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ありふれた物質でテラヘルツ波を可視光に変換 ―ナノ空間に閉じ込められた酸素イオンを振動させて発光―

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要点

  • 遠赤外線の一種であるテラヘルツ波を可視光に変換
  • 石灰とアルミナのみで構成される結晶(C12A7)が波長変換の機能
  • ありふれた元素を使って有用な機能を創出(元素戦略)

概要

赤外線[用語1]より波長の長い電磁波であるテラヘルツ波[用語2]は、金属以外の物質を良く透過することから空港等のセキュリティー検査に応用されている他、核融合プラズマの高周波加熱装置や次世代の大容量無線通信帯域としての利用も期待されています。しかしながら、テラヘルツ波は分子の非常に弱い振動や回転にのみ作用するので検出が困難です。

このような背景の中、東京工業大学の細野 秀雄 教授、戸田 喜丈 特任講師らのグループは、弘前大学の石山 新太郎 教授、福井大学の出原 敏孝 特命教授、パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)のピーター・スシュコ 博士らと共同で、石灰(CAO)とアルミナ(AL2O3)から構成される化合物12CaO・7Al2O3(以下、C12A7)がテラヘルツ波を吸収し、容易に視認できる可視光に変換できることを見出しました。この特性は、ナノサイズのケージ中に閉じ込められている酸素イオンの振動がテラヘルツ波を吸収することにより誘起されるため生じることが分かりました。酸素イオンは狭いケージの中で強制的に振動させられることにより、ケージの内壁と繰り返し衝突し、励起され発光します。C12A7はアルミナセメントの構成成分の一つで、安価で環境にやさしい物質です。室温・空気中で安定な電子化物は、そのケージ中の酸素イオンを電子で置き換えることで初めて実現するなど、いろいろな機能が見出されてきました。それらの機能に加えて今回、遠赤外光の可視光変換という新しい機能が見出されたことになります。

本成果は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>、福井大学 遠赤外領域開発研究センターの公募型共同研究の支援も一部受けたものです。

また本成果は、11月3日に米国化学会の論文誌ACS Nano(エイシーエス ナノ)のオンライン速報版に掲載されました。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

JST戦略的創造研究推進事業 ACCEL

研究開発課題名
:「エレクトライドの物質科学と応用展開」
研究代表者
:細野 秀雄(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授、元素戦略研究センター長)
プログラムマネージャー
:横山 壽治(科学技術振興機構)
研究開発期間
:平成25年10月~平成30年3月

研究の背景

遠赤外線の一種であるテラヘルツ波は、金属以外の物質を良く透過し、X線よりも照射による人体への影響が格段に小さいことから、空港等のセキュリティー検査に応用されています。また、テラヘルツ波は従来の無線通信で利用されているギガヘルツ帯域よりも高周波数なので、核融合プラズマの高周波加熱装置や次世代の大容量無線通信への応用も期待されています。しかしながら、テラヘルツ波は分子の振動や回転のような非常に微弱なエネルギーの運動にしか作用しないため、検出が困難という問題点がありました。

本研究で得られた結果と知見

C12A7は、アルミナセメントの成分の一つで、クラーク数が1、3、5の酸素、アルミニウム、カルシウムという極めてありふれた元素のみから構成されています。図1のように内径0.4ナノメートル程度の籠(かご)状の骨格が面を共有して繋がった結晶構造をしており、この籠には1/6の割合で酸素イオン(O2-)が含まれています。この酸素イオンは結晶骨格よりも弱い力で籠の中に閉じ込められています。

このC12A7にジャイロトロン[用語3]により生成される0.1~0.3 THzのテラヘルツ波を照射したところ、図2の写真に示すように通常の明るさの下で、十分な視認ができるほどの可視光の発光が生じることを見出しました。この発光はテラヘルツ波照射の停止と同時に速やかに停止します。発光のスペクトルの解析から、その由来は酸素イオンであることが分かりました。第一原理計算[用語4]の結果から、テラヘルツ波によりC12A7の籠の中の酸素イオンの振動が優先的に誘起されることが分かりました(図3)。この振動の誘起により酸素イオンはC12A7の籠の内壁に連続的に衝突を繰り返すことになります。この衝突のエネルギーが蓄積することにより、以下のような2種類の酸素の励起状態が生成し、そこから可視発光することが分かりました。

1.
酸素イオンO2-が酸素原子O0と2つの電子が解離する寸前までに至った励起状態
2.
1で生じたO0がケージの壁を越えて結合しO2を形成し、さらにそこに電子が捕らえられることで生じるO2-の電子レベルの励起状態

すなわち、テラヘルツ波をケージ中の酸素イオンが吸収し、それによって酸素イオンのケージ内での振動が生じます。そうすると、ケージの壁と衝突することになります。この衝突によって、酸素イオンから酸素原子、酸素分子と電子に過渡的に変換されます。そして、そこから元に戻る際に可視発光が生じると考えられます。波長の長い光をナノ空間に閉じこめられた酸素イオンが吸収し、それによって空間内の運動が活発化し、壁との衝突のエネルギーによって、酸素イオンの電子を高いエネルギー状態にし、そこから元に戻るときに波長の短い可視光を発するということです。照射したテラヘルツ波の波長は3,000~9,000 μM、発光波長は0.6 μMですので、波長を約1万分の1まで短くすることができたことになります。稀にみる光の波長のアップコンバージョン(上方変換)といえます。

C12A7の結晶構造。ナノメートルサイズの籠から構成されています。籠の内部には酸素イオン(紺色、O2-)が入っています。

図1. C12A7の結晶構造

ナノメートルサイズの籠から構成されています。籠の内部には酸素イオン(紺色、O2-)が入っています。

ジャイロトロンより生成したテラヘルツ波(出力:約50 W)を照射したC12A7単結晶。試料ホルダーの石英ガラスにも同様に照射されていますが、発光はC12A7のみで起こっていることが確認できます。テラヘルツ波の照射を停止すると発光も速やかに停止します。右は発光のスペクトルです。可視光領域で発光していることが分かります。

図2. ジャイロトロンより生成したテラヘルツ波(出力:約50 W)を照射したC12A7単結晶

試料ホルダーの石英ガラスにも同様に照射されていますが、発光はC12A7のみで起こっていることが確認できます。テラヘルツ波の照射を停止すると発光も速やかに停止します。右は発光のスペクトルです。可視光領域で発光していることが分かります。

第一原理計算で予測したテラヘルツ波に誘起されるC12A7の籠の中での酸素イオンの運動。籠の長軸方向に振動します。C12A7の内壁に繰り返し衝突することにより、酸素イオンが発光に必要十分なエネルギーを蓄積し、酸素原子と電子に分かれます。(1)酸素原子は更に励起され、定常状態に戻る際に発光します。(2)酸素原子同士が結合し、酸素分子を形成します。C12A7のケージ内では中性のO2よりもO2-になった方が安定なので電子と結合します。その際に発光します。

図3. 第一原理計算で予測したテラヘルツ波に誘起されるC12A7の籠の中での酸素イオンの運動。

籠の長軸方向に振動します。C12A7の内壁に繰り返し衝突することにより、酸素イオンが発光に必要十分なエネルギーを蓄積し、酸素原子と電子に分かれます。
(1)酸素原子は更に励起され、定常状態に戻る際に発光します。
(2)酸素原子同士が結合し、酸素分子を形成します。C12A7のケージ内では中性のO2よりもO2-になった方が安定なので電子と結合します。その際に発光します。

研究の今後の展開と波及効果

今回の成果は、セメントの構成成分でもある、安価な化合物C12A7のみを使用し、検出の困難なテラヘルツ波を可視光に変換できることを示しました。これにより、テラヘルツ波検出のための装置の簡略化が期待できます。また、C12A7のナノケージには酸素イオンの他、水素物イオンやハロゲンや金のアニオンなども取り込むことが可能です。これらのイオンの振動を励起する波長のテラヘルツ波を照射すれば、酸素イオンの場合とは異なった色の発光や元素プラズマ[用語5]が得られるものと考えられます。

これまでC12A7というありふれた元素から構成される物質を舞台に、電気伝導性、超伝導、電子放出源、アンモニア合成触媒、二酸化炭素再資源化のための還元作用などいろいろな機能を開拓してきました(元素戦略)が、今回は遠赤外光の可視光への波長変換という新しい機能が見出されました。ありふれた元素から構成されていても、そのナノ構造由来の多種多様な機能を有していることが分かります。我々はC12A7に限らず、元素の組み合わせとナノ構造に着目することで未知の新しい機能を見出すことができるのではないかと期待しています。

用語説明

[用語1] 赤外線 : 赤色光で波長0.74~1,000 μm領域に相当する電磁波。

[用語2] テラヘルツ波 : 遠赤外線領域の特定の範囲内(0.1~10 THz)の光の帯域の総称。電子レンジや現在の無線通信で主に使用されている帯域は2.5~5 GHzでテラヘルツ波の約1/1,000の周波数です。

[用語3] ジャイロトロン : 福井大学遠赤外領域開発研究センターで開発された「ジャイロトロン」はテラヘルツ光を高効率に出力することができる唯一の装置。電子レンジで使用されているマグネトロンと同様に真空の中で電子を高速回転(ジャイロ運動)させることにより特定の周波数の光を高出力で連続的に生成することができます。

[用語4] 第一原理計算 : 実験データなどを使わないで非経験的に構造、物性予想や、物理、化学機構の解明を行う計算手法。

[用語5] プラズマ : 高温加熱や電気的衝撃などによって正、負の荷電粒子に乖離された電離気体状態。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano(エイシーエス ナノ)
論文タイトル :
"Rattling of Oxygen Ions in a Sub-Nanometer Sized Cage Convert Terahertz Radiation to Visible Light."
和訳:サブナノメータ―サイズの籠内での酸素イオンのラトリングによるテラヘルツ波の可視光への変換)
著者 :
戸田喜丈、石山新太郎、Khutoryan Eduard、出原敏孝、松石聡、Sushko Peter V.、細野秀雄
DOI :

研究に関して

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 元素戦略研究センター長

細野秀雄 教授

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

弘前大学 大学院理工学研究科

石山新太郎 教授

E-mail : ishiyama.shintaro@hirosaki-u.ac.jp
Tel / Fax : 0172-39-3532

福井大学 遠赤外領域開発研究センター

出原敏孝 特命教授

E-mail : idehara@fir.u-fukui.ac.jp
Tel : 0776-27-8657 / Fax : 0776-27-8770

JSTの事業に関して

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ACCELグループ

寺下大地

E-mail : suishinf@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9130 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

弘前大学 理工学研究科総務グループ

E-mail : jm3505@hirosaki-u.ac.jp
Tel : 0172-39-3503 / Fax : 0172-39-3513

福井大学 広報センター

E-mail : sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp
Tel : 0776-27-9850 / Fax:0776-27-8518


未利用光を利用可能な波長に変換する新しい材料プラットフォームを開発

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未利用光を利用可能な波長に変換する新しい材料プラットフォームを開発
―深共晶溶媒により多くの長所を実現したフォトン・アップコンバーター―

要点

  • 近年注目を集める新しい流体「深共晶溶媒」を用いた光波長変換材料を開発
  • 深共晶溶媒は安価・低環境負荷・難燃・難揮発で安全な“グリーン”液体
  • 高いアップコンバージョン効率と様々な長所を同時に実現、応用実現に道

概要

東京工業大学 工学院 機械系の村上陽一准教授らは、太陽電池や光触媒などの様々な光利用技術で利用されずにエネルギー損失となっている光波長部分を利用可能な波長に変換するフォトン・アップコンバージョン(UC)技術の応用実現性を飛躍的に高める新しい材料プラットフォームを開発した。近年注目されている新しい液体「深共晶溶媒[用語1]」を媒体に用いることで、応用に望ましい性質である「低コスト・低環境負荷・難揮発性・高熱安定性・高UC効率」を同時に実現することに成功した。

本成果に関するUCの方法は低強度の太陽光にも適用可能な現状唯一の方法であり、応用への強みを有する一方、従来の実施形態では高い可燃性や揮発性を有し、不安定で環境親和性の低いものが大半で、あるいは高コストで生分解性に乏しいものに限られていたため、UC技術の応用実現に向けた障害となっていた。

