Quantcast
Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all 4086 articles
Browse latest View live

本学学生がスタンフォード大学で開催された健康医療分野の開発コンテストで3位入賞

$
0
0

10月21日、22日にアメリカのスタンフォード大学で開催された「Stanford's Health Hackathon Health++ 2017(スタンフォード ヘルスハッカソン ヘルス プラスプラス2017、以下スタンフォード ヘルスハッカソン)」において、情報理工学院 情報工学系の長沼大樹さん(修士課程1年)の所属するチームRota++(以下、ロタ プラスプラス) が、総合3位とPersistent-Neodesign(パーシステント ネオデザイン)賞を受賞しました。

受賞時の様子

受賞時の様子

右から長沼大樹さん、東京大学の荒川陸さん、大阪大学の寺本将行さん、
山蔦栄太郎さん、早稲田大学の後雄大さん、筑波大学の杉本実夏さん

ロタ プラスプラスが開発したのは、赤ちゃんが脱水状態のときに、赤ちゃんへの水分補給を促し、保護者の取るべき行動をサポートすることを目的としたスマートおしゃぶり「your pacifier(ユア パシファイアー)」です。

メンバーの1人がアジア、太平洋諸島で公衆衛生調査をした際に、下痢により危険な脱水症状にさらされている子どもが多数入院していることに気付き、その解決策を考える中で生まれたデバイスです。

おしゃぶりに付いているセンサーによって赤ちゃんの脱水状態を判定し、危険な脱水症状だと判断した場合には、モバイルアプリを通じて赤ちゃんの体全体の水分量を保護者に通知します。その際アプリ上で保護者に対して簡単な質問が出され、その返答内容によって警告を出し、例えば「病院に連れて行く」などの保護者が行うべき行動を指示します。さらに、ユア パシファイアーはユーザーのデータを収集し、その地域の同様の症状の流行を検出することができるため、その情報を病院が共有することで感染状況の分析にも役立てられます。

スタンフォード ヘルスハッカソンの概要

スタンフォード大学で行われる、エンジニア、起業家、デザイナー、健康医療従事者など多分野に横断した参加者が、健康医療分野における重要な課題に協力して取り組む開発コンテストです。応募者521名、52プロジェクトが参加し、今回は健康医療における「affordability(医療の低価格化)」をテーマに開催されました。

ロタ プラスプラスについて

医学生、バイオエンジニア、ハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニア(2名)、プロダクトデザイナーの大学生・大学院生6名で構成しています。長沼さんは、ハードウェアエンジニア・ソフトウェアエンジニアとして参加しており、ユア パシファイアーのデバイスのハードウェア及びソフトウェアの通信部分を担当しています。

長沼大樹さんのコメント

今回の大会では、日本ではあまり認知されていませんが特に新興国では深刻な問題を「テクノロジーを組み込む事で解決することができないか」というところから、このプロダクトの開発が始まりました。

このような名誉ある賞をいただけたのは、チーム一丸となって取り組むことができたからだと思います。

改善できる点・検証すべき点が多く残っているので、試作を重ね、フィードバックをいただきながら、引き続きこの問題の解決に挑戦していきたいです。


「財務レポート2016」公表

$
0
0

このたび、平成28年度財務諸表を基にした「東京工業大学 財務レポート2016」を公表しました。

東京工業大学では、本学を支えて下さるみなさまに、財務状況や活動状況をわかりやすい形で提供することを目的として、財務レポートを作成しております。

平成28年度は、大学改革の様々な成果がありました。本学の財務状況と共にご覧ください。

「財務レポート2016」の内容は、以下のpdfファイルをご覧ください。

財務レポート 2016

財務ハイライト

財務レポート2016

平成28事業年度財務諸表をよむ

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 業務実施コスト計算書

東京工業大学を支えてくださるみなさまへ

  • 東工大の財務状況
  • 東工大の大学改革
  • 東工大基金
  • 東工大の活動報告
  • ノーベル賞受賞特集

財務諸表の経年変化

会計処理解説

国立大学法人特有の会計処理について

財務諸表の表示科目について

お問い合わせ先

財務部主計課決算グループ

E-mail : syu.kes@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2304

12月の学内イベント情報

$
0
0

12月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年後期)

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年後期)

本講座では前半の講義として、私たちの身の回りにある化学品を含むゴムやプラスチックとその製品の安全・安心に関する情報とやさしい科学を、一般の方にもわかりやすく紹介します。更に後半の講義では、少し高度な内容として、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術・材料に関する科学を紹介し、将来の安心・安全な材料・製品設計の基礎を学べるようにします。

日時
1.
2017年2017年9月27日、10月4日、10月11日、10月18日、10月25日、11月1日、11月8日、11月15日
2.
2017年11月29日、12月6日、12月13日、12月20日、2018年1月10日、1月17日、1月24日、1月31日

※各日 10:45 - 12:15(全て水曜)

会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要

リベラルアーツ研究教育院主催 演劇ワークショップ2017「大岡山の物語」(全4回)

リベラルアーツ研究教育院主催 演劇ワークショップ2017「大岡山の物語」(全4回)

2017年夏、5回にわたって開催された、演劇ワークショップ「声に出してシェイクスピア 悲劇編その1『マクベス』」の参加者から、最終日に「『劇団大岡山』を作ってみたい」という声があがりました。

それを受けて、この度「大岡山の物語」として、参加者自らが演劇作品を作り出していくワークショップを開催することにいたしました。各参加者がそれぞれの「大岡山」にまつわるエピソードを持ち寄り、言葉や文章に置き換えて共有し、自らが演じる作品にまとめ上げていくものです。

今回は、世田谷パブリックシアターのワークショップなど、数々の実績を持つ関根信一氏を講師に迎え、前回に続き、英国現代劇を専門とし、演劇評論家でもある谷岡健彦教授がコーディネーターを務めます。

日時
11月30日、12月7日、14日、21日(いずれも木曜日) 17:30 - 20:00
会場
参加費
3,000円(全4回分)、本学学生・教職員は無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要(先着順20名、11月1日より受付開始)

第62回 My Study Abroad 留学報告会(フィンランド・ドイツ・スイス)

第62回 My Study Abroad 留学報告会(フィンランド・ドイツ・スイス)

本学派遣交換プログラムにより留学した学生の報告会を開催します。経験者の話を聞き、語学の勉強方法や留学費用など気になることを質問できるチャンスです。事前登録不要、出入り自由ですので、興味のある方は直接会場にお越しください。なお、昼食時のイベントですので、飲食が可能です。

日時
12月8日(金)12:20 –
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

第1回 医工連携セミナー

第1回 医工連携セミナー

工学院産学連携室は、産業界のニーズと大学の研究シーズを結び付けて新産業創出につながる共同研究を企画・推進することを目的として本年7月に発足しました。その中で、医工連携とテクノロジー形ベンチャー起業は重要なキーワードと位置付けております。

今回は、「医工連携によるイノベーションの成果を製品化するために必要なPMDAと投資ファンドの基礎知識」と題して、医療機器の承認審査などを行う国の機関である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の近藤理事長および地球と人類の課題解決に資する研究開発型の革新的テクノロジーベンチャーの投資育成を行うリアルテックファンドの永田代表にご講演いただきます。

日時
12月8日(金)18:00 - 20:00(17:00開場)
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

平成29年度 創造性育成フォーラム

平成29年度 創造性育成フォーラム

本学では、学生の発想力や創造力を育み、学生が主体的に学修に取り組むことを目的として、毎年、本学の授業科目の中から創造性育成科目の登録・選定を行い、その活動を支援していくことにより、創造性育成教育を積極的に推進しています。このような創造性育成教育を発展させるために、教育・国際連携本部では例年創造性育成科目の学生による事例発表を行っております。今年度は、本学における取り組み事例の発表に加え、岡山大学の大橋一仁教授より岡山大学の事例をご紹介いただき、「創造性を育成する授業」のあり方について学内外の教育関係者とともに考える場として、平成29年度創造性育成フォーラムを開催致します。

日時
12月14日(木) 13:30 - 17:00
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

東工大テニュアトラック教員2017年度研究成果発表会

東工大テニュアトラック教員2017年度研究成果発表会

東工大テニュアトラック教員が2017年度の研究活動と研究成果の発表を行います。

どなたでもご参加いただけますので、お誘いあわせの上、是非お越し下さい。当日参加も歓迎いたします。※テニュアトラック教員によるプレゼンテーションは全て英語のみで行います。

日時
12月18日(月)14:00 –16:15
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

東工大コンサートシリーズ・第1回すずかけ台キャンパス演奏会

東工大コンサートシリーズ・第1回すずかけ台キャンパス演奏会

本演奏会は、2015年から始まった東工大コンサートシリーズ(Art Meets Engineering@TokyoTech)の第1回すずかけ台キャンパス演奏会です。

本演奏会では、「ソプラノとピアノのデュオによる珠玉のオペラアリアとクリスマスソング」と題し、二人 の気鋭の在京演奏家によるクリスマスソングやオペラアリアを中心とした名曲の数々をお届けいたします。しばし日常を忘れ、珠玉のひとときをお楽しみください

日時
12月21日(木)17:30(17:00開場、19:00終演予定)
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要(定員230名先着順)

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学名誉教授が平成29年秋の叙勲を受章

$
0
0

平成29年秋の叙勲において、中村良夫名誉教授、入戸野修名誉教授、野中勉名誉教授、吉田裕名誉教授が、教育研究の功労に対して瑞宝中綬章を受章しました。また、衣笠善博名誉教授が、瑞宝小綬章を受章しました。

中村良夫名誉教授

経歴

中村良夫名誉教授
中村良夫名誉教授

中村良夫名誉教授(1999年4月称号付与)は1976年3月に本学 工学部 助教授に着任し、1982年8月に教授に昇任、社会工学科、ならびに大学院総合理工学研究科の社会開発工学専攻を併任しました。

道路線形透視形態の微分幾何学、土木構造物の画像工学、都市イメージ分析など、景観工学の基礎理論に関する研究と教育にたずさわる一方、仮想行動理論、景観記号学などを提唱しました。太田川元町護岸(広島広島市)、上谷戸橋(東京都稲城市)、古河総合公園(茨城県古河市)などのデザイン実務にかかわり、学生・院生の実践、教育の場として活用してきました。

また土木学会において土木計画学委員会、土木史委員会、環境システム委員会など新分野の運営に参加するとともに、景観・デザイン委員会の初代委員長として、景観・デザイン賞の創設にかかわりました。これらの教育研究への多大な業績が評価されました。

中村良夫名誉教授のコメント

1976年春に本学の社会工学科へ赴任するにあたり、3月1日付けで着任するよう担当教授から厳命をうけました。4月1日から全力疾走できるように助走期間を持て、というご趣旨でした。

生産学が工学の主流であったころ、人間の歓びや美意識など生の充実を目指す景観工学を、内外の優秀な学生諸君とともに学問の荒野の一角に切り開くことが出来ました。また、市民のまちづくり参画に繋がる風景学を構想できたのも、文理融合を目指す社会工学科の自由で闊達な学風のお陰です。

大岡山駅に面した正門前はすっかり面目を一新し、工学の府の光芒が街の賑わいに射し込んでいます。その溌剌とした姿をみれば今昔の感にたえません。駅名が「大岡山東工大前」になれば、とおもったりもしますが・・・。懐の深い工学知の世界を授けてくださった本学の皆様に、あらためて敬意と感謝を表しますとともに、ますますのご発展を祈ります。

入戸野修名誉教授

経歴

入戸野修名誉教授
入戸野修名誉教授

入戸野修名誉教授(2002年4月称号授与)は、1970 年3月に本学 大学院理工学研究科 博士課程を修了後、本学助手となり、1年半のフランス・バリ第6大学(フランス給費研究留学)でその後の研究の骨子になる研究手法を身につけました。1974年8月に本学 工学部 助教授、1987年2月に教授となりました。その間、留学生教育センター長、東京工業大学工学部附属工業高等学校校長(6年間)を兼務し、また学外において文部科学省高等教育局の工学視学委員として協力しました。2002年4月に福島大学 自然科学系学域設置準備室長に就任し、2004年10月に新学類「共生システム理工学類」を設置しました。2010年3月まで福島大学同学類の教授、学類長、学群長を勤め、2010年4 月から2014年3月まで学長を務めました。2014年3月に学長を任期満了退職し、名誉教授を授与されました。その後1年間にわたって大学評価・学位授与機構の認証評価委員として協力し、2016年3月から福島市教育委員会「子どもの夢を育てる施設・こむこむ館」館長を勤めるなど、研究・教育分野において多大な貢献を果たしています。

