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東工大代表団がASPIREフォーラム 2016に出席

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7月3日~8日に「ASPIREフォーラム2016」が香港科技大学(中国・香港)で開催され、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)、関口秀俊副学長(国際連携担当)、ASPIRE事務局より三原久和教授(生命理工学院長)が出席しました。また、本学ASPIREリーグ運営委員会より、西條美紀教授(環境・社会理工学院)も同行しました。このフォーラムは、本学が加盟しているASPIREリーグ※1が毎年開催しているものです。丸山理事・副学長一行は、7月7日~8日に行われたシンポジウムと副学長会議に出席しました。

(左から)丸山理事・副学長(東工大)、ユアン・シー前副学長(清華大学)、ジョセフ・HW・リー副学長(香港科技大学)、アー・ミーン・ホワ副学長(南洋理工大学)、ソンヒョン・メン副学長(韓国科学技術院)

(左から)丸山理事・副学長(東工大)、ユアン・シー前副学長(清華大学)、ジョセフ・HW・リー副学長(香港科技大学)
アー・ミーン・ホワ副学長(南洋理工大学)、ソンヒョン・メン副学長(韓国科学技術院)

ASPIREフォーラムは、テーマに沿った研究成果を各大学の研究者が発表する「シンポジウム」や学生向けの「ワークショップ」、加盟大学の副学長やシニアスタッフが各大学のリーグ内での活動について報告する「副学長会議」で構成されています。今年のテーマは「Developing Sustainable Urban Environments and Low Carbon Economy(持続可能な都市環境と低炭素経済社会の開発)」でした。

副学長会議

本学のASPIREリーグの活動について説明をする丸山理事・副学長
本学のASPIREリーグの活動について説明をする丸山理事・副学長

各大学の副学長およびシニアスタッフが出席した副学長会議では、リーグ内の学生交流や研究交流活動の報告と今後の活動に関する提案がなされ、活発な意見交換が行われました。

シンポジウム

講演を行う村田涼准教授
講演を行う村田涼准教授

7月7日に開催されたシンポジウムでは、同テーマの研究を行っている加盟大学の研究者が発表を行い、本学からは、村田涼准教授(環境・社会理工学院)が、「Architecture Responsive to Environment - Passive Solar Design in Tokyo Tech's "Genso Cube"(環境と応答する建築 ─ 東京工業大学元素戦略研究センター(元素キューブ)のパッシブデザイン ─)」というテーマのもと、自身が設計を担当し、昨年6月に本学すずかけ台キャンパスに竣工した「元素キューブ」(元素戦略研究センター)の環境に配慮した設計や構造について講演を行いました。

また、東工大が創設した研究グラント(助成金)をもとに2011年から東工大の研究代表者とASPIREリーグ加盟大学の研究者との間で実施している、共同研究についても報告がありました。今年のシンポジウムでは、中島信孝准教授(生命理工学院)、道信剛志准教授(物質理工学院)が各自の共同研究について報告をしました。中島准教授のグループは環境微生物からの有用遺伝子発掘について、道信准教授のグループは有機半導体高分子に関する研究を行っています。

学生ワークショップ

プレゼンテーション後の記念撮影
プレゼンテーション後の記念撮影

学生ワークショップには、ASPIREリーグおよびIDEAリーグ※2から29名の学生が参加しました。約1週間にわたって、香港科技大学および他機関の講師による講義を受講し、香港にある環境技術を駆使したスマートビルディング「グリーン18」やマイポー自然保護区等の訪問をしました。自然保護区では、巨大都市香港の環境保全に同区がいかに貢献しているかを学びました。

最終日には、学生たちが各大学の副学長の前でワークショップ期間中にグループワークで作成したプレゼンテーションを発表する場が設けられました。大学混成5チームに分かれてのプレゼンテーションでは、技術賞、発表賞、発表者賞の3つがチームおよび個人に授与され、本学の学生が参加したチームも、技術賞と発表賞を受賞しました。

学生ワークショップ終了後には、ASPIREリーグの議長を2年務め、今年副学長を退任する香港科技大学のリー副学長に、丸山理事・副学長およびASPIRE事務局の三原教授が、感謝の意を込めて記念品を贈りました。

(左から)三原教授、リー副学長、丸山理事・副学長

(左から)三原教授、リー副学長、丸山理事・副学長

今年度のフォーラムでは、深圳にある香港科技大学産学研ビルの訪問ツアーがリーグ加盟大学の副学長およびシニアスタッフのためにアレンジされました。同ビルには、10の研究所がある香港科技大学深圳研究院、14のベンチャー企業がある香港科技大学起業促進センターと11社の企業が入居しています。一行は、分子神経科学研究所と深圳研究院初のベンチャー企業の固高科技有限公司(Googol Technology)や大疆創新科技有限公司(Da-Jiang Innovations Science and Technology Co., Ltd)のオフィスを訪問しました。

※1 ASPIREリーグ

本学が発案し、2009年に設立された科学技術の発展と人材の開発を通してアジアにおけるイノベーションのハブを形成することを目的とした、アジア地域における理工系トップ大学のコンソーシアムです。加盟大学は、清華大学(中国)、香港科技大学(中国)、南洋理工大学(シンガポール)、韓国化学技術院と東京工業大学の5大学。東工大は、設立当初より事務局を務めています。

※2 IDEAリーグ

デルフト工科大学(オランダ)、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、アーヘン工科大学(ドイツ)、シャルマーズ工科大学(スウェーデン)、ミラノ工科大学(イタリア)のヨーロッパ理工系大学5大学で構成されたコンソーシアム。両リーグでは、2011年より各サマープログラムに学生の相互派遣を行っています。


大隅良典栄誉教授が平成28年度文化勲章を受章

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10月28日、大隅良典栄誉教授が、平成28年度文化勲章を受章することが決定しました。

文化勲章は、科学技術や芸術など、文化の発達に卓絶した功績のある者に授与される勲章です。

大隅良典栄誉教授は、細胞生物学の分野において、細胞が栄養環境などに適応して自らの細胞内のタンパク質を分解する自食作用「オートファジー」に関して、その分子機構や多様な生理的意義を解明し、オートファジー研究を生命科学の先端的研究へと牽引した優れた業績を挙げるなど、多大な貢献をしました。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授 受賞コメント

昨年度の文化功労者に続きまして、今年度文化勲章の内示をいただきました。大変名誉なことという以外に言葉がございません。

これまで受賞された384名の方々のお名前を拝見し、自分には重すぎる賞だという気持ちがあります。今までと変わりようもない私自身ですが、文化勲章という名前にもありますように、日本がこれからも文化という面で世界に誇れる、より優れた国になりますように微力ながら力を尽くしていきたいと思います。

生物学はある種のスモールサイエンスであり、研究は個人的な側面もあるのですが、大きく研究を展開するためにはたくさんの方の協力が必要です。私の28年にわたるオートファジー研究を支えていただいた方々のおかげで初めてこのような大きな領域になりました。ここで支えていただいた方のお名前を一人一人申し上げることはできませんが、私のかけがえのない研究室のメンバー、それからたくさんの共同研究者の協力があったということをきちんと申し上げることが出来ていないという想いがありましたので、そのことをここで付け加えさせていただきます。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

お問い合わせ先

広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

起業を体験できるイベント Startup Weekend Tokyo Tech vol.4 開催報告

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6月3日~6月5日の3日間、東京工業大学を会場に、起業を体験できるイベントStartup Weekend(以下、SW)の東工大版Startup Weekend Tokyo Tech(以下、SWTT) Vol.4が開催されました。開催後、日にちが経ちましたが、その様子をご報告します。

SWとは、週末の54時間という限られた時間の中で、以下の起業に必要な各ステップを体験し、最終日に業界を代表する審査員に対してプレゼンテーションを行い、その優劣を競うイベントです。

  • アイデアピッチ(1分間プレゼンテーション)
  • チームビルディング(楽しみながら交流を深め、互いの理解や認識を共有)
  • プロダクトプロトタイプ(試作品)開発
  • 顧客開発
  • ビジネスプラン立案

SWは、世界110ヵ月国を超える国々で開催され、実際に多くの起業家がここから生まれています。日本でも2012年に第1回が開催され、現在、全国各地で50回以上開催されている人気イベントです。東工大では2014年11月から“Tech(テクノロジー)”に焦点を当て、科学技術に関連したビジネスをテーマにしたSWを実施しており、今回は4回目の開催です。本学のチーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(以下、CBEC)が、会場スポンサーとして協賛するSWTTは、毎回大人気のイベントで、今回も熱い3日間となりました。

本学工学院、情報理工学院、環境・社会理工学院等が運営する教育プログラム。様々な利害関係にあるステークホルダーとの間の自律的な協力関係を保ちながら、専門・文化・性別の違いなどの境界を乗り越え、多様な価値観を許容し、互いに協力しながらチームとして活動することにより、イノベーションを起こすことのできる人材を育成する。略称CBEC(シーベック)。

1日目

初日の夕方、会場にぞくぞくと参加者が集まり始めました。留学生や社会人も多く、約40名が参加しました。ピザと飲み物でほどよくリラックスした頃、ミニゲームを開始。わずか30分ほどのゲームでSWの雰囲気に馴染んでもらい、すっかり緊張もほぐれたところで1分間のアイデアピッチ(ミニプレゼンテーション)が行われました。17名の参加者は、事前に考えてきたビジネスアイデアをそれぞれ発表し、全員の発表が終わるとお互いに情報収集しながら「一緒にやってみたい!」と思うアイデアに投票をします。それと同時にチームメンバーが集められ、7つのチームが結成されました。

  • ミニゲームでチーム作り

    ミニゲームでチーム作り

  • アイデアピッチ(1分間のミニプレゼンテーション)

    アイデアピッチ(1分間のミニプレゼンテーション)

2日目

試作

この日のために百年記念館には3Dプリンターなど数々の機材が運び込まれ、テーマの「テクノロジー」が色濃く出た雰囲気を醸し出すとともに、試作品作りの環境も事前に整えられました。参加者は、朝食後にさっそく作業を開始。それぞれのチームに分かれて、サービス内容に関する熱い議論が始まりました。午後からは12名のビジネスコーチや技術コーチが加わり、各自の専門的な観点から指導が行われました。「テクノロジー」を謳っているだけあって、技術コーチが付いているところがこのSWTTの特徴です。もちろん、ビジネスコーチからもビジネスの面からの強力かつ厳しいフィードバックが飛び出しました。

  • 試作

    試作

  • 遅くまで白熱する議論

    遅くまで白熱する議論

3日目

最終プレゼンテーション最終プレゼンテーション

そして最終日。2日目に引き続き、顧客検証を行いました。17時開始予定の最終プレゼンテーションを控え、各チームともビジネスモデルの検証に余念がありません。前日実施したユーザーアンケートを元に試作品に修正を加えるチーム、再度、試作品を持って街に出て検証を実施するチームなど、最後までさまざまな試行が行われていました。

17時、ずらりと並んだ審査員とCBECの運営委員、その他大勢のゲストを前にプレゼンテーションが始まりました。張りつめた空気の中、各チームぎりぎりまで発表の準備をして、自分たちのアイデアの説明に臨みました。緊張のプレゼンテーションが終わると優勝チームが発表され、高校生を中心とした「笑顔認証機能付きメガネにつけるカメラ」を提案したチームが見事優勝を手にしました。各チームのプレゼンテーションでは、審査員からは次々と鋭い質問が飛び、ビジネス立ち上げの難しさや厳しさを実感しながらも、前回に引き続き、大変学びの多い充実した3日間となりました。

