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NHK Eテレ「ハートネットTV」にリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が出演

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本学、リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が、NHK Eテレで放送される「ハートネットTV」に出演します。

伊藤亜紗准教授
伊藤亜紗准教授

タイトルは、「目の見えない人が“見る”世界」。

美学研究者である伊藤准教授は視覚障害者との対話を通じて、身体感覚の追究や、世界の捉え方に対する様々なアプローチを行ってきました。「身体」をテーマとして迫っていくことで、「福祉」という視点のみでは“見え”てこなかった豊かさを探っていきます。

伊藤亜紗准教授のコメント

目の見えない人は目で見ていない人。では彼らはどんな「見方」をしているのか? 違いを面白がろうという私の提案を、丁寧に番組にしていただいています。見えない人から見た大岡山も登場しますよ!

  • 番組名
    NHK Eテレ「ハートネットTV」
  • タイトル
    目の見えない人が“見る”世界
  • 放送日
    6月23日(木)に放送され、以下で再放送が予定されています。ぜひご覧ください。
    6月30日(木)13:05~13:34

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


「第38回すずかけ祭」開催報告

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第38回すずかけ祭が、新緑に彩られたすずかけ台キャンパスにおいて、5月14日~15日の2日間、すずかけ台オープンキャンパス(大学説明会)と併せて開催されました。2日とも天気に恵まれ、計3,180名の方々に来学いただきました。近隣住民のみなさまを始め、科学技術に関心のある方々、そして学生達と教職員が集い大盛況となりました。

すずかけ祭ポスター掲示
すずかけ祭ポスター掲示

すずかけ門の受付
すずかけ門の受付

今年4月からの教育研究改革によって、すずかけ台キャンパスでも6つの学院(理学院工学院物質理工学院情報理工学院生命理工学院環境・社会理工学院)と科学技術創成研究院の体制がスタートしました。研究型キャンパスのすずかけ台では多くの研究室を公開し、東工大で行われている最先端の研究に触れる企画や、いろいろな体験実験が行なわれました。

学院や研究院などの新しい組織名は、来場者の方にはまだ聞きなれないため、すずかけ祭パンフレットでは、各研究室の分野や小中学生対象実験などの情報をピクトサイン的にわかりやすく表示しました。

また、参加者は、書道・お茶会の文化展、模擬店、スタンプラリーやピアノ&アンサンブルコンサート、ウッドデッキでのジャグリングパフォーマンス、附属図書館すずかけ台分館公開、博物館すずかけ台分館公開など、たくさんの企画を楽しんでいたようです。その他、本学の男女共同参画推進センターの企画で、女子高校生のための研究室ツアーを実施し、女子高校生が真剣に研究室を見学されていたのも印象的でした。すずかけホール2階にオープンした「モトテカコーヒー」すずかけ台キャンパス店で開催された昼と夕方のミニライブコンサートでは、従来のすずかけ台キャンパスにはない雰囲気が醸し出されていました。同店でのこどもカフェ店員体験「キッザニ屋」も子供達に好評でした。

  • 書道展の風景
    書道展の風景
  • 模擬店
    模擬店
  • 管弦楽団によるミニコンサート
    管弦楽団によるミニコンサート
  • ジャグリングパフォーマンス
    ジャグリングパフォーマンス
  • 研究室公開展示
    研究室公開展示
  • 女子校生ツアー
    女子高生ツアー

すずかけ台オープンキャンパスでは、大学院受験生を対象にした各学院の説明会が5月13日~15日に行われ、入試に関する説明やポスターでの研究紹介などが活発に行われていました。学士課程受験生を対象とする説明会は、生命理工学院(第7類)が実施しました。

また、東工大スポーツ講座も同時開催し、アトランタ・シドニー・アテネと3度のオリンピックで水泳選手として出場、2000年のシドニーオリンピック水泳400メートルメドレーリレーで銅メダルを獲得し、現在スポーツコメンテーターとして活躍されている田中雅美氏と、フリーアナウンサーの吉田填一郎氏のトーク形式でオリンピックについて熱く語っていただきました。田中氏は、水泳の世界で世界トップクラスに登り詰めるための緊張感や、挑戦する気持ちを保つことの大切さに触れ、科学技術を含め、どの世界でも同じであることを強調されていました。

本年も、すずかけ祭にご来場いただいた方々に感謝いたします。来年のすずかけ祭でも、東工大の科学技術や自然豊かなキャンパスを満喫していただける多彩な催しを企画しますので、引き続き皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

キャンパス内散策・くつろぎ風景
キャンパス内散策・くつろぎ風景

ウッドデッキからの眺め
ウッドデッキからの眺め

お問い合わせ先

すずかけ台地区事務部総務課

Email : suzu.som@jim.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5904

7月の学内イベント情報

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7月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

CERI寄附講座「ゴム・プラスチックの安全、安心 ―身の回りから先端科学まで―」(2016年 前期)

CERI寄附講座「ゴム・プラスチックの安全、安心 ―身の回りから先端科学まで―」(2016年 前期)

13:00~14:30の講義では、化学品を含むゴムやプラスチックとその製品の安全・安心に関する情報を、一般の方にもわかりやすく紹介します。14:40~16:10の講義では将来の安心・安全な材料・製品設計の基礎を学べるようにします。

日時
7月2日・9日・16日・23日・30日
(各日土曜日) 13:00~14:30、14:40~16:10
会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要(先着75名)

TdX講演会#04「チームと日本発のIoTプラットフォームづくり」

TdX講演会#04「チームと日本発のIoTプラットフォームづくり」

2015年11月に開催された「TechCrunch Tokyo CTO Night powered by AWS」において、CTO・オブ・ザ・イヤー2015を受賞された株式会社ソラコム 最高技術責任者 安川健太さんの講演です。

日時
7月8日(金) 18:30~20:00
会場
参加費
無料
対象
チームとモノづくりに関心のある学生および一般の方
申込
必要(定員60名)

シンポジウム「東工大の知を食の未来へ」

シンポジウム「東工大の知を食の未来へ」

食の分野は、東工大に何を求めているのか、東工大ではどのような研究がおこなわれているのか、そして今後の可能性について一緒に考えましょう。

日時
7月20日(水) 15:00~18:30
会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要

夏休み親子工作教室 ―手作り打楽器をつくろう―

夏休み親子工作教室 ―手作り打楽器をつくろう―

ものつくり教育研究支援センター(すずかけ台分館)では、毎年夏休みに親子で一緒に工作をすることを通してものつくりの楽しさを知ってもらおうと、夏休み親子工作教室を開催しています。

日時
7月26日(火) 10:00~15:00
会場
参加費
1組300円(保険料込)
対象
小学生とその保護者(小学生1名+保護者1名で一組とする)
申込
必要(12組24名)
内容
「ビールの王冠を利用してオリジナルタンバリンを作成」

一部締め切りを過ぎていますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ビフィズス菌が優勢になる乳児の腸内フローラ形成機構を解明―母乳に含まれるオリゴ糖の主要成分の利用がカギ―

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要点

  • ビフィズス菌は、乳児期の腸内フローラにおいて優勢になることが知られていたがメカニズムが分かっていなかった。
  • 本研究では、生後1か月の間に乳児の腸内フローラが大きく変化し、腸内細菌科およびスタフィロコッカス科に属する細菌群が優勢のフローラ構成から、ビフィズス菌が優勢のフローラ構成に変動することを明らかにした。
  • ビフィズス菌が優勢になるためには、母乳に含まれるオリゴ糖の主要構成成分「フコシルラクトース」が重要な役割を果たしていることをゲノム解析により解明した。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の森宙史助教、山本和也大学院生、山田拓司准教授、黒川顕特任教授(兼国立遺伝学研究所教授)はヤクルト本社中央研究所の松木隆広博士、帝京大学医学部の児玉浩子博士らの研究グループと共同で、乳児期のビフィズス菌優勢の腸内フローラ[用語1]形成には、母乳オリゴ糖の主要な構成成分であるフコシルラクトース(FL)[用語2]が重要であることを突き止めた。

FLを利用できるビフィズス菌が定着した乳児は、そうでない乳児に比べて便中のビフィズス菌の占有率や酢酸濃度が高く、大腸菌群の占有率やpHが低いことがわかった。ビフィズス菌に利用されるFLを輸送するABC輸送体[用語3]がビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成において中心的な役割を担っていることを解明した。これはビフィズス菌のオリゴ糖利用性が、乳児とビフィズス菌の共生関係の構築に重要であることを示し、乳幼児期におけるビフィズス菌優勢の腸内フローラの意義の解明につながることが期待される。

研究成果は6月24日発行の英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)」に掲載された。

は研究当時の肩書
乳児腸内フローラ形成とビフィズス菌によるフコシルラクトース(FL)利用の分子機構

概念図 乳児腸内フローラ形成とビフィズス菌によるフコシルラクトース(FL)利用の分子機構

(a)生後1か月間の乳児腸内フローラの形成過程には次のような特徴がある。乳児の腸内フローラはStaphylococcaceae、大腸菌群、ビフィズス菌のいずれかが最優勢であることを特徴とする3つのグループに分類される、ビフィズス菌優勢のフローラに不可逆的に移行する、その移行時期には個人差が認められる。
(b)ビフィズス菌には母乳オリゴ糖を効率よく利用できる菌とできない菌が存在する。母乳オリゴ糖の主成分であるFLの利用には、今回見出したFL輸送体が重要な役割を果たしている。このFL輸送体は、乳児の腸内の酢酸濃度とpHを規定する重要な遺伝子である。

研究の背景

最近の研究により、乳児期の腸内フローラ構成が成長後の個体の生理機能に大きな影響を及ぼすことが明らかとなっている。また、これまでの多くの研究から、乳児ではビフィズス菌優勢の腸内フローラが形成されることは明らかになっているが、乳児期の腸内フローラ形成の法則性やビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成機構は十分に明らかとはなっていなかった。

そこで、乳児から生後1か月間に提供された糞便サンプルのフローラ構成を調べ、その動的変化と平衡、ならびに代謝産物との関係性を調べることにより、ビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成に影響を及ぼす環境要因とビフィズス菌の特性について解析をした。

研究成果

(1)乳児期の腸内フローラ構成

通常分娩で生まれた12名の母乳により保育される新生児より、生後1か月間糞便を採集し、乳児期の腸内フローラ形成過程を解析した(図1-a)。その結果、生後1か月間の腸内フローラは、Bifidobacteriaceae(ビフィドバクテリア科)、Enterobacteriaceae(腸内細菌科)、またはStaphylococcaceae(スタフィロッカス科)が優勢の3つのグループに分類できることが、主成分分析およびクラスター分析によって明らかになった(図1-b、c)。さらに興味深いことに、各グループ間の変遷には法則性があり、Staphylococcaceaeが優勢のグループからEnterobacteriaceaeが優勢のグループへ、Enterobacteriaceaeが優勢のグループからBifidobacteriaceaeが優勢のグループへ不可逆的に変化することが分かった(図1-d)。

生後1か月間の乳児腸内フローラ構成の変化

図1. 生後1か月間の乳児腸内フローラ構成の変化

(a)ヒートマップ解析結果:各被験者の生後1か月間の腸内フローラ構成を、時間経過に沿って左から右にカラースケールで示した。
(b)多変量&クラスター解析結果:白丸は被験者サンプル、四角は各グループの中心を示す。ビフィズス菌優勢、大腸菌群優勢、Staphylococcaceaeが優勢のフローラを、それぞれB(赤)、E(青)、S(黄)で示した。色づけされた楕円には各グループに属するサンプルの67%が含まれる。
(c)各クラスターを特徴付ける菌群の占有率をボックスプロットにて比較した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。
(d)生後の日数経過と優勢菌群の遷移。

(2)生後1か月目の腸内フローラ構成

上述の12名の新生児に加え、通常分娩で生まれた15名の母乳により保育される新生児より糞便の採集を行い(計27名)、生後1か月目の腸内フローラ構成を調べた。さらに、これら新生児の保護者(成人)22名より糞便の採集を行い、腸内フローラ構成を調べた。

その結果、生後1か月目の腸内フローラ構成は、Bifidobacteriaceaeが優勢のグループとEnterobacteriaceaeが優勢の2つのグループに分類できた。一方、成人の腸内フローラ構成は、Lachnospiraceae(ラクノスピラ科)、Clostridiales incertae sedis X I V、Bacteroidaceae(バクテロイデス科)、Ruminococcaceae(ルミノコッカス科)およびPeptostreptococcaceae(ペプトストレプトコッカス科)優勢のグループのみだった(図2-a、b、c)。

1か月目の乳児(27名)と成人(22名)の腸内フローラ構成の比較

図2. 1か月目の乳児(27名)と成人(22名)の腸内フローラ構成の比較

(a)ヒートマップ解析結果:腸内フローラ構成に基づく階層的クラスタリングを行い、作成した樹形図を元にサンプルを並べ替えた(図上部)
(b)多変量解析結果(PCoA&PAM):ビフィズス菌優勢、大腸菌群優勢、成人型フローラを、それぞれB(赤)、E(青)、AD(黄緑)で示した。
(c)各クラスターを特徴付ける菌群の占有率をボックスプロットにて比較した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。

