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Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
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9月の学内イベント情報

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9月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

第7回 国際シンポジウム・セミナー「原子力安全・核セキュリティ・核物質防護のための国際原子力人材養成」 —核セキュリティと核物質防護/核不拡散—

第7回 国際シンポジウム・セミナー「原子力安全・核セキュリティ・核物質防護のための国際原子力人材養成」-核セキュリティと核物質防護/核不拡散-

グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院では、2017年8月28日(月)~9月1日(金)にかけて第7回国際シンポジウム・セミナー「原子力安全・核セキュリティ・核物質防護のための国際原子力人材育成」を開催致します。このセミナーのプレナリーセッション(8月28日午後~29日)及び核セキュリティに関するレクチャーセッション(8月30日~9月1日午前)は一般公開(無料)しています。 なお、最終日9月1日午後の学生セッションは、世界原子力道場の学生の他、国内外の学生、産業界の若手技術者や行政官等、事前審査をして登録した受講生のみが対象です。

日時
8月28日(月) 13:30 - 17:00 開会式、プレナリーセッション1/18:00 - 20:00 意見交換会
8月29日(火) 9:00 - 17:35 プレナリーセッション2、3
8月30日(水) 9:00 - 17:00 レクチャーセッション1、2
8月31日(木) 9:00 - 17:00 レクチャーセッション3、4
9月1日 (金) 9:00 - 12:30 レクチャーセッション5/13:30~17:30 学生セッション(見学可能)
会場
参加費
無料(8月28日の意見交換会のみ、一般5,000円/学生2,000円)
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

2017年度第1回情報活用IR研究会

東京工業大学 情報活用IR室では、大学IR研究の一環として内外の専門家を招いた講演と議論や意見交換を行う研究会を催しております。

日時
9月4日(月) 10:30 - 12:00
会場
参加費
無料
対象
学内外のIR、学術リポジトリ、研究戦略業務関係者など
申込
必要

第1回 相続・遺贈セミナー

第1回 相続・遺贈セミナー

近年の税制改正に伴い、相続税の課税対象者の増加が見込まれます。相続に関する諸問題は、高額所得者に限らず、一般家庭における大きな関心ごとの一つとなっています。

このたび東京工業大学基金室では、第1回相続・遺贈セミナーを開催いたします。本企画は、近年ますます複雑化している相続税に関する基礎知識や相続にかかる諸問題について、専門家を招いて解説を行うとともに、最近、増えつつある公益性の高い団体へのご寄附や遺贈を通じた社会貢献等についてもお話いたします。

日時
9月7日(木) 14:00 - 15:45
会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要

東京工業大学社会人アカデミー グローバル産業リーダー育成プログラム 2017年度 Enterprise Engineeringコース(IT-CMF)

東京工業大学社会人アカデミー グローバル産業リーダー育成プログラム 2017年度 Enterprise Engineeringコース(IT-CMF)

グローバル産業リーダー育成プログラムのコースとして、業務に効果的なITの活用をお考えの情報システムベンダー/ユーザ企業の情報システム関連部署の部課長レベル・シニアコンサルタントを対象に開講します。

日時
(1) IT-CMF Tier2:9月15日(金)・16日(土)
(2) IT-CMF Tier3:9月22日(金)・23日(土)
※IT-CM F Tier2の受講あるいはIT-CMF associateの資格を持っていることが条件となります。
各日9:30 - 17:20
会場
参加費
各81,000円(税込)
(1)及び(2)148,500円(税込)
対象
一般
申込
必要

MOTオープンハウス「経営とMOT ~経営者からみたMOTを学ぶ意義~」開催のお知らせ

MOTオープンハウス「経営とMOT ~経営者からみたMOTを学ぶ意義~」開催のお知らせ

東京工業大学MOTオープンハウスは、本学MOTについて広く知っていただくために半年ごとに開催しているものです。経営者(あるいは経営層)自身や部下にとってMOTを学ぶことの意義について3人の講師による講演を行います。本学MOTは、他のMOTプログラムと異なり、「研究」の体験を1つの特長としています。現役の経営者(あるいは経営層)が、本学MOTで学んだ事の実務への関連性・有効性等についてお話しします。

日時
9月16日(土) 14:00 - 15:10
会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要

2017年度 第2回原子力道場 国際原子力基礎教育TVセミナー

2017年度 第2回原子力道場 国際原子力基礎教育TVセミナー

このTVセミナーは、大学生・高専生を主な対象として、遠隔TVシステムにより講義配信します。原子力関係以外の方でも、地球環境や原子力のことをわかりやすく学べます。

今回は、「東京電力福島原子力発電所事故の教訓」をテーマに、東京工業大学より、全国18大学の拠点会場(開講拠点は変更になる場合があります)へ講義を配信します。

日時
9月27日(水) 10:30 - 17:25
会場

全国のTV拠点校(東工大会場):大岡山キャンパス 大岡山北2号館 6階会議室

拠点校:茨城大学(水戸キャンパス、日立キャンパス)、大阪大学、岡山大学、金沢大学、九州大学、京都大学、湘南工科大学、東京工業大学、長岡技術科学大学、名古屋大学、八戸工業大学、福井大学(文京キャンパス、敦賀キャンパス)、北海道大学、山梨大学、東京都市大学、早稲田大学(順不同)

参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

講演会「進化する生命」開催

講演会「進化する生命」開催

科学技術は、人類の想像力は、生命をいかに進化させるのか。研究、開発、制作の最前線に立つ講師を迎え、「生命」の未来に迫ります。

日時
9月30日(土) 17:00 - 19:00
10月14日(土) 10:00 - 12:00/14:00 - 16:00
11月18日(土) 15:00 - 17:00/18:00 - 20:00
会場
参加費

一般:1講演2,000円、全5回一括8,000円

社会人教育院および社会人アカデミー講座受講生・修了生:1講演1,500円、全5回一括6,000円

小・中・高・専門学校・大学・大学院等学生(当日、要学生証):1講演500円、全5回一括2,000円

蔵前工業会会員・ゴールドカード家族会員、本学学生(附属高校含む)、本学教職員:無料

対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


国立科学博物館「2017夏休みサイエンススクエア」出展報告

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東京・上野の国立科学博物館にて開催された「2017夏休みサイエンススクエア」に、8月11日~13日の3日間、東工大 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司研究室JCHMが出展しました。

日本ヒト共生菌叢研究協会(Japanese Consortium for Human Microbiome、JCHM)は、日本人腸内環境の全容解明に関心を持つ関係機関・団体・企業との連携によるコンソーシアムです。本学生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授が代表を務めています。

腸内細菌の役割について解説する学生スタッフ

腸内細菌の役割について解説する学生スタッフ

出展テーマは「腸内細菌ってなんだ?」です。ヒトの腸内には、1,000種100兆個体の細菌が共生していると言われています。近年、腸内細菌の解析技術が飛躍的に向上し、これらの細菌を網羅的に調査することが可能になったことで、さまざまな発見が相次いでいます。そうした目に見えない細菌の活動や仕組みを子どもにも分かりやすく学んでもらうことを目的として、生命理工学院の学生たちが腸内細菌ボードゲーム「バクテロイゴ」を開発しました。参加者自らが腸内細菌となって個体の増殖を目指す対戦型ボードゲーム「バクテロイゴ」の試遊を楽しんでもらおうと、1年に数回、イベントを企画しています。

今回、出展した国立科学博物館には夏休み中の子どもたちが多く来場しており、大変な賑わいを見せていました。東工大・JCHMブースには、保護者も含め各回16名、3日間で200名ほどが参加しました。各テーブルで東工大生が腸内細菌の働きや仕組みとゲームについて説明すると、参加者はあっという間に習得し、楽しんでいる様子でした。

  • ゲームを楽しむ参加者と学生

    ゲームを楽しむ参加者と学生

  • 会場の様子

    会場の様子

東工大・JCHMによるイベント「腸内細菌ってなんだ?」は、これまでも複数回開催していますが、今回は国立科学博物館での開催ということもあり、学内での開催とは違った雰囲気に東工大生も新鮮な気持ちで臨みました。

また、参加する子どもたちの反応も毎回異なり、東工大生にも良い学習の場であり新しいアイデアの源にもなっています。山田准教授や所属学生は、「今後も定期的にこのような活動を続け、たくさんの方々にバイオサイエンスの面白さに触れていただくきっかけを作りたい」と話しています。

学生スタッフと山田准教授

学生スタッフと山田准教授

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

生命理工学院 山田研究室
Email : info@jchm.co.jp
Tel : 03-5734-3629

“甘さ”を見分ける分子カプセル

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“甘さ”を見分ける分子カプセル
―水中で糖分子 スクロースの選択的な包み込みに成功―

要点

  • 分子カプセルが、水中で砂糖の主成分スクロースを選択的に包み込むことを発見
  • 包み込みは人工の糖分子(人工甘味料)の方が強く、人間が感じる甘さと同じ順

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山科雅裕博士研究員と吉沢道人准教授らは、同グループが開発した分子カプセルが、水中で天然の種々の糖の中から、砂糖の主成分であるスクロースだけを選び、その内部に包み込めることを発見した。また、その内包力はスクロースより人工甘味料(アスパルテームなど)の方が高く、人間の甘味感度と同じ順序であることが分かった。分子カプセルによる初の天然および人工の糖分子の選択的な内包を達成した研究成果であり、生体内の“甘さ”を識別する受容タンパク質(レセプター)の機構解明や新たな“甘さ”分子の合成研究への展開が期待される。

糖類(単糖や二糖など)は複数の水酸基を持つため、水に溶解した際、水分子と多点の水素結合を形成する。そのため他の生体分子に比べて、水中で糖構造を識別することは困難である。これまで人工的な糖レセプターの開発は行われてきたが、その大部分は有機溶媒中に限られ、水中での糖分子の高選択的な内包は達成されていない。本研究では、これまで着目されていない、分子カプセルの持つ「芳香環に囲まれたナノ空間」を利用することで、水中で二糖のスクロースを効率的に内包できることを見出した。その選択性は優れており、天然の他の二糖の混合物中から甘さの強いスクロースのみを内包した。さらに、天然と人工の糖分子に対する内包の競争実験から、人の甘さの感度と同じく、スクラロース>アスパルテーム(ともに人工甘味料)>スクロースの順で分子カプセルに強く内包されることが明らかになった。

これらの研究成果は、京都大学 大学院理学研究科の林重彦教授のグループ(計算化学)との共同研究によるもので、米国科学振興協会(AAAS)のScience Advances誌に、2017年8月25日14時(米国東海岸時間)付けで掲載された。

研究の背景とねらい

タンパク質集合体からなる生体レセプターは、水中で様々な生体分子を識別している。例えば、糖類(グルコースやスクロースなど)は複数の水酸基を持つため、水分子と水素結合[用語1]を形成し、水中で安定に存在する。それにも関わらず、生体レセプターのポケット空間は、多点の水素結合を巧みに利用することで、特定の糖分子を選択的に包み込むこと(=内包)ができる(図1a)。一方で、糖分子を識別できる人工的な分子レセプターも、これまで盛んに開発されてきた。しかしながら、その大部分は有機溶媒中でのみ機能し、水中でかつ特定の糖分子のみを内包できる高性能な人工レセプターは未開発であった[文献1]。そこで本研究では、既報の人工レセプターの設計指針と異なり、芳香環[用語2]に囲まれた適切な形と大きさのナノ空間を用いることで、CH-π相互作用[用語3]を駆動力とした、糖分子の選択的な内包が達成できると考えた(図1b)。今回、芳香環に囲まれたナノ空間を持つ分子カプセル1[文献2,3]が、水中で砂糖の主成分であるスクロース(ショ糖)を高選択的に内包できることを初めて見出した。また、分子カプセルは、天然のスクロースより、より甘みの強い人工甘味料を優先的に内包することも明らかにした。