このような長所の同時実現は従来の関連技術にない顕著な進歩点であり、今回の成果はUC技術の応用実現性を飛躍的に高めたランドマークになると考えられる。

本成果は英国王立化学会の査読付学術誌「フィジカル・ケミストリー・ケミカル・フィジックス(Physical Chemistry Chemical Physicsouter」に、10月25日先行オンライン掲載された。

研究成果

東工大の村上准教授らは様々なエネルギー変換において未利用で損失となっている光を利用可能な光に変換する波長変換技術である「フォトン・アップコンバージョン(UC)」において、実用上多くの長所をもつ「深共晶溶媒」を用いることに着目。探索と試行を経て、世界に先駆けて試料開発に成功し、併せて試料の諸物性の解明を行った。

光は波の性質を持つと同時にフォトン(光子)というエネルギーの粒からなる。太陽電池・光触媒・人工光合成などの光を用いたエネルギーや物質の変換には、各材料に固有な「しきい値エネルギー」(あるいは「しきい値波長」)があり、それより低いエネルギーのフォトン(しきい値波長より長波長側の光スペクトル)は現状では利用できていない(図1)。これは光エネルギーの損失であり、この点が様々な光変換技術の効率を制限する根本原因となっている。すなわち、高エネルギーのフォトン群(短波長の光)は様々な変換に用いることができ、低エネルギーのフォトン群(長波長の光)より遥かに利用価値が高い。このような光エネルギー変換における損失(無駄)を根本的に回避する方法がUCである(図1)。 UCとは現状未利用な「エネルギーの低い光子群(長波長の光)」を利用可能な「エネルギーのより高い光子群(短波長な光)」に変換する波長変換操作である。

光利用における根本制限の存在およびフォトン・アップコンバージョン(UC)の概念図。

図1. 光利用における根本制限の存在およびフォトン・アップコンバージョン(UC)の概念図。

深共晶溶媒は低コスト・低毒性な2種類の物質を混合させるだけで生成でき、一般に高い熱安定性と生分解性をもつことから、環境負荷の低い流体として近年応用探索が活発化している比較的新しい流体である。深共晶溶媒は難揮発性と難燃性とを備えた安全かつ低コストの液体である。深共晶溶媒を形成可能な原料の組み合わせは無数に存在し、事実上無限の種類が可能なため、用途や目的に応じて2種類の原料を適切に選択する必要がある。

今回の研究では、深共晶溶媒の探索と試行により、ある一群の「疎水性深共晶溶媒[用語2]」がUCの目的に適することを見出し、これが成果につながった。図2に開発した試料を示す。このように、緑色光から青色光へのUCを実現し、試料の熱安定性(難着火性)を確認した。

本成果に用いた疎水性深共晶溶媒と開発したフォトン・アップコンバージョン試料。

図2. 本成果に用いた疎水性深共晶溶媒と開発したフォトン・アップコンバージョン試料。

さらに試料のUC効率が、用いた深共晶溶媒を構成する2つの成分比によることを見出し、様々な光計測実験結果に基づき、その理由を解明した。最大の変換効率を示した試料はUC量子収率(最大が0.5の定義;UCでは2個の低エネルギー光子から最大1個の高エネルギー光子を生成するため)が0.21に達した。これは、最大効率を100%とした量子効率では42%にあたる、比較的高い値である。

本成果の意義はUCを行う有機分子の媒体に深共晶溶媒を用いることに着目し、目的に適する深共晶溶媒を見出したこと、そして低コスト・低環境負荷・難揮発性・高熱安定性・高効率の長所を同時に実現したフォトン・アップコンバーターを初めて開発し、UC技術の応用実現性を飛躍的に高めたことにある。

背景と経緯

本研究で用いたUCは有機分子の励起三重項状態[用語3]とそれらの分子間のエネルギー移動を用いる方式であり、これは太陽光やランプ光などの偏光が揃っていない光(非コヒーレント光)に対して有意な効率でUCが行える現状では唯一の方式であるため、近年研究が活発化している。この方法は近距離での分子間エネルギー移動を用いるため、有意なUC効率を追求する場合、媒体中での有機分子間の適切な衝突が必要となる。そのため従来は低粘度液体であるトルエンやベンゼンなどの有機溶媒を媒体に用いる報告が大半であった。あるいは揮発性の回避のために、ポリウレタンやアクリルなどの樹脂に有機分子を埋め込んだ報告もあったが、それらの試料では一般に有機分子の拡散性が著しく低下し、UC効率が犠牲となっていた。また、これらの試料では依然可燃性と着火性が高く、熱安定性に乏しいことが応用実現に向けた問題となっていた。他方、可燃性と揮発性の問題を解決した試料として、イオン液体(常温溶融塩)を用いたアップコンバージョン試料を同研究グループが以前開発していたが、イオン液体は原料と合成のコストが比較的高く、一般に生分解性が低いことから、これらの解決が必要であった。このような背景と経緯により、同研究グループはこれらの課題解決への取り組みを行い、今回の成果をあげることに成功した。

今後の展開

今回の研究で得られたUC量子収率0.21(UC量子効率42%)は高い値と言えるが、理論上限である0.5(100%)までには依然余地がある。そのような上限値の達成は容易ではないが、ある程度の効率向上は、例えばより励起三重項状態寿命が長い分子を用いることにより実現が見込まれる。また、今回の成果は緑色光(530 nm付近)から青色光(440 nm付近)へのUCについてのものだが、異なる波長域に対応する有機分子についても特性の検証が必要である。この成果はUCの実施に適する材料面での共通プラットフォームを開発したものであり、今後のUCの応用実現を大きく推進すると期待される。

関連情報

本成果はラグナトプル大学(インド)のSudhir Kumar Das博士との国際共同研究で得られた。研究遂行にあたり日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 若手研究(A)(課題番号JP26709010)および日本化薬株式会社の助成支援を受けた。

用語説明

[用語1] 深共晶溶媒 : 2種類の物質、「水素結合ドナー」および「水素結合アクセプター」(その両方または一方は室温で固体)をある混合比で混合することにより、共晶融点降下により室温で液体となるもの。通常、「水素結合ドナー」も「水素結合アクセプター」も無害あるいは毒性が実用上問題とならない程度低いものが多い。高い熱安定性、化学反応を伴わない単純混合で作製できる点、低コスト、生分解性、環境親和性から、また、事実上無限に存在する「水素結合ドナー」と「水素結合アクセプター」の組み合わせにより物性をデザインできる特長から、近年研究開発が活発になってきている。似たような液体としてイオン液体(常温溶融塩)が存在するが、不揮発性と不燃性の点では深共晶溶媒より優れるものの、生成に化学反応を必要とし原料コストも一般に高いため、深共晶溶媒はイオン液体の長所を有しつつ短所を解決した液体とみなされることがある。深共晶溶媒の詳しい解説論文には、Chemical Reviews, vol. 114, pp. 11060−11082 (2014)やACS Sustainable Chemistry & Engineering, vol. 2, pp. 1063−1071 (2014)などがある。

[用語2] 疎水性深共晶溶媒 : 深共晶溶媒は通常すべて親水性である。しかしUCの目的に用いられる有機分子は多環芳香族分子で、これらは一般に疎水性である。そのため、通常の親水性の深共晶溶媒を用いると、高いUC効率の到達に必要な溶解度が得られない問題があった。一方、有機分子を親水基で修飾して親水化すると、有機分子と深共晶溶媒との間に強すぎる水素結合相互作用が発生してしまい、分子拡散性が妨げられる問題が判明した。このような「溶解度」と「分子拡散性」のジレンマを解決したのが、最近初めて報告された疎水性深共晶溶媒を用いる着想である。本成果では、Green Chemistry, vol. 17, pp. 4518–4521 (2015)に報告された疎水性深共晶溶媒を用いている。

[用語3] 励起三重項状態 : 分子の励起状態では最高被占軌道と最低空軌道とに一個ずつ電子が入る。それらの電子のスピンが同じ向きになるのが三重項状態で、比較的長い励起状態寿命(~ミリ秒)をもつ。

論文情報

掲載誌 :
Physical Chemistry Chemical Physics(Royal Society of Chemistry)
論文タイトル :
Triplet-sensitized photon upconversion in deep eutectic solvents
著者 :
Yoichi Murakami, Sudhir Kumar Das,Yuki Himuro, Satoshi Maeda
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 機械系

准教授 村上陽一

E-mail : murakami.y.af@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3836

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大ボート部 全日本選手権で5位入賞

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東京工業大学 端艇部(ボート部)が、10月26日~10月29日にかけて埼玉県戸田市で行われた第95回全日本選手権大会に出場し、男子舵手付きフォアで、全国5位入賞を果たしました。

全国5位入賞を果たしたクルー(左から、池田さん、稲子さん、藤井さん、三浦さん、小川さん)

全国5位入賞を果たしたクルー(左から、池田さん、稲子さん、藤井さん、三浦さん、小川さん)

同大会は日本最大規模の大会で、リオデジャネイロオリンピックに出場した選手や東京オリンピックに出場する可能性がある選手も多数参加する非常にレベルの高い大会です。本大会にて男子舵手付きフォアで全国入賞をするのは東工大ボート部としては30年ぶりの快挙となります。

両手で1本のオールを持って漕ぐスウィープタイプのボートで、4人の漕手が二手のサイドに分かれ、それとは別に舵手(コックス)が1人乗り、1チーム5人により構成される競技。

クルー5人のコメント

コックス

三浦弘靖さん (工学部 土木環境工学科 学士課程4年)

このクルーはメダルを目指していただけにとても悔しい結果となってしまいましたが、順位決定戦では自分達の実力を出し切ることができ、1着でゴールすることができました。応援ありがとうございました。今大会をもって4年生は引退するためメダルに手が届かなかった悔しさを晴らす術はないのですが、同じクルーに乗っていた3年生や試合を観戦していた後輩が中心となって来年はメダルを取ってきてくれるのではないかと期待しています。引き続き東京工業大学端艇部に熱い応援をよろしくお願いいたします。

ストローク

藤井健人さん (工学部 電気電子工学科 学士課程4年)

4年生にとっての引退試合、それも学生だけでなく社会人(プロ)も出場する日本最大の大会で5位入賞を果たせました。メダルを目指していただけに悔しさもありますが、この思いは来年後輩が晴らしてくれると信じています。

振り返ると敗者復活戦、順位決定戦のどちらも「逆転」で「1秒差」を制した試合でした。インカレで対抗エイト7位入賞を果たしてからの2ヶ月間、もうひと回りレベルアップしようとマネージャーを含めた部員全員でもう一度「団結」したこと。よく相談に乗って下さった社会人の方々からのアドバイス。OB・OG、大学からの十二分な支援。教授のご配慮や多くの友達からの応援。全てがこの「1秒の短縮」に繋がったと確信しています。

この恵まれた環境で活動できたことを本当に嬉しく思うと同時に、支えて下さった多くの方々への感謝の気持ちが溢れています。本当にありがとうございました。4年間を通し、最高に濃密で充実した端艇部ライフでした。

3番

小川翔太郎さん (工学部 化学工学科 学士課程3年)

応援ありがとうございました。全日本選手権で5位入賞という結果を残せたことを嬉しく思います。ただ、この結果は最高の結果ではないので、私たちは更なる高みを目指しこれからも練習に励んでいきます。これからも応援よろしくお願いします。

2番

池田郁也さん (生命理工学部 生命工学科 学士課程4年)

自分の引退試合で5位入賞という結果を残せて嬉しいです。練習ではうまくいかないことが多く、気持ちが折れそうになりましたが、クルーチーフの藤井に喝を入れられ最後まで目標意識を持って漕ぐことができました。また、コーチの的確な指導、マネージャーの日々のサポート、OB・OGの方々の多大な支援、そして同期、後輩を含む東工大ボート部全体の応援があっての結果であり、全員でつかみ取った日本5位だと思います。僕はこれで引退しますが、来年は頼もしい後輩が今年以上の結果を残してくれると期待しています。引き続きボート部の応援をよろしくお願いします。