(3)腸内フローラ構成と腸内環境

腸内細菌の定着が腸内環境に及ぼす影響を調べるために、乳児糞便中のpHならびに有機酸の測定を行い、腸内フローラ構成との関係を調べたところ、Bifidobacteriaceaeの占有率は、糞便の有機酸濃度と正に相関すること、ならびに糞便pHと負に相関することが分かった(図3-a)。これまでの研究で、ビフィズス菌は母乳オリゴ糖(Human Milk Oligosaccharide、HMO)を利用することにより、その代謝産物として酢酸や乳酸を産生することが報告されていることから、乳児糞便中の残存HMO量の測定を行った。

その結果、糞便中のHMOの減少と糞便Bifidobacteriaceae占有率の増加、有機酸濃度の増加、pHの低下との間には相関関係が見られた(図3-b)。しかし、一部の乳児では、Bifidobacteriaceaeが存在するにも関わらず、糞便中に高濃度のHMOが残存していることが明らかになった(図3-c)。

そこで、ビフィズス菌のHMOの利用能を調べるために、糞便よりビフィズス菌29株を分離し、HMOを唯一の炭素源とする培地を用いてビフィズス菌の増殖性、ならびにHMOの利用性を調べた。その結果、図3-d、eに示したとおり、29株中14株はHMO添加培地で生育したが、15株は生育できなかった。

培地中の残存オリゴ糖を調べた結果、ほとんどのビフィズス菌株はHMOの構成成分のひとつであるラクト-N-テトラオースを利用していたが、HMOの主要な構成成分であるFLの利用性は単離したビフィズス菌株により顕著な差があった。これらのことから、乳児糞便中のビフィズス菌によるFL利用性は菌株特異的であることが分かった。

腸内フローラ構成と腸内環境の関連性

図3. 腸内フローラ構成と腸内環境の関連性

(a)スピアマンの順位相関係数:腸内フローラ構成菌と腸内環境を比較した。
(b)便中残存オリゴ糖濃度とpH値および酢酸濃度の関連性。
(c)腸内フローラ構成と便中のオリゴ糖濃度、およびビフィズス菌種の占有率との関係。腸内フローラ構成に基づく階層的クラスタリングを行い、作成した樹形図を元にサンプルを並べ替えた(図上部)。
(d)乳児から分離した29株のビフィズス菌を母乳オリゴ糖を唯一の糖源として培養した時の増幅曲線。
(e)培養上清の残存オリゴ糖解析結果、顕著な増殖が認められた株では、母乳オリゴ糖の主成分のFLがほとんど消費されている。

(4)ビフィズス菌のゲノムとFL利用性

乳児のビフィズス菌によるFL利用機構を明らかにするために、ビフィズス菌29株のゲノム解析を行った(表1)。各菌株がもつ遺伝子を詳細に解析したところ、新たに見いだされたABC輸送体がFLを利用できる菌株にのみ存在していた(図4-a)。

さらに、このABC輸送体遺伝子がFL利用性に関わっているのかを明らかにするために、このABC輸送体を欠損させたビフィズス菌株を作製し、HMOを含んだ培地での増殖性とFLの消費を調べたところ、ABC輸送体欠損ビフィズス菌では増殖が抑制され、FLも利用されていないことが確認された(図4-b、c)。このことから、今回新たに見いだされたABC輸送体がHMOの主要構成成分であるFL利用の中心的な働きを担っていることが分かった。

表1. ビフィズス菌29株のドラフトゲノム解析結果の概要

ビフィズス菌29株のドラフトゲノム解析結果の概要
母乳オリゴ糖の利用に関わる遺伝子の同定

図4. 母乳オリゴ糖の利用に関わる遺伝子の同定

(a)フコシダーゼ遺伝子(GH95およびGH29ファミリー遺伝子)の近傍の遺伝子配置。矢印は遺伝子がコードされている方向性を示す。
(b)フコシダーゼ近傍のABC輸送体(FL-SBP)の遺伝子破壊株。
(c)培養上清の残存オリゴ糖解析結果。破壊株では、FLが利用できなくなっていることが確認された。

(5)FL利用能を有するビフィズス菌による腸内環境への作用

27名の乳児を、FL輸送用のABC輸送体を保有するビフィズス菌株が優勢な乳児、FL非利用なビフィズス菌株が優勢な乳児、ならびにEnterobacteriaceaeが優勢な乳児に群分けし、糞便有機酸、pH、残存HMO量、腸内フローラの比較を行った(図5)。その結果、FL利用能を保有するビフィズス菌株が優勢な乳児の糞便では、他の群の乳児に比べ、糞便中のBifidobacteriaceae占有率が高く、Enterobacteriaceae占有率が低いことが明らかになった。また、FL利用能を保有するビフィズス菌株が定着した乳児の糞便では、残存のFL濃度が低く、並びに酢酸濃度が高くpHが低い値を示した。

FL利用ビフィズス菌の定着による腸内微生物生態系への影響

図5. FL利用ビフィズス菌の定着による腸内微生物生態系への影響

FL利用ビフィズス菌が優勢の乳児(B1グループ)、FL非利用ビフィズス菌が優勢の乳児(B2グループ)、大腸菌群が優勢の乳児(Eグループ)の比較をボックスプロットで表した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。

今後の展開

前述したように、乳児期の腸内フローラ構成が成長後の個体の生理機能に大きな影響を及ぼすことが報告されている。これまでの研究から、多くの乳児の腸管内では、ビフィズス菌が最優勢菌となる腸内フローラが形成されることが明らかになっている。しかし、ビフィズス菌優勢の腸内フローラ形成の法則性やその形成機構は十分に明らかとはなっていなかった。

今回の研究により、乳児期の腸内フローラは、Staphylococcaceae、Enterobacteriaceae、Bifidobacteriaceaeのいずれかが最優勢なフローラが形成されていること、ビフィズス菌優勢の腸内フローラ構成に不可逆的に変化すること、その移行時期は乳児によって異なることが明らかになった。また、ビフィズス菌のHMO利用性が、糞便中のビフィズス菌の占有率と酢酸および残存オリゴ糖濃度、pH、大腸菌群占有率に大きな影響を及ぼしていることも明らかになった。

さらにHMOの主要な構成成分であるFLの利用にあたり、新たに見いだされたABC輸送体が重要な役割を果たしていることが分かった。新たに同定されたABC輸送体を保有するビフィズス菌株が定着した乳児では、FL利用性ビフィズス菌のHMO代謝により、腸内のビフィズス菌占有率が上昇する結果、酢酸など有機酸生成が高まり、腸管内のpHが低下したと考えられる。

これらの腸内環境の変化がEnterobacteriaceae占有率に影響を及ぼしていることが予想される。すなわち、今回の研究で見いだされたビフィズス菌が保有するABC輸送体は、乳児とビフィズス菌の共生関係構築のために重要な因子であることが示された。

用語説明

[用語1] 腸内フローラ : 様々な生物の腸内には、多種多様な微生物が群集を形成して棲息しており、この腸内微生物群集のことを、腸内フローラ(flora)とも呼ぶ。成人のヒト腸内の場合、数百種以上の種からなる数十兆個以上の細胞が集まり、群集を形成していると見積もられている。

[用語2] フコシルラクトース : 分子式C18H32O15で表される、ヒトの母乳に最も多く含まれているオリゴ糖の一種。

[用語3] ABC輸送体 : 複数のタンパク質が集まって構成される構造体であり、細胞膜等の生体膜に存在し、生体膜の内と外とで特定の基質の輸送をATPを消費して行う。

論文情報

論文タイトル :
A key genetic factor for fucosyllactose utilization affects infant gut microbiota development
著者 :
Takahiro Matsuki, Kana Yahagi, Hiroshi Mori, Hoshitaka Matsumoto, Taeko Hara, Saya Tajima, Eishin Ogawa, Hiroko Kodama, Kazuya Yamamoto, Takuji Yamada, Satoshi Matsumoto, & Ken Kurokawa
掲載誌 :
Nature Communications
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
助教 森宙史
特任教授 黒川顕

Email : hmori@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3591

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第28回大岡山蔵前ゼミ「社会技術システムの安全について考える」開催報告

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5月26日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館にて、第28回大岡山蔵前ゼミが開催されました。

大岡山蔵前ゼミは、東工大の全学同窓会である蔵前工業会の東京支部が主催する、卒業生と現役学生の交流の場です。日本社会や経済をリードしている先輩を講師に迎え、これから社会に出る大学生・大学院生に、講演会と懇親会をとおして、様々な情報提供、意見交換を行っています。

原発事故について語る吉澤氏
原発事故について語る吉澤氏

今回は「社会技術システムの安全について考える―福島第一原子力発電所の事故体験と組織レジリエンス―」と題し、原燃輸送株式会社の吉澤厚文代表取締役社長(元 東京電力福島第一原子力発電所ユニット所長、1981年工学部機械物理学科卒業、1983年大学院理工学研究科原子核工学専攻修士課程修了)を講師に迎え、学生61名、社会人147名(教職員10名、一般22名を含む)、計208名という大変多くの方々の参加を得ました。

講演者の吉澤氏

講演者の吉澤氏

吉澤氏のお話に聞き入る参加者

吉澤氏のお話に聞き入る参加者

吉澤氏は、東日本大震災のとき、福島第一原発のユニット所長として所員の安全を確保しながらプラント事故に対応するという、非常に困難な立場に置かれました。「事故現場で五感全てを通して感じたことを、映像だけ見ている人たちには伝えることはできない」「事故に直面したときは、吐き気を覚える恐怖を感じた」など、まさしくその様子をテレビ画面で見ていただろう参加者にとって衝撃的な話が続きました。そのような現場で、命がけで作業にあたった人々、またそれを指揮した人々の実体験に基づいた話に、多くの参加者が感銘を受けました。

また、吉澤氏は事故の経験を冷静な目で分析し、安全についての新しい考え方に言及されました。従来、安全とは事故を起こさないことであり、ミスを犯す可能性がある「人」もリスクの1つであると認識されてきたが、事故をゼロにすることはできていない。それならば、事故が起きたときに臨機応変に対処し、社会技術システムの継続を達成するレジリエンス(回復力)がより重要であり、そのような対処は、「人」によってのみ可能である、と述べました。

講演会後の懇親会にも多くの参加があり、吉澤氏への質問だけでなく、同窓生同士あるいは同窓生と在学生との交流で大いに盛り上がりました。

高校生向けレクチャーシアター講義「魔法教室2016」開催

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5月21日、東工大の新名所、最新鋭の装置を完備したレクチャーシアターにて、「魔法教室2016」が開催されました。

ホームカミングデイに連動して開催する本イベントも今年で2年目となりました。事前予約制にもかかわらず、熱心な高校生たちが開演の1時間前から待機し、開始時刻には高校生・高校教員・保護者・一般参加の方々で200名の席がほぼ埋まりました。

冒頭に丸山俊夫理事・副学長による挨拶がありました。「なぜ」と必ず問うことと自ら問題を「つくる」ことが大切であるという呼びかけのあと、いよいよレクチャー(講義)が始まりました。

レクチャーその1は、細谷暁夫特命教授による「GPSに欠かせない相対論」です。

GPS(Global Positioning System)とはどんなものか、どんなところに使われているかを問いかけて、位置情報を得るものであるとの認識を共有します。会場とテンポ良くやりとりしながら、よく知られているカーナビゲーションだけでなく、地震でどれくらい地面が動くかといった研究にもGPSを活用していることを示した迫力ある画像を次々に見せつつ、具体的に理解を深めました。

細谷曉夫特命教授
細谷曉夫特命教授

講演の様子
講演の様子

続いて、原理の説明です。宇宙には常時6機のGPS衛星が飛んでいますが、衛星が積んでいるのは時計だけで、GPSは「時間を測って距離を知る」仕組みであると解説しました。相対論の現象である「運動している時計は遅れる」また「重いものの周りでは時間が遅く流れる」ことから、高速で地球上を飛んでいる衛星が測る時刻と、地上で人々が所持している受信機の時刻はズレが生じることになりますが、それでは正しい距離が測れないため正確な位置情報が得られずGPSは機能しなくなります。そのズレを修正し、機能させるために、相対論補正を行うことが不可欠であるとの説明がありました。

「GPSは相対論が世の中に役立っている唯一の事例です!」というまとめの言葉で、あのアインシュタインの物理学が、ぐっと身近に感じられました。

相対論(相対性理論)
理論物理学者アルベルト・アインシュタインが1905年から発表した時空における物理現象を説明する理論で、特殊相対論と一般相対論とに分かれる。この理論の現象としては以下のようなものがあげられる。
  • 光の速度よりも速く動けるものはない(特殊)
  • 光の速度に近い速さで動くものは、縮んで見える(特殊)
  • 光の速度に近い速さで動くものは、時間が遅く流れる(特殊)
  • 重いもの(質量の大きいもの)の周りでは、時間は遅く流れる(一般)
  • 重いものの周りでは、空間が歪む(一般)
  • 重さとエネルギーは同じ(特殊)