入戸野修名誉教授のコメント

「地域住民から福島大学に自然科学系学域の設置を望む強い要望があるが、具体的な動きがない」ということで、東工大在籍中に当時の木村孟学長の口利きもあり、2002年4月に私が福島大学自然科学系学域調査準備室長となりました。東北大・東大・東工大の3教授が室員となって福島大学の教員とともに、創設構想の検討を進めました。私が2002年4月に教育学部 教授として福島大学に赴任し、構想の具体化を文部科学省の指導下で推進しました。その結果、2004年10月 に自然科学系学域の設置が認められ、2005年4月から2学群・4学類に再編成し、新入生を受け入れました。また、2010年4月には福島大学学長に選出されました。就任1年目は、「顔の見える大学」を目指して教職員の顔写真入り冊子を刊行して学生・地域住民に公開し、さらに、毎月2回定例記者会見を実施して学生・教職員の諸活動を公開するなど、開かれた大学のイメージ作りに専念しました。こうした姿勢は、2011年3月11日の「東日本大震災と東京電力原発事故」の際に、大学が地域住民への支援活動を相互理解の上で効果的に実施するための基盤として、大きな役割を果たしたと思っています。大学は学問の拠点であると同時に、地域住民とともに友好的に連携しながら大学が行う復興を始めとする様々な活動が円滑に継承されている様子を見られるのは嬉しい限りです。

野中勉名誉教授

経歴

野中勉名誉教授
野中勉名誉教授

野中勉名誉教授(2001年4月称号授与)は、本学 理工学部 化学工学課程を経て、1969年に大学院博士課程を修了し工学部助手に採用されました。1973年助教授となり、大学院総合理工学研究科への配置換えを経て、1986年に教授に昇任しました。その後、1993年から1999年までの間には大学院総合理工学研究科長(1期)および評議員(2期)を併任し、学部がない学際大学院から博士課程中心の創造大学院への抜本的な改組拡充構想の実現に研究科の総力をあげ、20世紀中に何とか成就しました。

2000年、鶴岡工業高等専門学校長に転任し、共に理工系高等教育研究機関である本学と鶴岡高専の連携を目指しましたが、4年後の独立行政法人化に備えて外的連携より内的整備強化が急務となりました。2006年に定年退職し、鶴岡高専から名誉教授の称号を授与されました。

2008年からの2年間、本学 グローバルエッジ研究院シニアマネージャー(特任教授)として、テニュアトラック制度の運用に携わるなど、39年に亘り、理工系高等教育研究機関の発展に寄与したことが今回の受章に繋がりました。

野中勉名誉教授のコメント

大学院総合理工学研究科における博士課程中心の創造大学院は、原理的には何かを修士課程で減らし博士課程で増やせば実現したはずですが、種々の有形無形の素材投入も必要でした。先達による設計図は先見性に富む魅力的なもので、絶対不可欠な素材として大幅な「教授」定員増を示唆していました。そして気が付いたら、短期間、集中的に多数の教授定員が獲得され、一挙に創造大学院の目的にマッチした人事も完成していました。教員の本務(教育と研究)などは私の念頭から吹っ飛び、本学事務部の「強引な後押し」と文科省現場の「旺盛なやる気」に煽られたガムシャラ・無我夢中の数年の後、気が付いたら鶴岡高専の校長室にいました。校庭ではギフチョウが乱舞していました。

高専は2004年の独法化に備え、外交より内政面の整備拡充強化が急務でした。

グローバルエッジ研究院を1年余で辞めたのは、レンタカー旅行に憑かれたためではなく、世界一混む東急田園都市線での朝の通勤に疲れたためでした。

吉田裕名誉教授

経歴

吉田裕名誉教授
吉田裕名誉教授

吉田裕名誉教授(1998年4月称号授与)は、1963年3月に東京大学 土木工学専門課程修士課程を修了した後、同年4月東京大学 生産技術研究所 助手となり、1970年4月には助教授として、学生の指導、研究に従事しました。

その後、1971年6月に本学 工学部 助教授、1981年11月に教授に昇任し、1998年3月に本学を定年退職するまで、構造力学、力学モデルの数値解析、有限要素法などの教育研究に努め、数多の人材を育成してきました。

1998年10月に関東学院大学 教授となり、土木工学、情報ネット・メディア工学の分野において教育環境の充実に努め、2008年3月に定年退職しました。

研究面では、特に、有限要素法を核とするコンピュータによる科学技術計算、力学現象解析の普及、発展に大きく貢献してきました。日本鋼構造協会技術委員会構造解析小委員会において、1984年から91年まで委員長を務め、研究会の企画実施などに寄与しました。当該分野における日米間の研究協力事業にも尽力した他、土木学会、日本機械学会、日本応用数理学会など、学会の枠を超えた広い領域において長年にわたり精力的に活動した成果が認められました。

吉田裕名誉教授のコメント

私が助教授として本学に着任した1971年は、大学紛争の後遺症が色濃く残っている時代でした。だからこそと言うべきか、設立間もない東工大土木教室には、教育や研究に掛ける熱情というか、希望と活気に溢れておりました。山口先生と吉川先生が連携して、血気盛んな若手のやる気を上手に引き出していた、というのが実状だったかもしれません。

技術の進展に伴って、教えるべきと考えられる教育内容は多様化します。カリキュラムの限られた時間数の中で、どの学科目をどのように割り当てるか、学生の自覚をどのように促すかなど、よく議論されたことを思い出します。学生の就職は総じて順調でしたが、毎年、研究室全員の進路が決着するまでの間は、心が休まらなかったことを思い出すのですが、卒業生の多くが一流の職場で重責を担って活躍しておられる姿に接することができる幸せは、東工大に籍を置いていたからこそと、深く感謝しています。優秀な学生と苦労を共にし、喜びを分ち合った日々は、掛替えの無い、幸せに満ちたものでした。

その間、多くの卒業生や関係の皆様方から頂いた励ましのメッセージは、有難く、心の支えになりました。皆様のご繁栄を心から祈念しております。ありがとうございました。

衣笠善博名誉教授

経歴

衣笠善博名誉教授
衣笠善博名誉教授

衣笠善博名誉教授(2010年4月称号授与)は、1999年4月に、工業技術院地質調査所(産業技術総合研究地質調査総合センターの前身)の首席研究官から、本学 大学院総合理工学研究科 環境理工学創造専攻の教授として着任しました。

本学においても、地質調査所時代と同様に、地震学と地質学の境界領域である地震地質学の研究に従事されると共に、原子力施設等の重要構造物の耐震安全性確保のために尽力しました。

2010年3月に定年退職し、名誉教授の称号を授与された後は、公益財団法人 地震予知総合研究振興会の副主席研究員として研究を続けています。このたびの受章はこれらの実績が認められたものです。

衣笠善博名誉教授のコメント

東工大の定年退職に当たっては、教授歴に加えて、地質調査所首席研究官としての前歴を加算した合わせ技で名誉教授の称号をいただきました。今回の叙勲に当たっても、“現東工大 名誉教授 元工業技術院地質調査所首席研究官”との合わせ技の経歴が評価されたようです。特別なご配慮を頂いた関係者に厚く御礼申し上げます。

合わせ技となった2つの組織に所属しましたが、その2つは全く性格の異なるものでした。工業技術院地質調査所は、地質学を中心とする200人以上の研究者を擁する研究組織で、互いに協力・切磋琢磨して研究を進めてきました。一方、大学院 総合理工学研究科、特に環境理工学創造専攻は、専門の異なる教授陣からなる組織で、視野を大いに広げることが出来ました。

このように性格の異なる2つの組織に属することが出来たのは研究者として全くの幸運で、今後とも、自然災害や地球環境問題を、幅広い視野で関心を持ち続けたいと思っています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

平成29年度永年勤続者表彰式にて47名を表彰

$
0
0

11月21日、大岡山キャンパス大岡山西8号館10階情報理工大会議室において、平成29年度永年勤続者表彰式が行われました。この表彰は永年(他国立大学等を含む勤続20年(うち本学勤務10年以上))職務に精励した職員を対象とするもので、今回表彰された方は47名でした。

表彰式では、三島良直学長から一人一人に表彰状の授与と記念品の贈呈が行われ、永年の功労に対して祝辞が送られました。続いて、表彰を受けられた者を代表して情報理工学院 出口弘教授からの謝辞がありました。

今回表彰された方々は次のとおりです。

学長祝辞
学長祝辞

出口教授による代表謝辞
出口教授による代表謝辞

平成29年度東京工業大学永年勤続表彰者一覧

所属
職名
氏名
理学院
教授
村上修一
理学院
助教
金子真一
理学院
助教
河井真吾
工学院
准教授
大見俊一郎
工学院
准教授
原精一郎
工学院
助教
田湯智
工学院
助教
寳積勉
物質理工学院
教授
伊原学
物質理工学院
教授
史蹟
物質理工学院
准教授
桑田繁樹
物質理工学院
准教授
戸木田雅利
情報理工学院 
教授
秋山泰
情報理工学院 
教授
出口弘
環境・社会理工学院
教授
坂田弘安
環境・社会理工学院
准教授
那須聖
リベラルアーツ研究教育院
教授
猪原健弘
リベラルアーツ研究教育院
教授
調麻佐志
リベラルアーツ研究教育院
教授
田村斉敏
リベラルアーツ研究教育院
教授
室田真男
リベラルアーツ研究教育院
准教授
金子宏直
科学技術創成研究院
教授
藤井正明
科学技術創成研究院
教授
山口猛央
総務部 企画・評価課 総合企画グループ
スタッフ
小川純子
総務部 人事課労務室 人材活用グループ
主任
向後鉄也
総務部 広報・社会連携課 広報グループ
グループ長
間島秀明
総務部 広報・社会連携課 社会連携グループ
主任
柳澤由乃
財務部 経理課 運用・支出グループ
グループ長
保坂義則
財務部契約課 大岡山第1契約グループ
主査
財務部 契約課 大岡山第1契約グループ
スタッフ
荒木紀代子
財務部 契約課 大岡山第2契約グループ
グループ長
平山隆広
財務部 契約課 大岡山第2契約グループ
主任
間島ちひろ
財務部 契約課 大岡山第4契約グループ
グループ長
中山範靖
研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ
グループ長
今野瑞穂
研究推進部 研究資金管理課 受託研究契約グループ
主任
原誠
研究推進部 情報図書館課 情報管理グループ
グループ長
砂押久雄
研究推進部 情報図書館課 利用支援グループ
グループ長
小野理奈
施設運営部 施設総合企画課 総務・契約グループ
主任
海老原健太郎
施設運営部 施設整備課 建築グループ
グループ長
牧村恭子
すずかけ台地区事務部 総務課 生命理工学院事務グループ
主任
奥田美紀
すずかけ台地区事務部 会計課
専門職(会計総括)
奥田直樹
すずかけ台地区事務部 会計課 経理グループ
主任
小林純三
すずかけ台地区事務部 学務課 教務グループ
主任
渡部秀明
すずかけ台地区事務部 学務課 教務グループ
スタッフ
渡部さおり
大岡山第二事務区 工系事務第3グループ
グループ長
福島勇人
監査事務室 監査総括グループ
主任
上里真理子
技術部安全管理・放射線部門
技術専門員
吉原祐貴
技術部教育支援部門
技術職員
岩井敦子

(所属順・敬称略)

記念写真

記念写真

問い合わせ先

総務部 人事課 労務室 人材育成グループ

Email : jin.iku@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2800

平成29年度名誉教授懇談会及び職員等の栄誉の祝賀会 開催報告

$
0
0

11月21日、東工大蔵前会館(Tokyo Tech Front)くらまえホールにおいて、恒例の名誉教授懇談会、栄誉教授称号記授与式及び職員等の栄誉の祝賀会が開催されました。

新名誉教授代表挨拶 宮本文人 名誉教授
新名誉教授代表挨拶 宮本文人 名誉教授

当日は、80名以上の名誉教授及び14名の栄誉の祝賀対象者が出席し、盛大に会が催されました。

名誉教授とは、本学を退職した教授のうち、本学の教育上又は学術上の功績があった方に与えられる称号です。また、名誉教授及び本学教員の中から、過去1年間にノーベル賞や文化勲章、叙勲、褒章など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた方が、栄誉の祝賀対象者となります。