  • 優勝チームは高校生が2名

    優勝チームは高校生が2名

  • 懇親会

    懇親会

次回のSWTT Vol.5は、2016年11月4日(金)~6日に(日)同じく大岡山キャンパスの百年記念館にて開催します。興味のある方は、ぜひご参加ください。

最後は全員で

最後は全員で

お問い合わせ先

チーム志向越境型アントレプレナー育成(CBEC)プログラム 事務局

E-mail : info@cbec.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3475

大隅良典栄誉教授が安倍総理大臣を表敬訪問

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10月31日、ノーベル賞の受賞が決定した大隅良典栄誉教授は、総理大臣官邸にて安倍晋三内閣総理大臣を表敬訪問しました。

安倍総理と握手を交わす大隅栄誉教授
安倍総理と握手を交わす大隅栄誉教授

安倍総理から「ノーベル賞の受賞、誠におめでとうございます。先生は誰もやったことがないことをやるという理念で様々なことにチャレンジしてこられ、基礎研究の重要性について改めて証明してくださった。政府としても今後、基礎研究に光を当てていきたい。引き続き、政府として科学技術、学術研究に力を入れてまいりたい」とのお話をいただきました。

歓談中の様子
歓談中の様子

表敬の場には、松野博一文部科学大臣、萩生田光一内閣官房副長官、石原宏高内閣府副大臣および三島良直東京工業大学学長が同席し、博士後期課程への進学者の減少とその改善に向けた若手研究者を始めとする研究環境の整備、理工系大学卒業後の進路や、日本企業による日本の大学支援等について懇談しました。

表敬訪問後、記者団の質問に答える大隅栄誉教授
表敬訪問後、記者団の質問に答える大隅栄誉教授

また、大隅栄誉教授は表敬後、記者団に対し、「総理から基礎科学の大切さと若手育成に力を入れていきたいと言っていただけて非常に心強く感じた。酵母を40年間研究材料にしており、自身のキャッチフレーズが「Lessons from yeast」であって酵母からたくさんのことを学び、その恵みを楽しんできたことをお話した」と語りました。

総理への記念品(お土産)として、大隅栄誉教授の研究の起源である「酵母」を使用した代表的な製品として日本酒を持参しました。ラベルには、オートファジーにより細胞質の一部がオートファゴソームに取り込まれる様子と、液胞の中に入ったオートファゴソームの中身が分解される様子が表現され、大隅栄誉教授のキャッチフレーズである「Lessons from yeast」とご自身のサインが添えられています。

持参した日本酒と
持参した日本酒と
ラベルにはオートファジーに関する図柄も
ラベルにはオートファジーに関する図柄も

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

お問い合わせ先

広報センター

Email : nobel@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

科学技術創成研究院設立記念式典を開催

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今年4月に発足した東京工業大学科学技術創成研究院(以下、研究院)が、10月7日、すずかけ台キャンパスにて設立記念式典を開催しました。

左より、益科学技術創成研究院長、白川英樹筑波大学名誉教授、大隅良典栄誉教授、細野秀雄教授

左より、益科学技術創成研究院長、白川英樹筑波大学名誉教授、大隅良典栄誉教授、細野秀雄教授

研究院は、本学の大学改革の一つである研究強化の一環として設置され、180名の常勤研究者を擁しています。「未来産業技術研究所」、「フロンティア材料研究所」、「化学生命科学研究所」、「先導原子力研究所」の4研究所を明確なミッションにて設置するとともに、既存の「先進エネルギー国際研究センター」、「社会情報流通基盤研究センター」を置いています。さらに、未来社会からの要請に応える研究や萌芽的研究を行う期限付き(最長5年)の「研究ユニット」を設置し、具体的ミッションで機動的に成果を上げ、新たな研究領域のコアとして展開を狙う仕組みを導入しました。

研究院は、学内外の研究者の人事交流、異なる専門領域の融合研究の推進、研究に没頭できる支援体制を整備するとともに、次世代の革新的研究創出に向かう仕組みを備えた組織として発足しています。

  • 左より、白川英樹筑波大学名誉教授、三島学長、大隅良典栄誉教授

    左より、白川英樹筑波大学名誉教授、三島学長、大隅良典栄誉教授

  • 式典で祝辞を述べる小松弥生文部科学省研究振興局長

    式典で祝辞を述べる小松弥生文部科学省研究振興局長

式典に先立ち、研究院フロンティア材料研究所の細野秀雄教授、研究院細胞制御工学研究ユニットの大隅良典栄誉教授、本学出身の白川英樹筑波大学名誉教授による記念講演が行われました。3名の講演者からは、応用研究に先立つ基礎研究の重要性と、基礎研究から応用までの連携研究の重要性、およびそのフィードバックパスの好循環の必要性と共に、科学技術創成の根底に若手研究者の育成があることが強調され、研究院の「大学の中にある研究所」としての役割が改めて認識されました。

記念講演後の式典において、三島良直学長、益一哉科学技術創成研究院長の挨拶では、本学が進める教育改革と研究院設置による研究改革の両輪による世界トップレベルの大学創りへの意気込みが語られました。また、祝辞で登壇した文部科学省研究振興局の小松弥生局長からも、本学の目指す改革と政府による政策の方向性の一致が示され、本学の大学改革を激励されました。また、小松局長は「日本の大学が世界の舞台で大きく躍進し、世界の科学技術創成の拠点になるため、東京工業大学の科学技術創成研究院設置にみる大学研究改革が成果を上げることを期待したい。」と語りました。

式典での鏡割りの様子

式典での鏡割りの様子

研究院の大隅栄誉教授がノーベル生理学・医学賞の受賞者に決定したことを受け、突出した基礎研究を次世代のコアに育成する研究院の「研究ユニット」にさらなる勢いが加わりました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

原子配置制御による原子層金属/半導体の作り分けに成功―超微細電子デバイス応用へ新たな道―

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概要

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の菅原克明助教、高橋隆教授、同 大学院理学研究科の佐藤宇史准教授、東京工業大学 物質理工学院の一杉太郎教授、埼玉大学 大学院理工学研究科の上野啓司准教授らの研究グループは、これまで知られていない正八面体構造を持つセレン化ニオブ(NbSe2)原子層薄膜の作製に成功しました。電子状態の精密な測定から、この物質が従来知られていた三角プリズム型の構造ユニットを持つ金属的NbSe2と異なり、電子間の強い相互作用の結果形成される「モット絶縁体[用語1]」であることを見出しました。この結果は、同じNbSe2を用いても、局所構造のトポロジーを変化させることで、金属と半導体(絶縁体)を作り分けることができる事を示しています。今回の成果は、結晶構造の原子配置を制御した超微細原子層電子デバイスの開発に大きく貢献するものです。

本成果は、2016年11月4日(英国時間)に英国科学誌Nature系の専門誌NPG Asia Materialsに掲載されました。

研究の背景

近年、層状物質を極限まで薄くすることによって新機能を発現させる取り組みが精力的に行われています。グラファイトを極限まで薄くしたグラフェンが、グラファイトには無い様々な性質を持つことはその典型例です。層状物質であるNbSe2は、ニオブ(Nb)とセレン(Se)の層が積み重なった構造をしており、その構造ユニットはグラフェンと類似した六角形をした三角プリズム型であることが知られています(図1)。このプリズム型の局所構造を持つバルクのNbSe2結晶は、室温では金属で、低温で電荷密度波[用語2]と超伝導という全く異なる状態が共存して出現する事が知られています。一方で、正八面体型の原子配置を持つNbSe2(図1)は、良質の試料を作製することが困難で、その性質は未解明のままでした。

単原子層NbSe2の単位格子と上から見た結晶構造の模式図

図1. 単原子層NbSe2の単位格子と上から見た結晶構造の模式図。(左図)三角プリズム型、(右図)正八面体型。

研究の内容

今回、東北大学、東京工業大学、埼玉大学の共同研究グループは、分子線エピタキシー法[用語3]を用いて、グラフェン薄膜上に原子層レベルで精密に制御された高品質な単原子層NbSe2(図1)を作製することに成功しました。さらに、原子層NbSe2を作製する際の基板であるグラフェンの温度を精密に制御することで、低温加熱の場合には三角プリズム型構造ユニットを持つNbSe2を、高温加熱の場合には正八面体型構造のNbSe2を、精度良く作り分けることに成功しました。さらに、これまで未解明であった正八面体型の構造ユニットを持つ単原子層NbSe2の電子状態を角度分解光電子分光[用語4](図2)を用いて調べた結果、理論計算から予測されていたような金属的性質を全く持たず、電子同士の強い相互作用によってバンドギャップ[用語5]が形成されたモット絶縁体(図3)という絶縁体(半導体)であることを見出しました。さらに、この正八面体型NbSe2においては、複数のNb原子が集まってできる“ダビデの星”構造(図4)という特殊な電荷秩序状態が形成されていることも明らかにしました。

角度分解光電子分光の概念図
図2.
角度分解光電子分光の概念図。物質に高輝度紫外線を照射し、放出された光電子のエネルギーと運動量を精密に測定することで、物質の電子状態を決定できる。
NbSe2原子層の電子の振る舞い
図3.
NbSe2原子層の電子の振る舞い。(左図)三角プリズム型は金属的性質をもつため自由に電子が運動するが、(右図)正八面体型ではNb原子周辺に電子が局在してモット絶縁体となる。
NbSe2原子層で形成される「ダビデの星」の模式図
図4.
NbSe2原子層で形成される「ダビデの星」の模式図。複数のNb原子が、特定のNb原子を中心に歪み整列することで形成される。

今後の展望

本研究は、ポストグラフェンとして大きな注目を集めている遷移金属ダイカルコゲナイドのひとつであるNbSe2について、局所構造の原子配置を制御する事によって、金属/半導体(絶縁体)を作り分ける事ができる事を示したものです。今後、この金属/半導体NbSe2原子層薄膜を利用した超微細原子層電子デバイスへの応用展開が期待されます

なお、本成果は、新学術領域「原子層科学」(領域代表者:齋藤理一郎)および「トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア」(領域代表者:川上則雄)、科研費基盤研究(A)「スピンARPESによる機能性薄膜ハイブリッドの創出」(研究代表者:高橋隆)、学際研究重点プログラム「原子層超薄膜における革新的電子機能物性の創発」(研究代表者:高橋隆)、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の援助によって得られました。

用語説明

[用語1] モット絶縁体 : 電子間の斥力相互作用によって、電子が原子の周りに局在して絶縁体となったものです。

[用語2] 電荷密度波 : 電子の電荷が、結晶の周期性とは異なる周期性で規則的に分布する現象です。電荷密度波が起こるかどうかは物質の結晶構造や次元性に密接に関係しており、低次元物質に多く見られます。

[用語3] 分子線エピタキシー法 : 超高真空槽内に設置したいくつかの蒸着源(材料)を加熱等により蒸発させ、対向した基板上に堆積させる手法です。膜厚を原子レベルで制御することが可能であり、高品質単結晶薄膜が作製できます。

[用語4] 角度分解光電子分光 : 物質の表面に紫外線やX線を照射すると、表面から電子が放出されます(外部光電効果)。放出された電子は光電子と呼ばれ、その光電子のエネルギーや運動量(角度)を測定することで、物質中の電子状態が分かります。

[用語5] バンドギャップ : 半導体や絶縁体で、電子が占有する最高のエネルギー準位と、電子が非占有となる最低のエネルギー準位の間のエネルギー差のことで、半導体を電子デバイスとして利用する際の重要なパラメータです。

論文情報

掲載誌 :
NPG Asia Materials (2016) 8, e321
論文タイトル :
Monolayer 1T-NbSe2 as a Mott insulator
著者 :
Yuki Nakata, Katsuaki Sugawara, Ryota Shimizu, Yoshinori Okada, Patrick Han, Taro Hitosugi, K. Ueno, Takafumi Sato, and Takashi Takahashi
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)
助教 菅原克明

E-mail : k.sugawara@arpes.phys.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-6169

