応用について発表が行われました。各発表後や休憩時間には講演者に熱心な質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。
ワークショップに引き続き情報交換会を開催し、講演者、企業や3大学の関係者が意見交換を行い、懇親を深めるとともに、今後の活動に関する打合せを行いました。
今後、理工系総合大学である東工大とEPFL、医療系総合大学である医科歯科大がそれぞれの特色を生かした協力関係を構築することで新たな国際共同研究への道筋をつけ、また、3大学と日本や欧州の企業が協業することで、新たな国際産学連携プロジェクトやイノベーションの創出に繋がることを期待しています。
東京工業大学科学技術創成研究院の西山伸宏教授(ナノ医療イノベーションセンター主幹研究員)、ナノ医療イノベーションセンター 片岡一則センター長(東京大学政策ビジョン研究センター 特任教授)と米鵬主任研究員、量子科学技術研究開発機構 青木伊知男チームリーダーらは、がん内部の微小環境で悪性度や治療抵抗性に関する「腫瘍内低酸素領域」を高感度でMRIにより可視化できるナノマシン造影剤を開発しました。がん内部の低酸素領域には薬剤が十分に届きにくく、また放射線治療の効果も低くなるなど治療への抵抗性を示し、より悪性度の高いがんに変化して転移を引き起こす原因領域とされ、注目されています。開発したナノマシン造影剤は、がん組織の微小環境を検知して、MRIの信号強度を増幅するこれまでに無い機能を有しており、既存のMRI造影剤よりも優れた腫瘍特異的イメージングを可能にすることを研究チームは明らかにしました。また、ナノマシン造影剤を利用することにより、直径わずか1.5 mmの肝臓へ転移した微小な大腸がんを高感度で検出することにも成功しています。このようにナノマシン造影剤は、臨床で広く利用されている生体検査と比べて極めて低侵襲的で、体内のあらゆる臓器・組織に適用できる「イメージングによる病理診断技術」としての実用化が期待されます。また、ナノマシン造影剤は、治療において、治療前の効果の予測や治療後の迅速効果判定にも応用でき、将来的には、見落としの無い確実性の高いがん診断を可能にし、先手を打った、より確実な治療が可能になるものと期待されます。
MRIは、放射線を使わず、磁石により体内を画像化する体に優しい診断装置です。高解像度の断層イメージングが可能で、国内で6000台程度が稼動するなど広く普及しています。日本国民の死因の第一位である悪性腫瘍(がん)のMRI診断においては、高感度化、がん組織の検出力(特異性)の向上、診断情報の高度化(微小環境の変化など)が望まれており、そのための技術開発が世界中で行われています。MRI装置の開発が進められる一方で、安全で、より高機能な造影剤の開発が、近年強く求められています。このような背景において、研究チームは、生体に対して安全で、がん組織での低pH環境に応答して溶解する「リン酸カルシウムナノ粒子」にMRI造影効果を有するマンガン造影剤を搭載したナノマシン造影剤を開発しました。このナノマシン造影剤は、造影剤を内包した内核が、生体適合性に優れた高分子材料の外殻で覆われています。ナノマシン造影剤は、血流中の環境(pH 7.4)では安定ですが、腫瘍内の低pH(6.5-6.7)においてpHに応じてマンガン造影剤をリリースします。加えて、ナノ粒子から放出したマンガン造影剤が、がん組織でのタンパク質と結合することによって、信号が約7倍に増幅する性質があります。これらの結果より、ナノマシン造影剤は、腫瘍の内部のpH(6.5-6.7)の僅かな変化に応答して、MRI信号を変化させる特性を有するものと研究チームは考えました。
そこで、ナノマシン造影剤をがん細胞の皮下移植モデルマウスに投与し、MRI計測を行ったところ、投与30分で腫瘍全体が造影され、時間の経過とともに腫瘍中心部の信号強度が増大することが確認されました(図1)。このMRI信号強度の変化は、臨床で広く利用されている造影剤(マグネビスト、Gd-DTPA)による信号強度変化よりもはるかに大きく、ナノマシン造影剤の固形がんのイメージングにおける有用性が示されました。また、腫瘍中心部で信号が顕著に増大する部分は、組織切片の免疫染色の結果から、がんの「低酸素領域(Hypoxia)」と一致し、加えて、がんの内部で乳酸が溜まる部位とも一致していたことから、ナノマシン造影剤は腫瘍内の僅かなpH変化を可視化し、結果として「低酸素領域を高感度かつ高精度でイメージングできる」ことが明らかになりました(図2)。さらに、このナノマシン造影剤をわずか1.5mmの小さな大腸がんの肝転移[用語3]モデルにおいてMRIで計測したところ、既存の肝がん用MRI造影剤でもあるプリモビストよりも優れた検出力を示すことが明らかになりました(図3)。低酸素領域は、抗がん剤治療や放射線治療に対して抵抗性を示すことが知られており、がんの内部に低酸素領域を持つかどうかを調べることは、治療方針の決定や治療効果の検証に大変重要です。現在の医療では、がん内部に低酸素領域を持つかどうかを調べることは一般的ではなく、検査法も放射線被ばくを伴う解像度の低い方法しかありませんでした。本開発により、悪性度の高いがん細胞が潜む低酸素領域を、放射線被ばくなく、高い解像度で三次元的に解析する手段が得られ、今後、がんの性質を見極める高度な診断や、効果を確認しながら治療や創薬を進める新しい医療の形成が期待できます。
