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地球生命研究所の廣瀬敬所長が藤原賞を受賞

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本学、地球生命研究所(ELSI)の廣瀬敬所長が第57回藤原賞を受賞し、授賞式が6月17日に行われました。

贈呈式の様子贈呈式の様子

藤原賞は藤原科学財団によって1959年に創設されました。科学技術の発展に卓越した貢献をした者に与えられる賞で、数学・物理、化学、工学、生物学・農学、医学の分野から毎年2名が選ばれます。

地球内部の図地球内部の図

廣瀬所長は、地球深部の高圧高温の状態を実験で再現することで、私たちが実際に見ることは出来ない地球深部のマントル下層およびコアの構成物質の構造、物性、組成を同定し、そのダイナミクスを明らかにしました。

地球は半径6,400km、中心からコア、マントル、地殻と大きく分けて3つの層に分かれています。マントルはさらに4層に分かれており、深さ2,600kmから2,900kmのマントル最深部のコアとの境界には、D''層と呼ばれる層があります。

マントルの他の層は1970年代にどのような物質で出来ているか分かっていましたが、D''層は2000年代に入ってもその姿が明らかになっていませんでした。

高圧状態を再現するダイアモンドアンビルセル装置高圧状態を再現するダイアモンドアンビルセル装置

廣瀬所長らはD''層の正体の解明を目指し、ダイアモンドアンビルセル装置(写真)とレーザー装置を使い、地球の高圧高温状態を再現する実験を行いました。そして深さ2,600kmに匹敵する125万気圧、温度2,500Kの実現に成功し、D''層が「ポストペロブスカイト」からなることを2004年に世界で初めて発見しました。

この発見からD''層の「ポストペロブスカイト」は層状の結晶構造をとり、これが地球の地震波伝播・マントル対流、自転運動などに重要な影響を及ぼしていることが明らかになりました。

さらに廣瀬所長らは、2010年に地球中心部に匹敵する364万気圧と5,000Kを超える圧力と温度を達成し、内核の主成分である固体鉄の構造を決定することに成功しました。そこから、地球の中心は鉄の原子同士が高密度で結合する六方最密充填と呼ばれる構造であることを突き止めました。

また2014年には、地球コアに大量の水素が存在することを発見しました。これは、地球形成時には現在の海水の80倍の水が存在したことを示唆し、地球誕生のシナリオや水の起源の解明に向けて大きな一歩を踏み出しました。

以上のように、廣瀬所長が地球内部の高圧高温の環境を再現する実験技術を発展させ、地球内部の構造や組成を解明し、そこから地球の起源やダイナミクスの理解に大きく貢献したことが評価され、このたびの受賞となりました。

廣瀬所長のコメント

贈呈式での廣瀬所長贈呈式での廣瀬所長

大変光栄に思います。研究室の仲間、日々サポートしていただいている方々に深く感謝します。これを励みに更に頑張りたいと思っています。

私が所長を務める地球生命研究所では、地球の起源や初期の姿の情報をもとに、生命の起源解明を目指しています。今回の受賞がきっかけとなり、世界中からよい研究者が集まり、地球と生命の起源の解明に向けて、研究がより加速されることを願っています。

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

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お問い合わせ先

地球生命研究所広報室

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163


ウイルス監視ネットワークの構築による安全・安心社会の実現に向けて

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概要

東京工業大学 工学院の山本貴富喜(たかとき)准教授らは、病原性ウイルスのセンサーにつながるデバイス構造を開発している。ナノ(10億分の1)メートル(nm)幅の流路を設け、流路を通るウイルスを電気的に検出する仕組み。

この仕組みにより、ウイルスの大きさ・形状によって異なるインピーダンス(電気抵抗)スペクトルが得られることを確かめた。この結果はウイルスの構造や成分などからウイルスを識別できる可能性を示唆しており、既知・未知を問わない網羅的なウイルスセンシング法が実現できると期待される。

研究の背景

我々の生活圏は、ヒトに限らずペット、家畜、農作物に至るまで常に病源性ウイルスの脅威に晒されており、我が国でもこれまで発症例の無いデング熱の発症が確認される昨今、エボラウイルスなどのさらなる危険性の高いウイルス感染も対岸の火事とは言えない状況にある。

このようなウイルス感染を未然に防ぐためのウイルス監視技術や早期発見技術の確立は、工学に課せられた急務であることは言うまでも無い。そのための最重要課題がウイルスセンサーの実現である。ウイルスセンサーが実現すれば、あらゆる場所で常時監視して、感染を未然に発見して対策が可能となる。対策が間に合わず発症してしまった場合でも、ウイルスセンサーのネットワーク網があれば、最短時間で感染域の特定と局所的医療対策が可能となるので、次世代医療インフラとして画期的なものとなる。

ところが、このような環境中のウイルスセンシング技術は世界的にも全くの未開である。医療診断技術である免疫染色法やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は、感染後でなくては検出ができないうえ、バッチ処理の1回使い捨てが基本であるため、長期の監視手段としては不適である。

さらに、こうした従来法は原理的に未知や新型ウイルスの検出が困難である。すなわち、様々な環境中のウイルスを網羅的に監視するような技術体系は皆無と言っても過言では無い。従ってウイルスセンサーの実現は、新しい学術・技術体系の創成を通じて、大きな社会的課題を解決するイノベーションのシーズとなるのは明らかである。

研究成果

このような課題に対し、山本准教授らは低電圧で高電界が得られるナノ空間の特徴を合目的的に活用し、高電界中で得られる非線形な電気インピーダンス応答によるウイルスセンシング技術に挑戦した。

ウイルスはDNA/RNAやタンパク質などの生体分子が、タンパク質や脂質で作られた球殻容器に閉じ込められた、いわば構造化ナノ粒子である。このため、ウイルス粒子の物理的構造や物性を電気インピーダンス計測することにより、既知・未知を問わない網羅的なウイルスセンシング法が実現できると可能性があり、今回の研究ではその初期的な評価を実施した。

センシングデバイスはナノ流路とナノ流路を挟むように作製したナノギャップ電極および入出力ポートからナノ流路への送液を容易にするマイクロ流路を有した構成である。ウイルスは大きさが数10 nm~数100 nmである。そこで単一のウイルス検出の検討も進めることを目的に、幅数100 nmのナノ流路をフォトリソグラフィーや収束イオンビーム(FIB)で作製し、測定した。

電気インピーダンス計測によるウイルスセンサーのイメージ図

図1. 電気インピーダンス計測によるウイルスセンサーのイメージ図

まだ初期的な段階だが、図のようにウイルスの大きさ・形状に依存したインピーダンススペクトルが得られることが分かった。これらの結果は、ウイルスの構造や成分などからウイルスを識別できる可能性を示唆している。さらに、開発したデバイスは数cm角に収まる小型サイズであるので、モバイルで網羅的かつ長期連続的に様々な環境中のウイルスをモニターするようなセンサーへの応用が期待できる。

今後の展開

ウイルスの大きさや成分、構造などのウイルス固有の情報とインピーダンススペクトルとの相関を明らかにし、解析手法の開発とさらなる高感度化・高精度化を通じてウイルスセンサーとして確立していく。

計測した3種類のウイルス(インフルエンザ、バキュロ、タバコモザイク)のクラスターマッピングによる分析結果。濃度は1011 to 1014 virions/mLの範囲で計測。
図2.
計測した3種類のウイルス(インフルエンザ、バキュロ、タバコモザイク)のクラスターマッピングによる分析結果。濃度は1011 to 1014 virions/mLの範囲で計測。

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Microbiology, vol. 6, pp. 940-947 (2015).
*open access journal
論文タイトル :
Nonlinear electrical impedance spectroscopy of viruses using very high electric fields created by nanogap electrodes
著者 :
Ryuji Hatsuki1, Ayae Honda2, Masayuki Kajitani3, Takatoki Yamamoto1
所属 :
1Tokyo Institute of Technology, Department of Mechanical and Control Engineering, Tokyo 152-8550, Japan
2Housei University, Faculty of Bioscience and Applied Chemistry, Tokyo, Japan
3Teikyo University, Department of Bioscience, Tochigi, Japan
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
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問い合わせ先

工学院
准教授 山本貴富喜

Email : yamamoto@mes.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3182

東工大リベラルアーツ科目の要石「東工大立志プロジェクト」

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「東工大立志プロジェクト」は、今年度から開講した学士課程1年目の学生向けの必修科目です。東工大の教養教育を推進すべく今年度新設されたリベラルアーツ研究教育院が注力する本科目についてご紹介します。

講堂講義の司会は上田紀行リベラルアーツ研究教育院長
講堂講義の司会は上田紀行リベラルアーツ研究教育院長

「東工大立志プロジェクト」とは何か?

学士課程1年目の学生全員が受講する「東工大立志プロジェクト」は、3年目の必修科目である「教養卒論」、修士課程の選択必修科目「リーダーシップ道場」、そして博士後期課程で履修する「学生プロデュース科目」と並んで文系教養科目の「コア学修科目」の1つに数えられます。新入生全員が入学直後の第1クォーターに履修することから、教養教育の全体を支える要石となる科目といえます。本学の教育改革、とりわけ刷新された教養教育の目玉として当科目の精神を内外に広く打ち出すべく、リベラルアーツ研究教育院に所属する全教員が精魂を傾けてデザインと運営に携わっています。

本学の教養教育の大きな目標は、専門教育をサポートしつつも、社会性と人間性を兼ね備えた「志」ある人材を育成することです。そのため、学士課程から博士後期課程まで9年間の教養教育を各自のゴールに向かって志を立てるプロジェクトに見立てたうえで、「東工大立志プロジェクト」は大学での学びに向けた自己発見と動機づけを行うことを目指しています。

大学での学びとは何でしょうか? 高校までの勉強と大きく違うのは、自ら問いを立てるということです。高校までは、与えられた問題に対して正解を答えれば、試験でも高得点を得られ、厳しい受験競争を勝ち抜くこともできたわけです。東工大生は正解を効率よく導き出すことが得意ですが、それだけでは学問の世界では通用しませんし、科学技術で求められるイノベーションを起こすこともできません。東工大のような理工系大学での学びで大事になってくるのは、答えを出すことよりも、未発見の問題の所在を嗅ぎわけ、埋もれていた問題を発掘し、場合によっては新たに問題を創造することです。ですから、入学直後にこうした受験に焦点をあてた高校までの学びから脱却してもらい、問いを立てることの醍醐味を一端でも味わってもらえるように、「東工大立志プロジェクト」はデザインされています。社会のありように向けて、世界の広がりに向けて、人間の深奥に向けて、そして自己の実存に向けて問いを立てること。これを「志を立てる」ことと定義しています。

「東工大立志プロジェクト」のしくみ

講堂での大人数講義と30人以下の少人数クラスでの演習を交互に実施します。

講堂での大人数講義では、さまざまな分野において第一線で活躍する方々をゲスト講師として招き、リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行教授(専門:文化人類学)の司会により、現代社会にあり得る問い、あるいは長い歴史を通じて人間がこの世界に投げかけてきた問いについての講義を行っています。

今年度、講師を務めたのは、以下の方々です。

講師
テーマ
本学リベラルアーツ研究教育院 特命教授 池上彰氏
「良き問いを立てるために」
公立はこだて未来大学 教授 美馬のゆり氏 (教育工学)
「学びの経験をデザインする!」
立命館大学 特別招聘准教授 開沼博氏 (社会学)
「学問としての福島」
日本大学 教授 永井均氏 (哲学)
「<私>とは何か」
劇作家・演出家 平田オリザ氏
「わかりあえないことから」
松林寺住職・シャンティ国際ボランティア会副会長 三部義道氏
「命の使い方」

講義の後の課題として、各自が講義の「ふりかえりノート」を作成します。このノートを少人数クラスに持ち寄り、4人ずつの小グループでの演習の際の対話に役立てます。講義での問いをきちんと受け止めたうえで、仲間とのコミュニケーションを通じて自分(たち)の問いを練り上げていく、このプロセスを幾度か繰り返したあと、少人数クラスの最終回で、各自が、あるいは各グループが立てた「志」を発表します。この過程で他者の考えに耳を傾ける力、それを自分の経験や将来像と照らし合わせながら自分の言葉で再考する力、さらにはそれを他者に説得的に伝える力、すなわち真の意味でのコミュニケーション力の基礎を築くのです。

少人数クラスで輪になってチェックイン
少人数クラスで輪になってチェックイン
白熱するグループディスカッション
白熱するグループディスカッション

コミュニケーションはもちろん、人と人の間ばかりでなく、人と書物の間でも成り立ちうるものという考え方から、「東工大立志プロジェクト」では、本を介したコミュニケーションも大切にしています。そのため、開講中に本を読んで「書評」にまとめる課題も課されます。多様な分野とジャンルにまたがる課題図書のリストから本を選び、その感想を「書評」にまとめて小グループのメンバー同士で読みあいます。学期末には、その相互レビューを反映させた「書評」の完成版を提出します。なかにはだいぶ苦しんだ学生もいたようですが、本とのつきあい方を学ぶという点では、貴重な経験になっています。

「えんたくん」を取り囲む4人グループ
「えんたくん」を取り囲む4人グループ

リベラルアーツ研究教育院の所属教員が自身の専門を離れて少人数クラスの担任となり、グループディスカッションが建設的に進展するようサポートするファシリテーター(進行役)の役割を担います。こうして履修者各自の自主性が発現するのに任せ、同時に、おのおの違った出自と目標を持つ履修者同士が垣根をこえてコミュニケーションできるよう配慮されています。コミュニケーションを促進するツールとして、「えんたくん」と呼ばれる円卓型の段ボール板を4人の膝の上や机の上に置き、話し合いのなかで出てくるキーワードやアイデアをカラーマーカーでどんどん書き込んでいきます。これが意外なほどの効果をもたらし、議論が盛り上がって面白いアイデアが生まれてきます。