東京工業大学 物質理工学院
教授 一杉太郎

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2636

取材申し込み先

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)
広報・アウトリーチオフィス 皆川麻利江

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-6146

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

TBSテレビ「未来の起源」に地球生命研究所の黒川宏之特別研究員が出演

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本学、地球生命研究所(ELSI)の黒川宏之日本学術振興会特別研究員が、TBS「未来の起源」に出演します。黒川特別研究員の「火星の水の行方」に関する研究が紹介されます。

黒川宏之日本学術振興会特別研究員
黒川宏之日本学術振興会特別研究員

黒川宏之特別研究員のコメント

私の専門分野は「惑星科学」です。惑星がどのように誕生し、歴史を通じてその姿を変えてきたかを調べています。

今回は、私が行っている研究の一つである「火星の水の行方」について取材を受けました。現在は寒冷で乾いた惑星である火星には、かつて広大な海が広がっていました。

取材では、これまでの研究で解明してきた火星の水が失われた歴史や、今後の研究の展望について話をしました。番組を通じて、惑星の研究の魅力や最先端の研究成果をお伝えできれば幸いです。

  • 番組名
    TBSテレビ「未来の起源」
  • 放送予定日
    2016年11月13日(日) 22:54 - 23:00
    (再放送)BS-TBS:11月20日(日) 20:54 - 21:00

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

冨田育義教授がIUPAC国際学会でDistinguished Award 2016を受賞

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10月14日~10月19日、中国の長沙で開催されたIUPACの新規材料とその合成に関する第12回国際学会(International Conference on Novel Materials and their Synthesis (NMS-XII))で、本学物質理工学院 応用化学系の冨田育義教授が、特に優れた発表を行った者に対して与えられるDistinguished Award 2016 を受賞しました。

International Union of Pure and Applied Chemistry

10月18日に行われたバンケットでの表彰式

10月18日に行われたバンケットでの表彰式

受賞対象となった発表(基調講演)題目

π-CONJUGATED POLYMERS POSSESSING VERSATILE ELEMENTS-BLOCKS BY POST-ELEMENT-TRANSFORMATION TECHNIQUE

今回の受賞は、冨田教授らの研究グループが推進してきた、主鎖型反応性高分子を用いて元素を反応の最終段階で置き換えることにより、高い反応性のために従来法では合成できなかった様々な元素ブロックを付与したπ共役高分子が得られ、それらが示す興味深い光・電子特性に関する研究について発表した内容が高く評価されたものです。

今回の受賞にあたり、冨田教授は次のようにコメントしています。

10月18日に行われたバンケットでの表彰式
10月18日に行われたバンケットでの表彰式

我々が行ってきた研究内容を評価して頂き、また今回の発表を通してたくさんの研究者とのネットワークが構築でき、とても嬉しく感じております。この場をお借りして、研究室スタッフ、卒業生、在校生、および学内外の共同研究者の皆様に心よりお礼申し上げます。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

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古井貞熙名誉教授が平成28年度文化功労者に

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古井貞熙名誉教授(豊田工業大学シカゴ校学長)が、平成28年度文化功労者に選ばれました。文化功労者とは、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を顕彰するものです。

古井貞熙名誉教授
古井貞熙名誉教授

古井名誉教授は、音声工学の分野において、音声認識や話し言葉認識など、近年日常生活の様々な場で活用が進んでいる音声の自動認識・理解技術の先駆的な研究開発を行い、斯学の発展に多大な貢献をするとともに、コンピュータが人と対話する自動音声インタフェースの実現に大きな役割を果たしました。

古井貞熙名誉教授コメント

この度、文化功労者として顕彰されることになり、びっくりするとともに有難く思っております。これまで45年間にわたって一貫して、音声認識、話者認識、音声合成などの基礎研究に従事してきました。少なくとも初めのころは、役に立たなくてもよいと思いながら、国内外の多数の研究者の方々と協力し、かつ切磋琢磨しながら研究してきたことが、近年のコンピュータの急速な進歩にも支えられて、日常生活の様々な場で活用されるようになり、嬉しく思っています。これもひとえに、私を指導し、また日々の研究を共にしてくださった多くの方々のお蔭で、心から感謝の意を表します。今後、次の世代の皆さんが、積極的に海外に展開して、国際的なリーダーシップを発揮しながら、科学技術の発展に貢献してくださることを願っています。私も、微力ながらそのお手伝いをさせていただきたいと思っております。

お問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大大学院が箱根駅伝予選会に初出場

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10月15日、国営昭和記念公園にて行われた第93回箱根駅伝予選会に、東工大陸上競技部の大学院チームが初出場しました。箱根駅伝予選会での大学院チームの出場は、史上3校目となります。

東工大大学院、10人全員完走
東工大大学院、10人全員完走

予選会は、各大学10名以上12名以下がそれぞれ20 kmを走り、各校上位10名の合計タイムで競われます。当日は、例年より気温が高く厳しいコンディションになりましたが、東工大大学院チームの各選手は粘りの走りを見せ、見事10名全員が完走し、合計タイム11時間56分56秒で50チーム中49位という結果となりました。尚、学部生チームは11時間35分29秒で40位となりました。

昨年と一昨年、関東学生連合チームのメンバーとして箱根駅伝を走った松井将器選手は、1時間58秒で個人では595名中52位という好記録を収めました。

箱根駅伝予選会に出場するには5,000mを16分30秒以内で走れる選手を10名以上揃えなくてはなりません。これまで陸上競技部員だけでは人数が足りず大学院チームは出場に至りませんでしたが、今回、トライアスロン部の選手4名がチームに加わることで念願であった大学院チームの出場を実現することができました。

今回出走した選手は以下の10名です。

力走するトライアスロン部の武田直樹選手
力走するトライアスロン部の武田直樹選手

  • 辻航平さん(工学院 経営工学系 修士1年)
  • 笠木浩平さん(大学院総合理工学研究科 物理電子システム創造専攻 修士2年)
  • 小林裕平さん(大学院理工学研究科 物質科学専攻 修士2年)
  • 丸山蒼太さん(大学院理工学研究科 材料工学専攻 修士2年)
  • 外山真矢人さん(工学院 電気電子系 修士1年)
  • 松井将器さん(工学院 機械系 修士1年)
  • 山根圭太さん(物質理工学院 応用化学系 修士1年)

(以下、トライアスロン部員)

  • 田野倉佑介さん(大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻 修士2年)
  • 武田直樹さん(物質理工学院 材料系 修士1年)
  • 萩原健太さん(理学院 化学系 修士1年)

辻航平さん
辻航平さん

代表コメント(駅伝主将 辻航平さん)
今回出場が果たせたこと、そして全員が無事ゴールし記録を残せたことを非常に嬉しく思います。
大学院でチームを作ることは本当に大変なことでした。
研究や学会のために、長期間練習に参加できない選手もいました。
その中でも選手一人ひとりが時間の使い方を工夫し努力したことが、今回の成果に繋がったと思います。
たくさんの応援をありがとうございました。

東工大陸上競技部全体集合写真
東工大陸上競技部全体集合写真

お問い合わせ先

東京工業大学陸上競技部

E-mail : tfclub_hp@titech-tfclub.net

東工大を含むECM共同研究開発チームが2016年日経地球環境技術賞優秀賞を受賞

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東京工業大学を含むECM共同研究開発チームによるECM(エネルギー・CO2ミニマム)セメント・コンクリートシステムに対して、2016年日経地球環境技術賞優秀賞が授与されました。

株式会社竹中工務店、鹿島建設株式会社、日鉄住金高炉セメント株式会社、株式会社デイ・シイ、太平洋セメント株式会社、日鉄住金セメント株式会社、竹本油脂株式会社、国立大学法人東京工業大学

「日経地球環境技術賞」は、日本経済新聞社が地球環境保全のための優れた成果(調査、研究、技術開発への実践的な取り組み)を表彰するものです。

地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、生態系の乱れ、砂漠化、海洋汚染、廃棄物処理など、いわゆる地球環境問題に関する調査、研究、技術開発について独自性、将来の有望性や実現性などを総合判断し表彰されるものです。

受賞対象:ECM(エネルギー・CO2ミニマム)セメント・コンクリートシステム

「ECMセメント」は、鉄鋼製造の副産物である高炉スラグ微粉末を60~70%混合し、従来のセメントに比べて製造時のエネルギー消費量と二酸化炭素(CO2)排出量を60%以上削減しました。品質、耐久性、施工性などの課題を克服し、建築物の要求性能に応じたコンクリート構造物にする技術も確立しました。開発成果は2019年から段階的に公開し、2025年に一般公開して汎用技術として普及させる計画です。高炉スラグの有効利用による資源循環効果もあり、サステナブル社会(持続可能な社会)の実現につながります。今回の受賞では、上記研究成果により、特に低炭素型の混合セメントの可能性を広げた点が評価されました。

坂井悦郎教授のコメント

本受賞にかかる研究開発に関わった本学物質理工学院材料系の坂井教授は以下のようにコメントしています。

日経地球環境技術賞優秀賞受賞の坂井悦郎教授
日経地球環境技術賞優秀賞受賞の坂井悦郎教授

この研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成のもと、2008年から先導研究(通算期間:2年8ヵ月)および実用化開発(通算期間:2年7ヵ月)として実施したものです。基礎研究を進める大学、および材料を製造するセメント会社とその使用者である建設会社が連合し、材料開発から実用化研究までを一貫してグループとして実施したことが特徴です。日本でも例のない研究体制です。材料、施工、構造と統合的な検討を行うために個別の検討会と総合検討会を組織し、綿密な情報交換を行って研究を進めたことが早期の実用化に結びついたと思います。高炉スラグの反応の研究は、私以前に近藤連一先生と大門正機先生と私どもの研究室で引き継がれて来た研究です。今回の成果のように実用化に結びついたことは非常に喜ばしいことです。また、研究の連続性が大切だとあらためて思っています。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

物質理工学院材料系 坂井悦郎

E-mail : esakai@ceram.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3368

NHK BSプレミアム「コズミックフロントNEXT」に玄田英典准教授が出演

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地球生命研究所の玄田英典准教授が、NHK BSプレミアム「コズミックフロントNEXT」に出演します。

当番組は、毎回、宇宙にまつわる謎に迫り、宇宙科学、天文学や科学史・技術史などの観点からひも解いていく科学番組です。「金星 ビーナスの素顔に迫れ!」と題したこの回では、今年4月から本格的な観測が始まり、新たな画像が撮影されるなど、次々と新発見が生まれている「金星」にスポットをあて、その素顔について、玄田准教授がお話します。

日本の探査機あかつきの観測が進む「金星」。地球の双子星とされながら、その地表は厚い雲に覆われ、高温高圧の異世界です。なぜそんな惑星になったのか?最新研究で迫ります。

玄田英典准教授
玄田英典准教授
(image credit: Nerissa Escanlar)

  • 番組名
    NHK BS プレミアム「コズミックフロントNEXT」
  • タイトル
    「金星 ビーナスの素顔に迫れ!」
  • 放送予定日
    2016年11月17日(木)22:00 - 22:59
    (再放送)2016年11月24日(木) 0:00 - 0:59

お問い合わせ先

地球生命研究所(ELSI)広報室

Email : pr-mail@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

マイクロプロセッサの待機時電力を大幅に削減する新技術を開発

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要点

  • マイクロプロセッサおよびシステムオンチップ(SoC)におけるコアの待機時電力の削減に有効な不揮発性SRAM[用語1]を用いた新たな低消費電力技術(パワーゲーティング)を開発した。
  • 不揮発性メモリ素子(強磁性トンネル接合;MTJ[用語2])をSRAMに組み込んだ不揮発性SRAMの設計法および駆動法を開発してチップ試作を行った。
  • 試作チップの評価結果から、不揮発性SRAMを用いたパワーゲーティングのエネルギー性能を解析して、この技術を用いれば、マイクロプロセッサおよびSoCの課題となっていたコア部(演算を行うプロセッサの中心部分)におけるパワーゲーティングのエネルギー削減効率を大幅に向上できることを明らかにした。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の菅原聡准教授らの研究グループは、マイクロプロセッサやシステムオンチップ(SoC)のコア(演算を行うプロセッサの中心部分)における待機時電力を削減するために用いられているパワーゲーティングに不揮発記憶を導入することで、そのエネルギー削減効率を従来技術に比べて飛躍的に向上できる技術を開発した。

