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スピネル型酸化物材料の原子観察に成功 ―超伝導材料やリチウムイオン電池の高性能化に向けて大きな一歩―

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概要

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教と一杉太郎連携教授 (東京工業大学 物質理工学院 教授)、東京大学の安藤康伸助教(現 産業技術総合研究所 研究員)、渡邉聡教授らのグループは、超伝導材料や電池材料として知られているスピネル型酸化物LiTi2O4の表面について、その原子配列と電子状態を解明することに成功しました。

LiTi2O4は興味深い物質として知られています。スピネル構造の金属酸化物[用語1]としては唯一の超伝導体で、比較的高い超伝導転移温度を示します(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))。しかし、原子レベルで平坦な試料を作ることが難しく、表面における超伝導状態は、原子スケール分解能では調べられていませんでした。また、この物質は、リチウムイオン電池材料の候補としても知られています。リチウムイオン電池では、充放電の際に、リチウムイオンが電極表面を必ず通過します。したがって、電極表面の原子配列が、電池性能に極めて大きな影響を与えます。しかし、金属酸化物電極表面の原子配列は未解明で、さらなる性能向上に向けて、原子レベルでの理解が必要です。そこで本研究グループは高品質なLiTi2O4薄膜を作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて表面の原子配列を調べ、コンピュータシミュレーション結果と比較しました。その結果、最表面にチタン原子が周期的に並んでいることや、表面の超伝導性が固体内部とは異なっていることを明らかにしました。以上、3つの元素からなるスピネル構造について、原子像観察、構造決定、そして、電子状態評価にはじめて成功しました。このような研究から、超伝導現象の起源や、電解質との界面がどのように形成されているのか理解が深まり、新超伝導体開発やリチウムイオン電池特性向上へつながることが期待されます。

本研究成果は、2017年7月3日(月)18時(日本時間)に、米科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

研究の背景と経緯

LiTi2O4は非常に興味深い物質です。スピネル構造の金属酸化物としては唯一の超伝導体(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))である上、リチウムイオン電池用材料としても知られています。そして、その「表面」を理解することが極めて重要です。

超伝導の観点では、昨今、極めて薄い、シート状超伝導体の物性に関心が集まっています。したがって、表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面、あるいは極薄新物質の創出につながります。しかし、表面における超伝導状態を、原子スケール分解能で調べることが困難でした。その理由として、LiTi2O4の大型単結晶作製が難しいことや、劈開(へきかい)[用語3]ができないことが挙げられます。そのため、その表面原子を観察することができませんでした。

さらに、リチウムイオン電池の観点からも表面が重要です。さらなる高性能化を実現するため、リチウムイオンが電極内に出入りする過程を原子レベルで理解することが喫緊の課題です。しかし、電極材料として利用されている金属酸化物については前述のように表面処理が難しく、原子配列や電子状態の議論が困難でした。

そこで、本研究グループではLiTi2O4表面における原子配列の解明に挑み、最表面にはチタン原子が三角格子状に並んでいることを明らかにしました。さらに、電子状態の詳細を明らかにすることに成功しました。

研究の内容

本研究グループは、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)と、高品質な薄膜作製手法であるパルスレーザー堆積法[用語4]が連結した複合装置を独自に開発してきました(図1)。そして、SrTiO3単結晶基板上にLiTi2O4エピタキシャル薄膜[用語5]を作製し、一度も大気に触れさせずにSTMを用いてその表面を原子スケール空間分解能で観察しました。大気に触れさせないことで、非常にきれいな表面を維持しつつ観察したことがポイントです。その上で、計算機シミュレーション結果と比較しました。

走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図1. 走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図2にLiTi2O4薄膜のSTM像を示します。広い範囲を観察すると、非常に平坦な表面、すなわち、テラスが広がっていることがまずわかります(図2a)。そして、ところどころに高さが低く、暗く表示されている部分があります。平坦な部分を拡大してみると、周期的な輝点が明瞭に観察され(図2b)、三角格子状に輝点が並んでいることがわかりました。さらにこの三角格子を拡大すると、輝点は約0.6 nm(ナノメートル)間隔でした(図2c)。

LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

図2.
LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

考えられる結晶構造モデルについて第一原理計算を行い、STM像のシミュレーション結果と実験結果を比較検討しました。その結果、チタンで覆われている場合には、計算結果と実験結果が一致しました。一方、表面が酸素で覆われている場合、実験結果が再現できないことがわかりました。このことより、図2で観察された輝点は、チタン原子であることがわかりました(図3)。このような3つの元素からなるスピネル構造については、はじめての原子像観察と構造決定となります。また、表面上の暗い部分はリチウムが欠損していると考えられます。

(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

図3.
(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

さらに、本研究により、超伝導状態の電子状態も明らかになりました。精密な電子状態評価から超伝導ギャップやコヒーレンス長などの物性値が、表面では内部と異なることが見出されました。具体的には、表面における超伝導ギャップが予想より小さく、さらに、コヒーレンス長が予想よりも長いという実験結果が得られました。

今後の展開

以上より、LiTi2O4について、表面の原子配列、および、電子状態が明らかになりました。この系ではチタンの電子同士の強い相互作用が考えられ、今後ナノスケールで起きる物理についても調べていく予定です。そして近年、極薄の超伝導体に関する物性に関心が集まっており、このような表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面の創出につながります。

さらに、電極表面における原子配列構造の理解は、リチウムイオン電池研究をさらに活発化させると考えられます。たとえば、従来は、現実に存在するのかわからない表面構造をもとに計算機シミュレーションをしなければなりませんでした。しかし、今回の結果から「実在する表面構造」が明らかになったため、それを土台にして、より精緻なシミュレーションが可能になります。今後は、リチウムイオンがこの表面上でどのように拡散し、どの場所から電極内に入っていくのかというプロセスについて解明し、精緻な材料設計技術の発展が期待されます。

付記事項

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)研究課題名「酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング」(平成22年~25年度、研究者:一杉太郎)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」(研究総括:瀬戸山亨)研究課題名「界面超空間制御による超高効率電子デバイスの創製」(平成27年~32年度、研究者:一杉太郎)の支援を受けて、また一部は科学研究費補助金・基盤研究(A)「LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造の原子スケール電子状態(26246022)」、科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型) 公募研究(26108702、26106502)、科学研究費補助金・若手(A)「鏡面対称性と強い電子相関がもたらす新奇なトポロジカル量子現象の分光イメージング(25886004)」、科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「原子分解能で見る酸化物薄膜のバックゲート誘起による強相関・トポロジカル量子相転移(26610093)」、科学研究費補助金・基盤研究(B)「界面原子・分子層における局所電界効果の理論計算(15H03561)」の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 金属酸化物 : 金属原子と酸素原子が結合して得られる化合物です。構成元素と構造が多様であることから、幅広い物性を示し、様々な応用先があることが魅力です。そのうちの一つとしてLiイオン電池の電極材料が挙げられます。また、次世代の電子素子への応用も期待されています。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 原子レベルで鋭い針を試料表面に数ナノメートルの距離まで近づけ、針と試料間に電圧をかけると、量子力学的なトンネル電流が生じます。このトンネル電流を一定に保つように針の高さを制御して、試料表面上で針を動かすことによって原子像を得る装置が走査型トンネル顕微鏡です。トンネル電流は試料の電子状態に依存するので、表面構造だけでなく電子状態も原子レベルの空間分解能で調べることができます。

[用語3] 劈開(へきかい) : 物質がある一定の方向に容易に割れて、平滑な表面ができることをいいます。

[用語4] パルスレーザー堆積法 : 集光した紫外レーザー光を原料ターゲットに照射し、蒸発して飛び出した原子や分子種を基板上に薄膜として蒸着する方法です。高品質な酸化物薄膜作製が可能であるという利点があります。また、1原子層ずつ堆積していくため、望みの原子を望みの順序で積み上げ、新しい物質を合成することが可能です。

[用語5] エピタキシャル薄膜 : ある結晶の上に、それとは異なる結晶を一定の結晶方位関係をもって成長することを指します。両者の結晶構造や格子定数をうまく組み合わせることによって、良質なエピタキシャル薄膜の成長が実現します。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Scanning tunnelling spectroscopy of superconductivity on surfaces of LiTi2O4(111) thin films
著者 :
Yoshinori Okada, Yasunobu Ando, Ryota Shimizu, Emi Minamitani, Susumu Shiraki, Satoshi Watanabe, and Taro Hitosugi
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR) 連携教授

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
一杉太郎 教授

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2636

東京大学 大学院工学系研究科 渡邉聡 教授

E-mail : watanabe@cello.t.u-tokyo.ac.jp

Tel : 03-5841-7135

取材申し込み先

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス 清水修

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp

Tel : 022-217-6146

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

E-mail : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


第1回蔵前立志セミナー ~未来の創り方 きみの「はっぴぃえんど」は何か?~ を開催

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5月16日、第1回蔵前立志セミナーが、「未来の創り方 きみの『はっぴぃえんど』は何か?」をテーマに、大岡山キャンパスの東工大蔵前会館にて開催されました。

円形の対話促進ツール「えんたくん」を活用して、盛り上がったグループディスカッション。

円形の対話促進ツール「えんたくん」を活用して、盛り上がったグループディスカッション。
一気に盛り上がり、30分があっという間に過ぎていきました。

本学の同窓会組織である蔵前工業会東京支部が主催していた「大岡山蔵前ゼミ」を、「東工大立志プロジェクト」を開講しているリベラルアーツ研究教育院と共同で企画・運営することとし、2017年度から「蔵前立志セミナー」と して新たにスタートさせたものです。

本学卒業生が講師となって本学学生に対して人生に対する熱い思いを語り、グループディスカッションで先輩と在校生が共に語りあう場として企画されています。

講師には本学卒業生の古関義幸氏(1979年 東工大 工学部 情報工学科卒、1981年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)修士修了、元NECビッグローブ株式会社 代表取締役社長)を迎え、参加者は175名(学生115名、卒業生60名)に上りました。

今回、第1部では古関氏が、自身のパーソナルコンピュータ界での挑戦とそれに対する熱い思いを語りました。「現在の延長線上ではなく、やりたいと思う具体的なゴールを設定し、それを実現するために現実とのギャップをひとつずつ埋めていってほしい」と強調し、それこそが「立志」であると話されました。

  • 後輩に対してメッセージを語る古関氏

    後輩に対してメッセージを語る古関氏

  • グループディスカッションについて説明する中野民夫教授

    グループディスカッションについて説明する中野民夫教授

第2部では、ワークショップスタイル授業の第一人者であるリベラルアーツ研究教育院の中野民夫教授のガイドで、グループディスカッションが行われました。卒業生、学生、教員がバランスよく5名ずつに分かれ、一斉に「自分の未来の創り方」を語り合う様子は壮観でした。

そして、セミナー終了後の懇親会では、直前に行われたグループディスカッションの雰囲気が引き継がれ、自然に会話が生まれていました。「社会人の方からこんなにストレートなお話を聞いたのは初めて」という学生も多く、記念すべき第1回は、参加者全員にとって価値あるものとして終了しました。

自分自身の「はっぴぃえんど」を語る先輩と、それを真剣に聞く学生。

自分自身の「はっぴぃえんど」を語る先輩と、それを真剣に聞く学生。

次回開催は、2017年7月7日(金)、テーマは「予期せぬ実験結果から生まれた大発明」です。ゲストは本学卒業生の木岡護氏(1978年 大学院総合理工学研究科電子化学専攻 修士修了、1995年 同博士(工学)取得。元三井化学ファイン株式会社代表取締役)です。

東工大立志プロジェクト…学士課程の新入生を対象とする本学の授業の1つ。
詳しくは東工大ニュースをご覧下さい。

東工大リベラルアーツ科目の要石「東工大立志プロジェクト」│東工大ニュース

お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7689

7月の学内イベント情報

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7月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」)

サイエンスカフェの舞台は皆さんの腸内です。

生命理工学院の山田拓司准教授と生命理工学系の学生が、腸内細菌の仕組みをボードゲームを使って、遊びながら学べる企画です。

日時
7月1日(土) 13:30 - 15:30
場所
参加費
無料
対象
一般(小学3年生~中学3年生向け 保護者同伴可)
申込
必要

第34回先端光量子科学アライアンスセミナー

第34回先端光量子科学アライアンスセミナー

「光と物質の相互作用」をテーマに、第34回先端光量子科学アライアンスセミナーを開催いたします。 大学生から社会人の方まで、奮ってご参加ください。

日時
7月4日(火) 13:55 - 16:50
場所
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

2017年度大田区民大学(第20回東工大提携講座)「生物とその多様性」

2017年度大田区民大学(第20回東工大提携講座)「生物とその多様性」

今年も、恒例の大田区と提携した区民大学が開催されます。私たちが長い年月の環境変化の中で、今日生きているのは、生命の多様さ・生命を育む場の多様さと多彩なつながり=生物多様性があればこそです。国連が2011年から2020年を「国連生物多様性の10年」と設定して、その折り返し点となった今年のテーマは、「生物とその多様性」です。今一度、生命科学・分子生物学や環境問題など、生物多様性とその根源をめぐる最新の研究を学んでみませんか?