今回得られた結果に関して、重要なこととして、臨床で最も広く普及している、比較的安価な低磁場1テスラMRIにより得られたものであり、高価で導入台数の少ない高磁場MRIを必要としないことが挙げられます。本ナノマシン造影剤は、低磁場のMRI装置において、特に優れた信号上昇を示すことも示されています。ナノマシン造影剤は「いつでも、どこでも、だれでも」利用でき、病変部位の検出の高感度化と診断情報の高度化を可能にする革新的MRI造影剤として今後の展開が期待されます。
なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援によって行われました。
用語説明
[用語1] 腫瘍内低酸素領域(Hypoxia) : がん細胞の無限増殖やアポトーシス(機能的な細胞の自然死)の回避等に代表されるがんの特性は、がん細胞の増殖速度と腫瘍血管の形成速度とのアンバランスを引き起こします。結果として、悪性腫瘍の内部には、十分な酸素が供給されない低酸素領域が生じます。また、腫瘍の増殖に遅れて構築される腫瘍血管は正常組織のそれと比較して脆弱であり、かつ遮断や逆流を繰り返すため、腫瘍血管の近傍にも一過性の低酸素環境が生じることが知られています。この様な低酸素環境にあるがん細胞は一般的に抗がん剤に抵抗性を示します。また、エックス線やガンマ線の殺細胞効果は酸素の存在に強く依存することから、低酸素環境にあるがん細胞は放射線治療にも抵抗性を示すことが報告されています。さらに、低酸素環境にあるがん細胞は運動・遊走能(移動能力)を高めることによって劣悪な環境からの回避を図り、これががんの転移・浸潤能の高めることにつながると言われています。そして、がんの低酸素環境は、がんの治療に関してとても重要です。
[用語2] ナノマシン造影剤 : ナノマシン造影剤は、がん組織での低pH環境に応答して溶解する「リン酸カルシウムナノ粒子」にMRI造影剤を搭載したナノマシン造影剤です。このナノマシン造影剤は、造影剤を内包した内核が、生体適合性に優れた高分子材料の外殻で覆われています。ナノマシン造影剤は、血流中の環境(pH7.4)で安定に保持でき、腫瘍内のpH(6.5-6.7)においてpHに応じてマンガンイオンをリリースします。加えて、ナノ粒子から放出したマンガンイオンが、がん組織でのタンパク質と結合することによって、分子の動きが制限され信号が約7倍に増幅する性質があります。これらの結果より、ナノマシン造影剤は、腫瘍の内部のpH(6.5-6.7)の僅かなpHの変化に応答して、MRI信号を変化させる特性をもつことが示されました。ナノマシン造影剤は、がん診断、特に微小な転移がんの発見に役立ち、更に腫瘍内の低酸素領域をMRIで高解像度の検査ができ、治療方針の決定や治療の効果判定に役立つと考えられます。
[用語3] 肝転移 : 肝転移とは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)が肝臓に転移したものを意味します。ほぼすべてのがんにおいて、肝臓へ転移する可能性がありますが、実際には消化器系がん(大腸がん、胃がん、膵がんなど)、乳がん、肺がん、頭頸部のがん、婦人科(子宮や卵巣)のがん、腎がんなどが肝臓への転移を認めることが多いとされています。また、がんの死因の中で、90%は転移がんによる死因です。
論文情報
掲載誌 : |
Nature Nanotechnology |
論文タイトル : |
A pH-activatable nanoparticle with signal amplification capabilities for non-invasive imaging of tumour malignancy |
著者 : |
Peng Mi, Daisuke Kokuryo, Horacio Cabral, Hailiang Wu, Yasuko Terada, Tsuneo Saga, Ichio Aoki*, Nobuhiro Nishiyama*, Kazunori Kataoka* (*責任著者) |
DOI : |
Nature Nanotechnologyについて