同グループが提案した不揮発性パワーゲーティング(NVPG)[用語3]は、電源を遮断しても記憶内容を保持できる不揮発記憶を利用して、ロジックシステムの電源遮断を頻繁に行い高効率に待機時電力を削減する方法である。マイクロプロセッサやSoC内のコアに含まれるレジスタやキャッシュなどの記憶回路を独自開発の不揮発性双安定回路[用語1]で構成して、通常動作をほとんど劣化させることなく、高効率にNVPGによるエネルギーの削減ができる。

今回、同グループが提案している不揮発性SRAM(NV-SRAM)の設計法・駆動法を開発し、チップ試作を行い、その実測結果の系統的な解析によって、NVPGがマイクロプロセッサやSoCにおけるコアの待機時電力の削減に極めて有効であることを明らかにした。これまでにも不揮発記憶を用いたマイクロプロセッサやSoCのパワーゲーティングに関する技術開発はあったが、コア外の低階層キャッシュなどへの適応に限られていた。今回の研究は、開発したNVPG技術がコアに含まれる高階層キャッシュに搭載することが可能で、コアレベルのパワーゲーティングによる待機時電力削減効率を飛躍的に向上できることを明らかにした。

今回の研究成果は、9月12日からスイス・ローザンヌで開催された欧州最大の半導体技術に関する国際会議ESSDERC/ESSCIRCで発表された。

背景と研究の経緯

近年のパーソナルコンピュータやサーバに搭載されているマイクロプロセッサや、スマートフォンなどのモバイル機器に搭載されているシステム・オン・チップ(SoC)では、トランジスタのリーク(漏れ)電流によって待機時に消費する待機時電力が著しく大きく、その削減が重要な課題となっている。もし何も対策を講じなければ、この待機時電力は演算処理を行っているときの電力(ダイナミック電力)と同レベルとなり、無駄な電力を消費し続けてしまうことになる。このような待機時電力の削減に有効な技術にパワーゲーティングがある。待機状態にある回路ブロックへの電源供給を遮断することでリーク電流を削減するもので、マイクロプロセッサやSoCでは、コア部の電源遮断を行うコアレベルパワーゲーティングなどが広く用いられている。この技術では、電源遮断によってコア内のレジスタやキャッシュと呼ばれる記憶回路に保存されている重要なデータが失われるといった問題があるために、このデータを一度コア外のバックアップメモリに転送・保存してから電源遮断を行う。また、電源復帰時には、このデータをその都度コア内に書き戻す必要がある。パワーゲーティングでは、電源遮断を頻繁に行い(時間的細粒度という)、エネルギーの削減効率を高めることが重要であるが、この技術では、データの転送・バックアップ・書き戻しに必要な時間とこれに要するエネルギー消費が大きく、時間的細粒度のパワーゲーティングを実現できていない。すなわち、現状では効果はあるもののその本来の能力を十分に発揮できないという課題があった。

研究成果

同グループが提案した不揮発性パワーゲーティング(NVPG)は、不揮発記憶を利用して、ロジックシステムの電源遮断を頻繁(細粒度)に行い高効率に待機時電力を削減する方法である。コア内のレジスタやキャッシュなどを構成する各種CMOS双安定回路に不揮発性メモリ素子を組み込むことで、電源遮断を行ってもデータを保持できるところに特長がある。同研究グループの提案した不揮発性双安定回路では、CMOSロジックが通常の動作中には、不揮発記憶は用いずに通常の双安定記憶回路として動作し、電源遮断のときにだけ不揮発記憶を行うことができる。これによって、コア内の通常の高速動作には影響を与えず、高効率にエネルギーを削減できるNVPGが実行できる。

今回、同グループは提案している不揮発性SRAM(NV-SRAM)を試作し、その実測結果からNV-SRAMを用いてNVPGを実行した場合のエネルギー性能を系統的に解析した。この結果から、NV-SARMによるNVPGを用いれば、マイクロプロセッサおよびSoCの課題となっていたコア部におけるパワーゲーティングのエネルギー削減効率を大幅に向上できることを明らかにした。

研究成果の詳細

図1に同グループが提案しているNV-SRAMのセル構造を示す。通常のSRAMセルにトランジスタを介して、不揮発性メモリ素子である強磁性トンネル接合(MTJ)を接続してある。このトランジスタによって、通常動作時にはMTJをSRAMから電気的に切り離すことが可能となる。また、NV-SRAMに接続されたパワースイッチでセルへの電源遮断を行う。このセルを用いて、メモリアレイおよび周辺回路を構成してNV-SRAMの試作を行った。MTJの書き込み電流、各動作モードにおけるノイズマージンからセルの設計法を開発した。また、このセルでは通常の6トランジスタのSRAMセルと比べてトランジスタ数が増加しているが、セルへのバイアスを工夫することで、通常の6トランジスタSRAMセルと同じレベルのリーク電流に抑止できる駆動方法も開発した。また、MTJへの不揮発記憶の書き込みアーキテクチャや、動作電源遮断時のパワースイッチの駆動にも工夫を行い、セルアレイの各動作モードにおけるリーク電流を可能な限り削減した。

NV-SRAMセルの回路構成
図1.
NV-SRAMセルの回路構成。通常の6トランジスタSRAMセルの記憶ノードにトランジスタを介してMTJを接続してある。パワースイッチによって電源遮断を行う。

試作したNV-SRAMの設計レイアウトを図2に示す。通常のSRAMと同様の周辺回路に、不揮発記憶を行うための周辺回路を追加してある(後で述べるように、この不揮発記憶を行うための周辺回路はNV-SRAMのエネルギー性能に重要な影響を及ぼす)。CMOSのプロセス技術には65 nmのSOTB技術を用いた。この技術では、CMOS基板にバイアスを加えることで電源遮断時におけるトランジスタのリーク電流を大幅に削減することができる。この技術はセルアレイを駆動する周辺回路に採用した。

試作した NV-SRAMのレイアウト
図2.
試作した NV-SRAMのレイアウト。基本構成は通常のSRAMと同じであるが、不揮発記憶のための周辺回路とパワースイッチを追加してある。

図3に評価に用いたベンチマークのシーケンスと各回路ブロックの動作モードを示す。通常のSRAM動作における読み出しと書き込みを全セルに対して、nRW回繰り返し、その後、電源遮断を行うときにだけ、MTJへの書き込みを行う。電源遮断を行わない短い時間の待機時はスリープモードとした(双安定回路のデータが消えない程度に供給電圧を絞る動作)。比較のための通常のSRAMでは、待機時はすべてスリープモードを用いた。周辺回路は各動作モードに合わせて、通電状態または電源遮断状態とした。作製したNV-SRAMの各回路部の各動作モードにおける電流値の実測値を用いて、パワーゲーティングの性能指標であるBreak-even time(BET)[用語4]からNV-SRAMのエネルギー性能を解析した。BETは電源遮断によってエネルギーを削減できる最低の電源遮断時間である。

ベンチマークシーケンスと各回路ブロックの動作モード
図3.
ベンチマークシーケンスと各回路ブロックの動作モード。NVPGではセルアレイの全ビットを読み出し/書き込み後、時間tSLのスリープモードを実行する。これをnRW回繰り返し、MTJに書き込み(ストア)してから時間tSDシャットダウンし、復帰(リストア)する。通常のSRAMでは、待機時はすべてスリープモードである。通常動作用と不揮発記憶用(NV-SRAMのみ)の周辺回路は使用しないときは電源遮断とする。

図4にBETのnRW依存性を示す。BETはnRWとアレイサイズ(Mビット×Nライン)によって変化する。nRWに依存せず一定の値をとるBETの領域では、BETは不揮発記憶時に消費するエネルギーによって決まり、アレイサイズが大きいほどBETは増大する。一方,nRWに依存して増大する領域では、BETは不揮発記憶用周辺回路のリーク電流に強く依存し、アレイサイズとともに増大する。なお、このようにBETがほぼ不揮発記憶のためのエネルギーと不揮発記憶用周辺回路のリーク電流で決まるのは、先に述べたように、セルのリーク電流を通常の6トランジスタSRAMセルと同程度まで減らしているために実現できる。

Break-even time(BET)のnRW依存性
図4.
Break-even time(BET)のnRW依存性。BETのnRWに対する挙動は、nRWとともに増大する領域と、nRWに依存せずに一定値をとる領域とに分けられる。それぞれ。図5、6の方法で削減できる。

nRWに依存して増大するBETは、不揮発記憶用周辺回路のリーク電流を削減することでその増大を抑えることができる。今回はSOTBの基板バイアスを用いて、削減を試みた。図5に結果を示す。この場合では、nRWに依存したBETの増加は大幅に抑制できた。

SOTBの基板バイアスによって周辺回路のリーク電流を削減した場合におけるBETのnRW依存性(実線)
図5.
SOTBの基板バイアスによって周辺回路のリーク電流を削減した場合におけるBETのnRW依存性(実線)。この場合では、nRWの広い範囲にわたって、BETはnRWに依存せず、一定値をとる。点線は図4の結果である。

Nに依存して増大するBETは、ストアフリーシャットダウンと呼ばれるアーキテクチャを導入することで、削減できる。ストアフリーシャットダウンは既にMTJに書き込まれている内容がこれから書き込もうとする内容と一致するとき、または、セルの内容がMTJの内容と一致している状況から書き換わっていないときに、MTJへの不揮発記憶をスキップして電源遮断する方式である。結果を図6に示す。ストアフリーシャットダウンの比率が大きくなるとともにBETは削減できていることがわかる。

ストアフリーシャットダウンの効果
図6.
ストアフリーシャットダウンの効果。MTJに記憶されている内容がSRAM部に記憶されている内容と一致するとき、MTJへの書き込みをスキップして、電源遮断する。ストアフリーシャットダウンの比率とともにBETを削減できる。

BETの値は、コア内のキャッシュに用いられるアレイサイズでは0.1 ms程度となり、ストアフリーシャットダウンの導入を考えるとさらに短いBETも期待できる。今回得られた結果は、従来に比べて桁で短い時間的粒度でコアレベルのパワーゲーティングが実現できる可能性を示している。

また、今回のNV-SRAM技術は、各階層のキャッシュのみならずレジスタファイルや、フリップフロップの不揮発化など、コア内の他の重要な記憶回路にも同様に拡張できる。これまでにも不揮発記憶を用いたマイクロプロセッサ/SoCのパワーゲーティングに関する技術開発はあったが、低階層のキャッシュなどへの適応に限られコアへの応用が困難であった。一方、本研究グループの開発したNVPG技術はコアレベルのパワーゲーティングに適し、従来技術以上に待機時電力削減効率を高めることが可能となる。

今後の展開

現在のマイクロプロセッサの高性能化ではマルチコア化が必須の技術になっているが、今後はさらに大規模なマルチコア化(メニーコア化)が重要になってくる。この一方でダークシリコンと呼ばれる各コアの消費エネルギーのため同時に動作できるコアの数に制限が加わるという問題も発生する。このような問題では各コアの低消費電力化がより重要となるが、NVPGはこのようなメニーコアのプロセッサに極めて有効な待機時電力削減アーキテクチャとなる可能性がある。