盛り上がるプレゼンテーション盛り上がるプレゼンテーション

「東工大立志プロジェクト」が大人数講義と少人数演習を有機的に組み合わせた設計になっているのは、コミュニケーション力の開発以外の意図も込められています。それは、東工大の豊かな文系講義の伝統を、現代に即した方法で更新することです。かつて東工大には、宮城音弥氏(心理学)、伊藤整氏(英文学)、鶴見俊輔氏(哲学)、永井道雄氏(社会学)、川喜多二郎氏(文化人類学)、永井陽之助氏(政治学)、江藤淳氏(文学)など、いずれも戦後日本の世論を形成、牽引してきたそうそうたる面々が教授として招かれ、文系の砦を築いてきました。これらの大物たちが、少人数の学生(かつては1学年の学生数が現在の3分の1でした)に向けて知的愉悦に満ちた講義を展開していたわけです。もちろん現在でも、リベラルアーツ研究教育院は、専門分野で一流の業績を残していたり、新進気鋭の若手としてマスメディアで活躍していたりする著名な教授陣を有しています。しかし同時に、1学年の学生数が3倍に増加し、大学自体の規模が大きくなった現在、少人数で密なコミュニケーションを取りながら先端的な文系教養の講義を展開するのが極めて困難になっています。これを解決するために、大人数講義と少人数演習の組み合わせを取り入れました。

ゲスト講師のお話に思わず聴き入る履修者
ゲスト講師のお話に思わず聴き入る履修者
ゲスト講師のお話には知的な刺激がいっぱい
ゲスト講師のお話には知的な刺激がいっぱい

初年度の講義を終えて

リベラルアーツ研究教育院の教員は、本科目の開講に向けた準備に多大な精力を費やしてきました。組織が新設されたばかりで、講義体系も1から組み立てねばならず、不安を抱えたスタートとなりました。しかし、実際に講義が始まり、学生たちの生き生きした表情を目の当たりにすると、教員たち自身が「楽しい!」との感想を口にするようになり、抱えていた不安はすぐに払拭されました。

なんといっても一番の驚きは、講堂での大人数講義の際に矢継ぎ早に質問の手が挙がることです。鋭い質問に、ゲスト講師の先生もつい熱くなって話がなかなか途切れません。そこで、質問者の数を制限したところ、不満を覚えた学生が講義終了後に壇上に殺到し、予定外の特別セッションが延々と繰り広げられる事態になったこともあったほどです。

ゲスト講師に質問
ゲスト講師に質問
講義終了後に平田オリザ氏を囲む質問者
講義終了後に平田オリザ氏を囲む質問者

書評のピアレビュー書評のピアレビュー

少人数クラスでは、各自が自分の頭で考え、発言しなければならないため、自分の時間を使って毎回の課題をこなし、書評を書き、発表の準備をするなど、学生の負担は軽くありません。しかし代わりに得たものも、決して小さくはなかったようです。実際、「この講義で何をするのか不安だったが、ディスカッションに参加すること自体がとても楽しかった」、「講義が終わってしまってさみしい」といった感想が聞かれました。

この講義を起点に、新入生の東工大における教養教育がスタートしました。「東工大立志プロジェクト」を通じて立てた志は、早速、複数の「学生プロジェクト」として実を結びつつあります。また3年目には、少人数クラスのメンバーが「教養卒論」で再結集し、各自が東工大生像をどれだけ更新しているかを確認し合います。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

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高橋栄一教授に「米国地球物理学連合フェロー」の称号授与

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理学院 地球惑星科学系の高橋栄一教授が、7月26日付で米国地球物理学連合(以下、AGU)フェローに選ばれました。

高橋教授は、現在の地球惑星科学系担当教員では、長井嗣信教授と廣瀬敬教授に次ぐ3人目のAGUフェローとなります。

地球惑星科学の分野では栄誉ある受賞となります。

受賞理由「高温高圧実験に基づく火成岩岩石学に関する重要でかつ根本的な貢献」

工大に設置したマグマファクトリーと高橋教授工大に設置したマグマファクトリーと高橋教授

高橋教授は、マルチアンビル装置、内熱式ガス圧装置など高温高圧実験装置と実験手法を開発し、深さ3キロメートルの地殻内マグマ溜りの再現から、深さ1,000キロメートルを超す下部マントルの物質構成の解明まで広い圧力領域を研究し得る実験ラボ「マグマファクトリー(Magma Factory)」を東工大に建設しました。「マグマファクトリー」は、神戸製鋼と共同開発した8,600気圧垂直落下急冷型内熱式ガス圧装置で、富士火山や阿蘇火山の深いマグマ溜りの再現実験に使用されました。「マグマファクトリー」は東工大内外の多くの研究者に利用され、火山岩石学研究者および地球深部ダイナミクス研究者を多数輩出しました。

今回の受賞理由となった研究は以下の4つです。

  1. (1)日本列島の岩石学構造と火山深部プロセスの研究
  2. (2)高圧実験に基づく玄武岩マグマの発生過程の研究
  3. (3)高圧実験に基づく地球初期のマグマオーシャンの研究
  4. (4)日米合同チームを組織したハワイ諸島の火山の海底部分に関する研究

なお、「マグマファクトリー」の一部は来年3月の高橋教授の定年退職に伴い、東工大から中国科学院広州地球化学研究所に寄贈され2016年秋に移設される予定です。

高橋教授のコメント

AGUフェローに選ばれた高橋栄一教授
AGUフェローに選ばれた高橋栄一教授

東工大で28年間研究生活を送らせていただき感謝しています。

私の研究対象は日本列島の火山をはじめハワイなど世界各地の火山活動の起源となるマグマの発生過程でした。日本は巨大地震の影響で今後数10年をかけて火山活動が活発化する恐れがあり、この方面の研究は特に重要であると思います。

私自身は来年から中国科学院の研究所に異動して研究活動を続ける予定です。

東工大の皆さんのご活躍を国外から応援させていただきます。

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院

Email : rig.jim1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7661

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者決定

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挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

15回目となる今回は10名が選考されました。

受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名(★は学長特別賞)
准教授
★原始惑星系円盤の多重ダストリングにおける微惑星形成過程の解明
助教
★マイクロ電気機械素子とその金属結晶粒制御によるナノG慣性センサの創出
准教授
★電子またはヒドリドイオンを含む新規固体触媒の開発
准教授
液晶乱流とホログラフィを用いた多体確率過程の普遍法則の実験検証
准教授
マルテンサイト逆変態を利用した鉄鋼材料の革新的組織制御
講師
固体表面への触媒活性点集積による新規分子変換反応の開発
准教授
ヒトiPS細胞を用いたDOHaDの検証
助教
マルチブロック型分子を基盤とする動的機能開発
准教授
遺伝子工学的手法による藻類バイオマス生産性の向上
助教
電子欠損性ホウ素化合物による革新的物質変換および新材料開発

(所属順・敬称略)

昨年度の同賞受賞式でのプレゼンテーションの様子
昨年度の同賞授賞式でのプレゼンテーションの様子

東京工業大学未来産業技術研究所発足記念講演会/祝賀会のご案内

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東京工業大学は、2016年4月1日に研究体制を大幅に刷新し、約180名の専任教員から構成される科学技術創成研究院がスタートしました。その中で、未来産業技術研究所は、精密工学研究所、像情報工学研究所、量子ナノエレクトロニクス研究センター、建築物理研究センター、異種機能集積研究センターが統合され、新たに発足したものです。

未来産業技術研究所のミッションとして、機械工学、電気電子工学、金属工学、情報工学、環境工学、防災工学、社会科学等の異分野融合により、その時代に適合する新たな産業技術を創成し、豊かな未来社会の実現を目指します。

この度、来産業技術研究所の発足記念講演会を開催いたします。また同日夜に、記念祝賀会を催します。万障お繰り合わせの上ご参集ください。

日時
2016年8月31日(水) 13:30~ (受付開始:12:30~)
場所
東京工業大学すずかけ台キャンパス 大学会館多目的ホール
参加申し込み方法
申し込み締め切り
2016年8月22日(月)

概要

第一部

13:30~14:00
東京工業大学の教育改革と研究改革
三島良直(東京工業大学長)
14:00~14:25
科学技術創成研究院のこれから
益一哉(科学技術創成研究院長)
14:25~14:50
未来産業技術研究所の発足にあたって
小山二三夫(未来産業技術研究所長)

第二部

15:20~16:00
精密工学とともに
横田眞一(東京工業大学名誉教授)
16:00~16:40
像情報工学とともに
辻内順平(東京工業大学名誉教授)

特別講演会

16:40~17:30
未来は研究が拓く
末松安晴(東京工業大学栄誉教授)

祝賀会

17:40~19:40
記念祝賀会(大学会館3階ラウンジ)
参加費:7,000円
(参加お申し込みの方に、支払い方法を電子メールあるいはFAXでご連絡致します。)
東京工業大学未来産業技術研究所発足記念講演会/祝賀会ポスター
東京工業大学未来産業技術研究所発足記念講演会/祝賀会ポスター

東京工業大学未来産業技術研究所発足記念講演会/祝賀会ポスター

お問い合わせ先

未来産業技術研究所発足記念講演会事務局

E-mail : mirai-kouen2016@first.iir.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5963・5964

リベラルアーツ研究教育院創設シンポジウム 開催報告

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6月15日、リベラルアーツ研究教育院の創設を記念して、「まず殻を破ることから―リベラルアーツの最先端へ―」と題したシンポジウムが大岡山キャンパス西9号館ディジタル多目的ホールにて開催されました。当日は学内外から200名を超える来場者があり、リベラルアーツ研究教育院に対する期待と関心の高さを改めて認識する機会となりました。

プログラム

総合司会 林直亨教授

1.
開会挨拶 三島良直学長
2.
リベラルアーツ研究教育院長挨拶 上田紀行教授
3.
シンポジウム 「まず殻を破ることから―リベラルアーツの最先端へ―」
シンポジウム進行 谷岡健彦教授

パネリスト

  • 中野民夫教授(コミュニケーション論)
  • 中島岳志教授(政治学)
  • 三ツ堀広一郎准教授(フランス文学)
  • 伊藤亜紗准教授(芸術)

最初に、三島良直学長より開会の挨拶がありました。「学長就任以来、推進してきた教育改革の一番の目的は、学生が目を輝かせ、積極的な姿勢で授業に臨むようにさせることにあり、将来実社会で活躍するためには何を学ぶべきかを、学生一人一人が考えるようなカリキュラムを組みたいと考えてきました。そのためには学生が自ら考えて議論する授業を作る必要があり、なかでも重点を置いたのがリベラルアーツです。第1クォーターを見る限り、リベラルアーツ研究教育院の授業は非常に上手く行っており、今後も学生から、このような積極的な姿勢を引き出して欲しいと思っています」との期待が語られました。

三島良直学長
三島良直学長

上田紀行リベラルアーツ研究教育院長上田紀行リベラルアーツ研究教育院長

次に、上田紀行リベラルアーツ研究教育院長より挨拶がありました。「三島学長の下で、東工大の教育のみならず、社会全体を変えていくという強い意志を抱きながら、リベラルアーツ研究教育院のプログラムを立ち上げました。そして、本シンポジウムでは、大学関係者のみならず、多くのメディアからも注目されている科目『東工大立志プロジェクト』の成果を発表しますが、この授業は、自分が動くことで社会を変えることができる、という志を学生に持たせることが目的となっています」と説明しました。併せて、そのような授業を支える、志の高い多くの素晴らしいスタッフが集まってくれたことに感謝の意を述べました。

シンポジウムの冒頭には、進行の谷岡健彦教授から、本シンポジウム開催についての説明がありました。タイトルの「まず殻を破ることから―リベラルアーツの最先端へ―」の「殻」とは、固定観念のことであり、この固定観念を打ち破る新しいリベラルアーツを模索してきたこと、また、開催時期としては第1クォーターの「東工大立志プロジェクト」が終了したタイミングとしたことを話しました。

パネリストの先生方からはそれぞれの担当や専門分野からの説明と意見が出されました。

シンポジウムのパネリスト(左から谷岡健彦教授、伊藤亜紗准教授、三ツ堀広一郎准教授、中野民夫教授、中島岳志教授)
シンポジウムのパネリスト
(左から谷岡健彦教授、伊藤亜紗准教授、三ツ堀広一郎准教授、中野民夫教授、中島岳志教授)

伊藤亜紗准教授

伊藤亜紗准教授からは、新しいカリキュラムの柱となる教養コア学修科目の説明がありました。「学士課程1年目の学生向けの『東工大立志プロジェクト』では、入試に合格するための受験勉強から、ものの見方や考え方を根本的に作り変え、正解のない問いを自らの頭で考える練習を積むこと、そして、学士課程3年目の学生向けの『教養卒論』では、これまでの学びをストーリーのある形にまとめることを、それぞれねらいとしています。修士課程1年目の学生向けの『リーダーシップ道場』では、仲間の能力を活かしながら目標に向かってチームを導くリーダーシップ力を身につけさせ、博士後期課程の学生向けの『学生プロデュース科目』では専門の異なる者同士が集まることで、学会のような場を作って研究や発表を行う交流の機会としたいと思っています」との説明がありました。

三ツ堀広一郎准教授

三ツ堀広一郎准教授からは、「東工大立志プロジェクト」の授業設計についての説明がありました。「この科目は、主に外部からのゲスト講師による大講堂講義と少人数クラス(30人編成で40クラス、さらにクラス内のグループ分け)という組み合わせになっており、講義で提供された話題を、数日後に少人数に分かれて振り返り、問いを立てて掘り下げる、というサイクルで進む授業です。講師にはそれぞれの専門に入った理由やきっかけなど、ライフストーリーを語るようにお願いし、学生には教養がその人の歩んできた人生と切り離せないことを示すようにしました」という工夫が語られました。