日時
5月31日(水)、6月7日(水)、6月14日(水)、6月21日(水)、6月28日(水)、7月5日(水)
各日19:00 -
場所
参加費
無料
対象
原則として区内在住・在勤・在学の16歳以上の方
申込
必要

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

気鋭の若手シェイクスピア研究者、小泉勇人准教授の解説を聞きつつ、俳優の下総源太朗さんとともに四大悲劇のひとつ『マクベス』の台詞を読んでみます。下総源太朗さんは、昨年の新国立劇場での『ヘンリー四世』にも出演され、シェイクスピア没後400年シンポジウム「歴史劇の現場から」にも講師として登壇いただきました。全体のコーディネートは、英国現代劇を専門とし、演劇評論家でもある谷岡健彦教授が行います。シェイクスピアの面白さは声に出してこそ実感できるものです。

日時
7月6日(木)、20日(木)、8月3日(木)、24日(木)、31日(木)(全5回)
各回とも18:00~20:00。1回のみの受講も可能。
場所
参加費
1回1,000円、全回通し4,000円(本学学生および教職員は無料)
対象
本学学生、教職員、一般
申込
必要

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

本講座では前期の講義として、私たちの身の回りにある化学品を含むゴムやプラスチックとその製品の安全・安心に関する情報とやさしい科学を、 一般の方にもわかりやすく紹介します。更に後期の講義では、少し高度な内容として、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術 ・材料に関する科学を紹介し、将来の安心・安全な材料・製品設計の基礎を学べるようにします。

日時
2017年6月3日(土)、6月17日(土)、6月24日(土)、7月15日(土)、7月22日(土)、7月29日(土)、8月5日(土)
各日13:20 - 14:50、15:05 - 16:35
場所
参加費
無料(「追加資料代」として1,000円(全14講議分)が掛かります。初回受講時に申し受けます。)
対象
一般
申込
必要

夏休み親子工作教室 ―自分だけの「カンカラ三線!」を作ろう―

夏休み親子工作教室 ―自分だけの「カンカラ三線!」を作ろう―

ものつくり教育研究支援センター(すずかけ台分館)では、毎年夏休みに親子で一緒に工作をすることを通してものつくりの楽しさを知ってもらおうと、夏休み親子工作教室を開催しています。昨年は、オリジナルタンバリンを作ろうと題して行いました。今年は、音の不思議さを知ってもらうために、弦楽器に注目し、「自分だけの『カンカラ三線!』を作ろう」と題して、空き缶を使って沖縄の三線を作ります。小学生と大人、2名1組で行います。

日時
7月27日(木) 10:00 - 15:00
場所
参加費
1組300円(保険料込み)
対象
小学生とその保護者(小学生1名+保護者1名で一組とする)
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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岸本史直さんが第31回独創性を拓く先端技術大賞「ニッポン放送賞」を受賞

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大学院理工学研究科 応用化学専攻の岸本史直さん(博士後期課程3年)が「第31回独創性を拓く 先端技術大賞」の学生部門にてニッポン放送賞(優秀賞)を受賞しました。

受賞論文
ナノシート積層構造体による人工光合成~ナノ空間の精密設計によって光誘起電荷分離を操る技術の創成~
指導教員
和田雄二教授

先端技術大賞とは

科学技術創造立国の実現に向け、優れた研究開発成果をあげた全国の理工系学生と企業の若手研究者、技術者を表彰するものです。

表彰式は2017年7月24日(月)東京・元赤坂の明治記念館にて行われます。

受賞コメント

大学院理工学研究科 応用化学専攻の岸本史直さん(博士後期課程3年)

岸本史直さん
岸本史直さん

この度、先端技術大賞にて栄えあるニッポン放送賞を賜り、大変光栄です。

私が学部4年生時から和田教授の下で一貫して挑戦し続けてきた研究が、広く一般的な科学として重要性を認めていただけたと感じております。

日々の研究生活を支えてくださった先生方、研究室メンバーの皆様、そして家族に感謝し、この研究が社会のために役立つ日が来るまで、より一層励みたいと思います。

物質理工学院 応用化学系 和田研究室のメンバー

物質理工学院 応用化学系 和田研究室のメンバー
岸本史直さん(中段左から2番目)と指導教員の和田雄二教授(中段左から3番目)

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

フジサンケイビジネスアイ

E-mail : senta@sankei.co.jp
Tel : 03-3273-6102

超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見

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超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見
―地球深部の水の循環モデルに関する論文がNatureに掲載―

研究の背景

地球表層の7割は海に覆われていますが、地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍とも見積もられています。そのため、水は地球の表層だけでなく地球の内部でも重要な成分の1つであり、地球の進化に多大な影響を及ぼしていると考えられています。しかしながら、地球内部における具体的な水の存在量とその循環はいまだ謎が多く、さまざまな研究が進められています。

地球表層に存在する水は岩石と反応して含水鉱物[用語1]を作ります。この含水鉱物はプレートの沈み込みにより、水を地球深部のマントル[用語2](深さ30-2,900キロメートル)へと運ぶことが知られています。ただし、マントルは高温高圧の環境なので、沈み込みに伴う温度や圧力の上昇によって、ある深さで含水鉱物が分解・脱水します。もし含水鉱物が分解せずに安定して存在できる温度と圧力条件が分かれば、水が地球深部のどの深さまで運ばれるかを理解することができます。

本研究グループは、マントルの主要元素[用語3]であるマグネシウムとシリコン(ケイ素)を多く含み、下部マントルで安定な含水鉱物 「H相[用語4]」を理論予測と超高圧実験により発見し、2014年にNature Geoscience誌に発表しました。H相の合成は、その後国内外複数の研究グループにより再現・確認され、マグネシウムやシリコンがその他のマントルの主要元素であるアルミニウムや鉄と置き換わることも知られてきました。アルミニウムを含むH相はマントル深部の圧力下でも分解しないため、核とマントルの境界(深さ2,900キロメートル)での上昇流(プルーム[用語5])の発生や地震波超低速度層[用語6]の起源、また核の溶融鉄への水の溶け込みなど、様々な影響を及ぼす可能性が議論されています。

一方で、2016年のNature誌で発表された研究結果では、鉄を多く含む含水鉱物(化学式FeOOH、以下水酸化鉄)はマントル深部条件下で水素と酸化鉄に分解すると報告しています。沈み込むプレートを構成する岩体が鉄をどの程度含むかは場所や時代により異なりますが、この先行研究によると、特に鉄を多く含む縞状鉄鉱層[用語7]はマントル深部に水を運ぶことができないということになります。さらに、この水酸化鉄の分解は、地球全体の酸素濃度にも関わり、それが過去の地球表層環境に影響したとも考えられています。

以上の背景や先行研究を踏まえ、本研究では理論計算と先端技術を用いた実験により、水酸化鉄の超高圧下での安定性の再検討を試みました。

研究手法と成果

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之助教、桑山靖弘助教(現 東京大学 大学院理学系研究科)、土屋旬准教授、土屋卓久教授の研究グループ(西、土屋旬、土屋卓久は東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)兼務)は、第一原理計算[用語8]に基づく数値シミュレーションとレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル[用語9]を用いた実験により、水酸化鉄の高温高圧下でのふるまいを調べました。

スーパーコンピュータ「京」[用語10]や愛媛大学設置の並列計算機を用いて得られた数値シミュレーションの結果は、地下1,900キロメートル付近に対応する80万気圧において、水酸化鉄がパイライト[用語11]型と呼ばれる構造に変化することを示唆しました。この結果は、水酸化鉄はマントル深部で水素と酸化鉄に分解するという過去の研究結果と異なります。この結果を受けて、本研究グループはダイヤモンドアンビルセルによる高圧発生技術と、大型放射光施設SPring-8[用語12]の高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置されたレーザー加熱システムと放射光X線を使用し、約150万気圧までの条件で水酸化鉄の結晶構造を調べました。実験結果は、理論予測されたものと同様、80万気圧程度で水酸化鉄の構造がパイライト型へと変化することを示しました。さらに様々な温度圧力条件下で測定した試料の体積は、パイライト型構造中の水素の含有を強く示唆しました。このように、水酸化鉄が水素を維持しつつパイライト型構造へ変化するという第一原理計算による理論的予想が、複数の証拠を含めた高度な実験により証明されました。

本研究結果は、水酸化鉄が地球マントル深部環境で水素と酸化鉄に分解するという従来の学説を覆す発見であり、いまだに解明されていない地球深部における水の循環を明らかにするための新たな知見となると期待されます。本研究結果によると、水は地表からマントルと地球中心核の境界付近の2,900キロメートル程度の深さまで運ばれる可能性があります。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でのマグマの発生を引き起こし、マントル最下部で観測される地震波超低速度層やこの付近に起源をもつマントル上昇流(プルーム)などの原因になっている可能性があります。また、地球中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質や運動の解明において重要な影響を及ぼすものと考えられます。

今後の展望

今回の研究では、水酸化鉄の構造がマントル深部領域でパイライト型構造に変化し、水が地球中心核とマントルの境界まで運ばれる可能性を示しました。今後更に研究を進めることで、水酸化鉄と周囲のマントル・地球中心核の物質との反応現象を理解することができるかもしれません。これらの結果で得られる情報は、地球内部の水の存在量とその循環を知る上での新たな知見となります。

本研究グループによる理論計算では、アルミニウムを多く含む含水鉱物も、地球マントル条件より高い圧力下でパイライト型へと結晶構造が変化することを予測しています。今後の実験技術の進展により、このような極限環境下で安定な含水鉱物の存在が実証されると、天王星・海王星のような氷惑星や、近年の観測技術の発展により次々と報告されている太陽系外惑星の内部における水の存在形態の研究は飛躍的に進展すると期待されます。

成果のポイント

  • マントル深部(深さ1,900 km以深)の超高圧環境(80万気圧)で安定な水酸化鉄の発見
  • 水酸化鉄は下部マントル深部の圧力下において脱水分解するという従来の学説を覆す発見
  • 超低速度層、プルームの発生、核への水の溶け込みなど、マントルと核の境界付近における様々な現象に影響
  • 第一原理計算による理論的予想が、実験によって実証的に確定された貴重な科学的成果
  • 超高圧技術と放射光実験を組み合わせた、高精度な実験

関連分野の研究者

東京大学 大学院理学系研究科 附属地殻化学実験施設

名誉教授 八木健彦

E-mail : yagi@eqchem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4624

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻/物理学科

教授 常行真司

E-mail : stsune@phys.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4127

備考

なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号: JP15H05469, JP15H05829, JP15H05834, JP16H06285, JP25220712, JP26287137, JP26400516, JP26800274)、SPring-8一般研究課題(課題番号: 2014B1364, 2016A1476)、文部科学省ポスト「京」萌芽的課題「基礎科学の挑戦-複合・マルチスケール問題を通した極限の探求」(課題番号: hp160251, hp170220)の一環として実施したものです。

用語説明

[用語1] 含水鉱物 : 蛇紋石や水酸化物等、水素を主成分の一つとして含む鉱物。特に地球内部の高圧下で安定なH相やδ-AlOOHは、プレートの沈み込みにより水を地球マントル深部にもたらすと考えられている。