用語説明

[用語1] 不揮発性双安定記憶回路(不揮発性SRAM(NV-SRAM)、不揮発性フリップフロップ(NV-FF)) : NV-SRAMやNV-FFなどの不揮発性双安定回路はインバータループに不揮発性メモリ素子を直接接続することで実現できることは知られていたが、このような方式ではインバータループに接続された不揮発性メモリ素子が、通常の双安定回路の動作に悪影響を与え、動作速度の劣化や消費電力の増大、さらにはバラツキ耐性やノイズマージンの減少など回路性能の劣化を生じる。このため、通常動作と不揮発記憶の動作を完全に分離できる回路構成が必要になる。本研究グループの提案した不揮発性双安定回路は、インバータループ外にトランジスタを介して不揮発性メモリ素子を接続するため、インバータループと不揮発性メモリ素子を電気的に分離できる。したがって、通常のSRAM動作やフリップフロップ動作に影響を与えることなく、不揮発記憶/NVPG動作も実行できる。

[用語2] 強磁性トンネル接合(MTJ) : 薄い絶縁性薄膜(トンネル障壁)を2つの強磁性電極で挟んだトンネル接合構造の二端子素子で、不揮発性メモリMRAMの記憶素子に用いられる。強磁性電極の相対的な磁化状態が平行な場合と、反平行の場合で素子の電気抵抗が異なる。また、100 nm程度以下に微細化されたMTJではスピン注入磁化反転と呼ばれる現象によって、磁場を用いることなく、MTJを流れる電流によって電気的に磁化状態を変化させることができる。

[用語3] 不揮発性パワーゲーティング(NVPG) : マイクロプロセッサやSoCにおけるメモリシステムに不揮発記憶の機能を付加し、高効率に待機時電力の削減を実現するアーキテクチャで、本研究グループから提案された。通常動作と不揮発記憶の動作を分離可能な双安定記憶回路を用いることで、性能劣化をほとんど生じることなくコア内部まで不揮発化をすることが可能となり(ただし、パイプラインなど不揮発化を必要としない記憶回路もある)、従来のパワーゲーティングでは実現できない最適な空間的・時間的粒度のパワーゲーティングを実行できる。したがって、従来技術に比べて、待機時電力の削減効率を高くできる。また、通常動作/不揮発記憶の機能分離によって、マイクロプロセッサやSoCの既存アーキテクチャとの整合性も高い。

[用語4] Break-even time(BET、損益分岐時間) : NVPGでは不揮発記憶を利用するが、これには大きなエネルギー消費を伴う。また、セルの構成によってはリーク電流なども従来の記憶回路に比べて増加していることがある。このような不揮発性記憶回路の導入にともなう余計なエネルギー消費があるため、闇雲に不揮発性記憶回路を用いると、むしろエネルギー消費を増大させてしまうことがある。不揮発記憶回路の導入にともなう余計なエネルギー消費を電源遮断によって埋め合わすことができる最低限必要な電源遮断時間がBreak-even time(BET)である。このBETは損益分岐時間と呼ばれることもある。BETを短くすることで時間的・空間的細粒度のNVPGが実現可能となる。BETの算出にはいくつか方法があるが、最も重要なものは既存の記憶システムと新しく導入した記憶システムとの比較から求めるBETである。新たに導入する記憶回路にどのような回路構成や駆動方式を用いていても、記憶回路であれば必ずBETを算出できる。従来のCMOSロジックシステムにおいてはBETの概念はすでに用いられていたが、本研究グループによって不揮発記憶を用いたシステムに拡張された。

論文情報

掲載誌 :
ESSDERC-ESSCIRC 2016, Lausanne, Switzerland, September 12-15, 2016.
論文タイトル :
Energy performance of nonvolatile power-gating SRAM using SOTB technology
著者 :
Y. Shuto, S. Yamamoto, and S. Sugahara
DOI :

謝辞

本研究の一部は科学技術振興機構および科研費から支援を受け実施した。VLSIチップは東大VDECおよびルネサスエレクトロニクスの支援によって作製された。

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
准教授 菅原聡

E-mail : sugahara@isl.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5456

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

AEARU 第6回エネルギー・環境ワークショップ開催

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AEARU 第6回エネルギー・環境ワークショップ開催

8月26日~27日に、大岡山キャンパスおよびすずかけ台キャンパスにて、世界で必要とされる持続可能なエネルギーを太陽光から創り出す「次世代太陽電池」をテーマに、「AEARU 第6回エネルギー・環境ワークショップ」を開催しました。AEARU加盟大学より研究者と学生が参加し、米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のジョーイ・ルーサー博士が基調講演者として出席しました。

AEARUは、「Association of East Asian Research Universities(東アジア研究型大学協会)」の略で、東アジア(日本、中国、香港、韓国、台湾)の研究型大学18大学により構成されています。加盟大学は、本学のほか、東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、筑波大学、清華大学、北京大学、香港科技大学、台湾大学、ソウル国立大学、韓国科学技術院などがあります。

1日目:講演会

三島良直学長の開会の挨拶ののち、NRELのルーサー博士が、NRELにおける量子ドット太陽電池およびぺロブスカイト太陽電池の最新研究について基調講演をしました。続いて、各加盟大学の研究者が量子ドット太陽電池やぺロブスカイト太陽電池のほか、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、シリコン系太陽電池など、幅広い次世代太陽電池の最先端の研究について講演しました。初日の講演会には、本学のみならず他大学の研究者や企業関係者等、約30名が出席し、各講演後には活発な質疑応答や意見交換が行われ、環境技術への関心の高さがうかがえました。

三島学長による開会の挨拶
三島学長による開会の挨拶

ルーサー博士(NREL)による基調講演
ルーサー博士(NREL)による基調講演

講演会プログラム

開会の挨拶
三島良直学長
基調講演
  • "The Future Generation of Photovoltaics Employing Low-Cost, High Efficiency, Solution-Processed Active Layers"(低コスト、高効率、溶液プロセスで作製可能な太陽電池の未来)
    ジョーイ・ルーサー 博士(米国国立再生可能エネルギー研究所・シニア研究員)

講演
  • "Solution-Processable Hybrid Solar Cells Based on Colloidal Quantum Dots"(コロイド量子ドットを用いた溶液プロセスで作製可能なハイブリッド太陽電池)
    久保貴哉 特任教授(東京大学先端科学技術センター)

  • "Our Chemical Approaches Towards Highly Efficient Perovskite Solar Cells"(ぺロブスカイト太陽電池の高効率化に向けた化学的アプローチ)
    若宮淳志 准教授(京都大学化学研究所)

  • "Working from Both Sides: Composite Metallic Semitransparent Top Electrode for High Performance Perovskite Solar Cells"(両面受光型太陽電池:複合金属半透明のトップ電極を用いた高効率ぺロブスカイト太陽電池)
    ホン・リン 教授(清華大学材料学院)

  • "Polymer Semiconductor Nanofiber Network for Efficient Organic Photovoltaics"(半導体高分子ナノファイバーのネットワークを用いた高効率な有機太陽電池)
    松本秀俊 准教授(東京工業大学物質理工学院)

  • "Effects of Post-synthesis Thermal Conditions on Methylammonium Lead Halide Perovskite: Band Bending at Grain Boundaries and Its Impact on Solar Cell Performance"(メチルアンモニウム鉛ハライドぺロブスカイト形成後の加熱条件の効果:粒界面でのバンド曲がりと太陽電池性能への影響)
    ビョンハ・シン助教(韓国科学技術院)

  • "Band-gap Tuning of Nanostructured ZnO and/or Ag-In-Zn-S for Hybrid Inorganic-Organic Solar Cells"(有機無機ハイブリッド太陽電池に用いるZnO および Ag-In-Zn-Sナノ構造体のバンドギャップ制御)
    佐川尚 教授(京都大学大学院エネルギー科学研究科)

  • "Plasmonic and Si Nanostructured Solar Cells"(プラズモニックおよびSiナノ構造太陽電池)
    伊原学 教授(東京工業大学物質理工学院)

  • "Elucidating the Structure-Property Relationships of Donor-π-Acceptor Dyes for DSSCs through Rapid Library Synthesis"(迅速ライブラリー合成を用いた色素増感太陽電池に用いるドナー π アクセプター型色素の構造-物性相関の解明)
    布施新一郎 准教授(東京工業大学科学技術創成研究院)

  • "Perovskite Solar Cells Created in the Research of Dye Sensitized Solar Cells - Similarities and Differences"(色素増感太陽電池の研究から生まれたぺロブスカイト太陽電池―類似点と相違点)
    和田雄二 教授(東京工業大学物質理工学院)

(左から)久保特任教授、若宮准教授、リン教授
(左から)久保特任教授、若宮准教授、リン教授

(左から)松本准教授、シン助教、佐川教授
(左から)松本准教授、シン助教、佐川教授

(左から)伊原教授、布施准教授、和田教授
(左から)伊原教授、布施准教授、和田教授

2日目:学生によるポスターセッションと研究室訪問

ポスターセッション
ポスターセッション

すずかけ台キャンパスにて、ワークショップの参加学生によるポスターセッションが行われました。環境とエネルギーに関わる幅広い研究発表について、活発なディスカッションが行われ、優秀な発表については、ベストポスター賞と賞品が贈られました。一行は、続いて、物質理工学院の菅野研究室と冨田研究室を訪れ、研究内容や機器について教員や学生と意見交換を行いました。

研究室訪問
研究室訪問

ベストポスター賞授与式
ベストポスター賞授与式

21世紀は、アジアにおける急速な人口増加と経済発展で「アジアの世紀」とも呼ばれていますが、その一方で、急速な経済発展に伴うエネルギーや環境等の問題を抱えています。今後、アジアが中心となってこれらの諸問題の解決や環境と調和した持続可能な成長に向けて、必要な方策を提唱していくことが期待されています。

今回のワークショップでは、AEARU加盟大学から招待した次世代太陽電池に関わる新進気鋭の研究者が交流し、それぞれの研究について情報交換を進めることにより、エネルギーや環境における諸問題について深く考える機会となりました。また、未来を担う研究者の卵である各大学の学生にとっては、最先端の研究に触れながらネットワークを広げるきっかけとなりました。本ワークショップでの交流が、将来的な課題解決につながる革新的な技術として結実することが期待されます。

デ・ラ・サール大学長が東工大を訪問

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8月29日、フィリピンのデ・ラ・サール大学のレイムンド・スプリード学長一行が本学を訪問し、三島良直学長と懇談をしました。懇談には、高田潤一教授(環境・社会理工学院)、大即信明名誉教授、水野俊晃国際部長らが同席しました。

三島学長(左から3人目)とスプリード学長(中央)

三島学長(左から3人目)とスプリード学長(中央)

デ・ラ・サール大学と東工大は、研究者や学生の交流を長年にわたって行っており、1992年に全学協定を締結しました。2005年9月、デ・ラ・サール大学マニラ校内に東工大フィリピンオフィスが設立されたことによりその連携はさらに深まり、学術交流や国際ワークショップの開催などの活動を活発に行っています。連携はそれぞれの附属高校間にも発展し、東工大附属科学技術高等学校とデ・ラ・サール大学附属インテグレーテッド高校も2010年より学生交流を行っています。

懇談は、三島学長による東工大の概要と今年4月に本学が導入した教育システム、国際交流の状況に関する説明から始まりました。その後、スプリード学長がデ・ラ・サール大学の概要を説明し、フィリピン北部アパヤオ州の無電化地域で学生が行った農村電化プロジェクトや同大学の研究施設であるブラザー・アルフレッド・シールズ FSC海洋研究拠点で行っているフィリピン臨海部の海洋資源や珊瑚の保全評価に関する研究の紹介をしました。

懇談の様子

懇談の様子

三島学長(左)とスプリード学長(右)
三島学長(左)とスプリード学長(右)