戸倉和特命教授
戸倉和特命教授

レクチャーその2は、戸倉和特命教授による「お化粧は好きですか?(理工系の化粧って一体...護って魅せる?)」です。

「事件が起きますよ」と、導入から大きなポリ袋を二酸化炭素で満たし、そのなかに空気でふくらませた風船を入れたものが用意されました。

風船がどうなるのか横目ではらはらと見守りながら別の実験が始まりました。お化粧の目的には機能を付加することがあると定義づけ、まずは顕微鏡で身近なものを拡大して見てみます。服の繊維を見てみると規則的で神秘的なことに気がつき、カラー印刷を見ると3つの色の点の濃淡で絵柄ができていることがよく分かりました。ミクロの世界での思いがけない発見への興味は尽きないまま、また別の実験に移ります。

次はビール瓶2本を用意し、会場から助手を募ってそれぞれの重さを量りました。2本を比べると片方が137グラムも軽いという事実に対して、セラミックス・コーティングというお化粧技術によって軽量化が実現されているためと解説がありました。

続けてお茶のペットボトル2本を用意し、高温用と通常用の違いについて調べます。実際に押してみながら、高温用の方が三層構造で、より酸素が通りにくく工夫されていることがわかりました。しかし、いくら密閉していても、だんだん酸素が中に入り込んで酸化してしまうことがあり、それは賞味期限切れのお茶の色が変色していておいしくなさそうなことから実感できました。

炭酸ガスによる風船の実験
炭酸ガスによる風船の実験

ビール瓶の重さの比較
ビール瓶の重さの比較

突然「ボン!」と音がして、レクチャーの最初に用意した風船を見てみると、はじけるように割れていました。風船は結んで密閉していたにもかかわらず徐々に二酸化炭素が入り込んで膨らんでいったことで、天然ゴムという素材が炭酸ガスを通しやすい性質をもつことがこの実験からわかりました。

これらの実験から、素材に工夫をして美化・軽量化したり、酸化による劣化を防いだり、機能を付加して我々の生活を向上させている科学技術について理解を深めることができました。

熱心に聞き入る参加者
熱心に聞き入る参加者

最後に、岡田清理事・副学長が、高校生、なかでも女子高校生にむけて東工大のおもしろさをしっかりと強調して、レクチャーは終了しました。

アンケート結果

理論と実験というバランスの良い2本のレクチャーを高校生たちが存分に楽しんだことは、アンケート結果(165名回答)からも分かります。

レクチャーの評価

雰囲気や居心地は?

アンケートの自由記述欄より

  • 量子力学に興味があります。次回はそんな話もお願いします!
  • 身近なものをいろいろ探っていくことができ、学べてとても楽しかったです。今回の講義で東工大への関心が高まりました。
  • 実験を生で見ることができるのは珍しかったです。
  • 来年この大学に通えるよう頑張ります!!

レクチャー内容についての感想や質問も多数ありましたが、その中から1つだけ選んで細谷特命教授が答えます。

  • Q: 「時刻を正しく直す」ことは分かりましたが、どこの地点の時計を基準にして合わせるのですか。

  • A: 実は、GPS衛星が搭載している原子時計たちの示す時刻の平均値に合わせているそうです。その方が、地上局の原子時計一個に合わせる通信をするより精度が高いという実際的事情によるようです。したがって、うるう秒などを無視しています。GPSの運用のためには世界時間と一致している必要がないようです。

お問い合わせ先

国際フロンティア担当

Email : kokusais@jim.titech.ac.jp

障害を理由とする差別の解消の推進に関する教職員対応要領について

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障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)に基づき、また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)に即して、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する教職員対応要領」を策定しましたので、次のとおり公表します。

また、対応要領第8条に基づき、障害を理由とする差別に関する相談窓口を以下のとおり設けています。

障害を理由とする差別に関する相談窓口

充放電しているリチウム電池の内部挙動の解析に成功―中性子線を用い非破壊かつリアルタイム観測により実現―

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要点

  • 蓄電池特性を左右するイオンの動きなどのリアルタイム観測手法を開発
  • 実用蓄電池の充放電時に現れる電池内部の非平衡状態の反応を世界で初めて直接観測
  • 大型蓄電池の反応・劣化挙動の解明に威力

概要

東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループは、実際に充放電しているリチウムイオン電池の内部で起こる不均一かつ非平衡状態で進行する材料の複雑な構造変化を原子レベルで解析することに成功した。

中性子線を用いて、非破壊かつリアルタイムに観測し、そのデータを自動解析するシステムを開発した。刻一刻と変化する電池反応を観測し、解明できる手法の開発は画期的である。蓄電池の信頼性や安全性に関する詳細な情報が容易に得られるため、リチウムイオン電池のさらなる高性能化だけでなく、全固体電池などの次世代蓄電池開発にも大きく貢献すると期待される。

研究成果は6月30日(現地時間)発行の英国科学誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」に掲載された。

共同研究グループ

この研究成果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究により得られた。研究グループは東京工業大学の田港聡研究員、菅野了次教授、高エネルギー加速器研究機構の米村雅雄特別准教授、神山崇教授、京都大学の森一広准教授、福永俊晴教授、荒井創特定教授、右京良雄特定教授、内本喜晴教授、小久見善八特任教授らで構成した。

研究成果

本共同研究グループは、リチウム二次電池の充放電過程における電池内部の電気化学反応およびその反応に対応した電極材料の構造変化を観測する新たなシステムと、その解析手法を開発した。蓄電池の反応をリアルタイムで観測するため、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING プロジェクト[用語1]:プロジェクトリーダー小久見特任教授)に基づいて開発され、大強度陽子加速器施設 J-PARC[用語2]に設置された、特殊環境中性子回折計(SPICA : BL09[用語3])(図1A)を用いた。新たに開発したシステムはリチウムイオン電池の特性を決める鍵となるリチウムイオンの挙動を中性子線により直接観測できることが特徴である。

最も一般的な18650型円筒リチウムイオン電池[用語4]を用いて、異なる充放電レートの充放電過程をリアルタイムに観測し、不均一かつ非平衡に進行する電池反応を初めて明らかにした。これまでの分析手法とは異なり、電池特性を左右するリチウムイオンの動きを非破壊かつ実動作環境下で定性・定量的に分析できる。観測システムはリチウムや水素といった軽元素も敏感に検知する。

開発したシステムを用い、リチウムイオン電池(図1C、D)に対する様々なレートでの充放電過程をリアルタイムに観測し(図1B)、不均一で非平衡状態な電極反応を検出した。充放電レートを0.05から2Cレート[用語5]で行いながら測定した電池内部の正極・負極電極合材料の結晶構造変化を図3に示す。

負極電極合材中では(1)高レートの反応では不均一に反応が進行し、充放電終了後に緩和過程が存在する(図3E)(2)電池反応に関与しない電極合材部分が出現する(図3B、C、D、E)(3)充電と放電とで反応機構が異なる(図4)(4)低レートの充放電時にのみ2L相が存在する―など充放電レートに依存して非平衡に反応が進行することなどを明らかにした。また正極電極合材中では充放電後に電池を分解して解析していた従来の報告とは異なり、放電時に使用される組成領域が高充放電レートでは変化することを明らかにした。

このように、同観測システムで採用したTime-Of-Flight法(TOF法=飛行時間法[用語6])を用いた中性子回折測定技術が、実電池中で起こる電池反応に関する情報を明確にとらえ、充放電中の非平衡状態の反応機構を理解するうえで優れた分析手段となることを明らかにした。

背景

リチウムイオン電池は1991年に小型電子機器用として利用が始まり、優れた安定性に加えて、高いエネルギー密度と出力特性を兼ね備えた電池として発展した。現在では電気自動車やハイブリッドの車載用蓄電池や、電力貯蔵用の定置型蓄電池としても利用されるようになった。リチウムイオン電池の発売から25年以上経過した現在も社会的なニーズは高く、利用方法の広がりに伴って、さらなる高エネルギー密度と高出力、長寿命、高信頼性が望まれている。

より一層の特性向上に向けたブレークスルーを引き起こすには、ブラックボックス化した蓄電池内部の充放電時の現象を実際に目に見えるようにするための新たな分析手段が必要である。電池反応を解明するための様々な解析技術の一つがモデル系電池[用語7]を用いた分析である。既存の分析手法をそのまま適用するこの手法では、電池そのものの形状を分析手法が適用できる環境に合わせる必要がある。しかし、実際に使用する電池とは異なる形状での解析は、実電池のものと一致しないため、実電池を用いた実際の使用環境下で電池反応が観測できる新たな分析手法の開発が熱望されていた。

研究の経緯

共同研究グループは、RISINGプロジェクトにおいて、非破壊で実動作環境下(オペランド[用語8])での分析手法の一つとして、中性子線を用いた測定・解析手法の開発を行った。実電池の形状を変化させず、実電池の動作環境に合わせて、分析手法を適用するものである。

中性子線は透過性が高い量子ビームであり、電池の金属容器の内部まで容易に到達し、金属容器内の電極材料の情報を得ることができる。中性子線を用いると、リチウムのような電子数の少ない軽元素であっても核散乱は弱くないため、その回折現象(中性子回折)により、電極に使われる材料比率と各材料を構成する原子配列、及び各原子の濃度(占有率)が得られる。そのため、リチウムイオン二次電池の材料研究には、中性子回折法は多く用いられている。

実電池の動作環境下の電池反応を観測するために、18650型円筒リチウムイオン電池を用いて0.05から2Cレートで充放電を行いながら中性子回折測定を行い、電池内部の正極・負極電極合材からの回折中性子を検出し、正極・負極の構造が充放電過程でどのように変化するかを観測した。

充放電レートによって、負極では不均一な電池反応が進行して、高レートでは反応に寄与しない相が発生すること、充電と放電で反応機構が違うことを示すとともに、正極での反応では、これまでの報告とは異なる反応機構を提案した。今回の観測システムでは、実用電池を用いたオペランド測定でも、電池反応を定性・定量的に解明することができることを初めて示した。

今後の展開

実電池の内部の材料の構造変化が、実際の充放電時にリアルタイムで観測できることが可能になったことは、充放電サイクルに伴う劣化挙動、長期保存時の経時変化、高温や低温での使用時の劣化挙動など、蓄電池の信頼性や安全性に関する詳細な情報が、実際に使用する電池を直接観測することで容易に得られることを示している。

リチウムイオン電池のみならず、現在、開発が進んでいる全固体電池やリチウム酸素電池、マグネシウム電池、リチウム硫黄電池、アニオン電池など、次世代の蓄電池の反応挙動を実電池に基づいて解明することが可能になる。リチウムイオン電池のさらなる高性能化に寄与できるとともに、次世代蓄電池の開発に大きく貢献すると期待できる。

実用蓄電池オペランド測定用中性子回折計(BL09 : 特殊環境中性子回折計、SPICA)の外観図(A)および、実験の概要図(B)
図1.
実用蓄電池オペランド測定用中性子回折計(BL09 : 特殊環境中性子回折計、SPICA)の外観図(A)および、実験の概要図(B)。オペランド測定は、非破壊のまま18650型円筒リチウムイオン電池(C)をSPICAの中心に設置し、電池に電気を流し充放電反応を進行させたまま、パルス中性子を照射し電池反応をリアルタイムに観測する。中性子は金属に覆われた蓄電池内部まで透過し、電極で散乱(回折)され、検出器に到達する。検出器に到達した中性子の時刻と角度をデータ処理すると、観測結果として回折図形が得られる。この回折図形には、18650型円筒電池の拡大図(D)に示すように、正極、負極、集電体、電池のケースからの固有の回折線が含まれる。これらの回折線の変化を解析することでリアルタイムな電池反応に伴うリチウムイオンを含むイオン(原子)の配列や濃度(占有率)の変化を解析できる。
リアルタイム観測により得られた充放電中の電極材料の構造解析例

図2 リアルタイム観測により得られた充放電中の電極材料の構造解析例

正負極材料、集電体、電池の外ケースの結晶構造を基に、リートベルト解析[用語9]を行い、それぞれの材料の存在比率と各材料を構成する原子配列とその濃度(占有率)を精密化した。観測値と計算値の差(観測値-計算値)が小さく、それらがよく一致しており、得られた構造情報の信頼性が高いといえる。

放電時の電極材料の相変化

図3 放電時の電極材料の相変化

放電時の電極材料の相変化。0.05(A)、0.1(B)、0.5(C)、1(D)、2(E)Cレートによる放電時のカーボン負極の00l反射の変化を示している。それぞれの図中に放電に伴う電圧変化も示している。グラファイト負極は、構造中のリチウムイオンの分布の違いで、ステージ構造と呼ばれる異なる面間隔の回折線を示す。0.1C以上の放電レートでは、放電中反応に寄与しないと考えられるStage 3Lの回折線が常に存在し、不均一な電池反応が進行することを示している。2Cレート(E)で放電した場合、Stage 4L相がStage 3Lに徐々に変化し、放電後に電池内部で緩和反応が進行する様子を観測した。高い電流が電極合材中で不均一なリチウムイオンの分布を生成すると考えられる。