バウ

稲子晴也さん (生命理工学部 生命科学科 学士課程4年)

全日本での入賞は東工大としては30年ぶりの快挙だそうですが、目標がメダル獲得であったため結果は悔やまれます。ただ、ここ最近の東工大からは流れを変える起点を築き上げました。自分は今大会で引退なのですが、来年以降ボート部がより強いチームとなることを信じています。これからも応援よろしくお願いします。

試合風景

試合風景

試合風景

東工大基金

端艇部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学端艇部

E-mail : titboat@green.ocn.ne.jp

第23回スーパーコンピューティングコンテスト本選開催報告

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「夏の電脳甲子園」として、高校生・高専生が4日間をかけて難題を解くプログラムを作成し、その性能を競う「スーパーコンピューティングコンテストSuperCon(スーパーコン)2017」(以下、スーパーコン)の本選が、8月21日から8月25日にかけて東京工業大学学術国際情報センターで開催されました。

東工大学術国際情報センター、大阪大学サイバーメディアセンターが主催するスーパーコンは、高等学校もしくは高等専門学校の高校相当学年の学生からなる2~3名のチームが、スーパーコンピュータを駆使して難問を解くプログラミングコンテストで、今年は大阪大学のスーパーコンピュータ「SX-ACE」が使用されました。35チームの応募があり、その中から予選により20チーム(東日本10チーム、西日本10チーム)が選抜されました。本学の会場には東日本10チームが、大阪大学サイバーメディアセンターの会場には西日本10チームが集まり、本選を戦いました。

今年の本選課題

今年の本選課題は「オーディオデータを近似的に圧縮しよう」です。

CDなどのデジタルオーディオでは、元となるアナログ信号を、短い時間間隔でサンプリングして整数データにするPCM方式によりデジタルデータに変換されています。デジタルデータをできるだけ効率よく保存するための方法はMP3やAACのようにさまざまものが考案されています。この本選課題では1ビット・エンコーディングという、音量の変化を前の時刻に比べて増えるか減るかの1ビットデータで表す方法を考えます。

この課題の目標は、音楽のPCMデータを1ビット・エンコーディングでなるべく精度よく圧縮するプログラムを作ることです。

AACは、Advanced Audio Coding(アドバンスド オーディオ コーディング)の略であり、MP3の後継フォーマットとして、MPEG-2およびMPEG-4で使われる音声圧縮技術を指します。

本選課題の詳細は、以下を参照してください。

スーパーコン2017 本選課題説明PDF

発表会・表彰式

発表会・表彰式は8月25日に、東工大蔵前会館ロイアルブルーホール(東京会場)、大阪大学サイバーメディアセンター豊中教育研究棟7階会議室(大阪会場)において、テレビ会議システムを用いた中継のもと、開催されました。大阪大学サイバーメディアセンターの下條真司(しもじょう しんじ)センター長・応用情報システム研究部門 教授の開会挨拶に始まり、大阪大学 小川哲生理事・副学長からの主催校挨拶(大阪会場)、東工大 学術国際情報センターの山田功センター長・工学院教授、情報処理学会情報処理教育委員会の萩谷昌己委員長の来賓挨拶に続いて、参加チームの紹介や本選課題・審査方法の説明等を大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠スーパーコン2017実施委員会委員長・大規模計算科学研究部門 教授が行いました。

本選結果

上記発表会・表彰式において、1位から3位までのチームに対しメダルと賞状が、大阪大学小川理事・副学長から贈呈されました。

また、優れたアルゴリズムやプログラムを作成したチームに贈られる学会奨励賞(電気情報通信学会通信・システムソサイエティスーパーコンピューティング奨励賞、情報処理学会若手奨励賞)は1位のチーム「solars」が受賞しました。

競技結果

順位
チーム名
学校名
スコア
1
solars
北九州工業高等専門学校
20点
2
KMiBa
筑波⼤学附属駒場⾼等学校
13点
2
WayKey
静岡県⽴浜松⼯業⾼等学校
13点
4
poyo
N高等学校
12点
5
cyLOGIC
海城高等学校
8点
6
VitaminT
和歌山県立紀北工業高等学校
5点

優勝チームsolars

優勝チームsolars

東京会場

東京会場

大阪会場

大阪会場

なお、本コンテストの入賞は東工大第1類の推薦入試の実績として評価されます。

来年も「夏の電脳甲子園」の熱戦を期待しています。

お問い合わせ先

学術国際情報センター
スーパーコン17実施委員会

E-mail : sc17query@gsic.titech.ac.jp

NHK Eテレ「バリバラ」に工学院の鈴森康一教授と学生が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授と、阿部智輝さん(修士課程1年)、古泉祥一郎さん(学士課程4年)が、NHK Eテレ「バリバラ」に出演します。

阿部さん(後列右から2人目)古泉さん(後列右から3番目)

阿部さん(後列右から2人目)古泉さん(後列右から3番目)

人工筋肉が使用された衣装を纏うモデル達
人工筋肉が使用された衣装を纏うモデル達

「バリバラ」は、障害のある人に限らず「生きづらさを抱えるすべてのマイノリティー」の人たちにとっての“バリア“をなくすために、みんなで考える情報バラエティー番組です。

10月28日に障害を魅力に変えるバリアフリーファッションショー「バリコレ」が京都で行われ、鈴森教授が開発した人工筋肉を用いて文化服装学院が「MOVEMENT~最新技術で斬新コミュニケーション」をコンセプトにデザインした衣装が披露されました。

東工大と文化服装学院のチームは2017年11月26日放送予定の後編に登場します。

鈴森康一教授のコメント

東工大のテクノロジーと、文化服装学院のファッションのコラボにより「動く服」の制作にチャレンジしました。4人のモデルの方にも楽しんでいただけたようで、社会における人工筋肉の新たな可能性を感じた楽しいイベントでした。

阿部智輝さんのコメント

今回、研究の場で活躍してきた人工筋肉を、ファッションショーという場で活躍させる貴重な経験をさせていただきました。今までの自分になかった観点から人工筋肉について考えた経験を今後の研究にも生かしていきたいです。

古泉祥一郎さんのコメント

人工筋肉の使い方の幅が広がる、有意義なイベントでした。マイノリティーを抱える方々にとって、僅かでも力になれていたら幸いです。また、個人としても、これまで縁のなかった華やかな舞台に携わることができる貴重な体験をさせていただきました。

放送予定日

  • 番組名
    NHK Eテレ「バリバラ」
  • タイトル
    バリコレ「バリアフリーファッションショー バリコレ2017前編」
  • (再放送)
    2017年11月24日(金)0:00 - 0:29 ※木曜深夜
  • タイトル
    バリコレ「バリアフリーファッションショー バリコレ2017後編」
  • 放送予定日
    2017年11月26日(日)19:00 - 19:29
  • (再放送)
    2017年12月1日(金)0:00 - 0:29 ※木曜深夜

関連動画(字幕:英語)

多繊維型人工筋肉で駆動される筋骨格ロボット

多繊維人工筋肉による首駆動機構の模擬

20mの長いロボットアーム ―バルーン型ジャコメッティアーム―

軽量でスリムな6脚ジャコメッティロボット

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

リヨン・アーバン・スクールのミシェル・リュソー学長が東工大を訪問

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三島学長(前列中央)とリュソー学長(前列右)、マタス理事(前列左)

三島学長(前列中央)とリュソー学長(前列右)、マタス理事(前列左)

10月3日、フランスのリヨン大学前学長であり、現在はリヨン・アーバン・スクール(LUS)の学長であるミシェル・リュソー教授、リヨン大学のジャン・マタス国際担当理事が訪問し、本学の三島良直学長、環境社会理工学院の岸本喜久雄学院長、安田幸一教授、朝倉康夫教授、中井検裕教授と懇談を行いました。

リヨン大学は、2007年にリヨン地域に所在する主要高等教育・研究機関で構成され、大学の国際競争力強化等を目的として設立された大学連合組織です。LUSはリヨン大学を中心として新たに設立された機関で、地球規模で進展している都市化と環境の変化に起因した社会的な課題に学際的にアプローチすることを目的としています。

懇談の様子

懇談の様子

今回のリュソー学長の訪問は、都市化、都市計画の分野において、本学の環境・社会理工学院とLUSとの連携を模索することを目的にしています。同学院では、大きく方向転換しつつある地球・都市環境および社会情勢の変化の中で、さまざまな分野を横断する複合的な問題を工学的に取り扱っており、懇談ではLUSとの連携可能な研究課題について意見を交わしました。

平成29年度「東工大学生リーダーシップ賞」授与式挙行

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平成29年度の「東工大学生リーダーシップ賞」授与式が、10月25日に学長室で行われました。

この賞は、本学学士課程の2年次から4年次の学生を対象とし、学生の国際的リーダーシップの育成を目的としています。知力、創造力、人間力、活力など、リーダーシップの素養に溢れる学生を表彰し、さらなる研鑽を奨励するために平成14年度から実施されています。

授与式後の記念撮影

授与式後の記念撮影

授与式では、学長から賞状の授与と副賞の贈呈が行われました。授与式終了後は、学長、理事・副学長と受賞者で歓談しました。

今回表彰された学生は以下の通りです。

平成29年度「東工大学生リーダーシップ賞」受賞者

所属・学年
氏名
主な受賞理由
工学部
化学工学科 応用化学コース 4年
古橋 知樹
  • 非電化トイレシャワーを製作・普及させるプロジェクトToiTechでの活動
  • 国際開発サークルでの活動
工学部
電気電子工学科 4年
岩瀬 駿
  • ジョージア工科大学リーダーシッププログラムでの活動
  • 東工大生有志団体によるスマート白杖の開発
工学部
国際開発工学科 4年
秦 桜蘭
  • 海外派遣(グローバル理工人育成コース)での活動
  • 東工大留学生会TISAでの活動
生命理工学部
生命科学科 生体機構コース 3年
長谷川 葉月
  • iGEM 2016における金賞受賞
  • 東工大バイオコン・東工大バイオものコン受賞
  • 学勢調査での活動
環境・社会理工学院
融合理工学系 2年
渡辺 真央
  • 廃棄物資源循環学会での発表
  • 東工大国際交流学生会SAGE、学生団体EPATSでの活動

受賞学生

受賞学生

工系学生国際交流基金派遣 募集説明会および留学報告会 開催報告

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11月1日、大岡山キャンパス本館の講義室にて、工系学生国際交流基金派遣の募集説明会および工系留学報告会が開催されました。

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院は、国際性を持った工学を専門とする高度技術者を養成するため、合同で所属学生を海外の大学等に派遣しています。海外で様々な国の研究者や学生と共に研究を行うことで自身の専門性を深め、より広範な先端科学技術・知識を学びながら、異文化に触れることで、学生自身の修学意欲のさらなる向上と国際意識の涵養を図ることをねらいとして学生国際交流プログラムを独自に実施しています。このプログラムは、(1)海外大学との交流協定締結などを通じた学生相互派遣のための環境整備、(2)各種基金等を利用した所属学生の海外派遣支援制度を運営しています。

工系国際交流委員会主査の竹村准教授による募集説明会
工系国際交流委員会主査の竹村准教授による募集説明会

前半に行われた募集説明会では、工系国際交流委員会主査の竹村次朗准教授(環境・社会理工学院 土木・環境工学系)がプログラムの概要ならびに当日募集開始となった来年度の夏期派遣について説明を行いました。

また、後半には工系留学報告会が行われました。これは、全学・部局間、そして前述の3学院と交流協定のある海外の大学へ今夏に短期留学した学生が、履修対象となっている講義「国際研究研修」の一環として実施されたものです。(要件が合う場合、他の派遣留学プログラム参加者も履修可能です。)

派遣先大学と発表者(計9名)は以下の通りです。(順不同、敬称略)