(a)水素結合部位を持つ生体ポケット空間と(b)芳香環に囲まれた人工ナノ空間(本研究の戦略)による糖分子の内包の模式図
図1.
(a)水素結合部位を持つ生体ポケット空間と(b)芳香環に囲まれた人工ナノ空間(本研究の戦略)による糖分子の内包の模式図

研究内容

水中でのスクロースの内包:まず、単糖のグルコースやフルクトース(図2a)の内包を検討した。同研究グループが開発した分子カプセル1(図2b、左)は水溶性で、芳香環に囲まれた約1ナノメートルの球状空間を有する。この分子カプセルと単糖を水中、種々の条件で混合したが、それらの内包は観測されなかった。一方、グルコースとフルクトースを連結した二糖のスクロース(2;図2a)を分子カプセル1の水溶液に加え、60 ℃で撹拌したところ、1分子の21に高収率で内包された(86%収率;図2b、右)。その溶液の1H NMRスペクトルでは、-1から2 ppmの領域に、内包された2に由来する特徴的なシグナルが観測された(図2c、上段)。また、ESI-TOF MSスペクトルから、1分子の2の内包が明確に示された(図2c、下段)。NMR滴定実験から、分子カプセルがスクロースを中程度の強度(結合定数 約1,100 M-1)で内包していることが分かった。

(a)グルコースとフルクトース、スクロース(2)。(b)分子カプセル1による水中でのスクロースの内包と(c)その1H NMR(上段)とESI-TOF MSスペクトル(下段)
図2.
(a)グルコースとフルクトース、スクロース(2)。(b)分子カプセル1による水中でのスクロースの内包と(c)その1H NMR(上段)とESI-TOF MSスペクトル(下段)

混合物からの選択的な内包:次に選択性を明らかにするため、内包の競争実験を行った。同じ二糖のスクロース(2)とトレハロースを分子カプセル1の水溶液に混合し、生成物をNMRおよびMSで分析した(図3a)。その結果、分子カプセルは2を100%の選択性で内包することが判明した。また、他の二糖のラクトース、マルトース、セロビオース、ラクツロースとの競争実験でも(図3b)、微細な構造の違いを識別し、2のみが1に内包された。すなわち、分子カプセル1が、スクロースの「人工レセプター」として機能することが明らかになった。スクロース内包体1・2の理論計算による最適化構造から(図3a、右)、21の内部空間の形と大きさは合致し、分子間で多点のCH-π相互作用が働くことで、内包の高い選択性が発現したと考えられる。

(a)分子カプセル1によるスクロース(2)とトレハロースの内包の競争実験。(b)種々の二糖分子の構造と(c)1による人工甘味料と2の内包の順序
図3.
(a)分子カプセル1によるスクロース(2)とトレハロースの内包の競争実験。(b)種々の二糖分子の構造と(c)1による人工甘味料と2の内包の順序

人工甘味料の内包:最後に上記と同様な条件で、人工甘味料と天然のスクロース(2)との内包の競争実験を行った。人工甘味料として、2の3つの水酸基が塩素に置換されたスクラロース(3)とジペプチドのアスパルテーム(4)を検討した。それぞれ水中で、分子カプセル1に強く内包され、その順序は3 > 4 >> 2であった(図3c)。この内包の順位は、分子の形と大きさに加えて、その疎水性の度合いが寄与していると考えられる。また、人が感じる分子の“甘さ”は、スクロースを基準にして、3は約600倍で4は約200倍であり[文献4]、興味深いことに、分子カプセルと同じ感度であることが分かった。

今後の研究展開

上述のように本研究では、人工の分子カプセルを用いて、水中で初の天然のスクロースおよび人工の糖分子(人工甘味料)の選択的な内包を達成した。これらの成果は、分子レベルで未だ解き明かされていない、“甘さ”を識別する生体レセプターの機構の解明や、さらに強く感じる“甘さ”分子の探索や合成研究への展開が期待される。

用語説明

[用語1] 水素結合 : 水分子に代表されるような、酸素に結合した水素と、近傍にある酸素の間で形成する可逆的な化学結合。

[用語2] 芳香環 : ベンゼンやアントラセンのようなπ電子を豊富に持つパネル状構造。

[用語3] CH-π相互作用 : 炭素に結合した水素と芳香環の間に働く静電的な相互作用。

[文献1] A. P. Davis, R. S. Wareham, Angew. Chem. Int. Ed., 38, 2978–2996 (1999).

[文献2] N. Kishi, Z. Li, K. Yoza, M. Akita, M. Yoshizawa, J. Am. Chem. Soc., 133, 11438–11441 (2011).

[文献3] M. Yamashina, Y. Sei, M. Akita, M. Yoshizawa, Nature Commun., 5, 4662 (2014).

[文献4] D. J. Ager, D. P. Pantaleone, S. A. Henderson, A. R. Katritzky, I. Prakash, D. E. Walters, Angew. Chem. Int. Ed. 37, 1802–1817 (1998).

論文情報

掲載誌 :
Science Advances (Science姉妹誌)
論文タイトル :
A Polyaromatic Nanocapsule as a Sucrose Receptor in Water(水中でスクロースレセプターとして機能する芳香環ナノカプセル)
著者 :
Masahiro Yamashina, Munetaka Akita, Taisuke Hasegawa, Shigehiko Hayashi, Michito Yoshizawa*
(山科雅裕、穐田宗隆、長谷川太祐、林 重彦、吉沢道人*
DOI :

研究内容に関するお問い合わせ

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
准教授 吉沢道人

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5284 / Fax : 045-924-5230

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

40億年前の火星は厚い大気に覆われていた ―太古の隕石に刻まれた火星環境の大変動―

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要点

  • 理論計算と火星隕石の化学分析データの比較から太古の火星大気圧を推定
  • 40億年前の火星は地球と同程度(約0.5気圧以上)の厚い大気に覆われていたことが判明
  • 40億年前以降に起きた大気量の減少が地球との運命を隔てた可能性を示唆

概要

東京工業大学 地球生命研究所の黒川宏之研究員と千葉工業大学惑星探査研究センターの黒澤耕介研究員らの研究グループは、40億年前の火星が地球と同程度の約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた。この成果は、火星の磁場消失に伴う大規模な大気流出など、40億年前以降に地球と火星の運命を隔てる環境変動が起きた可能性を示唆している。

火星大気が宇宙空間に流出する過程においては軽い同位体が優先的に失われるため、大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究はこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。40億年前の火星隕石に記録されていた当時の窒素や希ガスといった大気に選択的に含まれる元素の同位体[用語1]組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。

火星が過去に厚い大気に覆われていたか、および厚い大気に覆われていた期間がどのくらいだったかは惑星科学における重要な謎のひとつであった。

この研究成果は8月24日に欧州科学雑誌「イカロス(Icarus)」オンライン版で公開され、2018年1月1日発行号に掲載される。

研究成果

東工大の黒川研究員らは、40億年前の火星が約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた(図1)。図の横軸は火星誕生からの時間、縦軸は本研究で明らかになった大気圧の時間変化である。現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持たないが、40億年前の大気圧は地球(1気圧)と同程度であった。この成果は、火星の固有磁場消失に伴う大規模な大気の宇宙空間への流出など、40億年前以降に起きた環境変動が地球と火星の大気の厚さの違いを生んだことを示唆している。

横軸:火星誕生からの時間、縦軸:大気圧、棒グラフ:現在の大気圧及び本研究で明らかとなった40億年前の大気圧、点線:大気圧の時間変化(予想)。矢印:過去の研究の推定値
図1.
横軸:火星誕生からの時間、縦軸:大気圧、棒グラフ:現在の大気圧及び本研究で明らかとなった40億年前の大気圧、点線:大気圧の時間変化(予想)。矢印:過去の研究の推定値。Kurokawa et al. (2017) Icarusの図を改変

研究の背景

これまで欧米を中心に数多くの火星探査が行われてきた成果として、火星はかつて温暖で液体の水(海)が存在した時期があった可能性が指摘されてきた。火星を温暖に保つためには厚い大気の温室効果が必要であるが、現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持っていない。黒川研究員らの過去の研究によって、火星誕生から4億年の間に50%以上の水が宇宙空間へ流出したことが突き止められた。一方で、火星がいつ、どのように厚い大気を失ったのかは残された謎であった。

研究の経緯

低重力の火星においては窒素など大気中の元素が宇宙空間に流出していく。この流出過程では軽い同位体が優先的に失われるため、火星大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究ではこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。過去の研究で報告されていた40億年前の火星隕石に記録されていた当時の大気の窒素とアルゴンの同位体組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。

今後の展開

現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「メイブン」によって火星大気の流出現象の観測が行われている。また、2024年に打ち上げが予定されている宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星サンプルリターン機「MMX」でもこの流出現象の観測を行う予定である。これらの探査を通じて、本研究で明らかとなった40億年前の厚い大気が失われた原因を解明できる可能性がある。この研究を通じて、地球や火星など地球型惑星[用語2]一般の長期環境変動の要因や、生命が存在可能な環境を維持する条件を理解することができると期待している。

用語説明

[用語1] 同位体 : 同一の原子番号を持つものの中性子数が異なる核種

[用語2] 地球型惑星 : 岩石・鉄を主成分とする惑星

論文情報

掲載誌 :
Icarus
論文タイトル :
A Lower Limit of Atmospheric Pressure on Early Mars Inferred from Nitrogen and Argon Isotopic Compositions
著者 :
黒川宏之、黒澤耕介、臼井寛裕
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

黒川宏之 研究員(日本学術振興会特別研究員)

E-mail : hiro.kurokawa@elsi.jp
Tel : 03-5734-2854 / Fax : 03-5734-3416

千葉工業大学 惑星探査研究センター

黒澤耕介 研究員

E-mail : kosuke.kurosawa@perc.it-chiba.ac.jp
Tel : 047-478-4386(黒澤居室直通)
047-478-0320(事務)
Fax : 047-478-0372

取材申し込み先

東京工業大学
広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

リベラルアーツ研究教育院の紹介動画が完成

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リベラルアーツ研究教育院が本学のリベラルアーツ教育を紹介する動画を制作し、7月19日に公開しました。

紹介動画は、大岡山キャンパス西9号館2階のエントランスホールにて、平日の9時から18時まで上映されています。

風車型のデジタルサイネージ。「型にはまらない自由さ」というリベラルアーツ教育の精神を表現

風車型のデジタルサイネージ。「型にはまらない自由さ」というリベラルアーツ教育の精神を表現

前半では、熱心に授業に取り組む学生たちのみずみずしい映像とともに、「志をはぐくむ」という本学のリベラルアーツ教育のコンセプトや、学士課程から博士後期課程まで一貫して履修するコア学修科目の構成について、分かりやすく伝えています。

後半では、リベラルアーツ研究教育院の教員が、それぞれが担当する科目を紹介しています。文化人類学の「お面」、宗教学の「お遍路」、ドイツ語の「ビール」など、その科目を紹介するアイテムにも注目。リベラルアーツ教育の多様性に触れることができます。

風車型のデジタルサイネージ。「型にはまらない自由さ」というリベラルアーツ教育の精神を表現

また、動画を映すデジタルサイネージも、風車のような珍しい配置となっています。これは、「型にはまらない自由さ」というリベラルアーツ教育の精神を表しています。

デジタルサイネージの前を通るたびにリベラルアーツの精神を思い出させてくれる、本学リベラルアーツ教育のシンボルとなることが期待されます。

複数のモニターを使った迫力のある動画となっていますので、ぜひこの機会に東工大に足をお運びください。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7689

役員会トピックス:イタリアのトレント大学との全学協定の新規締結

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

9月1日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

9月1日 役員会

主な審議事項等

  • 東京工業大学科目等履修生規程の一部改正について

  • 平成30年度授業日程(案)について

  • 東京工業大学 学生寮大岡山ハウス規則及び使用料金規程等の制定について

  • イタリアのトレント大学との全学協定の新規締結

  • 国立大学法人東京工業大学動物実験等管理規則の改正について

トピック:イタリアのトレント大学との全学協定の新規締結

トレント大学は1962年に創立され、THE Young University Ranking(創立50年以内の大学ランキング)では2012年に37位に選出されているほか、イタリアのビジネス誌『Il Sole 24 Ore』が同大学の研究競争力や国際性(留学生数)を高く評価し、イタリアの国立大学の中で2位に格付けるなど、国内外から評価されている大学です。