祝賀会は、新名誉教授の紹介に始まり、新名誉教授を代表して宮本文人名誉教授の挨拶の後に、岡田清理事・副学長の挨拶と近況報告等がありました。その後、懇談会、栄誉教授称号記授与式と続き、祝賀対象者の紹介・記念品贈呈の後に、祝賀対象者を代表して、11月3日に瑞宝中綬章を受章された吉田裕名誉教授の挨拶があり、最後に三島良直学長の挨拶で締めくくられました。

栄誉教授称号記授与式では、古井貞熙名誉教授に、これまでの研究業績や受賞に対して、学長から授与されました。この称号は、本学教授、退職者、卒業・修了生のうち、ノーベル賞や文化勲章、文化功労者、日本学士院賞など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた者に対して付与されます。古井名誉教授は、音声工学の分野において、音声認識や話し言葉認識など、近年日常生活の様々な場で活用が進んでいる音声の自動認識・理解技術の先駆的な研究開発を行い、斯学の発展に多大な貢献をするとともに、コンピュータが人と対話する自動音声インタフェースの実現に大きな役割を果たし、平成28年11月に文化功労者に顕彰されています。

会は出席者全員終始和やかな雰囲気のうちに閉会しました。

  • 岡田理事・副学長による近況報告

    岡田理事・副学長による近況報告

  • 古井貞熙 新栄誉教授 挨拶

    古井貞熙 新栄誉教授 挨拶

  • 栄誉の祝賀対象者代表挨拶 吉田裕 名誉教授

    栄誉の祝賀対象者代表挨拶 吉田裕 名誉教授

  • 三島学長による挨拶

    三島学長による挨拶

12月5日12:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

赤木特任教授がIEEE Medal 受賞決定

$
0
0

工学院 電気電子系の赤木泰文特任教授が、2018年IEEE メダル イン パワー エンジニアリング(IEEE Medal in Power Engineering)の受賞者に決定しました。

工学院 電気電子系 赤木泰文特任教授

IEEE(アイ・トリプル・イー: The Institute of Electrical and Electronics Engineers,Inc.)は米国に本部を持つ電気電子分野の国際的な学会で、43万人の会員を有する世界最大の技術系の学会です。IEEEは現在16の分野でメダルを授与しており、IEEEメダルの受賞はIEEEにおいて最高の栄誉とされ、受賞者には金メダル等が授与されます。

IEEEメダル イン パワー エンジニアリングは2008年に設立された賞で、発電、送電、配電、電力応用などの広い意味での「電力工学」の発展に貢献した研究者・技術者を顕彰するものです。赤木泰文特任教授は、「電力変換システムとその応用の理論と実践に対する先駆的な貢献」が認められ、今回の受賞に繋がりました。授賞式は、2018年5月11日(金)にアメリカ・サンフランシスコにて行われる予定です。

本学関係者のIEEEメダル受賞は、末松安晴栄誉教授・元学長が2003年にIEEE ジェームス H. ミューリガン ジュニア エデュケーション メダル(IEEE James H. Mulligan, Jr. Education Medal)を受賞しています。今回の赤木泰文特任教授のIEEEメダルの受賞は末松栄誉教授に続く快挙です。

赤木泰文特任教授のコメント

赤木泰文特任教授
赤木泰文特任教授

大学の研究は基礎研究と応用研究に分類できます。

パワーエレクトロニクスなど電気電子工学の応用研究のIEEE Medalの受賞は、基礎研究でのノーベル賞の受章に匹敵する最高の栄誉です。

1973年4月の学部4年の卒業研究からパワーエレクトロニクスの研究を開始し、現在まで飽きることなく研究を継続しています。

その間、学生時代の恩師、研究室の先輩、同輩、後輩、そして大学教員になってからの上司、同僚、さらに一緒に研究に打ち込んだ当時の大学院学生の方々に厚くお礼申し上げます。

受章理由の主要な業績は、「三相回路の瞬時無効電力理論の構築とその応用」です。

瞬時無効電力の定義から、その物理的意味を数式を用いて厳密に証明するまで3ヵ月を要しましたが、証明そのものは大学1年で学ぶ線形代数学で十分に理解できるものです。

この瞬時無効電力理論を電力変換システムに応用し、従来の無効電力理論では実現不可能な実験波形を取得できた時の喜びは今でもはっきり覚えています。

本学在職中にIEEE Medalを受賞できることは大変に嬉しく思います。

お問い合わせ先

赤木泰文 特任教授

Email : akagi@ee.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3549

相同組換えのDNA鎖交換の素過程を世界で初めて解明

$
0
0

相同組換えのDNA鎖交換の素過程を世界で初めて解明 ―Rad51のDNA鎖交換反応は3ステップで進行する―

要点

  • 相同組換えは遺伝子情報や遺伝子の多様性を生み出すのに重要
  • 相同組換えはDNA修復においても必須
  • Rad51によるDNA鎖交換反応をリアルタイムに観察する手法を開発
  • がん化に関わるRad51の様々な補助因子の役割を解明できる可能性がある

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の伊藤健太郎研究員、岩崎博史教授、同生命理工学院のTakahashi Masayuki教授、国立遺伝学研究所の村山泰斗准教授(研究当時・東工大助教)の研究グループは、相同組換えにおけるDNA鎖交換反応の解明に世界で初めて成功した。

相同組換えは、遺伝情報の維持や遺伝的多様性を生み出すのに必須な反応であり、全ての生物で保存されている。相同組換えにおける中心的な反応は、似た配列を持つ(このことを“相同”という)2組のDNA間の鎖の交換反応である。DNA鎖交換反応は、Rad51リコンビナーゼ[用語1]によって触媒されるが、反応がどのように進行するのか不明だった。

今回の研究では、蛍光標識したDNAで鎖交換反応をリアルタイムにモニターして解析を行った。その結果、鎖交換反応は連続した3ステップ反応で進行することを発見した。さらに、Rad51の低分子補助因子であるATP[用語2]やタンパク質性補助因子であるSwi5-Sfr1タンパク質複合体[用語3]の役割を明らかにした。

この成果は、2017年12月4日のNature Structural and Molecular Biology電子版に掲載された。

研究成果

今回、DNA鎖を蛍光標識し、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer: FRET)[用語4]の原理を利用することで、DNA鎖交換反応の反応中間体形成と最終産物生成をそれぞれリアルタイムで観察する2種類の分析方法(アッセイ系)を構築した。このアッセイ系を用いることで、極めて複雑な反応のため正確なアプローチが困難であったRad51によるDNA鎖交換反応を解析した。その結果、次の3つのステップを経て、この交換反応が進行することを発見した。

これは、1)一本鎖DNAに数珠状に結合したRad51リコンビナーゼが鎖交換相手となるDNAの相同な配列を見つけて、最初の反応複合体(C1反応中間体)を形成する、2)C1反応中間体が変化し、次の反応中間体C2ができる、3)C2反応中間体が解消されて反応が完了するという3つのステップである。

Rad51によるDNA鎖交換反応には低分子補助因子ATPが必要であるが、これまでその役割が不明であった。今回、最初のC1反応中間体を形成する際にはRad51がATPと結合する必要があること、そして、ステップが進みC1→C2遷移や最終産物生成時にはATPが加水分解されることが必須であることがわかった(但し、ある条件ではC1→C2遷移時にATP加水分解は必要ないことも判明したが、最終産物生成するにはどの条件でもATP加水分解が必須)。また、Rad51補助因子であるSwi5-Sfr1複合体は、リコンビナーゼによるATP加水分解を伴って、C1→C2遷移と最終産物生成のステップを促進することが明らかになった(図1)。

Swi5-Sfr1複合体によるDNA鎖交換反応の促進モデル

図1. Swi5-Sfr1複合体によるDNA鎖交換反応の促進モデル

研究の背景と経緯


図2. 相同組換えによるDNA二重鎖切断の修復モデル

紫外線や放射線などの外的要因、DNA複製の阻害や代謝で発生した活性酸素などの内的要因により、DNAは日常的に様々な種類の損傷を受けている。DNAの二重鎖が切断された損傷(DNA二重鎖切断)は特に重篤な損傷で、修復されなければ細胞死の原因となり、間違った修復が行われるとがんの原因となりうる。

相同組換えは、遺伝的多様性を生み出すのに必須な反応であるが、DNA二重鎖切断を正確に修復する機構(組換えによるDNA修復機構、組換え修復といわれている)としても極めて重要な働きをしている。例えば、マウスでは、RAD51遺伝子を欠損すると死んでしまうことから、その重要性が実証されている。実際、全ての生物種が相同組換え機構を持っており、この機構は生命に必須の普遍的な生理機能である。

相同組換えは多段階で起こる極めて複雑な反応であり、DNA複製や転写などといった他の核内現象に比べるとその仕組みの解明は遅れている。相同組換えの中心的な反応はDNA鎖交換反応であり、Rad51リコンビナーゼによって触媒される(図2)。Rad51リコンビナーゼは、一本鎖DNAに数珠状に結合しDNA鎖交換反応の開始前複合体を形成する。その後、開始前複合体は、鎖を交換する相手となる二重鎖DNAの相同な配列を探し、相同鎖が見つかるとDNA鎖の交換を行う。

RAD51遺伝子は、大阪大学のグループによって1992年に出芽酵母から発見され、その後、ヒトを含めて多くの生物種で見つかっている。これまでRad51タンパク質のDNA鎖交換活性について世界中で様々な解析がなされてきた。2003年に、岩崎教授の研究グループは、分裂酵母を用いた研究からSwi5-Sfr1タンパク質複合体がRad51の補助因子であることを発見し、その後継続してSwi5-Sfr1複合体によるRad51の活性制御機構について解析を続けてきた。これまで多くの研究者がRad51によるDNA鎖交換反応の進行過程を明らかにしようとしていたが、今回FRETを用いたリアルタイムのアッセイ系でその進行過程の観察に世界で初めて成功した。

今後の展開

マウスにおいてRAD51遺伝子を欠損すると死んでしまうことから、生命にとって組換えや組換え修復が極めて重要な働きをしていることがわかる。RAD51の補助因子にはSwi5-Sfr1複合体の他にも様々なものが知られている。有名なものでは、BRCA2タンパク質がある。BRCA2遺伝子の欠損や突然変異は致死とはならないが、家族性乳がんの原因となることが知られている。これは、致死と比べれば軽度な表現型であるといえるが、組換え修復不全が発がんの原因になるということを直接的に示している例である。すなわち、これは正常な組換え(修復)機能がゲノムの安定性を維持しガンを抑制していることを示す一つの典型例である。

今回確立したアッセイ系を用いて、BRCA2タンパク質によるRAD51活性制御機構の詳細が解析されると、細胞内で相同組換えを正しく進行させる仕組みの理解が大きく進展する。このような詳細な基礎研究を基盤として、今後、発がんやがん抑制の詳細な仕組みが明らかにされていくと考えられる。

用語説明

[用語1] Rad51リコンビナーゼ : 相同組換えの中心的な反応であるDNA鎖交換反応を触媒するタンパク質。酵母などの単細胞真核生物からヒトまで、すべての真核生物に存在する。バクテリアのRecAタンパク質と相似タンパク質である。Rad51やRecAタンパク質は、ATP存在下で一本鎖DNA上に右巻らせん状に巻き付き、このタンパク質核酸複合体(開始前複合体)は相手となる二重鎖DNAの相同性を検索し、相同性が見つかればDNA鎖の交換反応を推進する。

[用語2] ATP : アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate)。生体内に広く存在し、3位にリン酸が結合したり解離したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵、代謝や合成に重要な役目を果たしている。その重要性からエネルギーの通貨と形容されている。ある種のタンパク質や酵素は、ATPとの結合やATPを加水分解することで、構造変化を引き起こし、その機能を発揮することが知られている。

[用語3] Swi5-Sfr1タンパク質複合体 : Rad51の鎖交換反応を促進する補助因子の1つ。2003年、分裂酵母で最初に見つかった。Rad51の鎖交換反応を促進したり抑制したりするタンパク質は、これ以外にも複数知られている。これら複数のタンパク質複合体によってRad51によるDNA鎖交換活性は精緻に制御されているが、まだ、その全容は解明されていない。