派遣先大学
発表者(所属・学年は発表当時)
アーヘン工科大学(ドイツ)
山崎星奈(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
オックスフォード大学(イギリス)
劉依蒙(物質理工学院 応用化学系 修士課程1年)
ケンブリッジ大学(イギリス)
鄧湘穎(大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 博士後期課程3年)
松田錬磨(工学院 システム制御系 修士課程2年)
清野史康(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
メルボルン大学(オーストラリア)
秦裕樹(物質理工学院 応用化学系 博士後期課程2年)
南洋理工大学(シンガポール)
小林亮介(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
ドイツ航空宇宙センター(ドイツ)
江川世輝(物質理工学院 材料系 修士課程2年)
デンマーク工科大学(デンマーク)
湯田賢宗(環境・社会理工学院 建築学系 修士課程2年)

報告会では、留学経験者が留学生活について英語で発表を行いました。以下は、当日の発表および報告書からの抜粋です。

留学経験者のコメント

アーヘン工科大学に留学した物質理工学院 材料系の山崎星奈さん(修士課程1年)

ドイツの民族衣装「ディアンドル」を着用して発表
ドイツの民族衣装「ディアンドル」を着用して発表

ベルギーの半導体・エレクトロニクス研究機関imecにて
ベルギーの半導体・エレクトロニクス研究機関imecにて

「今回の留学の目的は、海外での研究がどのようなものかを経験することでしたが、実際にドイツで研究生活を送ると、想像していたよりも孤独でつらいものでした。また、自分の英語力のなさを痛感し、無力感を感じることもありました。しかし、このような経験は日本では決してできないことであり、苦しかったことも含めて、海外での研究生活を体験できたことは非常に良かったと思います。それだけでなく、ヨーロッパ諸国への旅行や、ドイツでの日々の生活はとても楽しかったですし、お金に換えられない価値のあるものでした。言葉の違う国で、一人で生活をするのは本当に大変ですが、それを乗り越えたという達成感、充実感は他では得ることのできないものであり、今後も困難を乗り越える大きな力になると思います。」

オックスフォード大学へ留学した 物質理工学院 応用化学系の劉依蒙さん(修士課程1年)

写真最左 所属部局のサマープログラム学生たちと

写真最左 所属部局のサマープログラム学生たちと

「今回の留学から得られたものは主に2つあります。1つは研究というものへの理解が深まったことです。通常このようなサマープログラムでは、博士課程の学生の手伝いをかねて、指示されたものだけをするのが一般的であると聞いていました。しかし所属研究室は人数が少ないためかもしれませんが、プログラムの最初で研究概要と進み方の案だけを説明され、具体的な進み方は自分で考えなければなりませんでした。2ヵ月という短い期間で、どのぐらい実験を行って、最終的にどういう目的にたどりつけるかを自分で計画するために、博士課程学生に囲まれた環境で、落ち着いて研究テーマに対して責任を持って積極的に文献を探し、実験を考えました。また、実験方法を1から細かく説明してくれる人がいないため、既往の論文を精読し、装置の操作方法を色々な人に尋ねるような努力をしました。操作ミスで失敗したことも数回あり、総体的な実験数が少なかったのですが、自分のペースに合った自主的な研究を体験できて貴重な経験になりました。2つ目は自分に今まで以上に自信を持てるようになったことです。オックスフォード大学のような、世界から学生が集まる大学では、一人ひとりの英語のレベルやアクセントが違っており、自分の発音や文法で恥をかくことはありませんでした。現地の人も外国人と話すことに慣れているため、単語だけ言っても理解してくれる場合が多く、外国人としての立場を意識せずに暮らすことができました。また、所属研究室には中国出身の先輩が1人おり、内向的ではありましたが、実験に励んで研究室生活を楽しんでいる姿をよく見かけました。留学生ということを言い訳にして人と会話することを回避していた自分を反省し、もっと自信をもって心を開いて生活を送ろうと思いました。」

ケンブリッジ大学へ留学した 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻の鄧湘穎さん(博士後期課程3年)

ケム川ボートレース「メイ・バンプス」にて
ケム川ボートレース「メイ・バンプス」にて

「私が所属した研究室のメンバーたちはみんなとても親切で親しみやすく、快く手伝ってくれました。研究以外でも、みんなで学食で昼食を取ったり、食後にコーヒーを飲みに行ったりしました。日常の話題や将来の計画について話したり、実験の進み具合について意見交換をしたりしてコミュニケーションを図る機会になりました。ハウスメイトたちとはMay Bumpsという伝統的なボートレース観戦やボルダリングを体験したり、研究室のメンバーが招待してくれた晩餐会に参加したりしました。ケンブリッジ大学ならではの素晴らしい経験ができ、支援していただきました皆さんに感謝しております。これからは、ケンブリッジ大学との長期的な協働関係を構築し、東工大の科学研究に貢献したいと思っております。」

ケンブリッジ大学に留学した 工学院 システム制御系の松田錬磨さん(修士課程2年)

派遣先大学のオリジナルパーカーを着用して発表
派遣先大学のオリジナルパーカーを着用して発表

写真左から3人目 研究室の仲間と研究室にて
写真左から3人目 研究室の仲間と研究室にて

「この留学では、新しいことに積極的にチャレンジする精神力を養えたと思います。留学に行く前は自分の英語がイギリスの人に伝わるか、無事に海外で一人暮らしをすることができるのか等、不安なことだらけでしたが、周りの人達に支えられながら一つ一つの不安を解消していくことができました。今後も今回身につけた積極性を武器に新たなことに果敢にチャレンジしていきたいと思います。また、現地の学生や先生に親切にしていただき、日本に来ている留学生や外国人の人達を出来る限り手助けしたいという気持ちが強くなりました。また、本留学を通して英語力の向上のみならず様々な文化の違いを実際に体感できました。文化とは、気候・風土・食べ物・言語等様々な要素によって形作られていくものだと思います。その一つ一つを実際に自分の五感で感じられたことは非常に貴重な体験でした。」

ケンブリッジ大学へ留学した 物質理工学院 材料系の清野史康さん(修士課程1年)

キングス・カレッジにて
キングス・カレッジにて

「私は帰国子女でもなければ、学部の時に国際関係の科目を積極的に履修していたわけではありませんでした。今回の留学もただ「大学生のうちに海外で学んでみたい」という好奇心のみであり、留学に行くと決めた時も「そういうの興味あったの?」と周りに驚かれました。

学生国際交流プログラムに申し込んだ人たちは、私よりも積極的に英語に触れ、国際的な経験も豊富でした。自分は、おそらく申し込んだ人の中で最も軽い気持ちで参加していたのではないかと思います。最初はそのような人たちを見て、自分は本当に外国に行って大丈夫なのかと渡英当日まで不安を抱いていました。けれど3か月の留学を終えた今、日本では絶対できない経験ばかりで、心の底から行ってよかったと思っています(本当に)。英語はもちろん、世界的なレベルの大学で研究できた経験は本当に勉強になりました。また、日常生活の些細なところでも文化の違いというのも体感できました。最近では技術の発達により、日本にいながら海外の様々な文化に触れることができますが、やはり日本という生まれ育った環境から離れて、実物を見ると感じるものが全く違います。また、その中で一番身についたのは自信ではないかと思います。単身海外にわたって暮らすことは大変ですが、自分の力を存分に発揮する場であるので、やり切った後は達成感がありました。英語が苦手でも、日本語が全く通じない環境なのでいやでも英語を使うようになるのでなんとかなります。「得意になってから行こう」と言っていたらいつまでも行けないので是非行って自分を鍛えてください。そしてもし留学に行くならその国、周辺国の歴史を一通り勉強しておくとより充実した経験ができます。普段はあまり触れないかもしれませんが現地に行けばきっと面白いです。留学は絶対に価値のある経験ができます。お金はかかりますがそれだけの価値はあります。ぜひ留学を通して貴重な体験をしてください!」

メルボルン大学へ留学した 物質理工学院 応用化学系の秦裕樹さん(博士後期課程2年)

写真中央 研究室の仲間との外食にて
写真中央 研究室の仲間との外食にて

「研究、生活、英会話など、すべての面で日本ではできない貴重な経験をすることができました。とりわけ、研究に対する考え方や取り組み方が日本とは大きく異なりました。もっとアグレッシブに研究する必要があると痛感しました。今回の留学プログラムは非常に自由度が高く、また工系国際連携室の方から留学に関して手厚いサポートをしていただきました。この留学プログラムを後輩のみなさんにお勧めするとともに、この場を借りて関係者の方に御礼申し上げます。」

シンガポール南洋理工大学へ留学した 物質理工学院 材料系の小林亮介さん(修士課程1年)

写真左から3番目 研究室の仲間との外食にて
写真左から3番目 研究室の仲間との外食にて

「修士課程1年の夏、数ヵ月の短期留学で懸念される点はインターンに行けないことくらいしかないと思いますので、行く時期としては非常にお勧めです。また、留学先としてシンガポールという選択肢はとても良かったと思っています。アカデミアでは依然として欧米諸国が先導しているものの、ビジネスでは拠点をシンガポールに置いている企業も数多く、国も積極的に優秀な外国人労働者を誘致しています。将来グローバルビジネスに携わることを考えると、アジアの拠点であるシンガポールの文化・雰囲気を実際に体験できたことは今後のキャリアにおいて大きなメリットになると思います。また、シンガポール自体が移民の国であり外国人に対して寛容である上、その多くがアジア人のため、日本人の私でもなじみやすい環境であったことが一番大きかったかもしれません。シンガポールに限らず、アジアの各国は成長著しく非常に刺激的だと思いますので、留学先として欧米だけではなく、アジアに目を向けてみてもいいのではないでしょうか。」

ドイツ航空宇宙センターへ留学した 物質理工学院 材料系の江川世輝さん(修士課程2年)

写真中央 指導教員と研究室にて
写真中央 指導教員と研究室にて

「研究面では普段とは違ったテーマを与えられため、新しい分野を勉強する良い機会となりました。しかし、それ以上に日本から出て日本語の通じない人々と協力しながら研究を進めていくところに学ぶことが多く、留学した意義があるように思いました。私は中国やタイなどのアジアの国には数回行ったことがあるのですが、ヨーロッパはあまり経験がなく、とても新鮮でした。海外から日本を見るのはとても面白く、今回の留学は良い機会だったと思います。」

デンマーク工科大学(派遣交換留学)へ留学した 環境・社会理工学院 建築学系の湯田賢宗さん(修士課程2年)

写真左 コペンハーゲンマラソンにて
写真左 コペンハーゲンマラソンにて

「この留学で、再生可能エネルギーの専門知識を習得し、新たなことに挑戦する経験を得たりしました。様々な国の友人もでき、英語も飛躍的に上達したと思います。このように海外に長期間住むという経験はすごく有意義なので、海外留学することを強くお勧めします。日本で経験できないことがたくさんあります。また、日本の良いところや悪いところについても客観的に見ることができました。」

本イベントは、留学プログラムについての理解を深めるとともに、帰国して間もない留学経験者からの新鮮な現地情報や感想に触れることができる機会であったため、本プログラムへの応募を検討している学生も積極的に質問し、意見交換や情報交換が活発に行われた報告会となりました。

夏期派遣は一年の中でも特に人気があります。その理由としては、(1)夏季休暇を利用できるため、本学でのカリキュラムとの調整がしやすい、(2)留学やその準備が就職活動等と両立して進められる、(3)年に1回のみの募集および派遣の対象である“Summer Exchange Research Program(SERP)”が含まれ、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校などの欧米先進大学へ留学できること等が挙げられます。

また、本プログラムは、受入・派遣の双方向プログラムのため、その特徴を生かし、受入留学生との交流イベントも企画・運営されています。今回発表した学生も積極的にそのような機会を利用し、留学に臨みました。

お問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3969


AERAムックの国公立大学特集2018に東京工業大学が登場

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10月26日発刊のAERAムック「大人になる君たちへ 国公立大学 by AERA2018」(株式会社朝日新聞出版発行)に東工大が掲載されました。

国公立大学が持つ魅力や今後求められる使命、各大学が進もうとしている方向性について、13の大学を個性豊かに伝える内容となっています。

巻頭では、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授の「だれもやらないことをやる勇気を持つ」と題したインタビューが掲載されています。

中面では「理工系大学だからこそあえて取り組むリベラルアーツの新しい試み」というテーマで、入学直後の学士課程1年目の学生全員が受ける授業「東工大立志プロジェクト」に注目し、中心的な役割を担ったリベラルアーツ研究教育院の中野民夫教授と、新1年生4名が登場します。

