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第3回「末松賞」授賞式を実施

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12月21日、第3回末松賞の授賞式が行われました。

末松賞は、末松安晴栄誉教授の「若い研究者たちが様々な分野で未開拓の科学・技術システムの発展を予知して研究し、隠れた未来の姿を引き寄せて定着させる活動が澎湃としてわき出て欲しい」との思いから、本学に対し多額の寄附をいただいたことにより創設された賞で、今回で3回目の授賞式となりました。

(前列左から)竹内一将准教授、末松安晴栄誉教授、酒井康徳研究員(後列左から)日置滋副学長(基金担当)、三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)

(前列左から)竹内一将准教授、末松安晴栄誉教授、酒井康徳研究員
(後列左から)日置滋副学長(基金担当)、三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)

末松栄誉教授は、光通信工学の分野において、光ファイバーの伝送損失が最小となる波長の光を発し、かつ、高速に変調しても波長が安定した動的単一モードレーザーを実現しました。現在のインターネット社会を支える大容量長距離光ファイバー通信技術の確立に大きく寄与するなどの優れた業績を挙げ、本領域の発展に多大な貢献をしました。その功績が評価され2015年度の文化勲章を受章しています。

第3回目となる本年度は、理学院 物理学系の竹内一将准教授、工学院 機械系の酒井康徳研究員の2名が選考されました。

授賞式には末松栄誉教授も出席し、三島良直学長からの挨拶の後、賞状の授与が行われました。次いで末松栄誉教授から挨拶があり、その後、受賞者2名が受賞に対しての感謝と今後の意気込みを述べました。

授賞式に続き、記念撮影、懇談会が行われ、懇談会には、一昨年度の第1回受賞者である理学院 物理学系の井上遼太郎助教、生命理工学院 生命理工学系の金森功吏助教、昨年度の第2回受賞者である科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉田啓亮助教も参加しました。

竹内准教授と酒井研究員からは現在行っている研究について、吉田助教からは受賞から1年が経過した現在の状況について、井上助教と金森助教からは受賞から2年経過後の研究成果と将来の展望について、それぞれ説明がありました。それに対して末松栄誉教授、三島学長、安藤真理事・副学長(研究担当)、日置滋副学長(基金担当)と活発な意見交換が行われ、懇談会は大変盛り上がりました。

懇談会の様子

懇談会の様子

東工大基金

この活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学基金室

Email : bokin@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2415


花を作る遺伝子の起源推定に成功

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花を付ける植物(被子植物)は花を付けない植物から進化してきました。この30年ほどの研究から、数種類のMADS-box(マッズボックス)遺伝子[用語1]と呼ばれる遺伝子が共同して働くことで、花が作られることがわかってきました。また、20年前には花を付けない植物であるシダ類にもMADS-box遺伝子があることが発見されました。花を付けない植物ではMADS-box遺伝子がどのような働きをしているのか、それらの遺伝子がどのように進化して花を作るようになったのか、植物の形の進化のメカニズムを探る研究として進められてきましたが、これまでにはっきりとした結論が得られていませんでした。その理由は、花を付けない植物では遺伝子操作が難しく、MADS-box遺伝子がどんな働きをしているかが明確にわからなかったからです。

基礎生物学研究所の越水静総合研究大学院大学 大学院生、村田隆准教授、長谷部光泰教授を中心とした研究グループは、金沢大学の小藤累美子助教、東京工業大学の太田啓之教授グループ、宮城大学の日渡祐二准教授らとの共同研究により、花を付けない植物であるコケ植物ヒメツリガネゴケが持つ6つのMADS-box遺伝子全てを解析し、これらの遺伝子が、茎葉体[用語2]の細胞分裂と伸長、精子の鞭毛の動きの2つの働きを持っていることを明らかにしました(図1)。茎葉体も精子の鞭毛も、花の咲く植物が乾燥に適応して進化する過程で退化し、消失してしまっています。このことから、進化の過程で、茎葉体と精子の鞭毛で働いていたMADS-box遺伝子が不要になり、それを別な機能に再利用することで、花が進化した可能性が高いことがわかりました(図2)。この点は、発生の仕組みが、異なった系統でも類似している動物とは大きく異なっており、動物と植物では発生の仕組みの進化の仕方が異なることがはっきりしました(図3)。

