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オンデマンド光機能酸化物ヘテロ構造の合成に成功―紫外線吸収・透明太陽電池に向けた新素材―

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発表者

  • 松田巌(東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授)
  • 組頭広志(高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所 教授)
  • 小澤健一(東京工業大学 理学院 化学系 助教)

発表のポイント

  • 代表的な金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板上に数原子層のルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)を積層させたヘテロ接合界面において、SrRuO3の膜厚によって光学応答を任意に制御できることを発見した。
  • 本研究成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できる。
  • SrTiO3は可視光は透過するが紫外線を吸収する半導体材料であり、SrRuO3層も原子レベルに薄いので高い可視光透過性を持つ。そのため紫外線から守りかつ透明な太陽電池の新素材としての可能性があり、今後の応用が期待される。

発表概要

東京大学 物性研究所の松田巌准教授らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の組頭広志教授と東京工業大学の小澤健一助教と共同で、2種類の異なる酸化物を接合させたヘテロ界面において、光学応答の主要な現象の一つである光起電力を人工的に制御できることを発見しました。レーザーを使った原子レベルでの精密結晶成長技術を駆使し、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶基板上に数原子層厚さのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)超薄膜を成長させて、ヘテロ構造を作製しました。紫外光レーザー照射により光起電力を発生させ、レーザーと同期したシンクロトロン放射光でヘテロ構造の電子状態変化を追跡する時間分解光電子分光法[用語1]により、その緩和過程をリアルタイムで捉えることに成功しました。SrRuO3薄膜の膜厚を変えることでヘテロ界面の電子構造が劇的に変化し、それに合わせて光学応答が200倍も向上し、さらに光起電力の大きさと緩和寿命が敏感に変わりました。得られた結果を元に数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

本研究により酸化物ヘテロ構造における光起電力の発生とその制御の仕組みを定量的に説明することが可能になりました。本成果を元に光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。

本研究成果はドイツの学術誌「Advanced Materials Interfaces」に2016年9月5日(現地時間)に掲載予定です。

発表内容

背景

携帯電話やパソコンだけでなく、車や家電製品などにも昨今高性能な電子機器が組み込まれ、その性能向上への要求はとどまることがありません。一方で、近年はエネルギー不足や環境問題も顕在化しており、太陽光などのクリーンエネルギーの活用も必須課題になっています。そのため、新しい動作原理に基づくデバイスや新機能材料の開発に高い期待が寄せられるようになっています。その中で金属酸化物は次世代の材料として注目を集め、特に微細化の究極の形である表面・界面層での電子・光学的動作に高い関心が持たれています。チタン酸ストロンチウムSrTiO3は代表的な金属酸化物であり、最近その表面は特異な電子特性を示すことが分かってきました。しかしながらSrTiO3表面の光学応答に関する報告はほとんどありませんでした。

研究成果

本研究グループでは、SrTiO3結晶と格子定数の近いルテニウム酸ストロンチウムSrRuO3をSrTiO3基板上に数原子層成長させて、SrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造を作製しました。本成膜ではレーザーを用いた結晶成長法で実施しました。そしてSPring-8の高輝度軟X線ビームラインで光電子分光測定を行ったところ、SrRuO3原子層の膜厚に依存してSrRuO3膜の電子状態が半導体から金属に変化し(図1)、それに伴いSrTiO3基板はキャリア電子密度が高い状態から低い状態に変わることが分かりました。さらに光電子分光の時間分解測定を実施したところ、ヘテロ構造にすることで200倍もの高い光学応答性を示すようになり、さらにヘテロ構造の電子構造変化に対応して光起電力とその緩和時間も変わることが分かりました(図2)。そして得られた結果を元に、数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
図1.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。
図2.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。

今後の展開

本研究によりSrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造において、光起電力が発生することが分かり、さらにそのダイナミクスも明らかにすることができました。本成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。また、SrTiO3は紫外線を吸収する半導体材料でSrRuO3層も原子レベルに十分に薄いため、このヘテロ構造は人の目には見えません。そのため紫外線から守りかつ電力を作る窓などの新しい機能性デバイスにも本成果が活かされると期待されます。

用語説明

[用語1] 光電子分光法 : 金属や半導体などの固体に紫外光以上のエネルギーを持つ光を照射すると、電子が放出される。この電子を光電子と言い、光電子のエネルギーを分析することで固体表面の電子構造を知る実験法を光電子分光法という。特に原子核周りの電子(内殻電子)を分析すると、元素選択的に情報をとることができる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials Interfaces
論文タイトル :
Tailoring photovoltage response at the SrRuO3/ SrTiO3 heterostructures
著者 :
R. Yukawa, S. Yamamoto, K. Akikubo, K. Takeuchi, K. Ozawa, H. Kumigashira, and I. Matsuda
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系
助教 小澤健一

Email : ozawa.k.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3532 / Fax : 03-5734-2655

東京大学 物性研究所
准教授 松田巌

Email : imatsuda@issp.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-3402(柏キャンパス)
0791-58-0802(播磨分室)
Fax : 04-7136-3283(柏キャンパス)
0791-58-1886(播磨分室)

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


日野自動車奨学金 2016年度授与式開催

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7月21日、タイ王国パトゥムタニー県タイランドサイエンスパーク内のタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)において、第4回日野自動車奨学金授与式を開催しました。TAIST-Tokyo Tech(TAIST)の自動車工学コースに入学した学生のうち、特に優秀な学生としてピチャモン・ティラスパスィーさんが今年度の受給者に選ばれました。

ティラスパスィーさん(右から3番目)とHino Motors Manufacturing (Thailand) Ltd.の皆様
ティラスパスィーさん(右から3番目)とHino Motors Manufacturing (Thailand) Ltd.の皆様

授与式では、日野自動車株式会社の現地拠点であるHino Motors Manufacturing (Thailand) Ltd.のマノップ・ナクブート人事担当専務より、学生にメッセージをいただいた後、ティラスパスィーさんに目録が授与されました。その後、感謝の意を表して、本学の丸山俊夫理事・副学長およびNSTDAのオムジャイ・サイメック副長官より花束と記念品が日野自動車株式会社に贈呈され、一同で記念写真に納まりました。

サイメック副長官から日野自動車のナクブート人事担当専務に記念品を贈呈
サイメック副長官から日野自動車のナクブート人事担当専務に記念品を贈呈

TAISTは、NSTDAouterと、タイの四大学(KMITLouterKMUTTouterカセサート大学outerタマサート大学SIITouter )、東工大の連携により、2007年に設立された国際協働による大学院です。運営にあたっては、日・タイ産業界の皆様や本学同窓生の皆様からもご支援をいただいています。日野自動車奨学金は、日野自動車株式会社創立70周年記念事業の一環としていただいたご寄付を基にスタートした制度で、ティラスパスィーさんは4人目の奨学金受給者となります。奨学金のサポートにより、学生はより一層、勉学に励むことができます。

東工大基金

日野自動車奨学金は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2237

「ゴム・プラスチックの安全、安心 ―身の回りから先端科学まで―」(2016年前期)開催報告

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6月4日から7月30日までの土曜日に計7回にわたり、一般財団法人 化学物質評価研究機構(以下、CERI)と本学物質理工学院 応用化学系/材料系が主催するCERI寄付講座「ゴム・プラスチックの安全、安心 ―身の回りから先端科学まで―(前期)」が開催されました。会場は東工大蔵前会館ロイアルブルーホールで、学内外の12名の著名な講師による、計14の講義が行われました。

本学 物質理工学院 材料系の大内幸雄教授による講義
本学 物質理工学院 材料系の大内幸雄教授による講義
本学 国際部の西敏夫特任教授(東京大学・東京工業大学 名誉教授)による講義
本学 国際部の西敏夫特任教授
(東京大学・東京工業大学 名誉教授)による講義
淑徳大学 人文学部 表現学科の北野大教授による講義
淑徳大学 人文学部 表現学科の北野大教授による講義
神奈川県産業技術センター 科学技術部 材料化学チームの津留崎恭一チームリーダー・主任研究員による講義
神奈川県産業技術センター 科学技術部 材料化学チームの
津留崎恭一チームリーダー・主任研究員による講義

近年、モノやシステムの安全・安心が社会の重要なテーマであり、様々な製品とそのもととなる材料においても安全・安心が求められる時代です。

本講座では、広く社会に浸透し、私たちの身の回りにある、化学品を含むプラスチックやゴムと、その関連製品の安全・安心を取り上げました。さらに、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術・材料に関する科学を紹介しました。

一般の方向けにはそれらに関する科学を分かりやすく紹介することで、正しい知識を広く持てるように、さらに学生や専門家向けには将来の安心・安全な材料の設計の基礎を学べるよう、各講義を組みました。

豊橋技術科学大学の竹市力名誉教授による講義
豊橋技術科学大学の竹市力名誉教授による講義
本学 物質理工学院 材料系の扇澤敏明教授の講義
本学 物質理工学院 材料系の扇澤敏明教授の講義

学外からも一般企業の方、自営業の方など多数の参加があり、また、学内からは全く異なる専門の学生を含む111名の受講登録者があり、各講義で平均して約50名が受講するという、大変盛況な結果となりました。 また、それぞれの講義後の質疑応答時間には、多くの方から質問が寄せられ、講師陣からは丁寧な回答がありました。

最終の講義の後、修了式が行われ、14講義中12講義以上受講した8名(うち4名は14講義全てを受講)に対し、本講座のコーディネーターを務める物質理工学院 応用化学系の高田十志和教授より修了証が授与されました。 また、CERIの大武義人専務理事より、挨拶と2016年度後期の公開講座実施の説明がありました。

その後の懇談会は、多くの外部受講者と学生受講者による、講師陣との有意義な意見交換の場となりました。

後期の講座は9月28日に開始し、2017年2月1日までの16回、全16講義を予定しています。

昨年度に引き続き、今回も非常に役立ったとのご意見が多かった講座で、参加費も無料ですので、ぜひご参加ください。

募集を開始する際は、東工大全学サイトの新着イベント情報でお知らせします。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

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お問い合わせ先

2016年度CERI寄附公開講座事務局

E-mail : kokaikoza@polymer.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2898