懇談に同席した高田教授は、国際開発工学フィールドワーク等の交流プログラムで毎年同大学へ研究室の学生を派遣しています。また、大即名誉教授は、前フィリピン拠点事務所拠点長、前東工大附属高校長として、両大学の学生及び研究の交流を推進してきました。両教授は、本学および附属高校の学生にとって、デ・ラ・サール大学やその附属高校の同世代の学生との交流や国際協働活動は、両国間の文化の違いを認識し、英語の重要性を痛感する非常に有意義な経験になっていると話し、スプリード学長に感謝の意を表しました。

懇談の最後には、両学長は、大学間の連携関係をさらに強化するために引き続き協力していくことを確認しました。

デ・ラ・サール大学は1911年にフィリピン・マニラに設立されたカトリック系の私立大学です。ビジネス・コンピュータ・教育・工学・法律・リベラルアーツ・科学・経済の8つの学部、36の専攻を持ち、マニラ、カンルバン、タギッグ・シティにある3つのキャンパスで約2万人の学生が学んでいます。キリスト教の精神に基づいた平和的、調和的教育理念を持ち、総合的な人材育成を目標として運営を行っており、奨学金プログラムの提供、地域貢献活動も行っています。


カーボンナノチューブを使い、折れ曲がるテラヘルツカメラを開発―非破壊・非接触検査における新たな手法として期待―

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要点

  • フレキシブルかつウェアラブルなテラヘルツ帯撮像デバイスを実現
  • 電極金属の最適化、新手法のpn接合により検出器の小型化・高感度化を達成
  • 注射器など円筒形器具でも全方位検査を達成

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の河野行雄准教授らの研究グループは、カーボンナノチューブを利用したフレキシブルなテラヘルツ帯[用語1]撮像デバイス(カメラ)を世界で初めて開発した。このデバイスを用い、注射器やペットボトルといった360度歪曲した物体に対しても、内部の破損・異物混入を瞬時に撮像することに成功した。また人体に装着したまま画像観測を行うためのウェアラブルデバイスも製作した。

電極金属の最適化やイオン液体[用語2]を用いたpn接合[用語3]などの新手法を用いて検出器の小型化・集積化・高感度化を達成、多素子化による撮像カメラを実現した。これはテラヘルツ帯技術の実用化に近づく成果といえる。

テラヘルツ波は電波と光波の中間の周波数帯の電磁波で、様々な応用が期待されている。河野准教授らは以前、カーボンナノチューブにおける光熱起電力[用語4]を用いたテラヘルツ波検出器を作製したが、小型化に伴う感度低下が問題となっており、多素子化によるカメラ開発が困難であった。研究は日本ゼオン株式会社の試料提供を受けて実施した。研究成果は11月14日発行の英国の学術誌「Nature Photonics」誌に掲載された。

研究の背景と経緯

電磁波の活用は我々の生活や産業、基礎科学といった多くの分野において大きな変革をもたらしてきた。広大な周波数帯の中で、テラヘルツ帯と呼ばれる電磁波は電波としての透過性や光波としての直進性、水に対する高い吸収率、固体素子や高分子の物性解析に有力といった特性を有している。

このため、近年、非破壊・非接触での金属・非金属探知や爆発物検知、ICカードの偽造防止、農作物のモニタリング、医療・薬学応用といった様々な応用が期待されている。だが、この周波数帯は電子技術(エレクトロニクス)としては周波数が高く、光技術(オプティスクやフォトニクス)としては光のエネルギーが低い。このことから、この周波数帯を活用する技術が十分に開発されておらず、他の周波数帯に比べて発振器や検出器という基本的な素子ですら発展途上という課題を抱えている。

また、電磁波の重要な応用であるイメージング計測では、一般に様々な形状の物体に対応する必要がある。そのためには、複数の視野から画像化する立体計測が必要であるが、従来のシステムでは大型化する問題があり、テラヘルツ帯イメージング技術の実用化を難しいものとしていた。

以上を背景として河野准教授らは、カーボンナノチューブフィルムを用いて、電極材料の最適化やイオン液体によるpn接合などの新手法を取り入れた検出器の改良、ならびにテラヘルツ帯フレキシブルカメラの開発・応用に向けて取り組んだ。

研究成果

折り曲げ可能なテラヘルツ帯カメラを作製するために、カーボンナノチューブフィルムを材料に選定した。分散液をフィルタリングすることで得られるカーボンナノチューブフィルムは、大面積かつフレキシブルで容易に加工ができることから、検出器の材料として有力である(図1)。

折り曲げ可能なカーボンナノチューブフィルム

図1. 折り曲げ可能なカーボンナノチューブフィルム

今回の研究では、微弱なテラヘルツ光でも受光できる高感度検出器の実現に向けて、電極材料の最適化及びイオン液体によるpn接合などの手法を用いた。検出原理である光熱起電力のテラヘルツ応答強度は、材料間での温度差に比例して大きくなるという性質がある。

テラヘルツ応答強度の電極金属依存性を測定すると、図2aに示すように電極金属の熱伝導率が高く、すなわち熱抵抗が低くなればなるほど応答強度が強くなるという特性が分かった。例えば、Ti電極に比べてAu電極は約6倍強い応答強度を示す。また、左右の電極に異種材料を用いることで、テラヘルツ吸収によって発生した熱を熱抵抗の低い電極の方に支配的に流す構造にした。この工夫により、検出器を小型化しても感度を維持できることが明らかになった。(図2b)

テラヘルツ応答の電極金属依存性
図2.
テラヘルツ応答の電極金属依存性。(a)電極金属の熱伝導率が高い(熱抵抗が低い)ほどテラヘルツ応答が強くなる。(b)同種電極(実線)と異種電極(破線)のテラヘルツ応答。異種電極を用いて両電極の熱抵抗を変えることで、検出器を小型化しても感度を保持できていることがわかる。

次に、pn接合の作製を試みた。従来、カーボンナノチューブフィルムでは膜厚がマイクロメートル程度以上の厚さになると、既存のゲート電極を用いた電界制御ではpn制御ができないという問題があった。そこで今回の研究では、イオン液体を用いた電気二重層[用語5]トランジスタを作製することで(図3a)、100マイクロメートルという厚いカーボンナノチューブフィルムにおいてもpn制御を行うことができた。

図3b、cに示すとおり、pn接合を用いることで4倍の高感度化を達成した。以上から、フレキシブルデバイスに必要な厚み(機械的強度)と感度の高さを両立することが可能となった。この成果は、テラヘルツデバイス応用にとどまらず、今後、カーボンナノチューブフィルムを様々なフレキシブルデバイスへ応用展開する上で高い意義を持つ。

さらに、カーボンナノチューブから外への熱放出を抑制することで、約3倍感度が上昇した。以上の3点の工夫(電極構造、pn接合、熱放出抑制)により、格段の検出感度向上を達成した。

イオン液体によるpn接合カーボンナノチューブデバイス
図3.
イオン液体によるpn接合カーボンナノチューブデバイス。(a)デバイス図。(b)テラヘルツ応答のマッピング結果。pn接合部で強いテラヘルツ応答が発生している。(c)pn接合及び電極金属界面でのテラヘルツ応答。pn接合を用いることで約4倍の高感度化が達成できている。

以上の知見を用いて多数の検出器をアレイ状に集積化し、フレキシブルかつウェアラブルなテラヘルツ帯カメラの作製、ならびにテラヘルツイメージング検査応用を行った。図4a~cがそれぞれ0.14 THz, 1.4 THz, 29 THzの電磁波を用いたテラヘルツイメージングの測定図である。

テラヘルツイメージングによって、紙や半導体に隠された金属や、プラスチックケースの内部構図(柱やガム)の非破壊・非接触検査ができていることがわかる。

テラヘルツイメージング
図4.
テラヘルツイメージング。(a)0.14 THzによるイメージング図と写真。紙に隠された金属が可視化されている。(b)1.4 THzによるイメージング図と写真。プラスチックケースの内部構造(柱やガム)が可視化されている。(c)29 THzによるイメージング図と写真。半導体基板(ゲルマニウム)に隠された金属が可視化されている。

また、図5に医療器具(注射器)のマルチビュースキャンの結果を示す。注射器のような歪曲した形状の物体であっても、本フレキシブルカメラを用いることで、360度の全視野を瞬時に画像計測することができる。従来は複数台のカメラを用いていたが、本技術により大規模な測定系なしで、全方位破損検査が可能であり、既存技術とくらべて大きな優位性がある。

フレキシブル撮像デバイスを用いた医療器具(注射器)の360度全方位検査
図5.
フレキシブル撮像デバイスを用いた医療器具(注射器)の360度全方位検査。本撮像デバイスを用いることで、大規模な測定系なしでの全方位破損検査ができている。

今後の展開

テラヘルツ帯フレキシブルカメラを開発し、テラヘルツイメージングによる内部構造の可視化や全方位破損検査といった新規なデモンストレーションを行った。さらに、人体に装着可能なウェアラブルカメラの開発にも成功した(図6)。

人体に装着可能なウェアラブルテラヘルツカメラと手のテラヘルツ画像

図6. 人体に装着可能なウェアラブルテラヘルツカメラと手のテラヘルツ画像

今後、検出器を高感度化・高集積化することで、より高精度のテラヘルツイメージングが可能となり、食物・医薬品への異物混入検査、農作物のモニタリング、ウェアラブルな生体検査といった様々な分野において、既存の技術では成し得ない恩恵や革新をもたらす。

特に、本カメラはフレキシブルで生体系の形状にフィットするという他にはない長所を有するため、医療検査に向けた強力な手段となることが期待できる。日常生活でもリアルタイムで検査可能な“ウェアラブル医療端末”としての活用も可能となろう。この技術は、現在、東工大が中心になって進めているCOIプログラム「『以心電心』ハピネス共創社会構築」において、大きく貢献することが期待される。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の「産学共創基礎基盤研究プログラム」、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業(新学術領域研究「原子層科学」、新学術領域研究「ゆらぎと構造の協奏」、基盤研究(B)、特別研究員奨励費)の援助により行われた。

文部科学省革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)による事業であり、本学及び産学官の関係機関との連携により、革新的な研究開発と、その成果を実用化するための取組を行っている。全世代の人々が文化・習慣の違いを越え、人口構造に依らない活力ある社会の実現に資することを目的とする。

用語説明

[用語1] テラヘルツ帯 : 周波数100 GHzから10 THz程度の領域に位置する電磁波帯のこと。かつては未開拓領域だったが、物質・バイオ分析や高速無線通信など、様々な応用可能性から近年急速に注目を集めている。

[用語2] イオン液体 : 室温において、液体状態で存在するイオン結合化合物のこと。

[用語3] pn接合 : 正孔が流れる材料(p型)と電子が流れる材料(n型)を接合した構造のこと。

[用語4] 光熱起電力 : 物質に光を照射した際に物質内で温度勾配が発生し、その温度差が電圧に変換される現象のこと。

[用語5] 電気二重層 : 荷電粒子が印加電場によって移動した結果、界面に正負の荷電粒子が対を形成して層状にならぶ現象のこと。本研究では、イオン液体中の陽イオンと陰イオンが電場に沿って移動する。

論文情報

掲載誌 :
Nature Photonics
論文タイトル :
A flexible and wearable terahertz scanner
著者 :
Daichi Suzuki, Shunri Oda, and Yukio Kawano
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
准教授 河野行雄

E-mail : kawano@ee.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3811

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学学生チームがIEEE中南米ロボット・コンテストで優勝

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10月8日から12日にかけてブラジル・レシフェ市でIEEE(米国電気電子学会)中南米ロボットコンテストが開催され、本学から参加した大学院理工学研究科 機械制御システム専攻の高野凜さん(修士課程2年)、工学院 システム制御系のジャン・ジュンホさん(修士課程1年)、工学院 機械系の尻江知彦さん(修士課程1年)の3名の学生チームが、ヒューマノイド・ロボット・レーシング部門で優勝しました。