[用語4] 蛍光共鳴エネルギー移動 (Fluorescence resonance energy transfer: FRET) : 2つの蛍光分子が近接して存在している時、供与体となる蛍光分子から受容体となる蛍光分子へ励起エネルギーが直接移動する現象。今回の実験では、受容体が近くにあると遠くにある場合に比べて、励起した供与体から発する蛍光強度が低下することを利用している。すなわち、1)Rad51と結合した一本鎖DNA(供与体蛍光分子を付加してある)と相同な二重鎖(受容体蛍光分子を付加してある)が複合体を形成した際にFRETが起こり、その結果、供与体の蛍光強度の低下が起こる現象と、2)鎖交換の末に元の二重鎖(供与体と受容体を付加してあり、FRETが起こっている)が引きはがされて一本鎖DNAになることでFRETから解放されて供与体の蛍光強度が上昇する現象を利用した。今回の研究では、これらの蛍光変化をリアルタイムで観測する2種類のアッセイ系を構築し、鎖交換反応の素過程を解析した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Structural and Molecular Biology
論文タイトル :
Two three-strand intermediates are processed during Rad51-driven DNA strand exchange
著者 :
Kentaro Ito, Yasuto Murayama, Masayuki Takahashi, and Hiroshi Iwasaki
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター

岩崎博史 教授

E-mail : hiwasaki@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2588 / Fax : 03-5734-3781

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


南洋理工大学とNTU-東工大 リサーチフォーラムを開催

$
0
0

9月11日と12日の2日間、シンガポールの南洋理工大学(NTU:Nanyang Technological University)において、「NTU-東工大 リサーチフォーラム」が開催されました。東工大とNTUは、共同研究の可能性を探ることを目的として、これまでに2016年2月にNTUで、同年11月には東工大で、計2回にわたって合同ワークショップを開催しています。今回のフォーラムは、同ワークショップで築いてきた両大学の研究者間の連携を、さらに具体的な共同研究へと発展させることを目指したものです。

本学からは、安藤真理事・副学長(研究担当)、水本哲弥副学長(教育運営担当)、大竹尚登副学長(研究企画担当)に加えて、分子化学、水素エネルギー、分離化学、感染症撲滅のための工学技術の4分野の研究者9名が参加しました。また、全体会には、本学の博士課程教育リーディングプログラムの一つである情報生命博士教育院の教員、学生も参加しました。

大竹副学長(前列左から2人目)、安藤理事・副学長(前列左から3人目)、ホワイト教授(前列右から2人目)、水本副学長(前列右から1人目)

大竹副学長(前列左から2人目)、安藤理事・副学長(前列左から3人目)、ホワイト教授(前列右から2人目)、水本副学長(前列右から1人目)

全体会(開会)

ラム副学長
ラム副学長

フォーラムは、NTUのラム・キンヨン副学長の開会の挨拶で始まりました。ラム副学長は、両大学からの参加者への謝辞を述べるとともに、各分科会にて今後に向けた具体的な議論が行われることを期待していると述べました。

両大学の共同研究成果の事業化や産業界との連携について、将来的な検討を行うため、今回のフォーラムでは、研究成果の事業化や起業支援を行っている企業や国内外の高等教育・研究機関との共同研究を積極的に行っているシンガポール企業の代表者が招聘され、講演を行いました。

NTUの100%子会社であるエヌティユーティブ(NTUitive)社のリン・ルイ最高経営責任者(CEO)は、同社がNTUと連携して行っている研究成果や発明の事業化、起業のための資金調達やネットワークづくり、ライセンシング等へのサポート業務について講演を行いました。シンガポール産業界からは、化学原料メーカーのクローダ・インターナショナル社のボニア・マガリ博士、米国海軍研究所シンガポールオフィスのウー・ペイ博士が登壇し、各社の研究概要とともに高等教育研究機関を含む国内外のパートナーと行っている共同研究について紹介しました。

米国海軍研究所は、米国政府が海軍省に設置した機関で、長期的視野に立った科学技術政策のもと、大学、政府研究所、産業界を支援しています。

フォーラムの様子

フォーラムの様子

休憩をはさんで行われた、NTUのティム・ホワイト教授と本学の大竹副学長の講演では、共同研究プロジェクトの柱となる研究資金に焦点を当て、シンガポールおよび日本で申請可能な政府等による研究資金の概要や両大学の産学連携の取組みや実績を説明し、午後の分科会の方向性を示しました。

ホワイト教授(左)と大竹副学長

ホワイト教授(左)と大竹副学長

分科会

その後、分子化学、水素エネルギー、分離化学、感染症撲滅のための工学技術の分科会が4つの会場で行われ、NTU、東工大の各分野の研究者たちは、それぞれ自身の研究に関する発表を行いました。また、オープニングセッションで紹介された産学連携や研究資金調達の事例を踏まえて、具体的な共同研究の可能性を探る議論を行いました。

報告会

分科会のまとめとして、報告会が行われました。各分科会の議論を踏まえ、分科会の代表者が現在行われている共同研究の進捗状況、学生・研究者派遣を含んだ今後連携可能な共同研究プロジェクト、研究資金申請の計画案等について報告をしました。

各分科会の様子

各分科会の様子

NTUの研究室見学

12日には、参加者は、NTUのエネルギー分野の太陽電池、燃料電池、パワー・トゥー・フューエル(Power-to-fuel、再生可能エネルギー由来の電力から燃料を生成する蓄エネルギー技術)の3つの研究室と分子化学の研究室を見学しました。

NTUエネルギー研究所のチャン・シュウ・ホワ教授(右)の説明を聞く東工大代表団

NTUエネルギー研究所のチャン・シュウ・ホワ教授(右)の説明を聞く東工大代表団

閉会(まとめ)

その後、昼食を囲みながら、クロージングセッションが行われ、NTUのホワイト教授、本学の安藤理事・副学長が所感を述べました。安藤理事・副学長は、今回のフォーラム開催に尽力したNTUのラム副学長、 ホワイト教授、本学の水本副学長、大竹副学長をはじめ、参加者への感謝とともに本フォーラムの成果への期待を述べました。

アンダーソン学長との面談

12日午後には、安藤理事・副学長、水本副学長、大竹副学長、国際部スタッフがNTUのバーティル・アンダーソン学長を訪問し、ラム副学長、ホワイト教授と共に、大学のガバナンス、改革等について広く意見交換を行いました。また、両大学において「研究協力協定」締結に向けて引き続き準備を進めることを確認し合うとともに、両大学間の学生交流についても議論しました。そして、今後も両大学の友好関係を深めていくことを誓い合い、今回のフォーラムに伴う日程は終了しました。

(左から)ラム副学長、アンダーソン学長、東工大代表団

(左から)ラム副学長、アンダーソン学長、東工大代表団

博士学生・ポスドクを求める企業34社が集結「ドクターズキャリアフォーラム2017」開催

$
0
0

12月15日(金)、博士人材(博士後期課程学生とポスドク)対象の「ドクターズキャリアフォーラム(DCF)」がTTFにて開催されます。

博士人材専門のキャリアイベントとしては国内最大級となったこのイベントに、今年度も34社が博士人材を求めて参加いたします。

博士人材の皆様が企業の人事・開発担当者と直接交流し、各企業の情報や博士人材への期待等を知る貴重な場となっておりますので、奮ってご参加ください。

日時
2017年12月15日(金)
14:00 - 15:40 博士人材キャリアセミナー
15:40 - 17:30 個別ブース説明
場所
対象
博士後期課程学生およびポスドク
※学部生・修士生は参加できません
参加費
無料、入退場自由
事前登録

予約優先のため、必要事項【(1)氏名(2)所属先・学年(3)電話番号】を記載の上、下記アドレスまでメールをお送りください。

E-mail :iidpinfo@jim.titech.ac.jp

ドクターズキャリアフォーラム(DCF)2017 チラシ

博士人材を求める企業が東工大に集結!平成29年度ドクターズキャリアフォーラム(DCF)

博士人材を求める企業が東工大に集結!平成29年度ドクターズキャリアフォーラム(DCF)

博士人材を求める企業が東工大に集結!平成29年度ドクターズキャリアフォーラム(DCF)

お問い合わせ先

イノベーション人材養成機構(IIDP)

E-mail : iidpinfo@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7615

東工大代表団が第1回MIRAIセミナーに参加

$
0
0

10月17日~19日、本学が加盟しているMIRAIプロジェクトが主催する第1回MIRAIセミナーがスウェーデンのルンド大学にて開催され、本学から安藤真理事・副学長(研究担当)、関口秀俊副学長(国際連携担当)ほか、8名が参加しました。

MIRAIプロジェクトとは、2015年に東京で開催された日本・スウェーデン学長サミットにおける合意を契機として、スウェーデンの7大学・日本の8大学が連名でスウェーデン研究・高等教育国際協力財団に応募、採択となった2017年から2019年までの3年間のプロジェクトです。同プロジェクトは、サステイナビリティ(持続可能性)、材料科学、エイジングの3つの分野を中心に、両国の共同研究を推進、若手研究者の育成・交流を目的としています。

今回のセミナーは、同プロジェクトが2016年秋に始動してから最初に開催された本格的なイベントです。日本、スウェーデンから総勢170人が出席する大規模な会合となりました。

集合写真 安藤理事・副学長(最前列右から2番目)

集合写真
安藤理事・副学長(最前列右から2番目)

セミナー初日となった17日の午前には、全体会議として、日本、スウェーデンの政府および研究費助成機関の代表者による科学技術政策や研究資金プログラムの紹介や両国の大型研究施設の代表者によるパネルディスカッションが行われ、二国間の連携強化、共同研究の発展などについて議論が行われました。

全体会議の様子

全体会議の様子

午後からは、サステイナビリティ、材料科学、エイジング の主要研究分野のグループセッションが行われ、個別にプログラムが進行しました。また、新たな連携テーマとして検討されているイノベーションについても個別セッションで議論が行われました。本学からは、関口秀俊副学長、科学技術創成研究院(IIR)の山口猛央教授、田巻孝敬准教授がサステイナビリティのセッションに、元素戦略研究センターの金正煥助教、IIRの飯村壮史助教が材料科学のセッションに参加しました。

サステイナビリティのセッションで発表をする山口教授(左)とディスカッションをする関口副学長(右中央)

サステイナビリティのセッションで発表をする山口教授(左)と
ディスカッションをする関口副学長(右中央)

材料科学のセッションの様子

材料科学のセッションの様子

3つの主要研究分野のセッションは、今回のセミナーの主要イベントとして、19日の昼まで3日間に亘って行われ、若手研究者の交流の場となりました。各セッションでは、両国の各大学から参加した研究者が自らの研究内容を発表、その後、グループワークを実施し、共同研究の可能性や大学院生向けセミナーの開催など、教育面での交流についても協議を行いました。

最終日の19日午後には、ルンド市郊外にある電子加速器研究施設マックス・フォー(MAX IV)および建築中の欧州核破砕中性子源(ESS)の見学が行われました。MAX IVは、ルンド大学MAX IV研究所が運営するシンクロトロン放射光源施設であり、スウェーデン最大の研究プロジェクトです。また、ESSはスウェーデン、デンマークを中心に12ヵ国が参加する欧州研究インフラ・コンソーシアムの枠組みで建設が進められている次世代中性子発生施設で、2023年に本格稼働が予定されています。

MAX IV内の実験施設
MAX IV内の実験施設

ESSの定礎
ESSの定礎

なお、セミナー開催中、両国メンバー大学の代表者による会合が複数にわたって持たれ、2018年度以降のセミナーやワークショップの開催方針について具体的な議論を行い、親交を深めました。日本・スウェーデン外交関係樹立150周年を迎える2018年秋には、第2回MIRAIセミナーが日本で開催される予定です。

MIRAIプロジェクト参加大学

  • 日本側8大学

    広島大学、北海道大学、九州大学、名古屋大学、上智大学、東京大学、東京工業大学、早稲田大学

  • スウェーデン側7大学

    シャルマーズ工科大学、リンシェーピン大学、ルンド大学、ストックホルム大学、ウメオ大学、ヨーテボリ大学、ウプサラ大学

ドローンが耳を澄まして要救助者の位置を検出 ―災害発生時の迅速な救助につながる技術を開発―

$
0
0

要点

  • ドローンのようなロボットによる人命救助はカメラなど視覚的な方法が主
  • 集音方法を工夫して雑音減らし、瓦礫の下の人の声などを検出
  • 迅速かつ効率的な人命救助に活用できる全天候型システムを開発
  • 暗くても、うるさくても、見えない場所でも、音を検出可

概要

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所諭)の一環として、東京工業大学の中臺一博特任教授、熊本大学の公文誠准教授、早稲田大学の奥乃博教授、鈴木太郎助教らの研究グループは、ドローン自体の騒音や風などの雑音を抑え、要救助者の声などを検出して、迅速な人命救助を支援できるシステムを世界で初めて開発した。