放電時と充電時で異なる反応機構を示すグラファイト負極

図4 放電時と充電時で異なる反応機構を示すグラファイト負極

0.05Cレートの充電(A, C)と放電(B, D)によるグラファイト負極の00l反射の変化を充電(放電)時間に対して示している。充電放電ともに、Stage 2からStage 3の相変化が存在するが、放電時にだけStage 2後半にStage 2L相を経由してStage 3へ相変化が観測された。このように充電と放電においてグラファイト負極で反応機構が異なることを明らかにした。

用語説明

[用語1] 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト) : 京都大学及び産業技術総合研究所関西センターを拠点として、13大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して推進している。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同研究事業。RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteries の略。

[用語2] 大強度陽子加速器施設J-PARC : 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設し運用している大強度陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われている。

[用語3] 特殊環境中性子回折計SPICA(BL09) : 高エネルギー加速器研究機構は、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業の一環で、オペランド測定を主目的とした中性子回折計「特殊環境中性子回折計(SPICA:BL09)」を設計・開発し、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置した。回折計として高分解能と高強度の相反する性能を共存させるために、中性子源としてJ-PARCで開発された高分解能モデレータを利用し、SPICAを構成する光学デバイス、機器等をすべて専用に設計することで、高精度・高強度で粉末構造解析が行えるシステムとして完成させた。さらにオペランド測定のための専用の試料周辺環境と時分割測定のためのデータ集積システム等を備えた、電池研究に特化した仕様とした結果、SPICAは、世界唯一の蓄電池中性子ビームラインとして、蓄電池反応を原子レベルでリアルタイムに計測する研究に活用されてきた。

[用語4] 18650型円筒リチウムイオン電池 : リチウムイオン電池の規格の一つ。直径18 mm、長さ65 mmの外形を有した円筒型の電池で、正負極およびセパレータを捲回して円柱状に成形し、円筒型の外装ボディに挿入されたもの。

[用語5] Cレート : Cレートとは、所定の公称容量の電池を定電流放電して1時間で満放電することのできる電流値を示す。同じ公称容量の電池では、Cレートが大きくなると電流値は大きくなり、短時間で放電させることに対応する。一方Cレートが小さくなると電流値も小さくなり、長時間の放電をさせることに対応する。

[用語6] 飛行時間法(TOF法) : 陽子加速器により加速された陽子をターゲットに衝突させることで、パルス状の中性子が飛び出す。発生した中性子はエネルギーの違いに応じて速度が異なる。中性子が発生してから検出器に到達するまでに要する時間(飛行時間)と、中性子源~検出器の距離から中性子の波長が精密に測定できる。

[用語7] モデル系電池 : 実際に電池として、作動する一方で、性能を追求した仕様によって製作された電池ではなく、分析等の別の目的の達成のために理想的な形状に改造された試験用電池。

[用語8] オペランド測定 : オペランド測定は in situ で行う測定方法であるが、より限定された条件での測定を示す。 ex situin situ は、対義語として用いられる。ex situ 測定とは、測定のために、系を解体(分解)するなどにより、反応後に取り出された試料を測定するのに対して、in situ 測定は、系を非破壊のまま、そのままの状態もしくは、その場で測定することを指す。一方、オペランド測定では、非破壊かつ、特に「その系の動作環境下」で現象を測定する。

[用語9] リートベルト解析 : 粉末中性子回折データや粉末X線回折データの解析手法の一つ。測定した試料に含まれるであろう結晶相の構造モデルに基づく回折データの計算値と実測された回折データから、最小二乗法フィッティングにより結晶構造を精密化する手法。

論文情報

論文タイトル :
Real-time observations of lithium battery reactions—operando neutron diffraction analysis during practical operation
著者 :
Sou Taminato, Masao Yonemura, Shinya Shiotani, Takashi Kamiyama, Shuki Torii, Miki Nagao, Yoshihisa Ishikawa, Kazuhiro Mori, Toshiharu Fukunaga, Yohei Onodera, Takahiro Naka, Makoto Morishima, Yoshio Ukyo, Dyah Sulistyanintyas Adipranoto, Hajime Arai, Yoshiharu Uchimoto, Zempachi Ogumi, Kota Suzuki, Masaaki Hirayama and Ryoji Kanno
掲載誌 :
Scientific Reports 6, Article number: 28843 (2016)
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
教授 菅野了次

Email : kanno@echem.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5401

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
特別准教授 米村雅雄

Email : masao.yonemura@kek.jp
Tel : 029-284-4703 / Fax : 029-284-4899

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室報道グループリーダー 岡田 小枝子

Email : press@kek.jp
Tel : 029-879-6046 / Fax : 029-879-6049

J-PARCセンター 広報セクション

Email : pr-section@j-parc.jp
Tel : 029-284-4578 / Fax : 029-284-4571


幻の「マヨラナ粒子」の創発を磁性絶縁体中で捉える―電子スピンの分数化が室温まで生じていることを国際共同研究で実証―

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要点

  • 量子スピン液体を示す理論模型を大規模数値計算によって解析
  • 磁気ラマン散乱強度の温度変化を調べた結果、広い温度範囲において幻の「マヨラナ粒子」の創発を発見
  • 本研究で得られた計算結果が実験結果と非常に良い一致
  • これまでとは一線を画した新しい量子スピン液体の検証方法を提案

概要

東京工業大学 理学院の那須譲治助教と東京大学 大学院工学系研究科の求(もとめ)幸年教授は、ケンブリッジ大学のJohannes Knolle研究員、Dmitry Kovrizhin研究員、マックスプランク研究所のRoderich Moessner教授とともに、量子スピン液体[用語1]を示す理論模型に対して大規模数値計算を駆使することで、磁気ラマン散乱[用語2]強度の温度変化が、幻の「マヨラナ粒子[用語3]」を色濃く反映することを見出した。この結果は、磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンがより小さな単位へと分裂する「分数化」という現象が、広い温度領域にわたって生じていることを意味する。さらに、この理論計算の結果が、カナダと米国の共同研究によって得られていた磁性絶縁体の塩化ルテニウム[用語4]に対する実験結果と非常に良い一致を示すことを見出した。このことは、電子スピンの分数化によって創発[用語5]されたマヨラナ粒子が、現実の物質中で室温程度まで存在することを強く示唆するものである。本研究で提案する創発マヨラナ粒子による量子スピン液体の実証方法は、低温極限にのみ着目してきた従来のものとは一線を画すものであり、他の量子スピン液体への応用が期待される。また、この幻の粒子を追い求めてきた素粒子物理学や量子情報などの周辺分野にも大きな波及効果をもたらすものである。

本研究成果は7月4日発行の英国の科学雑誌「ネイチャー・フィジクス(Nature Physics)」電子版に掲載された。

研究成果

東京工業大学 理学院の那須譲治助教と東京大学 大学院工学系研究科の求幸年教授は、英国ケンブリッジ大学のJohannes Knolle研究員、Dmitry Kovrizhin研究員、ドイツマックスプランク研究所のRoderich Moessner教授と共同で、絶対零度で量子スピン液体を示すことが知られているキタエフ模型[用語6]と呼ばれる理論模型に対して量子モンテカルロ法[用語7]による大規模数値計算を適用し、磁気ラマン散乱強度の温度変化を詳細に調べた。その結果、幻の粒子といわれる「マヨラナ粒子」の創発を示すフェルミ粒子性を反映した振る舞いが広い温度範囲にわたって現れることを発見した。このマヨラナ粒子は、磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンが分裂する「分数化」と呼ばれる量子スピン液体特有の現象によって創発されるものである。通常の磁性絶縁体における磁気ラマン散乱強度の温度変化はボース粒子としての性質を反映することが知られていたが、本発見はこれまでにない全く新しい現象である。

本研究の最大の成果は、この数値計算の結果を実験結果と詳細に比較することで、電子スピンの分数化による創発マヨラナ粒子が、現実の物質中で、約-250℃から室温にわたる非常に広い温度範囲に存在することを示した点にある。この比較は、キタエフ模型で良く記述される磁性絶縁体のひとつとされる塩化ルテニウムに対して昨年4月にカナダと米国のグループによって報告された実験結果を用いて行われた(図1)。この比較を通じて、理論と実験が非常に良い一致を示すことだけでなく、この幅広い温度領域の磁気ラマン散乱が、光によるマヨラナ粒子の生成・消滅という単純な散乱プロセスによって理解できることを明らかにした(図2)。この結果は、塩化ルテニウムの磁性を担う基本構成要素は電子スピンそのものではなく、それらが量子力学的な相互作用によって分数化し創発されたマヨラナ粒子であること強く示唆するものである。

従来の量子スピン液体の探求のほとんどは、絶対零度(-273.15℃)およびそのごく近傍に現れる特異な性質を追い求めるものであった。本研究が示した、室温までの非常に幅広い温度領域に存在する創発マヨラナ粒子を通じた量子スピン液体の実証法は、これまでの研究とは一線を画すものである。また、マヨラナ粒子は、長年にわたって素粒子物理学の分野で注目され、最近では量子情報の分野でも盛んに研究されている幻の粒子である。本研究は、磁性絶縁体がこの幻の粒子の性質を研究する格好の舞台であることを示した点で、これらの周辺分野に大きな波及効果をもたらすものである。

磁気ラマン散乱強度の温度依存性。塩化ルテニウムに対する実験結果と本研究でキタエフ模型に対して得られた理論計算結果との比較を示している。
図1.
磁気ラマン散乱強度の温度依存性。塩化ルテニウムに対する実験結果と本研究でキタエフ模型に対して得られた理論計算結果との比較を示している。
磁気ラマン散乱によるマヨラナ粒子創発の概念図。光の散乱によって電子スピンが分数化したマヨラナ粒子を2つ生成する。この過程が散乱強度の温度変化に現れる。
図2.
磁気ラマン散乱によるマヨラナ粒子創発の概念図。光の散乱によって電子スピンが分数化したマヨラナ粒子を2つ生成する。この過程が散乱強度の温度変化に現れる。

背景

磁性絶縁体中の電子は原子核の周りに局在しており、電子が持つスピンの自由度に由来した磁気モーメントが磁性を支配している。すなわち、磁性絶縁体の基本構成要素は電子スピンである。一方、この世に存在するすべての基本粒子は、ボース粒子とフェルミ粒子[用語8]のどちらかに分類される。磁性絶縁体中の電子スピン集団の性質は、これまでボース粒子として記述されると考えられてきた。しかし、量子スピン液体という特殊な量子状態が実現した場合には、電子スピンが量子力学的な相互作用効果によって複数のフェルミ粒子に分裂する「分数化」と呼ばれる創発現象が起きることが理論的に予想されていた。特に、キタエフ模型と呼ばれる理論模型では、絶対零度において、電子スピンがフェルミ粒子である2種類のマヨラナ粒子に分数化することが知られていた。

こうした創発フェルミ粒子の存在を実験的に検証するために、これまで温度が非常に低いときの性質が精力的に調べられてきた。しかしながら、極低温では、物質中に内在する乱れの効果や原子核スピンの影響といった電子スピン以外の寄与が顕在化してしまう。そのため、電子スピンの分数化による創発現象を捉えるためには、これまでとは全く異なる視点からの研究が必要とされてきた。

研究の経緯

本研究は、日本、英国、ドイツの研究グループ間の共同研究である。元々日本の理論研究グループでは、量子スピン液体を示すキタエフ模型におけるさまざまな物理量の温度変化を研究してきた。一方、ヨーロッパの理論研究グループでは、絶対零度における磁気ラマン散乱の研究を行っていた。本研究成果は、これら2つの研究を融合して磁気ラマン散乱の温度変化の計算を行い、さらに実験との詳細な比較や創発マヨラナ粒子の新しい実証方法の提案へと発展させた画期的な国際共同研究によるものである。

今後の展開

1973年のフィリップ・アンダーソン[用語9]による量子スピン液体の理論的な提案以来、その実現可能性がおよそ半世紀にわたり現在まで精力的に議論されてきた。本研究は、量子スピン液体の検証方法として画期的な提案を行うものである。極低温から室温にわたる広い温度領域で創発マヨラナ粒子を捉えるという本研究の提案は、さまざまな物質や理論模型に応用が可能であるため、今後量子スピン液体の実証方法のひとつとして広く用いられていくことが期待される。

また、本研究が明らかにした創発マヨラナ粒子が室温まで存在するという可能性は、これまでボース粒子に基づいて議論されてきた磁性の常識を覆すものである。この発見は、フェルミ粒子の創発による新しい高温量子磁気現象の開拓につながる。

さらに、本研究で扱ったキタエフ模型は、元々はトポロジカルに保護された「堅牢な」量子計算[用語10]を実現するため提案された画期的な模型である。この量子計算では、キタエフ模型で実現する量子スピン液体の創発マヨラナ粒子が重要となるため、本研究の成果は、量子情報の分野にも大きなインパクトを与える。