英国科学誌『ネイチャー』の特集記事に東工大が登場

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英国科学誌『ネイチャー(Nature)』の9月1日号(Volume 537, Number 7618)の「日本の理工系大学特集(Spotlight on Technology Universities in Japan)」に東京工業大学が紹介されました。

この特集は、日本の理工学分野の研究をリードし、その技術と研究に強みを持つ大学について分析、紹介する記事と、東工大を含む5つの大学の詳細ページで構成されています。

東工大は本記事において「日本の理工系大学のトップ(one of Japan's premier technology research institute)」と紹介されています。詳細ページでは「東工大の研究 - イノベーションの追及でボーダーを越える(Tokyo Tech Research-Crossing borders in the pursuit of innovation)」というタイトルで、4月にスタートした「教育改革」「研究改革」、および科学技術創成研究院(IIR)の研究ユニットを中心とした世界トップレベルの研究体制についての三島学長のメッセージが掲載されています。

本記事は、ネイチャーオンライン版outerにも掲載していますので、ぜひご覧ください。

ネイチャーオンライン版

ネイチャー・リサーチの承諾を得て掲載しております。

お問い合わせ先

研究戦略推進センター

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794

ケンタウルス族小天体のリングの起源を解明

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神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻の大学院生・兵頭龍樹さん、大槻圭史教授、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のシャノーズ教授の研究グループは、ケンタウルス族と呼ばれる小天体がもつリングの起源を明らかにしました。本研究の結果は他にもリングをもつケンタウルス族天体が存在することを示唆しており、今後のさらなる観測による発見が期待されます。この研究成果は、8月29日に、Astrophysical Journal Lettersにオンライン掲載されました。また、アメリカ天文学会発行学術雑誌のResearch Highlightsのページで紹介されました。

ポイント

  • 太陽系の天体のうち、従来リングが確認されていたのは土星や木星など4つの巨大惑星だけであった。それに対し、木星と海王星の間の軌道をもつケンタウルス族天体[用語1]と呼ばれる小天体の一つであるカリクロ(Chariklo)[用語2]がリングをもつことが2014年に初めて明らかにされた。また別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)[用語3]にもリングがあるらしいことが複数の観測データよりわかった。しかし、これら小天体のリングの成因は不明であった。
  • 本研究では、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近くを通過する際に惑星からの潮汐力により破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。その結果、部分的に破壊されたケンタウルス族天体の破片の一部が、ケンタウルス族天体の周りにリングを形成しうることが明らかになった。
  • 本研究の結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。また本研究の結果によると、同様の過程によりリングだけでなく衛星も形成されうる。従って今後の観測により、リングや衛星をもつケンタウルス族天体がさらに発見されることが期待される。

研究の背景

ケンタウルス族天体は木星と海王星の間の軌道をもつ小天体である。直径が1キロメートル以上のケンタウルス族天体はこれまでに約44,000個あると見積もられており、これらは巨大惑星と軌道交差を繰り返している。

従来、太陽系内でリングをもつ天体は、土星や木星など4つの巨大惑星だけだと考えられていた。しかし、2014年に、ケンタウルス族天体の一つであるカリクロ(Chariklo)の周りにリングのあることが、地上の複数の望遠鏡を用いた掩蔽観測(恒星からの光が観測者との間にある天体により隠される現象を観測するもの)により明らかになった(図1)。その後、別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)にもリングがあるらしいことが明らかになった。しかし、これら小天体のリングの起源は謎のままであった。

カリクロとリングの想像図
カリクロの表面付近から見たリングの想像図
図1.
(左)カリクロとリングの想像図。欧州南天天文台提供 outer
Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser/Nick Risinger (skysurvey.org).
(右)カリクロの表面付近から見たリングの想像図。欧州南天天文台提供 outer
Credit: ESO/L. Calçada/Nick Risinger (skysurvey.org).

研究の内容

初期条件を変えた場合の計算結果例。各パネルにおいて、部分破壊を受けた後のケンタウルス族天体が中心にあり、その周りに破片が円盤状に分布している。この円盤からリングが形成されると考えられる(Hyodo et al. 2016, Astrophysical Journal Letters 828, L8 より)。図2. 初期条件を変えた場合の計算結果例。各パネルにおいて、部分破壊を受けた後のケンタウルス族天体が中心にあり、その周りに破片が円盤状に分布している。この円盤からリングが形成されると考えられる(Hyodo et al. 2016, Astrophysical Journal Letters 828, L8 より)。

本研究では、まず、ケンタウルス族天体が巨大惑星からの潮汐力により破壊されるくらい、惑星から十分近いところを通過する確率を見積もった。その結果、約10%程度のケンタウルス族天体が、そのような近接遭遇を経験することがわかった。次に、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近傍を通過する際に惑星からの潮汐力を受けて破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。シミュレーションの結果は、ケンタウルス族天体の初期の自転の状態、核の大きさ、惑星への再接近距離などによって様々であることがわかった(図2)。しかし、ケンタウルス族天体が、内側に岩石の核をもち外側を氷のマントルが覆う、というような層構造をもっている際には、多くの場合で部分的に破壊されたケンタウルス族天体の周りに破片の一部が円盤状に分布し、そこからリングが形成されうることが明らかになった。

今後の展開

本研究より、層構造をもつケンタウルス族天体が巨大惑星の十分近くを通過すると、多くの場合で惑星からの潮汐力により部分破壊を受けて破片が周囲にばら撒かれ、リングや衛星を形成しうることを明らかにした。この結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。従って今後の観測により、リングをもつケンタウルス族天体がさらに発見されると期待されるほか、衛星をもつケンタウルス族天体が発見される可能性もあると考えられる。

用語説明

[用語1] ケンタウルス族天体 : 木星と海王星の間の軌道をもつ小天体。巨大惑星との軌道交差を繰り返しており、巨大惑星のごく近傍を通過する軌道をもつものもある。

[用語2] カリクロ(Chariklo) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約250キロメートル。地上からの掩蔽観測によりリングをもつことが明らかになり、2014年に報告された。

[用語3] キロン(Chiron) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約220キロメートル。複数の観測データより、カリクロと同様、リングをもつと考えられている。

論文情報

掲載誌 :
Astrophysical Journal Letters
論文タイトル :
Formation of Centaurs' Rings through Their Partial Tidal Disruption during Planetary Encounters
著者 :
Ryuki Hyodo, Sébastien Charnoz, Hidenori Genda, Keiji Ohtsuki
DOI :

お問い合わせ先

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
博士後期課程3年 兵頭龍樹

Email : ryukih@stu.kobe-u.ac.jp
Tel : +33-183-95-7498 (France)

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典

Email : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
教授 大槻圭史

Email : ohtsuki@tiger.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6476

研究に関する英語でのお問い合わせ

Institut de Physique du Globe de Paris
(パリ地球物理研究所)
Professor Sébastien Charnoz

Email : charnoz@ipgp.fr

取材申し込み先

神戸大学 総務部 広報課

Email : ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6696

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

懲戒処分の公表について

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有期雇用職員に対し、9月1日付けで、停職3月の懲戒処分を行いました。

当該職員は、職員に対してセクシャルハラスメントに該当する行為を行いました。国立大学法人東京工業大学有期雇用職員就業規則第70条第1項第6号、同条同項第8号、同条第2項第3号の規定に基づき、停職3月の懲戒処分としたものです。

本学職員としてあるまじき行為であり、かかる行為は決して許されることではなく、厳正な処分を行いました。大学としてこのことを厳粛に受け止め、全学を挙げて再発防止にあたっていく所存です。

なお、本件に関する発言の詳細や被害者に関する情報については、被害者のプライバシーを侵害したり、被害者に対して二次被害を与える恐れがあることなどから、公表を差し控えます。

国立大学法人 東京工業大学
理事・副学長 岡田清

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター
電話: 03-5734-2975 / FAX: 03-5734-3661
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ACLSグローバル・コミュニケーション・コンテスト2016開催報告

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東京工業大学すずかけ台キャンパスのすずかけホールにて、8月10日、グローバル・コミュニケーション・コンテスト2016が開催されました。

本イベントは、情報生命博士教育院(ACLS)が開講する異文化コミュニケーション科目を履修した学生が、どのくらい英語によるコミュニケーションの力を身に着けたかを発表する機会として開催されているスピーチコンテストです。発表テーマは自由で、参加学生はそれぞれのテーマについて7分間の発表を行い、それに続く3分間の質疑応答に対し審査が行われます。第4回となる今回は、発表者12名と本学教員とベルリッツ・ジャパンの講師からなる審査員8名を含む、計98名が参加して行われました。

当日は、生命理工学院の山口雄輝教授の開会挨拶の後、12名の学生が発表を行いました。東工大生らしく自身の研究をテーマとした発表をはじめ、それぞれの個性があふれるユニークな発表があり、発表後の質疑応答では、観客席からすかさず質問があがるなど、大変活気あるコンテストとなりました。全ての発表終了後、審査員から上位3名が発表され、生命理工学院生命理工学系の今田貴士さん(修士課程1年)、情報理工学院情報工学系の平塚和宏さん(修士課程1年)、大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻のノラウイッチ・マンカラタンさん(修士課程1年)の3名が選ばれました。今田さんは、観客の投票によって選ばれる観客賞も贈られ、最優秀発表賞とのダブル受賞となりました。コンテスト後に予定されていた交流会と表彰式を兼ねたBBQ大会は、あいにく天候に恵まれず、急遽屋内での開催となりましたが、約70名の学生と教職員が参加し、活気にあふれた交流の場となりました。

発表者と審査員
発表者と審査員
受賞者と山口教授(左から平塚さん、今田さん、山口教授、Norwichさん)
受賞者と山口教授
(左から平塚さん、今田さん、山口教授、Norwichさん)

ガンマ型人材の養成

情報生命博士教育院は、2011年に文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業として採択されました。本学内に制定された「情報生命博士教育課程」を通じて、生命科学と情報科学の両分野を理解する力を持ち、自らの深い専門性を有する『Γ(ガンマ)型』博士人材の養成を行っています。加えて、自ら問題を発見し、大量の情報の中からその本質を見抜き、正しい決定を行う力と優れた異文化コミュニケーション能力の修得を目指し、革新的なカリキュラムに基づく独自の授業群と、種々の課外活動を行っています。現在、生命理工学院および情報理工学院に所属する修士課程と博士後期課程の学生80名が所属しています。