中野民夫教授

中野民夫教授からは、「東工大立志プロジェクト」の少人数クラスで用いたワークショップの方法についての説明がありました。中野教授は、参加型授業のメリットは、何よりもまず参加者が楽しいと感じられる点にあると強調しました。そのほか、自分と違う考えを持つ人を知ることにより世界が広がること、コミュニケーション力が身につくこと、一方でコミュニケーションの難しさも実感できること、小グループだと自分が動かなければグループも動かないと学べること、主体性が醸成されることなどの長所がスライドを用いて説明されました。

中島岳志教授

中島岳志教授からは、なぜ東工大の文系教育にこれほどの注目が集まるのかについての意見が出されました。「昨今、文系学部廃止論が話題となっていますが、そうした理系の学問の有用性を優先させる議論に対して、文系も長い時間軸の中での価値創造性という意味では役に立つと反論している場合が多いようです。しかし、位相によっては役に立たないことこそが役に立つということを、文系側からもはっきりと主張すべきだと思っています。戦争経験者からは『絶望的な戦場で自分を救ってくれたのは、大学で学んだ教養だった』という声を聞きますが、日常的に役に立たないことは日常が反転したときに役に立つ、これこそがリベラルアーツの本質です」との考えを述べました。

会場の様子
会場の様子

その後、中島教授の意見を受ける形で、教養の位置付けについてパネリスト間で活発に意見が交わされ、本シンポジウムは盛況のうちに終了しました。

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リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

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お問い合わせ先

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Tel : 03-5734-2104

医農薬品の構造モチーフとして注目されるジフルオロメチル基の光触媒的導入法を開発

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授らは、フォトレドックス触媒[用語1]を活用し、適切なジフルオロメチル化[用語2]試薬と水やアルコール、カルボン酸を反応溶媒に混合し、入手容易なオレフィン類[用語3]から、位置特異的[用語4]にジフルオロメチル基を有するアルコールやエーテル、エステルの合成に成功した(図1)。

この反応は室温で、発光ダイオード(LED)を光源とした可視光照射で実施可能である。また、高い官能基許容性[用語5]が特徴であり、生物活性を有するエストロンやアミノ酸構造を損なうことなく、触媒的ジフルオロメチル化反応を達成した。ジフルオロメチル基を医農薬品合成の最終段階で導入可能であることを示唆しており、開発した反応系は多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

研究成果

東工大の小池助教らは、医農薬品の有用な構造モチーフ[用語6]とされるジフルオロメチル基の有機分子骨格への新しい導入法を開発した。フォトレドックス触媒と呼ばれる光触媒とN-tosyl-S-difluoromethyl-S-phenylsulfoximine試薬(CF2H化剤)をジフルオロメチル源として可視光(425 nm)照射下、水やアルコール、カルボン酸などの酸素求核剤存在下、オレフィン類に作用させると、ジフルオロメチル基と酸素求核剤が炭素-炭素二重結合部位に対して位置特異的に付加したジフルオロメチル化合物が得られた。

ジフルオロメチル基は、脂溶性水素結合を提供するユニークな構造でアルコールやチオールの生物学的等価体[用語7]として機能し、薬化学だけでなく構造化学の分野においても近年注目されている。従来の多段階の合成法と異なり、新触媒反応は医農薬品開発の分野で、今後、広く使われていくことが見込まれる。

研究成果はWiley-VCH誌「Chemistry A European Journal」に2015年12月16日にオンライン掲載され、オープンアクセスとなっている。

研究成果:光触媒的オレフィンのジフルオロメチル化

図1. 研究成果:光触媒的オレフィンのジフルオロメチル化

研究の背景

ジフルオロメチル基は、その構造から、脂溶性水素結合供与体、アルコールやチオールの生物学的等価体としてふるまうため、医農薬品の構造モチーフとして近年注目されている。しかしながら、ジフルオロメチル基を触媒的に直接分子骨格に導入する手法はいまだに限られており、一般的には保護基(PG)を有するジフルオロアルキル化を行い、脱保護を行うことで合成されている。このような多段階の合成法に対して、触媒的に直接ジフルオロメチル基を分子骨格に導入する手法の開発が求められている(図2)。

本方法と一般的な従来法の比較

図2. 本方法と一般的な従来法の比較

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、オレフィンの炭素―炭素二重結合にジフルオロメチル基を導入するだけでなく、同時に他の官能基(今回の反応では酸素官能基)も導入できるため、今後は多様な官能基とフッ素官能基を同時に、簡便・短工程で導入する触媒的合成法の開発とその医農薬品としての利用をめざす。

用語説明

[用語1] フォトレドックス触媒 : 下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。

フォトレドックス触媒

[用語2] ジフルオロメチル基 : 下図に示すように、全元素中最大の電気陰性度を有し、水素原子に近い大きさを有するフッ素原子を2つ、水素原子をひとつ同一炭素上に有するジフルオロメチル基は、電子状態や立体的環境がチオールやアルコールに近いと考えられている。

ジフルオロメチル基

[用語3] オレフィン類 : 脂肪族不飽和炭化水素で、C=C結合をもつ化合物。

[用語4] 位置特異的 : 2つ以上の反応点があるときに、特定の場所で反応が進行すること。本反応ではオレフィン炭素ー炭素二重結合のフェニル基が結合している炭素に酸素求核剤が、反対側の炭素にジフルオロメチル基が選択的に導入されること。

[用語5] 官能基許容性 : さまざまな官能基が基質に存在しても、問題なく目的の反応が進行し、官能基も損なわれないこと。

[用語6] 構造モチーフ : 機能を発現するうえで重要な構造構成単位。

[用語7] 生物学的等価体 : 生物活性発現に関与するある特定の物理化学性質が、共通または類似している置換基あるいは部分構造。生物学的等価体への置換は、もとの化合物と類似した生物学的性質を有する新規化合物を創製するための手法として医薬品化学において利用される。もとの化合物のいくつかの性質は保持されるが、他の性質が変化することから、活性、選択性の増加、あるいは毒性や副作用の低減などが期待できる。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry A European Journal
論文タイトル :
Oxydifluoromethylation of Alkenes by Photoredox Catalysis: Simple Synthesis of CF2H-Containing Alcohols
著者 :
新井悠亮、富田廉、安藤岳、小池隆司、穐田宗隆
所属 :
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
助教 小池隆司

Email : koike.t.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5229 / Fax : 045-924-5230


フジテレビ「未来360会議」にリベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授が出演

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リベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授が、フジテレビ「未来360会議」に出演します。

西田亮介准教授
西田亮介准教授

西田亮介准教授のコメント

私の専門分野は「情報社会学」です。民主主義の普及啓発課程とその歴史や、情報と政治、情報と社会などにおける諸課題の研究を行っています。

今回の番組では、近未来の社会や政治、民主主義について、出演者の皆さま方と自由闊達に議論していますので、普段、政治や国家にあまり興味のない方も楽しんでご覧いただけると思います。

  • 番組名
    フジテレビ「未来360会議」
  • 放送予定日
    2016年8月25日(木) 2:25~2:50 (24日(水)深夜 26:25〜26:50)

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問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

ガラスの新しい物性制御法を開発―微量の電子を混ぜただけで、ガラスの転移温度が100℃以上も低下―

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ポイント

  • 液体の構造が凍結されてガラスになる転移温度は、ガラスの網目構造のつながり具合で決まるのが常識だった。
  • 酸素イオンを数%の電子に置き換えた「電子化物ガラス」は、網目構造は同じままで転移温度が大幅に低下することを発見した。
  • 電子が他のイオンより動きやすいために、電子化によりガラスの転移温度が低下することを、第一原理分子動力学計算[用語1]で検証した。
  • 陰イオンとして機能する電子の添加が新しいガラスの物性の制御法になることを提唱。

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学 元素戦略研究センター センター長/科学技術創成研究院の細野秀雄教授と、米国パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)のピーター・スシュコ グループリーダーらは、電子化物ガラスが、従来のガラスと大きく異なるユニークな物性を持つことを、実験と計算によって、初めて明らかにしました。

液体の構造が凍結される温度(転移温度)などのガラスの物性は、ガラスの網目を形成する成分(NWF)とそれを切断する成分(NWM)の比、つまり化学組成で決まります。本研究グループは、12CaO・7Al2O3(マイエナイト)電子化物(C12A7:e-)のガラスを作製し、物性と構造を検討したところ、化学組成はそのままにも関わらず、酸素イオンの3%を電子に置き換えただけで、転移温度が100℃以上も低下することを見いだしました。これまでに、ガラスの化学組成を大幅に変えることで転移温度を低下させた例は膨大にありますが、これほどの大幅な低下は報告がありません。

第一原理分子動力学計算によって電子アニオン[用語2]の周囲の局所構造とその温度による変化を検討した結果、電子アニオンは他のイオンよりもずっと動きやすいために、微量の電子アニオンが酸素イオンと置き換わることで転移温度が顕著に低下したことが明らかになりました。

これまで、転移温度はNWMとNWFの割合で決まるという常識のもと、微量成分でそれを制御することは不可能と考えられてきました。今回の成果により、電子アニオンを用いればそれが可能となることが示されました。これが契機となって未開拓であった電子化物ガラスという領域が拓けることが期待されます。

本研究は、東京工業大学とPNNLが共同で行ったものです。

本成果は、2016年8月22日の週(米国東部時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ACCEL

  • 研究開発課題名
    「エレクトライドの物質科学と応用展開」
  • 研究代表者
    東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
  • PM
    科学技術振興機構 横山壽治
  • 研究開発実施場所
    東京工業大学
  • 研究開発期間
    平成25年10月~平成30年3月

研究の背景と経緯

電子がアニオンとしてふるまう化合物群を電子化物(エレクトライド)と総称します。新しい概念の物質として興味を持たれていますが、室温・大気中で安定な物質がなかったため、物性研究はほとんど進展していませんでした。2004年に細野グループは12CaO・7Al2O3(以下、C12A7)の酸素イオンを電子で置き換えた電子化物C12A7:e-の合成に成功し、これが空気中で高温まで安定な初めての電子化物となりました。

C12A7そのものはセメントの成分でもあり典型的な絶縁体ですが、電子化物C12A7:e-は金属的伝導を示し、低温においては超伝導を示します。また、C12A7:e-はアルカリ金属と同程度に電子を放出しやすいものの、化学的に安定というユニークな物性を持つことを利用して、低圧・低温下でのアンモニア合成触媒の担体や電子放出源としても応用が期待されています。

酸素を含まない環境でC12A7:e-を加熱して融解し、それを急冷すると電子化ガラスが得られます。得られたC12A7:e-ガラスは、結晶のC12A7:e-とほぼ同程度の電子アニオンを含んでいるために結晶と同様に黒色を示しますが、室温付近ではほとんど電気伝導を示しません。

本研究では、このC12A7:e-ガラスのガラス転移温度と電子アニオン濃度との関係を調べました。

ガラスになる物質を高温で融点以上まで加熱して融解させ、それを冷却していくと粘性が増大し融点でも結晶化せず過冷却され、その体積は滑らかに減少し、ある温度に達すと体積変化が急に小さくなります(図1)。この温度がガラス転移温度(Tg)で、Tg以下の状態がガラスであり、過冷却融体[用語3]の状態がTgで凍結された構造を持っています。Tgはガラスを特徴づける最も基本的な物性値で、網目が連続的につながっている構造を持っているほどその値は高く、網目が不連続になるほど低くなります。網目のつながりの程度は、化学組成によって決まり、網目を構成する成分(NWF)の割合が多いほど高く、Tgも高温となります。そのため、Tgを変化させるには化学組成を大きく変えることが必要と考えられてきました。

ガラス転移の概念図

図1. ガラス転移の概念図

Tgで過冷却液体の状態が凍結され、ガラス状態となる。

研究の内容

極めて低い酸素分圧の雰囲気で結晶のC12A7:e-を赤外線加熱炉で融解し急冷すると、黒色のガラスが得られます(図2)。これを高温で空気中の酸素と反応して電子が消失しないようにしながら、示差熱分析[用語4]を行い、Tgを決定しました。図2のように、ベースラインが吸熱側に急にシフトする温度が観測できます。固体から液体の状態に変化する際に、固定されていた原子の重心が移動できるようになるために生じる現象で、比熱のジャンプに相当します。これがTgです。図から明らかなように、電子の濃度が低い1020cm-3以下ではTgはおよそ830℃ですが、0.2x1021cm-3になると770℃、1021cm-3まで高めると725℃まで顕著に低下します。1021cm-3の電子濃度は、このガラスを構成している酸素イオン(O2-)の3%を電子に置き換えた濃度に相当します。

xCaO・(100-x)Al2O3ガラスのガラス転移温度(Tg)

図2. xCaO・(100-x)Al2O3ガラスのガラス転移温度(Tg)

青:電子を含まないガラス、赤:電子アニオンを含むガラス。右図は電子化物ガラスの写真と示差熱分析によるTgの電子アニオン濃度による変化。矢印がTg。含まれる電子アニオン濃度が高いほど、カルシウム濃度はほとんど不変なのにTgは顕著に低下する。

電子を含んでいないxCaO・(1-x)Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの2成分系)の普通のガラスでは、xを0.55から0.75まで変えてガラスの網目構造のつながりを大幅に変えても、Tgの変化幅は65℃です。すなわち、今回作製した電子化ガラスでは、網目構造はほとんど変えないのに、わずか3%の酸素イオンを電子に置き換えただけで、これまで得られたことのない低いTgを持つガラスが得られたのです。