その他、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(「Tokyo Tech 2030」)、大隅栄誉教授が率いる細胞制御工学研究センターや、大隅良典記念基金の紹介をしています。

大人になる君たちへ 国公立大学 by AERA2018

グループワークを行う学生と、中野民夫教授(中央)

朝日新聞出版からの承諾を得て掲載しています。朝日新聞出版に無断で転載することを禁じます。承諾番号(17-6090)

Tokyo Tech 2030

ちがう未来を、見つめていく。
役員・教職員・学生の参加によるワークショップを通じて、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Tokyo Tech 2030)を策定しました。

Tokyo Tech 2030

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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小池英樹研究室が経済産業省Innovative Technologies+ 2017に採択かつ特別賞「Creation」受賞

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情報理工学院 情報工学系 小池英樹研究室大学院生の的場やすしさん、宮藤詩緒さん、浦垣啓志郎さん、豊原宗一郎さんらがものつくり大学と共同で開発した「流動床インタフェース」が、優れた技術として経済産業省 「Innovative Technologies+ 2017(以下、イノベーティブ テクノロジーズ プラス 2017)」に採択され、かつ特別賞「Creation(以下、クリエーション)」を受賞しました。

イノベーティブ テクノロジーズ プラスは、経済産業省策定の技術戦略マップで示されている、技術開発の方向性に基づき、その実現に大きな貢献が期待できる先進的な技術を発掘・評価する事業です。産学連携の場での共有と社会への発信を行うことで、日本におけるコンテンツ技術の未来を描くことを目的とし、実施されています。今回、イノベーティブ テクノロジーズ プラス 2017に採択された20の技術は、10月27日から29日まで日本科学未来館にて行われた、国内外の先進コンテンツ技術が集まる「デジタルコンテンツEXPO 2017」において展示されました。さらに、この20の技術の中から特にコンテンツ産業以外の分野への波及・応用の可能性の高い技術4件に対して「クリエーション」「Industry(インダストリー)」「Culture(カルチャー)」「選考委員特別賞」の各特別賞が贈られました。「クリエーション」は、特にコンテンツ産業の生産性・表現性の向上に資する技術・ビジネスモデルに対して贈られる賞です。

流動床とは砂のような粒体の入った容器の底から空気を吹き上げると粒体が液体のような状態になる現象で、今回の「流動床インタフェース」はこの現象とコンピュータ・グラフィックス、コンピュータ・ビジョン技術を組み合わせることで、コンピュータの入力装置及びエンターテイメント装置としての応用を示したものです。

カヌーパドルを漕ぐ

カヌーパドルを漕ぐ

「流動床インタフェース」の現象は、YouTubeで分かりやすく見ることができます。

お問い合わせ先

情報理工学院 情報工学系
教授 小池英樹

E-mail : koike@c.titech.ac.jp

三島学長がAEARU第41回理事会と第23回年次総会に出席

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全体写真

全体写真

9月23日~24日に、東アジア研究型大学協会(AEARU:The Association of East Asian Research Universities)の第41回理事会、第23回年次総会が筑波大学で開催され、東工大からは三島良直学長、関口秀俊副学長(国際連携担当)が出席しました。

AEARUは、1996年に東アジアにおける研究型大学間の交流促進を目的として設立されたフォーラムで、日本・中国・韓国・香港・台湾から18の大学が加盟しています。東工大は設立年より同フォーラムのメンバー校であり、2016年~2017年の2年間、理事校を務めています。

総会前に行われた理事会には、議長校のソウル大学、副議長校の筑波大学、前議長校の南京大学、および本学を含む4つの理事校の代表者が出席し、2016年~2017年前半に実施されたワークショップや学生向けのプログラム等の活動報告、2017年後半~2018年の活動計画案の審議、次期(2018~2019年)の議長校、副議長校、理事校の選考等を行いました。

理事会で審議された各事項は総会で承認され、次期の議長校は筑波大学、副議長校は台湾大学が務めることとなり、東工大は引き続き、理事校を務めることとなりました。

総会の後半では、「ビッグデータ」をテーマとした基調講演とメンバー校の研究者による発表が行われました。基調講演には、ソウル大学のビッグデータ研究所の創設時の所長である、工学部のサン・キュウン・チャ教授が登壇し、同研究所では、ビッグデータを活用した学際的な研究と学際的な視野を持つデータ分析の専門家の育成を行っている旨の説明がありました。台湾大学、南京大学、韓国科学技術院(KAIST)のコンピュータ科学分野の研究者が「ビッグデータと機械学習の研究への活用」をテーマにプレゼンテーションを行いました。

総会終了後には、筑波大学のキャンパスツアーが行われ、国際統合睡眠医科学研究機構、およびエンパワースタジオを見学しました。

第42回の理事会は中国科学技術大学で来春開催される予定です。

三島学長(左)とソウル大学(議長校)のギュウン・リー副学長

三島学長(左)とソウル大学(議長校)のギュウン・リー副学長

神経軸索が脳内に潜る深さを決める仕組みを解明 ―2遺伝子の活性と軸索投射の深度が比例―

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要点

  • 神経接続の新たな仕組みをショウジョウバエの視神経細胞で確認
  • 2遺伝子は、軸索誘導ではなく脳内層での安定化に寄与
  • 受容体型チロシン脱リン酸化酵素の新たな機能を発見

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の羽毛田聡子研究員と鈴木崇之准教授の研究グループは、神経軸索[用語1]が脳内のどの深さの層に接続するのかを決定する仕組み(遺伝子プログラム)を解明しました。

感覚神経などの神経の軸索は、層状に区画分けされた脳内に侵入、標的となる神経細胞を見つけ出し、接続して機能的な神経回路を形成します。これまで、この層特異的な神経細胞の接続をどのように行っているのかは、よくわかっていませんでした。

今回本研究グループは、ショウジョウバエの視神経系を用いて(図1)、最新の分子遺伝学的手法と共焦点レーザー顕微鏡を駆使し、神経接続の新たな仕組みを解明しました。この遺伝子プログラムは、2つの遺伝子が関係しており、どちらも受容体型チロシン脱リン酸化酵素[用語2]を産生しています。このチロシン脱リン酸化酵素の細胞内ドメイン[用語3]の活性の強さが強ければ強いほど、視神経の軸索がより脳の深層に到達することがわかりました。また、この遺伝子の活性は、軸索が脳に侵入する時には必要ではなく、標的となる神経細胞との接続を安定に維持するのに必要ということがわかりました。

この仕組みは、神経軸索回路形成における普遍的な原理原則として高等動物でも使われている可能性があります。この受容体型脱リン酸化酵素の重要な機能の発見は、神経回路形成の謎を解く重要な成果と言えます。

この成果は、2017年11月8日に国際科学誌「eLife」に公開されました。

共焦点レーザー顕微鏡を用いたショウジョウバエ視神経系の実験画像(野生型)。サナギ期に、視神経細胞は軸索を伸ばし、脳内の視葉と呼ばれる層状の領域に侵入し、次の神経細胞に接続しようとする。共焦点顕微鏡は、試料を薄く切らなくても、あたかも切片を切ったかのような鮮明な画像を得ることができる。左側に見えるR7というある1種類の視神経細胞の細胞体(緑の丸い構造)から軸索が右のほうに伸び右側の視葉の特定の一層に投射している(緑の線)。視神経細胞全部(R1-R8)を赤で可視化しており、脳内の層状構造を青で可視化している。このような顕微鏡画像を、様々な遺伝子改変体に対して取得・解析することによって、本研究は行われた。
図1.
共焦点レーザー顕微鏡を用いたショウジョウバエ視神経系の実験画像(野生型)。サナギ期に、視神経細胞は軸索を伸ばし、脳内の視葉と呼ばれる層状の領域に侵入し、次の神経細胞に接続しようとする。共焦点顕微鏡は、試料を薄く切らなくても、あたかも切片を切ったかのような鮮明な画像を得ることができる。左側に見えるR7というある1種類の視神経細胞の細胞体(緑の丸い構造)から軸索が右のほうに伸び右側の視葉の特定の一層に投射している(緑の線)。視神経細胞全部(R1-R8)を赤で可視化しており、脳内の層状構造を青で可視化している。このような顕微鏡画像を、様々な遺伝子改変体に対して取得・解析することによって、本研究は行われた。

背景

神経細胞は生まれてから、軸索を伸ばして次につながる神経細胞を探し当てます。この所謂「神経軸索の投射」という現象を通して、膨大な数の神経細胞がお互いにつながり、複雑な神経回路を形成します。道標となるタンパク質が軸索を決まった道に沿って誘導し、標的となる神経細胞へと導くことが知られています。

しかしながら、軸索を誘導されることだけではなく、接続した神経の軸索を安定化させ、維持していくことも神経回路にとって非常に大事なことです。安定化し損なった軸索は縮退を起こし、神経回路は形成されません。このような軸索接続の安定化と維持にかかわる遺伝子プログラムはほとんど分かっていませんでした。また、安定化する層がどのように決まっているのかも分かっていませんでした。

研究の経緯

羽毛田聡子研究員と鈴木崇之准教授らは、別々に研究されていた2つの脱リン酸化酵素の変異体を同一個体に組み込んで二重変異体を作成することに成功しました。その変異体を解析したところ、いまだかつてないほどの距離を視神経の軸索が縮退して、最終安定化層が脳の非常に浅いところにあることを発見しました。この2つの遺伝子の機能が重複していたことが判明し、いままで隠されていた機能が解明されることになりました。その後の詳細な遺伝子操作による遺伝学的実験の結果、2つの遺伝子の強さと軸索投射層の深さが比例していることなどが明らかになっていきました。

研究成果

2つの受容体型チロシン脱リン酸化酵素は軸索を脳内層で安定化させている。

ショウジョウバエの視神経軸索の投射で異常を起こす遺伝子として、LARとPtp69Dという2つの受容体型脱リン酸化酵素が知られていました。それぞれの変異体は似た表現型を示し、視神経軸索が脳内層に入った後、最後の1番深い層(図2の青い層)ではなく2番目に深い層(図2の赤い層)に留まるという比較的穏やかなものでした。しかし、この2つの遺伝子が異常を起こしている二重変異体を作成したところ、脳内の1番浅い層まで視神経の軸索が縮退し、ほとんど脳内に定着しないことが分かりました。つまり、この2つの脱リン酸化酵素は重複した重要な機能を有しており、これは神経の軸索を脳内の標的層に定着させ、安定化させることが分かりました(図2右)。

2つの脱リン酸化酵素の機能は「軸索の安定化」

図2. 2つの脱リン酸化酵素の機能は「軸索の安定化」


神経軸索が正常な神経回路を形成するために、神経軸索は「誘引」され、後に「安定化」し、標的神経との接続を確立する。2つの脱リン酸化酵素は、後者の「安定化」のみに寄与し、「誘引」には関わっていないことが分かった。

視神経細胞の軸索が脳内に潜る深さは2つの遺伝子の活性に比例する。

2つの脱リン酸化酵素の「活性」と軸索安定化層の「深さ」との関係

図3. 2つの脱リン酸化酵素の「活性」と軸索安定化層の「深さ」との関係


LARとPtp69Dの2つの脱リン酸化酵素の「活性」を徐々に弱めていくと、軸索の最終安定化層の「深さ」が徐々に浅くなっていく、という関係性が明らかになった。

次に、この2つの脱リン酸化酵素の「活性」が軸索を安定化させる層の「深さ」と関係があるのかを突き止めるために、遺伝子発現量を様々なレベルに調節し、様々な強さの変異が入った遺伝子断片を用いて実験しました。

その結果、視神経細胞の軸索が潜り、脳内で定着する層の「深さ」は、この2つの脱リン酸化酵素の「活性の強さ」に比例することが分かりました(図3)。また、これら脱リン酸化酵素は、互いに異なった外部シグナルを認識している一方で、内部の細胞内情報伝達は共通の因子を使っていることが示唆されました。これらのことから、2つの相同遺伝子を使って、脳内の神経回路を安定的に形作る普遍的な遺伝子プログラムが明らかになりました。