2010年に大学院社会理工学研究科がトレント大学認知科学部と部局間協定を締結し、現在は環境・社会理工学院、生命理工学院、科学技術創成研究院、リベラルアーツ研究教育院等、複数の部局で共同研究等を通じた交流を進めています。今後は、実績豊富な研究交流を基盤とした学生交流の促進が見込まれます。

この締結により、本学の全学協定の数は110となります。

大学院社会理工学研究科は、2016年に行われた大学改革により、現在は募集を停止しています。教育体系の移行については、以下をご覧ください。

フラストレーションと量子効果が織りなす新奇な磁気励起の全体像を中性子散乱で観測―新しい磁気理論の指針を提示―

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要点

  • 三角格子量子反強磁性体の磁気励起の全体像を中性子散乱実験で捉えた
  • 分数スピン励起などの新概念を示唆する磁気励起を観測
  • フラストレーションと量子効果が生む新たな物性研究の進展に期待

概要

東京工業大学の伊藤沙也院生(現千代田化工建設)、栗田伸之助教、田中秀数教授、日本原子力研究開発機構の中島健次研究主席、河村聖子研究副主幹、高エネルギー加速器研究機構の伊藤晋一教授、茨城大学の桑原慶太郎教授、総合科学研究機構の加倉井和久サイエンスコーディネータの研究グループは、量子効果が顕著な三角格子反強磁性体の磁気励起[用語1]の全体像を中性子散乱[用語2]実験で初めて捉えた。

研究グループは、三角格子反強磁性体の理想的なモデル物質「アンチモン酸バリウムコバルト(Ba3CoSb2O9)」に着目し、大型単結晶試料を作成、中性子を入射して、散乱中性子のスペクトルを高精度で解析。通常の磁性体で見られる磁気励起とは大きく異なる新奇な磁気励起について詳細を明らかにした。従来の磁気励起の最小単位よりも細かい単位の励起(分数励起)の必要性を示唆する結果となり、フラストレーション[用語3](図1)と量子効果が新たな物性研究のフロンティアを開くこと、精密な中性子散乱実験が新奇な電子物性の解明につながることを示す成果となった。

スピンのフラストレーション

図1.スピンのフラストレーション


矢印の向きはスピンの向き(電子の自転が右回りか左回りか)を表す。

通常の磁性体の磁気励起は、磁気の担い手である電子のスピン[用語4]が平衡位置のまわりで起こす小さな歳差運動が、波として結晶全体に伝搬する“スピン波理論(図2)”で表される。その一方で、スピンが小さい三角格子反強磁性体では強いフラストレーションと量子力学的効果で、スピン波理論が成立する波長領域は、極めて限定的であることが理論的に知られていた。この研究では、この現象を実証するとともに、磁気励起を統一的に説明する新しい理論の必要性を明確に示した。

スピン波の概念図

図2.スピン波の概念図


スピンがその平衡位置のまわりで振幅の小さな歳差運動をし、それが波として結晶全体に伝わるものがスピン波である。上の図はスピンの歳差運動を上から見た様子。

この成果は8月10日付けの英国の学術誌「Nature Communications」電子版に掲載された。

背景

磁性体の磁気は電子のスピンによって生じる。絶縁性の磁性体ではこのスピンが磁性原子に局在し、交換相互作用[用語5]を及ぼし合っている。交換相互作用はスピンを平行(強磁性)、あるいは反平行(反強磁性)にする働きがあるので、多くの磁性体では温度を下げると、スピンが平行に揃った強磁性状態や反平行に揃った反強磁性状態になる。

ところが図1のように、磁性原子が三角形の格子点に位置し、スピン間に反強磁性的な交換相互作用が働く場合には事情が異なる。どれか2つのスピンを反平行に置くと、残りのスピンはどの方向を向いてもエネルギーが変わらないため、安定な配置が決まらない。このような状況をスピンのフラストレーションと呼ぶ。

図3のように、三角格子上にスピンがあり、隣り合うスピン間に反強磁性的な交換相互作用が働く物質は三角格子反強磁性体と呼ばれている。三角格子反強磁性体では、図1に示したような強いフラストレーションがスピン間に働くために基底状態は、従来からよく知られている強磁性状態や反強磁性状態にはならない。そこで量子効果が最も大きいスピンの大きさが1/2の場合の基底状態が問題となった。

三角格子とスピンが互いに120°をなす三角スピン状態(赤の矢印)

図3.三角格子とスピンが互いに120°をなす三角スピン状態(赤の矢印)

1973年に著名なノーベル賞物理学者であるP.W.アンダーソンは、隣接するスピンが磁気を持たない量子力学的一重項状態をとり、一重項をなすスピン対が時間的に変化する“スピン液体”と呼ばれる状態が基底状態になるという理論を提唱した。この理論に端を発してスピン1/2の三角格子反強磁性体の研究が活発化した。長い論争の末、現在のコンセンサスは「基底状態はスピン液体ではなく、図3のような隣り合うスピンが120°をなして妥協した三角スピン状態になる」というものだ。しかしながら、スピンの平均的長さは量子効果によって1/2から大きく縮んでいる。

このような三角スピン状態からの磁気励起の理論研究も活発に行われ、中性子散乱実験のスペクトルの計算もなされた。しかし、基底状態に比べて励起状態の理論は難しく、理論的コンセンサスは極めて限られている。一般に強磁性や反強磁性などの秩序状態からの磁気励起は、図2のようなスピン波になることが知られており、実際に数多くの磁性体で観測されている。これに対してスピン1/2の三角格子反強磁性体では、スピン波理論が成立する波長領域は極めて限定的で、多くの波長領域で励起に必要なエネルギーがスピン波理論の予想を大きく下回ることが知られていた。また、基底状態になることができなかったスピン液体状態の残影が磁気励起に現れ、分散関係[用語6]に極小を作ることなどが知られていた。これらの実験的検証は、一部に限られており磁気励起の全体像は全く分かっていなかった。

研究の経緯

本研究グループは、三角格子反強磁性体であるBa3CoSb2O9に着目。図4はこの物質の結晶構造である。青い八面体CoO6の中心に位置する磁性イオンCo2+が三角格子を形成している。磁性イオンCo2+のスピンの大きさは1/2と小さい。

Ba3CoSb2O9の結晶構造

図4.Ba3CoSb2O9の結晶構造


(a)は全体の透視図、(b)はc軸方向から見た構造。青い八面体は中心に磁性イオンCo2+があるCoO6八面体を表す。Co2+イオンはab面内で三角格子を形成する。

また、Ba3CoSb2O9では、スピン間に働く交換相互作用がスピンの向きに殆ど依存しない等方的なものである。これはコバルト化合物では例外的だ。スピン1/2の三角格子反強磁性体では、磁化曲線[用語7]に平坦領域(プラトー)が現れるという巨視的量子効果が理論的に予言されていたが、田中教授らのグループは以前にBa3CoSb2O9に強い磁場を加えることにより、この現象を検証。Ba3CoSb2O9が理想的なスピン1/2の三角格子反強磁性体であることを示している。

研究成果

中性子散乱は、広い波長領域とエネルギー領域の磁気励起を調べる唯一の実験手段である。研究グループは、Ba3CoSb2O9の大型単結晶を作成し、中性子散乱実験を行なった。使用した装置は大強度陽子加速器施設「J-PARC」[用語8]の物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERAS(アマテラス)で、低エネルギーの励起を高精度に検出できる世界有数の装置だ。

スピンのフラストレーション

図5.J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERASの見取り図


2つのチョッパーの回転数を調整することによって特定のエネルギーの中性子のみが試料に入射できるようになっている。試料位置に置かれた試料はヘリウム3(3He)冷凍機で0.3 Kまで温度を下げることができる。

この中性子散乱実験の結果、図6に示した鮮明な励起スペクトルが得られた。理論の予想とは大きく異なり励起スペクトルは3段構造をもっていた。低エネルギーの1段目は、明瞭な分散関係をもった単一マグノン励起からなる。この物質は、K点近傍では白い実線で表されたスピン波理論による分散関係と一致しているが、K点から離れると励起エネルギーはスピン波理論に比べて大きく低下する。

上部のグラフ(a)(b)(c)(d)はAMATERASで測定したBa3CoSb2O9の磁気励起スペクトル

図6.上部のグラフ(a)(b)(c)(d)はAMATERASで測定したBa3CoSb2O9の磁気励起スペクトル。波数ベクトルQ=(H, H)と(0.5-K, 0.5+K)の方向は、(e)に示された逆格子空間内の赤と青の矢印に対応する対称な2方向。測定温度は1.0 Kだ。逆格子空間内の原点から各点に引いたベクトルの向きは磁気励起の進む向きを表し、長さは波数(波長の逆数)に対応する。

また、M点でスピン液体に特徴的なスピン1/2の励起(スピノン)の束縛状態と解釈されている極小が明瞭に見られる特徴があった。これらは最近の理論と定性的に一致する。励起スペクトルの大きな特徴は2段目と3段目を構成する強い連続的な励起だ。この連続励起は交換相互作用の大きさの6倍以上の高エネルギーまで続いていて、現在の理論では説明できない。このような強い連続励起が現れる1つの可能性として、分数スピン(1/2、 1/3、1/4…)をもった励起の合成によって全体の磁気励起が構成されていることが考えられる。スピン1/2のスピノン励起は1次元反強磁性体で確認されているが、その他の系では観測されていない。今回、スピン1/2の三角格子反強磁性体の磁気励起の全体像が明らかになった。しかし、得られた励起スペクトルは現在の理論では説明できず、これを説明するためには、分数スピン励起など、新概念が必要となる。

今後の展開

多くの磁性体の磁気励起はスピン波で表されることが知られている。しかし、この研究によってフラストレーションと量子効果が強い三角格子反強磁性体の磁気励起はスピン波では説明できず“分数スピン励起”などの新しい磁気励起の概念が必要であることが分かった。また、スピン液体に関連すると考えられる励起が存在することも分かった。今回の成果は、フラストレーションの強い量子磁性体の研究の活発化をもたらすと期待される。

純良単結晶を用いた精密な中性子散乱実験から今後も多くの新しい現象が発見され、物性研究のフロンティアが拓かれていくものと考えられる。今回はゼロ磁場での実験だったが、磁場中での励起スペクトルの変化は磁気励起の解明につながるヒントを与えてくれる可能性があり、今後、磁場中での中性子散乱実験が重要となる。

用語説明

[用語1] 磁気励起 : 全体のエネルギーが最も低い安定な状態を基底状態という。物質は絶対零度で基底状態になる。基底状態よりもエネルギーが高い状態が励起状態である。磁性体において、基底状態から励起状態への遷移を磁気励起という。反強磁性体の基底状態では各原子のもつスピンの和(全スピン)は0になっている。全スピンの値の変化が±1、0の磁気励起はマグノンと呼ばれ、スピン波もこれに含まれる。一方、全スピンの値の変化が±1/2の磁気励起はスピノンと呼ばれ、1次元反強磁性体で確認されている。

[用語2] 中性子散乱 : 中性子は粒子の性質と波動の性質をもっている。波動としての性質を利用した実験が中性子散乱である。中性子は磁気モーメントをもつので、固体に入射した中性子は原子を構成する原子核からの核力によって散乱されるだけでなく、磁性原子のもつ磁気モーメントによっても散乱される。入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化がない場合が弾性散乱で、ブラッグの法則に基づいて結晶構造の決定や磁性体中の磁気モーメント配列の決定に利用される。これに対して、入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化が生じる場合が非弾性散乱で、磁気励起をはじめとして固体中の励起現象の研究に用いられる。この場合、入射中性子と散乱中性子のエネルギーの差が励起エネルギーになる。中性子の磁気散乱では全スピンの値の変化が±1、0の励起を捉えるので、スピン±1/2の励起であるスピノンの場合には、2個のスピノンが励起される。合成した波数は同じでも、個々のスピノンのもつ波数の組み合わせは無数にあるので、合成された励起エネルギーは無数にできる。そのため励起スペクトルに連続領域ができる。