異文化コミュニケーション科目は、「グローバルコミュニケーション」「グローバルプレゼンテーション」「グローバルライティング」「グローバルディベート」の4科目からなり、いずれも優れた異文化コミュニケーション能力の修得を目指しています。2012年度前学期から2016年度前学期までに、延べ約820名の学生が受講しています。

最優秀発表者・観客賞受賞者

今田貴士さん

「分子生物学から見た性」
Sex from the View of Molecular Biology

今田貴士
今田貴士

第2位発表者

平塚和宏さん

「大脳基底核について」
Introduction to Basal Ganglia

平塚和宏
平塚和宏

第3位発表者

ノラウィッチ・マンカラタンさん

「食の外交:一皿ずつの文化探訪」
Food Diplomacy: Explore Cultures — One Dish at a Time

ノラウィッチ・マンカラタン
ノラウィッチ・マンカラタン

発表者とタイトル

発表者所属・氏名
タイトル
大学院生命理工学研究科生命情報専攻
野川駿
「遺伝子検査」
("Genetic testing")
生命理工学院生命理工学系
若林眞生
「ショウジョウバエのシナプス可塑性」
("Synaptic plasticity in drosophila")
情報理工学院情報工学系
平塚和宏 <2位>
「大脳基底核について」
("Introduction to basal ganglia")
生命理工学院生命理工学系
今田貴士 <1位>
「分子生物学から見た性」
("Sex from the view of molecular biology")
大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻
ノラウィッチ・マンカラタン <3位>
「食の外交:一皿ずつの文化探訪」
("Food diplomacy: Explore cultures — One dish at a time")
生命理工学院生命理工学系
田中良樹
「ヒトゲノム」
("Human genome")
情報理工学院情報工学系
大廻佳代
「方向音痴の頭の中」
("Inside the head of bad with directions")
生命理工学院生命理工学系
原口敬介
「なぜ我々は異なるのか」
("Why are we different")
情報理工学院情報工学系
各務直人
「創薬の未来」
("The future of drug creation")
生命理工学院生命理工学系
木野裕太
「アンチセンス療法」
("Antisense therapy")
生命理工学院生命理工学系
久次史花
「なぜ人々はスターバックスを愛するのか??」
("Why do people love Starbucks?")
生命理工学院生命理工学系
近藤龍一
「メタノールのより簡単な製造法」
("Easier production of methanol")

お問い合わせ先

情報生命博士教育院(ACLS)

E-mail : ibunka@acls.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5827

酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明―超高密度で高速動作する不揮発性メモリー実現に道―

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概要

東京工業大学 元素戦略研究センター(センター長 細野秀雄教授)の清水荘雄特任助教と物質理工学院兼同センターの舟窪浩教授、東北大学 金属材料研究所の今野豊彦教授と木口賢紀准教授、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 坂田修身ステーション長らの研究グループは、スマホやパソコンのトランジスタ(スイッチ)に使われている酸化ハフニウムを基本組成とした、強誘電体の電源を切った時に貯められる電気の量や、使用可能な温度範囲といった基礎特性を解明した。

結晶方位を制御した単結晶薄膜を電極上に作製することにより、これまで明らかになっていなかった特性の解明に成功した。その結果、酸化ハフニウム基の強誘電体が従来使用されてきた強誘電体に匹敵する特性を有することが明らかになった。強誘電体を用いたメモリーは、交通機関の定期券等に使用されている非接触式ICカード(電子マネー)として実用化されている。今回の成果によって明らかになった優れた特性と、これまでの物質では不可能であった薄膜化しても特性が劣化しない特性を活用すれば、メモリーの飛躍的な高密度化が期待できる。

今回の研究成果はネイチャー誌の姉妹誌である学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に9月9日付で掲載された。

研究の背景

強誘電体は電源を切っても電圧をかけた方向によって2つの安定した状態が実現するため、電力を消費せずにデータが保存できるメモリーとして鉄道のICカードなどで広く使われている。しかし、その用途は特殊なものに限定されており、USBメモリーのような汎用性の高いメモリーとしては使われていなかった。用途が限定されている最大の理由は、これまでの強誘電体は薄くしていくと、特性が低下する“サイズ効果”があり、メモリーの高密度化が実現できないためである。5年前に、極微細なトランジスタ(スイッチ)の絶縁体として広く使われている酸化ハフニウム基の物質で、これまで不可能と考えられていた薄くても強誘電性が発現できることが報告され、大きな注目を集めた。しかし、これまで作製されてきた薄膜はさまざまな方位を向いた粒の集合体(多結晶)であり、不純物相も一緒に存在するため、酸化ハフニウム基強誘電体の基本的な性質はほとんど明らかになっておらず、実用化のための最大の問題であった。

研究手法・成果

東工大の清水特任助教らのグループは、強誘電体膜の組成を状態図から再度検討して最適化した酸化イットリウム(Y2O3)を置換した酸化ハフニウム(HfO2)を選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さを工夫することで、15ナノメートル(nm、100万分の15ミリ)まで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。さらに結晶構造が類似しているインジウム・スズの酸化物(ITO)の薄膜を電極として用い、酸化イットリウム結晶の方向を制御した単結晶膜を、電極上に作製することに成功した。

電極上に作製した、単結晶膜を用いることで、強誘電体相が400 ℃以上の高温まで安定に存在することを明らかにした(図1)。この結果から、広い温度範囲での使用が可能であることが分かった。

結晶構造の温度変化

図1. 結晶構造の温度変化

強誘電相は、400 ℃以上の温度まで安定に存在することがわかる

さらに薄膜の強誘電特性の取得に世界で初めて成功した(図2)。得られた結果と結晶方位の関係から、電圧を切った時に貯められる電気の量や使用可能な温度を明らかにした(図3)。その結果、従来から使用されている物質チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)やタンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Ta2O9)と比較して遜色ない特性を有することが明らかになった。

単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

図2. 単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

電圧を切った時に2つの状態が存在する強誘電性が確認できる。

単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

図3. 使用可能温度(Tc)と電圧を切った時に貯められる電気の関係

従来から使用されているPb(Zr,Ti)O3やSrBi2Ta2O9と比較して遜色ない特性を有することが世界で初めて明らかになった。

期待される波及効果

今回の研究成果は、以下のような波及効果が期待される。

a)“夢のメモリー”強誘電体メモリーの高容量化の実現

強誘電体メモリーはUSBメモリーのように電源を切ってもデータが保存でき、USBメモリーより高速で動作できることから“夢のメモリー”としてICカードなどで実用化されている。しかし多くの情報を入力して管理することを可能にする大容量のメモリーは現在までできていない。今回の研究成果で、酸化ハフニウム基強誘電体を用いて、電源を切ってもデータが保持でき、高速動作できる“夢のメモリー”の高密度化の実現が期待できる。

b)新規デバイスの実現

強誘電体はこれまで薄くすると特性が劣化する“サイズ効果”によって、薄膜を用いたデバイスが非常に困難であった。しかし極薄膜で結晶方位の揃った強誘電体単結晶膜が得られたことで、以下のデバイスの実現が期待できる。

  1. 1.超高密度新規メモリー
    抵抗変化型メモリー(Resistive Random Access Memory、ReRAM)[用語1]は、消費電力が少なく、大容量化が期待できるとして、さまざまな物質が検討されてきたが、安定した動作と信頼性の確保が難しいことから、本格的な普及には至っていない。
    強誘電体は電源を切った時に2つの状態が実現し、抵抗値も異なる。強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーの基本アイデアはノーベル賞を受賞した江崎博士によって50年以上前に提案されていた。しかし強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーを実現するには、非常に薄い強誘電体層が必要なため、ほとんど検討されてこなかった。
    今回の成果により、強誘電体抵抗変化メモリーの実用化研究が始まる。
  2. 2.高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォン
    現在のスマートフォンやノートパソコンなどは、性能を重視すると、電池の消費量が大きくなるため、電池をもたせて数時間使えるように性能を落として使用している。そのため低消費電力でも高速で動作する新しい演算素子が必要とされている。
    極薄膜でも安定した強誘電性が得られると、高性能で使用しても消費電力が低く、電池の持ちの良い新タイプのトランジスタを作製することが可能となる。これによって、高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォンやノートパソコンが実現できる。

用語説明

[用語1] ReRAM(抵抗変化型メモリー、Resistance Random Access Memory) : 電圧の印加による電気抵抗の変化を利用した半導体メモリー。低消費電力、高密度化が可能で、読み出し速度が速いのが特徴。現在、多くの方式、多くの物質が検討されており、実用化も始まっている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
The demonstration of significant ferroelectricity in epitaxial Y-doped HfO2 film
日本語訳:Y添加HfO2エピタキシャル薄膜の強誘電性の実証
著者 :
Takao Shimizu, Kiliha Katayama, Takanori Kiguchi, Akihiro Akama, Toyohiko J Konno, Osami Sakata, and Hiroshi Funakubo
DOI :

特記事項

今回の研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域「東工大元素戦略拠点」、日本学術振興会の科学研究費、文部科学省の科学研究費、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細構造解析プラットフォーム)の一環として行われた。また構造解析は物質・材料研究機構のSPring8のビームラインで行われた。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究に関すること: 全般

東京工業大学 元素戦略研究センター
特任助教 清水荘雄

Email : shimizu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

東京工業大学 物質理工学院/元素戦略研究センター
教授 舟窪浩

Email : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

測定に関すること

物質・材料研究機構 技術開発・共用部門
高輝度放射光ステーション
ステーション長 坂田修身

Email : SAKATA.Osami@nims.go.jp
Tel / Fax : 0791-58-1970

東北大学 金属材料研究所
教授 今野豊彦

Email : tjkonno@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2125 / Fax : 022-215-2126

東北大学 金属材料研究所
准教授 木口賢紀

Email : tkiguchi@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2128 / Fax : 022-215-2126