[用語2] マントルと核 : 地球は薄い地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30-2,900キロメートル)、核 (2,900-6,400キロメートル)の3層からできている。マントルはかんらん岩などの岩石が主な成分であるのに対し、核は主に鉄からできている。

[用語3] マントルの主要元素 : マントルは酸素、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、鉄、カルシウムがその成分の大半を占める。

[用語4] H相 : 含水鉱物の一つで、下部マントル深部において存在可能な唯一の含水ケイ酸塩鉱物と考えられている。本GRC研究グループにより、2013年にその存在の理論的予測、2014年に超高圧実験による最初の合成が報告された。

[用語5] プルーム : 沈み込む冷たいプレートやマントル物質に対して、マントル深部から上昇してくる高温の上昇流。アフリカや太平洋下部においては、深さ2,900キロメートルの核-マントル境界から上昇する巨大なスーパープルームの存在も地震学的に明らかになっている。発生部分では部分的に岩石が融けている可能性もある。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、プルームの発生において重要な要因となる。

[用語6] 地震波超低速度層 : マントル最下部と核との境界付近に見られる、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。岩石であるマントルと溶けた鉄との化学反応や、マントル物質の部分的溶融などの原因が考えられている。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、このような低速度層を形成する上で重要な要因となる。

[用語7] 縞状鉄鉱層 : 先カンブリア紀(地球誕生から約6億年前までの期間)の海底に堆積した酸化鉄や水酸化鉄を含む堆積鉱床。鉱床の生成原因は、当時の無酸素状態の海水に大量に溶解していた鉄イオンが、なんらかの要因で生じた酸素分子によって酸化されて海底に沈殿したものと考えられている。プレートの運動により、その一部はマントル深部へと沈み込んだと考えられている。

[用語8] 第一原理計算 : 近代物理学の基礎である量子力学の基本原理に基づき、実験などにより得られる先験的なパラメーターを用いずに結晶構造の安定性や物性を予測する計算方法。最近の数値シミュレーション技術の進歩により高い精度での予測が可能になり、実験と相補的な役割を担っている。

[用語9] ダイヤモンドアンビルセル : 先端を平らに研磨した2個の単結晶ダイヤモンド製のアンビルに力を加え、その間に挟んだ試料に高い圧力を発生させる装置。地球の中心に相当する360万気圧と6,000 ℃の圧力・温度の発生が可能である(図1)。

ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部

図1. ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部
先端を平らに研磨した2個ダイヤモンドに試料を挟み、高い圧力を発生させる。

[用語10] スーパーコンピュータ「京」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通株式会社が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。

[用語11] パイライト : 黄鉄鉱。鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表される。今回発見された新しい水酸化鉄はパイライトと結晶構造が同型であり、硫黄が酸素と置き換わり、かつ水素を含むものである。

[用語12] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが運転と利用者支援等を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。

参考

新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造

図2. 新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造
大(八面体中心の茶)、中(赤)、小(ピンク)の球はそれぞれ鉄原子、酸素原子、水素原子。

パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件

図3. パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件
地下約1,900キロメートルに相当する80万気圧で
水酸化鉄の結晶構造が青領域の低圧型から赤領域のパイライト型へと変化する。

地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送

図4. 地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送
下部マントルに沈み込んだプレート内では、水酸化鉄の構造がパイライト型に変化し、
さらに中心核付近まで水を運ぶことが可能であると考えられる。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
The pyrite-type high-pressure form of FeOOH
著者 :
西真之、桑山靖弘、土屋旬、土屋卓久
DOI :

お問い合わせ先

研究に関して

助教 西真之

E-mail : nishi@sci.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8153, 090-9579-5653

准教授 土屋旬

E-mail : tsuchiya.jun.my@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8152

教授 土屋卓久

E-mail : tsuchiya.taku.mg@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8198

助教 桑山靖弘(現 東京大学 大学院理学系研究科)

E-mail : kuwayama@eps.s.u-tokyo.ac.jp

愛媛大学 総務部 広報課

E-mail : koho@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-9022

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)

E-mail : grc@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8165 / Fax : 089-927-8165

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立大学法人 東京大学 大学院理学系研究科・理学部

特任専門職員 武田加奈子、学術支援職員 谷合純子、教授・広報室長 大越慎一

E-mail : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

ELSIに関して

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

SPring-8/SACLAに関して

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp

スーパーコンピュータ「京」に関して

理化学研究所 計算科学研究推進室(広報グループ)

E-mail : aics-koho@riken.jp

複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功

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複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功
―2種類の化学結合を活用してコアシェル構造を簡便合成―

要点

  • W型有機分子と金属イオンから、3ナノメートルのピーナッツ型分子を作製
  • 2種類の化学結合を利用した、複雑なコアシェル構造の簡便合成法を開発

概要

本学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉沢道人准教授と山梨大学 工学部の矢崎晃平特任助教らは、ピーナッツの種と殻が作る複雑な立体構造である「コアシェル構造」を再現するため、新たに合成した有機分子と金属イオンを集合させる方法で、ナノメートルサイズのピーナッツ型分子の合成に初めて成功した。複雑なナノ構造体を簡便かつ精密に作製する新手法として、今後の研究展開が期待される。

植物は、花や果実、種子などの複雑な立体構造をいとも簡単に作り出している。例えばピーナッツは、ダンベル型の殻(から)の内部に2つの種(たね)を含むユニークな階層構造を持つ。しかし、自然界に存在するこのような複雑なかたちを人工的に化学合成した例はない。本研究では、新たな合成戦略によるピーナッツ型分子の作製に挑戦した。まず、3つの金属結合部位を有する“W”字の形をした有機分子を新規に合成した。このW型分子と金属イオンは溶液の中で、「配位結合」を駆動力として自発的に集合し、分子ダブルカプセルを定量的に形成した。このダブルカプセルは、2つのナノ空間(約1ナノメートル)を持つ。次に、この溶液にフラーレンC60を添加することで、「π-スタッキング相互作用」を駆動力として、中央の金属イオンの脱離を伴い、2つのフラーレンを内包したピーナッツ型構造体が定量的に生成した。また、他のフラーレン誘導体を用いた場合もピーナッツ型分子が得られた。すなわち、性質の異なる2種類の化学結合を組み合わせることで、複雑な植物構造体を模倣合成する新手法を開発した。

これらの成果は、インド工科大学マドラス校のDillip K. Chand教授、株式会社リガクとの共同研究によるもので、英国科学誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」のオンライン版に、2017年6月28日付けで掲載された。

研究の背景とねらい

近年、動物の「うごき」を模倣した分子(=分子機械:2016年ノーベル化学賞 ジャン・ピエール・ソバージュ教授ら)や植物の「かたち」を模倣した分子の効率的な合成方法の開発が注目されている。しかし、植物に関しては、既存の有機化学または無機化学の手法では、花や果実、種子などに見られる複雑な立体構造を再現することは不可能とされてきた。これらの魅力的な「かたち」の中でも、ピーナッツ(図1左)は、ダンベル型の殻(から)に2つの種(たね)を内包したユニークなコアシェル構造からなる。このような特殊な階層構造を、ナノメートルサイズで化学合成した例はこれまでにない。今回、性質の異なる2種類の化学結合(配位結合[用語1]π-スタッキング相互作用[用語2])を同時に利用することで、ピーナッツ型構造体(図1右)を作製することに初めて成功した。

ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

図1. ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

研究内容

分子ダブルカプセルの合成:まず、パネル状の多環芳香族骨格[用語3]を有するブロモアントラセンを出発原料にして、根岸カップリング反応と鈴木-宮浦カップリング反応[用語4]を含む6段階の反応で、3つの金属結合部位(ピリジル基)を有するW型の有機分子を新規に合成した(図2上)。このW型分子は、多環芳香族骨格による立体障害で、10種類の構造異性体[用語5]を持つ(図2下)。

W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

図2. W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

次に、W型分子の異性体混合物と金属イオン(Pdイオン)を4:3の比率で有機溶媒(DMSO)に加え、その混合溶液を加熱攪拌した。その結果、金属イオンの配位結合を駆動力としてW型分子は1つの立体構造に収束し、分子ダブルカプセル1が定量的に生成した(図3上)。この三次元構造は、核磁気共鳴分光法、質量分析およびX線結晶構造解析により決定した。結晶構造解析の結果、ダブルカプセル1は、合計8つのアントラセン環に囲まれた約1ナノメートルの孤立空間を2つ有するダンベル型構造であることが明らかになった(図3下)。

分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

図3. 分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

分子ピーナッツの合成:分子ダブルカプセル1に球状のフラーレンを混合することで、ピーナッツ型構造体の作製に成功した。ダブルカプセル1のDMSO溶液にフラーレン C60の固体を加えて、加熱攪拌した。その結果、1の中央の金属イオンが脱離し、アントラセン環とC60のπ-スタッキング相互作用により、2分子のC60が内包されたピーナツ型分子2が定量的に形成した(図4上;合成ルート1)。質量分析から、生成物の分子量は約8,000 Daで、8成分から成る分子集合体の一義的な生成が明らかになった。その構造の理論計算から、多環芳香族骨格からなるダンベル型の殻内に2つのC60が近接したコアシェル構造であることが判明した(図4下)。外殻の横幅と縦幅はそれぞれ、約3ナノメートルと2ナノメートルであった。

分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

図4. 分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

このピーナッツ型分子は、分子ダブルカプセルを経由せず、W型分子と金属イオンとC60の混合溶液からも、1段階の反応で合成できた(図4上;合成ルート2)。この場合、配位結合とπ-スタッキング相互作用が同時に作用することで、選択的に分子ピーナッツが形成した。

種の違う分子ピーナッツ:ピーナッツ型構造体は、球状のフラーレン C60だけでなく、サイズが若干大きく、ラグビーボール状のフラーレン C70や金属を内包したフラーレン Sc3N@C80を用いても、同様に合成することに成功した。内部のフラーレンに起因して、分子ピーナッツは赤褐色を示した。得られたコアシェル構造体は、室温(高温でも)、空気中で安定なため取り扱いが容易であった。

今後の研究展開

本研究では、性質の異なる2種類の化学結合を活用することで、ピーナッツの複雑な階層構造をナノメートルサイズで合成することに初めて成功した。今後は、多種類の化学結合をさらに巧みに使い分けることで、自然界のより複雑な「かたち」を分子レベルで自由自在に合成できる手法の開発を目指す。

用語説明

[用語1] 配位結合 : 金属イオンと孤立電子を持つ有機分子の間に働く化学結合。水素結合のような可逆性のある結合。

[用語2] π-スタッキング相互作用 : 2つ以上の多環芳香族骨格の面間に働く化学結合。可逆性のある結合。

[用語3] 多環芳香族骨格 : 複数のベンゼン環が縮環した平面状構造。アントラセンは、長方形の多環芳香族骨格を持つ有機分子。

[用語4] 根岸および鈴木カップリング反応 : 2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生および鈴木章先生らによって開発されたパラジウム触媒を利用した有機合成反応。炭素と炭素を連結する方法。

[用語5] 構造異性体 : 分子の構成成分は同じで、結合の位置や結合の方向が異なる構造体。今回のW型分子では、位置は同じで、方向が異なる。この異性体は高温条件(加熱)で平衡状態になる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications (英国科学誌; Nature Publishing Group)
論文タイトル :
Polyaromatic Molecular Peanuts
(多環芳香族骨格からなる分子ピーナッツ)
著者 :
Kohei Yazaki, Munetaka Akita, Soumyakanta Prusty, Dillip Kumar Chand, Takashi Kikuchi, Hiroyasu Sato, and Michito Yoshizawa*
(矢崎晃平・穐田宗隆・サムヤカンタ プラティ・ディリップ クマール チャンド・菊池貴・佐藤寛泰・吉沢道人
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
吉沢道人 准教授

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5284 / Fax : 045-924-5230

山梨大学 工学部 応用化学科(大学院総合研究部)
矢崎晃平 特任助教

E-mail : kyazaki@yamanashi.ac.jp

Tel : 055-220-8144

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学理事・副学長等6名が電子情報通信学会の2016年度名誉員等を受賞