[用語3] フラストレーション : 幾何学的配置や相互作用の競合によって、すべての相互作用エネルギーを最低にすることができない状況(どこかの相互作用に必ず不満が残る状況)。これを物理学では「フラストレーションがある」という。

[用語4] スピン : 粒子の自転運動に対応する物理量で、電子は大きさが1/2のスピンをもっている。自転の向きに右ねじを回したとき、ねじの進む向きがスピンの向きである。電子は負の電荷をもつので、自身の自転によって小さな磁石の性質(磁気モーメント)をもつ。磁性原子の中で磁気に関与する電子のスピンを全て足し合わせたものが磁性原子の持つスピンになり、その値は半奇数か整数になる。スピンは量子力学の法則(不確定性原理)に従うので、スピンの向きを完全に決定することはできない。

[用語5] 交換相互作用 : 電子のスピン間に働く量子力学的相互作用で、近接する磁性原子上の電子が互いに位置を交換し合うことによって生じる。交換相互作用は電子のスピンを平行、あるいは反平行にする働きをもつ。磁性原子のスピンを平行にする交換相互作用をもつ物質を強磁性体、反平行にする交換相互作用をもつ物質を反強磁性体という。

[用語6] 分散関係 : 一般に固体中の励起は波として結晶全体に伝搬する。スピン波はその一つの形態である。励起に必要なエネルギーは波の波長と進む向きによって異なる値をもつ。波長の逆数を大きさにもち、波の進行方向を向きにもつベクトルを波数ベクトルといい、励起エネルギーと波数ベクトルの関係を分散関係という。

[用語7] 磁化曲線 : 磁気の強さを表す磁化と加えた磁場の関係を表す関数をいう。通常の反強磁性体の磁化曲線では、磁化は飽和するまで磁場と共に増加し、飽和すると一定になる。

[用語8] J-PARC : 大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications 8 (2017) 235
論文タイトル :
Structure of the magnetic excitations in the spin-1/2 triangular-lattice Heisenberg antiferromagnet Ba3CoSb2O9
著者 :
S. Ito, N. Kurita, H. Tanaka, S. Ohira-Kawamura, K. Nakajima, S. Itoh, K. Kuwahara and K. Kakurai
DOI :

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東工大メディア研究会が、米マイクロソフトの学生ITコンテスト世界大会でベスト32に

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本学学生で構成された東工大メディア研究会 TITAMAS(以下タイタマス)が、米・マイクロソフトが主催する学生ITコンテスト「イマジンカップ」日本予選大会で最高賞となる優秀賞を獲得し、7月24日、25日にわたって開催された「イマジンカップ ワールドファイナルズ2017」に日本代表として出場しました。

左から佐々木俊亮さん、山崎健太郎さん、岩瀬駿さん

左から佐々木俊亮さん、山崎健太郎さん、岩瀬駿さん

イマジンカップは2003年に始まり、これまで世界190ヵ国から200万人以上が参加している世界最大規模の学生向けITコンテストです。国際競争力のあるIT人材の育成を目指し、社会の課題解決に役立つソリューションや、新たな価値を与えるプロダクトを創造し、競い合います。

ワールドファイナルズには、各国から国内予選を勝ち抜いた39ヵ国53チームのファイナリストが集結します。日本からは、視覚障がい者向けスマート白杖デバイスを開発したタイタマスと、ディープラーニングを用いて音声変換システムを実現した、東京大学大学院生有志によるNeuroVoice(ニューロボイス)が国内予選を突破し、日本代表として参加しました。

視覚障がい者向けスマート白杖デバイス「Walky(ウォーキー)」
視覚障がい者向けスマート白杖デバイス「Walky(ウォーキー)」

今回、タイタマスが開発したのは、視覚障がい者向けスマート白杖デバイスのWalky(ウォーキー)です。カメラと超音波センサーを用いて、目の前のどれくらいの距離に、どのような障害物があるのかを検知し、指向性スピーカーを通して利用者に知らせてくれるものです。通常、視覚障がい者は、白杖で足元の危険を知ることができますが、目の前にあるトラックや高い位置にある物体を把握するのは容易ではありません。メンバーの従兄弟が視覚障がい者であり、このような課題を抱えていたことから、同プロダクトの開発に着手しました。

日本代表チームは技術力が高いことで定評がありますが、例年、英語によるプレゼンテーションがネックとなって、苦戦を強いられています。英語でいかにプロダクトの魅力を伝えられるか、どれだけ審査員からの質疑応答に対応できるかが課題となっています。そのため、今年の日本代表チームには、グロービス経営大学院とベルリッツ・ジャパンの2社から、英語やプレゼンテーション、ビジネスプランへのメンタリングが提供され、プレゼン力に磨きをかけて世界大会へ挑みました。

日本マイクロソフト株式会社で行われた、英語プレゼンテーションのトレーニングの様子
日本マイクロソフト株式会社で行われた、
英語プレゼンテーションのトレーニングの様子

タイタマスは、1次審査でベスト32に選ばれ、決勝トーナメントへの進出を決めました。続いて行われた準々決勝では、プレゼン資料やデモンストレーションによる発表と審査員からの質疑応答を行います。審査員からは、製品化したときの販売価格やバッテリーの耐久時間、ネットワーク環境の安定性や画像認識のスピードなど、技術面やビジネスの観点からさまざまな質問が投げかけられました。タイタマスはそうした質問に丁寧に答えながら、プロダクトがいかに社会で受け入れられるかを懸命に伝えましたが、次のステージに進むことはできませんでした。

その後、タイタマスは、準決勝を前に行われた敗者復活戦に挑みました。敗者復活戦は、スライドやツールを使わずに、言葉だけでソリューションの魅力を語る2分間のピッチ形式で行われ、タイタマスは思いの籠ったスピーチを披露しましたが、こちらも敗者復活とはなりませんでした。

準々決勝でタイタマスが敗れ、小児糖尿病の血糖値測定システムを開発したチェコ共和国の代表チームが、優勝を飾りました。

準々決勝の様子
準々決勝の様子

準決勝前に実施された敗者復活戦の様子
準決勝前に実施された敗者復活戦の様子

出場メンバーのコメント

山崎健太郎さん(工学部 電気電子工学科 学士課程3年)

今回のイマジンカップ ワールドファイナルズはとても良い経験となりました。自分たちのアイデアをさまざまな場所で発表し、フィードバックを得られる機会の中でも、世界中から多様なバックグラウンドを持つ人々が集まっている場所という点で、とても素晴らしいものでした。

世界中のさまざまな国で、自分たちのアイデアを実装し、社会に落とし込む努力をしている学生たちと交流できたことは、これからの自分の大きな糧となったのは間違いありません。

ただ作るだけではなく、どう伝えて、どう社会に適応させていくのかを考えられる人間になりたいと強く感じました。

岩瀬駿さん(工学部 電気電子工学科 学士課程4年)

最初にこのプロダクトを開発し始めた時に、まさか世界大会に出場することになるとは思ってもいませんでした。ワールドファイナルズでは技術力だけでなく、プレゼン能力、英語力、コミュニケーション能力などの総合力が重視され、プロダクトや自分自身に対して真摯に向き合う類稀な機会を得ることができました。今回はワールドファイナルズ ベスト32という結果でしたが、これからも別の形で世の中に価値のあるプロダクトを作り続けていきたいです。応援してくださった皆さまありがとうございました!

佐々木俊亮さん(情報理工学院 情報工学系 修士課程1年)

今回、世界規模の大会に初めて参加し、いい経験となりました。ワールドファイナルズに残っているチームはどこも、プロダクト、プレゼン、質疑応答と全てにおいてレベルが高く衝撃を受けました。特に、プロダクト面においては、すでに利益を得ているチームもいくつかあり、実際に使ってもらったり、生の意見を聞くことが足りなかったことを痛感しました。自分自身、この大会に向けた準備を通して、どうやって相手に伝えるかなど技術以外の面で成長することができたと感じています。ぜひ本学の学生にも、こういった大会に積極的に出場してほしいと思います。

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9月12日15:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

大連理工大学グオ・ドンミン学長が東工大を訪問

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7月7日、本学協定校である中国の大連理工大学のグオ・ドンミン学長ほか4名による代表団が本学を訪問し、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)、和田雄二物質理工学院長、物質理工学院 材料系の中村吉男教授、シ・セキ教授と懇談を行いました。

丸山理事・副学長(前列中央左)とグオ学長(同列中央右)

丸山理事・副学長(前列中央左)とグオ学長(同列中央右)

東工大と大連理工大学は2006年11月に全学協定を締結し、翌2007年には本学の卒業生である、大連理工大学材料科学工程学院のタン・イー教授やヂャン・ジュンシャン教授が中心となって、本学の材料工学専攻(金属分野、現:物質理工学院)との連携のもと、大連理工大学金属材料学部日本語強化クラスを設立しました。毎年30名の学生が同クラスを履修しており、本学も教員を派遣しています。また、2008年からは相互に合同ワークショップを開催しており、研究者や学生の交流を活発に行っています。

大連理工大学では、同クラス履修学生の日本の大学への留学を推進しており、本学も留学先のひとつとなっています。今年は、同クラスの設立10周年の節目の年であり、7月末には、大連理工大学で記念式典とシンポジウムが開催され、本学からは三島良直学長、丸山理事・副学長、物質理工学院の教員が出席しました。

懇談では、グオ学長が、大連理工大学の国際化に貢献してきた本学の協力に感謝の意を示すとともに、大連理工大学の特色や国際化への取り組みを紹介し、今後も本学との連携関係を強化していきたいと話しました。

懇談後、一行は、環境エネルギーイノベーション棟を訪問し、この棟の環境・エネルギーの設計を主に担当した物質理工学院の伊原学教授の研究室に所属している、長谷川馨助教(物質理工学院)、チャン・シャオメイ特任助教(工学院)の案内で施設を見学しました。

大連理工大学で行われた式典の様子

大連理工大学で行われた式典の様子

学び体験フェアで学生団体Robogals Tokyoが小中学生向けプログラミング体験会を実施

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8月19日~20日、東京国際フォーラムで開催された学び体験フェア「マナビゲート2017」に東京工業大学がブース出展しました。ブースでは、東工大生が代表を務め、女子生徒に将来技術者を目指すきっかけを提供する活動を主に行う国際学生サークルのRobogals Tokyo(ロボギャルズ トウキョウ)が「プログラミング&ロボット操作体験会!」を実施しました。遊びに来た子どもたちはロボットの操作体験と、実際にプログラムを作成して自分でロボットを動かす体験を行いました。

会場の様子(上)と本学ブース内の様子(下)

会場の様子(上)と本学ブース内の様子(下)
会場の様子(上)と本学ブース内の様子(下)

マナビゲートは、子ども目線でアレンジした大学の知的財産を、子どもたちに「見て・聞いて・触れて」体験してもらう夏休みイベントで、NPO法人学びの支援コンソーシアム主催、文部科学省後援のもと開催されています。今回の来場者は、2日間でのべ21,700名となりました。

体験会では教育用ロボットのレゴ®マインドストーム®を使用し、子どもたちは馴染みのあるおもちゃが動き出す様子にとても興味を惹かれているようでした。そして「どうしたら自分の思い通りにロボットが動いてくれるだろう?」という問いのもとにプログラミングの仕組みを学ぶ中で、子どもたちにはプログラミングは想像しているより簡単に行うことができ、面白いものであることが伝わっていきました。