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

Email : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班

Email : pro-adm@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2144 / Fax : 022-215-2482


サマープログラム2016を開催

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6月から8月にかけて、欧米・アジアの理工系トップ校28大学との連携による国際化の推進を目的として、サマープログラム2016(Tokyo Tech Summer Program 2016)を開催しました。

参加学生と東工大生による集合写真
参加学生と東工大生による集合写真

第1回目の開催となった今年は、学士課程レベルの留学生を対象とした4週間の集中講義を行う授業中心プログラム、および学士課程・大学院レベルの留学生向けの6週間または10週間の研究中心プログラムという2つのプログラムを提供し、学士課程2年生から博士課程の学生まで、全体で16大学より31名が参加しました。

授業中心プログラム

7月4日~29日までの4週間、12名の参加学生は、本プログラムのための英語による集中講義である「環境・エネルギー学特論(Environment & Energy)」、「国際エンジニアリングデザインプロジェクト基礎(International Engineering Design Experiences)」、「英語で語る科学・技術・社会(Communicating Science and Engineering in Society (CSES))」、「近代日本の建築(Modern Japanese Architecture)」、「科学者倫理と危機の時代(The Age of Ethical Crisis for Professional Scientist)」を受ける一方、日本語初心者は「サバイバル・ジャパニーズ(Survival Japanese)」を受講し、日本語の基礎を学びました。

東京電力川崎火力発電所の見学東京電力川崎火力発電所の見学

「環境・エネルギー学特論(Environment & Energy)」では、資源循環型ごみ処理施設である横浜市鶴見資源工場、および東京電力川崎火力発電所の見学を行い、日本の最新鋭の高効率ガス複合発電と、廃棄物管理・発電の技術について理解を深めました。

また、「英語で語る科学・技術・社会(Communicating Science and Engineering in Society)」では、最終日に東京工業大学附属科学技術高等学校の生徒19名が参加して、「環境負荷の少ないエネルギー(Green Energy)」や「持続可能性(Sustainability)」といったテーマの下、留学生とのグループ討論に挑戦し、留学生は異なる文化の中でのリーダーシップの取り方について学びました。

東工大附属高校の生徒らとのディスカッション
東工大附属高校の生徒らとのディスカッション

東工大附属高校の生徒らとのディスカッション

研究中心プログラム

6月6日~8月10日の10週間、または7月4日~8月10日までの6週間、19名の参加学生が受入指導教員の下、本学での研究活動に従事しました。研究室での研究活動の傍ら、日本語初心者は「サバイバル・ジャパニーズ(Survival Japanese)」を受講し、日本語の基礎を学びました。

プログラム最終日には、19名全員の参加学生が10分間の研究成果発表を行い、またその後の自由討論では、プログラムに対する意見交換や東工大での経験について、参加学生から感想が述べられました。

  • 研究成果発表会
    研究成果発表会
  • 「サバイバル・ジャパニーズ」最終日の日本語による発表会
    「サバイバル・ジャパニーズ」
    最終日の日本語による発表会
  • 丸山理事・副学長(教育・国際担当)による修了式祝辞
    丸山理事・副学長(教育・国際担当)
    による修了式祝辞

体験企画

本プログラムでは今年度、以下の体験企画を提供し、参加学生は日本文化や日本人学生との交流を楽しみました。

  • 茶道・浴衣着付け体験
  • 東工大合氣道部見学・体験
  • 東工大折り紙同好会FITによる折り紙教室
  • 書道体験
  • 大田区立東調布中学校にて琴・三味線見学・体験
  • 東工大国際学生交流会SAGEによる「東京オリエンテーリング(Tokyo Orienteering)」
茶道体験
茶道体験
浴衣着付け体験
浴衣着付け体験
東工大合氣道部見学・体験
東工大合氣道部見学・体験
東工大折り紙同好会FITによる折り紙教室
東工大折り紙同好会FITによる折り紙教室
書道体験
書道体験
大田区立東調布中学校にて琴・三味線見学・体験
大田区立東調布中学校にて琴・三味線見学・体験

東工大国際学生交流会SAGEによる「東京オリエンテーリング(Tokyo Orienteering)」
東工大国際学生交流会SAGEによる「東京オリエンテーリング(Tokyo Orienteering)」

東工大国際学生交流会SAGEによる「東京オリエンテーリング(Tokyo Orienteering)」
東工大国際学生交流会SAGEによる
「東京オリエンテーリング(Tokyo Orienteering)」
日光への一泊研修旅行
日光への一泊研修旅行

本プログラムは、平成26年度に採択された「スーパーグローバル大学創成支援事業」による取組として、平成27年度に終了した大学の世界展開力強化事業(TiROP、CAMPUS Asia)でパイロット事業として実施したサマープログラムの後継として実施され、学士課程レベルの留学生向け授業プログラム、および学士課程・大学院レベルの留学生向け研究プログラムを提供する全学対象のプログラムです。

お問い合わせ先

留学生交流課 事業推進グループ

E-mail : summer.program@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

第2回滝久雄奨学金授与式を開催

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7月21日、タイ王国パトゥムタニー県タイランドサイエンスパーク内のタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)において、第2回滝久雄奨学金授与式が開催されました。今年度TAIST-Tokyo Tech(TAIST)の組込情報システムコースに入学したウクリ・ワニクルジーさん、及び環境工学コースに入学したソラウィット・アモンウッティーローさんが今回の受給者に選ばれました。

丸山理事とウクリ・ワニクルジーさん(右)
丸山理事とウクリ・ワニクルジーさん(右)
丸山理事とソラウィット・アモンウッティーローさん(右)
丸山理事とソラウィット・アモンウッティーローさん(右)

TAIST-Tokyo Techは、NSTDAと、タイの四大学(キングモンクット工科大学ラカバン校、キングモンクット工科大学トンブリ校、タマサート大学シリントーン国際工学部、カセサート大学)、東工大の連携により、2007年に設立された国際協働による大学院です。

滝久雄奨学金は、本学同窓生であり、株式会社ぐるなびの代表取締役会長・創業者である滝久雄氏(1963年卒)からの寄附を基に2015年度からスタートした制度です。この奨学金は、TAISTの組込情報システムプログラムから1名、環境工学プログラムから1名の計2名を対象として、次世代のリーダーとなってタイの科学技術だけでなく人材育成に寄与することが期待できる優秀な学生に対して財政支援をおこなうものです。本奨学金の受給により、学生はより一層勉学に励むことができます。

授与式では、滝久雄奨学金の紹介の後、滝氏に代わり本学の丸山俊夫理事・副学長から受給者2名に目録が授与され、来賓から盛大な拍手が送られました。

東工大基金

滝久雄奨学金は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2237

東工大インスパイアリング・レクチャーシリーズ2016「材料が拓く未来社会」

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「世界最高の理工系総合大学」を目指す東京工業大学は、大学で行われている最先端研究を紹介すべく、インスパイアリング・レクチャーシリーズ(Tokyo Tech Inspiring Lecture Series)を開催しています。

今年度は、「高輝度・低消費電力白色光源を可能とした高効率青色LEDの発明」により2014年のノーベル物理学賞に輝いた、名古屋大学の天野浩教授をお迎えし、本学の細野秀雄教授と共に、先生の切り拓いてきた材料科学・技術の世界と、それらがもたらす未来社会へのインパクトについてお話しいただきます。

概要

日時
2016年10月13日(木) 15:00 - 17:30(開場14:30)
場所
東工大蔵前会館1階くらまえホール(東京都目黒区大岡山2-12-1)
(最寄駅:東急目黒線・大井町線大岡山駅下車1分)
対象
一般
参加費
無料
申込み
事前予約制 先着順 360名 申込締切 2016年9月30日(金)

プログラム

1.
開会挨拶
東京工業大学 学長 三島良直氏
2.
講演「GaNの工学と未来社会へのインパクト」
名古屋大学教授・ノーベル物理学賞受賞者 天野浩氏
3.
講演「元素戦略と未来の材料」
東京工業大学教授・同大元素戦略研究センター長 細野秀雄氏
4.
閉会挨拶
東京工業大学 理事・副学長 安藤真氏
講演当日のスクリーンの写真撮影、動画撮影、ホール内外の録音及び天野教授への個別取材は対応いたしかねますので、予めご了承願います。

Tokyo Tech Inspiring Lecture Series 2016「材料が拓く未来社会」ポスター

お問い合わせ先

研究戦略推進センター

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794  Fax : 03-5734-3803

乳がんを抑制する新たな遺伝子を発見―ヒト乳がんの診断・治療への応用に期待―

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要点

  • X染色体上のNrk遺伝子を欠損した雌マウスが妊娠・出産を経験後に乳がんを発症
  • Nrkタンパク質が妊娠期の乳腺上皮細胞の増殖を止め、がん化を抑制
  • ヒト乳がんの発症機構の解明・診断・治療への応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニットの駒田雅之教授らは、マウスを用いた実験で乳がんの発症を抑制する新たな遺伝子を発見した。

妊娠期には、エストロゲン[用語1]などの女性ホルモンのはたらきにより乳腺上皮細胞[用語2]が増殖し、乳腺が発達して授乳に備える。その後、乳腺上皮細胞は増殖を停止するが、この増殖停止機構が破綻すると、細胞の増殖が止まらず、乳がん発症につながると考えられる。その制御機構はこれまでよくわかっていなかったが、駒田教授らは、性染色体であるX染色体[用語3]にコードされるタンパク質リン酸化酵素[用語4]であるNrkを欠損したマウスを作製し、このマウスが妊娠・出産を経験後に高頻度(90%の確率)で乳がんを発症することを突き止めた。本研究により、Nrkが妊娠後期の乳腺で発現し、乳腺上皮細胞の増殖を止めることで乳がんの発症を防ぐ役割を果たしていることが明らかになった。

マウスNrk遺伝子の相同遺伝子はヒトにも存在することから、今回の研究成果は、ヒト乳がんの発症機構の解明・診断・治療に結びつくと期待される重要な生命科学・医学上の知見と言える。9月12日発行のアメリカ研究病理学会の学会誌「The American Journal of Pathology」電子版に掲載された。