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このたび、本学理事・副学長を含む6名が、電子情報通信学会による2016年度名誉員等の各賞を受賞しました。また、6月1日に電子情報通信学会の各賞表彰式が行われました。

受賞した賞の概要、および本学に関係している受賞者は以下のとおりです。

名誉員

名誉員とは、学問・技術または関連事業に関して特別の功績があり、理事会の議決を経て推薦された方々です。

歴代名誉員には、1973年ノーベル物理学賞を受賞された江崎玲於奈氏、2002年ノーベル化学賞を受賞された株式会社島津製作所 記念質量分析研究所の田中耕一所長、2014年ノーベル物理学賞を受賞された名城大学 赤崎勇終身教授、名古屋大学 天野浩教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村修二教授を始め、平成27年度文化勲章を受章した末松安晴 本学栄誉教授(元学長)などの本学関係者も多く名を連ねています。

  • 受賞者:
    • 秋葉重幸:「以心電心」ハピネス共創研究推進機構 特任専門員
    • 安藤真:理事・副学長(研究担当)、電子情報通信学会来年度会長に就任予定
    • 坂庭好一:名誉教授
  • 秋葉重幸 「以心電心」ハピネス共創研究推進機構 特任専門員)
    秋葉重幸
    「以心電心」ハピネス共創研究推進機構
    特任専門員
  • 安藤真理事・副学長(研究担当)
    安藤真理事・副学長(研究担当)
  • 坂庭好一名誉教授
    坂庭好一名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの名誉員欄にある「Click」からご覧ください。

功績賞

功績賞とは、電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労があり、その功績が顕著であるものに対し、授与される賞です。

  • 受賞者:
    • 荒木純道:工学院研究員・名誉教授

荒木純道学院研究員・名誉教授

荒木純道学院研究員・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの功績賞欄にある「Click」からご覧ください。

業績賞

業績賞は、電子工学及び情報通信に関する新しい発明、理論、実験、手法などの基礎的研究で、その成果の学問分野への貢献が明確であるもの、もしくは、電子工学及び情報通信に関する新しい機器、または方式の開発、改良、国際標準化で、その効果が顕著であり、近年その業績が明確になったものに対し、授与されます。

  • 受賞者:
    • 清水康敬:名誉教授

清水康敬名誉教授

清水康敬名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの業績賞欄にある「Click」からご覧ください。

論文賞

論文賞は、2015年10月から2016年9月までに電子情報通信学会和文論文誌・英文論文誌に発表された論文の中から選定されるものです。

  • 受賞者:
    • 荒木純道:工学院研究員・名誉教授、他5名と共同受賞
  • 受賞功績:非対称縦積み線路を用いた準ミリ波帯バランスミキサ

荒木純道工学院研究員・名誉教授

荒木純道工学院研究員・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの論文賞欄にある「Click」からご覧ください。

教育優秀賞

教育優秀賞は、電子情報通信に係わる産業の高度化とグローバル化に向けて、新時代に対応する電子情報通信分野の人材育成を促進した業績に対し、与えられます。

  • 受賞者:
    • 西原明法:工学院特任教授・名誉教授
  • 受賞功績:信号処理分野の国際的人材育成への貢献

西原明法工学院特任教授・名誉教授

西原明法工学院特任教授・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの教育優秀賞欄にある「Click」からご覧ください。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2976

7月10日 12:00 リンク先と関連する文言を修正しました。

新採用職員・採用2~3年目の職員が「えんたくん」を囲んでワークショップを実施

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6月30日に行われた平成29年度第1回新採用職員研修において、新しい取り組みとして、リベラルアーツ研究教育院の中野民夫教授が進行役(ファシリテーター)をつとめる合同ワークショップが開催されました。

新採用職員研修は、本学に新規採用された事務職員・技術職員を対象に、職員としての在り方を考え、職務の遂行上必要となる基礎知識等の習得を目指して実施されています。今回の研修では平成29年度新採用職員研修受講者6名に加え、平成28年度・27年度の採用職員も研修会場に集まり、総勢約40名が本学の必修教養科目「東工大立志プロジェクト」で使われている対話促進ツール「えんたくん」を囲んだワークショップを行いました。

円型の段ボールでできた「えんたくん」を4名で囲み、対話する様子

円型の段ボールでできた「えんたくん」を4名で囲み、対話する様子

参加した職員は、ワークショップの専門家である中野教授によるファシリテーションのもと、「多様な私たちが、東工大の未来に向けて、一緒にできることはなんだろう? を探る」「東工大に入って1~3年目の職員の皆さんが、ほっとしながらつながり、お互いの状況を共有し、今後に向けての意欲を高める」という目的にむけて、日々の職務の中で考えていること、感じていることなどを語り合いました。

参加者の対話を見守る中野民夫教授

参加者の対話を見守る中野民夫教授

ワークショップの後半では、「これからの東工大を支え、創るために、私たちが一緒にできることは何だろう?」というテーマが与えられ、2017年春にまとめられた「2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Spirit & Action)」の読み合わせをグループごとに行いました。このステートメントは、「ちがう未来を、見つめていく。」というフレーズから始まる“Spirit”、「尖らせる」「共鳴する」「実装する」という3つの動詞からなる“Action”の2つで構成されており、東工大の進むべき方向性を定めています。参加職員は、これをもとに東工大の歩むべき姿と、それに向けた大学職員の在り方などについて意見を交換しました。またその成果を踏まえ、各々で「やりたいこと3ヵ条」という心構えを定め、参加者同士だけでなく、発表を聞きに来た各部課長や自分の上司も巻き込んでのウォーキングプレゼンテーションを行いました。

ステートメントを読み込む参加者
ステートメントを読み込む参加者

ステートメントを読み込む参加者

ウォーキングプレゼンテーションの様子
ウォーキングプレゼンテーションの様子

ウォーキングプレゼンテーションの様子

最後には中野教授作詞作曲の「生きているうちに」をみんなで歌い、打ち解けた雰囲気の中でワークショップは幕を閉じました。

自身の歌を披露する中野教授と、聞き入る参加者
自身の歌を披露する中野教授と、聞き入る参加者

自身の歌を披露する中野教授と、聞き入る参加者

ファシリテーションとは、学習者主体の参加型の学び合いの場を創り、プロセスを大事にしながら円滑かつ効率的にワークショップを進行させていくこと。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

Tokyo Tech 2030

ちがう未来を、見つめていく。
役員・教職員・学生の参加によるワークショップを通じて、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Tokyo Tech 2030)を策定しました。

Tokyo Tech 2030

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


振動発電の高効率化に新展開:強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見

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名古屋大学 大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)兼 科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明(やまだ ともあき)准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門の坂田修身(さかた おさみ)ステーション長、東京工業大学 物質理工学院の舟窪浩(ふなくぼ ひろし)教授、愛知工業大学 工学部の生津資大(なまづ たかひろ)教授、静岡大学 電子工学研究所の脇谷尚樹(わきや なおき)教授、スイス連邦工科大学 ローザンヌ校 材料研究所のNava Setter(ナバ・セッター)名誉教授らの研究グループと共同で、振動発電の効率向上につながる強誘電体[用語1]材料の新たな特性制御手法を発見しました。

代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を、イオンビームで細い棒(ナノロッド)状に切り出すと、そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が大きく変化することが明らかになりました。この結果は、強誘電体の表面における分極の電荷遮蔽の影響で説明できますが、これは上記のナノロッドが同じサイズであっても、その側面を金属で被覆すると、ドメイン構造が変化することにより証明されました。

本研究成果は、従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境により、電荷遮蔽を制御することで、強誘電体の特性向上が実現する可能性を示しています。この新しいアプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の効率向上による小型化が期待でき、Internet of Things(IoT)[用語2]で期待される振動センサや圧力センサの自立的な電源として利用できる可能性があります。

この研究成果はネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に7月12日付(日本時間18:00)で公開されました。

ポイント

  • 強誘電体の諸特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境で変化することを初めて系統的に明らかにした。
  • 上記のドメイン構造が変化する原因が、分極の電荷遮蔽の影響であることを突き止めた。
  • 本アプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の飛躍的な効率向上につながる可能性がある。

研究背景と内容

現在、自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されています。強誘電体には、優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能(圧電性)を示す材料があり、これを使用して、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の開発が行われています。

圧電性を始めとする強誘電体の諸特性は、その分極の向きの割合(ドメイン構造)に大きく左右されることが知られています。これまで、材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し、これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきました。一方で、材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていましたが、系統的な研究例は少なく、これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていませんでした。

そこで、名古屋大学を中心とする研究グループでは、強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し、特にその中でも異方性が大きな棒状の“ナノロッド”を対象に研究を行いました。

ナノロッドの作製とドメイン構造の解析

サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために、まず、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜を基板上に作製し、集束イオンビーム[用語3]を用いて膜の一部をエッチングすることで、高さが1.2マイクロメートル、幅が最小で200ナノメートル(1万分の2ミリ)のナノロッド形状に切り出しました。その後、エッチングのダメージを取り除くために、加熱処理を行いました。

次に、高輝度な放射光[用語4]X線をレンズで集光してナノロッドに照射することで、ナノロッド1本のX線回折[用語5]測定に成功しました(図1)。本測定システムは、物質・材料研究機構のグループで開発されました。これにより、ナノロッドのドメイン構造を定量的に明らかにすることに成功しました。

放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。
図1.
放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。

ナノロッドのサイズ制御によるドメイン構造の操作

サイズの異なるロッドのドメイン構造を比較した結果、幅の減少とともにcドメインと呼ばれる垂直分極の領域の割合が増加し、一方で、aドメインと呼ばれる水平分極の領域の割合が減少することがわかりました。この変化の傾向は、基板の種類が異なっても同じでした。また、集束イオンビームを用いずに別の手法で作製した自己組織化ナノロッドでも、これを支持する結果が得られました。(図2(a))

これらの結果は、強誘電体の分極電荷の遮蔽が不完全な環境では、ロッドの幅が狭くなるに従ってロッド側面に分極電荷を有する水平分極が不安定になるためと考えられ、電荷遮蔽を考慮したシミュレーションの結果とも一致しました。(図2(b))

特に、幅1マイクロメートル(1,000ナノメートル)未満のロッドではcドメインの割合が100%になりました。一般に、電圧や応力などの外場の印加なしに、分極が完全に一方向に揃ったドメイン構造を作製することはできませんが、ナノサイズ化した強誘電体では、その形状やサイズの制御により、分極方向を揃えられることを初めて見出しました。

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。
図2.