次に、このガラスの構造とガラス転移を第一原理分子動力学法でシミュレーションを行いました。計算は2,000 K付近(1,727 ℃)で結晶を融解させ、そこから100K(-173℃)まで急冷しました(図3)。その結果、試料の比熱(a)がピークとなるガラス転移点が、電子化物ガラスではおよそ1,150 K(877℃)、電子アニオンを含んでいないガラスではおよそ1,250 K(977 ℃)なので、電子アニオンが存在すると約100℃低温にずれています。これは実験で観察されたTgの差と同じです。構成原子の平均原子速度の温度変化(b)をみると、Alは高温で動きが遅くなりますが、酸素とカルシウムはより低温まで速度は低下しませんが、1,300~1,100 Kで急に低下します。この温度はTgに相当し、電子化物ガラスの方が低い温度になっています。シミュレーションによると電子アニオンは、図4のように2種類のサイトで、対を形成しながら酸素イオンのサイトを占有しており、実験で得られた光吸収スペクトルに2本の大きな吸収帯がみられることに対応します。

通常のNWMは、イオン性結合を形成し網目構造を切断することでTgを下げます。電子化ガラスでは、電子アニオンがイオンよりも圧倒的に動きやすいため、局所的に温度が高い状態になっており、より低温にならないと系全体の構造が凍結されるガラス転移が生じないと理解できます(図5)。

電子アニオンなしカルシウムアルミン酸ガラス(C12A7:O2-、化学組成([Ca24Al28O64(e)4])と電子化物ガラス(C12A7:e-)の第一原理分子動力学計算による融体からの急冷過程での比熱(a)と構成原子の平均原子速度(b)
図3.
電子アニオンなしカルシウムアルミン酸ガラス(C12A7:O2-、化学組成([Ca24Al28O64(e)4])と電子化物ガラス(C12A7:e-)の第一原理分子動力学計算による融体からの急冷過程での比熱(a)と構成原子の平均原子速度(b)

図aの点線は比熱の高温極限での理論値(3.0)。図bの単位はオングストローム/フェムト秒、点線はガラス転移が生じる温度域。Tgに相当する比熱のピークでCaと酸素(O)の動きが急に遅くなる。その温度は電子化物の方が約100℃ほど低く、実験結果を再現している。C12A7:ρ-は、電子アニオンを系全体に均質の分布させた仮想的ガラス。

第一原理分子動力学シミュレーションによる電子アニオンのガラス中に存在する局所構造

図4. 第一原理分子動力学シミュレーションによる電子アニオンのガラス中に存在する局所構造

電子(緑)は3つの異なる構造で対を形成している。

ガラス転移温度の制御

図5. ガラス転移温度の制御

網目構造を持つガラスにイオン結合性の高いイオン(赤)を加えることによりTgを低下させることが常識であったが、網目を構成する酸素イオン(青)の一部を電子(緑)で置き換えると、微量でTgを大幅に変化できる。これは、イオンよりも電子の方が圧倒的に動きやすいため、局所的に温度が高い状態と同じ状態が実現しているためと理解できる。

今後の展開

C12A7:e-は、通常のスパッター法[用語5]で室温で大面積の透明な薄膜を作製できます。また、できた薄膜は仕事関数[用語6]が金属のリチウム並みに小さく、しかも大気中で安定というユニークな特徴を持っています。これを利用して有機EL用の電子注入材料[用語7]としての応用などが検討されています。また、電子化物ガラスは、全く新しいタイプのガラスであり、今回見いだされた以外にもこれまでの常識とは大幅に異なる物性を持つことが予想され、学術と応用の両面でこれからの進展が期待されます。

用語説明

[用語1] 第一原理分子動力学計算 : 分子、固体結晶について、原子オーダーのミクロな構造やそれに伴う物性との因果関係を探るため、量子力学をベースに原子内部の電子状態を記述する方程式を用いる計算機シミュレーション。

[用語2] 電子アニオン : イオン結晶は陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)から構成されている。そのアニオンを電子に置き換えたものが電子アニオン。電子はマイナスの電荷を持っているという点ではアニオンと同じだが、質量が極めて小さいため、かなり異なった挙動が予想される。

[用語3] 過冷却融体 : 融点以下になっても結晶化せずに液体の状態を保っている融体。

[用語4] 示差熱分析 : 温度変化による試料の吸熱と発熱を測定する分析法。

[用語5] スパッター法 : 薄膜化したい物質に真空下・高電圧でイオン化したアルゴンなどを衝突させることで製膜する汎用の技術。

[用語6] 仕事関数 : 物質表面において、表面から1個の電子を外部に取り出すのに必要な最小エネルギー。

[用語7] 電子注入材料 : 有機ELは陰極と陽極の間に薄い有機物の発光層を挟んだデバイスで電圧をかけると発光する。電子注入層は陰極から電子を発光層に効率よく到達させる役割を持つ。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)
論文タイトル :
"Electron anions and the glass transition temperature"
(電子アニオンとガラス転移温度)
著者 :
Lewis E.Johnson, Peter Sushko, Yudai Tomota, and Hideo Hosono
DOI :
10.1073/pnas.1606891113

問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 元素戦略研究センター センター長
科学技術創成研究院 教授
細野秀雄

Email : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5196

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ACCELグループ
寺下大地

Email : suishinf@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9130 / Fax : 03-3222-2066

報道担当

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学教員が関東工学教育協会賞業績賞を受賞

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工学院所属教員による取り組み1件、および物質理工学院・科学技術創成研究院等所属教員による取り組み1件の計2件が、平成27年度関東工学教育協会賞(業績賞)を受賞しました。

関東工学教育協会賞は、関東工学教育協会が設立・実施する表彰制度であり、会員の教育意欲の一層の向上に資するとともに、関東地区、ひいては日本における工学・工業教育の発展を期するものです。同賞には「功績賞」「業績賞」「論文・論説賞」「著作賞」「協会貢献賞」の5つの分類があり、今回は、工学教育、工業教育ならびに技術教育等の分野において効果的な業績をあげた個人または団体に対して授与される「業績賞」に選定されました。

1.インターネットクラウドサービスの導入とICT機器による授業改善

受賞者

千葉明教授(工学院)、杉元紘也助教(工学院)、安岡康一教授(工学院)、竹内希講師(工学院)

水本哲弥教授(工学院)、中川茂樹教授(工学院)、高村陽太助教(工学院)、廣川二郎教授(工学院)

取組み内容

インターネットクラウドサービス「Handbook」と、学生の持っているスマートフォンなどの情報デバイスを活用し、工学部電気電子学科(※今年度新入生から工学院電気電子系に移行)の2、3年生100名程度の授業で双方向のアクティブラーニングを促進しています。

まず、授業開始時に配信される「小テスト」に、学生がそれぞれのデバイスから回答し、授業内で解説を行います。授業の内容や実施済みの小テストもクラウド上に保管され、学生がいつ、どこからでも閲覧し復習できるようになっています。また、授業終了後に「宿題」を配信し、最も早く正解した学生に、次回の授業で解説役を務めてもらうようにしたところ、プレゼンテーション用の資料を準備するなど、積極的に取り組む学生が増加しました。

学生を対象に行ったアンケートでも、特に「分かりやすさ」「興味喚起への工夫」といった項目が前年より大きく伸びており、満足度が高まっていることがわかりました。

詳細:「インターネットクラウドサービスの導入とICT機器による授業改善」PDF

千葉明教授のコメント

千葉明教授
千葉明教授

工学部電気電子工学科では、学部2、3年生の授業にクラウドサービスを利用して、「eラーニング」「ICT機器の活用」を行っています。

開始当時、電気電子工学専攻長の松澤昭教授が教育改革を強く推進しており、私も電気電子工学科長として、2、3年生のクラウドサービスのアカウントを購入し、活用法を検討しました。電気電子系の担当教員はもともと情報技術分野に強いため、その強みを活かしました。

受講生が「良かった」とコメントしてくれるのが嬉しいです。今後は「アクティブラーニング」へのさらなる展開が重要と思います。

2.化学系学生に対する体験型安全教育の実践

受賞者

岡本昌樹准教授(物質理工学院)、田中浩士准教授(物質理工学院)、桑田繁樹准教授(物質理工学院)

小坂田耕太郎教授(科学技術創成研究院)、竹内大介准教授(科学技術創成研究院)、矢野哲司教授(物質理工学院)

渕野哲郎准教授(物質理工学院)、加藤博子助教(総合安全管理センター)

取組み内容

理学院、物質理工学院の化学を専門とする大学院生全員を主な対象とした大学院授業科目「化学環境安全教育」を実施し、実験室での安全性の維持向上に役立てています。

危険物取扱企業や消防署から外部講師を招き、化学実験を安全に行う上で必須の火災対処法、薬品・ガス取扱法、救急救命法、事故防止策、環境保全(廃棄物の適切処理)を網羅的に学べるよう配慮しました。

さらに、全員参加の実習やデモ実験も交えたことで学生や教員の評価も高くなっており、研究室内での学生の安全活動への積極的な関与に繋げています。

詳細:「化学系学生に対する体験型安全教育の実践」PDF

岡本昌樹准教授のコメント

岡本昌樹准教授
岡本昌樹准教授

「化学環境安全教育」の授業は、化学を専門とする大学院生に対して10年以上前から開講しており、座学に加えて消防署や高圧ガス取扱企業のご協力のもと実習を行うことが特徴です。

その結果、化学を専門とする研究室における火災事故の発生率が低く抑えられているなどの高い教育効果が得られています。

これまで実習にご協力いただいた外部講師の皆様に深く感謝いたします。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2976

ぺプチドリーム社と特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の共同研究契約を締結

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ペプチドリーム株式会社(以下「PD社」)と東工大との間で、スーパーコンピュータTSUBAME 2.5を利用した特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の開発に関する共同研究契約を締結しました。

東工大が保有するスーパーコンピュータTSUBAME 2.5東工大が保有するスーパーコンピュータTSUBAME 2.5

PD社は、以前より、多くの製薬企業との共同研究開発や自社研究開発において取得・保有している特殊環状ペプチドに関して、薬理活性のみならず薬物の体内動態に関わる化合物の種々のプロファイル(溶解度、膜透過性、血中安定性、血漿タンパク結合能、代謝安定性、酸に対する安定性等々)と特殊環状ペプチドの2次元・3次元構造との間の相関について、統計的・包括的な理解に努めてきました。

本共同研究では、PD社が保有・取得する特殊環状ペプチドの大量の実験データを基盤として、東工大が保有するスーパーコンピュータ及び計算科学、機械学習・人工知能技術を活用したインシリコ予測技術を確立することを目指しています。対象となるのは、特殊環状ペプチドの細胞膜透過性及び血漿タンパク結合能の計算機による高性能予測です。

これらを確立することにより、PD社独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS(Peptide Discovery Platform System)から得られるヒットペプチドの最適化をさらに効率的にし、医薬品候補化合物の取得を加速できるものと考えています。

東工大では秋山泰教授(情報理工学院教授、科学技術創成研究院スマート創薬研究ユニットメンバー)を中心とした研究グループが、スーパーコンピュータを利用したペプチド分子の分子シミュレーションや、機械学習を応用した分子特性の計算機予測技術を保有しており、今回の共同研究を担当します。

過去6年間に、PD社は多くの世界的製薬企業(米アムジェン(AMGEN)社、英アストラゼネカ(AstraZeneca)社、米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(Bristol-Myers-Squibb)社、米ジェネンテック(Genentech)社、英グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)社、仏イプセン(IPSEN)社、米リリー(Lilly)社、米メルク(Merck)社、スイスノバルティス(NOVARTIS)社、仏サノフィ(Sanofi)社、旭化成ファーマ株式会社、杏林製薬株式会社、塩野義製薬株式会社、第一三共株式会社、田辺三菱製薬株式会社、帝人ファーマ株式会社)との間で創薬研究開発契約を結び、戦略的共同研究開発を行ってきました。さらに、米ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、スイスノバルティス社及び米リリー社に対しては、PD社独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS の非独占的なライセンス許諾(技術ライセンス契約)を実施しています。

ペプチドリーム株式会社 常務取締役 リード・パトリック氏と取締役研究開発部長 舛屋圭一氏のコメント

「スーパーコンピュータを駆使した高性能計算や人工知能の分野で世界を牽引する東工大との共同研究を始められることに大変興奮しております。当社が有する特殊環状ペプチドに関するあらゆる実験データ・知見を基盤に、東工大が有するペプチド分子の分子シミュレーションや、機械学習を応用した分子特性の計算機予測技術を駆使することで、これまでに明らかになっていなかったペプチドの構造とプロファイルの相関を見出せるのではないかと考えています。」

特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の共同研究

ペプチドリーム株式会社について

ペプチドリーム株式会社は、「日本発、世界初の新薬を創出し社会に貢献したい」という現社長の窪田規一氏と現社外取締役の菅裕明氏(東京大学大学院教授)の共通の夢から、2006年7月に設立されました。独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS(Peptide Discovery Platform System)を用いて、極めて広範囲にわたる特殊ペプチドを多数(数兆種類)合成し、高速な評価を可能にすることで、創薬において重要なヒット化合物の創生、リード化合物の選択、もしくはファーマコフォアの理解を極めて簡便に、かつ、効率的に行えるようにしました。ぺプチドリーム株式会社は、特殊ペプチドを用いた創薬企業の世界的なリーダーとして世界中の病気で苦しんでいる人々に画期的新薬を提供することを使命として、研究開発に取り組んでおります。

※ インシリコ(イン・シリコ/in silico

研究で頻繁に見られる表現、in vivo(生体内で)やin vitro(ガラス、すなわち試験管内で)などに準じて作られた用語で、文字どおりには「シリコン内で」の意味。実際には「コンピュータを用いて」を意味する。実験や測定に関連するシミュレーション計算など、実際に対象物を取り扱わず計算で結果を予測する手法を指して インシリコ(in silico)と呼ぶ。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