Nature Nanotechnologyは、Nature Publishing Groupが発行しているナノテクノロジーに関する専門誌で、2006年に創刊されました。インパクト・ファクターは34.048(2015年発表)でナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野では1位の学術誌として高い評価を得ています。
問い合わせ先
公益財団法人 川崎市産業振興財団
ナノ医療イノベーションセンター
センター長 片岡一則
Email : k-kataoka@kawasaki-net.ne.jp
Tel : 044-589-5812
ナノマシン造影剤に関して
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
教授 西山伸宏
Email : nishiyama@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5240
MRIに関して
量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所
チームリーダー 青木伊知男
Email : fmit3@qst.go.jp
Tel : 043-206-3272
その他に関する事項
公益財団法人 川崎市産業振興財団 COINS支援事務局
松枝温子
Email : jimukyoku-coins@kawasaki-net.ne.jp
Tel : 044-589-5785
1月14日から2月3日にかけて、本学公認サークルである写真研究部と美術部による作品展が、東工大附属図書館との協働により行われました。
大岡山キャンパスの附属図書館が2011年に新しくなってから、館内で絵画や写真を展示するのは初めての試みでした。そのため、展示に適した場所や展示方法について、各サークルの学生と図書館の職員との間で意見交換を重ね、学生が積極的に準備を進めた結果、展示期間中、普段はモノトーンを基調とした図書館が華やかな空気に包まれました。
作品展は、写真研究部による「一月展」からスタートし、1月14日から1月20日の期間、館内4か所(1階ロビー、地下1階(2か所)、地下2階)に計25点の作品が展示されました。続いて、1月21日から2月3日の期間は、「図展(とてん)」と題し、美術部の作品13点が館内2か所(1階ロビー、地下2階)に展示されました。今回の作品展の開催は、SNS(附属図書館公式Facebook、Twitter)を通じて周知したところ、多くの反響がありました。
建物形状の制約から、作品は館内に分散されての展示となりましたが、作品展に足を運んだ方たちからは、「とても理工系の学生の作品とは思えない出来栄えで驚いた。」「静かな雰囲気の中で見られるのは良い。」といった感想や、「展示リストや作品解説などもあるとよかったのでは。」など、今後の課題につながる意見も寄せられました。
作品を出展した学生からは、「来年も可能であれば図書館で展示を行いたい。」「学内で展示する機会はあまりないので、学内の人に見てもらえてよかった。」との感想がありました。
附属図書館では、便利で快適な学修環境やサービスと、親しみや安らぎのある場の提供を目指し、今後もさまざまな企画を実施していく予定です。
お問い合わせ先
研究推進部情報図書館課利用支援グループ
Tel : 03-5734-2097
4月12日、島尻安伊子内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が、上山隆大総合科学技術・イノベーション会議有識者議員、中川健朗内閣府大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)らとともに、東京工業大学(以下、東工大)を視察しました。
島尻大臣は、今年4月から学院としてスタートした東工大の新しい教育組織や、研究組織の改革により発足した科学技術創成研究院などについて、三島良直学長から説明を受け、その後、大学改革の課題についての意見交換を行いました。
島尻大臣からは、「東工大は、大学改革に果敢に挑戦して非常に素晴らしい大学と聞いています。また、組織を変える学長の苦労を垣間見ました。改革の先行例として評価しています」とのコメントと、理工系総合大学である東工大には大きな期待をしている旨の激励の言葉をいただきました。
引き続き、池上彰特命教授と「Society 5.0」※1について一般の人にわかりやすく説明することの重要性に関する活発な意見交換が行われました。
最後に、東工大に設置されているWPI※2である地球生命研究所(ELSI)にて、廣瀬敬所長による研究の概要説明を受けた後、超高圧実験室を視察し、今回の行程を終えました。