用語説明

[用語1] 量子スピン液体 : 磁性絶縁体の示す磁気状態のひとつ。通常の磁性体は温度を下げるとある温度以下で電子スピンが整列するが、強い量子効果が存在するとこれが妨げられ、極低温まで電子スピンが整列しない新しい磁気状態が実現する。これが量子スピン液体である。

[用語2] ラマン散乱 : 物質に光を照射しその散乱光を調べることによって、物質の性質を調べる手法。物理学のみならず、化学、生物学、薬学等の分野においても広く用いられている。磁気ラマン散乱は、磁性体中の電子スピンの状態を調べるために用いるラマン散乱である。

[用語3] マヨラナ粒子 : 自身がその反粒子と同一な電気的に中性なフェルミ粒子。エットレ・マヨラナによって1937年に素粒子のひとつとして理論的に提案された。長年にわたる研究にもかかわらず、未だにその存在の確固たる証拠が見つかっていない幻の粒子である。素粒子物理学においてはニュートリノがマヨラナ粒子の候補と考えられ、精力的な研究が続けられている。

[用語4] 塩化ルテニウム(α-RuCl3 : 磁性を支配するルテニウムイオンが蜂の巣構造を形成する磁性絶縁体。ルテニウムイオンがもつ磁気モーメント間の相互作用は、相対論的な効果であるスピン軌道相互作用を反映した特殊な形をとり、キタエフ模型で良く記述されると考えられている。

[用語5] 創発(emergence) : 構成要素の持つ性質から単純に期待される性質を超えた新しい現象が系全体として現れること。構成要素間の相互作用が複雑な組織化を促すことで、このような単純な総和としては理解できない振る舞いを生み出す。

[用語6] キタエフ模型 : 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える理論模型。2006年にアレクセイ・キタエフによって、乱れに強いトポロジカル量子計算を実現しうる模型として提案された。その後の理論研究によって、現実に存在するある種の磁性絶縁体のよいモデルとなりうることが指摘された。

[用語7] 量子モンテカルロ法 : 膨大な数の計算を、それに主に寄与するものだけを確率的に抽出して行う効率的な計算方法。強い量子効果が存在する系では、この確率が負になることで計算が破綻する負符号問題がしばしば発生するが、キタエフ模型における計算では、負符号問題が生じないため高精度の計算が可能である。

[用語8] ボース粒子とフェルミ粒子 : この世の中を構成するすべての基本粒子は、その統計的な性質の違いにより、これら2種類の粒子に分類される。同じ量子力学的な状態にいくつでも入ることができる粒子をボース粒子と呼び、ひとつの量子状態にひとつしか入ることができない粒子をフェルミ粒子と呼ぶ。これら2種類の粒子の違いは、特に存在確率のエネルギー・温度依存性に顕著に現れる。

[用語9] フィリップ・アンダーソン : 理論物理学者。量子スピン液体の提唱をはじめとして、磁性不純物の理論、磁性体中のスピンの相互作用及び素励起の理論、アンダーソン局在、スピングラスの理論、アンダーソン・ヒッグス機構の提唱等、数多くの先駆的な理論提案を行っている。1977年に磁性体と無秩序系の電子構造の基礎理論的研究に対してノーベル物理学賞を受賞。

[用語10] トポロジカル量子計算 : 系が持つトポロジカルな性質を用いた誤りに強い(フォールトトレラント)という性質を持つ量子計算。キタエフ模型は、この計算を可能にする理論模型のひとつである。

論文情報

掲載誌 :
Nature Physics
論文タイトル :
Fermionic response from fractionalization in an insulating two-dimensional magnet
著者 :
J. Nasu, J. Knolle, D. L. Kovrizhin, Y. Motome, and R. Moessner
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系
助教 那須譲治

Email : nasu@phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2724 / Fax : 03-5734-2739

東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻
教授 求幸年

Email : motome@ap.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6815 / Fax : 03-5841-8897

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
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火星衛星フォボスとディモスの形成過程を解明―JAXA火星衛星サンプルリターン計画への期待高まる―

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要点

  • 火星衛星は地球の月の起源と同様に巨大天体衝突により誕生
  • 火星にかつて存在した巨大衛星がフォボスとディモスの形成に重要な役割
  • JAXAの火星衛星サンプルリターン計画で火星物質の持ち帰りに期待

概要

東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授、神戸大学の兵頭龍樹院生、ベルギー王立天文台のRosenblatt(ローゼンブラット)博士、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のCharnoz(シャノーズ)博士、レンヌ第1大学の研究者らの国際共同研究チームは、火星の衛星「フォボス」と「ディモス」が月の起源と同じように巨大天体衝突(ジャイアントインパクト)で形成可能なことを明らかにした。火星で起こった巨大天体衝突による円盤形成とその円盤から衛星が作られる過程をコンピュータシミュレーションによって解明した。

火星の北半球には天体衝突で作られたと考えられている太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)がある。この衝突で破片が飛び散り、火星の周囲に円盤が作られる。そして、その円盤物質が集まって巨大衛星が形成された。巨大衛星は円盤外縁部を自身の重力でかき混ぜることで、フォボスとディモスの形成を促進させた。その後、巨大衛星は火星の重力に引かれて落下して消失、現在観測される二つの衛星だけが生き残っていることがわかった。

さらに火星衛星が火星から飛散した物質を多量に含むことも明らかにした。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画検討している火星衛星サンプルリターン計画(2020年代打ち上げ予定)によって、火星衛星から火星物質を地球に持ち帰る可能性が高いことを意味する。研究成果は7月4日発行の英国科学誌「Nature Geoscience(ネイチャージオサイエンス)電子版」に掲載された。

火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

図1. 火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

研究の背景

火星の衛星フォボスとディモス(図1)は、火星の赤道面を円軌道で回っている。半径10km程度のフォボスとディモスは火星質量の約1000万分の1と非常に小さく、半径1,000kmを超える地球の巨大衛星(月)とは大きく異なっている。火星衛星のいびつな形状と表面スペクトルは、火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、その起源は長らく小惑星が火星の重力に捕獲されたものであると考えられていた(捕獲説)。

しかし、捕獲説の場合、現在の衛星の軌道(赤道面を円軌道で公転)を説明することは極めて困難であることが指摘されている。一方で、火星の北半球には太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)が存在し、巨大天体の衝突で形成されたことが分かっている。このことから、巨大天体衝突による火星衛星の形成(巨大天体衝突説)も提案されていたが、今までに具体的な形成過程を明らかにした研究はなく、火星衛星の存在は謎のままだった(図2)。

近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)。
図2.
近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)。図の作成者:黒川宏之(東京工業大学 地球生命研究所)

研究成果

火星への巨大天体衝突のイメージ
図3. 火星への巨大天体衝突のイメージ

東工大の玄田特任准教授らの国際共同研究チームはまず、ボレアレス平原を形成する巨大衝突過程の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを行った(図3)。その結果、巨大衝突による破片の大部分は火星近傍にばらまかれて厚い円盤が形成された。さらに少量の破片が“共回転半径”[用語1]の僅かに外側までばらかまれ、薄い円盤が形成された(図4(a))。さらに、この破片円盤の約半分は火星から、残りの半分は衝突天体の物質から作られることが分かった。

図4

次に、巨大衝突によって形成された円盤が、その後どのように進化するのかを明らかにするために、円盤進化の詳細な数値計算を行った。その結果、内側の重たい円盤からフォボス質量の約1,000倍の巨大衛星が短時間で形成され(図4(b))、残った内側の円盤との重力的な相互作用によって、より外側に移動し、その過程で円盤外縁部を重力的な効果でかき混ぜることで、外側に二つの小さな衛星(フォボスとディモス)の集積を促した(図4(c))。

その後、共回転半径の内側に存在する巨大衛星は火星重力(潮汐進化[用語2])によって引き戻され、火星と合体することで、現在観測されるフォボスとディモスのみが残ることが明らかになった(図4(d)、(e))。もし、内側に巨大衛星が形成しなかったら、円盤の外側には、フォボスやディモスよりも小さな衛星が5~10個できてしまい、現在の火星-衛星系とは異なる姿になっていただろう。

地球の月形成との比較

我々の太陽系の地球型惑星(水星・金星・地球・火星)で、地球と火星にのみ衛星が回っている。地球の月を作ったとされる衝突天体は、地球質量の10分の1程度と非常に大きく、衝突直後の地球は高速回転(自転周期4~5時間)する。その結果、地球の近い場所に共回転半径が位置することになり、月は共回転半径の外側で作られる。この場合、月は地球に落下することなく、地球による潮汐進化で地球から遠ざかっていく。

一方、火星衛星を作ったとされる衝突天体は火星質量の数%と小さめであったため、衝突後の火星は現在の自転周期(約24時間)となり、そのため、火星から遠い場所に共回転半径が位置することになり、内側で形成された巨大衛星は、フォボスとディモスの形成を促した後、火星による潮汐進化で火星に落下する。

このように衝突条件によって、月のような巨大な衛星が生き残る場合と、火星衛星のように非常に小さな衛星のみが生き残る場合とに運命が分かれたと考えられる。

今後の展開

今回の研究によって、火星衛星が巨大天体衝突によって形成可能であることがわかった。しかし、このことは必ずしも火星衛星が捕獲起源であることを否定していない。実際にどちらの説が正しいのかを決めるためには、火星衛星の物質を地球に持ち帰り、詳細に分析する必要がある。

現在日本では、JAXA/ISAS(宇宙科学研究所)が進める宇宙探査・戦略的中型計画において、火星衛星に探査機を送り、火星衛星の物質を地球に持ち帰る計画(火星サンプルリターン計画:MMX)が検討されている。2020年代の打ち上げを目指しており、近い将来、物質科学的に火星衛星の起源が明らかになるはずだ。

もし、今回の研究で示した巨大天体衝突説が正しければ、巨大天体衝突でばら撒かれた相当量の火星物質が火星衛星に含まれていることになり、米航空宇宙局(NASA)が計画しているような火星本体に探査機を着陸させて火星表面から物質を地球に持ち帰らなくても、火星衛星から火星物質を地球に持って帰ってくることが可能であることを意味している。

用語説明

[用語1] 共回転半径 : 中心惑星(火星)の自転速度と衛星の公転速度が一致する距離。

[用語2] 潮汐進化 : 中心惑星(火星)の変形により引き起こされる衛星の軌道進化。共回転半径の内側の衛星は、中心惑星に引きつけられる。反対に、共回転半径の外側の衛星は中心惑星から遠ざかる。

論文情報

論文タイトル :
Accretion of Phobos and Deimos in an extended debris disc stirred by transient moons
著者 :
Pascal Rosenblatt, Sébastien Charnoz, Kevin M. Dunseath, Mariko Terao-Dunseath, Antony Trinh, Ryuki Hyodo, Hidenori Genda and Stéven Toupin
掲載誌 :
Nature Geoscience
DOI :

東京工業大学 地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が平成24年に公募を実施した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。

「地球がどのように出来たのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化して来たのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、平成19年度から文部科学省の事業として開始されたもので、システム改革の導入等の自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

問い合わせ先

リリース全般に関するお問い合わせ

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本リリースの詳細に関するお問い合わせ

神戸大学大学院 理学研究科
兵頭龍樹

Email : ryukih@stu.kobe-u.ac.jp

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典

Email : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

研究に関する英語でのお問い合わせ

Institut de Physique du Globe de Paris
(パリ地球物理研究所)
Professor Sébastien Charnoz

Email : charnoz@ipgp.fr

TOKYO MX「モーニングCROSS」に工学院の鈴森康一教授が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授が、TOKYO MXの情報番組「モーニングCROSS」に出演します。鈴森教授が研究している「人工筋肉」について紹介されます。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

鈴森康一教授のコメント

ロボットやアシストスーツへの応用、東工大と岡山大学発のベンチャー企業である株式会社s-muscle(エスマスル)の人工筋肉の販売についてお話しました。

レポーターでユーチューバーのせきぐちあいみさんに実際にアシストスーツを着てもらい、楽しい取材となりました。皆様、ぜひご覧ください。

  • 番組名
    TOKYO MX「モーニングCROSS」
  • 放送予定日
    2016年7月7日(木)7:30~8:30
    (8時10分ごろに番組内で紹介予定)

Musculoskeletal Robot Driven by Multifilament Muscles(字幕:英語)

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

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将来にわたり情報漏えいの危険のない分散ストレージシステムの実証に成功―パスワードを分散し情報理論的に安全な認証方式を実現―

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ポイント

  • 分散ストレージシステムにおいて認証・伝送・保存のすべてに情報理論的安全性の担保を実証
  • パスワード認証を用いた情報理論的に安全な認証方式を実現
  • 将来どんなに計算機が発達しても情報漏えいの危険のない安全な分散ストレージを開発