ペプチドリーム株式会社

Tel : 03-3485-7707

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

電気分極の回転による圧電特性の向上を確認―圧電メカニズムを実験で解明、非鉛材料の開発に道―

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の北條元助教、東正樹教授、清水啓佑大学院生、東京大学大学院 工学系研究科の幾原雄一教授の研究グループは、圧電体[用語1]の結晶中で、電気分極[用語2]の方向が回転することにより圧電特性が向上することを、実験的に確認することに成功した。分極の回転は、実用材料であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)の巨大圧電特性の起源といわれながら、これまで実際に圧電特性向上に寄与することが実験的に確認されたことがなかった。

本研究グループは、PZTを模して新しく開発したコバルト酸鉄酸ビスマス圧電体を、圧電特性の評価が可能な薄膜形態で安定化させ、その結晶構造と圧電特性を詳しく調べた。その結果、分極回転の起こりうる結晶構造で圧電特性が向上することを見いだした。また、圧電特性は、結晶歪みの大きな構造、すなわち分極が回転する余地のある構造ほど向上した。今回の結果は環境に有害な鉛を使わない新圧電材料の開発につながると期待される。この成果は独国科学誌「Advanced Materials」のオンライン版で8月24日に公開される。

研究の背景

力を加えると電荷が発生し、電圧をかけると変形する圧電体は、電気と運動(変形)を変換する物質であり、センサーやアクチュエーター(駆動装置)[用語3]として、超音波診断機やインクジェットプリンター、カメラなどさまざまな電子機器に使われている。現在の主流はPZTと呼ばれる、チタン酸鉛とジルコン酸鉛が混ざりあった固溶体材料だが、毒性元素である鉛を重量で68%も含むため、国際社会からは非鉛の代替物質の開発が望まれている。

PZTの優れた圧電特性は、菱面体晶ペロブスカイト[用語4]のジルコン酸鉛と正方晶ペロブスカイト[用語5]のチタン酸鉛との相境界に、単斜晶相[用語6]と呼ばれる対称性の低い結晶相が存在し、そこでは電気分極の方向が結晶構造内で変化(回転)できることによると考えられている(図1)。すなわち分極の回転によって大きな歪みが生じる。しかし、こうした分極回転が実際に圧電特性向上に寄与することが、実験によって確認されたことはなかった。

正方晶(左)、菱面体晶(中央)と、MA型の単斜晶圧電体の結晶構造(右)。

図1. 正方晶(左)、菱面体晶(中央)と、MA型の単斜晶圧電体の結晶構造(右)。

正方晶相と菱面体晶相では矢印で示した電気分極の方向が固定されているのに対し、単斜晶相では分極の方向がピンクの面内で回転できる。

研究成果

東教授ら研究グループは、結晶構造の類似性から、菱面体晶ペロブスカイトの鉄酸ビスマスと正方晶ペロブスカイトのコバルト酸ビスマスとが混ざり合った固溶体、BiFe1-xCoxO3に着目した。その詳細な結晶構造の解析を行うことにより、PZTで見つかっているのと同様のMA[用語7]の単斜晶相が同固溶体に存在すること、またその結晶構造において電気分極の回転が実際に起こりうることを示してきた。

今回、北條助教、東教授ら研究グループは、BiFe1-xCoxO3を圧電特性の評価が可能な薄膜形態で安定化させることに成功した。薄膜X線回折[用語8]走査透過電子顕微鏡[用語9]を用いた詳細な結晶構造解析を実施し、コバルト量の増加に伴いその結晶構造がPZTとは分極の方向が異なるMC[用語10]の単斜晶相からMA型の単斜晶相へ、さらに正方晶相へと変化することを見いだした。

詳細な圧電特性評価の結果、MA型の単斜晶相において圧電特性が向上することが明らかとなった(図2)。また、結晶歪みの大きな構造、すなわち分極が回転する余地のある構造ほど圧電特性が向上した。このことは、電気分極の方向が回転することによって圧電特性が向上することを意味している。

M<sub>C</sub>型単斜晶、M<sub>A</sub>型単斜晶、正方晶構造の模式図と、圧電特性のCo置換量依存性

図2. MC型単斜晶、MA型単斜晶、正方晶構造の模式図と、圧電特性のCo置換量依存性

今後の展開

今回の成果はPZTの優れた圧電特性の起源であるとされていた、単斜晶相における電気分極の回転が実際に圧電特性向上に寄与することを実験的に証明したものである。これにより、ペロブスカイト圧電体の圧電特性向上のためガイドラインが示され、新しい非鉛圧電体の開発に拍車がかかるものと期待されている。

付記

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓?材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究B「電界誘起の構造相転移を用いた巨大な圧電応答の実現」(代表・北條元東京工業大学助教)、基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、挑戦的萌芽研究「分極回転機構による巨大圧電材料の実現」(代表・東正樹東京工業大学教授)、旭硝子財団研究助成「ナノ構造の解析と制御によるBi系ペロブスカイト圧電体の開発」(代表・北條元東京工業大学助教)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 圧電体 : 応力をかけると表面に電荷が現れ、電界を印加すると、変形する物質。電気分極を持っているためにこうした性質が表れる。

[用語2] 電気分極 : 物質中で陽イオンと負イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り。

[用語3] アクチュエーター : 伸縮・屈伸・旋回といった、単純な運動をする駆動装置。

[用語4] 菱面体晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。結晶構造中の原子の繰り返し周期である単位格子が、立方体ではなく、頂点方向に伸びたものを菱面体晶と呼ぶ。

[用語5] 正方晶ペロブスカイト : 単位格子が、立方体ではなく、一方向に伸びた直方体であるペロブスカイト。

[用語6] 単斜晶相 : 単位格子の持つ3つの角の内、1つが90°からずれた結晶相。

[用語7] MA : 電気分極を持った単斜晶相の分類。単斜晶歪み、すなわち電気分極の傾斜方向が、ペロブスカイトセル底面の対角方向である構造。

[用語8] 薄膜X線回折 : 薄膜の構造を調べる方法。X線を薄膜試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語9] 走査透過電子顕微鏡 : 電子顕微鏡の一種。0.1ナノメートル(1億分の1センチメートル)程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する。

[用語10] MC : 単斜晶歪み、すなわち電気分極の傾斜方向が、ペロブスカイトセル底面の一辺方向である構造。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Enhanced piezoelectric response due to polarization rotation in cobalt-substituted BiFeO3 epitaxial thin films
著者 :
Keisuke Shimizu, Hajime Hojo, Yuichi Ikuhara, and Masaki Azuma
DOI :

問い合わせ先

本研究全般に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東正樹

Email : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 080-4402-5315、045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

東京大学問い合わせ先

東京大学 大学院工学系研究科
教授 幾原雄一

Email : ikuhara@sigma.ac.jp
Tel : 03-5841-7688 / Fax : 03-5841-7694

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

Email : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-1790 / Fax : 03-5841-0529

ビスマス単原子シートの超伝導体化に成功―新たな超伝導体発見手法として期待―

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概要

東北大学 大学院理学研究科の福村知昭教授、清良輔大学院生(東北大学 大学院理学研究科、東京大学 大学院理学系研究科)、東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の長谷川哲也教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の川路均教授らは、ビスマス層状酸化物の新超伝導体を発見しました。

原子層のブロックが積み重なった構造をもつ層状化合物では、銅酸化物や鉄系化合物に見られる高温超伝導[用語1]のような特異な物性が期待されることから、層状化合物の新しい超伝導体の探索がさかんに行われています。新しい超伝導体の発見は、新たな現象や別の新超伝導体の発見につながる可能性があります。

本研究グループは、これまで超伝導を示さないと考えられていたビスマス層状酸化物を超伝導化することに成功しました。この物質は、単原子の厚さのビスマスのシートと絶縁体酸化物ブロック層からなる構造をもち、ビスマスの単原子シートが超伝導状態になっていると考えられます。通常の化学組成では超伝導は発現しませんが、酸素を過剰に導入してビスマスの単原子シートの間隔を拡げることで、超伝導が発現します。

今回の成果により、同様の手法で他の層状化合物を超伝導体化することへの活用が期待されます。また、原子番号が大きくスピン軌道相互作用の大きいビスマスが超伝導を示すことから、量子コンピューターに活用できる特異な超伝導状態の発現の可能性があります。

本研究は、東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の長谷川哲也教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の川路均教授と共同で行ったもので、JSTの戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾皓平 理化学研究所 研究顧問/ グローバル研究クラスタ長)の助成を受けています。

本研究成果は、平成28年8月19日(米国東部時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開されました。

研究の背景と経緯

超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性[用語2]を示す科学の観点から重要な物理現象ですが、電力不要の送電線、リニアモーターカーに用いられる磁気浮上技術、電力貯蔵など産業応用やエネルギー問題にも活用可能な現象です。後者の目的のためには、できるだけ室温に近い高温まで超伝導状態を保つことができる高温超伝導体[用語3]が必要です。1987年に銅酸化物の高温超伝導が発見され、多くの高温超伝導体が発見されましたが、ここ25年の間、常圧における超伝導の転移温度の最高値は更新されておらず、マイナス150度程度という非常に低い温度にとどまっています。これは、高温超伝導体の物質設計法が確立されていないのが原因です。したがって、新しい超伝導体の探索を継続的に行っていき、高温超伝導体の設計指針を構築することが重要です。

金属のアルミや鉛は低温で超伝導を示します。一方、複数の元素から構成される遷移金属化合物の場合、ある化学的手法を施すことによって初めて超伝導が発現する場合があります。たとえば、La2CuO4は絶縁体ですが、一定量のLaをSrで置換すると、正孔[用語4]キャリアがドープされることによって超伝導体に変化します。また、HfNClは非超伝導体ですが、そのへき開面に相当する位置に有機分子を挿入すると、結晶格子が大きく伸ばされて超伝導体に変化します。このような、元素の置換によるキャリアのドープや、分子の挿入による結晶格子の大きな伸張は、超伝導体を得る化学的手法として、しばしば用いられてきました。

ビスマス化合物は熱電材料[用語5]トポロジカル絶縁体[用語6]といったエネルギー変換・省エネルギー材料としてさかんに研究されています。一方、超伝導を示すビスマス化合物はそれほどありません。ただし、最近発見された高温超伝導を示す鉄系化合物と類似した結晶構造をもつビスマス層状化合物が多いことから、超伝導体の探索も行われてきました。これらのビスマス層状化合物は、単原子の厚さのビスマス正方格子とブロック層の積層構造になっています。これらの化合物では超伝導もいくつか報告されていますが、不純物析出相の超伝導の可能性もあり、ビスマス正方格子が超伝導状態になっている確かな証拠はありませんでした。さらに、本研究対象のビスマス層状化合物Y2O2Biについては、超伝導体でないという見解がとられていました。

研究の内容

本研究で用いた材料はY2O2Biというビスマス層状酸化物で、2011年に東京工業大学のグループから報告されました。図1のように、この材料は、高温超伝導体として知られる鉄系化合物BaFe2As2と同じ結晶構造です。ただし、BaFe2As2ではFe2As2ブロック層が超伝導を担っていますが、Y2O2BiではBi単原子シートが超伝導を担っています。これらの2つの材料は同じ結晶構造ですが、超伝導を担う場所が互い違いになっています。

本研究で扱ったY2O2Bi(右)と高温超伝導体BaFe2As2(左)の結晶構造

図1. 本研究で扱ったY2O2Bi(右)と高温超伝導体BaFe2As2(左)の結晶構造

BaFe2As2ではFeAsブロック層が超伝導を担っていますが、Y2O2BiではBi単原子シートが超伝導を担っています。

Y2O2Biは、それまで電気伝導性は示すものの、超伝導体と考えられていませんでした。2014年に、本研究グループの東大・東北大の研究チームが、この材料のエピタキシャル薄膜成長に世界で初めて成功しましたが、その過程で、ゼロ抵抗は示さないものの、極低温で抵抗が急にわずかだけ減少する現象を見出しました。今回、Y2O2Biの酸素をより過剰になる組成で合成したところ、ゼロ抵抗と完全反磁性を示す超伝導の観測に成功しました。東工大のグループが開発した極低温の比熱測定装置により、超伝導の相転移を実証できました。

その後の分析により、ビスマス単原子シートの間の間隔(c軸の結晶の単位長の半分に相当)がわずかに拡がっていることがわかりました(図2)。酸素を導入することで、酸素がビスマス単原子シートとYOブロック層の間のわずかな隙間に入り込んでc軸方向に結晶が伸びることが、超伝導が発現する機構と考えられます(図3)。c軸方向の結晶の伸び率は、HfNClのようなへき開面に大きな有機分子を挿入して超伝導が発現する場合に比べて非常に小さいですが(図2)、その伸び率に対する超伝導転移温度の上昇率は、Y2O2Biのほうが非常に大きいことがわかります。このような特異な挙動は、ビスマス単原子シートに発現する超伝導の性質に起因する可能性があります。

Y2O2Biの超伝導転移温度の変化

図2. Y2O2Biの超伝導転移温度の変化

左図:ビスマス単原子シート間の間隔に対する超伝導転移温度の変化。シート間隔が一定以上の値になると超伝導が発現します。
右図:さまざまな層状化合物における、c軸方向の結晶の伸び率に対する超伝導転移温度の変化率。HfNCl等に比べて、Y2O2Biは小さな結晶の伸び率で大きな超伝導転移温度の変化率を示します。挿入図は結晶の伸び率の小さい領域の拡大図。

考えられる超伝導の発現機構

図3. 考えられる超伝導の発現機構

酸素が、ビスマス単原子シートとYOブロック層の間の隙間に入り込み、c軸方向に結晶が伸びることで、超伝導が発現すると考えられます。

今後の展開

層状化合物の結晶構造の隙間に原子を挿入して結晶の単位長を精密に調節する、という手法はこれまでの超伝導体化のための化学手法とは異なっており、今回の手法を用いることによりビスマス化合物以外にも新たな超伝導体が見つかる可能性があります。ビスマス化合物は、量子コンピューターにも活用できると期待されているトポロジカル超伝導体化も試みられていますが、今回のY2O2Biは新しいタイプのビスマス化合物超伝導体であるため、特異な超伝導状態をもつかどうかも今後調べていく必要があります。