レゴ®マインドストーム®
レゴ®マインドストーム®

障害物を避けながら進むタイムアタック
障害物を避けながら進むタイムアタック

Robogals Tokyo代表 鍋倉翔陽さん(工学院 経営工学系 修士課程2年)のコメント

Robogals Tokyo代表 鍋倉翔陽さん(工学院 経営工学系 修士課程2年)のコメント

2日間で300名以上の子どもたちと、プログラミング・ロボット体験を行いました。普段なかなか触れることのできない理系・ロボットの世界の一端に触れて、多くの子どもたちが興味をもって楽しく学んでくれました。10月7日と8日に開催される工大祭でもロボット体験のブースを出展するので、ぜひお越しください。

レゴ®マインドストーム®は、レゴ社とMIT-マサチューセッツ工科大学が共同で開発したロボティクス製品。頭脳部品インテリジェントブロックにプログラムすることによって、レゴブロックで組み立てたロボットを自由に制御することができます。

お問い合わせ先

東京工業大学

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Tel : 03-5734-2975

東工大デジタル創作サークルtraPが、中高生のためのプログラミング教室を開催

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8月26日、中高生のためのプログラミング教室が大岡山キャンパスにて開催されました。

これは東工大デジタル創作サークルtraP(トラップ)が定期的に主催するもので、プログラミング未経験の中高生に対し、グループワーク形式で簡単なプログラミングを教える教室です。Processing(プロセッシング)と呼ばれるプログラム言語を用いて参加者全員が簡単なゲームを製作することを目指しました。

当日は計43名の参加者を迎え、参加者4名と教師となる東工大生2名程度のグループに分かれて教室が始まりました。緊張をほぐすためのアイスブレイクで互いに打ち解けた後は、持参してもらったPCに開発環境を導入します。そこからは冊子の要旨を教師が説明しながら実際に参加者にプログラミングを進めてもらいます。タイピングになれていない参加者も少なくありませんでしたが、どのグループも時間をかけて着実に前に進んでいました。

ゲームの骨組みが完成した後は、参加者側より「こんな風にしたい」「こういう機能を追加したい」などといった要望を聞き、それを実現するために教師と一緒にプログラムの書き方を考えるといった一幕もありました。その際も、教師は実装に必要な技法を伝えるだけにとどめ、やり方自体は中高生に考えてもらう方針で進めました。多くの参加者が自分なりの工夫を入れて見栄えを良くしたりより面白いゲームに改良して一つのゲームを完成させ、教室は盛況のうちに幕を閉じました。

東京工業大学デジタル創作サークルtraP : ゲーム作りをはじめとした、デジタルコンテンツのチーム制作や技術共有を目的に2015年4月に設立したサークルです。技術の提供のためにこのようなイベントの主催・協力を行なっています。

教師の東工大生と一緒にプログラミングをする様子

教師の東工大生と一緒にプログラミングをする様子

教師の東工大生と一緒にプログラミングをする様子

参加者とTAで撮った集合写真

参加者とTAで撮った集合写真

お問い合わせ先

東京工業大学 デジタル創作同好会traP

E-mail : trap.titech@gmail.com

Tel : 03-5734-3828

松岡清一さんが代表取締役を務めるFIXER社がマイクロソフト社から表彰

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環境・社会理工学院技術経営専門職学位課程の松岡清一さん(専門職学位課程1年)が代表取締役を務める株式会社FIXER(所在地:東京都港区、以下フィクサー)が、Microsoft Partner of the Year 2017 Awards(以下マイクロソフト パートナー オブ ザ イヤー)において、「Microsoft Country Partner of the Year(Japan)(以下マイクロソフト カントリー パートナー オブ ザ イヤー(ジャパン))」を受賞しました。

マイクロソフト社 ワン コマーシャルパートナーのCVP ロン・ハドルストン氏と

マイクロソフト社 ワン コマーシャルパートナーのCVP ロン・ハドルストン氏と

フィクサーは、マイクロソフト社のクラウドサービス「Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール)」のフルマネージドサービスの提供や、オンプレミスからクラウドへの大規模サーバ移行支援、人工知能/機械学習を活用した業務改善支援等を行う企業です。

マイクロソフト パートナー オブ ザ イヤーは、マイクロソフト社の全世界のパートナー企業のうち、同社の製品を基盤としたソリューションやサービスを提供し、特に優れた実績を挙げた企業を表彰するものです。2017年は全世界115ヵ国、2,800件超のパートナー企業がノミネートされました。フィクサーは、本年度、日本国内で最も優秀な業績を収めたパートナーとして、「マイクロソフト カントリー パートナー オブ ザ イヤー(ジャパン)」として表彰されました。

松岡さんは、2017年9月16日(土)に技術経営専門職学位課程主催で開催する『MOTオープンハウス「経営とMOT ~経営者からみたMOTを学ぶ意義~」』にて講演予定です。

松岡さん
松岡さん

マイクロソフトのイベント「マイクロソフト インスパイア」のパーティーで乾杯の発声
マイクロソフトのイベント「マイクロソフト インスパイア」の
パーティーで乾杯の発声

お問い合わせ先

技術経営専門職学位課程事務室

E-mail : mot-secre@mot.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8912

東工大を含むECM共同研究開発チーム第15回「産学官連携功労者表彰」国土交通大臣賞を受賞

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本学の物質理工学院 材料系の坂井悦郎特任教授が関わるECM共同研究開発チームおよび国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)は、科学技術イノベーションに係る産学官連携活動における大きな成果を称えることを目的として内閣府が主催する「第15回 産学官連携功労者表彰」において、国土交通大臣賞を受賞しました。

受賞関係者の記念写真(左が坂井特任教授)

受賞関係者の記念写真(左が坂井特任教授)

今般の受賞では、NEDOの助成のもと、「ECM®(エネルギー・CO2ミニマム)セメント・コンクリートシステム」を開発し、本学とセメント製造4社が持つセメント設計技術と、ゼネコン2社と混和剤製造1社が持つ建設技術とを、綿密に連携したオープンイノベーションにより融合・進化させ、環境と品質のバランスに優れた低炭素型セメントとその利用技術の実用化に成功した点が評価されました。

株式会社竹中工務店、鹿島建設株式会社、国立大学法人 東京工業大学、日鉄住金高炉セメント株式会社、株式会社デイ・シイ、太平洋セメント株式会社、日鉄住金セメント株式会社、竹本油脂株式会社

開発の背景

コンクリートの主要な材料であるセメント(普通ポルトランドセメント)は、製造時に石灰石などの原料を高温で焼成するため、多くのエネルギーを必要とするほか、大量のCO2が発生します。セメントの製造にかかるCO2排出量は我が国全体の3%強を占めていることから、セメント製造に係る低炭素化が重要な課題といえます。

ECMセメント・コンクリートシステムの概要

「ECMセメント」は、セメントの6~7割を、鉄鋼製造の副産物である高炉スラグの微粉末に置き換えることで、材料製造時のエネルギー消費量とCO2排出量を大幅に削減するものです。本学とゼネコン・メーカー7社の共同研究により、セメントの材料成分・構成の最適化や、新規の化学混和剤の開発を行い、構造物への適用に向けてのコンクリート・地盤改良技術を開発し、従来の品質・性能上の課題を解決しました。

高炉スラグは、製鉄所の溶鉱炉で銑鉄を作る際の副産物で、溶融して出てくる鉄以外の成分を水で急冷したものです。

ECMセメント・コンクリートシステム

坂井悦郎特任教授 コメント

坂井悦郎特任教授
坂井悦郎特任教授

この研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業にて、サプライチェーンを成す企業体(建設会社、材料製造メーカ)と大学が連携して行いました。大学・セメントメーカー4社による「ECMセメントの開発」、建設会社2社・化学混和剤メーカー1社による「ECMセメントを用いた建設技術の開発」に大きく分け、建設側の要求品質ニーズをセメント設計に的確に反映させ、重要でポジティブな結果を早期に発見、フィードバックして修正する連携体制を強化したことで、開発スピードが大幅に向上しました。今回の表彰はこのような産官の連携に対して評価されたものと思っています。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

ジョージア工科大学と東工大の連携プログラム(JSPSD)開催報告

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5月29日から8月3日にかけて、ジョージア工科大学と東工大の連携プログラムであるJapan Summer Program in Sustainable Development(ジャパン サマー プログラム イン サステイナブル ディベロップメント、以下JSPSD)が開催されました。

ジョージア工科大生と東工大生と教員全員で記念撮影

ジョージア工科大生と東工大生と教員全員で記念撮影

JSPSDは、2015年に国連にて採択された持続的開発目標(SDGs)を強く意識しながら、日本で持続的開発、特に都市やコミュニティーに関わるさまざまな持続性の問題を検討し、学修するサマープログラムです。離れた国で異なる教育・運営システムを持つ2大学の強みを相互に生かし、両大学の学生が共に学び合う機会を作ることを目標として企画されました。

グループワークに取り組む学生たち

グループワークに取り組む学生たち

本プログラムは、東工大側の担当教員である環境・社会理工学院 融合理工学系の阿部直也准教授と、ジョージア工科大学側の担当教員であるサム ナン スクール オブ インターナショナル アフェアのブライアン・ウッダル教授により、約2年間の構想と準備期間を経て実現しました。2014年からおよそ2年間にわたり築かれた相互の信頼関係を基に、多くの検討課題を一つ一つクリアにしながら連携して準備を行ってきました。この2年間で、ウッダル教授は本学を何度か訪問し、阿部准教授も本学の水本哲弥副学長(教育運営担当)が2015年11月にジョージア工科大学を訪問した際に同行して、JSPSDの立ち上げに向けて、ジョージア工科大学のイヴ・バーサロー副学長をはじめ、関係する教員やスタッフと面談するなど、準備を重ねてきました。

ウッダル教授の講義風景

ウッダル教授の講義風景

JSPSDはジョージア工科大学の夏季海外プログラムとして、10週間にわたって東工大大岡山キャンパスにて実施され、ジョージア工科大学の学生18名と東工大生7名が参加しました。提供される講義(4科目)やプログラムはすべて、ジョージア工科大学の教員が中心となって英語で開講され、東工大生にとっては学内留学といえる学習環境が実現しました。ジョージア工科大学からは、ウッダル教授のほか、PBL(Problem-Based Learning、課題解決型学習)の専門家であるウェンディ・ニューステッター博士・工学部長補、土木環境工学科のアジョー・アメドクジ・ケネディー教授、そしてジェニファー・ハーシュ博士・サーヴ・ラーン・サステインセンター長が講師として来学しました。また、プログラム全体を支援するスタッフとして、ジョージア工科大学 リベラルアーツ研究科のスタッフであるヴィンス・ペディシーノ氏も来訪しました。

本プログラムでは両大学の学生が一緒に学び、取得する単位はそれぞれの学生が所属する大学から付与される仕組みを整えました。

  • ケネディー教授の講義風景
    ケネディー教授の講義風景
  • ハーシュ博士の講義風景
    ハーシュ博士の講義風景
  • グループワークに取り組む学生たち
    グループワークに取り組む学生たち

また、学生たちが実際に現地へ赴き現状を経験することを重視することが大切であるとの認識のもと、複数のフィールドワークを実施しました。6月4日から6月10日までの7日間、日本各地の現状を理解するため、国内フィールドワークとして東京、広島、高松、豊島、京都、大垣を巡りました。このフィールドワークでは、1週間にわたって寝食を共にし、また、日本語の説明を東工大生が英訳するなど、両大学の学生たちがお互いに協力しあうことでぐっと関係が深まりました。7月27日には、世田谷区にある世田谷清掃工場と世田谷区資源循環センターでフィールドワークを実施しました。

  • フィールドワークで訪れた広島原爆ドームにて
    フィールドワークで訪れた広島
    原爆ドームにて
  • フィールドワークで訪れた大垣にて(ニューステッター博士も同行)
    フィールドワークで訪れた大垣にて
    (ニューステッター博士も同行)
  • 世田谷区資源循環センターでのフィールドワークの様子
    世田谷区資源循環センターでの
    フィールドワークの様子