本研究成果は国際学術誌「Nature Plants(ネイチャー・プランツ)」に2018年1月3日付けで掲載されました。

コケ植物ヒメツリガネゴケMADS-box遺伝子は精子の運動と、茎葉体の細胞分裂と伸長を制御して茎葉体先端への水輸送の機能を持っていた。
図1.
コケ植物ヒメツリガネゴケMADS-box遺伝子は精子の運動と、茎葉体の細胞分裂と伸長を制御して茎葉体先端への水輸送の機能を持っていた。

今回の研究から推定されるMADS-box遺伝子の進化

図2. 今回の研究から推定されるMADS-box遺伝子の進化

動物と陸上植物では発生の進化の仕方が異なる

図3. 動物と陸上植物では発生の進化の仕方が異なる

研究の背景

花はガク片、花弁、雄しべ、雌しべの4つの花器官から形成されています。これらの花器官は複数のMADS-box遺伝子が複合的にホメオティック遺伝子として作用して形成されることが知られています。長谷部らは、1998年に花を付けないシダ類リチャードミズワラビにもMADS-box遺伝子が存在し、細胞分裂の活発な組織で働いている(伝令RNAが検出できる)ことを発見しました(Hasebe他 1998 米国科学アカデミー紀要)。しかし、シダ類では遺伝子操作が難しく、遺伝子がどんな働きをしているかを特定できませんでした。さらに、2005年に陸上植物(花の咲く植物と花の咲かない植物の両方を含む)に近縁なミカヅキモ、シャジクモなどもMADS-box遺伝子を持ち、卵や精子で伝令RNAが検出できることを発見しましたが(Tanabe他 2005 米国科学アカデミー紀要)、これらの緑藻類では遺伝子操作ができず、どんな働きを持っているかは不明でした。

そこで、長谷部らは20年ほど前に、コケ植物ヒメツリガネゴケの遺伝子操作実験技術を確立し、花を付けない植物でのMADS-box遺伝子の機能解析を開始しました。当時、博士研究員だった小藤累美子(現金沢大学)は、ヒメツリガネゴケのMADS-box遺伝子を2つ見つけ、遺伝子を破壊しましたが変化が現れませんでした。これは、他にも似た働きを持つMADS-box遺伝子があるからだと考えました。その後、他の複数の研究グループから別のMADS-box遺伝子を破壊した研究が発表され、生殖器官である胞子嚢(花の咲く植物の雌しべの中の珠心や雄しべの葯に相同な器官)が形成されにくいことから、コケ植物でも被子植物の花器官形成と同じように生殖器官(花は被子植物の生殖器官)の発生を制御していると考えられてきました。

研究成果

長谷部らは、国際コンソーシアムを結成し2008年にヒメツリガネゴケのゲノムを解読しました(Rensing他 2008 Science)。その結果、ヒメツリガネゴケには全部で6個のMADS-box遺伝子があることがわかりました。そこで、日渡祐二(現宮城大)らと6個のMADS-box遺伝子を全て破壊すると、従来の研究のように、生殖器官である胞子嚢が形成されにくいことがわかりました。しかし、低い割合ですが、正常な胞子嚢ができることがわかりました。従来の研究でも正常な胞子嚢ができることは知られていましたが、全ての遺伝子を壊していなかったので、残った遺伝子が働いているのだろうと考えられてきました。しかし、今回の研究では6つ全ての遺伝子を破壊したので、MADS-box遺伝子は、胞子嚢形成に働いているのではないことが明らかになりました。そこで、胞子嚢形成に必要な受精に影響があるのではないかと考えました。コケ植物は、茎葉体の先端で、精子が泳いで卵に到達して受精します。MADS-box遺伝子を全て破壊したコケをよく観察すると、遺伝子を壊していないものに較べて、乾燥して見えました。そこで、茎葉体表面に過剰に脂質が蓄積し、水をはじいて乾燥し、受精できないのではないかと考えました。数年間にわたりそのための解析方法を検討しましたが、最終的に、植物脂質の専門家である太田啓之教授グループ(東工大)との共同研究により、遺伝子破壊体で脂質の変化は検出できないことがわかりました。そこで、越水静大学院生はさまざまな試行錯誤を行い、茎葉体は、地上の水分を毛細管現象によって茎葉体の先端に運んでいることを発見しました(図4)。葉と茎の間には狭い隙間があります。地面に水分があると、その水は、狭い隙間に水が入り込む力(毛細管現象)によって、葉と茎の狭い隙間を通って、葉の付け根に溜まります。葉の付け根に水が溜まってくると、一つ上の葉と茎の間の隙間に水が接します。すると、毛細管現象で、一つ上の葉の葉付け根へと水が運ばれます。このような水の移動の繰り返しによって、茎葉体の下から上へと水が運ばれていることがわかりました。そして、MADS-box遺伝子を壊すと、葉と葉の間の茎の細胞数がほぼ倍になり、細胞の大きさも約1.5倍になっているため、葉と葉の間隔が広がり、下の葉の付け根にたまった水が一つ上の葉と茎の隙間に届かず、水が受け渡されていかないことを発見しました。