背景

近年、生涯に乳がんを患う日本人女性は12人に1人と推定され、大腸がんや肺がんとともに世界的にも増加傾向にあることから、大きな社会問題となっている。乳がんの発症は女性ホルモンであるエストロゲンと密接に関係しており、エストロゲンのはたらきを抑える薬剤(タモキシフェンなど)が治療に用いられている。

妊娠期には、出産後の授乳に備えるため、エストロゲンなどの女性ホルモンのはたらきにより乳腺上皮細胞が増殖し、乳腺組織が発達する。しかし、ひとたび妊娠後期に乳腺が十分に発達した後は細胞増殖を停止する必要があり(図1、左)、この制御機構の破綻は乳腺上皮細胞の腫瘍形成・がん化につながると予想される(図1、右)。しかし、どのようなしくみで妊娠後期に乳腺上皮細胞の増殖が抑制されるのか、その分子機構は不明であった。

妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖制御と乳がん

図1. 妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖制御と乳がん

研究成果

Nrkタンパク質は、X染色体にコードされたタンパク質リン酸化酵素である。駒田教授らはそのはたらきを調べるため、人工的にNrk遺伝子を変異させNrkタンパク質が作れなくなったマウス(Nrk欠損マウス)を作製して解析を行った。その飼育の過程で、妊娠・出産を経験した雌のNrk欠損マウスの乳腺にしばしば腫瘤(こぶ)ができることを発見した。詳しく調べるため、Nrk欠損の雌マウスを雄マウスと交配させつつ15ヵ月間飼育したところ、非常に高い頻度(10匹中9匹)でNrk欠損マウスに乳腺腫瘍が形成された。この腫瘍は妊娠・出産の経験のないNrk欠損マウスでは観察されず、妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖と関連していることが強く示唆された。

この乳腺腫瘍をマウスから摘出し、細胞核の形態や周囲組織への浸潤の有無を病理組織学的に調べた結果、この腫瘍は非浸潤性であり、悪性度が比較的低いがんであることがわかった(図2)。

また、エストロゲン受容体、細胞増殖マーカーであるKi67タンパク質、および増殖因子受容体HER2/ErbB2に対する各抗体で腫瘍の免疫組織染色を行い、それらを発現する細胞数を数えたところ、Nrk欠損マウスに発症する乳腺腫瘍はエストロゲン受容体やKi67が陽性で、HER2は陰性だった。これは、ヒト乳がんのサブタイプ[用語5]の分類におけるluminal-B型に近い(図3)。つまり、この腫瘍がluminal-B型のヒト乳がんの動物モデルとなりうる可能性が示唆された。

Nrk欠損の乳腺腫瘍の病理組織学的な解析

図2. Nrk欠損の乳腺腫瘍の病理組織学的な解析

免疫組織染色によるNrk欠損乳腺腫瘍のサブタイプ分類

図3. 免疫組織染色によるNrk欠損乳腺腫瘍のサブタイプ分類

作製したNrk欠損マウスで乳がんが発症する過程を調べるため、妊娠・出産を経験したもののまだ腫瘍形成に至っていないNrk欠損マウスの非妊娠期と妊娠後期の乳腺の病理組織学的解析を行った。非妊娠期においては、野生型とNrk欠損の乳腺の間で組織形態に違いは見られなかったが、妊娠後期において一部のNrk欠損乳腺にエストロゲン受容体を高発現した乳腺上皮細胞が過密に存在する腺房が観察された(図4)。正常な乳腺では妊娠後期にはエストロゲン受容体の発現レベルは低下することから、エストロゲン受容体の高発現を維持した乳腺上皮細胞の集団が“乳がんの芽”となっていることが示唆される。

腫瘍形成前のNrk欠損の乳腺上皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現

図4. 腫瘍形成前のNrk欠損の乳腺上皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現

これまで、マウスのNrk遺伝子の発現は胎仔と胎盤でしか検出されておらず、妊娠期の成体組織における発現は調べられていなかった。今回、非妊娠期および妊娠後期の乳腺組織から全RNAを抽出し、NrkのmRNA発現量を測定した結果、非妊娠期には全くNrk発現の見られない乳腺において、妊娠後期にその発現が上昇することがわかった。つまり、乳腺上皮細胞において発現誘導されたNrkがその乳腺上皮細胞の中ではたらいて細胞増殖を停止させていると考えられる。

さらに、妊娠後期の野生型マウスとNrk欠損マウスから採血し、質量分析法を利用して血中エストロゲン濃度を測定したところ、Nrk欠損マウスでは平均して2倍程度まで血中エストロゲン濃度が上昇していることが明らかとなり、Nrkがエストロゲンの合成・分泌の制御にも関与している可能性が示唆された。したがって、Nrk欠損マウスでは、本来ならば妊娠後期に発現誘導されるNrkによる乳腺上皮細胞の増殖停止プロセスの喪失に加え、そこに高濃度のエストロゲンが作用することで、乳腺腫瘍の引き金が引かれると考えられる。

今後の展開

マウスではNrkが妊娠期の乳腺組織におけるエストロゲン/エストロゲン受容体システムに依存した乳腺上皮細胞の増殖を抑制すること、その制御の破綻が乳がんをひき起こすことが解明された(図5)。マウスのNrk遺伝子と相同の遺伝子はヒトにも存在する。Nrk欠損マウスにおける乳腺腫瘍はヒト乳がんのサブタイプ分類におけるluminal-B型に近いものであったことから、本成果はNrkによるヒト乳がんの抑制機構へと結びつき、ひいてはヒト乳がんのより高度な理解、そして診断・治療法の確立につながることが期待される。

Nrk欠損による乳腺上皮細胞の増殖制御の破綻

図5. Nrk欠損による乳腺上皮細胞の増殖制御の破綻

用語説明

[用語1] エストロゲン : 女性ホルモンの1つ。様々な女性機能を調節するが、妊娠期にその血中濃度が上昇して妊娠を維持するとともに、乳腺上皮細胞の増殖を促進して乳腺組織を発達させる。

[用語2] 乳腺上皮細胞 : 乳腺組織は、乳汁を産生・分泌する腺房と、その乳汁を乳頭まで運ぶ乳管からなる。これら2つの組織を構成するのが乳腺上皮細胞である。

[用語3] X染色体 : 性機能に役割を果たす数多くの遺伝子を含む性染色体の1つ。哺乳動物の性染色体にはX染色体とY染色体があり、雄(男性)はX染色体とY染色体を1本ずつ、雌(女性)はX染色体を2本もつ。

[用語4] タンパク質リン酸化酵素 : タンパク質の特定のアミノ酸残基(セリンおよびスレオニン、あるいはチロシン)にリン酸基を付加する酵素。ヒトには約450種類が存在する。

[用語5] ヒト乳がんのサブタイプ : ヒト乳がんは、がん細胞における遺伝子発現パターンの違いからluminal-A、luminal-B (HER2-)、luminal-B (HER2+)、HER2 (non-luminal)-enriched、triple-negativeの5つのサブタイプに分類され、それぞれに特化した治療方針が推奨されている。

論文情報

掲載誌 :
The American Journal of Pathology
論文タイトル :
Deficiency of X-linked protein kinase Nrk during pregnancy triggers breast tumor in mice.
著者 :
Takayo Yanagawa, Kimitoshi Denda, Takuya Inatani, Toshiaki Fukushima, Toshiaki Tanaka, Nobue Kumaki, Yutaka Inagaki & Masayuki Komada
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット
教授 駒田雅之

Email : makomada@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5703 / Fax : 045-924-5771

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式を実施-独創性豊かな若手研究者に-

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平成28年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式が8月31日に行われました。

受賞者との記念撮影
受賞者との記念撮影

奥住准教授によるプレゼンテーション

奥住准教授によるプレゼンテーション

授賞式では、三島学長から受賞者に賞状の授与、および今後さらなる活躍を期待する旨の激励の言葉があり、次いで受賞者代表3名から、採択された研究課題についてのプレゼンテーションが行われました。

この賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するもので、第15回目となる今回は10名が選考されました。なお、受賞者には支援研究費が贈呈されます。

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名( * は学長特別賞)
准教授
* 原始惑星系円盤の多重ダストリングにおける微惑星形成過程の解明
助教
* マイクロ電気機械素子とその金属結晶粒制御によるナノG慣性センサの創出
准教授
* 電子またはヒドリドイオンを含む新規固体触媒の開発
准教授
液晶乱流とホログラフィを用いた多体確率過程の普遍法則の実験検証
准教授
マルテンサイト逆変態を利用した鉄鋼材料の革新的組織制御
講師
固体表面への触媒活性点集積による新規分子変換反応の開発
准教授
ヒトiPS細胞を用いたDOHaDの検証
助教
マルチブロック型分子を基盤とする動的機能開発
准教授
遺伝子工学的手法による藻類バイオマス生産性の向上
助教
電子欠損性ホウ素化合物による革新的物質変換および新材料開発

(所属順・敬称略)

熊本地震義援金のご報告とお礼

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東京工業大学とその同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会(理事長 石田義雄氏)は、4月14日に発生した熊本地震により被災された方々の復興に向けた支援策の一環として、共同で義援金を募集しました。

4月25日から7月31日にかけてご寄附いただいた義援金は、おかげさまで、666,008円(預金利息を含む)となりました。

9月1日に、蔵前工業会の本房文雄理事・事務局長と本学の黒澤広一総務部長が、日本赤十字社本社に義援金をお届けし、「義援金はすべて被災地に届けられ、被災県において配分される」旨の説明がありました。

改めまして、ご支援いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。

日本赤十字社へ義援金をお渡しする蔵前工業会本房理事・事務局長(左奥)と黒澤総務部長(左手前)
日本赤十字社へ義援金をお渡しする蔵前工業会本房理事・事務局長(左奥)と黒澤総務部長(左手前)

お問い合わせ先

総務部総務課

Email : som.head@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2031

ロス・ガラチェロスが「ヤマノ・ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト」で第3位を獲得

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東工大のラテンジャズビッグバンドサークル「ロス・ガラチェロス」が、8月14日に開催された山野楽器主催の「第47回ヤマノ・ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト」において、強豪校を凌ぎ、第3位「優秀賞」を獲得しました。これは「ロス・ガラチェロス」の50年以上に及ぶ長い歴史の中でも2番目に高い順位となります。

トロフィーと表彰状、副賞を手に表彰式後に記念撮影
トロフィーと表彰状、副賞を手に表彰式後に記念撮影

「ヤマノ・ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト」とは

年に一度、全国から予選を勝ち抜いた全35大学のビックバンドジャズサークルが集まって腕を競い合う、「学生ビッグバンド界の甲子園」です。一口にジャズといってもバンドごとに様々なカラーがあり、チケットも一般販売され、毎年通うファンの方もいるほど注目度の高いコンテストです。また、過去の大会出場者には、現在、プロ活動をされている方もおり、アマチュアジャズ界では最高峰の歴史と伝統を持つコンテストといえます。10月には、上位10バンドの演奏を収録したハイライトCDも一般販売されます。

フリューゲルホルンのソロ。しっとりと聴かせます
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バリトンサックスのソロ。熱く盛り上がっています!
バリトンサックスのソロ。熱く盛り上がっています!