プログラムの中心を占めるグループワークでは、グループごとに両大学の学生が協力しながら、東工大周辺を実際に歩いて調査しました。聞き取り調査では東工大生がインタビューを率先して行い、その内容を英訳するなどしてジョージア工科大生の理解とグループワークに貢献していました。一方で、課題はすべて英語で実施されたため、レポートやプレゼンテーションのスライドの英語などはジョージア工科大生が確認と推敲をするなど、助け合いながらのグループワークが実現しました。

グループでの東工大周辺地域の聞き取り調査の様子
グループでの東工大周辺地域の聞き取り調査の様子

授業内でのアクティビティの様子
授業内でのアクティビティの様子

8月3日に行われたJSPSD最後の授業では、学生たちが取り組んできた「持続可能な開発」をテーマにしたプレゼンテーションを行いました。最終プレゼンテーションでは、各グループが直前まで練習をしている姿が印象的でした。どのグループのプレゼンテーションも趣向を凝らしたものであり、学生たちの熱意と努力が感じられる内容でした。

  • 最終プレゼンテーション直前の打ち合わせ
    最終プレゼンテーション直前の打ち合わせ
  • 最終プレゼンテーションの様子
    最終プレゼンテーションの様子
  • 最終プレゼンテーションの様子
    最終プレゼンテーションの様子

今回初めて開催したJSPSDは、東工大とジョージア工科大学の学生たちがお互いに協力し、時に相互に教え合い、SDGsの文脈をふまえながら、日本における持続的開発について多方面より考える機会をつくりあげることができました。両大学の学生にとって、また教員にとっても学びの多い有意義な10週間となりました。

フェアウェルパーティにて

フェアウェルパーティにて

フェアウェルパーティにて

東工大生とジョージア工科大学教員で一緒に記念撮影

東工大生とジョージア工科大学教員で一緒に記念撮影

参加したK.K.さんのコメント(工学部 国際開発工学科 学士課程4年)

今回のフィールドワークを通し、さまざまな都市の「持続可能性」を見ることができました。どの都市もその地域特有の「持続可能性」に対する取り組みや課題を持っており、視野を広げることができました。また、ジョージア工科大学の学生と1週間交流していく中で、自分が自国のことをまだまだ理解できていないということに気づかされました。普通、日本人が思わないようなことをアメリカ人は感じていることも少なくなく、文化の違いをお互いに共有することが非常に興味深かったです。また、国内フィールドワークでの約1週間は英語をメインに会話をしていたため、日本にいながら留学をしているような感覚で新鮮でした。1週間生活を共にしていたため、グループワークも距離が縮まり、より濃い議論ができるようになりました。

参加したM.H.さんのコメント(工学部 国際開発工学科 学士課程4年)

プログラム内では、語学の面だけでなく、彼らのものの考え方、グループワークに対する姿勢、お互いに助け合うことの大切さを学ぶことができました。プログラム外では、土日に彼らと遊び、コミュニケーションの取り方、英語で説明する力等を学ぶことができました。外国人学生の好奇心の強さ、日本人との感覚の違い、また住んでいる国にも拘わらず、自分の知らないことが日本にまだたくさんあることに改めて気づかされました。

ジョージア工科大学との連携プログラム(JSPSD)

ジョージア工科大学との連携プログラム(JSPSD)

JSPSDの活動記録は以下のページをご覧ください。

お問い合わせ先

環境・社会理工学院 融合理工学系

准教授 阿部直也

E-mail : nabe@ide.titech.ac.jp

沈み込んだ海山が引き起こした予期せぬ火山活動

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概要

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(理事長 平朝彦)地球内部物質循環研究分野の西澤達治研究生(東京工業大学 大学院理工学研究科 博士後期課程)、中村仁美研究員(東京工業大学 理学院 特別研究員)、岩森光分野長(東京工業大学 理学院 特定教授)らと国立大学法人 東京工業大学(学長 三島良直)は、ロシア科学アカデミー、産業総合研究所、千葉工業大学、東京大学と共同で、カムチャッカ島北東部の海岸沿いの地域を調査し、採取した溶岩試料の分析等を行った結果、太平洋プレートと共に沈み込んだ天皇海山列延長部分の熱的、化学的影響により、通常では火山活動が起こりえない海溝に近い場所で、多様かつ特殊な組成を示す火山活動が起こったことを明らかにしました。

カムチャッカ半島に沈み込みつつある天皇海山列は、火山活動を停止してからの時間は長いものの、海山をとりまく周囲のプレートよりも温かいことが分かっていましたが、その沈み込みがカムチャッカ半島の火山活動にどのような影響を及ぼすかは不明でした。今回の分析等の結果により、沈み込み後に、その熱的異常及び海山変形・崩壊による割れ目の発達に伴い、ケイ素に富む流体が、通常ではマグマの生成されない比較的海溝に近い地域(前弧域)に一時的に供給されたと推定されました。また、この流体により、地下の岩石が変質作用を受け、局所的に組成が異なるマントル岩石(マグマを生んだ源岩)が溶融することで、一時的に多様で特徴的なマグマ(安山岩質でありながら高いニッケルやマグネシウムを含むマグマ)が生じたことが明らかになりました。

これは、「海山の沈み込みにより、通常ではマグマを生じない地域にも火山が形成される可能性がある」ことを意味します。日本列島においても複数の海山が沈み込んでおり、これまで海山と地震発生との関わりが指摘されていました。本研究は、沈み込んだ海山が火山活動にも影響を及ぼしうることを示しており、日本列島の変動現象を理解する上でも重要な知見です。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)とロシア基礎研究基金(RFBR)との二国間交流事業(共同研究)による支援を得たものです。また、科研費JP26247091、JP26109006の助成を受けて実施されたものです。

なお、本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に9月14日付け(日本時間)で掲載されました。

背景

海洋プレートは、海底を構成する厚く硬い岩盤で、プレート運動により移動して最終的には海溝へ沈み込みます。そして、海洋プレートが深度100 km~150 km付近まで沈み込むと海水等(以下「スラブ起源流体」という。)の放出現象が起こり、スラブ起源流体の化学的効果により岩石の融点が低下することでマグマや火山が生じます。日本列島においても、その下に太平洋プレートが沈み込むことで顕著な火山帯を形成しています。

一方、千島弧の北方延長上に位置するカムチャッカ半島(図1)では、太平洋プレートとともに海山が沈み込んでいます。また、深度60 km~80 km付近では単性火山群[用語1](East Cone Volcanic Group、以下「EC」という。)と呼ばれる「特異な火山」が存在していますが、なぜ通常よりも浅部で火山が存在するのか、その理由は明らかではありませんでした。

そこで本研究では、なぜこの地域に「特異な火山」ができたのかを解き明かすため、ECのうち8つの火山から18の新鮮な溶岩試料を採取し(図1)、電子顕微鏡、質量分析計等を用いて、岩石記載、各種組成分析及び年代測定を行いました。さらに、得られた組成を元にした数理解析から、定量的な溶融条件の推定とマグマを生んだ源岩の組成の特定を行いました。

カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

図1. カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

上図:カムチャッカ半島周辺のプレート

下左図:カムチャッカ半島の火山(赤三角)と3つの火山列(Eastern Volcanic Front(EVF)、Central Kamchatka Depression(CKD)、Sredinney Range(SR))。沈み込んだ太平洋プレート(スラブ)の上面の等深線(等しい深さを結んだ線)が40 km~400 kmの範囲で示されている。

下右図:調査地域(East Cone火山群 [EC])の拡大図。三角は個々の火山を表し、黒塗りつぶしは調査・分析した8つの火山。これらの火山が、スラブ上面の等深線(60 km~80 km)の上に位置することがわかる。

成果

年代測定により、ECの火山活動は73~12万年前(中期~後期更新世)に起こった一過性のものであったことを明らかにしました。また、EC溶岩の化学組成・同位体比分析の結果、沈み込んだと考えられる海山から放出されたスラブ起源流体がこれらのマグマを生み出したことが分かりました。さらに、EC溶岩に含まれるケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)の量は多様であること、及び沈み込み帯では最高記録となる6,300ppmものニッケル(Ni)を含むカンラン石結晶が溶岩中にみられること(図2)から、図3に示すような物質の循環、特にSiに富むスラブ起源流体(結果として高いNiを含むカンラン石結晶を生む)が存在することが分かりました。

次に述べるように、沈み込んだ海山周辺は温かったと考えられること、及び図3に示した流体発生と物質移動の痕跡を踏まえると、温められた海山が沈み込んでいくことにより、比較的浅所(深さ60 km~80 km付近)で海山由来のスラブ起源流体が発生し、本来マグマのできない場所に「特異な火山」を形成したと考えられます。カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため(図3)、そのような温かくて薄いプレートが沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60 km~80 km)で脱水が起こりました(通常は深さ100~150 kmで脱水)。また、海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇しました(図3)。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3-1)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成します(図3-2)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量を示すカンラン石結晶(図3-3)を含む溶岩として噴出しました(図3-4)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられます。

EC溶岩(青丸=比較的MgとSiの多い溶岩[高Mg安山岩]、十字=Mgが多く比較的Siの少ない溶岩[玄武岩])に含まれるカンラン石のマグネシウムと鉄の含有比(Fo)とNi含有量(ppm)。これまで沈み込み帯の溶岩から報告されている中でNi含有量は最高値(6,300ppm)を示す。
図2.
EC溶岩(青丸=比較的MgとSiの多い溶岩[高Mg安山岩]、十字=Mgが多く比較的Siの少ない溶岩[玄武岩])に含まれるカンラン石のマグネシウムと鉄の含有比(Fo)とNi含有量(ppm)。これまで沈み込み帯の溶岩から報告されている中でNi含有量は最高値(6,300ppm)を示す。

カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

図3. カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

上図:カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため、沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60~80 km)で脱水が起こった。

下図:沈み込んだ海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇した。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3-1)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成する(図3-2)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量(6,300ppm)を示すカンラン石結晶(図3-3)を含む溶岩として噴出した(図3-4)。マントルと反応した後のSiに乏しくなったスラブ起源流体は、玄武岩マグマを生成した(図3-5~7)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられる。

今後の展望

日本列島の沈み込みプレート境界(日本海溝や南海トラフ)には、複数の海山やかつての火山列が沈み込んでいます。本研究成果は、これまで火山はできないと考えられていた地域(例えば前弧域)にマグマ活動が起こる可能性を示しています。また、プレート境界型の地震は、沈み込んだ海山との関連性も指摘されていることから、今後は、マグマの物質科学的な研究、地下構造探査、温度構造推定、スラブ起源流体分布の把握等を統合して、沈み込む海山や火山列が、日本列島の火山や地震活動等に与える影響を評価していく必要があります。

用語説明

[用語1] 単性火山群 : 一度の噴火で形成された火山を単性火山、同じ火口から何度も噴火を繰り返して形成された火山を複成火山と呼ぶ。単性火山は多数が群れて存在することが多く、これを単性火山群とよぶ。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Genesis of ultra-high-Ni olivine in high-Mg andesite lava triggered by seamount subduction
著者 :
西澤達治1,2、中村仁美1,2,3、Churikova Tatiana4、Gordeychik Boris5、石塚治6,7、原口悟2、宮崎隆2、Vaglarov Bogdan Stefanov2、常青2、浜田盛久2、木村純一2、上木健太8、遠山知亜紀6、中尾篤史8、岩森光1,2
所属 :
1東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
2海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野
3千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
4ロシア科学アカデミー 極東支部火山地震研究所
5ロシア科学アカデミー 実験鉱物学研究所
6産業総合研究所 地質調査総合センター
7海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター
8東京大学 地震研究所
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(本研究について)

国立研究開発法人 海洋研究開発機構
地球内部物質循環研究分野 分野長
国立大学法人 東京工業大学 理学院
特定教授 岩森光

E-mail : hikaru@jamstec.go.jp

Tel : 046-867-9760

Tel : 03-5734-3722(東京工業大学)