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。

(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。

ナノロッドの外界制御によるドメイン構造の操作

上記の考えが正しければ、ナノロッドの電荷遮蔽を促進すると、aドメイン(水平分極)の割合が増えるはずです。そこで、ナノロッドの側面を金属で被覆して、一度加熱してドメインを消去した後、新たに生成したドメイン構造を観察しました。その結果、aドメインの割合が増加することが明らかになり(図3)、シミュレーションとも傾向が一致しました。このことは、ナノロッドの周りの環境(外界)を制御することでドメイン構造が操作できることを示しています。

ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

図3.
ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

成果の意義

本研究成果は、強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が、材料の組成や歪みの制御だけでなく、材料の形状やサイズ、さらには、その周りの環境により、分極の電荷遮蔽状態を制御することで、操作できることを示しています。

この新しいアプローチを活用して、強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば、例えば、環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき、Internet of Things(IoT)に代表されるような、数億から数兆個の利用が想定されるセンサの自立的な電源として利用できる可能性があります。特に、電源機能を兼ねた振動センサや圧力センサへの応用が期待できます。さらには、環境適合性やコストの観点から、使用できる材料の元素が限られる用途において、特性向上のアプローチとして利用できる可能性があります。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「ナノシステムと機能創発」領域および「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」領域、日本学術振興会 科学研究費、科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業「Concert-Japan光技術を用いたものづくり」の一環として行われました。また、ドメイン構造解析はSPring-8のBL15XUおよびBL13XUのビームラインで行われました。主な結果はBL15XUでの測定によるもので、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として、物質・材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 強誘電体 : 圧電体の一種で、自発分極を有しており、外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶です。

[用語2] Internet of Things(IoT) : モノのインターネットと言われ、一般に、様々なモノ(デバイス)がインターネットに接続され、相互につながることを指します。

[用語3] 集束イオンビーム : 細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで、試料表面を加工する装置です。本研究ではガリウムイオンビームを使用しました。

[用語4] 放射光 : 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。本研究の実験は、兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8で行われました。

[用語5] X線回折 : 物質に照射されたX線が回折を起こす現象で、これにより物質の結晶の構造やその配向を調べる事ができます。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Charge screening strategy for domain pattern control in nano-scale ferroelectric systems
(日本語訳:強誘電体ナノスケールシステムにおけるドメインパターン制御のための電荷遮蔽)
著者 :
Tomoaki Yamada, Daisuke Ito, Tomas Sluka, Osami Sakata, Hidenori Tanaka, Hiroshi Funakubo, Takahiro Namazu, Naoki Wakiya, Masahito Yoshino, Takanori Nagasaki, and Nava Setter
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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宮崎久美子教授他が放送大学ラジオ講座「技術経営の考え方」に出演

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本学 環境・社会理工学院 技術経営専門職課程の宮崎久美子教授を始めとする本学教員が、4月1日から7月15日まで(第1学期)、10月7日から2018年1月20日まで(第2学期)学部生向けの放送大学ラジオ講座「技術経営の考え方('17)」を開講します。

宮崎久美子教授

宮崎久美子教授

本講座は、各学期全15回の講義で構成され、毎年2回の開講で4年間継続します。技術経営に関する様々な概念を学習した上で、経営戦略や技術経営戦略について学び、個人の意思決定や企業家精神について学習します。次の段階ではイノベーションを興していく上で必要なさまざまなマネジメントについて、組織マネジメント、研究開発マネジメント、知財マネジメントについて学び、後半では、分野別技術経営や国家的イノベーションシステム、エコシステムについて学習します。また、産業界や学術界、外国から専門家を招き、対談も行います。

本講座では、木嶋恭一 本学名誉教授、工学院 経営工学系の田中義敏教授、環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程の仙石愼太郎准教授、辻本将晴准教授も講義を行います。

宮崎久美子教授のコメント

技術経営とは、技術を企業やその他の機関の重要な資産として捉え、企業等のビジョンや目標を達成するために、技術的資産を戦略的に行うマネジメントのことです。ビッグデータやAI、IoT(もののインターネット)は、様々な分野に影響を与える技術であり、新興技術特有の進化パターンを有しており、社会経済面でも大きなインパクトを与えると思われます。また、ナノテクノロジーのような新興技術はその技術だけでは役に立たず、他の応用技術と融合することによって初めて役に立ち、社会に浸透していきます。近年、技術開発のコストは増大し、また、製品ライフサイクルが短縮化しています。その結果、パラダイムシフトや異なる技術とのコンバージェンス(収束)も起きており、技術経営は製造業、サービス業、研究機関、あるいは政府にとって重要な課題となっています。日本の競争力を維持、強化させていくためには、あらゆる場でイノベーションが起きる社会を目指す必要があります。産、官、学の協同作業や連携、ビジョンの共有化が必要となります。

  • 番組名
    放送大学ラジオ「技術経営の考え方('17)」(FM77.1MHz, BS 531)
  • 第1学期
    放送予定日
    毎週土曜(全15回) 19:00 - 19:45
    次回 第1学期最終回 2017年7月15日放送
  • 第2学期
    放送予定日
    毎週土曜(全15回) 8:15 - 9:00
    2017年10月7日 - 2018年1月20日 放送(但し、2017年12月30日を除く)

お問い合わせ先

宮崎久美子

E-mail : miyazaki.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3323

ニュースレター「AES News」No.10 2017夏号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.10 2017夏号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する研究拠点である「オープンイノベーション」を推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生することを大きな目的の一つとしています。

本学教員と本センター企業・自治体が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

本センターの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、季刊誌「AES News」を発行しています。今回は第10号となる2017年夏号をご案内します。

ニュースレター「AES News」第10号 2017夏号

第10号・2017夏号

  • 科学技術創成研究院 AESセンター 小山堅特任教授 巻頭記事「『技術進展』で変わる世界のエネルギーミックス:その展望と課題」
  • ENEOS共同研究講座「効率的な水素の貯蔵、運搬のための水素化触媒の研究開発」
  • NTTファシリティーズ共同研究講座「遺伝的アルゴリズムによる蓄電池制御技術」
  • AES開催報告(2017年5月~6月)
  • 2017年度の活動、今後のスケジュール等

ニュースレターの入手方法

PDF版

資料ダウンロード|先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)outer

バックナンバーもリンク先よりご覧いただけます。
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚(※)
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

※博物館(百年記念館)においては、平成29年度において空調機改修工事を予定しております。改修工事の事前準備のため、全面での休館を予定しております。詳細は以下のページをご覧ください。

博物館・百年記念館休館

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429

第40回AEARU理事会を東工大で開催

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全体写真

全体写真

4月15日、東アジア研究型大学協会(AEARU:The Association of East Asian Research Universities)の第40回理事会が東工大で開催され、議長校のソウル大学、副議長校の筑波大学、北京大学、南京大学、香港科技大学、台湾大学および本学から、29名が参加しました。

AEARUは、1996年に東アジアにおける研究型大学間の交流促進を目的として設立されたフォーラムで、日本・中国・韓国・香港・台湾から18の大学が加盟しています。理事会は年に2回開催され、議長校、副議長校、前議長校、および4つの理事校で構成されています。東工大は設立年より同フォーラムのメンバー校で、2016年~2017年の2年間、理事校を務めています。

三島良直学長はまず、開催校として開会の挨拶を行い、東アジアの高等教育機関の交流を深め、国際的な課題の解決に向けて同地域の教育機関の連携を強化するというAEARUの2つのミッションについて紹介しました。また、本学が昨年8月に開催した「AEARU第6回エネルギー・環境ワークショップ」を含むさまざまな活動が、加盟大学の学生たちのネットワーク作りに寄与していると話しました。さらに、加盟大学の学長や代表者が集う理事会や総会は、出席者の意見や情報を交換する大変貴重な機会であり、そのような会を本学で開催することは、大変光栄なことだと述べました。

理事会では、ソウル大学のナック・イン・スン学長が議長を務め、2017年に開催が予定されている活動の進捗状況と今後の会議日程等について確認しました。

記念品を交換するソウル大学のスン学長(左)と三島学長(右)

記念品を交換するソウル大学のスン学長(左)と三島学長(右)

理事会終了後、一行は東工大のすずかけ台キャンパスに移動し、本年4月に発足したばかりの細胞制御工学研究センターの大隅良典栄誉教授・細胞制御工学研究センター長および田口英樹教授の研究室を訪問しました。2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅栄誉教授とは、オートファジー(自食作用)研究の概要や同教授の基礎研究に対する思い等について懇談し、予定時間を超えて熱心に言葉を交わしました。

大隅栄誉教授(右)との懇談の様子

大隅栄誉教授(右)との懇談の様子

続いて、一行は、元素戦略研究センターを訪問し、科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授・元素戦略研究センター長による同センターの概要説明を受けた後、施設を見学しました。文部科学省元素戦略プロジェクトの一環として2012年8月に設置された同センターは、「石ころ」や「セメント」のようなありふれた物質から人類に役立つ革新的な材料を生み出すことを目標として研究を行っています。センター長である細野教授は、これまでに液晶パネルや有機ELディスプレイの駆動に適したIGZO-TFTの提唱や、常識を覆した鉄系超電導体の発見など、数々の研究成果を生み出しています。

細野教授(右)による説明

細野教授(右)による説明

(上)四重奏グループ(東工大管弦楽団から) (中)ジャグてっく(下)ロスガラチェロス
(上)四重奏グループ(東工大管弦楽団から)
(中)ジャグてっく
(下)ロスガラチェロス

AEARU理事会の歓迎夕食会・昼食会では、毎回主催大学の学生によるパフォーマンスが披露されます。

理事会前日の14日に開催した歓迎夕食会では、「東工大管弦楽団」の四重奏グループが演奏を行い、出席者の会話に華を添えました。夕食会後半には、ジャグリングサークル「ジャグてっく」のメンバー5名が登場し、授業や研究の合間に練習を重ねているさまざまな技を披露し、会場を沸かせました。

さらに、15日の理事会終了後に開催した昼食会では、ラテンジャズビッグバンドサークル「ロスガラチェロス」が、リズミカルで力強い演奏を披露し、参加者も手拍子で応えるなど、楽しい昼食時間を演出しました。

活躍した学生に理事会出席者から質問が出るなど、勉強や研究だけでなく、学生生活をおおいに謳歌している東工大の学生たちと理事会出席者が触れ合える場となりました。

本学でAEARU理事会を開催するのは今回が初めてでしたが、東工大の研究力の高さや学生の幅広い活動を東アジア地域のトップ大学の学長等にアピールするとともに理事会参加者が親交を深めるよい機会となりました。理事会参加者は、次回の第41回理事会および第23回総会を開催する筑波大学での再会を誓いあい、一連の日程を終えました。

英国ヨーク大学長が東工大を訪問

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(前列左から)ランバーツ学長と三島学長
(前列左から)ランバーツ学長と三島学長

3月28日、英国ヨーク大学のコーエン・ランバーツ学長、ヒラリー・レイトン国際部長が東工大を訪問し、三島良直学長、佐藤勲副学長(国際企画担当)、科学技術創成研究院の藤井正明教授と懇談を行いました。

三島学長は、2016年6月に佐藤副学長とともにヨーク大学を訪問し、学生交流を主軸とする大学間協定締結の署名をしました。今回のランバーツ学長の本学訪問は、両大学の学生交流や研究者交流の推進のための意見交換を目的としています。

まず、三島学長は昨年ヨーク大学を訪問した際にうけたもてなしに感謝の意を述べるとともに、ランバーツ学長らの本学来訪を歓迎しました。互いの大学の近況を話しながら、両学長は、新分野における共同研究の推進や研究者と学生の流動性の向上に向けた各大学の取り組みについて意見交換を行いました。

東工大とヨーク大学は化学、物理学、生体分子機能工学といった研究分野での共同研究を長年にわたって実施しています。

学生向けの取り組みでは、2016年と2017年に、グローバル理工人育成コースのプログラムの1つとして、ヨーク大学への短期学習ツアーを実施しました。東工大生のために企画された同ツアーを通して、参加学生はヨーク大学の教員による講義を受講したり、研究室を訪問したりしながら、現地学生や地域の人々と交流しました。

同ツアーに参加した東工大生の多くは、ゆったりとした環境の中で、キャンパス内のカフェや共有スペースで真剣に語り合うヨーク大学生の姿に高い関心を示し、より長期間の留学に対して興味を膨らませていました。

東工大では、ヨーク大学を含む協定校の学生を対象とした夏期プログラムや交換留学プログラムを実施しています。参加学生は、文化や最先端技術などの魅力あふれる日本の首都、東京に在る本学において、英語での講義の受講や、秀逸な研究者たちの指導のもと、充実した実験機器を用いた研究活動を行うことができます。

懇談の様子
懇談の様子

事故発生について

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7月20日11時15分頃に大岡山キャンパス東1号館において、実験中に引火事故が発生し、学生1名が軽い火傷を負いました。なお、初期消火活動により対処し、消防署による消火活動はありませんでした。

学長コメント

近隣の皆様、関係の皆様には多大なるご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

原因につきましては、現在、関係機関により調査中ですが、事故原因が判明次第、関係機関のご指導を仰ぎつつ、適切な対策を実施いたします。

本学としましては、安全管理を徹底し、再発防止に全力を尽くす所存でございます。

平成29年7月20日

国立大学法人 東京工業大学
学長 三島良直

お問い合わせ先

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Email: pr@jim.titech.ac.jp
電話: 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