東工大ラテンジャズビッグバンドサークル「ロス・ガラチェロス」の紹介

ロス・ガラチェロスは、「ラテンジャズビッグバンド」というジャンルの、50年以上の歴史を有する音楽サークルで、OBの方々やサークルメンバーの間では通称「ロスガラ」と呼ばれています。ラテンジャズとは、通常のジャズ編成とは幾分異なり、主にカリブ海に面した国々で生まれたラテン音楽をベースに、ジャズの要素を加えた陽気な音楽を指します。ときには、カリブの国々に由来する宗教的な音楽に近い曲目を演奏することがあります。 学内外合わせて約70名のメンバーで構成されており、学部3年生を中心とした「レギュラーバンド」と、学部1・2年生を中心とした「ジュニアバンド」の2つのバンドに分かれ、日々練習を重ねています。

バンドのこだわりとして、演奏の際には必ずステージ衣装としてアロハを着用しています。他の大学のバンドはスーツできめたりしていますが、ロスガラは冬でもアロハで通しています。見た目も華やかで、観客にも陽気なバンドという印象を与え、楽しんでいただくことに一役買っています。 演奏披露の場として、今回のようなコンテストの他に、一年の集大成である定期演奏会、学園祭での演奏、他大学とのジョイントコンサート、結婚式や式典といった学内外での依頼演奏など多岐にわたっています。

現役部員とOBを合わせた集合写真。たくさんの方の応援が力になりました
現役部員とOBを合わせた集合写真。たくさんの方の応援が力になりました

受賞コメント

3位「優秀賞」獲得に喜びが溢れた表彰式
3位「優秀賞」獲得に喜びが溢れた表彰式

新城陸さん/バンドマスター(工学部 無機材料工学科 3年)

今回、学生ビックバンドの全国大会であるヤマノ・ビック・バンド・ジャズ・コンテストにおいて、第3位「優秀賞」という結果を取ることが出来、とても光栄に思っています。東工大の、外でも自由に音出しができるという環境があったことや、学務部学生支援課の方々、応援してくださる東工大OBの方々などの支援にも恵まれた結果だと思います。これからもより良い音楽を届けるために精進していきますので、応援をよろしくお願いいたします。

山下拓也さん/マネージャー(工学部 化学工学科 3年)

今回このような素晴らしい結果を残せたのは、これまで支えてくださった学校関係者の皆さま、指導してくださったロスガラOBの皆さま、いつも応援してくれた後輩たち、そして何より日々私たちの演奏を楽しみにしてくださっている皆さまのお陰です。ロスガラは、今後も年末の定期演奏会を始めとして様々な場所で演奏活動を行っていきますので、是非お気軽に足を運んでいただければと思います。

澤野暁さん/コンサートマスター(工学部 化学工学科 3年)

私たちロスガラはヤマノ・ビッグ・バンド・ジャズ・コンテストに向け、今年の1月から活動してきました。この15分間の演奏のために、曲を自分達で探し、曲のアレンジをプロの方に頼み、直前は合宿に行ったりと、この夏を捧げるくらいメンバー一同奮闘してきました。大会本番ではその成果もあって最高の演奏をすることができ、素晴らしい結果もついてきて、本当に感無量の思いです。関わってくださった全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

東工大基金

ロス・ガラチェロスは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

Los Guaracheros

Email losguara2016.manager@gmail.com

9月15日16:20 本文中の誤字とタイトルを修正しました。

お椀状分子の配向を単分子レベルで自在に制御することに成功―100テラビットを超える省電力高密度メモリー実現に道―

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要点

  • お椀の形状をもつスマネン分子を金表面に吸着、単分子レベルで配向を制御
  • 分子配向による伝導度の違い利用し、分子1個が記録素子に
  • 1平方インチあたり600テラビットの不揮発性メモリーが可能に

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、大阪大学の櫻井英博教授らのグループは、フラーレンの一部を切り出したお椀形状をもつ分子「スマネン[用語1]」を用い、単分子レベルで分子の配向を自在に制御することに成功した。金の表面に最密構造をもつスマネン分子膜を作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]の探針を近づけて、スマネン単分子の反転を実現した。

分子反転(分子の向き=配向)によりスマネン分子(図1)の伝導度が10倍程度変化することを確認した。スマネン単分子の伝導度を1記録素子として利用することで記憶媒体として利用できる。また分子反転は電流ではなく機械的な力により誘起され、形状保持に電気は不要である。

スマネン分子の密度は1平方インチあたり600テラビット(Tbit/inch2、1テラビットは約1兆ビット)に相当し、高密度メモリー[用語3]、低消費電力の不揮発性分子メモリーへの展開が期待できる。

研究成果は8月24日に米国化学学会誌(Journal of the American Chemical Society)オンライン版に掲載された。

背景

人工知能(AI:Artificial Intelligence)やモノのインターネット(IoT:Internet of Things)など、社会で扱う情報量は飛躍的に増加している。急増する情報を記録するメモリーも同じスピードで高密度化と低消費電力化が求められている。様々な試みが行われているが、その一つに単分子に情報を記録させる単分子メモリーが注目を集めている。分子の大きさはたかだか1 nm(ナノメートル、10億分の1メートル)であるので、分子の形状を単分子レベルで制御しその形状を情報として利用することができれば、1ペタビット/inch2(1ペタビットは約1,000兆ビット)を超える高密度メモリーを実現することが可能である。

研究成果

高密度の分子メモリーを作製するために、本研究ではお椀型の形状をもつスマネン分子に注目した。スマネン分子は基板に吸着させることで上向き、下向きと2種類の配向をもつことが期待できる。

スマネン分子

図1. スマネン分子

室温でスマネン分子溶液に金基板を浸漬させることで、金表面にスマネン分子膜を作製した。作製した分子膜をSTMで観測すると、図2(a)に示すように分子が最密充填構造をもつ秩序膜を形成していることが分かった。STM像は探針と基板の間の電圧(バイアス電圧)に依存し変化した。STM像のバイアス依存性を理論計算結果と比較することで、表面吸着構造を決定した(図2(b))。そして、スマネン分子は上向き配向をとっていることも明らかとなった。

金表面上に吸着したスマネン分子膜の走査型トンネル顕微鏡像(a)と構造モデル(b)。水色と青色の点がスマネン分子の中心位置に対応する。
図2.
金表面上に吸着したスマネン分子膜の走査型トンネル顕微鏡像(a)と構造モデル(b)。水色と青色の点がスマネン分子の中心位置に対応する。

作製した分子膜に対しSTMの探針を近づけたところ、局所的に構造が変化する現象を発見した(図3)。図4に探針を近づけた前後のSTM像を示す。得られたSTM像を理論計算と比較することで、探針が近づくことで、上向きの配向で吸着していたスマネン分子が反転し下向きの配向をとることが分かった。上向きと下向きで基板との相互作用の大きさが変化し、スマネン単分子の伝導度が変化した。下向きの配向の方が基板との相互作用が小さいため、分子の伝導性が高く、明るい輝点として観測される。

STM探針によって誘起される分子の配向変化のメカニズムとしては、STM探針から注入される電子による力、機械的な力が考えられる。STM探針から注入する電子量を増やしても配向変化は促進されず、電子的な効果ではないことが分かった。理論計算を行うことで、スマネン分子の反転に要するエネルギーが探針を近づけることで劇的に減少することが分かった。スマネン分子が上側、下側両側で金属と相互作用することで、反転に要するエネルギーが減少したと考えられる。以上の考察により、分子の配向変化は機械的な力により誘起されることが明らかとなった。

原子レベルの探針を分子膜に近づけた際の構造変化。左の図で矢印の位置に探針を近づけた所、構造が変化した。
図3.
原子レベルの探針を分子膜に近づけた際の構造変化。左の図で矢印の位置に探針を近づけた所、構造が変化した。
探針の接近によって誘起される構造変化および高解像度の走査型トンネル顕微鏡像(左:上向き配向、中央:遷移状態、右:下向き配向)
図4.
探針の接近によって誘起される構造変化および高解像度の走査型トンネル顕微鏡像(左:上向き配向、中央:遷移状態、右:下向き配向)

今後の展開

基板上に吸着したスマネン分子の密度は1平方インチあたり6×1,014個であり、本研究ではその1個1個の分子の配向を制御することができた。これは600 Tbitの高密度メモリーに相当する。さらに分子の配向制御は機械的な力により可能で、かつ分子の配向は探針を近づけない限り保存される。つまり記録の書き込み、そして記録保持に電力が不要である。夢の高密度、低消費電力のメモリー開発へとつながる。

今後の展開としては2方向を検討している。一つはさらなる高密度化である。スマネン分子よりさらに小さな分子を用いて、同様の機械的な力により動作する1ペタビットを超えるメモリーの開発を行う。

もう一つの方向性は新たな機能創出である。今回の研究により、分子配向を制御し伝導特性を変化させることに成功した。分子はほかにも誘電性、磁性、光学特性をはじめとする様々な機能(特性)を有しており、これらの物性は分子の配向によって変化する。そこで、機械的な力により、電圧(ダイポール)、偏光、スピンの向きを単分子レベルで制御し新たな微小デバイス開発を行う。