用語説明

[用語1] 超伝導 : 金属、合金、化合物などの温度を下げていくと、ある種の物質で電気抵抗がゼロ(ゼロ抵抗)になり、完全反磁性を示す現象。超伝導転移温度よりも低い温度で超伝導状態になる。

[用語2] 完全反磁性 : 温度を下げていき、常伝導状態から超伝導状態に変化したとき、試料内部を通っていた磁力線が外部にはじきだされてしまう現象。超伝導体のもつ基本的な性質である。マイスナー効果とも呼ばれる。

[用語3] 高温超伝導体 : 一般に、絶対温度約25 K(約マイナス250度)以上の超伝導転移温度を持つ超伝導体。たとえば、銅酸化物や鉄系超伝導体が知られている。

[用語4] 正孔 : 電子と反対の符号の電荷(正電荷)をもつ粒子。電子と同じく材料の中を流れる電流の源である。

[用語5] 熱電材料 : 材料に温度勾配があると起電力が生じる熱電効果が大きい材料。排熱を発電に利用することができるため、大きな熱電効果をもつ材料の探索がさかんである。

[用語6] トポロジカル絶縁体 : 物質の内部は絶縁体であるが、表面は電気伝導性を示す材料。次世代の低消費エレクトロニクス材料として期待されている。超伝導を示すトポロジカル絶縁体はトポロジカル超伝導体と呼ばれる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
"Two Dimensional Superconductivity Emerged at Monatomic Bi2- Square Net in Layered Y2O2Bi via Oxygen Incorporation"
(酸素導入によって発現した層状化合物Y2O2Biにおける単原子層Bi2-正方格子の2次元超伝導)
著者 :
Ryosuke Sei, Suguru Kitani, Tomoteru Fukumura, Hitoshi Kawaji, and Tetsuya Hasegawa
DOI :

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 大学院理学研究科 化学専攻
教授 福村知昭

Email : tomoteru.fukumura.e4@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7719 / Fax : 022-795-7719

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻
教授 長谷川哲也

Email : hasegawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4353 / Fax : 03-5841-4353

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 川路均

Email : kawaji@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5313 / Fax : 045-924-5339

報道に関すること

東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋亮

Email : sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572、022-795-6708 / Fax : 022-795-5831

東京大学 大学院理学系研究科・理学部
特任専門職員 武田加奈子
教授・広報室長 山内薫

Email : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

重イオン反応による新たな核分裂核データ取得方法を確立―核分裂現象の解明にも道―

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発表のポイント

  • 重イオン多核子移行反応を用いて、14種類におよぶ核種の核データを一度に取得
  • 中性子過剰な原子核の核分裂など、新たな領域の核分裂現象の開拓に期待

概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄。以下「原子力機構」)先端基礎研究センターの西尾勝久サブリーダー及び廣瀬健太郎研究副主幹らは、東京工業大学(学長 三島良直。以下「東工大」)科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、近畿大学(学長 塩﨑均)理工学部 電気電子工学科の有友嘉浩准教授らのグループとの共同研究により、核分裂核データとして重要な核分裂片の質量数収率分布[用語1]を重イオンどうしの衝突で生じる多核子移行反応[用語2]によって取得する新たな方法の開発に成功するとともに、動力学モデル[用語3]で実験データを再現することに成功しました。

アクチノイド原子核の中性子入射核分裂では、様々な種類の原子核が核分裂片として生成されます。核分裂片の質量数に対する収率の分布(質量数収率分布)は、原子炉の安全性に関わる崩壊熱[用語4]遅発中性子数[用語5]を決定する重要なデータです。また、長寿命マイナーアクチノイド原子核(MA)[用語6]を高エネルギー中性子入射核分裂で核変換する場合にも必要となります。これまでの中性子入射反応においては、高純度試料が入手できない、あるいは半減期が短いなどの理由から測定されていない核種があります。また、高エネルギー中性子データも極めて限られています。

本研究では、原子力機構タンデム加速器[用語7]で加速された酸素18ビームをトリウム232標的に照射することで、トリウムからウランにおよぶ14種類の原子核を一度に生成し、これらの核分裂の質量数収率分布を取得するとともに、1 MeVから50 MeVの中性子エネルギーに対応するデータを取得しました。この手法を用いれば、さらに多くの核種のデータ取得が可能になります。中性子過剰な原子核の核分裂も調べられるようになるため、新たな領域の核分裂研究の発展にもつながると期待されます。本研究成果は、2016年8月24日付で、オランダElsevier社が発行する「Physics Letters B」のオンライン版に掲載されました。

本研究は文部科学省の原子力システム研究開発事業による委託業務として、東工大と原子力機構が実施した平成24-27年度「高燃焼度原子炉動特性評価のための遅発中性子収率高精度化に関する研究開発」の成果です。

研究開発の背景

核分裂で生成される核分裂片には様々な核種が存在します。これら原子核の種類と生成確率は、原子炉の停止後に発生する崩壊熱量とこの時間変化に影響を与え、また原子炉の動特性を支配する遅発中性子の収率を決定します。さらに、長寿命のMAを高速中性子で照射して核分裂をおこし、より短寿命な核分裂生成物に変換する核変換技術を構築するためにも、様々なMA核種に対し、高い中性子エネルギー領域までのデータが必要となります。このように、質量数収率分布は、原子力エネルギーの利用において重要な核データです。必要となる中性子入射核データは、いくつかの核種について測定されているものの、高い純度の標的が得られない、またはその寿命が短いといった理由で測定データのない核種が多く存在します。また、高エネルギー中性子に対するデータは、単色の中性子源を作ることが容易でないことから、極めて限られていました。本研究では、加速した酸素18(18O)を高純度の標的核種に照射し、多核子移行反応(図1)を利用することで多種にわたる原子核と様々な励起状態を生成し、これらの核分裂を観測することで、問題を解決することを目指しました。この結果、未測定の核種のデータに加え、高エネルギー領域までのデータを取得することに成功しました。また、動力学モデルを用いて核分裂片の質量数収率分布を計算する手法を開発し、実験データをよく再現することに成功しました。核分裂過程を基礎的なモデルで記述するため、汎用性と適用性の高い核データ評価方法の構築に道を開いた成果と言えます。

多核子移行反応による核分裂片の質量数収率分布を測定する原理。酸素18ビームをトリウム232(232Th)標的に照射することで、複合核234Thを生成します。複合核の核分裂によって生じる2つの核分裂片の速度を測定することで運動学的に核分裂片の質量数を決定しました。
図1.
多核子移行反応による核分裂片の質量数収率分布を測定する原理。酸素18ビームをトリウム232(232Th)標的に照射することで、複合核234Thを生成します。複合核の核分裂によって生じる2つの核分裂片の速度を測定することで運動学的に核分裂片の質量数を決定しました。

研究の手法

多核子移行反応とは、重イオン反応において、入射核及び標的核が、これらを構成する中性子や陽子を交換する過程を表します。図1の例では、2つの中性子が18Oから232Thに移行し、複合核として234Thを生成しています。中性子や陽子が移行するパターンは様々であり、このため多くの種類の複合核が生成されます。複合核の核分裂を観測して核データを取得しますが、多核子移行反応を用いることで、一度に多くの核種のデータを取得できることが分かりますが、これまで実際に試みられたことはありませんでした。ここで重要となる測定技術は、反応の事象ごとに複合核を識別することです。本研究では、反応によって放出される様々な粒子の種類をシリコンΔE-E検出器[用語8](図2の写真)を用いて識別し、標的核に移行した中性子数と陽子数を決定することで複合核の同定に成功しました。例えば、図1において、酸素16(16O)の検出は、234Thが生成されたことを意味します。核分裂によって生成される核分裂片の質量数を決定するため、核分裂片の飛行時間分析を行って運動学的に質量を決定しました。このため、核分裂片を検出する位置検出型の多芯線比例計数管[用語9]を開発しました。234Thは、図1の例のように中性子が233Thに吸収されてできる複合核となることから、233Thの中性子入射核データを与えることとなります。この手法を一般に代理反応といいますが、本研究では核分裂質量数収率曲線を代理反応として初めて取得する方法を開発しました。

シリコンΔE-E検出器(写真)で検出された散乱粒子のスペクトル。酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)など様々な同位体が識別できており、これに対応して複合核の核種を決定しました。
図2.
シリコンΔE-E検出器(写真)で検出された散乱粒子のスペクトル。酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)など様々な同位体が識別できており、これに対応して複合核の核種を決定しました。

得られた成果

得られた結果を図3に示します。図からわかるように、1回の実験で14核種のデータを取得することに成功しました。このうち、231,234Th, 234,235,236Paについては、本実験により初めて取得したデータとなります。また、実験では、複合核が有する様々な励起状態を事象ごとに識別し、励起エネルギーに依存した核分裂を調べることに成功しました。これは、代理反応の視点から、入射する中性子エネルギー依存性を調べることと等価です。図3の縦の並びは、中性子エネルギーに換算した値として示しています。低い方では熱中性子~1 MeVのデータ、高い方では50 MeV入射のデータが得られました。本実験手法によれば、核種と中性子エネルギーに対するデータを1つの反応で得られることになり、多核子移行反応の有用性を示しています。

本研究では、動力学モデルによる計算を行い、実験データとの比較を行いました。このモデルでは、複合核状態にある原子核の形が時間とともに変形し、最終的に2つの核分裂片に分かれる過程をシミュレートするものです。図4に示すように、原子核は、その形状に対応したポテンシャルエネルギーを持ち、エネルギーの低いところを経由して核分裂が進むと考えます。ここで、左の図は、原子核の励起エネルギーが高い場合に原子核が感じるエネルギーを表し、このような状態は入射させる中性子のエネルギーが高い場合に生じます。しかし、励起エネルギーが低い場合、右図のようにポテンシャルエネルギーの変化が生じます。励起エネルギーが低いと、原子核の内部構造、すなわち中性子や陽子のエネルギー準位の分布が示す粗密構造(殻構造)が現れ、これに起因するエネルギー補正が必要となります。計算では、このようなミクロな効果を取り入れました。このようなポテンシャルエネルギーを基に、動力学モデルを適用することで原子核形状の時間発展をランジェバン方程式によって計算し、原子核がどのような質量数に分裂するかを調べました。このモンテカルロ法による計算結果を図3に曲線で示します。この計算では、原子核を構成する陽子や中性子が原子核表面をたたくことによって生じる原子核の局所的な振動運動を取り入れました。これにより、核分裂においては、ある平均値のまわりに揺らぎを持ちながら進展するため、結果として質量数に分布を与えます。図3に示すように、本計算結果では、特に中性子エネルギー換算で20 MeV以下のデータをよく再現しています。このような、原子核の基本的なふるまいに立脚した理論計算により、質量数収率分布を説明したのは初めてと言えます。

18O+232Th反応によって取得した14核種の核分裂片質量数収率曲線。複合核の励起エネルギーから、入射中性子エネルギーに換算した値を右に示しています。曲線は揺動散逸理論によるモデル計算の結果で、非対称な分布から対称な分布に変化する様子が再現されています。
図3.
18O+232Th反応によって取得した14核種の核分裂片質量数収率曲線。複合核の励起エネルギーから、入射中性子エネルギーに換算した値を右に示しています。曲線は揺動散逸理論によるモデル計算の結果で、非対称な分布から対称な分布に変化する様子が再現されています。

波及効果、及び、今後の展開

利用できる高純度のアクチノイド標的として、232Thのほか、238U、237Np、243Am、248Cm、249Cfなどがあります。これら一連の標的を用いた同様の実験により、核変換に必要な核種のデータをすべて取得できるのみならず、これまで未測定であった核種の核分裂過程を調べられることになります。特に中性子数の多いアクチノイド原子核の核分裂研究など、新たな領域の核分裂を調べることができます。理論に関しては、核分裂過程をより本質的な概念で記述しているため、対象とする核種やエネルギー領域を選ばない、汎用性の高いモデルであるといえます。

原子核のポテンシャルエネルギー曲面を示します。揺動散逸理論による核分裂の時間発展の様子は実線で示すようになり、平均的な軌道の周りをランダムな動き(振動)を持ちながら進んでいきます。低励起状態では、原子核の殻構造により、質量非対称な経路が生まれていますが、高励起状態では質量対称分裂にむかって核分裂が進みます。このポテンシャル曲面の変化を取り入れることで、中性子エネルギーに対する核分裂核データの評価が可能となります。
図4.
原子核のポテンシャルエネルギー曲面を示します。揺動散逸理論による核分裂の時間発展の様子は実線で示すようになり、平均的な軌道の周りをランダムな動き(振動)を持ちながら進んでいきます。低励起状態では、原子核の殻構造により、質量非対称な経路が生まれていますが、高励起状態では質量対称分裂にむかって核分裂が進みます。このポテンシャル曲面の変化を取り入れることで、中性子エネルギーに対する核分裂核データの評価が可能となります。

用語説明

[用語1] 核分裂片の質量数収率分布 : 核分裂がおこると、様々な種類の原子核が核分裂生成物として生成される。これら原子核を質量数ごとにわけ、質量数の関数として収率をプロットしたものである。通常、収率の合計が200%となるように規格化する。

[用語2] 多核子移行反応 : 原子核どうしを衝突させる場合に生じる核反応機構のひとつ。入射核と標的核との間で、中性子や陽子を交換することで、反応の後に異なる原子核が生成される。反応の特徴は、移行する核子(中性子および陽子)の数に応じて多種類の原子核が生成されるとともに、低い励起エネルギーから高い励起エネルギー状態まで連続的に生成されることである。