(報道担当)

国立研究開発法人 海洋研究開発機構

広報部 報道課長 野口剛

Tel : 046-867-9198

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


気管支内の診断精度向上を目指して東邦大学と東京工業大学の研究チームが共同で自走式カテーテルを開発

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東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科 高井雄二郎准教授と東京工業大学 工学院 システム制御系 塚越秀行准教授の研究チームは、1本の極細構造のチューブ内に流体圧を印加することにより、ミミズのような蠕動(ぜんどう)運動を生成する仕組み(Mono-line Drive)を開発しました。

この仕組みを用いることによって、将来、気管支内を自走して肺内の目標の病変まで自動的にたどりつき、病変の採取や治療が行えるオートガイド・ロボットの開発を目指します。

この研究成果は2017年5月10日(水)~13日(土)に開催された「ロボティクス・メカトロニクス 講演会 - 2017 in Fukushima」で発表され、特許2件を出願しています(特願2016-024614、特願2017-092605)。

背景

肺がんを代表とする呼吸器疾患において、診断および治療の精度を高めるためには、肺内病変の生体検査が不可欠です。現在は気管支鏡検査による用手的生検を行っていますが、気管支の分岐が末梢に行くほど多岐かつ細くなるため、それを確実に選択し推進する微細な移動調整が難しいという課題があります。施行医による技術差もあり、確実に病変に生検鉗子を到達させることが難しく、診断精度が十分とは言えません。

Mono-line Driveについて

気管支内視鏡で十分な検査を行うためには、肺内の目標まで確実に到達させることのできる器具と仕組みの開発が必要ですが、そのために克服すべき課題とされているのが、極細で分岐が多岐に渡る気管支内でも生検鉗子を確実に目標に進められる仕組みでした。

今回開発したMono-line Driveは、1本のチューブ内への加減圧だけで複数のチャンバーに進行波を生成するように設計されており、これにより、気管支のような極細な構造の中を蠕動(ぜんどう)運動で進むことが可能となりました。Mono-line Driveには、推進方向を選択するための湾曲機能や、管路径の変化に適応するための屈曲推進機能も搭載されており、気管支モデルを用いてこれらの有効性を確認しました。

Mono-line Driveの動作原理

図1. Mono-line Driveの動作原理

分岐部での方向操舵

図2.分岐部での方向操舵

気管支モデル内の搬送実験

図3. 気管支モデル内の搬送実験

今後の展開

推進可能な分岐確度の拡大や、カメラ等を搭載し気管支内部の情報収集等を行い、生体検査や治療に活用できる機能の開発と、器具の実用化を目指します。

この研究成果は2017年5月10日(水)~13日(土)に開催された「ロボティクス・メカトロニクス 講演会 - 2017 in Fukushima」で発表され、特許2件を出願しています(特願2016-024614、特願2017-092605)。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

東邦大学医療センター 大森病院 呼吸器内科

高井雄二郎 准教授

E-mail : ytakai@med.toho-u.ac.jp
Tel : 03-3762-4151 / Fax : 03-3762-4151

東京工業大学

工学院 システム制御系/システム制御コース

塚越秀行 准教授

E-mail : htsuka@cm.ctrl.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3724 / Fax : 03-5734-3724

本リリースの配信元

東邦大学 法人本部経営企画部

E-mail : press@toho-u.ac.jp
Tel : 03-5763-6583 / Fax : 03-3768-0660

本リリースの配信元/取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

特別シンポジウム「国際エネルギー機関でのキャリア形成について」開催報告

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参加者に向けて講演するIEAのバロー氏
参加者に向けて講演するIEAのバロー氏

2017年7月13日、大岡山キャンパス EEI棟にて、国際エネルギー機関(International Energy Agency、以下IEA)※1のチーフエコノミストであるラズロ・バロー氏※2による特別シンポジウムを、外務省後援のもと本学エネルギーコース※3主催で開催しました。

本シンポジウムは、エネルギーや気候変動問題に関心を持つ学生、研究者、教員にIEAの業務内容やIEAでのキャリア形成について理解を深めてもらうことを目的として行われました。

はじめにバロー氏から地球温暖化の現状や将来必要とされるエネルギー政策について講演があり、その後IEAにおけるキャリア形成などについて質疑応答を行いました。

講演の中でバロー氏は、地球温暖化による気候変動が世界中で脅威となっており、これ以上悪化させないよう、低炭素社会の実現に向けて各国がエネルギー政策を転換していく必要があると訴えました。また、低炭素社会に向けた技術開発の分野で、日本の企業は国内のみならず海外でも強いリーダーシップを発揮していると評価しました。そのようなエネルギー政策の大幅な転換のためには、政界や学術界、産業界だけでなく、一般の国民などさまざまな立場から積極的に政策意思決定の場に参加し、議論を重ねていく必要があると指摘しました。また、近年の大学では、工学、環境学、デザイン、建築学、経済学、社会科学などの分野の垣根を越えて学ぶことのできる融合系プログラムが増えてきていることを説明しました。

シンポジウムの最後には質疑応答が行われ、途上国での自然エネルギー政策やIEAにおけるキャリア形成や人材採用などに関する学生からの質問にバロー氏が回答し、参加者たちはさらに理解を深めました。

地球温暖化について説明するバロー氏
地球温暖化について説明するバロー氏

講演後、積極的に質問する参加者たち
講演後、積極的に質問する参加者たち

※1
国際エネルギー機関(IEA)・・・第一次石油危機後の1974年、キッシンジャー米国務長官(当時)の提唱を受け、OECD内の機関として発足しました。現在の加盟国は29か国、事務局所在地はパリです。
※2
ラズロ・バロー氏(Dr. Laszlo Varro)・・・2011年からIEAにて、ガス・石炭・電力課長として、電力・ガスの市場や供給の安全性、LNG市場、各国の電力・ガス市場改革やインフラ政策などの分析に携わっています。2016年から新設された経済投資室のヘッドとして、現IEA事務局長ビロル氏の後任のチーフ・エコノミストに就任しました。バロー氏はハンガリー出身で、ケンブリッジ大学、ブダペストコルヴィヌス大学にて修士号を取得。IEA以前は、ハンガリー国立銀行、石油企業MOLなどにて要職を務めています。
※3
エネルギーコース・・・エネルギーコースは、融合系コース(異なる学問領域を融合し、新たな学問領域を確立した上で教育にあたる先駆的なコースであり、複数の学院や系にまたがっている)の一つです。エネルギー分野において、物理、化学、材料、機械、電気の各専門分野を基礎とする高度な専門性を修得します。さらに、エネルギー諸問題を多元的エネルギー学理の視点から判断できる俯瞰力、自立的課題抽出・解決力、および国際的リーダーシップ力を兼ね備え、社会に貢献する高い志を持ってイノベーションを牽引できる人材を養成しています。エネルギーコースは、理学院化学系、工学院機械系、工学院電気電子系、物質理工学院材料系、物質理工学院応用科学系、環境・社会理工学院融合理工学系に置かれています。

東工大とロンドン芸大CSM合同シンポジウム「科学・アート・デザインの実験 The Experiment」開催報告

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5月27日、東京・渋谷ヒカリエにて、東工大とロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズ校(以下、CSM)との合同シンポジウム「科学・アート・デザインの実験 The Experiment」が開催されました。科学技術、人文社会科学の研究者や、アーティスト、ファッションデザイナーなど、多様な分野の専門家が集まり、「実験」とは何かをそれぞれの視点から語り合いました。あまり例のない挑戦的なテーマではありましたが、300名を超える来場者があり満員となりました。多くの来場者が見守る中、理工系の知とアート、デザインの融合による新しい文化・思考の創生を目指す新プロジェクトのキックオフとして、セッション1・2、キーノートセッションとも活発な議論が繰り広げられました。

開場時に日英の同時通訳機が希望者に配布され、環境・社会理工学院 融合理工学系のトム・ホープ准教授を総合司会、工学院 機械系のセリーヌ・ムージュノ准教授をディスカッション・リーダー、そしてリベラルアーツ研究教育院の池上彰特命教授をキーノートセッションのモデレータとして迎え、開催しました。

科学とデザインの融合や連携の必要性について、昨今取り上げられることが増えています。しかし、チームの間で、あるいは個人の単位で、どのように異分野が融合していくか、またどのように協力することが可能か、その「結び目の部分」を見つめる機会は多くありません。まずは互いの創作手法、研究手法を言語化してテーブルに乗せることで、コミュニケーションの基盤を作ろうというのが今回のシンポジウムの狙いです。

科学技術の急速な発展により社会、経済、生活が激変する中、大学には異分野、異文化の英知を結集する難しい課題が求められています。東工大の三島良直学長は冒頭挨拶で、「科学の実験手法は比較的世間に知られているものの、アートやデザインの分野にはそもそも実験があるのか、どんな手法があるのかも知られていない」ことに言及し、まずは両者が分かりあうことの必要性を強調しました。一方で、CSMのジェレミー・ティル学長は、「世界で起きている問題は、ハイブリッドな考え方で解決策を考えねばいけない。アート・デザインと科学の間で手法や洞察を共有し、境界を越えていきたい」と熱く語りました。

東工大の三島学長
東工大の三島学長

CSMのティル学長
CSMのティル学長

セッション1「デザインと産業」では、建築家の豊田啓介氏、新進気鋭のファッションデザイナー山縣良和氏、菌糸体を利用したテキスタイル(織物)を考案するCSMのキャロル・コレット教授が登壇しました。コレット教授は「成功基準を明確にするためには仮説が必要。成果を論文にして社会に影響を与え始めたとき、デザインは社会に問題を投げかけるものになる」との自身の見解を語りました。豊田氏のプレゼンテーションでは、静的に見られがちな建築というものに対して「動きを持たせ街とコミュニケーションさせる」という豊田氏の発想に、会場が驚きと感銘を受けました。

東工大の広瀬茂男名誉教授
東工大の広瀬茂男名誉教授

セッション2のテーマは「アートと科学技術」です。ヘビ型ロボットで知られる東工大の広瀬茂男名誉教授、準知的粘菌などと協働するアーティストであるCSMのヘザー・バーネット学科長、地域性を活かしたインスタレーション、アート教育を展開する東京藝術大学の日比野克彦教授が登壇し、実験との向き合い方が議論されました。バーネット学科長は「実験はクリエイティブの根幹にある」とし、広瀬氏は「実験は理論と現実をつなぐ。思考ではわからないことが実験で理解でき、新しい視野を与えてくれる」と語りました。

最後のキーノートセッションでは、池上特命教授がモデレータとして登場し、あらためて「実験」とは何かを見直す議論となりました。ティル学長の「アート・デザインは美しく、洗練されたものを作り出すだけでなく、社会との関わりによって政治、経済をも変える力を持つ」という言葉が印象的でした。その他、現代アートを専門とするリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授、分子ロボットを専門とする情報理工学院 情報工学系の小長谷明彦教授、また、シンポジウム企画チームのリーダーであり言語学、翻訳学が専門の環境・社会理工学院 融合理工学系の野原佳代子教授が登壇しました。

伊藤准教授の「視覚障がい者は頬に感じる風で街の様子を掴む。標準と違うからこそ気づくこともある」などの語りには、多くの来場者が共感しました。小長谷教授は、「生体の微小管を使って人工的に制御できる分子ロボットが、将来、がん治療にも役立つようになるかもしれない」と語りました。

キーノートセッションの様子
キーノートセッションの様子

野原教授は最後に、「今回のような異分野コミュニケーションでは、各自の言語間の文化的背景が違うため、必ず意味の理解にズレが生じるものだが、そこにこそ面白さがある。相手によって表現を変え、内容を調整することが翻訳であり、今回の議論はある種の実験である」とし、そのズレから新しい学問が生まれる可能性を示唆しています。