用語説明

[用語1] スマネン : サッカーボール型のフラーレンの一部を切り出したような、お椀型の分子である。分子が湾曲構造をもつため、基板に吸着させると上向きと下向きの2種類の配向を取り得る。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡 : 金属の探針で導電性の基板をなぞることで、表面形状を原子レベルで観測することができる顕微鏡。金属探針と基板の間に電圧を与えた状態で、探針を基板に数nm以下に近づけると、探針と基板間の間に電流(トンネル電流)が流れるようになる。トンネル電流は探針と基板の間の距離に敏感に変化するので、電流の変化を計測することで、表面の凹凸を原子レベルで計測することが可能である。

[用語3] 高密度メモリー : 電子のスピンを用いた記録素子なども注目を集めている。小さな磁石(スピン)を集積化させて使用しているため、記憶素子同士の磁気的な干渉などにより高密度化に限界がある。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Bowl Inversion and Electronic Switching of Buckybowls on Gold
著者 :
Shintaro Fujii1, Maxim Ziatdinov1, Shuhei Higashibayashi2, Hidehiro Sakurai3, Manabu Kiguchi1
所属 :
1Department of Chemistry, Graduate School of Science, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 W4-10 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan
2Research Center of Integrative Molecular Systems, Institute for Molecular Science, Myodaiji, Okazaki 444-8787, Japan
3Division of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Osaka University, 2-1 Yamada-oka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
DOI :

理学院

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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 理学院 化学系
特任准教授 藤井慎太郎

Email : fujii.s.af@m.titech.ac.jp

教授 木口学

Email : kiguti@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2071 / Fax : 03-5734-2071

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

巨大氷惑星の形成現場を捉えた―アルマ望遠鏡で見つけた海王星サイズの惑星形成の証拠―

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概要

近年、太陽以外の星のまわりにも、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程も、いまだによく分かっていません。

うみへび座TW星は、年齢が約1,000万歳と若く、星のまわりには塵とガスの円盤があると知られています。研究チームは今回、円盤内の塵が放つ電波をアルマ望遠鏡[用語1]で捉え、円盤のようすを詳しく描き出すことに成功しました。円盤には何本かの暗い隙間が刻まれており、特に半径22天文単位[用語2]の隙間では、周囲に比べて小さな塵が豊富に存在することがわかりました。理論的研究から、円盤内に惑星が存在すると、こうした特徴が現れることが提唱されており、今回の観測成果はこの理論予測と合致します。隙間の特徴を考慮すると、ここには海王星程度の大きさの惑星ができていると考えられます。この発見により、どんな大きさの惑星が、どこでいつごろ作られるかが明らかにできると期待されます。

この研究成果は、2016年日本天文学会秋季年会の以下の講演にて発表されます。

星惑星形成 P124a「TW Hyaの原始惑星系円盤に対するALMAを用いた高分解能多周波観測」塚越祟(茨城大学)ほか

研究グループ

  • 塚越祟(つかごし たかし) 茨城大学 助教
  • 武藤恭之(むとう たかゆき) 工学院大学 准教授
  • 野村英子(のむら ひでこ) 東京工業大学 准教授
  • 川邊良平(かわべ りょうへい) 国立天文台 教授
  • 石本大貴(いしもと だいき) 東京工業大学/京都大学 大学院生(2016年修了)
  • 金川和弘(かながわ かずひろ) シュチェチン大学 研究員
  • 奥住聡(おくずみ さとし) 東京工業大学 准教授
  • 井田茂(いだ しげる) 東京工業大学 地球生命研究所 教授
  • Catherine Walsh(キャサリン・ウォルシュ) ライデン大学 学術研究員
  • Tom J. Millar(トム・ミラー) クイーンズ大学 ベルファスト 教授

研究の背景

惑星系が形成される土台:原始惑星系円盤

近年、太陽以外の星のまわりで、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、特に、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程は、よく分かっていません。

このような謎を解くためには、「原始惑星系円盤」と呼ばれる、若い恒星を取り巻く円盤状の天体を、望遠鏡を使って観測することが重要です。この円盤は、冷たいガスや塵で構成されており、惑星の材料になると考えられています。原始惑星系円盤を詳しく調べることで、多様な惑星系がどのように生まれてくるのかを調べることができます。

うみへび座TW星

うみへび座TW星(図1参照)は、水素核融合反応を起こす前の段階にある、年齢およそ1,000万歳の若い恒星です。地球から175光年ほどの距離にあり、このような若い恒星の中では最も太陽系に近い恒星です。うみへび座TW星は太陽と同じくらいの重さで、地球が属するこの太陽系と直接比べることができるため、太陽系がどのように形成されたのかを調べるための良い観測対象といえます。

この恒星の周囲に原始惑星系円盤が存在することは過去の観測から知られていました。最近になって、この円盤に複数の「隙間」があることが発見されました。原始惑星系円盤内に惑星が形成されると「隙間」ができることは理論的に予想されており、観測された隙間の位置は太陽系における木星や海王星の軌道とよく一致しています。そこでは、太陽系にあるのと似た惑星が形成されていることを伺わせます。したがって、このような隙間がどんな構造をしているのか詳しく調べれば、惑星が形成される過程やその様子を明らかにすることができるはずです。

うみへび座の姿とTW星の位置

図1. うみへび座の姿とTW星の位置

観測の特徴

アルマ望遠鏡による2周波数[用語3]での電波観測

茨城大学の塚越崇助教を中心とする研究チームは、うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤の構造を詳しく調べるため、大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」(図2)を使用した観測を行いました。円盤内にある極低温(氷点下250 ℃程度)の塵は目に見える光では輝いていませんが、電波では輝いていることが知られています。アルマ望遠鏡を用いて電波で観測することにより、光では見ることのできない円盤内の冷たい塵を見ることができます。

今回の研究では、145 GHzと233 GHzという異なる2つの周波数の電波で観測をしています。異なる周波数の電波の強度は塵の大きさに関係しているため、2つの周波数の電波強度を比較することで、円盤内で塵の大きさが場所によってどのように異なっているのかを調べることが出来るのです。

今回の観測で使用したアルマ望遠鏡 クレジット:国立天文台

図2. 今回の観測で使用したアルマ望遠鏡 クレジット:国立天文台

観測の結果

円盤の隙間には小さい塵が満ちていた

今回、我々が行ったアルマ望遠鏡による観測でも、これまで見つかっていた隙間があることが確かめられました(図3、)。今回の研究では、最も顕著な22天文単位にある隙間に着目しました。この隙間における2つの周波数の電波強度の比(強度比)は、隙間の周囲に比べて有意に高くなっていることが分かりました(図4参照)。塵が小さいほど、それが放つ電波の強度比は高くなるので、強度比が高いところでは、大きい塵が少なくなっていることを示しています。つまり、着目した隙間では大きい塵が少なくなり、小さい塵だけが多く残っていることが明らかになりました。一般的に、大きい塵は数ミリメートル程度、小さい塵は数マイクロメートル程度の大きさだと考えられていますが、今回の観測だけでは具体的な塵の大きさを精度よく決定することは出来ません。この点を明らかにする観測が、今後計画されています(「今後の研究の発展」の項を参照)。

アルマ望遠鏡による 観測によって得られたうみへび座TW星の画像
図3.
アルマ望遠鏡による 観測によって得られたうみへび座TW星の画像。画像を見やすくするために、ここでは観測した2つの周波数での電波強度を足し合わせたものを示す。比較のため、同じ距離から太陽系を見た場合の木星と海王星の軌道に相当する大きさを右下に示す。クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.
アルマ望遠鏡で観測した2つの周波数間での電波強度比
図4.
アルマ望遠鏡で観測した2つの周波数間での電波強度比。半径22天文単位のところ(赤い点線)で強度比が優位に高くなっていることがわかる。

円盤の隙間では巨大氷惑星が生まれているかもしれない

これまでに成された理論的な研究によると、円盤の中に惑星が存在し、それが隙間を作っている場合、円盤のガスと塵の相互作用によって大きめの塵が隙間の中からはじき出され、隙間の中には小さい塵のみが残ると予想されています。今回の観測では、それとよく一致した結果が得られました。

では、どのくらいの重さの惑星が存在するのでしょうか?別の理論的な研究(例えば、2015年に示された金川らの研究)では、隙間の幅と深さ(周囲の明るい部分との光度比)と、それを作った惑星の重さとの関連が予想されています。この研究結果を利用し、今回の観測結果から、隙間を作っている惑星の重さを見積もります。画像から分かる明るさの分布は、実際の塵の分布とは厳密には異なりますが、今回の場合、これらはほぼ同一のものとして考えることができます。観測で得られたこの隙間の幅はおよそ5天文単位でした。また、隙間の中と外とでの明るさの比は、平均で0.5程度でした。よって、今回の観測結果と、上述の理論研究とを比較してみると、図5のように、データは理論研究による予想線上にあり、惑星の重さが海王星より少し重いくらいであることが分かりました。加えて、中心星から22天文単位という距離は、太陽系では天王星と海王星の軌道の間に相当します。うみへび座TW星が太陽とほぼ同じ重さであることを考えると、ここで誕生している惑星は天王星や海王星とよく似た巨大氷惑星である可能性が高いと我々は考えています。

金川ら(2015、2016年)の理論研究に基づいた、隙間構造と惑星質量の関係の予想

図5. 金川ら(2015、2016年)の理論研究に基づいた、隙間構造と惑星質量の関係の予想

今後の研究の発展

本研究によって、うみへび座TW星の原始惑星系円盤で発見された半径22天文単位の隙間は、その中に惑星が存在する可能性が極めて高いことがわかりました。一方で、異なる方法で惑星形成のさまざまな可能性を探ることも重要です。我々の研究グループでは、本研究結果を受けて、アルマ望遠鏡の次期観測に繋げています。