このシステムは、3つの技術要素(HARK[用語1]を応用したマイクロホンアレイ技術[用語2]によるドローンや風の騒音下での音源検出の実現、音源の三次元位置推定・地図表示技術開発によるわかりやすいユーザインタフェースの構築、ケーブル1本で接続可能な全天候型マイクロホンアレイの開発)が組み合わさることで構築されている。これまで災害現場では静かに聞き耳を立て要救助者の居場所を探り当てていた。このシステムにより、人が瓦礫の中にいて見つけにくい場合や、夜間、暗所などカメラが使えない場所でも、要救助者を発見できることが期待される。

デモ映像

研究成果

研究グループは、ドローンの騒音下でも、要救助者の音声等を検出して、迅速な人命発見につなげることができるシステムを世界で初めて開発した(図1、図2参照)。

構築したマイクロホンアレイ(マイクを16個搭載、ケーブル1本で接続可能)
図1.構築したマイクロホンアレイ(マイクを16個搭載、ケーブル1本で接続可能)

マイクロホンアレイを搭載したドローン
図2.マイクロホンアレイを搭載したドローン

このシステムは、大きく3点の技術要素からなる。1点目は、“ロボットの耳”を作ることを目指した「ロボット聴覚[用語3]」研究の成果としてオープンソース化されているソフトウェアHARK(HRI-JP Audition for Robots with Kyoto University)を応用したマイクロホンアレイ技術である。これにより、ドローンの騒音下でも音源の検出が可能になった。2点目は、三次元音源位置推定、および地図表示技術の開発で、これにより目に見えない音源を操作者にもわかりやすく可視化できるインタフェースを構築できるようになった。3点目は、ドローンへの設置を容易にするために、ケーブル1本でまとめて接続できる16個のマイクロホンからなる全天候型マイクロホンアレイを開発。これにより雨天の要救助者捜索が可能になる。

ロボット聴覚のオープンソースソフトウェア HARKマイクロホンアレイを用いた音源定位・分離技術を提供
ロボット聴覚のオープンソースソフトウェア HARK
マイクロホンアレイを用いた音源定位・分離技術を提供

HARKのGUIプログラミング環境
HARKのGUIプログラミング環境

災害が起きた場合、一般的には3日(72時間)以内に救助しなければ生存確率が大きく下がってしまうと言われており、迅速な要救助者捜索技術の確立が喫緊の問題である。

これまでドローンを使った要救助者捜索技術は、そのほとんどがカメラやそれに似たデバイスを用いたもので、人が瓦礫の中にいて見つけにくい場合や、夜間や暗所などカメラが使えない状況では利用できず、捜索の大きな壁になっていた。本技術は“要救助者が発する音”を検出することから、このような問題を緩和できる可能性がある。近い将来、災害地での要救助者発見にドローンが利用できるようになり、レスキュータスクの有望なツールとなることが期待できる。

瓦礫(土管)の下の要救助者をその声から発見している様子(右上地図の青丸が検出された音源位置を表す)

瓦礫(土管)の下の要救助者をその声から発見している様子(右上地図の青丸が検出された音源位置を表す)

研究の背景

ロボット聴覚は、2000年に奥乃教授、中臺特任教授が中心となって提唱し、世界に向けて発信した日本発の研究領域である。それまでのロボットは、人が口元にマイクを装着しないと人の音声を検出、認識することはできなかった。こうした状況に対して、ロボットは人間と同様、自分自身の耳で離れた音源の音を聞き取るべきだという考えの下、“ロボットの耳”を構築するための研究が進められている。この研究領域は、信号処理、ロボティクス、人工知能と多分野にまたがる学際的研究のため参入障壁が高く、世界的にも認知が遅れていた。

提唱後、奥乃教授と中臺特任教授らが中心となり、積極的に国内外の学会を中心にセッションを開催。オープンソースソフトウェアを公開して、講習会やハッカソンなどのイベントを行うなど啓発活動を続けた。その結果、2014年には、ロボットに関する最大の研究コミュニティであるIEEE Robotics and Automation Society (RAS)が「ロボット聴覚」を研究分野として正式にキーワード登録した。

本研究は、人と同様に、音がどこから到来するのかを推定する音源定位技術、到来方向の音を抽出する音源分離技術、分離した音を認識する雑音にロバスト(頑健)な音声認識技術の3つが柱であり、これらを実環境・実時間で動作できる技術を追究してきた。研究グループはこれまでに、聖徳太子のように複数の人が同時に話をしてもそれを聞き分ける技術(同時発話認識技術)を開発し、11人の話者による同時発話料理注文デモに成功。また、複数の回答者が同時に回答しても対応可能なクイズ番組の司会者ロボットなどを作製してきた。

研究の経緯

従来のロボット聴覚研究では、屋内環境で人と会話するロボットを対象にして、“ロボットの耳”を構築する研究がなされてきた。今回の研究では、屋内に留まらず屋外環境での利用を想定し、より実用的な技術につなげることを目指した。

本技術は、内閣府が主導するImPACT タフ・ロボティクス・チャレンジ(TRC)[用語4](田所諭PM)の研究課題として推進している極限音響研究の成果である。用いているマイクロホンアレイ技術は、(株)ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンが研究開発を行い、オープンソース化されているロボット聴覚ソフトウェア HARK をベースにしている。

ImPACT TRCプログラムでは、研究課題として早稲田大学の鈴木太郎助教らが高性能GPS研究を推進しており、その成果である高精度ポイントクラウド(点群)を地図データとして提供。これを用い、極限音響研究を推進している東京工業大学の中臺一博特任教授、熊本大学の公文誠准教授、早稲田大学の奥乃博教授らの研究グループが中心となってロボット聴覚の開発を行っている。

今後の展開

研究グループは今後、実環境に近いレベルで実証実験を続けることにより、より使いやすく頑健なシステムの構築を目指す。そのために、インテリジェントセンサとしてパッケージ化し、さまざまなドローンに接続できるシステムを検討していく。また、音源の検出だけではなく音源の種類の聞き分けを行うことにより要救助者に関係のある音源だけを識別する機能も追加したい。

このように、災害地での捜索活動に使用できるレベルへと技術を深化させることによって、「ドローン聴覚」技術を確立していく。

用語説明

[用語1] HARK : Honda Research Institute Japan Audition for Robots with Kyoto Universityの略。(株)ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)、京都大学等が開発したマイクロホンアレイを用いたロボット聴覚のオープンソースソフトウェア。Harkは、listenを意味する中世英語である。

[用語2] マイクロホンアレイ技術 : 複数のマイクロホンから構成されるマイクロホンアレイデバイスを用いて、騒音下でも音の方向を推定したり、特定の音の分離抽出を行ったりする技術。

[用語3] ロボット聴覚 : ロボットが自分自身の耳で周りの環境から音を聞き取ること。日本発の研究領域。

[用語4] ImPACT タフ・ロボティクス・チャレンジ(Tough Robotics Challenge(TRC)) : 内閣府が主導する革新的開発推進プログラムにて田所諭プログラム・マネージャーが推進する研究開発プログラム。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

プログラム・マネージャー:田所諭

研究開発プログラム:タフ・ロボティクス・チャレンジ

研究開発課題:UAV搭載マイクロホンアレイを用いた音源探索・同定

(研究開発責任者:中臺一博 研究期間:平成26年度~平成30年度)

この研究開発課題では、ドローン等に搭載したマイクロホンアレイを用いた音源探索技術、音源同定技術の開発に取り組んでいます。

田所諭ImPACTプログラム・マネージャーのコメント

田所諭ImPACTプログラム・マネージャー

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創り出し、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

災害現場での要救助者発見には音声情報が重要な役割を果たしますが、実際には周囲の騒音や機材の音によって、助けを求める声を聞くことは大変困難です。倒壊家屋の人命捜索においては、全ての発生音を停止させ、静かにして声を聞き取る「サイレントタイム」が実施されています。特に有人ヘリやドローンでは、プロペラや風による騒音が大きく、地上から呼ぶ人の声を聞くことは、これまでは非常に困難でした。

本研究は、全天候型マイクロホンアレイと、ロバスト音声信号処理技術により、音源の三次元位置推定、地図表示を合わせた、大きな非連続イノベーションです。本技術をドローンに搭載すれば、地上から呼ぶ人の声や、条件が良ければ瓦礫内や屋内からの声をも聞き取り、声を発する人の場所を三次元的に特定することが可能です。今後、ドローンはもとよりさまざまな救助資機材にこの技術が搭載されることにより、要救助者発見につながる音声情報の収集が可能になり、大規模地震災害や水害などでの人命救助実績につながると期待されます。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

<本研究に関すること>

東京工業大学 工学院 システム制御系 特任教授

中臺 一博(なかだい かずひろ)

E-mail : nakadai@ra.sc.e.titech.ac.jp

<ImPACTの事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1

Tel : 03-6257-1339

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’S五番町

E-mail : impact@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9012 / Fax : 03-6380-8263

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

熊本大学 マーケティング推進部 広報戦略室

E-mail : sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3122 / Fax : 096-342-3007

早稲田大学広報室広報課

E-mail : koho@list.waseda.jp
Tel : 03-3202-5454 / Fax : 03-3202-9435

科学技術振興機構 広報課

〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

体を外敵から守る化学感覚細胞のマスター因子を同定

$
0
0

体を外敵から守る化学感覚細胞のマスター因子を同定
―舌だけではない!全身の味細胞の機能解明へ―

要点

  • 味細胞(化学感覚細胞)は、舌だけでなく体の様々な器官にも存在
  • これら化学感覚細胞の産生に必須な転写因子(マスター因子)を同定
  • 今後、舌だけなく体中に分布する化学感覚細胞の機能解明が期待

概要

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センターの廣田順二准教授、生命理工学院 生命理工学系の山下純平大学院生(日本学術振興会特別研究員)、米国モネル化学感覚研究所の松本一朗研究員らの研究グループは、生体の様々な器官に分布して生体防御反応に関与すると考えられている化学感覚細胞[用語1]マスター因子[用語2]の同定に成功しました。

口腔内で苦味・甘味・旨味を感知する味細胞の産生に必須な転写因子Skn-1a(別名Pou2f3)[用語3]を欠損したマウスで、体中のTrpm5陽性化学感覚細胞[用語4]が消失していることを見出しました。この発見は、Skn-1aがこれら化学感覚細胞のマスター因子であることを明らかにしたもので、謎に包まれたTrpm5陽性化学感覚細胞の生理機能の解明にむけた重要な成果といえます。

私たちは口腔内の味細胞[用語5]によって味物質を感知しています。近年、味細胞と形態が類似し、味覚に関連する遺伝子を発現する細胞が、気道や消化器官をはじめ体中の様々な器官で見つかってきました。これらの細胞は、共通してTrpm5と呼ばれるイオンチャネルを有し、そのほとんどが味覚受容体を発現していることから、Trpm5陽性化学感覚細胞(以下、化学感覚細胞)と呼ばれています。一般に、苦味を呈する化学物質は毒物であることが多く、ヒトは苦味を舌で感じたときに、それを吐き出し、自分の身を守ることができます。興味深いことに、全身に分布する化学感覚細胞の多くは “苦味”の受容体を発現していることから、生体防御反応への関与の可能性が考えられています。

この成果は、現地時間2017年12月7日(日本時間12月8日午前4時)に米国のオンライン学術誌『PLOS ONE』(プロスワン)に掲載されました。

研究の背景

生物は嗅覚や味覚といった感覚器官によって外部環境中の化学物質を感知し、生存に必要な行動をとります。例えば、苦味を呈する化学物質は毒物であることが多く、動物は苦味を舌で感じたときに、それを吐き出すことで自分の身を守ります。近年、体の様々な部位に化学物質を感知する細胞が存在することがわかってきました。これら一連の細胞は、共通してTrpm5と呼ばれるイオンチャネルを発現し、その多くは味覚受容体を有していることから、Trpm5陽性化学感覚細胞と呼ばれています。

最近の研究によって、気道に存在する化学感覚細胞は、侵入してきた有害物質を苦味受容体によって検出し、有害物質から体を守る反射応答を引き起こすことがわかりました。さらに小腸の化学感覚細胞は寄生虫感染を、尿道では細菌感染を感知し、生体防御反応を誘導することが明らかになっています。このようにTrpm5陽性化学感覚細胞は、生体防御反応において重要な役割を担っていると考えられていますが、これらの化学感覚細胞ができるメカニズムは明らかになっていませんでした。