TBSテレビ「未来の起源」に物質理工学院の清水亮太特任講師が出演

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本学 物質理工学院 応用化学系の清水亮太特任講師が、TBS「未来の起源」に出演します。清水特任講師の「1秒で充電可能な薄膜Li電池」に関する研究が紹介されます。

現在開発中の「ロボット科学者構想」に向けた装置と、清水亮太特任講師
現在開発中の「ロボット科学者構想」に向けた装置と、清水亮太特任講師

清水亮太特任講師のコメント

赤ちゃんの頬のようにぷりっとした「原子」の絵に魅せられて以来、「原子」の挙動を観察し、耳を傾け、そして手なずけることをモットーとした機能性材料の研究をしています。最近では特に、携帯機器の充電池に欠かせないリチウム(Li)原子に注目しています。

今回は、私が携わってきた「1秒で充電可能な薄膜Li電池」の取材を受けました。

この薄膜電池の性能がさらに向上すれば、ICカードでタッチする感覚での手軽な充電が可能になり、ウェアラブルデバイスを初めとした様々な小型端末への搭載が期待されています。

またその他の取組みとして、Li電池の原理を応用した新しいメモリデバイス開発や、全自動合成と人工知能を融合した「ロボット科学者構想」にも関心を拡げており、番組を通じてアクティブな研究の日常をお伝えしたい所存です。

  • 番組名
    TBSテレビ「未来の起源」
  • 放送予定日
    2017年7月23日(日)22:54 - 23:00
    (再放送)BS-TBS:2017年7月30日(日)20:54 - 21:00

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反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで実証 ―芳香族の20倍以上高く、電子素子などへの応用に期待―

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要点

  • π電子の数が4n個である反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで計測。
  • 類似構造の芳香族分子と比較して反芳香族分子は20倍以上高い伝導性を示す。

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、名古屋大学大学院工学研究科の忍久保洋(しのくぼ ひろし)教授らのグループは、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで計測することに世界で初めて成功した。類似の構造をもち、π電子[用語1]の数が4n+2個である芳香族分子と比較して、反芳香族分子は20倍高い伝導性を示した。また電気化学の力をかりて、反芳香族分子の伝導性をさらに1桁近く向上させることも実現した。

走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて、STM探針と金基板の間に1分子の反芳香族分子ノルコロール[用語3]をはさみこむことで、単一の反芳香族分子の電気伝導度を決定した。反芳香族分子の優れた電子伝導性が単分子レベルで明らかとなったことにより、反芳香族分子を用いた微小電子デバイス、有機エレクトロニクス、電池への利用が期待できる。

反芳香族分子とは平面構造を有する環状のπ分子であり、分子物性を決定づける分子内に広がったπ電子を4n個もつ。反芳香族分子は高い反応性、電子伝導性を示すことが期待される一方、天然には存在しない不安定な化合物で、その伝導性はこれまで明らかではなかった。

研究成果は2017年7月19日発行の英科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。

背景

π電子は分子の伝導性や磁性など分子物性の源である。このπ電子が環状に並んだπ分子では、その構造的な特徴から図1に示すように、最低のエネルギー位置に1つの分子軌道[用語4]、その上にエネルギーの等しい分子軌道が2つずつ並んでいる。1軌道あたり電子を2個収容できるため、π電子の数が4n+2 (n:0を含む正の整数)の時に安定となる。この4n+2個のπ電子をもつ環状分子の性質を芳香族性といい、芳香族分子は香料、染料、電子材料など身の回りの様々なところで利用されている。

これに対し、π電子が4n個の反芳香族分子は、天然には存在しない不安定な分子である。一方、不安定であるということは、逆に高い反応性、優れた電子伝導性、特異な磁気的性質を示すことが期待でき、電池材料などへの応用も期待されている。しかしながら、反芳香族分子は、その高い反応性から単離が難しく、分子レベルで反芳香族分子の高い伝導性を実証した研究は行われていなかった。

環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

図1. 環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

研究成果

図2に、名古屋大学の忍久保教授らのグループにより合成された16個のπ電子を含む反芳香族分子ノルコロールの分子構造を示す。金基板との接着性をよくするため分子の両端に硫黄原子を導入している。反芳香族分子ノルコロール、比較対象として類似の構造をもつ18個のπ電子を含む芳香族分子ポルフィリンについて、STMを用いて単分子計測を行った。

ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

図2. ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

室温で分子を含む溶液に金基板を浸漬させることで、金表面上に分子を吸着させた。STM探針を、分子を吸着させた基板にぶつけて、引き離すプロセスを繰り返し、探針を引き離す際の電気伝導度計測を行った。探針を基板にぶつけることで、金接点が探針と基板間に形成される。探針を引き離すことで、金接点が破断し、分子スケールのギャップが形成される。表面上に吸着した分子がギャップまで拡散し、針と基板間のギャップを架橋することで分子接合が形成される。さらに探針を引き離すことで、架橋分子数が1つずつ減少し、最終的には1つの分子を架橋させることができる。

図3に計測した単分子の伝導度計測結果を示す。図は探針を引き離す際の電気伝導度をヒストグラムの形で表現したもので、ピーク値が最も高頻度で観測される単分子の電気伝導度に対応する。反芳香族分子の伝導度は4.2×10-4G0、芳香族分子の伝導度は1.7×10-5G0だった。ここで、G0量子化コンダクタンス[用語5](2e2/h=77.5μS)であり、金1原子の電気伝導度に対応する。以上の計測から、反芳香族分子が芳香族分子と比較して20倍近く伝導性が高いことが分かった。世界で初めて反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに成功した。

ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。
図3.
ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。

さらに、反芳香族分子の高い電子伝導性の起源を実験的に明らかにするために、電極間電圧を連続的に変化させ、単分子を流れる電流を計測した。単分子の電流―電圧特性は、伝導を担う分子軌道が一つであることを仮定すると、分子軌道と金属電極のフェルミ準位[用語6]のエネルギー差を求めることが出来る。図4(a)に反芳香族分子ノルコロール、図4(b)に芳香族分子ポルフィリンの電流―電圧特性、図4(c)に実験的に決定したそれぞれの分子におけるエネルギー関係を示す。

芳香族分子のポルフィリンでは分子軌道がフェルミ準位から0.8 eVの位置にあるのに対し、反芳香族分子であるノルコロールでは0.5 eVと、フェルミ準位に、より近い位置にあることが分かる。

単分子を流れる電子は、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差に相当する障壁を感じて伝導する。このことから、反芳香族分子の方が障壁が低く、効率的に電子を伝導したことになる。並行して、第一原理計算[用語7]に基づいた電子輸送シミュレーションを行い、実験的にもとめた電子状態、伝導特性を定量的に再現することができた。

(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。
図4.
(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。

反芳香族分子の高い電子伝導性が明らかになったので、さらに伝導特性を向上させるため、電気化学を利用することで伝導度の変調を試みた。電気化学では、電気化学電位により電極のフェルミ準位を上下させ、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差を制御することが出来る。図5(b)に反芳香族分子ノルコロールの単分子電気伝導度の電気化学電位依存性を示す。負電位にすることで、伝導度が1桁近く増大した。負電位にすることで金属電極のフェルミ準位が上昇し、分子軌道に近づいた。これにより、電子の感じる障壁が下がり、伝導性を向上させることができた。

(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性
図5.
(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性

今後の展開

反芳香族分子は、高い伝導性を示すことが期待されていたが、反芳香族分子の不安定性のため研究は進んでいなかった。本研究により、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに初めて成功した。今後、反芳香族分子の優れた電子特性を電池や電子素子などへ応用することが期待される。

単分子に素子機能を賦与する単分子素子は、シリコン電子素子に替わり得る次世代微小電子素子として注目を集めている。現在、様々な単分子素子が開発されつつあるが、そのほとんどで芳香族分子が使われており、伝導性はあまり高くない。今回、反芳香族分子を用いることで、伝導性の高い単分子素子を作る道筋を切り開くことが出来た。今後、微小電子素子における結線材料としての応用が期待できる。

用語説明

[用語1] π電子 : π結合をつくっている電子。二重結合の一方はσ結合,もう一方はπ結合である。σ電子はσ結合をつくり、原子どうしを連結させて分子骨格を形づくるのに対し、π電子は分子の発色、発光、電子物性、磁性などの電子的性質を担う。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 金属の探針で導電性の基板をなぞることで、表面形状を原子レベルで観測することができる顕微鏡。金属探針と基板の間に電圧を与えた状態で、探針を基板に数nm以下に近づけると、探針と基板間の間に電流(トンネル電流)が流れるようになる。トンネル電流は探針と基板の間の距離に敏感に変化するので、電流の変化を計測することで、表面の凹凸を原子レベルで計測することが可能である。

[用語3] ノルコロール : 4n+2個のπ電子をもつ芳香属性ポルフィリンから2つの炭素(2つのπ電子)を取り除いた4n個のπ電子をもつ反芳香族性分子。一般に反芳香族性分子は非常に不安定であるが、ノルコロールニッケル錯体は空気中で安定に取り扱い可能な世界初の16π電子反芳香族化合物である。

[用語4] 分子軌道 : 原子軌道の相互作用により新たにできた分子内に広がった軌道。

[用語5] 量子化コンダクタンス(G0 : 導線の大きさが原子スケール(フェルミ波長程度)まで小さくなると、導線を流れる電子の伝導度がG0=2e2/hを単位として量子化される。eは電子の電荷、hはプランク定数である。

[用語6] フェルミ準位 : 軌道に電子をつめていって、電子によって占められた軌道のうちで最高の軌道のエネルギーを示す。0 K(絶対零度)においては化学ポテンシャルと一致する。

[用語7] 第一原理計算 : 実験データや経験パラメーターを使わない理論計算。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Highly-conducting molecular circuits based on antiaromaticity
著者 :
Shintaro Fujii1, Santiago Marqués-González1, Ji-Young Shin2, Hiroshi Shinokubo2, Takuya Masuda3, Tomoaki Nishino1, Narendra P. Arasu4, Héctor Vázquez4, Manabu Kiguchi1
所属 :

1Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan

2Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Aichi 464-8603, Japan

3Global Research Center for Environment and Energy Based on Nanomaterials Science (GREEN), National Institute for Materials Science (NIMS), Tsukuba 305-0044, Japan

4Institute of Physics, Academy of Sciences of the Czech Republic, Cukrovarnicka 10, Prague CZ-162 00, Czech Republic

DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
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東京工業大学 理学院 化学系
特任准教授 藤井慎太郎

E-mail : fujii.s.af@m.titech.ac.jp

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E-mail : kiguti@chem.titech.ac.jpp
Tel : 03-5734-2071 / Fax : 03-5734-2071

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超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 ―全固体リチウムイオン電池の実用化を加速―

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要点

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の菅野了次教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン電池(以下、全固体電池)の実用化を加速させる新たな固体電解質を発見した。菅野グループでは、2011年にイオン伝導率が高い固体電解質であるLGPS物質系[用語3]を発見し、2016年にはその派生の固体電解質材料を発見している。しかし、これらは高価な元素であるゲルマニウム(Ge)を用いたり、塩素(Cl)などを用いた特異な組成に限られており、電気化学的な不安定性も課題であった。新電解質は、スズ(Sn)やケイ素(Si)という単独では十分な性能を発揮できない元素を組み合わせて組成し、液体の電解質に匹敵する11 mScm-1のイオン電導率を示す超イオン伝導体[用語4]である。新電解質の発見に際しては、擬似三成分系と呼ばれる相図中で材料探索を行うことにより、十分な性能を持つ電解質の開発が可能であり、その組み合わせによって既存材料の課題を解決するさらなる電解質の発見もあり得ることを提示した。全固体電池のキーテクノロジーとなる固体電解質の物質群の多様性を拡大することで、全固体電池設計の幅も大きく広がり、実用化が加速すると期待される。