概要

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)量子ICT先端開発センター及びセキュリティ基盤研究室と、国立大学法人東京工業大学(東工大、学長: 三島 良直)工学院 情報通信系の尾形わかは教授は共同で、分散ストレージシステムにおいて認証・伝送・保存の過程をすべて情報理論的安全性で担保されるシステムの実証実験に世界で初めて成功しました。

NICTが運用している量子鍵配送(QKD)[用語1]ネットワーク(名称: Tokyo QKD Network)を利用し、情報理論的に安全なデータ保存を可能とする分散ストレージプロトコルを実装しました。さらに、我々独自のプロトコルであり、一つのパスワードだけで情報理論的に安全なユーザ認証を可能とするパスワード分散プロトコルも併せて実装しました。

なお、この成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)(電子版:英国時間7月1日(金)午前10:00)に掲載されました。

本研究開発の一部は、総合科学技術・イノベーション会議により、制度設計された革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の支援を受けています。

背景

元NSA・CIA職員のスノーデン氏によるリーク情報[用語2]でも喧伝されていますが、インターネットで使用されている暗号の一部は、既に破られている可能性があります。現在インターネット上で広く使用されている暗号の多くは、計算機による解読に膨大な時間を必要とすることを安全性の根拠としています。一方で、年々計算機の能力は向上しており、その安全性は日々低下していく宿命にあります。長期の秘匿性を必要とする情報、例えば30年後に漏えいしても大きな問題となる国家安全保障情報やゲノム情報等もインターネットを行き来し、保管される時代において、計算機の性能向上に安全性を脅かされない、将来にわたり安全性を保証できる情報伝送・保存システム(分散ストレージシステム)を確立することが急務となっています。

今回の成果

情報理論的安全性を持つ分散ストレージ概念図
図1. 情報理論的安全性を持つ分散ストレージ概念図

今回、情報理論的に安全なデータ保存を可能とする秘密分散法の代表的な方式であるShamir(シャミア)の(k,n)しきい値秘密分散法[用語3]を用いた分散ネットワークをNICTが運用している量子鍵配送(QKD)ネットワーク上に実装し、さらに、NICT・東工大独自のプロトコルである利便性・操作性に優れたパスワード分散プロトコルを同時に実装し、分散ストレージに重要な3つのプロセスであるユーザ認証・伝送・保存のプロセスにおいて情報理論的に安全な分散システムの実証に成功しました。

QKDリンクは、二者間に安全に乱数を共有させることを可能とし、ワンタイムパッド暗号[用語4]と組み合わせることにより、情報理論的に安全に通信できるシステムです。NICTは、2010年から敷設ファイバ網上に構築された様々なQKDリンクの相互接続を可能とし、鍵リレー等を管理しながらネットワーク上の任意の二者に安全に鍵を供給できるQKD Platformというレイヤアーキテクチャを開発し、実際のQKDネットワークを東京圏でTokyo QKD Networkとして運用しています。

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法は、情報理論的に安全にデータ保管を可能とするプロトコルとして知られており、この二つを組み合わせることにより、将来にわたり情報漏えいのない安全な分散ストレージを実現することができます。

一方、データを保存・復元する際のユーザ認証において情報理論的な安全性を満たし、かつ利便性・操作性に優れた方式は知られていませんでした。例えばWegman-Carter認証[用語5]方式は、安全にユーザ認証を可能としますが、大量の鍵を個人で管理する必要があり、専用のデバイスを必要とします。しかしながら、このことは鍵管理デバイスの紛失や鍵データの複製という危険性があることを意味し、デバイス管理を個人の責任において行わなければならないという不便さを伴います。

そこで、我々は一つのパスワードを用いて、情報理論的に安全なユーザ認証方式を新たに開発しました。通常のパスワード認証では計算量的な安全性しかなく、強力な計算機を用いればパスワードを推定される可能性がありました。それに対し、パスワード分散という新しいプロトコルを導入し、データを保存する本人は一つのパスワードを覚えているだけで、将来にわたり安全に認証できる方式を開発しました(図2参照)。

この方式実現には、通常の秘密データの分散と比較して、10倍以上のデータをストレージサーバ間で通信する必要があり、それに伴い、信頼性が高く高度に設計されたQKDネットワークが必須となります。今回我々は、分散ストレージを構成する3つのプロセス(ユーザ認証・伝送・保存)において情報理論的に安全なシステムを東京圏に敷設されたファイバ網上のQKDネットワークを用いて実証に成功しました。

Tokyo QKD Network上に構築された分散ストレージシステム

図2. Tokyo QKD Network上に構築された分散ストレージシステム

STS(storage server):ストレージサーバ、KMS(key management server):鍵管理サーバKMA(key management agent):鍵管理エージェント、KSA(key supply agent):鍵供給エージェント

今後の展望

今後は、さらに、分散ストレージの処理能力の向上を図り、より大量のデータを高速に処理できるシステムにするとともに、ネットワークの可用性を長期にわたり検証することで、実利用に耐え得るシステムの開発を進めていきます。また、本システムを用いた安全なデータ中継等の新しい応用の開発を進めていきます。

今回の実験で使われている技術

量子鍵配送(QKD)を用いた完全秘匿通信(量子暗号):
QKDによる暗号鍵の共有と、それを用いたワンタイムパッド暗号化を行うことにより、完全秘匿通信が可能になる。

量子鍵配送を用いた完全秘匿通信の概要

図3. 量子鍵配送を用いた完全秘匿通信の概要

信頼できる鍵中継ノード:
QKDシステムの信号媒体が単一光子であり、ファイバ内の損失で容易に消失してしまうこと及び単一光子検出を行う技術が非常に難しいことから、現在のQKDシステムの性能は、距離50kmで数百kbps程度でしかない。鍵を共有する距離を伸張するためには、50kmごとに秘密が漏えいすることのない中継ノードを設置して鍵をリレーする方法がある。この堅牢な安全性を持つ中継局のことを信頼できる中継ノードと呼称する。例えばA-B間のQKDリンクで生成した鍵をK1、B-C間QKD装置で生成した鍵をK2とする。A-C間で鍵を共有するにはBから排他的論理和(K1⊕K2)を古典情報としてCに送る。CではK2を知っているのでK1⊕K2⊕K2=K1となり、A-C間で鍵K1を共有できる。

QKDシステム内の鍵管理のためのレイヤ構造(図2参照):
QKDにより生成された暗号鍵は、物理的に厳重に管理された場所に配置され、上位の鍵管理レイヤの鍵管理エージェントに吸い上げられる。鍵管理エージェント(Key management agent: KMA)は、暗号鍵と各リンクの鍵の量を常に把握し、鍵の量やリンクの状況を、更にその上の鍵管理サーバ(Key management server: KMS)に知らせる。鍵供給エージェント(Key supply agent: KSA)は使用アプリケーションに合わせ、QKDネットワークの任意の2点間に鍵を供給する。何時・何のアプリケーションに鍵を供給したかという情報は鍵管理サーバへ知らせる。

用語説明

[用語1] 量子鍵配送(QKD): Quantum Key Distribution : 量子鍵配送では、送信者が光子を変調(情報を付加)して伝送し、受信者は届いた光子1個1個の状態を検出し、盗聴の可能性のあるビットを排除(いわゆる鍵蒸留)して、絶対安全な暗号鍵(暗号化のための乱数列)を送受信者間で共有する。変調を施された光子レベルの信号は、測定操作をすると必ずその痕跡が残り、この原理を利用して盗聴を見破る。

[用語2] スノーデン氏によるリーク情報 : 日本語による解説記事

[用語3] Shamir(シャミア)の(k,n)しきい値秘密分散法 : (k,n)しきい値秘密分散法では、最初に、秘密情報S(整数)の保有者がSからn個のシェアと呼ばれる値を生成する。
次に、秘密保有者は、シェア保有者(1~n)に各シェアを秘密裏に渡す。秘密保有者は、この後、秘密情報を消去する。
秘密情報の復元には、k人のシェア保有者が協力してk個のシェアを収集し、所定の計算をすることにより、秘密データSを復元できる。このときkをしきい値と定義する。
代表的な(k,n)しきい値法であるShamirの(k,n)しきい値秘密分散法は、以下のように構成される。

分散:定数項を秘密情報Sとするランダムなk-1次多項式
数式1
を生成する。ここで、ak-1,...,a1はランダムな整数であり、a0が秘密データSである。
シェア保有者の識別子をiとしたとき、シェア保有者にはシェアとして(i,f(i))を配布する。
復元時、k人のシェア保有者が(i,f(i))を持ち寄ることにより、a0=Sを求める。
秘密情報Sの復元は、下記の式に従って行う。復元に協力するk人のシェア保有者の識別子を{i1,...,ik}とする。このとき、各シェア保有者の保有するシェアについて、
数式2
が成り立つ。ここで、(i1,f(i1)),...,(ik,f(ik))が与えられれば、未知変数をak-1,...,a0のk個とするk変数1次方程式がk個与えられる。したがって、この連立方程式より、すべての未知変数を求めることが可能であり、秘密情報Sを復元できる。
実際に秘密情報を復元する際には、ラグランジュ補間が利用される。
下記は、(3,4)の例である。2次方程式中の3つの変数を確定するために、3組以上の(i,f(i))があれば、秘密データSを復元できる。

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法

[用語4] ワンタイムパッド暗号化 : 送信する情報(平文)のデジタルデータと同じ長さの真性乱数を暗号鍵として用意し、はぎ取り式メモ(パッド)のように1回ごとに使い捨てる暗号化方式。異なる平文ごとに、異なる暗号鍵を使う。平文と暗号鍵の排他的論理和によって暗号文を生成して伝送し、受信側で再び暗号文と暗号鍵の排他的論理和によって平文を復号する。この暗号化方式は、どんなに高い計算能力を持つ盗聴者であっても、暗号文から平文を永遠に解読できないことが証明されている最も安全で強固な暗号方式である。

[用語5] Wegman-Carter認証 : 最後にニ者間で通信した内容を記録し、事前に共有している鍵を用いてダイジェストを作成する。次に、通信を開始する際に、お互いのダイジェストを送り合い、これが正しいことを確認することにより、相互認証を行う。認証ごとに新しい鍵を使用する。

論文情報

論文タイトル :
Unbreakable distributed storage with quantum key distribution network and password-authenticated secret sharing
著者 :
Mikio Fujiwara, Atsushi Waseda, Ryo Nojima, Shiho Moriai, Wakaha Ogata, and Masahide Sasaki
掲載誌 :
Scientific Reports(Nature Publishing Group)
DOI :

各機関の役割分担

  • NICT:プロトコル提案・証明と実証実験
  • 東工大:プロトコル安全性証明

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

NICT 未来ICT研究所 量子ICT先端開発センター
藤原幹生

Email : fujiwara@nict.go.jp
Tel : 042-327-7552

東京工業大学 工学院 情報通信系
教授 尾形わかは

Email : ogata.w.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3500

取材申し込み先

NICT 広報部 報道室

Email : publicity@nict.go.jp
Tel : 042-327-6923 / Fax : 042-327-7587

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

井田茂教授がNHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」に出演

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地球生命研究所の井田茂教授が、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」に出演します。

井田茂教授
井田茂教授

井田茂教授のコメント

この13回にわたる連続講座では、太陽系外の惑星(系外惑星)の研究の黎明から発展の流れを、私の研究のキャリアと重ねあわせ、各国の研究者の人間模様を織り交ぜながら、時系列に沿って語りました。

拙書『異形の惑星』(NHK出版)、『スーパーアース』(PHP出版)の記述を中心に、『地球外生命』(岩波新書)の要素を加えています。

系外惑星研究が到達した、惑星系の一般的かつ鳥瞰的な描像については、別書を出版予定です。

  • 番組名
    NHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」
  • 放送予定日
    毎週金曜 20:30~21:00(全13回)
    2016年7月8日、15日、22日、29日、8月5日、12日、19日、26日、9月2日、9日、16日、23日、30日

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

大学の業務運営に貢献した職員を表彰

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6月16日、東京工業大学大岡山キャンパス本館において、平成28年度国立大学法人東京工業大学職務表彰式が行われました。この表彰は、事務職員及び技術職員を対象として、職務上の功績があった職員を表彰し、職員の勤労等に報いるとともに、他の職員の勤労意欲を高め、大学の発展に寄与することを目的として行われているものです。

学長による祝辞

学長による祝辞

今年度は、職務の遂行にあたり大学の業務運営に貢献し、成績顕著と認められた職員19名が選ばれ、表彰式では役員および所属部課長の列席のもと、17名の出席者に対して三島学長から表彰状が授与されました。

今回表彰された職員は次のとおりです。

職務表彰(17名)