[用語3] 動力学モデル : 本研究で開発したモデルは、揺動散逸定理に基づく運動方程式(ランジェバン方程式)を用いた。揺動散逸定理とは、熱平衡状態において微視的な粒子の運動と巨視的に観測できる運動の間の関係を示すものであり、ブラウン運動の記述として良く知られている。これらは揺らぎと摩擦という現象として現れ、揺らぎの大きさgと摩擦の大きさをγは、系の温度をTとすると、アインシュタインの関係式 g2 = γT が成り立つ。この関係は微視的運動と巨視的運動の橋渡しの役割を担っている。核分裂モデルにおいては、微視的な運動とは原子核を構成する陽子・中性子の運動を指し、巨視的運動は原子核の形の時間的な変化を表している。

[用語4] 崩壊熱 : 核分裂の結果生じた核分裂片が、ベータ崩壊する際に放出するエネルギーが熱にかわったもの。原子炉の運転を停止しても、核分裂生成物はある寿命を持って崩壊を続けるために熱を発生し続ける。福島第1原子力発電所においては、この崩壊熱を取り除く機能が失われたために炉心が損傷した。熱量と経過時間に対する変化は、生成される核分裂生成物の種類とそれぞれの収率によって変化する。

[用語5] 遅発中性子数 : 核分裂で生成される核分裂片のいくつかの核種において、ベータ崩壊に伴って中性子が放出されることがあり、これを遅発中性子と言う。半減期が長いものとして55秒の核種がある。実際の原子炉では、この中性子を含めて臨界を維持しているが、即発中性子と異なり、ベータ崩壊の寿命に応じて中性子の放出に遅れを伴う。このため、反応度の投入に対する急激な出力の変化を防ぐことができ、原子炉の制御を行うための十分な時間余裕が生まれる。遅発中性子の数は、生成される核分裂片の核種とそれぞれの収率によって変化する。

[用語6] 長寿命マイナーアクチノイド : アクチノイドに含まれる超ウラン元素のうち、プルトニウム以外の元素の総称をマイナーアクチノイドといい、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどがある。このうち、237Np、241Am、243Amは、原子炉内の核燃料の燃焼によって生成される長寿命の原子核(長寿命マイナーアクチノイド)と言われており、この処分または管理を行うことが原子力エネルギー利用における大きな課題となっている。核変換は、これら長寿命マイナーアクチノイドを核分裂によって変換する技術である。原子力機構においても加速器駆動型未臨界炉(ADS:Accelerator-driven subcritical reactor)を用いた核変換技術の開発が行われている。

[用語7] タンデム加速器 : タンデム(TANDEM=縦に馬を二頭ならべる馬車)加速器とは、ペレットチェーンで運ばれる電荷を利用してターミナル部を高電圧に保ち、この電圧差を利用してイオンを加速している。まずは負イオンをターミナルに向けて加速し、ターミナル部でイオンを負から正に変換することで逆向きに再加速する、いわば2段回方式の加速装置の総称を指す。加速イオンのエネルギーと種類、またビーム量とビーム直径を正確に制御できる特徴があり、原子核研究分野においては精密な核反応測定ができる特徴がある。
タンデム加速器

[用語8] シリコンΔE-E検出器 : 荷電粒子が物質内で失うエネルギーΔEが核種の質量数Aと原子番号Zに依存することを利用し、反応で生成された粒子を識別する方法をΔE-E法と呼ぶ。本研究では、分解能に優れるシリコン検出器を用いてΔE-E検出器を構成した。これまでに、ΔE検出器として75 μm厚の均一性のよい検出器の開発に成功し、酸素同位体までもきれいに分離することに成功した。

[用語9] 多芯線比例計数管 : 核分裂片を検出するためのガス増幅検出器である。電極を平面とすることで、有感面積を広くとることができ、本研究では200×200 mm2を有する検出器を開発した。独立したワイヤーを並べることで電極を構成し、ガス増幅で生成された電子が集まるワイヤーを同定することで、核分裂片の入射位置を記録できるようにした。

論文情報

掲載誌 :
Physics Letters B
論文タイトル :
Fission fragment mass distributions of nuclei populated by the multinucleon transfer channels of the 18O + 232Th reaction.
著者 :
R. Leguillon1, K. Nishio1, K. Hirose1, H. Makii1, I. Nishinaka1, R. Orlandi1, K. Tsukada1, J. Smallcombe1, S. Chiba2, Y. Aritomo3, T. Ohtsuki4, R. Tatsuzawa5, N. Takaki5, N. Tamura6, S. Goto6, I. Tsekhanovich7, A.N. Andreyev1,8
所属 :
1日本原子力研究開発機構、2東京工業大学、3近畿大学、4京都大学、5東京都市大学、6新潟大学、7ボルドー大学、8ヨーク大学
DOI :

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に新たに発足した環境・社会理工学院について紹介します。

環境・社会理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(研究内容について)

先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ
サブリーダー 西尾勝久
Tel : 029-282-5454

(報道担当)

広報部 報道課長 佐藤仁昭
Tel : 03-3592-2346 / Fax : 03-5157-1950

国立大学法人東京工業大学
(研究内容について)

科学技術創成研究院 先導原子力研究所
教授 千葉敏
Email : chiba.satoshi@nr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

(報道担当)

広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

学校法人近畿大学
(研究内容について)

理工学部 電気電子工学科
准教授 有友嘉浩
Tel : 06-4307-3506 / Fax : 06-6727-4301

(報道担当)

広報部 石﨑重之、坂本由佳
Tel : 06-4307-3007 / Fax : 06-6727-5288


北京航空航天大学での国際コンテストで、本学学生が見事優勝

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ICDIC参加者
ICDIC参加者

本学工学部、大学院総合理工学研究科と部局間交流協定を結ぶ北京航空航天大学(北京、中国)で、7月21日から26日の日程で2016年度国際大学生デザイン・イノベーションコンテスト(ICDIC:International Collegiate Design and Innovation Competition)が開催され、本学から参加した環境・社会理工学院 社会・人間科学系の仲田愛さん(修士課程1年)のグループが見事に優勝しました。

本コンテストでは、世界各国から参加した大学生が、国籍や所属大学、専門分野の異なる3~4名のグループに分かれ、航空安全をテーマとする課題に取り組みます。各グループには少なくとも1人は中国人学生が含まれ、多国籍グループとして協力し合いながら、与えられた課題に対する解決策を新しい発想で提案します。学生たちはそれを限られた時間内で論文にまとめ、最後に審査員の前で発表して順位を競います。

北京航空航天大学は、清華大学を含む8校の航空学部が統合し、航空・宇宙分野に特化した大学として1952年に創設されました。本学工学部、大学院総合理工学研究科が2014年に同大学と部局間協定を締結し、大学間の交流が進んでいます。

仲田愛さんのコメント

仲田さん(右端)とグループメンバー
仲田さん(右端)とグループメンバー

今回与えられた「安全に着陸するためのシステムを考えよ」という課題に対し、私たちのグループは、「機械学習により、翼が拡張されるシステム」を提案することにしました。メンバーは、私のほかにインド、カナダ、ポルトガル、中国の学生4人。個性も文化もそれぞれ違いましたが、みんなとにかく自己主張が上手だと感じました。解決策を提案するための論文を2日間で書き上げるという大変ハードなものでしたが、メンバーに恵まれ、最後までやり抜くことができました。順位よりもここでの出会いに大きな価値を感じます。皆さんもぜひ機会があればチャレンジしてみることをお勧めします。

お問い合わせ先

社会・人間科学系・コース事務室

Email : jim@shs.ens.titech.ac.jp

エピジェネティックマークを生体内で観るための細胞内抗体プローブを開発

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要点

  • ヒストンH4メチル化修飾の生細胞計測に成功
  • 生細胞で働く抗体プローブの結晶構造を解明
  • 線虫の初期発生過程におけるヒストンH4メチル化を観察

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の木村宏教授と佐藤優子研究員を中心とした共同研究グループ(早稲田大学、国立遺伝学研究所、大阪大学、近畿大学、中部大学、かずさDNA研究所、情報通信研究機構などが参加)は、ヒストン蛋白質の特定の翻訳後修飾[用語1](ヒストンH4蛋白質の20番目リジンのモノメチル化,H4K20me1)を生体内で可視化する技術の開発に成功した。

細胞内でDNAと結合しているヒストン蛋白質の翻訳後修飾は、遺伝子の働きを制御する重要な役割を果たしている。その中でもH4K20me1は、DNA損傷修復や不活性X染色体[用語2]のマークとして重要であることが知られていたが、生きた細胞内での修飾の変化を観察する技術はなかった。

今回、H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbodyを開発し、生きた細胞や線虫で転写抑制されたX染色体のライブイメージングに成功した(図)。また、抗体プローブの抗原結合領域の結晶構造を明らかにした。抗体は本来細胞外で作られる蛋白質であるため、細胞内では環境の違いにより適切な構造を形成・維持できない場合が多い。H4K20me1-mintbodyの細胞内での機能の成否に関わるアミノ酸残基を同定し、立体構造に与える影響を明らかにした。本研究成果は、細胞機能におけるH4K20me1の意義を調べるツールとして有用であることに加え、さらに細胞内抗体プローブの開発において今後広く役立つことが期待される。

この成果は8月14日に米科学誌Journal of Molecular Biologyオンライン速報に掲載されました。

H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbody

図. H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbody

研究成果

ヒストンH4タンパク質20番目リジンのモノメチル化(H4K20me1)特異的抗体の可変領域を取得し、GFP融合型一本鎖可変領域抗体(single-chain variable fragment, scFv)として細胞に発現させ、細胞内抗体プローブ(modification-specific intracellular antibody, mintbody)を作製した。分裂酵母細胞や哺乳動物細胞を用いて、H4K20me1-mintbodyがH4K20me1に特異的に結合することを確かめた。また、生きた細胞や線虫の不活性化X染色体のライブイメージングに成功した。さらに、プローブの標的認識部位であるscFvの結晶構造を明らかにし、細胞内でのH4K20me1-mintbodyが適切な構造を形成・維持するために必要なアミノ酸残基を同定した。

背景

多細胞生物の体を構成する細胞では、個々の細胞に特有の遺伝子が活性化している。この遺伝子発現制御には、エピジェネティック制御が重要であることが示されてきた。エピジェネティック制御とは、DNA配列の変化を伴わずに起こる遺伝子発現の制御であり、DNAのメチル化やDNA結合蛋白質であるヒストンの翻訳後修飾などにより引き起こされる。ヒストン修飾は、細胞分化過程やシグナル応答などの発現遺伝子がダイナミックに変化する際に可逆的に変化するため、特に重要な役割を果たすと考えられている。H4K20me1は、DNA損傷修復や遺伝子発現制御、またX染色体の不活性化などに関与することが報告されているが、生きた細胞でどのようにこの修飾が変化するのかを調べる方法は開発されていなかった。

研究の経緯

蛋白質の翻訳後修飾の検出法として、細胞を固定した後に修飾特異的抗体を反応させる方法が最もよく用いられている。しかし翻訳後修飾の役割をより詳細に理解するためには、生きた細胞でダイナミックに変化する修飾を個々の細胞単位で調べる必要がある。木村教授らのグループはこれまで、修飾特異的抗体由来の生細胞プローブを開発し、生きた細胞の中で起こるヒストン蛋白質の翻訳後修飾を、蛍光顕微鏡を用いて観察するシステムを樹立してきた。特に抗体の可変領域を蛍光蛋白質融合型scFvとして細胞内に発現させたプローブmintbodyは、遺伝子改変動物の個体レベルの解析などに応用可能である。

今後の展開

H4K20me1は、DNA損傷修復や遺伝子発現制御、またX染色体の不活性化などに関与することが報告されているが、詳細な作用機序や意義は未だ明らかにされていない部分が多い。本研究により得られたH4K20me1-mintbodyにより、生細胞での解析が可能となり、この修飾の新たな側面が見いだされることが期待できる。また、抗体は本来細胞外で作られる蛋白質であるため、細胞内では環境の違いにより適切な構造を形成・維持できない場合が多い。今回、H4K20me1-mintbodyの細胞内での機能の成否に関わるアミノ酸残基を同定し、立体構造に与える影響を明らかにした。この成果は、一般的な細胞内抗体プローブの開発において今後広く役立つことが期待される。

用語説明

[用語1] 翻訳後修飾 : 蛋白質は細胞内で生合成された後、アセチル化、メチル化、リン酸化など様々な化学修飾を受ける。細胞内のほとんどの蛋白質は、これらの修飾により機能や活性が調節されている。

[用語2] 不活性X染色体 : ヒトやマウス、線虫の性染色体構成は、雄はXY型、雌はXX型である。X染色体上には生存に必須な遺伝子が存在するが、雌雄間での発現量を補正するために、片方のX染色体は染色体全体で遺伝子発現の不活性化が起こる(線虫の場合は両方のX染色体遺伝子の発現量が半減して補正する)。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Molecular Biology
論文タイトル :
A genetically encoded probe for live-cell imaging of H4K20 monomethylation
著者 :
Yuko Sato, Tomoya Kujirai, Ritsuko Arai, Haruhiko Asakawa, Chizuru Ohtsuki, Naoki Horikoshi, Kazuo Yamagata, Jun Ueda, Takahiro Nagase, Tokuko Haraguchi, Yasushi Hiraoka, Akatsuki Kimura, Hitoshi Kurumizaka, Hiroshi Kimura
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット
教授 木村宏

Email : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

9月の学内イベント情報

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9月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

第31回 先端光量子科学アライアンスセミナー

第31回 先端光量子科学アライアンスセミナー

「光と物質の相互作用」をテーマに、下記の通りセミナーを開催します。

日時
9月2日(金) 13:55~16:50
会場
参加費
無料
対象
一般・大学生
申込
不要
内容
  • 「有機EL照明の新展開」
  • 「フォトニック結晶ナノレーザを用いたバイオセンサ」