今後の展開

なぜ脱リン酸化酵素の細胞内ドメインの強度が強いほど、軸索は深い層で安定化することができるのか?という問題に対する解答は得られていません。また、これら脱リン酸化酵素のリガンド[用語4]は発見されておらず、細胞外からのシグナルがどのように安定化層を決定させているのかは、よくわかっていません。別な可能性としてリガンドは無く、接着タンパク質を補強する働きをしている可能性があります。これらを解明し、応用することで、再生した神経軸索を思いのままの深さの層にまで到達させ安定化を図ることができるかもしれません。例えば、一度損傷した神経回路の機能を回復させられる可能性があります。

用語説明

[用語1] 神経軸索 : 神経細胞の出力を担う突起。通常細胞1つに1本存在し、電気コードのような役目を担う。

[用語2] 受容体型チロシン脱リン酸化酵素 : 膜タンパク質で、細胞の表面に位置しており、細胞外部からのシグナルを受け取って、細胞内部のリン酸化されたタンパク質を脱リン酸化することによって細胞内部に変化をもたらすシグナル分子である。このファミリーに属する同族タンパク質が多数存在している。

[用語3] 細胞内ドメイン : 膜貫通型タンパク質の細胞内に突き出した部分。通常、細胞外ドメインが受け取ったシグナルを細胞内に伝達する機能を有する。

[用語4] リガンド : 受容体に結合するシグナル分子の一般名称。細胞外から作用する。

論文情報

掲載誌 :
eLife
論文タイトル :
Two receptor tyrosine phosphatases dictate the depth of axonal stabilizing layer in the visual system
著者 :
Satoko Hakeda-Suzuki, Hiroki Takechi, Hinata Kawamura, Takashi Suzuki
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

鈴木崇之 准教授

E-mail : suzukit@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5796 / Fax : 045-924-5974

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

平成29年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式を実施-独創性豊かな若手研究者に-

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平成29年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式が9月6日に行われました。

9月6日の欠席者に対し、9月25日に学長室にて授賞式を行いました。

受賞者との記念撮影(9月6日)
受賞者との記念撮影(9月6日)

受賞者との記念撮影(9月25日)
受賞者との記念撮影(9月25日)

布施准教授によるプレゼンテーション
布施准教授によるプレゼンテーション

授賞式では、三島良直学長から受賞者に賞状の授与、および今後さらなる活躍を期待する旨の激励の言葉があり、次いで受賞者代表3名から、採択された研究課題についてのプレゼンテーションが行われました。

この賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するもので、第16回目となる今回は13名が選考されました。なお、受賞者には支援研究費が贈呈されます。

平成29年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者一覧

受賞者
所属
主担当系または担当研究
職名
研究課題名( * は学長特別賞)
助教
* ワイドギャップパワーデバイスの量子センシング技術の開発
准教授
* 大量核酸供給を可能にする革新的マイクロフロー合成法開発への挑戦
准教授
* 高難度反応実現のための複合酸化物触媒の創製
理学院
物理学系別窓
准教授
磁性トポロジカル絶縁体ヘテロ構造における室温量子異常ホール効果の実現
理学院
化学系別窓
准教授
アロステリズム応答性糖センシング
准教授
2値化による超低消費電力ディープラーニング専用プロセッサの創出
工学院
機械系別窓
准教授
耐熱超合金の破壊プロセスに対する結晶破壊力学アプローチ
物質理工学院
材料系別窓
講師
カソードルミネセンスによるナノスケール複素電場マッピング
情報理工学院
情報工学系別窓
助教
リファクタリング技術による多様なソフトウェア開発成果物の完全化保守支援
生命理工学院
生命理工学系別窓
助教
細胞内タンパク質結晶を用いた革新的構造解析手法の開発
環境・社会理工学院
融合理工学系別窓
助教
熱画像風速測定法による都市歩行者レベルの風の空間分布計測
リベラルアーツ研究教育院
社会・人間科学系別窓
准教授
情報過剰の時代における政治の情報発信と受容に関する研究
助教
過酷流動環境下における機能分担型多重界面構造の機能発現実証研究

(敬称略)

お問い合わせ先

研究企画課 研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp

東京工業大学 社会人アカデミー 開催講座「コーヒーの科学」

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おいしい「コーヒー」はどのようにできあがるのか。

各種メディアでも話題のイグ・ノーベル賞受賞、廣瀬講師ほか7名の講師が、生産から焙煎・抽出の方法、さらには文化や健康などさまざまな観点から、初めての方にもわかりやすく解説します。

開催概要

日時
2018年1月20日、1月27日、2月3日、2月10日、2月17日(各回土曜日 10:30 - 16:10、2月17日のみ10:30 - 14:30)
会場
1月20日、2月10日、2月17日:東京工業大 学田町キャンパス キャンパスイノベーションセンターCIC410教室
1月27日、2月3日:STOCK 2階
募集人員
30名(最少開催人数10名)
受講料
48,228円(税込み)
申込方法
社会人アカデミーウェブサイトouterより申込用紙をダウンロードし、必要事項を記入後、以下の「お問い合わせ先」に記載のメールアドレスまで、メール添付にてお送りください。受信後、振込先情報等詳細をご連絡いたします。
受講料納付確認後、受講認定証を交付いたします。
※当メールアドレスからの受信ができるよう、受信設定をお願いいたします。
申込期間
2016年11月10日(金)~2017年1月13日(土) ※締切日必着

コーヒーの科学 チラシ

お問い合わせ先

東京工業大学社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8722/8867

6期連続でスーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得

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6期連続でスーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得
―ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析で最高レベルの評価―

概要

理化学研究所(理研)と九州大学、東京工業大学、スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、富士通株式会社、株式会社フィックスターズによる国際共同研究グループは、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[用語1]による解析結果で、2017年6月に続き6期連続(通算7期)で第1位を獲得しました。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、「京」は運用開始から5年以上が経過していますが、今回のランキング結果によって、現在でもビッグデータ解析に関して世界トップクラスの極めて高い能力を有することが実証されました。本成果の広範な普及のため、国際共同研究グループはプログラムのオープンソース化を行い、GitHubレポジトリより公開中です。今後は大規模高性能グラフ処理のグローバルスタンダードを確立して行く予定です。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤三久 理化学研究所 計算科学研究機構)における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」(研究代表者:藤澤克樹 九州大学、拠点代表者:鈴村豊太郎 バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター 2017年3月終了)および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川優 国立情報学研究所)における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡聡 東京工業大学)の一環として行われました。

アメリカのデンバーで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「SC17」で11月15日(日本時間11月16日)に発表。

スーパーコンピュータ「京」

スーパーコンピュータ「京」

Graph500上位10位

公開されたGraph500の上位10位は以下の通り

Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。また、サイバーセキュリティや金融取引の安全性担保のような社会的課題に加えて、脳神経科学における神経機能の解析やタンパク質の相互作用分析などの科学分野においてもグラフ解析は用いられ、応用範囲が大きく広がっています。こうしたグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[用語2])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[用語3]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、その後、2017年11月14日に公表された最新のランキングでは第10位です。一方、Graph500ではグラフの探索という複雑な計算を行う速度(1秒間にグラフのたどった枝の数( TEPS[用語4]))で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

Graph500の測定に使われたのは、「京」が持つ88,128台のノード[用語5]の内の82,944台で、約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプロブレムスケール[用語6]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは38,621GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977GTEPSの性能を達成し第1位、さらに「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良を行い、2倍近く性能を向上させ、2015年7月に38,621GTEPSを達成し第1位でした。そして今回のランキングでもこの記録は神威太湖之光等の新しいシステムに比べても大幅に高いスコアであり、世界第1位を6期連続(通算7期)で獲得しました。

これまでの幅優先探索問題(BFS)[用語7]に加えて今回から最短路問題(SSSP)[用語8]に対する結果も公開されており、今後はさらに別の問題への適用も予定されています。

今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって今回のように性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、今後も更なる性能向上を目指していきます。また、上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、スーパーコンピュータ上でさまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムを研究開発していきます。

用語説明

[用語1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

[用語2] LINPACK : 米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士らによって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[用語3] TOP500 : TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[用語4] TEPS(Traversed Edges Per Second) : Graph500ベンチマークの実行速度をあらわすスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。TEPSはTraversed Edges Per Secondの略。

[用語5] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、ひとつのCPU(中央演算装置)、ひとつのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[用語6] プロブレムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模をあらわす数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プロブレムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

[用語7] 幅優先探索問題(BFS) : 最短路問題と同じく、グラフ上で指定された二つの頂点間の距離が最小となる経路を求める問題。グラフの各枝の重みが等しい場合を想定しており、主にインターネット上のソーシャルデータや金融データ等の解析に用いられる。

[用語8] 最短路問題(SSSP) : 幅優先探索問題と同じく、グラフ上で指定された二つの頂点間の距離が最小となる経路を求める問題。グラフの各枝の重みが異なる場合を想定しており、主に道路あるいは鉄道などの交通データ上での経路案内等に用いられる。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

理化学研究所 計算科学研究推進室

広報グループ 岡田 昭彦

Tel : 078-940-5625 / Fax : 078-304-4964

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当

Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

九州大学 広報室

Email : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

富士通株式会社 富士通コンタクトライン(総合窓口)

Tel : 0120-933-200

受付時間:9時~17時30分
(土曜日・日曜日・祝日・当社指定の休業日を除く)

株式会社フィックスターズ マーケティング担当

Email : press@fixstars.com
Tel : 03-6420-0758

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432


2017年度東京工業大学防災訓練(大岡山地区)を実施

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11月8日午後に大岡山キャンパスにて、震度6弱の地震を想定した防災訓練を実施しました。

総合訓練では、各地区に自衛防災地区隊を編成して安否確認を行うとともに、三島良直学長を本部長とする非常災害対策本部を設置しました。そして、各班に分かれてすずかけ台キャンパスとの情報伝達をはじめ、施設の安全点検、特殊材料ガスや放射線の漏洩の確認、避難人数の把握、非常食の炊き出し等の訓練を行いました。

また、地震の後に西9号館等で火災が発生した想定で消火訓練が行われ、田園調布消防署による梯子車を使用した救助や放水の演習が行われ、三島学長が梯子車より放水開始の指揮を行いました。

個別訓練においては、本年度の新たなプログラムとして、学内に設置されている災害対応自動販売機の操作実演を行ったほか、地震体験車や火災時の煙を体感する「煙体験ハウス」、消火器の取扱い訓練、東工大ボランティアグループの協力を得て非常食の配布等が行われました。学生、教員、職員等数多くの参加があり、さまざまな訓練を通して、改めて防災の意識を高める機会となりました。

一斉放水の様子
一斉放水の様子

放水指揮を執る三島学長
放水指揮を執る三島学長

煙体験ハウス
煙体験ハウス

地震体験車
地震体験車

お問い合わせ先

安全企画室 安全管理グループ

E-mail : sog.anz.kan@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3408

新たな発光材料の可能性を拓く「ナノコンポジット蛍光体」を開発 ―蛍光体探索の新たな道筋を示す―

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株式会社小糸製作所(社長:三原弘志)は、東京工業大学(学長:三島良直)の細野秀雄教授の研究グループ、名古屋大学(総長:松尾清一)の澤博教授の研究グループとの共同研究の結果、空気中ですぐに潮解してしまうヨウ化カルシウムを用い、優れた耐久性と高い発光性能を持つ「ナノコンポジット[用語1]蛍光体」の開発に成功しました。

蛍光体は、白色LED、蛍光灯など、私たちの身の回りの光源に使われています。従来の蛍光体は、希土類[用語2]イオンを微量添加(ドープ)した酸化物、または、窒化物化合物の単一組成の無機粉末で構成されていました。今回開発されたナノコンポジット蛍光体は、1つの粒子の中に異なる2つの成分(ヨウ化カルシウムとクリストバライト[用語3])が存在する新しいタイプの蛍光体です。