研究の経緯

2011年に米国モネル化学感覚研究所の松本研究員らの研究によって、口腔内で苦味・甘味・旨味を感知する味細胞の産生には転写因子Skn-1aが必須であることが明らかになりました。マウスの様々な器官に存在するTrpm5陽性化学感覚細胞は、細胞の頂点に微絨毛を有し、Trpm5などの味覚関連分子を発現しており、味細胞との共通性を有します。そこで廣田准教授と松本研究員らの共同研究グループは、口腔外に存在するTrpm5陽性化学感覚細胞における転写因子Skn-1aの機能解析を開始し、2013年に呼吸上皮で、2014年に嗅上皮でTrpm5陽性細胞の産生にSkn-1aが必須であることを明らかにしました。

研究成果

これまでの研究から、転写因子Skn-1aが味細胞を含む全身のTrpm5陽性化学感覚細胞の産生に必須なマスター因子として機能している可能性が考えられました。この仮説を検証するために、同研究グループはTrpm5陽性化学感覚細胞の存在が報告された体中の器官を網羅的に解析しました。まずSkn-1aがTrpm5陽性細胞に発現しているかどうかを解析しました。その結果、解析したすべての器官(気道、胃、小腸、大腸、耳管、尿道、胸腺、膵管)においてSkn-1aがTrpm5陽性細胞に発現していることがわかりました。

次にTrpm5陽性細胞におけるSkn-1aの機能を明らかにするために、Skn-1aの機能が欠失したマウス(Skn-1aノックアウトマウス)の解析をおこないました。Skn-1aノックアウトマウスでは、解析したすべての器官においてTrpm5の発現が消失していただけでなく、Trpm5陽性化学感覚細胞のマーカーである味覚関連遺伝子の発現も消失していました(図1)。以上の結果から、Skn-1aがマウスのTrpm5陽性化学感覚細胞のマスター因子であることが明らかになりました。

図1. Skn-1aノックアウトマウスの気管ではTrpm5陽性化学感覚細胞が消失した。A. 野生型(上段)では、Trpm5とか化学感覚細胞マーカーのChATが同じ細胞で発現していたが(矢尻)、Skn-1aノックアウトマウス(変異マウス)では、これらの発現は認められなかった。

B. 気管のTrpm5陽性化学感覚細胞には、味覚に必要な遺伝子(Tas2r:苦味受容体、Gnat3, Plcb2, Trpm5: 味覚情報伝達分子)が発現していた(上段:野生型)。Skn-1aノックアウトマウス(下段:変異マウス)では、これら味覚関連分子の発現が消失していた。

図1. Skn-1aノックアウトマウスの気管ではTrpm5陽性化学感覚細胞が消失した。

A. 野生型(上段)では、Trpm5とか化学感覚細胞マーカーのChATが同じ細胞で発現していたが(矢尻)、Skn-1aノックアウトマウス(変異マウス)では、これらの発現は認められなかった。

B. 気管のTrpm5陽性化学感覚細胞には、味覚に必要な遺伝子(Tas2r:苦味受容体、Gnat3, Plcb2, Trpm5: 味覚情報伝達分子)が発現していた(上段:野生型)。Skn-1aノックアウトマウス(下段:変異マウス)では、これら味覚関連分子の発現が消失していた。

今後の展望

Skn-1aがTrpm5陽性化学感覚細胞のマスター因子であることが明らかとなり、Trpm5陽性化学感覚細胞の産生メカニズムに関する研究が飛躍的に進展することが期待されます。また、全身でTrpm5陽性化学感覚細胞が消失するSkn-1aノックアウトマウスは、各器官における化学感覚細胞の生理機能の全容を明らかにするための有用なモデル動物になると考えられます(図2)。さらに化学感覚細胞に発現する味覚受容体を同定することによって、細菌・寄生虫感染に対する生体防御反応のメカニズムの解明、そして感染症や喘息などの疾病の治療に向けた創薬研究への発展が見込まれます。

図2. Trpm5陽性化学感覚細胞が分布する全身の器官と生体防御反応 舌や軟口蓋にある味細胞をはじめとしたTrpm5化学感覚細胞は、体中の各器官に存在する。これまでにTrpm5化学感覚細胞が関与する生体防御反応を図中に記した。「?」マークは機能が未解明の器官である。Skn-1aノックアウトマウスは、化学感覚細胞が関わる生体防御反応の全容解明のためのモデル動物になると考えられる。

図2. Trpm5陽性化学感覚細胞が分布する全身の器官と生体防御反応

舌や軟口蓋にある味細胞をはじめとしたTrpm5化学感覚細胞は、体中の各器官に存在する。これまでにTrpm5化学感覚細胞が関与する生体防御反応を図中に記した。「?」マークは機能が未解明の器官である。Skn-1aノックアウトマウスは、化学感覚細胞が関わる生体防御反応の全容解明のためのモデル動物になると考えられる。

用語説明

[用語1] 化学感覚細胞 : 化学物質(匂い物質、味物質)による刺激を感知する細胞の総称。主に匂いと味の知覚に関与するが、近年、新たな化学感覚細胞が呼吸上皮、気管、消化器官、尿道などで見つかっている。これらの化学感覚細胞は、細菌や寄生虫の感染、炎症を感知し、生体防御反応に寄与すると考えられている。

[用語2] マスター因子 : 個体の発生や細胞産生において、他の一連の遺伝子を連鎖的に駆動させて、特定の形態を形成したり、特定の性質もった細胞群をつくったりするために必須な転写因子。

[用語3] Skn-1a : マウス皮膚上皮に発現するPOU型転写因子として同定された。Skn-1aは味蕾の甘味・苦味・旨味細胞や呼吸上皮の化学感覚細胞の産生に必須な機能であることが報告されている。

[用語4] Trpm5陽性化学感覚細胞 : Trpm5は甘味・苦味・旨味受容細胞において同定された、一価の陽イオンを選択的に透過させるカルシウム依存性のチャネルである。甘味・苦味・旨味情報のシグナル伝達に必須の分子である。Trpm5陽性化学感覚細胞はマウスの様々な器官に局在しており、Trpm5のほかに共通してvillinが発現している。甘味・苦味・うま味を感知する味細胞、呼吸上皮の孤立化学感覚細胞(solitary chemosensory cells)、気管や尿道のブラッシュ細胞(brush cells)、消化器官におけるタフト細胞(tuft cells)などがある。

[用語5] 口腔内の味細胞 : 味の基本五味(うま味、甘味、苦味、塩味、酸味)を感知する細胞群の総称

論文情報

掲載誌 :
PLOS ONE
論文タイトル :
Skn-1a/Pou2f3 functions as a master regulator to generate Trpm5-expressing chemosensory cells in mice
著者 :
Junpei Yamashita, Makoto Ohmoto, Tatsuya Yamaguchi, Ichiro Matsumoto, Junji Hirota
DOI :

研究グループメンバー

  • 東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター/生命理工学院 生命理工学系

    廣田順二 准教授

  • 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

    山下純平 大学院生(日本学術振興会特別研究員)

    山口達也 大学院生

  • モネル化学感覚研究所

    松本一朗 研究員

    應本真 研究員

研究サポート

本成果は主に、文部科学省(MEXT)/日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、山崎香辛料振興財団、米国国立衛生研究所のサポートを受けて行われました。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学

バイオ研究基盤支援総合センター 生物実験分野

生命理工学院 生命理工学系

廣田順二 准教授

E-mail : jhirota@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5830 / Fax : 045-924-5832

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

辻内順平名誉教授がエメット・N・リースメダルを受賞

$
0
0

東京工業大学 辻内順平名誉教授が、光学分野の世界的権威であるアメリカ光学会(Optical Society of America、以下OSA)のエメット・N・リースメダルを受賞しました。

OSA会長との記念撮影

OSA会長との記念撮影

辻内名誉教授の行ったコヒーレント光学的方法による画像復元の最初の実験成果を含む、光情報処理、ホログラフィー、光学的測定法の先駆的な研究が評価されたものです。

ステレオ撮影可能な内視鏡(左)と撮影画像から復元した胃の表層立体図(右)

ステレオ撮影可能な内視鏡(左)と撮影画像から復元した胃の表層立体図(右)

同賞は、ホログラフィーや光情報処理の分野で多くの功績を残されたエメット・ノーマン・リース氏を称えて制定されたもので、世界中の光情報処理分野の研究者の中から毎年1名が選出されます。

過去には光情報処理のバイブルと言われる「フーリエ光学」の執筆者であるジョゼフ・W・グッドマン博士をはじめ、世界トップレベルの研究者が名前を連ねており、今回の辻内名誉教授の受賞は日本人として初めての受賞となります。

9月18日に米国・ワシントンDCにて開催されたOSAの年次大会(Frontier in Optics)の中で授賞式が行われ、辻内名誉教授にメダルが授与されるとともに、記念スピーチを行いました。

辻内名誉教授のコメント

このエメット・ノーマン・リースメダルは、光情報処理、ホログラフィー、光学的測定法の分野の顕著で先駆的な学術的貢献に対して与えられる賞です。これらの分野を専門としていた私を含む私どもの研究室全体の成果が評価され、それを私が代表して頂いたことと理解していますので、研究室全体で喜びたいと思っています。

授賞式でのスピーチの様子

授賞式でのスピーチの様子

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 鈴木裕之

E-mail : hiroyuki@isl.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5183

天体衝突による火星隕石の放出メカニズムを解明 ―心太式加速による惑星間物質輸送―

$
0
0

ポイント

  • 火星隕石は天体衝突によって火星から飛び出し、地球に飛来したと考えられている。
  • 衝撃物理学の知見では、火星からの放出速度(秒速5 km以上)と火星隕石が経験した衝撃圧力(30~50万気圧)を同時に説明できていなかった。
  • 詳細な天体衝突の数値解析により、深部の岩石が、浅部の低衝撃圧力しか受けていない岩石を心太(ところてん)式に押し出すというメカニズムで火星隕石が放出されることを発見。
  • 天体間の物質輸送が従来考えられていたよりも容易に起こることを示唆。

概要

「火星隕石」は火星上の岩石が火星重力圏を飛び出し、地球に飛来し発見された隕石です。火星サイズの惑星から宇宙空間へ物質を射出することは容易ではありません。そこで火星上で起こった天体衝突によって火星の岩石が宇宙空間へ放出され、地球まで飛来したものであろう、と言われてきました。火星隕石は岩石学的な分析によって、 天体衝突時に30~50万気圧程度の衝撃圧を経験したことがわかっています。ところが衝撃物理学の観点からは、 天体衝突時に火星の重力から脱出する(秒速 5 km以上)ために50万気圧以上の強い衝撃波による加速が必要であることが指摘されており、 火星隕石の具体的な放出メカニズムは未解明でした。

千葉工業大学の黒澤耕介研究員、岡本尚也研究員、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の玄田英典特任准教授は異なる2種類の数値衝突計算コードを用い、火星物質が比較的低衝撃圧(30~50万気圧)で火星の脱出速度以上に加速(秒速 5 km)される条件を探りました。研究チームは天体衝突の直下点近傍の物質の流れを、 過去の研究よりも10倍以上高い空間解像度で解析しました。その結果、高衝撃圧を経験した深部の岩石が浅部(表面付近)の低衝撃圧しか受けない岩石を心太式に押し出すことで火星脱出速度以上の速度まで効率よく加速する「後期加速メカニズム」が働く(図1)ことを見出しました。この新発見によって火星隕石における岩石学的分析結果と衝撃物理学の間の矛盾が解消されました。

研究チームによる「後期加速メカニズム」の新発見は、高い衝撃圧を経験していない物質が従来考えられてきたよりも容易に惑星間を移動可能であることを示唆します(図2)。低衝撃圧力下の岩石中では、微生物が生き残る可能性があるため、地球外で発生した生命が地球に飛来した可能性(いわゆる「パンスペルミア仮説」)についても新たな展開をもたらすものであります。

今後は、千葉工業大学惑星探査研究センターに設置されている二段式水素ガス銃を用いた衝突実験を行い、 今回の数値解析で新たに発見された放出メカニズムを実証していく予定です。

研究成果は、欧州科学雑誌「Icarus」の電子版に掲載され、2018年2月1日発行号に掲載されます。

図1. 数値計算結果。火星地殻に貫入していく衝突天体(赤いハッチ部分)の外周近傍の様子を時系列で示します。水平距離と地表面から測った高さは衝突天体の半径で規格化しています。衝突天体が火星地殻と接触してからの経過時刻を規格化時間t/tsとして図中に示しています。t/ts = 1は衝突天体が火星地殻にすべて埋まる時刻です。同じ軌跡をたどる追跡粒子を赤から紫の6つの点、それらと同じ深さにある地層を同じ色の線で示しています。火星地殻物質がさらされている圧力をカラーバーで示しています。深部の岩石(例:紫の点)が浅部の岩石(例:赤の点)をおよそ10万気圧で押し出している様子がわかります。