これらの成果は、2017年7月10日に、米国科学誌「Chemistry of Materials」に掲載されました。

背景

電気自動車やスマートフォンなどを駆動するリチウムイオン電池の電解質には液体が使われており、容量、コスト、安全性などが課題となっている。このため、固体の電解質を開発し、高容量かつ高出力で安全性に優れた全固体型リチウムイオン電池を実現することが急務である。固体の電解質は液体の電解質に比べて電気の伝導率(イオン伝導率)が低く、その結果、固体電池は液系電池と比べて出力が低いことが課題とされていた。2011年に発見された固体電解質Li10GeP2S12(LGPS=リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)はイオン伝導率12 mScm-1と液体電解質に匹敵する伝導率を示し、2016年に発見したLiSiPSCl(リチウム・ケイ素・リン・硫黄・塩素)はイオン伝導率25 mScm-1を示す超イオン伝導体である。しかし、これらの固体電解質は、レアメタルであるゲルマニウムが必要であったり、特異な組成が必要であり、4種類の材料のみに限られていた。また、電気的安定性にも課題があり、固体電解質のさらなる開拓により材料の多様性を確保する必要があった。

研究成果

本研究ではLGPS系物質においてゲルマニウム系を凌駕するイオン伝導率の実現を目指した。スズ(Sn)およびケイ素(Si)を組成し、それぞれ単独では達成出来なかった11 mScm-1を持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体Li-Sn-Si-P-S(LSSPS):Li10.35[Sn0.27Si1.08]P1.65S12 (Li3.45[Sn0.09Si0.36]P0.55S4)を発見した。

今回の超イオン伝導体の長所は、合成しやすく、熱安定性が高い点である。また、大気下での安定性が高いこと、柔らかく、加工しやすいこと、電気化学的な安定性が高いことなどの長所を備えている。

さらに、スズとケイ素を組み合わせることで、広いLGPS相の生成組成域を実現したため、新たな材料の発見も期待できる。すなわち、

  • 合成過程で組成がずれても安定して超イオン伝導体であるLGPS型固体電解質ができるので、品質のばらつきが生じにくい。
  • 組成のチューニングが可能で、今後、全固体電池の様々な用途の拡大とともに明らかになる様々な固体電解質の要求性能に対応しやすい。

といった特徴がある。

このように、スズ、ケイ素の系は超イオン導電特性を示す新しい固体電解質として有望である。また、Li3PS4-Li4SiS4- Li4SnS4擬似三成分系で材料探索を行い、今後とも優れた固体電解質材料の種類を拡大できる。

Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

参考図表 Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

研究の経緯

同研究グループは、全固体電池が、既存のリチウム電池と比較して、優れた特性を有することを示すため、優れた特性をもつ固体電解質を探し、電解質と電極材料の組み合わせを最適化することで全固体電池の高出力特性等を実証してきた。今回、超イオン伝導体として高いイオン伝導率を期待できる硫化物系で、さらに新規物質の探索を行った結果、スズ、ケイ素を含む固溶体からなる高性能な固体電解質を見いだした。

今後の展開

本研究で得たLi-Sn-Si-P-S系のLGPS物質群は安価な構成元素からなる新材料で、固溶域も広く、最大で10 mScm-1を超える超イオン導電性能を示す。これにより、高価なGe系や、緻密な組成制御が必要なLi-Si-P-S-Cl系から、超イオン導電体の多様性を大きく広げた。四価カチオンの組み合わせにより、固溶領域が広がり、イオン伝導率も向上することは、組み合わせの最適化により既存のLGPS材料に含まれる元素を用いた開発の余地が充分に残されていることを提示している。また、Sn系硫化物は大気安定性に優れると言う報告もあり、LGPS材料の不安定性を解決するような材料設計が提案できる可能性がある。元素組み合わせや、組成比の最適化にはマテリアルズインフォマティクス[用語5]によるアプローチも適しており、全く新しい材料発見にいたる可能性もある。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の先端的低酸素化技術開発事業(ALCA)のALCA次世代蓄電池(ALCA-SPRING:ALCA-Specially Promoted Research for Innovative Next Generation Batteries)の一環として、実施されたものである。

用語説明

[用語1] イオン伝導率 : 10 mScm-1(1センチメートル当たり10ミリジーメンス。ジーメンスは抵抗の単位Ωの逆数で、電流の流れやすさを示す。現在のリチウムイオン電池の液体電解質のイオン伝導率は10 mScm-1程度。

[用語2] 全固体型リチウムイオン電池 : 電池の構成部材である正極、電解質、負極をすべて固体で構成した電池。

[用語3] LGPS物質系 : リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄で構成される材料。Li10GeP2S12は12 mScm-1程度のイオン伝導率。これから派生して、硫化物系の物質としてLiSiPSClは25 mScm-1のイオン伝導率。

[用語4] 超イオン伝導体 : 固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質。銀・銅イオン伝導体では0.5 Scm-1程度、リチウムイオン伝導体では1 mScm-1程度の値が最高のイオン伝導率とされてきた。特に、高エネルギー密度電池として期待されているリチウム超イオン伝導体で、イオン伝導率と安定性を兼ね備えた物質の開発が望まれていた。ポリマー、無機結晶、無機非晶質などの様々な分野で物質開拓が行われており、その開発は1960年代から始まり、現在も引き続き行われている。

[用語5] マテリアルズ・インフォマティクス : 計算科学、データ科学、合成・評価実験及びこれらの連携手法により膨大な数の物質の評価を行い、その結果に基づいて新物質や新機能を開拓することを目指したアプローチの総称。

論文情報

掲載誌
Chemistry of Materials
論文タイトル
Superionic Conductors: Li10+δ[SnySi1-y]1+δP2-δS12 with a Li10GeP2S12-type Structure in the Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4 Quasi-ternary System
著者
Yulong Suna, Kota Suzukia, b, Satoshi Horib, Masaaki Hirayamaa, b, and Ryoji Kanno a, b *
DOI :
所属
a Department of Electronic Chemistry, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan
b Department of Chemical Science and Engineering, School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan

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菅野了次 教授

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カビによる肝障害悪化メカニズムを解明 ―カンジダ菌は活性酸素を産生しタンパク質架橋酵素の核移行を招く―

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要点

理化学研究所(理研)ライフサイエンス技術基盤研究センター微量シグナル制御技術開発特別ユニットの小嶋聡一特別ユニットリーダー、ロナク・シュレスタ国際プログラム・アソシエイト(研究当時)と、加藤分子物性研究室の大島勇吾専任研究員、東京工業大学生命理工学院の梶原将教授らの共同研究グループは、肝臓に侵入した真菌(カビ)が活性酸素[用語1-1]、特にヒドロキシルラジカル[用語1-2]を作り、その酸化ストレス[用語2]を介して肝細胞死を引き起こす分子メカニズムを明らかにしました。

日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-1]が大きなウエイトを占めています。さらに、近い将来には世界的にメタボリックシンドローム[用語4]の肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)[用語3-2] が主な原因になるといわれています注1。ASH/NASH患者においては、腸内に生息する病原性真菌の一種カンジダ菌が肝臓に到達することが報告されています注2。小嶋特別ユニットリーダーらの先行研究から、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素「トランスグルタミナーゼ(TG2)[用語5]」が細胞核に局在することで肝細胞死を引き起こし、肝障害を悪化(増悪)させることが判明しています注3。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響は分かっていませんでした。

今回、共同研究グループは、病原性カンジダ菌と非病原性の酵母菌を、肝細胞と共培養しました。その結果、カンジダ菌は活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、これを介して肝細胞におけるTG2の核局在と活性促進を招き、肝細胞死を引き起こすことが分かりました。同様の結果は、カンジダ菌を感染させたマウスの肝細胞においても観察されました。

今回の発見は、ASH/NASHの患者において観察される肝障害の新たな発症機構と想定されます。今後、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新しい薬剤の開発につながる可能性があります。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(7月6日付け:日本時間7月7日)に掲載されました。

注1
日本肝臓学会「肝がん白書 平成27年版」PDF
注2
Yang A-M, Inamine T, Hochrath K, Chen P, Wang L, Llorente C, Bluemel S, Hartmann P, Xu J, Koyama Y, Kisseleva T, Torralba MG, Mncera K, Beeri K, Chen C-S, Freese K, Hellerbrand C, Lee SML, Hoffman HM, Mehal WZ, Garcia-Tsao G, Mutlu EA, Keshavarzian A, Brown GD, Ho SB, Bataller R, Stärkel P, Fouts DE, Schnabl B; Intestinal “fungi contribute to development of alcoholic liver disease.”, J Clin Invest 2017 Jun 30;127(7):2829-2841.
注3
2009年5月1日プレスリリース「タンパク質の架橋反応が細胞死を招き、アルコール性肝障害に」outer

共同研究グループ

理化学研究所

ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門
イメージング応用研究グループ 微量シグナル制御技術開発特別ユニット

(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ
(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ

  • 特別ユニットリーダー 小嶋聡一(こじまそういち)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ロナク・シュレスタ(Ronak Shrestha)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ラジャン・シュレスタ(Rajan Shrestha)
  • 特別研究員 秦咸陽(しんせいよう)

加藤分子物性研究室

  • 専任研究員 大島勇吾(おおしまゆうご)

東京工業大学 生命理工学院

  • 教授 梶原将(かじわらすすむ)

千葉大学真菌医学研究センター

  • 准教授 知花博治(ちばなひろじ)

中国食品発酵工業研究院

  • 院長 蔡木易(さいもくい)
  • 主任研究員 魯軍(ろくん)

研究の背景

現在、日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)が大きなウエイトを占めています。さらに近い将来は、世界的にメタボリックシンドロームの肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が主な原因になるといわれています。ASHやNASHは、断酒や生活習慣の改善以外に有効な治療法は確立されておらず、その病態の解明や新薬の開発が課題となっています。

ASH/NASH患者においては、過度のアルコール摂取や遊離脂肪酸によって十二指腸のバリアがボロボロになり、腸内にいた真菌(カビ)や大腸菌が肝臓に到達することが報告されています。特に、病原性真菌の一種であるカンジダ菌が増えることが今年報告されました。2009年に小嶋特別ユニットリーダーらは、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ(TG2)が細胞核に局在し、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Met[用語6]の発現をつかさどる転写因子Sp1[用語7]を過度に架橋結合[用語8]させて不活性化することで、肝細胞死を引き起こし肝障害を悪化(増悪)させることを報告しています。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響については不明でした。

研究手法と成果

肝臓への真菌感染のモデルとして、病原性カンジダ菌(カンジダアルビカンス Candida albicans もしくはグラブラータ Candida glabrata)をヒト肝細胞株であるHc細胞と共培養し、経過を観察しました。共培養を開始して24時間後にはTG2の核局在と活性化が観察され、さらに、共培養開始から48時間後には細胞死が誘導されました(図1)。一方、病原性のないパン酵母とHc細胞との共培養では、これらの現象は起こりませんでした(図2)。

次に、カンジダ菌が何を介して肝細胞に作用しているかを調べるため、TG2核局在の誘導が起きるための条件検討を行いました。低分子のみを透過させる透析膜を隔てて共培養した場合でもTG2核局在の誘導はみられましたが、熱で殺菌処理した菌体や、菌の培養上清液を肝細胞に投与すると同様の現象は起こりませんでした。このことから、生きたカンジタ菌が産生する半減期の短い低分子が肝細胞に作用していると考えられました。

活性酸素は、TG2を活性化させる因子の一つとして知られており、これらの条件に合致します。そこでヒドロキシルラジカルの原料となる過酸化水素を肝細胞に投与したところ、カンジダ菌と共培養した場合と同様の作用があることが分かりました。さらに、カンジダ菌との共培養時に、活性酸素を捕捉する抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与するとTG2核局在の誘導はブロックされました(図1)。

カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

図1.カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

ヒト肝細胞株Hc細胞の蛍光顕微鏡像。核はヘキスト(青)、活性化トランスグルタミナーゼはビオチン化基質5-(biotinamido)pentylamine(5BAPA)(緑)、細胞死の誘導はカスパーゼ活性(赤)の蛍光染色で観察した。Hc細胞をカンジダ菌と共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、さらに48時間後にカスパーゼ3の誘導(2段目3列目)を伴う細胞死が観察された。このとき、抗活性酸素剤であるN-アセチルシステインを培養液中に添加して菌が産生する活性酸素をトラップすると、これらの変化を抑えることができた(3段目)。このことから、カンジダ菌が産生する活性酸素によって肝細胞においてTG2の発現と核局在が誘導され、肝細胞が細胞死に陥ることが示された。

パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

図2.パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

ヒト肝細胞株Hc細胞とカンジダ菌を共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、が誘導されるが、カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)と共培養しても、そのような変化はみられなかった(3段目2列目)。

カンジダ菌が活性酸素を介して肝細胞に作用する可能性をさらに検証するため、肝細胞での活性酸素の局在を蛍光顕微鏡で観察し、共培養液中に存在する活性酸素種の同定を電子スピン共鳴(ESR)[用語9]による解析で行いました。その結果、TG2核局在の誘導がみられる条件下でのみ活性酸素が核で顕著に検出され(図3)、そのときの培養液には活性酸素の一種ヒドロキシルラジカルが存在することが分かりました(図4)。このヒドロキシルラジカルがカンジタ菌に由来することは、ヒドロキシルラジカルを中心とした活性酸素の産生に働くNOX遺伝子[用語10]を欠損させた変異菌では同様の現象を誘導できなかったことからも示されました(図3、図4)。さらに、カンジダ菌を静脈注射したマウス個体を調べた結果、肝臓における活性酸素とTG2核局在の誘導が認められました。

以上の結果により、病原性真菌であるカンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてTG2の核局在を引き起こし、その結果として、転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こすことを見いだしました(図5)。

肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

図3.肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

活性酸素、特にヒドロキシルラジカルと反応して蛍光を発する試薬CM-H2DCFDAを用いて、各条件下で8時間培養した後の活性酸素の産生量の様子を調べた結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみでは活性酸素の産生はみられなかった(1)が、病原性のあるカンジダアルビカンス菌(2)やカンジダグラブラータ菌(3)と共培養すると、活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数の病原性のないパン酵母(出芽酵母)(4)もしくは、ヒドロキシルラジカル産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(5)と共培養しても、そのような変化はみられなかった。

肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

図4.肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

各条件下で8時間培養した後の培養液中のヒドロキシルラジカル量を、電子スピン共鳴によって半定量的に評価した結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみではヒドロキシルラジカルの産生はみられなかったが(左右)、カンジダアルビカンス菌(左)やカンジダグラブラータ菌(右)と共培養すると活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)(左)もしくは、活性酸素産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(右)と共培養してもそのような変化はみられなかった。ヒドロキシルラジカルのスペクトル強度の比は、カンジダアルビカンス菌 10 : カンジダグラブラータ菌 3 : パン酵母菌 1であり、あるレベル以上のヒドロキシルラジカルが、肝細胞の核におけるトランスグルタミナーゼ活性誘導に働いていることが分かった。

病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

図5.病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

カンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてトランスグルタミナーゼ(TG2)の発現と核局在を誘導し、その結果として、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Metの発現をつかさどる転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こす。

今後の期待

今回の発見により、ASH/NASHの患者における肝障害が、病原性真菌の産生する活性酸素を介して増悪する新たな発症機構の存在が浮かび上がりました。活性酸素を抑制する薬剤の投与により肝細胞でのTG2の核移行を阻害するなど、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新たな治療法の開発が期待できます。

用語説明

[用語1-1] 活性酸素 [用語1-2] ヒドロキシルラジカル : 活性酸素は、普通の酸素に比べて著しく反応性が増した原子状態の酸素や電子状態が不安定な酸素分子をいう。生体内では白血球の殺菌作用など多くの生理現象に関与する。細胞を直接的あるいは間接的に傷つけ、老化の一因を作る。活性酸素の分子種のうち最も反応性が高く、最も酸化力が強いのが、ヒドロキシルラジカル(ヒドロキシ基=水酸基に対応するラジカル)で、•OHと表される。

[用語2] 酸化ストレス : 生体内で酸化還元状態の均衡が崩れたとき、過酸化水素やヒドロキシルラジカルを代表とする活性酸素が産生される。これらがタンパク質や脂質、あるいは核酸と反応し、生体にダメージを与える。

[用語3-1] アルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-2] 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) : 肝炎のうちアルコールの過剰摂取が原因で引き起こされる病態がアルコール性脂肪性肝炎(ASH)である。アルコールを飲んでいないのにASHと似たような病態を示すのが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)で、高脂肪食による遊離脂肪酸が原因で起こるとされている。線維化、大滴性の脂肪滴、壊死・炎症所見、肝細胞の風船様膨化、核空胞化、脂肪肉芽腫、胞体内凝集傾向、約30%にマロリー体(MB)がみられる。

[用語4] メタボリックシンドローム : 内臓性脂肪症候群のことで、内蔵肥満に高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患や肝炎を招きやすい生活習慣病。

[用語5] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : タンパク質同士を共有結合させる架橋反応を触媒する酵素。タンパク質中のアミノ酸のグルタミンを利用してペプチド結合を形成させるため、この名が付けられた。架橋反応にどのような生理学的な意味があるかは不明な点が多い。

[用語6] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : 増殖因子とは生体内において特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称。さまざまな細胞学的・生理学的過程の調節を行い、細胞表面に存在する受容体タンパク質に特異的に結合することで、生命の維持に必要なシグナルを伝える細胞間の信号物質として働く。この受容体が増殖因子受容体である。肝細胞増殖因子の最も主要な受容体がc-Metである。

[用語7] 転写因子Sp1 : がん細胞を含むほとんど全ての細胞において、その細胞が生きていくために必要な増殖因子の受容体の遺伝子発現をつかさどる転写因子。転写因子とは、DNAに特異的に結合するタンパク質で、遺伝子の転写開始や調節に関与する。

[用語8] 架橋結合 : 化学反応において、複数の分子が橋を架けたように結合すること。この結合により、生体構造の安定化やタンパク質の機能変換が行われる。

[用語9] 電子スピン共鳴(ESR) : 電子スピン共鳴(ESR)法は電子スピン(不対電子)を検出する分光法の一種。電子スピンに起因する磁気モーメントのエネルギーは、スピンの量子化に伴って磁場中で分裂する(ゼーマン効果)。ESRはこのゼーマン分裂によるエネルギー準位間の遷移であり、研究対象に存在する不対電子のミクロな電子状態を調べることができる。また、ESRスピントラップ法を用いることによって、ヒドロキシルラジカルなどの短寿命ラジカルの同定や定量的な評価が可能となる。

[用語10] NOX遺伝子 : NADPH oxidase(Nox)ファミリー遺伝子の総称。NADPHを基質として、活性酸素を産生する膜酵素。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Fungus-derived hydroxyl radicals kill hepatic cells by enhancing nuclear transglutaminase
著者 :
R Shrestha, R Shrestha, X-Y Qin, T-F Kuo, Y Oshima, S Iwatani, R Teraoka, K Fujii, M Hara, M Li, A Takahashi-Nakaguchi, H Chibana, J Lu, M Cai, S Kajiwara, and S Kojima
DOI :

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生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

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香港科技大学トニー・F・チャン学長が東工大を訪問

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(左から)三島学長とチャン学長

(左から)三島学長とチャン学長

4月13日、香港科技大学(以下、HKUST)のトニー・F・チャン学長、イーデン・Y・ウーン副学長を含む代表団が本学を訪問し、三島良直学長、関口秀俊副学長(国際連携担当)、和田雄二物質理工学院長、渡辺治情報理工学院長、岸本喜久雄環境・社会理工学院長と懇談しました。

東工大とHKUSTは、2010年に学術交流協定を締結後、主にASPIREリーグ※1AEARU※2(東アジア研究型大学協会)、AOTULE※3(アジア・オセアニア工学系トップ大学リーグ)等の国際コンソーシアム活動を通じて、学生交流・研究交流を活発に行っています。

チャン学長は、ASPIREリーグやAOTULEなどのコンソーシアムを通じた連携関係を超えて、両大学の研究連携や学生交流をさらに推進していくために、今後どのように協力をしていくべきか、意見交換を行いたいと話しました。両大学の出席者は、複数の研究分野にわたる学際的な共同研究や、学術交流を推進するためのダブルディグリープログラムの構築、既存プログラムを活用した学生交流の推進や相互交流プログラムの構築など、具体的な連携案を挙げながら、熱心に意見交換を行いました。また、国際化や研究推進に向けて両大学が行っている取り組みについても意見を交わしました。

三島学長との懇談後、チャン学長は学内外からの約40名の参加者を前に「HKUST, Rising Asia and Global Impact」と題する講演を行い、HKUSTの代表団は、本学の各学院長等と両大学の学部間の連携について別会場で懇談を行いました。

講演会の様子
講演会の様子

講演会の様子

チャン学長は、ここ数十年でアジア各国の経済成長と科学技術政策のもと、アジアの科学技術分野の高等教育・研究機関が飛躍的に成長していること、現在では論文や特許、企業数でも欧米と肩を並べていることを説明するとともに、技術革新のハブとして国内外で存在感を高めている香港政府の高等教育政策と、1991年の創立以来急成長を遂げている HKUSTの特色や概要、海外戦略について話しました。チャン学長および代表団は、4月14日から2日間にわたって東工大で開催されたAEARUの第40回理事会に出席し、理事会プログラムで開催されたレセプション、キャンパスツアーなどを通じて東工大の研究者や学生たちとの交流機会を持ちました。

※1 ASPIREリーグ

Asian Science and Technology Pioneering Institutes of Research and Educationの略。アスパイアリーグ。本学が提唱し、香港科技大学、韓国科学技術院、南洋理工大学、清華大学および東京工業大学の5大学をメンバーとして2009年に設立されました。科学技術の発展と人材の開発を通してアジアにおけるイノベーションのハブを形成することにより、持続的世界の実現に資することを目的としたコンソーシアムです。

※2 AEARU

東アジア研究型大学協会。The Association of East Asian Research Universitiesの略。香港科技大学の提唱により、1996年に大学間の学生交流や連携研究を推進することを目的に、東アジアの研究型大学の学長が意見交換を行うフォーラムとして設立されました。現在は、中国、香港、日本、韓国、台湾の18の大学が加盟しており、東工大は2016年から17年の2年間理事校を務めています。

※3 AOTULE

アジア・オセアニア工学系トップ大学リーグ。The Asia-Oceania Top University League on Engineeringの略。2007年に設立された、アジアとオセアニアの13大学からなるリーグです。加盟する大学間の合同ワークショップや、学生・教職員の派遣交流などを通して、工学系の教育研究の質を向上させ、国際意識を養うことを目的としています。

朝日新聞「国公立大学進学のすすめ2017」に東京工業大学が登場

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7月11日の朝日新聞朝刊「国公立大学進学のすすめ2017」に東工大が掲載されました。

この特集は、国公立大学が持つ魅力や今後求められる使命、各大学が進もうとしている方向性について、7月11日、12日の2日間にわたって13の大学を紹介するものです。

創立150周年を迎える2030年に向けて、「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」を掲げる本学は「2030年の東工大像」を策定するプロジェクトを2016年秋に開始しました。

学生・教職員、執行部から延べ123名が参加して4回のワークショップを行い、本学独自の強みはどこにあるのか、さらにその強みを活かして社会にどのような価値を提供できるかを話し合いました。

この成果をまとめ、今年4月に「ちがう未来を見つめていく」をスローガンとする「2030年に向けた東京工業大学のステートメント」を発表しました。

本記事では、三島良直学長が、2016年に断行した教育改革、研究改革への手応えと、ステートメント策定への思いを語っています。また、今回のステートメント策定でファシリテーター(進行役)として中心的な役割を担ったリベラルアーツ研究教育院の中野民夫教授が、今回のワークショップや同じ手法を取り入れた学士課程1年目の学生を対象とする授業「東工大立志プロジェクト」について解説しています。

東京工業大学「国公立大学進学のすすめ2017」朝日新聞 紙面

東京工業大学「国公立大学進学のすすめ2017」朝日新聞 紙面
(※朝日新聞社からの承諾を得て掲載しています。)

Tokyo Tech 2030

ちがう未来を、見つめていく。
役員・教職員・学生の参加によるワークショップを通じて、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Tokyo Tech 2030)を策定しました。

Tokyo Tech 2030

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Email : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

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