ナノコンポジット蛍光体の特長

構造:
耐久性の高いクリストバライト粒子内に、直径約50 nmのヨウ化カルシウムのナノ単結晶を埋め込んだ構造をとり、ナノ単結晶は希土類ユーロピウムイオン[用語4]のドープにより、ナノサイズの発光部を形成します。
耐久性:
発光部のヨウ化カルシウムナノ単結晶は、クリストバライトにより外気から保護されているため、優れた耐久性を示します。
発光性能:
従来の蛍光体に比べ、ユーロピウム含有量が1/6と少ないにもかかわらず、その発光強度は2.7倍の高い青色発光強度を示します。
製法:
自己組織化により簡便な固相法[用語5]で合成できます。

今回成功したヨウ化カルシウムを用いたナノコンポジット蛍光体は、耐久性不足で機能材料への適用検討の対象から外れていたハロゲン化物、カルコゲン化物に対し、実用化の道筋を示しました。この手法は、蛍光体だけに留まらず、さまざまな機能材料探索へも応用が期待できます。

本研究では、名古屋大学が大型放射光施設 SPring-8[用語6]の高輝度放射光を用いて、ナノコンポジット蛍光体の詳細な結晶構造解析を行い、東京工業大学がナノコンポジット蛍光体の生成メカニズムの解明を行っています。

本研究成果は、11月15日発行の米国科学誌『ACS Applied materials & Interfaces』オンライン版に掲載されました。

研究の背景

ハロゲン化物、カルコゲン化物に発光元素として希土類を微量含有(ドープ)させると、その緩やかな原子結合(結合の熱振動が小さい)から、内部損失の少ない蛍光体が作製できます。しかし、これらの化合物は耐湿性が低く、実際に使用できるケースは稀でした。

本研究は、最も耐湿性が低い化合物のひとつであるヨウ化カルシウムに希土類のユーロピウムイオンをドープした蛍光体に対し、実用耐久の付与を目的にナノコンポジット化を試みました。

研究の内容と成果

ユーロピウムをドープした直径約50 nmのヨウ化カルシウムのナノ単結晶を、結晶性シリカ(クリストバライト)内に埋め込んだナノコンポジット蛍光体の合成に成功しました。図1は、合成した直径50 μmほどのナノコンポジット蛍光体粒子断面の電子線照射による発光を示します。クリストバライトに埋め込まれたナノ単結晶(図1左 白色部)のみが発光している様子がわかります。

得られたナノコンポジット蛍光体を85 ℃ 85%の高温高湿下に2,000時間曝した後の発光強度の低下は、僅か2%でした。ナノコンポジット蛍光体の400 nm励起での内部量子効率は98%に達し、最高レベルの効率を示します。その結果、青色発光の代表的な蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+[用語7]と比較し、2.7倍の強い青色発光が得られます。ナノコンポジット蛍光体の合成は、固相反応中でヨウ化カルシウムがフラックス[用語8]としてガラス質のシリカ粒子を結晶化させたとき、結晶化したシリカ(クリストバライト)中に取り込まれたフラックスが固化・結晶化する自己組織化を活用しています。

ナノコンポジット蛍光体断面SEM像(左)と電子線発光像(右)

図1.ナノコンポジット蛍光体断面SEM像(左)と電子線発光像(右)


今後の展開

ハロゲン化物、カルコゲン化物は、本来、優れた発光性能を示しますが、耐久性の懸念から、これまで、機能材料としては検討されていませんでした。しかし、今回の研究成果から、本技術を用い新たな発光材料の開発に展開していきます。

今後も我々は、新しい光創りを目指し、研究開発を重ねてまいります。

用語説明

[用語1] ナノコンポジット : ある素材を1-100 nmの大きさに粒子化したものを、別の素材に練りこんで拡散させた複合材料。

[用語2] 希土類 : 周期表3(ⅢA)族であるスカンジウム・イットリウム・ランタノイド15元素を合わせた17元素の総称。

[用語3] クリストバライト : シリカ(SiO2)は、多くの結晶形体を持ち、クリストバライトは高温で結晶化したときの構造を持つシリカ。

[用語4] ユーロピウムイオン : 原子番号63の希土類元素の1つで、ランタノイドに属する。蛍光体の発光元素として活用される。

[用語5] 固相法 : 異なる原料粉末を混ぜ合わせ加熱。高温での粉末間のイオン拡散により反応させる方法。

[用語6] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語7] BaMgAl10O17:Eu2+ : 蛍光灯、プラズマディスプレイに用いられている代表的な青色蛍光体。

[用語8] フラックス : 融剤ともいう。固相反応やセラミックの焼結反応を促進させるため添加される薬剤。フラックスは溶融しながら、固体原料間のイオン移動を活発化させる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Nanocomposite Phosphor Consisting of CaI2:Eu2+ Single Nanocrystals Embedded in Crystalline SiO2
著者 :
Hisayoshi Daicho, Takeshi Iwasaki, Yu Shinomiya, Akitoshi Nakano, Hiroshi Sawa, Wataru Yamada, Satoru Matsuishi, Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

株式会社小糸製作所 研究所

主管 大長久芳

E-mail : hdaicho@koito.co.jp
Tel : 054-345-2566 / Fax : 054-347-0454

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 元素戦略研究センター長

細野秀雄 教授

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5196

名古屋大学 大学院工学研究科

教授 澤博

E-mail : z47827a@cc.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-789-4453 / Fax : 052-789-3724

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

核分裂における原子核のさまざまな“ちぎれ方”を捉える ―放射性物質の毒性低減に貢献―

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発表のポイント

  • 核分裂は、原子核が変形して2つにちぎれる現象である。これまで原子核の中性子放出と“ちぎれ方”の詳細を知ることができなかった。本研究では、実験と理論を駆使して、これを初めて明らかにした。
  • 原子核の中性子放出と“ちぎれ方”の解明により、核分裂に対する深い理解につながる。さらには核分裂を利用した放射性物質の毒性低減のための核変換技術への貢献が期待できる。

概要

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)先端基礎研究センターの廣瀬健太郎研究副主幹及び西尾勝久マネージャーらは、東京工業大学(学長 三島良直、以下「東工大」という。) 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、近畿大学(学長 塩﨑均)大学院総合理工学研究科の田中翔也大学院生らとの共同研究により、核分裂における原子核のさまざまな“ちぎれ方”を捉え、原子核からの中性子放出と核分裂における原子核の“ちぎれ方”の関係を初めて明らかにしました。

核分裂は、ウランのような重い原子核が余分なエネルギーを与えられたときに、変形して2つにちぎれる現象です。この“ちぎれ方”(ちぎれてできた2つの原子核の重さのバランス)を観測することで、原子核がどのように変形して核分裂が起こるかを調べることができます。

放射性物質の毒性を低減するために、高いエネルギーの中性子を原子核にぶつけて起こす核分裂を利用する方法があります。この場合、原子核はいくつかの中性子を出して別の原子核になった後に、さらに核分裂することがあります。このため異なる原子核の“ちぎれ方”が混在し、核分裂がどのように起こるかを調べることができませんでした。本研究では、さまざまな原子核の“ちぎれ方”の実験データと、原子核から中性子が出る効果と取り入れた理論計算を比較しました。その結果、個々の原子核の“ちぎれ方”を初めて捉えることができました。

現在、原子力機構は、本研究の手法によって、人類が取り扱えるであろう最も重い原子核標的である99番元素アインスタイニウム-254を用いた核分裂研究を始めようとしています。本研究成果は、高エネルギーにおける核分裂の理解、そして重い原子核での未だわかっていない核分裂現象の解明にもつながります。このような核分裂に対する深い理解は、核分裂を利用した放射性物質の毒性を低減するための核変換技術への貢献が期待されます。

本研究成果は、2017年11月27日付で、米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。

本研究は文部科学省の原子力システム研究開発事業による委託業務(「高燃焼度原子炉動特性評価のための遅発中性子収率高精度化に関する研究開発」(平成24-27年度、東工大と原子力機構)及び「代理反応によるマイナーアクチノイド核分裂の即発中性子測定技術開発と中性子エネルギースペクトル評価」(平成27-29年度、原子力機構と東工大)の成果の一部です。

研究の背景

核分裂は原子核が変形し、やがて2つの原子核にちぎれる現象です。これら2つの原子核の質量がどのようなバランスをもってちぎれるかは核分裂メカニズムを強く反映しており、観測量である核分裂質量分布[用語1]に現れます。この原子核の“ちぎれ方”は、原子炉の中で核分裂によって発生するエネルギーや連鎖反応の源である即発中性子[用語2]の数、さらに原子炉の安全性に関わる遅発中性子[用語3]数などを決定するとても重要な観測データでもあります。さらに、高いエネルギーの中性子を用いた核分裂によって、長寿命マイナーアクチノイド[用語4]をより短寿命な核分裂生成物に変える核変換技術を構築するためにも、高いエネルギーをもった原子核の核分裂メカニズムを理解することが重要です。

しかしながら高いエネルギーをもった原子核は、図1に示すように、核分裂するだけでなく、いくつかの中性子を吐き出した後に核分裂することもあります。しかもその数は核分裂が起こるたびに異なっています。また、中性子を吐き出すことによって元の原子核とは異なる原子核になり、エネルギーも低くなります。いくつの中性子が吐き出されたかを、起こった核分裂ごとに知ることができないため、核分裂した原子核を特定することができません。したがって観測した“ちぎれ方”には元の原子核だけでなく、中性子を吐き出した後の原子核の“ちぎれ方”も含まれており、特定の原子核だけに対する観測データを得ることができませんでした。このことが高エネルギーの核分裂研究の妨げになっていました。

高いエネルギーをもった原子核の核分裂の概念図。実験により最初につくった原子核(赤丸)が高い温度のとき、その原子核は核分裂して壊れることもありますが、中性子を吐き出して別の原子核(橙丸)になることもあります。中性子を吐き出した場合には、その分エネルギーが低くなりますが、それでも尚十分高いエネルギーをもっている場合には核分裂することもあり、また再び中性子を吐き出して別の原子核(黄丸)になることもあります。図中の枠内には、中性子を吐き出すことによってできた原子核の“ちぎれ方”を模式的に表したものです。実験ではこれらの異なるエネルギーをもった異なる原子核の“ちぎれ方”を分離して測定することはできません。
図1.
高いエネルギーをもった原子核の核分裂の概念図。実験により最初につくった原子核(赤丸)が高い温度のとき、その原子核は核分裂して壊れることもありますが、中性子を吐き出して別の原子核(橙丸)になることもあります。中性子を吐き出した場合には、その分エネルギーが低くなりますが、それでも尚十分高いエネルギーをもっている場合には核分裂することもあり、また再び中性子を吐き出して別の原子核(黄丸)になることもあります。図中の枠内には、中性子を吐き出すことによってできた原子核の“ちぎれ方”を模式的に表したものです。実験ではこれらの異なるエネルギーをもった異なる原子核の“ちぎれ方”を分離して測定することはできません。

研究の内容・成果

本研究では、原子力機構のタンデム加速器[用語5]を使って酸素18(18O)ビームをウラン238(238U)標的にあてて、様々なエネルギーをもった多種類の原子核をつくり、それらの“ちぎれ方”を観測しました。測定結果の例として、図2に40-50 MeVのエネルギーの240Uをつくったときに観測される“ちぎれ方”を黒丸(●)で示しました。このようなエネルギーでは核分裂の前に中性子を吐き出すことがあるため、観測したこの“ちぎれ方”には240Uのものだけではなく、他の原子核のものも含まれています。中性子を吐き出す確率を計算したところ、このエネルギーの240Uは、図中に示したような割合で、0から5個の中性子を吐き出します。つまり240Uだけでなく、235-239Uの“ちぎれ方”も含まれています。

これまでは、中性子を吐き出した後に起こる核分裂が、どのような形で“ちぎれ方”に含まれているかはわかりませんでした。本研究では、中性子放出後に核分裂が起こる効果を、近畿大学がおこなった理論計算と組み合わせることで、実験データを説明することに成功しました(図2の赤の実線)。また、他のエネルギーをもった原子核の“ちぎれ方”も同様に実験データを再現しており、理論モデルの信頼性が確認できました。