表彰式での様子

表彰式での様子

「IEEE中南米ロボット・コンテスト」の概要

IEEE中南米ロボット・コンテストはIEEEが主催のロボットコンテストであり、ロボカップ等の様々な部門の競技会が同時に開催されます。今回東工大が優勝したヒューマノイド・ロボット・レーシング部門は、人型ロボットを用いて4メートルの長さのコースを渡りきるタイムを競うものでした。中南米諸国より多くのチームが大会に参加し、会場は大きな盛り上がりを見せました。

大会への参加に関しては、アジア中南米協力フォーラムにおいてアジアと中南米の間でのロボット・コンテスト開催が決まったことを踏まえ、外務省とIEEEの協力により日本からの参加チームの募集がありました。日本国籍を有し、ロボット関係を専攻とする高専生・大学生による1チーム3名までのチーム構成という参加条件のもと、東京工業大学、東京電機大学、仙台高等専門学校(広瀬キャンパス・名取キャンパス)の4チームが外務省からの推薦チームとして参加しました。

コンテスト参加の様子

今回の大会は、前半3日間は大会参加者が自由に会場で各々のロボットの調整等を行える期間であり、後半2日間は予選とファイナルを行うという日程でした。そのため、競技会への準備を進めつつも、他国の学生とお互いの技術に関する情報を共有したりする等して交流を深めることができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。

大会参加者での写真撮影

大会参加者での写真撮影

受賞コメント

優勝決定直後の3人
優勝決定直後の3人

高野 凜
(大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 修士2年)

国際的な大会で優勝できたことを光栄に思います。また、大会への参加を通じ、他国の学生と技術的な交流をすることで自分たちの見識を深める良い機会となりました。今回得られた経験や知識を今後に役立てていきたいと思います。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

平成28年度9月東京工業大学学位記授与式を挙行

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9月20日、東工大蔵前会館にて学位記授与式が執り行われました。当日は、多くの来賓の方々と卒業生・修了生のご家族に見守られる中、学部卒業生41名と修士課程134名、専門職学位課程12名、博士後期課程79名の大学院修了生が学位記を手にしました。本学では春と秋の年2回学位記授与式を実施しており、秋は国際大学院プログラムに所属する留学生とその家族が多数出席するため英語で進行します。

平成28年度9月東京工業大学学部・大学院学位記授与式

学長式辞(三島良直学長)
学長式辞(三島良直学長)

式典は、三島良直学長の式辞から始まりました。計266名の卒業生・修了生の今日までの努力とそれを支えたご家族の方々の労をねぎらうとともに、これから始まる人生の次のステップにおいて、本学で培った知識と能力を最大限に発揮して新しいことに挑戦し、自らの視野と可能性を広げていってほしいと激励しました。また、卒業生・修了生の半数以上を占める留学生に向けて、母国を離れ東工大で学んだ苦労をおもんぱかり、この晴れの日を迎えた喜びがひとしおであると述べました。

部局長式辞(三原久和大学院生命理工学研究科長)
部局長式辞(三原久和大学院生命理工学研究科長)

続いて、三原久和大学院生命理工学研究科長が、部局長を代表してお祝いの言葉を述べました。東工大で身に付けた知識と専門性に誇りを持ち、この先どのような道を歩んだとしても、東工大出身者と出会うことになるだろうと述べ、ともに協力して持続可能なよりよい社会の実現に貢献してほしいとエールを贈りました。

また、多くの来賓の方々を代表し、本学同窓会「一般社団法人蔵前工業会」の鈴木登夫業務執行理事(昭和44年 工学部 電気電子工学科卒)より祝辞をいただきました。鈴木氏は、専門性を高めると同時に人的ネットワークを広げていくことの重要性を強調し、それぞれの分野のプロとしての活躍に期待を寄せました。

来賓挨拶が終わると、卒業生・修了生への学位記授与とリーディング大学院プログラムの修了生への修了証書授与が行われました。卒業生・修了生を代表して謝辞を述べた、大学院理工学研究科 博士後期課程修了生のホウ・チェンウェイさんは、東工大での日々を振り返り、自分にとって辛い時に支え合った仲間は家族同然だと述べ、東工大で学んだことを最大限に活かし、安全で幸せな社会の創造と明るい未来の実現のためにたゆまぬ努力をしていくことを約束しました。

  • 蔵前工業会理事による祝辞(鈴木登夫業務執行理事)

    蔵前工業会理事による祝辞(鈴木登夫業務執行理事)

  • 大学院修了生総代ホウ・チェンウェイさんによる謝辞

    大学院修了生総代ホウ・チェンウェイさんによる謝辞

卒業生、修了生のみなさんのご健康と益々のご活躍を心よりお祈りいたします。

平成28年度9月東京工業大学大学院入学式を挙行

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平成28年度9月東京工業大学大学院入学式

9月27日、大岡山キャンパス蔵前会館にて、平成28年度9月東京工業大学大学院入学式が執り行われました。

東京工業大学では、春と秋の年に2回、入学式を行っています。秋の入学式は国際大学院プログラムに所属する留学生とそのご家族が多数出席するため、9月の学位記授与式同様に英語で進行します。この秋、修士課程212名、専門職学位課程16名、博士後期課程173名、計401名の新入生を33か国から迎えました。

  • 33か国から迎えた新入生

    33か国から迎えた新入生

  • 学長式辞(三島良直学長)

    学長式辞(三島良直学長)

式典は三島良直学長の式辞から始まりました。三島学長は、まず文化の多様化と、多文化が進む本学のユニークな学修環境について触れ、新入生に歓迎の言葉を述べました。そして、今年4月に刷新された本学の教育体制と研究環境に言及し、またとないタイミングでの入学だと述べ、新しく充実した教育・研究環境を存分に活用した実りある学修、研究活動を行ってほしいと激励しました。

部局長式辞(岡田哲男理学院長)
部局長式辞(岡田哲男理学院長)

役員や学院長など、列席する大学関係者や来賓の方々の紹介の後、岡田哲男理学院長が各学院長等を代表してお祝いの言葉を述べました。自身の学生時代の苦労に触れ、挑戦に失敗はつきものだが、失敗を恐れるのではなく楽しんでほしいと述べ、これからの学生生活で直面するだろう難問等に「失うものは何もない」という心構えで臨んでほしいとエールを贈りました。.

蔵前工業会理事による祝辞(鈴木登夫業務執行理事)
蔵前工業会理事による祝辞(鈴木登夫業務執行理事)

続いて、本学同窓会「一般社団法人蔵前工業会」のの鈴木登夫業務執行理事(昭和44年工学部電気電子工学科卒)より来賓代表の祝辞をいただきました。鈴木氏は、8万人を超す会員が所属する同窓会組織の活動を紹介し、目の前の新入生に「今日ここにこうして皆さんが集うのは運命です」と述べました。そして、東工大でのこれからの学生生活において互いを磨き、強いネットワークを築いてもらいたいと話し、そのためにできるだけの協力をすることを約束するとともに、同窓会が主催するセミナーやイベントへの積極的な参加を呼びかけました。

式典の最後には、新入生総代として工学院 機械系に入学した車谷駿一さんが答辞を述べました。式典の開催と温かい歓迎の言葉へのお礼の言葉の後、科学技術の発展だけではなく、持続可能で充実した社会と人類の未来に寄与するために新入生一同切磋琢磨していくことを誓い、今後の学生生活に向けての抱負を述べました。

新入生総代 車谷駿一さんによる答辞

新入生総代 車谷駿一さんによる答辞

11月15日17:10 関連リンクに誤りがあったため、修正しました。

遠隔操作性と繊細な作業性を備えた建設ロボットを開発―ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジによる新しい災害対応重作業ロボットの開発―

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研究成果のポイント

  • 自在な遠隔操作性と器用で繊細な作業性を備えた災害対応重作業ロボットを開発。
  • 遠隔でロボットを操縦するオペレータが、まるで対象物を触っているかのような反力と触覚を感じながら、精密で確実な作業ができる。
  • ロボットの外にカメラを置かずとも、対象物や地形を、視点を変えながら、また、霧がかかっていても見ることができるため、精密な作業や複雑な地形での移動が容易になる。

概要

建設ロボット実験機
図1. 建設ロボット実験機

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所諭)の一環として、研究開発課題「災害対応建設ロボットの開発」責任者 大阪大学 大学院工学研究科 吉灘裕(よしなだ ひろし)特任教授(常勤)、神戸大学 大学院工学研究科 横小路泰義(よここうじ やすよし)教授、東北大学 未来科学技術共同研究センター 永谷圭司(ながたに けいじ)准教授、東北大学 大学院情報科学研究科 昆陽雅司(こんよう まさし)准教授、東京大学 大学院工学系研究科 山下淳(やました あつし)准教授、東京工業大学 工学院 システム制御系 田中正行(たなか まさゆき)准教授らは、従来の建設機械と比較して、作業性・機動性を飛躍的に高めた災害対応重作業ロボット(建設ロボット)の実験機(図1)を開発しました。

このたび本研究開発で開発を進めている主な要素技術を搭載した実験機での一連の評価により、開発コンセプトに描いた建設ロボットの実現に目処が得られました。本実験機は、外観は通常の油圧ショベルですが、従来の建設機械に比較して飛躍的に良好な運動特性と、力覚と触覚の提示機能を付与して、精密で確実な作業の実現を目指しています。また有線給電ドローンによる長時間周辺監視と、任意視点の俯瞰画像生成や霧などを透過して映像を取得する極限画像処理システムを搭載することにより、ロボットの外にカメラを置かずとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができ、複雑な地形でも容易で安全な移動を可能としました。

今回性能を確認した要素技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っています。今後、順次それらの要素技術の評価を進め、より高い作業性、対地適応性の実現を目的として、2重旋回機構と複腕を有する新しいロボットの開発を進めます。

研究の背景と経緯

土砂崩れや建物の倒壊などの災害対応作業には、多くの場合、建設機械が投入されています。中でも油圧ショベルは、クローラを用いた走行機構がもたらす走破性と、多関節の作業機が可能とする多機能な作業性により、災害現場での中心的な役割を担っています。しかし油圧ショベルは、大きな力で地面を掘削する機械のため、繊細な力のコントロールや微細な作業は得意としていません。このため被災現場の状況によっては現場への投入が困難な場合がありました。また油圧ショベルは、使用している機器の制約から、駆動システムに大きなヒステリシス[用語1]と0.1 - 0.2 sec程度の無駄な時間があり、様々な制御則、とくにサーボ制御[用語2]の織込みは容易ではなく、自在な運動特性を実現することが難しい機械です。

災害対応では、オペレータにも危険が及ぶ状況が予想されるため、遠隔で機械を操作できることが必要です。油圧ショベルには、ラジコンの遠隔操縦装置がオプションとして準備されていますが、多くは100 m以内の距離からの直視による遠隔操作であり、災害現場への対応としては十分ではありません。画像伝送を用いた長距離の遠隔操作には、雲仙普賢岳の砂防工事などに用いられた無人化施工システムがありますが、比較的定型的な作業に限定されること、作業性を高めるためには油圧ショベルの周囲に複数のカメラ車を配置する必要があることなど、使用できる状況は限定されています。また遠隔操作時は作業効率が搭乗操作時の60%程度に低下することが大きな課題となっています。

本研究グループは、ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジの共同研究開発の一つのテーマとして、これらの課題を解決した災害対応の重作業ロボットの開発を進めてきました。このたび開発中の要素技術を搭載した実験機(図1)を用いて、災害現場を模擬した評価試験フィールドにて実証試験を行い、一定の性能が確認されました。