推薦部局
所属
職名
氏名
推薦理由
総務部
企画・評価課
総合企画グループ
グループ長
佐藤雅志
「大学改革の推進にあたって、抜群に努力し、多大なる貢献」
人事課
人事企画グループ
グループ長
藤本完
「学院化に伴う体制整備構築に向けた新規業務への貢献」
財務部
主計課
予算グループ
グループ長
岡田貴裕
「新たな教育・研究改革に向けた予算配分の見直し」
経理課
運用・支出グループ
主任
保坂義則
「自己収入(受取利息)の獲得に貢献」
国際部
国際連携課
企画・調整グループ
主任
柳澤由乃
「海外機関等との調整による学長表敬訪問実施への多大なる貢献」
留学生交流課
交流推進グループ
スタッフ
堀有美子
「多種多様な外国人留学生受入れプログラムの運用マニュアルの整備」
学務部
教務課
専門職
(教育革新事業担当)
森田英夫
「教職協働による教育革新センターの立上げ及び円滑運営」
教務課
学務グループ
グループ長
黒田忍
「教育改革に伴う新教育システムの具体化」
学生支援課
経済支援グループ
主査
有山智子
「学生の経済支援業務における貢献」
研究推進部
研究資金管理課
受託研究契約グループ
スタッフ
森口信彦
「政府系受託研究資金の受入から報告、確定検査における貢献」
産学連携課
共同研究グループ
スタッフ
「年々増加する共同研究の受入れ業務等を着実に遂行」
施設運営部
施設総合企画課
企画・計画グループ
グループ長
樋口豊
「スペースチャージ導入に向けた具体的な制度の提案」
すずかけ台地区事務部
総務課
生命理工学院事務グループ
グループ長
五十嵐治
「生命理工学院創設他、初めての業務に多大な貢献をした。」
学務課
教務グループ
主査
曽和美気子
「教育改革ですずかけ台教務担当の中心的な役割を果たした。」
技術部
情報基盤支援部門
技術職員
岸本幸一
「次世代型セキュリティ機器の検証/導入/環境構築に関する顕著な貢献」
すずかけ台分析部門
技術職員
鈴木元也
「すずかけ台分析部門への貢献と学内外への研究支援」
安全管理・放射線部門
技術専門員
登坂健一
「広領域線質放射線照射実験(ペレトロン加速器)の運転への貢献」

業務改善(2名)

所属
職名
氏名
改善計画
国際部
国際事業課
国際基盤グループ
スタッフ
出口啓介
「国際交流会館のサービス(コンビニ支払)にかかわるインフラ整備」
すずかけ台地区事務部
会計課
調達グループ
グループ長
西村圭司
「発注事務の集約」

表彰された方々と学長らとの記念撮影
表彰された方々と学長らとの記念撮影

TAIST学生交流プログラム タイで組込システムの設計・実装に挑戦

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2015年度から、TAIST-Tokyo Tech(以下、TAIST(タイスト))を活用したタイ国内で行われる学生交流プログラム「TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program」が始まり、初回、9月下旬以降に行われた自動車工学コースに加え、組込情報システムコースが2月下旬から3月下旬のほぼ1ヵ月にわたり実施されました。東工大からは学生4名が派遣され、組込システムについての実習・実験科目を受講し、実際にグループワークで組込システムの設計・実装に挑戦しました。

「組込システムのソフトウェア設計」の実習講義

学生たちは現地到着後、翌朝9時から「組込システムのためのソフトウェア設計」に関する講義・実習科目の授業に出席しました。授業は、昼食をはさんで16時過ぎまで続きました。TAISTの講師陣の配慮で実習授業の中にグループでの自由討論の時間が設けられ、学生4人は初日から自然とクラスに溶け込むことができ、東工大とは違う環境の中で大変充実した時間を過ごしました。

講義と実習の風景1

講義と実習の風景2

講義と実習の風景

グループワークで組込システムを設計・実装

講義・実習は、3週間の間に合計10回行われました。初心者向けのマイコンボードの組込みから始まり、それを複数接続してデータ交換を行ったり、データセンターに見立てたパソコンに接続したりして、より高度なシステムを構築していきました。それが終わると、グループワークで各自が提案した組込システムを1週間程度で設計・実装しました。

マイコンボード:小型のコンピュータ基板のこと

国際会議でのデモ展示・ポスター発表

国際会議での発表風景1

派遣学生4名はそれぞれ別々のグループに分かれて、組込システムのアイデアや実装方法などについて討論し、役割分担を決めた後、3月下旬にバンコクで開催された国際会議「ICICTES2016」(組込システムのための情報通信技術に関する国際会議)での成果発表に向けて実装・ポスター発表の準備を進めました。その結果、参加した4名の内1名の所属するグループが、優秀なチームに与えられる賞を受賞しました。

国際会議での発表風景2

国際会議での発表風景3

国際会議での発表風景

プログラムを終えて~参加学生の声

  • 英語でコミュニケーションをとることの重要性が身にしみてわかりました。
  • グループワークにおいてより積極性が必要だと感じました。
  • 日本人以外の友達ができて、自分の世界が広がりました。
  • 様々な体験ができて充実した時間が過ごせました。
  • 日本と異なる習慣や辛い食事に当初驚くこともありましたが、寮生活だったこともあり全般的に生活についてはそれほど困ることはありませんでした。
  • 言葉に関しては不安もあったが、行ってしまうとなんとかなりました。

本プログラムは、今後も継続して実施していく予定です。教育改革後の海外体験の1つとして、より多くの学生が関心を持って参加してくれることを期待しています。

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

Email : taist@jim.titech.ac.jp


「JCHM第4回シンポジウム―日本人腸内環境の全容解明と産業応用プラットフォーム―」を実施

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6月8日、大岡山キャンパス百年記念館にて、「JCHM第4回シンポジウム―日本人腸内環境の全容解明と産業応用プラットフォーム―」が開催されました。

JCHMとは

JCHMは、日本ヒト共生菌叢研究協会(Japanese Consortium for Human Microbiome)の略称です。ヒトの腸内には 1,000種100兆個体の微生物が共生していると言われ、 それらの腸内細菌の乱れは多くの疾病に関わっている事が知られています。 欧米では腸内細菌解析の重要性が早くから認識され、 大型予算が割り当てられ多くの研究者が携わっていることから、 日本においても日本人腸内環境の全容解明は急務と言えます。 そこで、東京工業大学は日本人腸内環境の全容解明をテーマに掲げ、 日本人腸内微生物データベース構築による「日本人固有の腸内環境及び腸内代謝系の発見」と 「疾病マーカーの発見」を目指したプロジェクト活動を推進しています。

JCHMは、当研究に関心を持つ関係機関・団体・企業との連携によるコンソーシアムです。本学生命理工学院 生命理工学系outerの山田拓司准教授が代表を務めています。

JCHM第4回シンポジウム

昨年度の活動報告をする山田拓司准教授
昨年度の活動報告をする山田拓司准教授

4回目となる今回は、腸内環境を中心に研究とその応用、最新の成果と今後の展望について、学外の先生方に講演していただきました。学内外含め110名の研究者、協賛企業、学生が参加し会場は満席となりました。

シンポジウムに先立ち午前中には、菌叢解析パイプライン※1の実践を、ワークショップ形式で開催しました。実際のデータを用いた解析は回数を重ねるにつれ、その内容も基礎から応用編へと発展し、参加者のスキルアップに貢献しています。

※1
菌叢(きんそう。細菌の集団)を解析する手段

またシンポジウム冒頭では、JCHM代表の山田准教授より昨年度の活動報告を行いました。本年度以降の展開として学術的な発展にとどまることなく、今後は臨床応用、産業への活用に向け邁進することを宣言しました。

その後、以下の講演が行われました。

  • 「食由来腸内細菌代謝産物と宿主代謝機能」
    東京農工大学 テニュアトラック特任准教授 木村郁夫氏

  • 「大規模メタゲノム解析による遺伝子のデータベース KEGG MGENES / RefGene の開発」
    京都大学 准教授 五斗進氏

  • 「パプアニューギニア高地人の低タンパク適応における腸内細菌の役割」
    東京大学 准教授 梅崎昌裕氏

  • 「野生動物の比較栄養学と腸内細菌研究:域内保全と域外保全をつなぐ鎖」
    京都府立大学 教授 牛田一成氏 

東京農工大学 木村郁夫特任准教授
東京農工大学 木村郁夫特任准教授

京都大学 五斗進准教授
京都大学 五斗進准教授

東京大学 梅崎昌裕准教授
東京大学 梅崎昌裕准教授

京都府立大学 牛田一成教授
京都府立大学 牛田一成教授

参加者からは大変興味深い内容であったとの感想を数多くいただきました。

シンポジウム終了後は、スピードネットワーキング※2や意見交換会が行われました。参加者間の交流を深め、和やかな雰囲気のなか、閉幕しました。

JCHMは今後も定期的にシンポジウムを開催し、パートナー同士の連携を深め情報共有が出来る場を提供していきます。

※2
1対1で5分間程度、お互いの職務、研究内容などを紹介して相互理解を深め、今後の人脈作りに役立てるイベント。

スピードネットワーキングの様子
スピードネットワーキングの様子

意見交換会での歓談の様子
意見交換会での歓談の様子

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

東工大基金

このプロジェクトは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

Email : nmatsunami@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3629

池上彰特命教授の授業 アルビン・E・ロス氏(ノーベル経済学賞受賞者)インタビュー

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4月5日の池上彰特命教授の授業「現代社会論B」別窓は、ノーベル経済学賞受賞者のアルビン・E・ロス氏(米国スタンフォード大学教授)を招いてインタビュー形式で行われました。

はじめに池上教授が、世の中のマーケットでは商品の価格により需要と供給が成り立っていることが多いが、倫理上の問題などで価格や数値を決めることが難しい問題もあるということを説明しました。そして、このような問題を研究し、需要と供給の「組み合わせ」をマッチさせることで人々の役に立てるというロス教授の功績が紹介された後、拍手を受けながら、和やかな雰囲気の中でロス教授が登場し、講義が始まりました。

池上彰特命教授とアルビン・E・ロス教授(右)
アルビン・E・ロス教授

池上彰特命教授とアルビン・E・ロス教授(右)

ロス教授は、自身をエンジニアとしてのエコノミストであるとし、研究分野であるマーケットデザインとは、「市場をよりスマートにし、より厚みをもたせ、より早くするためのデザインの発明」であるということを論じました。その研究の実例として、ニューヨークやボストンなどでの9年生(日本の中学3年生)の高校の選考の効率を考えた「受け入れ保留アルゴリズム」や、全国研修医マッチングプログラム、そしてドナー(臓器提供者)と患者のマッチングを改善した「腎臓交換プログラム」などを挙げて人々の生活向上の実現について説明しました。

ロス教授による「腎臓交換プログラム」についての解説
ロス教授による「腎臓交換プログラム」についての解説

ロス教授による「腎臓交換プログラム」についての解説

質疑応答では、池上教授の「どうして経済学を学ぼうと思ったのですか」という質問に対して、ロス氏は、まずはエンジニアとしてオペレーションリサーチを学び始めたところ、どういう風に人が協力し合うのかということに関心を持ったため経済学に転移したのです、と返答。また、学生からは「手術室など実際のフィールドに足を運んで研究に臨んでいるのはどうしてか、またその思いとは」という質問があがり、ロス氏は「市場は書かれていないルールが多く非常に複雑なもので単に読書をするだけでは理解できない。文化に関わるルールが多いので、それに触れて考える必要がある。したがって日本の市場をデザインするのであれば、日本の文化を知る日本人が手掛ける必要がある」と返答され、学生は活力を得ました。

学生との質疑応答
学生との質疑応答

学生との質疑応答

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院

Tel : 03-5734-3782

学生主導の活動を応援―東工大「第9回学生応援フォーラム」開催―

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開会の辞を述べる三島学長

開会の辞を述べる三島学長

3月7日、学生支援センター自律支援部門では、自主性や社会性を主軸とする学生の活躍を学内外に広く発信するため、「第9回学生応援フォーラム」を大岡山キャンパス百年記念館フェライト記念会議室にて開催しました。

当日は、本学の学生と教職員、蔵前工業会からの参加者に加え、東京大学、筑波大学、千葉大学、京都大学、多摩大学、明治大学の学生や教職員、一般の方を含め56名の参加がありました。

第1部は、三島良直学長の開会挨拶、工学院の岡村哲至教授による同部門が支援する学生活動の概要についての説明の後、各活動に参加している学生が、それぞれの活動の内容や意義等について口頭発表を行いました。発表を聞いていた参加者からはたくさんの質問やコメ ントが寄せられ、活動する学生たちの励みになりました。以下は、口頭発表を行った学生達の感想です。

口頭発表
口頭発表

口頭発表

所属はすべて開催当時

「東京工業大学国際交流学生会(SAGE)」 釜坂みおさん(工学部3類1年)

釜坂みおさん(工学部3類1年)

私は東工大生のひとりとして、学生自らが国際交流の場を生み出す機会が少ないと感じています。またこのような団体の知名度は学生の間ではまだまだ低いとも感じており、今後はいかに学生に興味を持ってもらうかを考えていく必要があると思います。その中でこのような機会をいただき、私たちの活動やその目的についてたくさんの先生方や他団体の学生から様々な観点でのご意見を伺うことができ、単なる発表に留まらず私たち自身のモチベーションを高める有意義な時間となりました。

「東工大学生ボランティアグループ(VG)」 栗林純平さん(工学部高分子工学科3年)