40-50 MeVのエネルギーをもった240Uの“ちぎれ方”(●)と理論計算の比較。点線は中性子放出後にできるそれぞれの原子核(235-240U)の“ちぎれ方”であり、これらが図中に示した割合で混じっているため、和をとって実験データと比較します。
図2.
40-50 MeVのエネルギーをもった240Uの“ちぎれ方”(●)と理論計算の比較。点線は中性子放出後にできるそれぞれの原子核(235-240U)の“ちぎれ方”であり、これらが図中に示した割合で混じっているため、和をとって実験データと比較します。

図2の点線は、中性子を吐き出した後のそれぞれ原子核の“ちぎれ方”を示しています。本研究によって、観測した“ちぎれ方”の内訳を初めて明らかにすることができました。これまでは「観測した“ちぎれ方”に見られる二山の構造が240Uの核分裂によるものである」と考える研究もありましたが、図2に示したように、この構造は中性子を吐き出した後の原子核(237U:青、236U:ピンク、235U:水色の点線)によるものであることがわかります。長い間、観測データの解釈さえ確立されていませんでしたが、本研究では観測した“ちぎれ方”に対して正しい解釈を与え、高いエネルギーの原子核の“ちぎれ方”を初めて捉えることに成功しました。

今後の展開、及び波及効果

原子核の“ちぎれ方”は核分裂を理解するために重要な観測量です。本研究により、これまでに得ることのできなかった、高エネルギー核分裂における原子核の “ちぎれ方”を捉えることができるようになりました。この成果は高いエネルギーにおいてどのように核分裂が起こるのかの理解を深め、放射性物質の毒性を低減するための核変換技術への貢献が期待できます。

用語説明

[用語1] 核分裂質量分布 : 核分裂が起こると、様々な種類の原子核が核分裂生成物として生成される。これらの原子核を質量数ごとにわけ、質量数を関数として収率をプロットしたものである。通常、収率の合計が200%となるように規格化する。

[用語2] 即発中性子 : 核分裂の直後に核分裂生成物から放出される中性子であり、次項の遅発中性子と区別し即発中性子とよばれる。235Uの熱中性子核分裂では99%以上を占め、核分裂連鎖反応で重要な役割を担っている。

[用語3] 遅発中性子 : 核分裂で生じる核分裂生成物のいくつかの核種において、ベータ崩壊に伴って中性子が放出されることがあり、これを遅発中性子と言う。半減期が長いものとして55秒の核種がある。実際の原子炉では、この中性子を含めて臨界を維持しているが、即発中性子と異なり、ベータ崩壊の寿命に応じて中性子の放出に遅れを伴う。このため、反応度の投入に対する急激な出力の変化を防ぐことができ、原子炉の制御を行うための十分な時間余裕が生まれる。遅発中性子の数は、生じる核分裂生成物の核種とそれぞれの収率によって変化する。

[用語4] 長寿命マイナーアクチノイド : アクチノイドに含まれる超ウラン元素のうち、プルトニウム以外の元素の総称をマイナーアクチノイドといい、ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などがある。このうち、237Np、241Am、243Amは、原子炉内の核燃料の燃焼によって生成される長寿命の原子核(長寿命マイナーアクチノイド)と言われており、この処分または管理を行うことが原子力エネルギー利用における大きな課題となっている。核変換は、これら長寿命マイナーアクチノイドを核分裂によって変換する技術である。原子力機構においても加速器駆動型未臨界炉(ADS:Accelerator-driven subcritical reactor)を用いた核変換技術の開発が行われている。

[用語5] タンデム加速器 : タンデム(TANDEM=縦に馬を二頭ならべる馬車)加速器とは、ペレットチェーンで運ばれる電荷を利用してターミナル部を高電圧に保ち、この電圧差を利用してイオンを加速している。まずは負イオンをターミナルに向けて加速し、ターミナル部でイオンを負から正に変換することで逆向きに再加速する、いわば2段回方式の加速装置の総称を指す。加速イオンのエネルギーと種類、またビーム量とビーム直径を正確に制御できる特徴があり、原子核研究分野においては精密な核反応測定ができる特徴がある。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Role of Multichance Fission in the Description of Fission-Fragment Mass Distributions at High Energies
著者 :
K. Hirose1, K. Nishio1, S. Tanaka2, R. Léguillon1, H. Makii1, I. Nishinaka1, R. Orlandi1, K. Tsukada1, J. Smallcombe1, M. J. Vermeulen1, S. Chiba3, Y. Aritomo2, T. Ohtsuki4, K. Nakano5, S. Araki5, Y. Watanabe5, R. Tatsuzawa6, N. Takaki6, N. Tamura7, S. Goto7, I. Tsekhanovich8, A. N. Andreyev1,9
所属 :
1日本原子力研究開発機構、2近畿大学、3東京工業大学, 4京都大学、5九州大学、6東京都市大学、7新潟大学、8ボルドー大学、9ヨーク大学
DOI :

お問い合わせ先

(研究内容について)

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
先端基礎研究センター

研究副主幹 廣瀬健太郎

Tel : 029-284-3515 / Fax : 029-282-5927

国立大学法人 東京工業大学

科学技術創成研究院 先導原子力研究所

教授 千葉敏

E-mail : chiba.satoshi@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

(報道担当)

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
先端基礎研究センター

広報部報道課長 佐藤仁昭

Tel : 03-3592-2346 / Fax :03-5157-1950

学校法人 近畿大学 総務部広報室

江川丈晴、土山真佑実

Tel : 06-4307-3007

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

木村正子さんが日本2大ハロウィン仮装コンテストにダブル優勝し、日本一のハロウィン仮装者に

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カワサキハロウィンでの優勝(真ん中の洗濯機が木村さん)

カワサキハロウィンでの優勝(真ん中の洗濯機が木村さん)

10月28日に江東区新木場にあるスタジオコーストで開催されたクラブ・イベント「ageHa(アゲハ)」内で行われた日本最大級のハロウィン仮装コンテスト「ageHa Halloween Contest(アゲハ ハロウィン コンテスト)」 及び10月29日に川崎市で行われた日本最高峰レベルの仮装コンテスト「カワサキハロウィン」において、本学工学院機械系の木村正子さん(研究生)が製作した仮装「ランドリーモンスター」が共に優勝しました。

ハロウィンコンテストでのチーム全員集合

ハロウィンコンテストでのチーム全員集合

ハロウィンコンテストでのチーム全員集合

ageHa Halloween Contestは今年で開催15年目、カワサキハロウィンは開催21年目を誇る日本国内のハロウィン仮装の歴史を先導してきたハロウィン2大コンテストです。ageHaの審査員には審査委員長のお笑い芸人よゐこ濱口優さんのほか武田真治さん、カワサキハロウィンの審査員には映画コメンテーターのLiLiCoさん、タレントのKABA.ちゃんさん、特殊メイクアップアーティストの江川悦子さんらを迎えた最終選考にて、木村さんの仮装は審査員及び観客を圧倒させる演技をし、両方のコンテストで見事ダブル優勝に輝きました。

仮装テーマであった「ランドリーモンスター」は、ハロウィンの日に洗濯をしたらモンスター化されてしまうという演技込みの非常にユニークな仮装でした。

優勝賞金のプレートを持つ木村さん(中央)

ageHa Halloween contestでの優勝の瞬間

ageHa Halloween contestでの優勝の瞬間、写真左:優勝賞金のプレートを持つ木村さん(中央)

今回木村さんを始めとする学生の他、企業経営者、会社員、ダンサー、メイクアップアーティスト、DJなどサポーターを含めた12名のグループにて参加し、木村さんは製作リーダーとして約2ヶ月間の製作の中でデザイン・設計・創作の分野でチームに貢献しました。

木村さんは今年でハロウィン活動11年目、日本最高峰のハロウィンコンテストをこれまでに4回優勝した経験があります。今回2大ハロウィンコンテストを同時に制したのは2009年以来日本国内では2例目、グループでは初の快挙でした。

木村正子さんのコメント

今回、日本を代表する2大ハロウィン仮装コンテストを完全制覇できた事は心から嬉しい事です。これも一緒に頑張ってくれたチームメンバーと、応援や製作で協力してくれた東工大の友人らのお陰です。心から感謝と御礼を申し上げます。

ハロウィンは楽しむ日なので、私が創作しましたモノを見てくれた人たちを心から楽しませたいという理念のもと、日頃からものづくりや創作活動を行っておりました。

今回、私の創作活動を通じて、東工大において、非常にクリエイティブな活動が可能であることを示すことができましたので、東工大から生まれたデバイスやロボットなどが、今後はエンターテイメントの世界でも活躍する様になって欲しいと思います。今後もさらに人を楽しませる面白いものづくりや創作を一生続けて行きたいと思います。

皆さまの温かいご声援本当にありがとうございました。

東工大の研究と産学連携の「今」を知る「第1回 Tokyo Tech Research Festival」開催報告

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10月25日、東工大の研究と産学連携の「今」を広く紹介する、第1回東工大リサーチフェスティバル(Tokyo Tech Research Festival)が、東工大蔵前会館くらまえホールで開催されました。

三島良直学長による開会の挨拶
三島良直学長による開会の挨拶

このイベントは、本学の次世代を牽引する新進気鋭の若手研究者や最先端の研究を担うシニア研究者など、総勢40名の研究者による情報発信の場として企画したものです。ここで発信された研究成果は、学内の厳しい競争と経験豊かな研究者による切磋琢磨の中で育てられたもので、初めて公開される挑戦的かつ最新の成果も多く含まれていました。また、研究ユニットやイノベーション研究推進体など将来の組織的産学官連携や異分野融合のための活動、本学の産学連携メニューやこれを支えるURA組織(本学のリサーチアドニミストレーター組織)についても紹介しました。

本イベント開催の準備にあたっては、URAと産学連携コーディネーターが、参加研究者へ事前にコンタクトをとり、当日は、企業の方など来場者の方々へ研究内容をよりわかりやすく伝えるサポートを行いました。

会場の様子

会場の様子

会場の様子

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

参加研究者は、各自が作成したポスターの前で自らの研究成果等を紹介し、来場者と活発な意見交換を行うなど、どのブースも大変賑わっていました。

また、ポスターセッションと並行し、ショートプレゼンテーション(発表者1人つき2分間の研究概要紹介スピーチ)を3部に分けて行い、来場者全体へ自身の研究内容をアピールする時間を設けました。

ポスターセッションの様子

ポスターセッションの様子

ポスターセッションの様子

ショートプレゼンテーションの様子

ショートプレゼンテーションの様子

ショートプレゼンテーションの様子

屋井鉄雄副学長(産学官連携担当)による閉会の挨拶
屋井鉄雄副学長(産学官連携担当)による閉会の挨拶

当日は、あいにくの雨模様にも関わらず、170名を超える参加者で賑わい、盛況のうちに終了しました。

参加研究者からは、イベントを通じ、研究室では感じることができない、企業等の観点を吸収するよい機会となったという声が多数寄せられました。

また、普段は繋がりのない異分野の研究者同士が、互いの研究内容を知る機会にもなり、新しい融合研究への発展が期待されます。

競争と切磋琢磨:学内の選抜・育成制度=「東工大の星」支援【STAR】outer「研究の種発掘」支援outer「東工大挑戦的研究賞」outer「研究支援(A)大型研究プロジェクト形成支援」、「研究支援(B)若手異分野融合研究支援」outer手島精一記念研究賞outer<研究論文賞、博士論文賞、留学生研究賞、発明賞、著述賞、若手研究賞(藤野・中村賞)>など。

研究内容ピックアップ「サーモカメラで風を見る」

今回のイベントでは、環境・社会理工学院の稲垣厚至助教のプレゼンテーションに多くの参加企業が注目しました(来場者アンケートで第1位)。

稲垣助教は高感度のサーモカメラを用いた風の可視化及び計測する技術を開発。

高層ビル群周辺での風の測定やスポーツ施設での風の影響評価が可能となるなど、幅広い分野での活用に企業の期待が高まっています。

(日経産業新聞(11月20日)に稲垣助教の研究に関する記事が掲載されました。)

研究者詳細情報(STAR Search) - 稲垣 厚至 Atsushi Inagakiouter

神田研究室outer

東工大グラウンドにおける風の可視化と計測

東工大グラウンドにおける風の可視化と計測

お問い合わせ先

研究・産学連携本部
(研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ)

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp

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