研究の内容

上述の課題を解決する新たな建設ロボットを開発しました。今回開発した建設ロボットによれば、遠隔でロボットを操縦するオペレータが、まるで対象物を触っているかのような反力と触覚を感じながら、精密で確実な作業ができます。また、ロボットの外にカメラを置かなくとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができ、また、霧がかかっていても見ることができるため、精密な作業や複雑な地形での移動が容易になります。具体的には下記のような要素技術を含んでいます。

(1)新しい油圧システムと制御手法の適用による高い運動制御性の実現(大阪大・吉灘)

油圧ショベルの作業機は非常に大きな慣性質量[用語3]があり、また作業機慣性とアクチュエータ(シリンダ)の慣性/トルク比[用語4]が、通常の産業ロボットなどよりもはるかに大きいため、これまで高精度に制御することは困難でした。本研究開発では、位置や速度の目標値制御と同時に、シリンダに加わる圧力を適正に高速で制御する制御手法を開発し、大きなオーバーシュート[用語5]発振[用語6]を生じずに、高応答かつ安定に大慣性の作業機をコントロールすることが可能となりました(図2)。またこのために、これまでの建設機械に比べて、約10倍の応答速度と精度を有する油圧コンポーネント[用語7]を用いた新しい油圧システムを構築しました。さらにコンプライアンス制御[用語8]を導入することにより、対象物に柔らかく触れることも可能となりました。

新しい油圧制御システム・制御手法による応答性の例

図2. 新しい油圧制御システム・制御手法による応答性の例

(2)力覚フィードバック[用語9]のための建設ロボットの手先負荷力推定(神戸大・横小路)

建設機械のシリンダは、油漏れを嫌うために、多重にシールが組み込まれており、摩擦の非常に大きなアクチュエータです。また建設機械の作業機の関節部は、重負荷や衝撃に対応するためにベアリング等は組み込まれておらず、これも摩擦を大きくする要因となっています。さらに建設機械の作業機では、発生力に対する作業機自重の割合が大きく、先述の摩擦の影響と合わせて、力のコントロールが非常に難しい制御系となっています。本研究開発では、建設ロボットの手先負荷力をシリンダ圧から高精度に推定する手法を開発しました(図3、4、5)。シリンダ長の情報を用いて建設ロボットのブームやアームの自重の影響を取り除くことで、精度の高い手先負荷力の推定が可能であり、手先に新たに力覚センサを付加する必要がないので衝撃等にも強く、非常にタフな手先負荷力推定方法です。またシリンダ長の変化速度や加速度情報を用いて動摩擦や慣性力の影響も取り除くことで、さらに高精度な推定も可能です。推定した手先負荷力は、ハプティックデバイス[用語9]により操縦者へ力覚フィードバックすることができ、作業性が大幅に向上します。今回の実験機では、大阪大学と共同して、バイラテラル制御[用語11]を実装しており、操縦者は力覚フィードバックを受けながら直感的な遠隔操縦が可能となりました。

力覚のフィードバックシステム

図3. 力覚のフィードバックシステム

神戸大の実験機での鉛直押付け実験の様子
図4. 神戸大の実験機での鉛直押付け実験の様子
押付け力の推定結果
図5. 押付け力の推定結果

(3)振動情報を用いた触覚センシング(東北大・昆陽)

触覚は、繊細で安全な作業のために不可欠な情報ですが、建設機械のように大きな衝撃力や外力の加わる機械のエンドエフェクタ部に触覚センサを搭載することは、信頼性・耐久性の観点から現実的ではありませんでした。本研究開発では、エンドエフェクタに発生する高周波の振動を、後方のアーム部に搭載した高感度の振動センサによって計測し、接触に関係する特定の振動成分を抽出し、操縦者に振動刺激として伝達するシステムを開発しています(図6)。これにより、信頼性・耐久性を心配することなく、建設機械のような大型の機械にも触覚を付与することが可能となりました。振動刺激は、ヒトが感じやすい波形に変調することで、タフ環境でも操縦者に微小な接触情報を見逃すことなく提示することが可能となりました。

振動情報を用いた接触情報の伝達システムの例

図6. 振動情報を用いた接触情報の伝達システムの例

(4)有線給電ドローン(図7)による長時間周辺監視(東北大・永谷)

建設ロボットの遠隔操作を行う際、作業対象を第三者の視点から取得することが、非常に有用です。一般の無人化施工では、カメラ車が第三者視点を提供しますが、発災時の緊急対応では、カメラ車を準備することが困難です。そこで、オペレータに第三者視点を提供するための、マルチロータ機(以下、ドローンと呼ぶ)を利用することとしました。なお、一般のドローンは、バッテリの制約から飛行時間が短いため、本研究では、電線を用いた給電ケーブルにより、送電を行うことで長時間の飛行を実現しました。これにより、オペレータが見たい視点にドローンを飛行させ、その点から画像情報を取得することが可能となります。また、給電ケーブルが環境や建設ロボットに接触し、飛行の安定性を損ねないため、ケーブルの張力を調整する機構を搭載したドローンの着陸台を開発しました。これにより、ドローンの安定した飛行ならびに、確実な離着陸を実現しました。

有線給電ドローン

図7. 有線給電ドローン

(5)極限画像処理1 任意視点俯瞰画像の生成(東大・山下)

車体に取り付けた複数のカメラ映像を、画像処理で合成して俯瞰画像取得する方法は、自動車などにも採用されており、運転操作を容易にするものとして知られています。ただし、自動車の例では、俯瞰画像の視点は一点に固定されており、変更することはできません。路上の駐車などの簡単な操作はそれでも十分ですが、災害現場のような複雑な環境下では、固定視点からの俯瞰画像だけでは、安全かつ確実に走行することは困難です。本研究開発では新しい画像処理アルゴリズムを開発して、ロボット本体に搭載した4個の魚眼カメラの映像を合成し、ロボットのオペレータに、任意視点からの俯瞰映像を、リアルタイムに提示することを可能としています(図8)。また一部のカメラが故障・破損などで映像が取得できなくなっても、時空間データ[用語12]を活用することにより欠損画像を補完するシステムを開発しました。本システムを用いることにより、災害現場のような複雑な環境下でも、ロボット周囲の状況を分かり易く把握することができ、屋外のタフな環境でのロボットの遠隔操作が可能となりました。

リアルタイムでの任意視点からの俯瞰映像提示例

図8. リアルタイムでの任意視点からの俯瞰映像提示例

(6)極限画像処理2 霧などの悪環境下での状況把握(東工大・田中)

ロボットの遠隔操作では、映像情報が非常に重要です。一般には可視光の高解像度カメラをロボットに搭載して周辺の状況把握を行いますが、災害現場では霧の発生等により、可視光カメラでは状況の確認ができないといった場合が想像されます。そこで本研究開発では、波長の長い光を観測できる遠赤外線カメラを活用することにより、状況の観察が困難な霧などの悪環境下でも、周囲状況を把握してロボットを操作できるシステムを開発しました(図9)。本システムを活用することにより、肉眼や通常の可視光カメラだけでは、対応不可能であった霧のような悪環境であってもロボットの操作が可能となりました。

 
通常の可視光カメラ画像
遠赤外線カメラ画像
霧無し
霧無し・通常の可視光カメラ画像
霧無し・遠赤外線カメラ画像
霧有り
霧有り・通常の可視光カメラ画像
霧有り・遠赤外線カメラ画像

図9. 霧の有無における通常の可視光カメラ画像と遠赤外線カメラ画像の例

今後の展開

建設ロボット実験機
図10. 建設ロボット実験機

今回性能を確認した要素技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っています。今後、順次それらの要素技術の評価を進めていきます。また、より高い作業性、対地適応性の実現を目的として、2重旋回機構[用語13]と複腕を有する新しいロボットの開発を進めており、このロボットに開発した要素技術を統合して搭載する計画です(図10)。

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャーのコメント

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャー

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創りだし、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

無人化施工など、これまでに種々の遠隔操作建設ロボットが開発され、地震災害や福島第一原発事故などで実績を上げてきました。しかしながら、作業効率、精度、行える作業種類などの点で限界があり、原発事故においてすら、作業員が搭乗して操縦しなければならない現場が数多くあったのも事実です。

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジ ロゴ

ImPACTで研究開発を進めている建設ロボットでは、油圧システムの精度を飛躍的に高めるとともに、搭乗建設機械を越える視覚情報を操縦者に提供して対象物3次元形状の正確な把握を可能にし、さらには、対象物に触れる際の反力や接触の感覚をあたかも触っているかのようにリアルタイムに伝えることによって、これまでの遠隔操作の問題点を非連続に解決しようとしています。これを実用化することによって、建設ロボットによる災害復旧・対応能力が飛躍的に向上すると期待されます。

特記事項

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)outer

プログラム・マネージャー:
田所諭
研究開発プログラム:
タフ・ロボティクス・チャレンジ
研究開発課題:
災害対応建設ロボットの開発
研究開発責任者:
吉灘裕
研究期間:
平成26年度~平成30年度

本研究開発課題では、パワフルさと繊細かつ器用な作業性とを併せ持つ災害対応重作業建設ロボットの開発に取り組んでいます。

また田中准教授の関連する研究成果は、来年1月の国際会議 IS&T International Symposium on Electronic Imaging (EI2017) に発表予定です。

用語説明

[用語1] ヒステリシス : 量Aの変化に伴って量Bが変化する際に、Aが増加する時と減少する時で、同じAの値に対するBの値が異なる現象。

[用語2] サーボ制御 : 物体の位置、速度、力などを、任意の目標の変化に追従するように制御する制御法。

[用語3] 慣性質量 : 物体に力を加えると物体は加速運動をするが、加速度の大きさは物体の質量によって異なる。この質量を慣性質量と呼ぶ。

[用語4] 慣性/トルク比 : ロボットアームなどを制御する際に、アームが持つ慣性質量とそれを駆動するアクチュエータの最大トルクの比。一般にこの値が大きくなるほど制御は困難になる。

[用語5] オーバーシュート : 位置、速度、力などを制御する際に、それらが目標値を超えて行き過ぎること。

[用語6] 発振 : 位置、速度、力などを制御する際に、それらが制御目標値に収束せずに振動してしまう状態。

[用語7] 油圧コンポーネント : ポンプ、バルブなどの油圧システムを構成する機器のこと。

[用語8] コンプライアンス制御 : ロボットのアームにおいて、アームの位置と力の両方を組み合わせて制御することにより、バネのようなしなやかさを実現する制御法。

[用語9] 力覚フィードバック : 遠隔地のロボットを操縦したり、バーチャル空間内の物体を操作したりするときに、接触等によって発生した力を操縦者に提示する技術。力覚フィードバックにより、あたかも実物体に触れたかのような感覚を得ることができるので、直感的な操縦(操作)が可能となる。

[用語10] ハプティックデバイス : バーチャルリアリティや遠隔操縦において、ユーザー(操縦者)に力覚や触覚を提示する装置の総称。“ハプティック”は、ギリシャ語を語源とする「触覚に関する」という意味を持つ英語の形容詞“haptic”からくる。

[用語11] バイラテラル制御 : 遠隔操縦における制御手法の一種であり、操縦側(マスタ)から遠隔地のロボット(スレーブ)に運動指令を送るだけでなく、遠隔地のロボットから逆に操縦側に力覚情報などを指令値として送り返す双方向(バイラテラル)の制御となっているもの。操縦側から遠隔地のロボット(スレーブ)に運動指令を一方的に送るだけの制御手法をユニラテラル制御と呼ぶ。

[用語12] 時空間データ : 時刻と場所の情報を付加したデータのこと。ここでは、魚眼カメラを用いて撮影した映像に関して、どの時刻に・どの場所で・どのカメラから撮影した映像であるかを整理してデータ化した動画像のことを指す。

[用語13] 2重旋回機構 : 通常の油圧ショベルはひとつの旋回機構しか持たないが、この旋回機構の上にもう一段旋回機構を重ねた構造。今回のプロジェクトのために開発されたものである。

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