図1. 数値計算結果

火星地殻に貫入していく衝突天体(赤いハッチ部分)の外周近傍の様子を時系列で示します。水平距離と地表面から測った高さは衝突天体の半径で規格化しています。衝突天体が火星地殻と接触してからの経過時刻を規格化時間t/tsとして図中に示しています。t/ts = 1は衝突天体が火星地殻にすべて埋まる時刻です。同じ軌跡をたどる追跡粒子を赤から紫の6つの点、それらと同じ深さにある地層を同じ色の線で示しています。火星地殻物質がさらされている圧力をカラーバーで示しています。深部の岩石(例:紫の点)が浅部の岩石(例:赤の点)をおよそ10万気圧で押し出している様子がわかります。

図2. 火星隕石が地球に到達するまでの概念図。「後期加速」メカニズムにより、 このような物質のやりとりが従来考えられてきたよりも容易に起こることがわかりました。

図2. 火星隕石が地球に到達するまでの概念図
「後期加速」メカニズムにより、 このような物質のやりとりが従来考えられてきたよりも容易に起こることがわかりました。

1980年に南極で発見されたElephant Moraine EETA79001隕石に含まれていた衝撃で一度熔融したガラス状組織に閉じ込められていたガス成分が、バイキング探査機が分析した火星大気成分と一致したことが決め手となり、火星から地球への岩石移動が起こることが示されました。現在では火星隕石の判断基準として地球の岩石とは系統的に異なる特徴的な酸素同位体を持つことも利用されています。2017年9月時点で198個の火星由来の隕石が発見されています。

論文情報

掲載誌 :
Icarus
論文タイトル :
Hydrocode modeling of the spallation process during hypervelocity impacts: Implications for the ejection of Martian meteorites
著者 :
Kosuke Kurosawa, Takaya Okamoto, and Hidenori Genda
DOI :

お問い合わせ先

千葉工業大学 惑星探査研究センター

黒澤耕介 研究員

E-mail : kosuke.kurosawa@perc.it-chiba.ac.jp
Tel : 047-478-4386・047-478-0320 / Fax : 047-478-0372

東京工業大学 地球生命研究所

玄田英典 特任准教授

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


平成29年度「東工大特別賞」を授与

$
0
0

11月21日に東工大特別賞の授与が行われました。この表彰は、多年にわたって研究教育の円滑な推進に寄与し、かつ、勤務成績が優秀と認められる大学職員に対し行われているものです。今年度は2名が表彰を受けました。

表彰式では、三島良直学長より表彰状の授与と報奨金目録の贈呈が行われました。

今回受賞した職員は次のとおりです。

平成29年度「東工大特別賞」受賞者

  • 技術部情報基盤支援部門技術職員(技術専門員) 隅水良幸

    受賞理由「インターネットへの情報発信基盤の安全安定運用を支える多大な貢献」

  • 技術部マイクロプロセス部門技術職員(主任技術専門員) 松谷晃宏

    受賞理由「技術部マイクロプロセス部門を中心とした研究支援に対する多大な貢献」

記念写真

記念写真

お問い合わせ先

総務部人事課労務室

E-mail : jin.iku@jim.titech.ac.jp

東工大基金「古本募金」年末年始の査定金額30%アップキャンペーン実施中

$
0
0

東京工業大学 古本募金(以下古本募金)は、読み終えた本・DVD等を提供いただき、その査定額を東京工業大学基金に寄附する取り組みです。寄附金は、各種奨学金の充実、学生の海外派遣および留学生の受け入れ支援、若手研究者の支援、理科教育の振興支援等に役立てられます。

年始までの下記期間中の申込分について、査定金額が30%アップする特別キャンペーンを実施しています。

古本募金 回収ボックス
古本募金 回収ボックス

古本募金大使 さが乃
古本募金大使 さが乃

年末年始 査定金額 30%アップキャンペーン

期間
2017年12月1日(金) - 2018年1月8日(月・祝)
詳細
申込み方法や、募金対象等の詳細については東京工業大学 古本募金outerをご覧ください。

年末年始の大掃除で不要となった本やDVDがございましたら、ぜひ古本募金を活用いただき、古本募金を通じた本学の教育研究活動へのご支援、ご協力をお願いします。

お問い合わせ先

東京工業大学基金室

E-mail : bokin@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2415

アルミニウム「超原子」の液相合成に成功 ―貴金属やレアメタル代替の新たな可能性拓く―

$
0
0

要点

  • ほかの原子に似た性質を示す「超原子(Al13)」を液相で合成
  • Al13がハロゲンのようにアニオン状態をとれることを実証
  • 今後、様々な元素を代替する超原子の利用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の山元公寿教授と神戸徹也助教らは、13個のアルミニウム原子で構成される「超原子[用語1]」(Al13)の溶液中での合成に成功した。デンドリマー[用語2]を鋳型として13原子のアルミニウムを集積させることにより、アルミニウム超原子の液相中での合成を実現した。

この成果は、超原子の大量合成が可能な液相法を用いる新たな手法の有効性を実証したもので、超原子の実用化に向けた大きな進展である。将来的には、貴金属やレアメタルを代替できる超原子の合成への展開が期待できる。

このAl13クラスターは最も有名な超原子の例であり、理論計算や気相での合成は行われていたが、溶液中で扱える液相法による合成はできていなかった。

この成果は12月11日発行の英科学雑誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版に掲載された。

研究成果

東工大の山元教授らは、デンドリマーとよばれる精密樹状高分子を用いて原子数を規定することにより、アルミニウムからなる超原子(Al13)の溶液中での合成に成功した。このデンドリマーにはアルミニウム塩が配位できるイミン部位[用語3]を配置しており、これが13個のアルミニウム原子の精密な集積を可能にした。この精密集積を利用することでアルミニウム超原子(Al13)の液相合成を達成した(図1)。

アルミニウム超原子(Al13)は他の個数のクラスターとは異なった特異な電子状態を有しており、その高い安定性が予測されていた。今回の研究で合成した超原子(Al13)は実際に酸素に対する高い安定性を示し、その超原子特性を確認した。

ピリジンコアデンドリマーを鋳型としたアルミニウム塩の精密集積と超原子の合成。マススペクトル[用語4]とXPS[用語5]測定による結合エネルギー[用語6]
図1.
ピリジンコアデンドリマーを鋳型としたアルミニウム塩の精密集積と超原子の合成。マススペクトル[用語4]XPS[用語5]測定による結合エネルギー[用語6]

研究の背景

元素を代替できる次世代の手法として「超原子」が注目されている。この超原子は構成する元素とは異なる別の元素に相当する電子状態を有するクラスターである。この超原子は構成する元素の種類や組成により変化できるため、構造をデザインすることで周期律に従った元素の性質を模倣できる。こうした超原子はレアメタルなどの代替のみならず、これまでの周期表では表せない新元素の特性も発現できる可能性を秘めている。

中でもAl13は最も有名な超原子であり、ハロゲン[用語7]類似の性質が発現されるとされてきた(図2)。しかし、Al13を初めとする「超原子」はこれまで、理論計算や気相での極微量合成が主であった。これらを利用可能な物質として合成することが期待されていたが、これまでは構成する原子数を精密に規定する方法がなく困難とされてきた。今回の研究では、デンドリマーを鋳型として構成原子数を規定することで、アルミニウム13原子からなる超原子の合成に成功した。

アルミニウム超原子(Al13)の電子状態は2P軌道に5つの電子を有しており、この電子状態がハロゲンの電子状態と同様になる。このことからAl13はハロゲンの超原子とされる
図2.
アルミニウム超原子(Al13)の電子状態は2P軌道に5つの電子を有しており、この電子状態がハロゲンの電子状態と同様になる。このことからAl13はハロゲンの超原子とされる

今後の展開

今回の成果はこれまで気相中でしか得ることのできなかった超原子が、液相で大量に合成できることを示したことである。この超原子の液相構築は今後の新たな超原子を合成するうえで重要な成果であり、様々な超原子の液相による大量の合成に利用できる。特に、機能発現が予測されている超原子に展開することで、希土類や貴金属など希少元素の代替が期待できる。

用語説明

[用語1] 超原子 : 原子軌道と類似した電子軌道を持つクラスター。この超原子特性の発現にはクラスターの高い対称性が必要。ハロゲンの電子配置を有するAl13は正二十面体構造をとる最も有名な超原子である。

[用語2] デンドリマー : 規則的に分岐した樹状構造の高分子。コア (core) と呼ばれる中心分子と、デンドロン (dendron) と呼ばれる側鎖部分から構成され、分子量分布の無い単一分子量という特徴がある。本研究では側鎖部位に金属を集積できるように工夫しており、13個のアルミニウム原子をデンドリマー内部に集めることができた。また、デンドロンは内部のアルミニウムクラスターの外部環境からの保護に役立っている。

[用語3] イミン部位 : 炭素と窒素の二重結合からなる化学結合部位。窒素上の電子が塩基として働き、金属イオンと結合することが出来る。

[用語4] マススペクトル : 分子や原子をイオン化し、その質量を分析したグラフ。質量分析器または質量分析計を用いて測定され、目的物の同定に利用される。

[用語5] XPS : X線光電子分光法。X線を照射した試料表面から放出される光電子のエネルギーを計測することで、物質の結合状態や電子状態を分析する手法。

[用語6] 結合エネルギー : ここでは、電子が物質に束縛されているエネルギーを意味する。この結合エネルギーを見ることで電子の状態についての情報が得られる。

[用語7] ハロゲン : 周期表の第17族に属する元素。1電子還元されたアニオンになると安定な希ガスの電子配置となる。フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが知られている。

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォームおよびダイナミックアライアンスの支援を受けて行なわれました。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)
論文タイトル :
Solution-phase synthesis of Al13 using a dendrimer template
(和訳:デンドリマーを用いたAl13 の液相合成)
著者 :
T. Kambe, N. Haruta, T. Imaoka, K. Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

12月13日14:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

TSUBAME e-Science Journal Vol.16 を発行

$
0
0

学術国際情報センターが、TSUBAME e-Science Journal Vol.16を発行しました。

TSUBAME e-Science は、東工大のスーパーコンピュータTSUBAMEを利用した研究成果を発表する広報紙です。

Vol.16には、今年8月に運用を開始したTSUBAME3.0の概要のほか、TSUBAMEを利用した2つの研究事例の記事が掲載されています。

  • HPCとビッグデータ・AIを融合する グリーン・クラウドスパコンTSUBAME3.0 の概要
  • ChainerMN:スケーラブルな分散深層学習フレームワーク
  • 創薬研究の基盤になる化学構造創出技術と効率的GPUコンピューティングとの連携

TSUBAME e-Science Journal Vol.16
TSUBAME e-Science Journal Vol.16

お問い合わせ先

学術国際情報センター TSUBAME ESJ 編集室

Email:tsubame_j@sim.gsic.titech.ac.jp

Tel:03-5734-2085

新しいメカニズムで発現する強誘電体を開発 ―磁性も備え、室温動作マルチフェロイックス新展開へ―

$
0
0

要点

  • 室温で強磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイックスの設計指針確立
  • 鉄系酸化物強誘電体設計の新機軸を提示
  • 適切な元素置換で絶縁性を向上させる方法を開発

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の伊藤満教授と片山司研究員、安井伸太郎助教らは、東北大学 金属材料研究所の木口賢紀准教授らと共同で、新しい物質群κアルミナ型酸化物[用語1]に属する「ガリウム鉄酸化物(GaFeO3)」を元素置換し、室温での強誘電性[用語2]を得ることに成功した。同時に、室温で大きな磁化を有することも分かった。

イオンの大きさ、化学結合、結晶化学的位置と安定性に着目して発見した。現在、世界中で室温動作のマルチフェロイックス[用語3]の開発競争が繰り広げられている。今後、今回と類似の構造を有する新物質の探索に拍車がかかると期待される。

また、この物質群における室温での強誘電性を確認したことは、同型構造を有するアルミニウムや鉄酸化物における強誘電性の開発が加速され、新しいメカニズムで発現する強誘電体の開発に繋がる可能性がある。