「実験」にはそれぞれ、異なる立場があり見方があります。「実験」という立場をとらないアプローチもあること、また、「実験」を軸に、多様な分野を斬っていく、互いの違いと共通点を見出す、そのきっかけを垣間見る機会となりました。池上特命教授が今回の議論を「大きな可能性をはらむ社会的実験」と総括して、本シンポジウムは終了の時を迎えました。

後日、一般来場者に対して、「今回のシンポジウムで何が得られたか」、「どこが印象に残ったか」などのアンケートを実施しました。

「方向の違う専門家たちのコラボレーションにより、結論が膨らみを持ち、多角的な視点によりさらなる改善もできるということが多々見受けられた」「実践的な英語の学習にもなり、大満足」「充実した内容だったので、丸ごとテレビやネットでの配信にも需要があるのでは」「根源的なテーマをとりあげてもらった」「渋谷の一等地でチャレンジしたことに意味があった」といった、たくさんのポジティブなご意見をいただきました。一方で、「発表演題が多すぎて、ディスカッションの(所要)時間が少なかった」「各発表間のつながりが感じられず、事前にもっと調整が必要」といった注文もいただきました。

今回のシンポジウムの実施を受けて、本プロジェクトの関係者が想像していたよりもずっと、一般来場者はアンテナ感度が高く、科学技術とアート・デザインの結び目の未来を熱く考えていることがわかりました。今後も東工大にしかできない次世代の創造性を、CSMとともに思考していきます。CSMとのコラボレーションは2017年秋から本格化しますので、ぜひこれからも本プロジェクトにご期待ください。

お問い合わせ先

東工大×CSM「The Experiment 科学・アート・デザインの実験」事務局

E-mail : tokyotechxcsm@tse.ens.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3521

「環境報告書2017」発行

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環境報告書2017

2016年度における本学の研究・教育活動に伴う環境負荷低減の取り組み・環境保全活動をまとめ、「環境報告書2017」として発行しました。

環境報告書は、企業などの事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取組の状況等について取りまとめ、名称や報告を発信する媒体を問わず、定期的に公表するものです。

2004年に環境報告書の普及活動、信頼性向上のための制度的枠組みを整備し、環境報告書を社会全体として積極的に活用していくために「環境配慮促進法」が制定され、独立行政法人や国立大学法人等の特定事業者は、毎事業年度の報告書の作成と公表が義務つけられています。本学では2005年度より印刷物およびWebで公表しています。

環境報告書2017

目次

  • ごあいさつ
  • 第1章
    東京工業大学の概要
    • 1-1
      組織構成
    • 1-2
      基本的要件
  • 第2章
    環境・安全衛生マネジメント
    • 2-1
      環境方針・安全衛生方針
    • 2-2
      環境・安全衛生マネジメントの目標と行動
    • 2-3
      省エネルギーとCO2対策の取組
    • 2-4
      一般廃棄物による環境負荷低減の取組
    • 2-5
      化学物質による環境負荷低減の取組
    • 2-6
      キャンパス整備における環境配慮の取組
    • 2-7
      環境と安全衛生の両面に配慮したマネジメント活動
  • 第3章
    環境パフォーマンス
    • 3-1
      研究・教育活動と環境負荷の全体像
    • 3-2
      エネルギー使用量
    • 3-3
      省エネルギーとCO2削減
    • 3-4
      化学物質管理
    • 3-5
      実験系産業廃棄物
    • 3-6
      その他物資
  • 第4章
    環境に貢献する科学技術研究
    • 4-1
      世界をリードする環境・研究の推進
    • 4-2
      最先端の環境関連研究内容~トピックス~
  • 第5章
    環境教育と人材育成
    • 5-1
      講演会・講習会
    • 5-2
      環境関連カリキュラムの充実
    • 5-3
      附属科学技術高等学校における環境教育
    • 5-4
      在学生からのメッセージ
    • 5-5
      卒業生からのメッセージ
  • 第6章
    社会貢献活動
    • 6-1
      公開講座・学園祭等
    • 6-2
      学生の環境保全活動
    • 6-3
      構内事業者の取組
  • 「環境報告ガイドライン2012」との対照表
  • 第三者意見
  • 東工大の改革推進体制(2017年)
  • 「東京工業大学環境報告書2017」発刊によせて
  • 編集後記

「環境報告書2017」は、キャンパスマネジメント本部 総合安全管理部門ホームページouter等でご覧いただけます。

お問い合わせ先

総合安全管理部門 環境報告書作成事務局

Email : kankyouhoukoku@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3407

第25回高校生のための夏休み特別講習会「バイオの世界を探検してみよう」開催報告

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8月3日~4日にすずかけ台キャンパスで「第25回高校生のための夏休み特別講習会」が開催され、48名の高校生が参加しました。

東京工業大学生命理工学院では、高校生に実験を通して現代の科学技術の柱の1つである生命理工学の最前線を体験してもらい、この分野の面白さを発見してもらうことを目的として、毎年、講習会を開催しています。

今回のテーマは、「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」と「生命を司る分子機械、“蛋白質”」の2つでした。

講習会は、生命理工学院 生命理工学系の山口雄輝教授と林宣宏准教授、その他研究室スタッフや大学院生・大学生のTA多数の協力により無事に終了しました。

担当した教員の講演者レポートと、講習会についてのアンケートの結果(感想など)については以下をご覧ください。

TA:ティーチングアシスタントの略。大学などにおいて、担当教員の指示のもと、学生が授業の補助や運用支援を行うこと、あるいはそれを行っている学生のこと。

講演者レポート

生命理工学院 山口雄輝教授「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」

8月3~4日の2日間、本学すずかけ台キャンパスものつくり教育研究支援センターにおいて、高校生48名を対象に講習会を実施しました。担当者の1人として「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」と題して、指紋の検出、血痕の検出、DNA鑑定、コンピューター実習の4つを行いました。

指紋の検出にはニンヒドリン反応を用い、高校生それぞれが触ったコピー用紙に残された指紋や掌紋を可視化してみせました。また、血痕の検出にはルミノール反応を用い、DNA鑑定にはSTR法を用いました。なお、STR法とはマイクロサテライトを用いた多型解析の方法で、法医学の現場で広く用いられているものです。具体的には、まず布片に残された複数の赤いシミの中からルミノール反応によって血痕を特定し、次にその血痕からゲノムDNAを抽出し、さらにPCRによってSTR座位を増幅し(12種類の産物が得られる)、最終的にマイクロチップ電気泳動によってDNAの断片長を推定しました。単に手を動かすだけでなく、原理の説明や得られたデータの解析にも多くの時間を割きました。さらに、ものつくり教育研究支援センターのPCルームで1人1台端末を割り当て、ウェブベースのゲノムブラウザを操作してヒトゲノムの中を「探検」してもらい、情報量の膨大さを体感してもらいました。

科学捜査にしても、科学研究そのものにしても、”見えないものを明らかにしたい”という動機が元にあります。指紋の跡は肉眼ではほとんど見えませんが、化学反応を利用すればはっきりと可視化できます。赤インクと血痕は見た目では区別がつきかねますが、やはり化学反応を利用して区別することができるのです。各個人は固有なゲノム配列をもっていると言っても、DNA分子は微量しか存在しませんし、そもそも小さすぎて見えません。しかしゲノムDNAの一部をPCRで増幅し、蛍光色素で染色すれば、その特徴を捉えることができます。科学捜査という高校生も興味を持ちやすい題材を用いて、生命科学一般への関心を呼び起こすことができたのではないかと思います。

なお、バイオハザード等の観点から、本講習会では人間や動物の血液を含まない「偽血液」を使用したことを最後に付記しておきます。

山口雄輝教授の挨拶
山口雄輝教授の挨拶

山口研究室スタッフ
山口研究室スタッフ

生命理工学院 林宣宏准教授「生命を司る分子機械、“蛋白質”」

今回は、“生命とは?”という大命題を若い世代にいま改めて考えてもらうために、生命現象を担う実体である蛋白質を理解し、体感し、それによってさらに生命を不思議と思ってもらえるようなプログラムを企画しました。

「蛋白質」という言葉を知らない人はいないと思いますが、ほとんどの人にとって、蛋白質は三大栄養素の1つという位置付けです。しかし、なぜ蛋白質を食べないといけないのかを、ちゃんと本質的に理解している人はほとんどいません。そこで、まず、蛋白質こそが生命現象の担い手であることを理解してもらい、「自身の蛋白質を身体のなかで作るための材料として、蛋白質を食べないといけないのだ」ということを理解してもらうことを目論みました。そのために、我々にとって身近な生理現象(食べたものが身体の中で消化される、考える、視る、身体を動かす、等)をいくつか取り上げて、それらに関与する蛋白質の形と機能を紹介しました。さらに、我々の身体はそういった蛋白質が集まって出来ているが、本来あるべきところから別の場所に移してもちゃんと働くことを、オワンクラゲのGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子を導入した大腸菌が、オワンクラゲのように緑色に光るのを観察することで実感してもらいました。また、蛋白質は分子“機械”であり、生体から取り出してもその機能が維持されることを、GFPを発現している大腸菌からGFPを精製し、それが緑色に光る様子を観ることで理解してもらいました。

生命を本質的に理解するには、その現象に関わっている蛋白質が何かを暴くことが重要です。多くの研究では、着目している現象に関わる蛋白質を探し出すことが最も重要な課題の1つであるということを説いて、参加者には未知の蛋白質が入っているという想定のサンプルチューブを配布し、それが何かを最先端の技術(質量分析データに基づくデータベースサーチ)で解明することを実体験してもらいました。さらに、それがどの蛋白質かが判れば、パソコンから公共のデータベース(蛋白質構造データバンク:Protein Data Bank)にアクセスすることで、自宅でも簡単にその機能構造を眺めることが出来るということを実習を通じて伝えました。

今回は、研究室の学生が総出でTAを務めることで、参加者と学生がなるべくたくさん交流できる機会をつくりました。実験の待ち時間を利用して本学のバイオ研究基盤支援総合センター、水棲生物飼育室、共通機器室、顕微鏡室のツアーを行いましたが、その合間にも多くの色々な話が相互に出来たようです。

この体験を通じて参加者に生命を不思議だと思う気持ちが育まれ、さらにはその秘密を自身の手で解明したいと思ってもらいたいと願うとともに、今回の参加者のうちその気持ちが動機となって研究者となった方に、将来、研究の現場で出逢うことを楽しみにしています。

林宣宏准教授の挨拶
林宣宏准教授の挨拶

林研究室スタッフ
林研究室スタッフ

講習会スナップ写真

山口研究室

実験スタート
実験スタート

ルミノール反応による発光の検出
ルミノール反応による発光の検出

林研究室

培養した遺伝子組換え大腸菌を観察
培養した遺伝子組換え大腸菌を観察

バイオインフォマティックスを体験
バイオインフォマティックスを体験

アンケート(抜粋)

高校生たちに講習会の感想を聞きました。

アンケートの詳細は、第25回高校生のための夏休み特別講習会アンケート集計結果PDFをご覧ください。

  • 先生方は高校生の私たちにもわかりやすいように説明してくださり、またTAさんも気軽に話したり教えて下さったので楽しく2日間を過ごすことができました。またTAさんとお話して東工大ライフにより憧れが増し、もっと勉強に精進していこうという気持ちになりました。
  • こちらが理解出来るまで、根気よく教えてくださいました。とてもわかりやすく、初めて触れたバイオの分野を知ることができました。
  • 自分が思っていたよりも蛋白質というものはすごく大事な存在であり、まだ、未知なものであることを知り驚きました。
  • 僕の学校では生物の授業がなく、今回は生物を使った工学がどのようなものなのかを知りたくて参加しました。全体を通して難しい部分もありましたが、生物工学に対して強く興味を持つことができました。
  • 色々な研究室やオープンキャンパスでは入れないような部屋まで入れさせてもらえて、とてもうれしかったです。また機械や器具も初めて見るようなものがほとんどで、見ていてとても楽しかったです。
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