栗林純平さん(工学部高分子工学科3年)

今年度のフォーラムで3回目の参加となります。このフォーラムは、普段はなかなか交わることのないさまざまな団体の活動を知る貴重な機会であるとともに、他団体の口頭発表やポスター発表から刺激を受けて活動へのモチベーションが一層高まる場でもあり、毎年楽しく参加しています。「年に一度」というイメージがありますが、個人的には各団体の交流の機会として、もっと高頻度に開催してもよいのではないかと思っています。

「学勢調査」児島佑樹さん(理学部物理学科2年)

児島佑樹さん(理学部物理学科2年)

今回、主に2014年の学勢調査の活動内容、その活動によって大学がどのように変わったか、そして次回2016年の学勢調査の展望について発表しました。学勢調査について外に向けて発表する機会は限られていましたが、今回多くの東工大の学生が参加する中で発表し、広く知ってもらうことができたので、とても手応えを感じました。他団体の発表も刺激的で興味深く、これからもお互いに刺激を与え、与えられる関係になれたらよいなと思いました。

「理工系学生能力発見・開発プロジェクト」貴志崇之さん(工学部制御システム工学科3年)

貴志崇之さん(工学部制御システム工学科3年)

フォーラムでの発表後に、本学の先生方や他の学生団体の皆さん、他大学の方々から当プロジェクトについてさまざまな意見をいただくことができました。特に印象に残ったのは他団体との連携についてです。毎年開催されるこのフォーラムでは他団体で活躍する学生と意見交換ができるので、共同企画やプロジェクトなどの新たな活動の可能性を見出すことができます。今回学んだことをぜひ今後のプロジェクトの活動につなげていきたいと思います。

パネル発表

パネル発表

第2部では、パネル発表が行われました。上記4団体の他に、「ピアサポーター」「テクノガールズ」「蔵前工業会学生分科会」「ロボギャルズ」「EPATS」「TISA」の6団体が加わり、あわせて10団体が発表を行いました。前回のフォーラムより参加団体の数が増えたこと、さらに所属大学の支援を受けて主体的な学生活動を行っている他大学の学生複数名の参加があったことから、とても活発な意見交換と交流がなされました。

参加者アンケートからは、「学生始点のアイデアが、ひとつひとつきちんと形になっていて素晴らしいと思いました」、「学生団体同士で連携できるシステムが欲しいと思いました。どの団体も少人数で活動して苦労する面も多そうでした」、「今回発表した学生は全て学士課程の学生でしたが、今後修士課程に進学するにしろ、就職するにしろ、資料をまとめる力や、人前で発表する力というのは役に立つものなので、この様な機会を利用してプレゼン力を身に着けて欲しいと感じました」等、たくさんのコメントが寄せられました。また、他大学の教職員からも「所属大学の枠を超えた複数の大学によるフォーラムができればお互いにとって大変励みになるのではと感じました。今後ともよろしくお願い致します」といった声が複数ありました。

加藤真悟さん

司会を務めた加藤真悟さん

司会を務めた加藤真悟さん(工学部電気電子工学科2年)は、「学生自身が問題意識を持って主体的に取り組んでいる活動が大学内外に発信され、きちんと評価される場はとても貴重で、学生のモチベーション向上などに大変良い影響を与えていると感じています。今年は他大学で学生活動に取り組んでいる学生の方々の参加も増えました。今後は所属大学の枠にとらわれずに学生間で意見を交換し合えるようなコミュニティ構築も目指していこうと思いました」と感想を述べました。

最後は、丸山理事・副学長(教育・国際担当)の閉会挨拶をもって、今回のフォーラムは締めくくられました。

学生支援センター自律支援部門では、学生の主体性や社会性の涵養を目的とする学生の活動支援を今後も継続していきます。

AbemaTV「Abemaプライム」にリベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授が出演

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リベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授が、スマートフォンやインターネットで視聴できるAbemaTV「Abemaプライム」に出演します。「どうすれば選挙に行くか」という趣旨の報道番組を予定しています。

西田亮介准教授
西田亮介准教授

  • 番組名
    AbemaTV「Abemaプライム」
  • 放送予定日
    2016年7月8日(金)、11日(月) 20:00~21:50

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

RU11「今後取り組むべき学術研究に関する施策について」(提言)

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学術研究懇談会(RU11)は、国立・私立の設置形態を超えた11の大学(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)による学術の発展を目的としたコンソーシアムです。

研究およびこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。

今後も、RU11は「知の拠点」として日本の発展を担う大学が社会からの要請に応える価値ある存在としてさらに発展するため、以下の提言および見解を取りまとめました。

平成28年7月8日

今後取り組むべき学術研究に関する施策について
(学術研究懇談会 RU11)

学術研究懇談会(RU11)
北海道大学理事・副学長
川端和重
東北大学理事
伊藤貞嘉
筑波大学理事・副学長
三明康郎
東京大学理事・副学長
保立和夫
早稲田大学副総長
橋本周司
慶應義塾常任理事
真壁利明
東京工業大学理事・副学長
安藤真
名古屋大学理事・副総長
國枝秀世
京都大学理事・副学長
湊長博
大阪大学理事・副学長
八木康史
九州大学理事・副学長
若山正人

学術研究懇談会(RU11)は、国立・私立の設置形態を超えた11の大学(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)による学術の発展を目的としたコンソーシアムであり、研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。

今後も、大学が社会からの要請に応える価値ある存在としてさらに発展するため、以下の提言を取りまとめました。関係各位には是非お目通しいただき、「知の拠点」として我が国の発展を担う大学に対し、格別のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

提言の要旨

自由な発想に基づく学術研究の拡充ならびに人文・社会科学系研究の推進について(学術政策)

(1)自由な発想に基づく学術研究の拡充

1. 学術研究の基盤となる基礎研究

学術研究は、とりわけ広域的・長期的な視野をもって未知の領域に果敢に挑む、本来の意味における基礎研究も包含していて、これも支援されなければならない。

2. 学術研究・基礎研究の研究費の拡充

昨今の競争的資金には具体的な課題の解決を重視したプログラムが多く、提示される研究課題そのものも表層的内容に偏位していることも懸念される。科研費をはじめとする学術研究・基礎研究のための研究費をさらにいっそう拡充させることを、ここに改めて提言する。

(2)人文・社会科学系研究の推進

1. 人文・社会科学系の教育・研究への支援

人文・社会科学の教育・研究振興のための国等による支援、とりわけ長期的な展望に立った財政的支援の拡充が不可欠であることを改めて強調したい。

2. 自然科学との協奏・融合

文理融合的研究を推進するためには、先の1.で述べた人文・社会科学自体の進展とともに、人文・社会科学と自然科学の両分野における共通課題の相互確認と両分野の連携を進める相互理解を促進させていくことが不可欠であり、こうした文理融合的研究を支援する研究費をより拡充させることを提言する。

(3)グローバルな人材の育成

幅広い教養や、全地球規模の諸課題の解決に挑戦できる人材の育成を推進する教育プログラムの充実が喫緊の課題であり、こうした教育プログラムに対する支援をさらにいっそう拡充させることを提言する。

【提言】(本文)自由な発想に基づく学術研究の拡充ならびに人文・社会科学系研究の推進について(学術政策)PDF

我が国の科学研究の根幹を担うために(研究資金制度)

第5期科学技術基本計画における、政府研究開発投資について対GDP比1%(総額約26兆円)を目指すという目標の達成を要望すると共に、大学における学術研究を発展させるための国家的投資の拡大を求める。

(1)運営費交付金、私学助成

運営費交付金、ならびに私学助成という基盤的経費が削減されると、長期的視点に立った基礎研究が縮小することとなるため、運営費交付金、ならびに私学助成の拡充を引き続き強く主張するものである。

(2)科研費

  • 大学における学術研究を支える中核的経費である科研費は、基盤的経費の財源としてもその役割はますます増大し、最重要なものとなっており、より適切に運用し、有効に活用することが求められている。
  • 小・中型科研費について、若手研究者を中心に多くの研究者を支援することは、新しい学術の展開と将来のイノベーションにつながる必要不可欠な投資である。一方、大型科研費については、一部の研究者への集中を避け、若手研究者などを対象とした研究種目への圧迫とならないよう留意しつつ配分すべきである。
  • 少額の研究種目では採択率30%以上を確実に維持して幅広く配分し、比較的多額の研究種目では主力機器などの購入経費確保による研究目的遂行のために充足率を80%前後に引き上げる必要がある。
  • 現在検討されている挑戦的萌芽研究の上限額の大幅な引き上げは本種目の概念を大きく変更するものであり、本来の目的を再確認しつつ、その目的と補助額に相応しい審査が実施されることが必要と考える。
  • 若手や中堅研究者を長期間海外に派遣する国際共同研究加速基金は、科研費本来の目的とは異なる要素も多分に含んでおり、科研費以外の枠組みで支援することも再検討してみてはどうか。
  • 各研究種目の研究期間については目的に合わせて弾力的に設定するべきと考える。科研費の支出については基金化、ならびに調整金の手続きの簡素化とその条件の緩和が必要である。

(3)その他補助金・競争的資金

  • 博士課程教育リーディングプログラムなど大型の補助事業では事業ごとの厳密な運用制限を設定せず、複数の事業間で有機的な連携を可能にする運用へと制度を改編してゆくことが必要である。
  • JST、AMEDなどからの競争的資金は出口指向や直接的な成果を求めがちになる。社会的要請に基づく研究と、研究者が独創的に提案する基礎研究の間で、適切なバランスをとることが必要である。

(4)その他の外部資金

個人、企業からの多様な目的の寄附などの支援をスムースな形で受け入れるために、税額控除の全面導入を求めるものである。外部からの資金ならびに大学資産の運用等の拡大のため、関連法の改正とともに、各大学によるこれらの資金獲得を軌道に乗せるために必要な初期投資の施策を要望する。

(5)間接経費

産業界との共同研究では、将来的には米国のようなオーバーヘッドを求めてゆくべきだと考える。

【提言】(本文)我が国の科学研究の根幹を担うために(研究資金制度)PDF

次世代を切り開く優秀な博士人材の持続的活躍のために(若手研究者支援)

(1)博士課程への進学を促進させる施策案

(a)奨学金制度の拡充

修士課程及び博士課程における免除枠の決定に各大学の裁量を与える制度改革を求める。具体的には、修士課程と博士課程の全体で30%になるよう、各大学の裁量で免除の比率を決められる制度の設定を求める。

(b)「優秀な博士人材の育成のための教育の質」に関する評価

博士定員の充足率を評価指標とする現行を見直し、学部―修士―博士課程までの教育・研究を一貫して捉えた評価を取り入れるべきである。

(c)退職金制度の課題

各大学で年俸制の導入を図ってはいるが、退職金相当額を月額給与に上乗せする現行の措置では所得額控除が受けられず年俸制導入は若手研究者にとって不利になるため、制度の改善を要望する。

(2)産業界等への進出の促進・支援の強化

企業と大学の組織的な連携による、博士人材に特化した採用プロセスの改善や、産業界の博士後期課程への教育参画の促進、産学双方に効果的なインターンシップの積極的な展開などが求められる。

(3)短期の任期付ポストにいる研究者の研究環境の改善・支援

大型の産学共同研究費や受託研究費等において、研究に従事する常勤研究者の人件費をエフォートに応じて直接経費等に計上するなど、間接経費や外部資金の運用の自由度を拡げることにより、人件費を大学として確保して、若手研究者の安定雇用財源として活用できるようにすることも重要である。

【提言】(本文)次世代を切り開く優秀な博士人材の持続的活躍のために(若手研究者支援)PDF

見解の要旨

世界大学ランキングに対するRU11の見解について

世界大学ランキングの目的と対象について

本来多種多様な価値が集積する大学をランキングという1つの順位指標で評価すること自体がそもそも無理なことであると言わざるをえない。世界の国々の高等教育が全く同じシステムや価値観を持つというわけではなく、各国または各地域の言語や文化の多様性こそがそれぞれの大学の価値を生み出す源泉でもある。

THE世界大学ランキングの大きな変動について

THEのランキングでのみ大きな変動があったことから、この変動はTHEのランキング算出法の変更によるものと考えられる。日本の大学の順位を下げた大きな要因はCitationsスコアの国別補正の方法が変更されたことによるものであり、現状を正しく反映し正当に評価するには時期尚早であったと私たちは考えている。

世界大学ランキングと大学改革

世界大学ランキングについて過剰な反応をすることなく、ある側面から大学を見たときの外部の視点・意見の一つとして冷静かつ客観的に受け止めながら、今後の大学改革に生かしていきたいと考えている。

結び

教育、研究や社会貢献など大学の持つすべてのミッションをひっくるめ、普遍的で唯一のランキングがあるかのごとく扱う風潮が一部に見られることに私たちは懸念を抱いている。また、ランキングを政策的な方針や計画あるいは政策実施後の成果達成指標として安易に利用するべきではないとも考える。

【見解】(本文)世界大学ランキングに対するRU11の見解についてPDF

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ

Email : pro.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

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