研究成果は材料の国際誌「Advanced Functional Materials(アドバンスト・ファンクショナル・マテリアルズ)」と「Journal of Materials Chemistry C(ジャーナル・マテリアルズ・ケミストリー C)」の電子版にそれぞれ11月16日および11月27日に掲載された。

研究成果

酸化物の主要な構造であるスピネル型とコランダム型[用語4]は酸化物イオンの最密充填構造から成り立っており、その積層順序は異なっている。κアルミナ型構造はスピネル型構造とコランダム型構造が交互に積み重なった折衷構造と考えることができる。このκアルミナ型構造の安定性に着目し、まず、この構造がどのようなイオンの組み合わせで出現するかを調べた(図1)。

AFeO3で出現する相。一番下は安定相。中間と上は準安定相であり、超高圧合成を含む。赤で記したのは強誘電相であり、4種類が認識される。
図1.
AFeO3で出現する相。一番下は安定相。中間と上は準安定相であり、超高圧合成を含む。赤で記したのは強誘電相であり、4種類が認識される。

図1の一番下の列が安定相であり、通常の高温での化学反応で取り出せる物質。横軸はA3+イオンの半径を示しており、右の方では磁性体で有名なオルソフェライトと呼ばれるペロブスカイト型構造が安定である。これよりも左側では安定相としてGAFeO3(κアルミナ型構造:κ)とFe2O3(コランダム型構造:Cor.)しか存在しない。しかし、上の列に示すように、準安定相まで含めると、数多くの相が出現し、実際に取り出して構造や性質を調べることができる。準安定相の多くは高圧法や溶液法で取り出すことができる。

図1中、赤で記した化合物は強誘電体であり、κアルミナ型構造、YMnO3(YMO)型構造、LiNbO3(LN)型をもつ化合物、およびペロブスカイト型構造(Pv)をもつBiFeO3の4つである。伊藤教授らは試料作製法として、単結晶膜を取り出すことができ、構造も調べやすい薄膜法を用いた。この構造の存在領域はA=アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、鉄(Fe)だが部分的に置換できる元素で最大の大きさをもつのはインジウム(In)である。まず、安定相であるGAFeO3を出発点に実験を開始した。

κアルミナ型構造では強誘電性の起源である電気分極はおもにスピネル構造面に存在する四面体に起因する。唯一の安定相である複酸化物GAFeO3を出発物質とし、GaとFeの比率を変化させることでフェリ磁性[用語5]になる温度を230℃から室温以下に変化させ、同時に絶縁性の変化と強誘電性を調べることで、室温で強誘電性を示しかつフェリ磁性を示す組成を見出した。

κアルミナ型結晶構造では独立な陽イオン位置は4つあり(図2(a))、これらの4つの位置のどこにイオンが入るかで磁性は変化する。また同時に電気の流れやすさも変化する。図2(b)(c)は作製した薄膜の断面STEM(走査透過電子顕微鏡)像である。10 nmサイズのドメインが形成しており、各ドメインの中で原子配列は図2(a)の結晶構造モデルと一致することがわかる。

κアルミナ型構造(a)と同構造を持つGa0.8Fe1.2O3の走査型電子顕微鏡像(b、c)。(c)での明るい点が陽イオンを示し、(a)に示す結晶構造に一致している事が分かる。
図2.
κアルミナ型構造(a)と同構造を持つGa0.8Fe1.2O3の走査型電子顕微鏡像(b、c)。(c)での明るい点が陽イオンを示し、(a)に示す結晶構造に一致している事が分かる。

図3はピエゾレスポンスフォース顕微鏡(PFM)[用語6]と強誘電測定装置を用いて測定した各種組成を持つ試料の電気応答を示している。これらの結果は、GAFeO3系の各種組成の試料が強誘電体であることを示している。

GaxFe2-xO3薄膜の強誘電性。(a)はピエゾフォース応答顕微鏡の信号。(b)(c)はそれぞれ分極反転に必要な電界の膜厚と組成依存性。(d)は分極P(実線)と反転電流(I)の電場依存性。 (e)(f)はPUNDと呼ばれる測定による電気信号。いずれのデータも強誘電性を確認できる。
図3.
GaxFe2-xO3薄膜の強誘電性。(a)はピエゾフォース応答顕微鏡の信号。(b)(c)はそれぞれ分極反転に必要な電界の膜厚と組成依存性。(d)は分極P(実線)と反転電流(I)の電場依存性。 (e)(f)はPUNDと呼ばれる測定による電気信号。いずれのデータも強誘電性を確認できる。
GaxFe2-xO3薄膜の磁化測定の結果。(a)~(d)は室温における面内と面直方向の磁化。(e)は磁化の温度依存性、(f)は5 Kにおけるx=0.8と1.0の試料の面内磁化を示す。
図4.
GaxFe2-xO3薄膜の磁化測定の結果。(a)~(d)は室温における面内と面直方向の磁化。(e)は磁化の温度依存性、(f)は5 Kにおけるx=0.8と1.0の試料の面内磁化を示す。

図4は各組成の磁化を比較したもの。Ga量増加とともにフェリ磁性転移点が低下し、磁気的性質も変化することがわかる。なお、X線磁気円二色性(XMCD)[用語7]X線吸収分光法(XAS)[用語8]の測定から、試料中で鉄は3価の状態をとりかつ図1(a)4つの位置のうち特定の位置を占有することを確かめた。

今回の研究がκアルミナ型構造をもつ酸化物の磁性体、強誘電体としての応用の可能性を指摘するとともに、図1に示した組成が異なる化合物も室温で強誘電性を示す化合物としては有力であり、伊藤教授らは既にガリウムを含まない2元化合物κアルミナ型酸化第二鉄(εFe2O3)でフェリ磁性と強誘電性を室温で確認している。

また、アルミニウム、鉄、酸素のみからなるκアルミナ型構造でも強誘電性を確認していることから、元素戦略上、κアルミナ型構造は強誘電体あるいはマルチフェロイックとして基礎的にも応用的観点からも重要である。さらに、特定の位置の元素を狙い、置換することにより絶縁性を向上させ、室温において大きな磁化を有したまま強誘電性を示す元素置換の方法も確立したため、今後、基礎研究ならびに実用化研究で多くの研究者が参入すると考えられる。

背景

75年前に発見されたチタン酸バリウム強誘電体はその後、同一構造であるペロブスカイト型酸化物のうちチタン酸鉛、チタン酸ジルコニウム、あるいは鉄酸ビスマスを中心にキャパシタあるいは圧電体として応用されており、新規物質は見つかりにくい状況にあった。物質が限られているため、基礎研究の幅も狭く、強誘電性の起源が何であるかもわからない状況が続いた。

伊藤教授らの研究グループは、量子常誘電体(La,Na)TiO3(1992年発表)およびその関連物質、量子常誘電体SrTiO3の酸素同位体置換による強誘電化(1999年発表)、ニオブ酸銀における強誘電性(2007年発表)、リラクサー強誘電体の強誘電性発現機構(2009年発表)、非ペロブスカイト型4配位シリケート化合物Bi2SiO4の強誘電性とメカニズム(2013年発表)、強誘電量子臨界性(2014年発表)など、強誘電体分野におけるマイルストーン的研究結果を発表してきた。

今回は、非ペロブスカイト型酸化物強誘電体探索・非6配位系強誘電性酸化物探索を旗印に、多くの化合物の強誘電性に着目して研究を進めた結果、既往の強誘電体とは異なるκアルミナ型構造の強誘電性発現メカニズムに焦点を絞り、まず、室温で強誘電性を示す新物質にターゲットを絞って合成を進めた結果、今回の結果に至った。

今後の展開

将来の研究は図2に示したナノドメインの示す特性の解明、単ドメイン化したκアルミナ型構造薄膜の物性、特に強誘電性に興味が集まっている。「驚異のチタバリ」と揶揄(やゆ)されるほど強誘電体研究は実用上および基礎研究上、「既知化合物」であるペロブスカイト型酸化物に集中している。物質科学の発展にはその分野での新物質の発見が不可欠であり、異分野の研究者の参入によるインパクトのある新物質発見なくして分野の興隆はあり得ない。

今回の研究は最初から計算科学分野の共同研究者を巻き込み、議論の結果、計算結果を再現するために物質合成をおこなうという通常とは逆の過程で研究が進行している。新規強誘電体開発のみならず物質研究の新しい潮流を作り出す重要な研究結果であると考えられる。

今回の研究成果は以下の事業・研究開発課題によって得られた。

  • 文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金

また、本研究の一部は、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学微細構造解析プラットフォーム)の支援を受けて実施された。

用語説明

[用語1] κアルミナ型酸化物 : スピネル型構造とコランダム型構造が交互に積層した酸化物の構造。

[用語2] 強誘電体 : 結晶を構成する正負のイオンが相対変位を起こして中心対称性を失っているため自発誘電分極が発生している極性物質の総称。圧電効果も示す。結晶学的には、32点群のうち、極性を有するのは10個である。通常の強誘電体では、自発分極が外部電場により反転可能であり、分極-電場の関係でヒステリシスカーブを示す物質が多い。物理的には、極性物質=強誘電体であり、外部電場による分極反転の有無の確認は実験的に制限されることが多い。

[用語3] マルチフェロイックス : 外場のない場合でも、自発的に強磁性、フェリ磁性(自発磁化を有する)、反強誘電性、強誘電性(自発分極を有する)、強弾性(自発歪みを有する)などの性質を1つ有する物質をフェロイック物質と呼び。マルチフェロイック物質は、これらの性質を複数持ち合わせた物質の総称である。

[用語4] スピネル型とコランダム型 : 天然鉱物のMgAl2O4はスピネルと呼ばれ、スピネル型酸化物では最密充填構造を持つ酸素面がABCABC……の順番に配列し、酸化物イオンで形成される4面体と8面体位置を陽イオンが規則的に占有する。磁性材料である磁鉄鉱(Fe3O4)やマグヘマイト(γFe2O3)はこの構造をもつ。一方、コランダム構造を有する酸化物では、最密充填構造を持つ酸素面がABAB……の順番に配列し、酸素で形成される8面体位置を3価イオンが占有する。鋼玉(Al2O3)はこの構造をとり、少量の不純物イオンが固溶して赤やそれ以外の色に発色したものはルビーあるいはサファイアと呼ばれる。

[用語5] フェリ磁性 : 結晶中の2組の格子上にある磁性イオンの磁気モーメントが互いに反対方向を向き、それらの磁気モーメントの数や大きさが異なるため自発磁化をもつ性質。

[用語6] ピエゾレスポンスフォース顕微鏡 : 強誘電体に圧力を加えると電荷を生じる。また、強誘電体に電圧をかけるとその分極状態に応じて伸び縮み(歪み)を生じる。試料と探針間へ印加する交流電圧に対して、サンプル歪みの伸縮の関係が同相になっているか、逆相になっているかで、試料の分極状態を測定できる。

[用語7] X線磁気円二色性 : 磁性体にX線を照射したとき、その吸収強度が磁化に対する左と右円偏光により異なる性質をX線磁気円二色性という。本法は物質中の原子の磁気状態を知る測定法である。

[用語8] X線吸収分光法 : 線吸収スペクトルは原理や解析法、得られる情報の違いによって広域X線吸収微細構造、X線吸収端近傍構造の2つに分けられる。広域X線吸収微細構造領域からは着目した原子まわりの局所構造(配位数・原子間距離・温度因子)に関する情報、X線吸収端近傍構造領域は着目原子周りの化学状態(原子価・電子状態)に関する情報を得ることができる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Functional Materials、2017年
論文タイトル :
Ferroelectric and Magnetic Properties in Room-temperature Multiferroic GaxFe2-xO3 Epitaxial Thin Films
著者 :
Tsukasa Katayama, Shintaro Yasui, Yosuke Hamasaki, Takahisa Shiraishi, Akihiro Akama, Takenori Kiguchi, Mitsuru Itoh
DOI :
掲載誌 :
Journal of Materials Chemistry C、2017年
論文タイトル :
Chemical Tuning of Room-temperature Ferrimagnetism and Ferroelectricity in ε-Fe2O3-type Multiferroic Oxide Thin Films
著者 :
Tsukasa Katayama, Shintaro Yasui, Yosuke Hamasaki, Takuya Osakabe, Mitsuru Itoh
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所

教授 伊藤満

E-mail : itoh.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5354 / Fax : 045-924-5354

東北大学 金属材料研究所

准教授 木口賢紀

E-mail : tkiguchi@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2128

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 金属材料研究所 情報企画室広報班

E-mail : pro-adm@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2144

Viewing all 4086 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>