グローバル産業リーダー育成プログラム「Enterprise Engineeringコース」

グローバル産業リーダー育成プログラム「Enterprise Engineeringコース」

グローバル産業リーダー育成プログラムのコースとして、業務に効果的なITの活用をお考えの情報システムベンダー/ユーザ企業の情報システム関連部署の部課長レベル・シニアコンサルタントを対象に開講します。

Enterprise Engineeringコース(前期)

日時
9月2日(金)・3日(土)・9日(金)・10日(土)・16日(金)・17日(土)
各回9:20~17:05
会場
参加費
198,000(税込)
対象
一般(定員20名※最小開催人数10名)
申込
必要(8月13日締切)
内容
  • 「デザイン思考」
  • 「ビジネスアナリシス」
  • 「エンタープライズ・アーキテクチャ」

Enterprise Engineeringコース(IT-CMF)

一定の成績を修められた方には「Tier3」講座が受講可能となる「IT-CMF associate」の受験資格が付与されます。

日時
9月23日(金)・24日(土)
各回9:20~17:05
会場
参加費
81,000(税込)
対象
一般 (定員10名※最小開催人数5名)
申込
必要(8月13日締切)
内容
「IT-CMF(IT Capability Maturity Framework)についての解説及び演習」

東京工業大学社会人アカデミー主催/蔵前工業会共催 講演会「深海と宇宙」

東京工業大学社会人アカデミー主催/蔵前工業会共催 講演会「深海と宇宙」

研究、開発、制作の最前線に立つ5名の講師による「深海と宇宙」と題した講演会を開催します。

日時
9月6日・20日、10月11日・18日・25日(いずれも火曜日)
各回19:00~21:00(開場:講演開始20分前予定)
会場
参加費
  • 一般:2,500円(1回あたり)/10,000円(全5回一括 ※限りあり)
  • 本学社会人教育院および社会人アカデミー講座受講生・修了生:2,000円(1回あたり)/8,000円(全5回一括)
  • 小・中・高・専門学校・大学・大学院等学生(専門学校・大学・大学院等学生は当日、要学生証提示):900円(1回あたり)/4,000円(全5回一括)
  • 蔵前工業会会員・ゴールドカード家族会員:無料
対象
一般・学生(定員各回287名)
申込
必要(先着順)
内容
  • 「謎の深海生物にさぐる宇宙生命および地球外文明の可能性」
  • 「オーロラの宇宙」
  • 「超小型衛星・宇宙機による新しい宇宙活動」
  • 「深海の宇宙とはなんだったのか 作品を通じて伝えたかった事」
  • 「地上最高の星作りを目指して~MEGASTAR開発ストーリー~」

大岡山健康講座

大岡山健康講座

リベラルアーツ研究教育院と東急病院共催で、地域や沿線にお住まいの方々を対象にした健康講座を開催します。

日時
9月13日(火) 14:30~16:00(予定)
会場
参加費
無料
対象
一般 300名(地域、沿線住民より公募)
申込
必要(9月2日締切)
内容
  • 「【よく噛むことの重要性】~エネルギー消費量の観点から~」
  • 「【健康のためにできること】~リハビリテーションの立場から~」
  • 「【自宅で簡単にできる!かんたんエクササイズ!!】~今より10分多く、毎日からだを動かしてみませんか?~」

シンポジウム「ビジネス価値創出のための 成熟度フレームワーク:IT-CMF」

シンポジウム「ビジネス価値創出のための 成熟度フレームワーク:IT-CMF」

IVIから教育担当ディレクターのMichael Hanley氏をお迎えし、シンポジウムを開催することになりました。

日時
9月21日(水) 13:30~17:00 (受付開始 13:00)
会場
「ウインクあいち」(愛知県産業労働センター)outer
〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38
Tel : 052-571-6131(受付 9:00~20:00)
参加費
無料
対象
一般(定員100名先着順)
申込
必要(9月16日締切)

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

混ぜるだけで簡単に有機エレクトロニクス材料を合成―新反応により多様なπ共役化合物合成を簡便・低コストで実現―

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要点

  • ホウ素があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見
  • 有機エレクトロニクス材料開発への応用が期待
  • 本手法で用いるホウ素化合物を販売予定

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の庄子良晃助教・福島孝典教授らの研究グループは、典型元素である“ホウ素”があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見しました。これにより、アセチレン[用語1]誘導体をひとつの反応容器で行う反応(ワンポット反応)で芳香環化[用語2]できることから、様々なπ共役化合物[用語3]を極めて容易に合成できます。今後、有機エレクトロニクス[用語4]材料開発への応用が期待されます。

π共役化合物は、近年盛んに応用開発が行われている有機エレクトロニクスの基盤となる化合物群です。研究グループでは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を引き起こし、最終的にホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られることを見出しました。このような反応パターンは、遷移金属が触媒する結合形成反応ではよく知られていますが、典型元素であるホウ素では初めての例となります。本成果は、幅広いπ共役化合物の新合成手法としてばかりでなく、基礎化学的にも、典型元素の化学のより深い理解へつながると考えられます。

本成果は、2016年9月1日に英国科学雑誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。また、本手法で用いるホウ素化合物が、有機合成用試薬として東京化成工業株式会社より販売される予定です。

研究の背景

π共役化合物は、近年注目を集めている有機エレクトロニクスの分野で基盤となる物質です。π共役系がどのようにつながっているか、あるいはどのような立体構造を持つかで、π共役化合物の性質は大きく変わります。そのため、目的の構造をもったπ共役化合物を効率的に合成する手法が求められていました。従来、巨大なπ共役系を有する化合物を合成しようとすると、多段階で手間のかかる合成作業が必要でした。π共役化合物の簡便な合成を可能にする強力な手法として、ノーベル賞で話題になったクロスカップリング[用語5]が挙げられますが、多段階反応かつ高価で希少な遷移金属触媒の利用や、特殊な合成技術が必要などといった課題がありました。

研究内容と成果

東工大の庄子助教・福島教授らの研究グループは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を無触媒で引き起こすことを見出しました(図1)。最終的にはホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られます。この反応は (1)ボラフルオレンというホウ素化合物による、アセチレンの1,2-カルボホウ素化[用語6]反応と、(2)その生成物(ボレピン)の一電子酸化による脱ホウ素化/C-C結合形成反応の2段階からなります(図1)。この2段階目の反応は、これまで知られていなかった新しい反応です。形式的に高エネルギーなホウ素のカチオン種([B-Cl]・+)の脱離を伴うため、これまでの常識を外れた反応と言えます。

ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

図1. ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

この反応は官能基許容性および基質適用性に優れています。反応を行うのに必要な操作は、「ボラフルオレンとアセチレン誘導体を混ぜ、温めながら撹拌した後で、反応系に安価な酸化剤(塩化鉄(III)など)を加えるだけ」というごく簡便なものです。様々なアセチレン誘導体をワンポット反応で簡便に芳香環化することが可能です。そのため、この反応により、巨大なπ共役系や、複雑な湾曲構造、三次元的な分子骨格をもつものなど、特徴的なπ共役化合物を簡便かつ高価な触媒を使わないで低コストに得ることができます(図2)。

本反応により得られるπ共役化合物の例

図2. 本反応により得られるπ共役化合物の例

今回新たに発見したホウ素化合物の反応(図3A)は、遷移金属錯体に典型的に見られる連続的な結合形成反応(図3B)と反応パターンが類似しています。典型元素であるホウ素が、反応においてあたかも遷移金属のように振る舞うという今回の発見は、ホウ素を始めとする典型元素の化学をより深く理解するための重要な知見であると考えられます。

今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

図3. 今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

今後の展開

今回の新合成手法によって、様々なπ共役化合物を、極めて簡便かつ安価に合成する道が拓けました。このようなπ共役化合物は、有機半導体材料、発光材料、動的な性質やキラル[用語7]な構造に基づく新機能材料など、次世代技術である有機エレクトロニクスを支える物質としての活用が期待されます。現在、研究グループでは、この手法を利用した機能性π共役化合物の開発に取り組んでいます。また、典型元素化学のより深い理解へ向け、この反応のメカニズムの詳細な解析に力を入れています。

有機合成上の有用性が高く「混ぜるだけ」で実施できる本手法を、より多くの研究者が利用できるよう、東京化成工業株式会社から、この手法で利用するボラフルオレンを、有機合成用試薬(製品コードC3421)として販売予定です。また、新合成手法のプロトコルを記載したパンフレットも配布予定です。

本成果は、以下の研究支援により得られました。

  • 研究課題:
    科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)
    「大規模分子集積化による巨視的π造形システム」
  • 研究代表者:
    福島 孝典(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授)
  • 研究期間:
    平成26~30年度
  • 研究課題:
    科研費 挑戦的萌芽研究
    「空軌道エンジニアリングによる電子輸送システムの構築」
  • 研究代表者:
    庄子 良晃(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教)
  • 研究期間:
    平成26~27年度

用語説明

[用語1] アセチレン : 炭素-炭素三重結合をもつ化合物を総称してアセチレンと呼ぶ。狭義には、最小の炭素-炭素三重結合化合物 C2H2(HC≡CH)を指す。

[用語2] 芳香環化(用語3も参照のこと) : 芳香環を形成する反応。芳香環とは、ベンゼンに代表される、芳香族性をもった環状構造のことを指し、共平面性をもって環状共役した(4n + 2)個のπ電子(nは整数)から構成される。この環状共役によって、芳香族化合物は特別な安定化を受けている。芳香環をもつ化合物は、様々な機能材料のコンポーネントとして重要である。また芳香環は、DNAやタンパク質にも含まれており、それらの立体構造の制御や機能発現に大きく寄与している。

[用語3] π(パイ)共役化合物 : π共役系から構成される化合物。π共役系は、交互につながった単結合と多重結合からなり、非局在化した電子(π電子)を有する。π電子は、光吸収・発光特性、電導性、磁性など、π共役化合物が発現する様々な物性を司っている。

[用語4] 有機エレクトロニクス : 有機材料を基盤としたエレクトロニクス。有機トランジスタや有機EL(エレクトロルミネッセンス)など。現在、有機材料に特有な柔軟性、軽量性やプロセス容易性を活かした素子開発が盛んに行われている。

[用語5] クロスカップリング : 二つの有機化合物同士を結合させる反応。パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応は、2010年のノーベル化学賞の対象となった。

[用語6] カルボホウ素化 : 多重結合に、ホウ素と有機基を単工程で導入する反応。多重結合を構成する炭素原子のうち、一方にホウ素、もう一方に有機基が導入される反応を1,2-カルボホウ素化反応と呼ぶ。それに対して、同一の炭素原子上にホウ素と有機基が導入される反応を1,1-カルボホウ素化反応と呼ぶ。

[用語7] キラル : 鏡像同士を重ね合わせることができない性質。右手と左手の関係。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
"Boron-mediated sequential alkyne insertion and C-C coupling reactions affording extended π-conjugated molecules"
著者 :
Y. Shoji, N. Tanaka, S. Muranaka, N. Shigeno, H. Sugiyama, K. Takenouchi, F. Hajjaj and T. Fukushima*
DOI :

特許情報

本学産学連携推進本部を通じて、本成果を基にした特許出願を行っています(特願2016-037295)。

問い合わせ先

試薬販売・パンフレットに関すること

東京化成工業株式会社
本社営業部

Email : Sales-JP@TCIchemicals.com
Tel : 03-3368-0489 / Fax : 03-3368-0520

大阪営業部

Email : osaka-s@TCIchemicals.com
Tel : 06-6228-1155 / Fax : 06-6228-1158

取材に関すること

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

三島学長がインペリアル・カレッジ・ロンドンを訪問

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(左から)ガスト学長(President)、ドールマン副学長、佐藤副学長、三島学長
(左から)ガスト学長(President)、ドールマン副学長、
佐藤副学長、三島学長

6月7日~8日、三島良直学長一行はインペリアル・カレッジ・ロンドン(以下、インペリアル)を訪問し、2016年3月に両大学間で締結された全学レベルの学術交流協定に基づく交流促進について確認しました。

三島学長、佐藤勲副学長(国際企画担当)らは、インペリアルのアリス・ガスト学長(President)、ジェームズ・スターリング学長(Provost)を表敬訪問した後、マーガレット・ドールマン副学長、ニール・アルフォード副学長、デイビッド・ガン副学長、アン・ウォゼンクラフト国際部長も交えて、今後さらなる連携強化を進めるための具体策について話し合いました。

また、一行は、インペリアルが新たに開発を進めているホワイト・シティ・キャンパスを視察し、この開発を担っているインペリアル・カレッジ・シンクスペース(Imperial College ThinkSpace)代表のユリアン・ロバーツ氏からインペリアルの今後の発展計画について聞きました。

(前列、左から)スターリング学長(Provost)、三島学長(後列、左から)ウォゼンクラフト国際部長、ドールマン副学長、佐藤副学長、伊藤UEA、尾澤職員
(前列、左から)スターリング学長(Provost)、三島学長
(後列、左から)ウォゼンクラフト国際部長、ドールマン副学長、佐藤副学長、伊藤UEA、尾澤職員

これまで両大学の研究科等の部局や個々の研究者の間では、10年以上にわたって共同研究が行われてきました。また、本学大学院理工学研究科(工学系)とインペリアルの工学部は2005年に学生交流協定を、大学院生命理工学研究科と理学部化学専攻は2011年に研究者交流・学生交流・学術情報交換協定を締結し、交流を続けています。今年11月には、3月に締結した全学協定を機に連携強化を促進するための合同イベントが開催される予定です。

インペリアル・カレッジ・ロンドン

ロンドン市街中心部にキャンパスを置くインペリアルは、常に世界トップレベルにランクされる大学です。学生数15,000名、教職員数8,000名を擁するインペリアルは、これまでにペニシリンの発見者として知られるアレクサンダー・フレミングを始めとする14名のノーベル賞受賞者を輩出しており、科学、工学、医学、ビジネスの4つの分野を中心に、世界で活躍する多くの優秀な人材を生み出しています。

9月2日11:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。
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