一つは電波偏光[用語4]を捉える観測です。最近の理論計算では、電波偏光を観測することで、塵の大きさをより正確に見積もることが可能であることが示されています。したがって、電波偏光が観測できれば、本研究とは別の方法で塵の大きさを調べることができます。もう一つは、隙間でのガスの量を調べる観測です。円盤のほとんどはガス成分であり、形成される惑星の性質もガスの量に依存します。ガスの分布を調べることで、より正確に惑星質量を見積もることができるでしょう。

用語説明・補足説明

[用語1] アルマ望遠鏡 : 日本をはじめとする東アジア、北米、欧州などが協力して南米チリに建設した、巨大電波望遠鏡です。66台のパラボラアンテナを結合させてひとつの巨大な電波望遠鏡として機能させることができ、星や惑星の材料となる冷たい塵やガスが放つ電波をこれまでにない感度と解像度で捉えることができます。

[用語2] 天文単位 : 距離や大きさの単位。1天文単位は太陽と地球の距離で、約1億5,000万kmに相当する。

[用語3] 周波数 : 電波や赤外線、我々の目で見える可視光線などは総称として「電磁波」とよばれ、電場と磁場が振動する波が空間を伝わっていきます。この波が1秒間に振動する回数を「周波数」と呼び、単位Hz(ヘルツ)で表します。電磁波はこの周波数の違いによって異なる性質を示します。電波は電磁波の中でもっとも周波数が低く、国際電気通信連合による定義では周波数3 THz(テラヘルツ、1秒間に1兆回の振動に相当)よりも周波数が低いものが電波と呼ばれます。

[用語4] 電波偏光 : 電磁波の振動の方向はその進行方向に対して垂直であり、一般的な電磁波ではさまざまな方向の振動面の電磁波が重なり合っています。振動面がある方向に偏った状態を「偏光」と呼びます。塵が放つ電波や塵によって散乱される電波は特定の偏光を持つことが知られており、塵の性質を調べる重要な手がかりになります。

[注] うみへび座TW星はこれまでにもアルマ望遠鏡で観測されてきました。たとえば2016年3月には、米国のグループがアルマ望遠鏡を用いて高い解像度で、うみへび座TW星を観測し、円盤に複数の隙間を発見したことを発表しました。しかし、この観測は1周波数のみを用いたものであり、塵の大きさまではわかりませんでした。

論文情報

掲載誌 :
The Astrophysical Journal Letters
論文タイトル :
"A Gap with a Deficit of Large Grains in the Protoplanetary Disk around TW Hya"
著者 :
Tsukagoshi et al.

理学院

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お問い合わせ先

茨城大学
助教 塚越祟

Email : takashi.tsukagoshi.sci@vc.ibaraki.ac.jp
Tel : 029-228-8362

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
准教授 野村英子

Email : nomura@geo.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2622 / Fax : 03-5734-3538

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

「環境報告書2016」発行

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環境報告書2016

2015年度における本学の環境保全に向けた研究・教育活動、環境負荷低減のための取り組み等の活動をまとめ、「環境報告書2016」として発行しました。

環境報告書とは、企業などの事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取組の状況等について取りまとめ、名称や報告を発信する媒体を問わず、定期的に公表するものです。

環境報告書の普及促進、信頼性向上のための制度的枠組みを整備し、環境報告書を社会全体として積極的に活用していくための「環境配慮促進法」(2004年制定)により、独立行政法人や国立大学法人においても発行が義務付けられており、本学では2005年度より作成し、公表しています。

環境報告書2016

目次

  • ごあいさつ
  • 第1章
    東京工業大学の概要
    • 1-1
      組織構成
    • 1-2
      基本的要件
  • 第2章
    環境・安全衛生マネジメント
    • 2-1
      環境方針
    • 2-2
      環境・安全衛生マネジメントの目標と行動
    • 2-3
      省エネルギーとCO2対策の取組
    • 2-4
      一般廃棄物による環境負荷低減の取組
    • 2-5
      化学物質による環境負荷低減の取組
    • 2-6
      キャンパス整備における環境配慮の取組
    • 2-7
      環境・安全衛生の両面に配慮した取組
  • 第3章
    環境パフォーマンス
    • 3-1
      研究・教育活動と環境負荷の全体像
    • 3-2
      エネルギー使用量
    • 3-3
      省エネルギーとCO2削減
    • 3-4
      化学物質管理
    • 3-5
      実験系産業廃棄物
    • 3-6
      その他物資
  • 第4章
    環境に貢献する科学技術研究
    • 4-1
      世界をリードする環境研究の推進
    • 4-2
      最先端の環境関連研究内容~トピックス~
  • 第5章
    環境教育と人材育成
    • 5-1
      講演会・講習会
    • 5-2
      環境関連カリキュラムの充実
    • 5-3
      附属科学技術高等学校における環境教育
    • 5-4
      在学生からのメッセージ
    • 5-5
      サークル活動
    • 5-6
      卒業生からのメッセージ
  • 第6章
    環境の社会貢献活動
    • 6-1
      公開講座・学園祭等
    • 6-2
      学生の環境保全活動
    • 6-3
      構内事業者の取組
  • 「環境報告ガイドライン2012」との対照表
  • 第三者意見
  • 東工大の改革にあたって
  • 「東京工業大学環境報告書2016」発刊によせて

詳細は、総合安全管理センターwebサイトouterからご覧いただけますので、ぜひご一読ください。

お問い合わせ先

総合安全管理センター 環境報告書作成事務局

Email : kankyouhoukoku@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3407

英文ニュースレター Bulletin No. 43 配信

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Tokyo Institute of Technology Bulletinは3か月に一度本学が配信している英文ニュースレターです。 東京工業大学の研究成果やニュース記事、学生の活動などを国内外へ広くメールで配信をしております。

この度、Tokyo Institute of Technology Bulletin No. 43 が発行されました。

メールでの配信をご希望の方は申込フォームからご登録ください。

Tokyo Institute of Technology Bulletinは英語で配信を行っていますがコンテンツは全て日英両方でご覧頂けます。

Tokyo Institute of Technology  Bulletin | Research and education at Japan's foremost university dedicated to science and technology

Hirofumi Akagi - Power electronics, real solutions to global environmental and energy issues

Topics

Hirofumi Akagi - Power electronics, real solutions to global environmental and energy issues

Feature

Recent Research

News

Through Students' Eyes

Tokyo Institute of Technology Bulletin No.43

第50回外国人研究者懇談会開催、バーヌ・ダス教授が本学の国際化についてスピーチ

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7月19日、本学学長主催の第50回外国人研究者懇談会「Tokyo Tech Welcomes You」が開催されました。年2回、在籍する外国籍の研究者や教員を迎え、本学役員が出席して開催される本イベントは、さまざまな分野の研究者が集い、学術的な意見交換や文化交流が行われる場となっています。

毎回、招待者を代表して外国人研究者によるゲストスピーチが行われます。第50回となる今回は、理学院のバーヌ・ダス教授が登壇しました。ダス教授は、2015年度から本学に所属し、電気双極子モーメントや、電子の質量中心と電荷中心の間の距離といった物理学の研究をしており、これらの解明は宇宙に対する理解に大きな意味があります。また、30年以上の研究歴および教育歴があるダス教授は、原子物理学および粒子物理学と国際共同研究の貢献から、2012年にアメリカ物理学会フェローに選ばれています。

理学院 バーヌ・ダス教授

バーヌ・ダス教授

ダス教授は、東工大には国際化に向けた多くの機会があると話し、そのひとつとして、理学院主催の若手研究者の国際ワークショップを紹介しました。このワークショップでは、海外からの留学生が本学物理学系の教授らによる講義を受け、日本の史跡に赴き、さらには、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授の特別講義を受けることがきたことを紹介しました。また、ダス教授自身が企画する原子分子物理学の国際ワークショップの開催が9月に予定されており、物理学の研究者がアジア、ヨーロッパ、北米、オーストラリアから集う予定であると話しました。最後に、「東工大は、真にトップクラスの国際的な大学へ変わりつつあります。」と述べ、本学の研究者には、創造力を発揮する素晴らしい機会があると話し、スピーチを締めくくりました。

また、情報生命博士研究院のドラゴミルカ・ヨビッチ特任助教と学術国際情報センターのウォン・ユンホン特任助教に、研究者として本学の国際化をどのように感じているか、インタビューを行いました。

情報生命博士研究院 ドラゴミルカ・ヨビッチ特任助教

ドラゴミルカ・ヨビッチ特任助教

ヨビッチ特任助教は、2008年に国際大学院プログラム(IGP)に入学したことが、東工大に籍を置くきっかけだったと話し、自分の名前の響きが「ドラゴン(竜)」に似ているため、研究室では仲間から「リュウさん」と呼ばれていたこと、そして胚性幹細胞周期の可視化の研究に取り組んでいたことを振り返りました。現在は、特任助教として、「生命系グループ型問題解決演習」という講義で教鞭を執っており、異なる専門分野の学生が共同して研究課題を解決することを目指しています。東工大について聞かれると、東工大の科学技術が国際的に認識される機会が若手研究者のためにたくさん用意されていることに触れたほか、今年4月に行われた教育・研究体制の改革により、東工大が世界中の学生を魅了するような存在であり続けてほしいと述べました。

学術国際情報センター ウォン・ユンホン特任助教

ウォン・ユンホン特任助教

続いて、学術国際情報センターのウォン・ユンホン特任助教は、国費留学生として2012年に博士後期課程に入学し、マルチGPU加速のスーパーコンピューターTSUBAMEを利用して流体シミュレーションを研究し、現在は、特任助教として、TSUBAMEを駆使しながら複雑な流体構造連成の解析をしていると自身について語りました。東工大を選んだ理由を聞いたところ、東工大が、2011年にゴードン・ベル賞を受賞したTSUBAME2.0のようなGPUスーパーコンピューターをいち早く導入した研究機関のひとつであったためだと話しました。本学のTSUBAMEの存在によって画期的な研究が達成されだけでなく、ウォン特任助教にとっても最適な研究環境となっていると述べました。

第50回外国人研究者懇談会の様子
第50回外国人研究者懇談会の様子

懇談会は終始和やかな雰囲気の中進められました。次回の外国人研究者懇談会は、来年1月に開催される予定です。

お問い合わせ先

国際事業課国際基盤グループ

E-mail : iad.events@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7690

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