ヒメツリガネゴケの毛細管現象を使った水上げ

図4. ヒメツリガネゴケの毛細管現象を使った水上げ


水が葉と茎の狭い隙間に毛細管現象で入り込み、そのまま葉の付け根に溜まる。溜まる水が増えると、すぐ上の葉と茎の隙間に接触し、毛細管現象で葉の付け根に水が移動する。これを繰り返すことで水が下から上に移動する。

茎葉体基部から先端への水上げができないことで受精ができないなら、茎葉体を水に漬けてやれば、受精効率があがるはずだと考えました。しかし、たしかに受精率は上昇しましたが、遺伝子を壊していない場合と較べると四分の一ほどの受精率でした。そこで、他にも影響があると考え、遺伝子破壊体の卵と精子が正常かどうかを調べました。精子には鞭毛と呼ばれる毛が生えており、鞭毛を動かして卵へと泳ぎます。しかし、遺伝子破壊体の鞭毛はほとんど動かず、鞭毛タンパク質を作るための遺伝子の発現が減っていることがわかりました。一方、卵は正常でした。

これらの実験結果から、ヒメツリガネゴケのMADS-box遺伝子は、従来考えられてきたように生殖器官の発生を制御しているのではなく、茎葉体の茎の細胞分裂と伸長、精子の鞭毛形成に必要な遺伝子を制御する働きを持っていることがわかりました(図1)。

被子植物は、花粉から伸び出す花粉管の中を精細胞が移動することで受精し、乾燥した陸上での生活に適応しています。被子植物の祖先は、コケ植物のように水と精子を用いる生殖様式を持っていたと推定されています。そして、花粉管を用いた生殖様式が進化する過程で、茎葉体や精子は退化消失し、MADS-box遺伝子も不要になりました。遺伝子は機能を持っているときはその機能を果たすため突然変異が蓄積せず進化しにくいけれども、機能を失うと突然変異が蓄積し進化しやすくなることが知られています。従って、被子植物の進化の過程で茎葉体や精子が不要になる過程で、MADS-box遺伝子が新しい機能、すなわち、花器官形成の機能を進化させてきたと推定されます(図2)。

動物では、共通の遺伝子が発生過程に用いられています。しかし、2012年に長谷部らは、小葉類のイヌカタヒバ、コケ植物ヒメツリガネゴケのゲノム解読結果を被子植物のゲノムを比較し、陸上植物では、被子植物、小葉類、コケ植物の間で、それぞれ発生に関わる遺伝子が異なっているのではないかという仮説を提唱しました(Banks他 2012 Science)。今回の結果は、この仮説を実証し、植物の発生メカニズムが動物に較べて大きく変化してきたことを示しています(図3)。

今後の展望

陸上植物の進化の過程でMADS-box遺伝子は機能を大きく変化させてきたことがわかりました。MADS-box遺伝子は、他の遺伝子の働きを統御するような転写調節因子として機能しています。MADS-box遺伝子が新しい機能を獲得するときに、どのように制御する遺伝子を変えていったのかは未解明です。この問題を解決するためには、コケ植物と被子植物の間に進化した小葉類、シダ類、裸子植物のMADS-box遺伝子の機能解析が重要だと考えられます。これらの植物は遺伝子解析技術が確立されておらず、技術開発ができれば、研究が大きく進展する可能性があります。

研究サポート

本研究は科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業CRESTなどの支援のもと行われました。

用語説明

[用語1] MADS-box遺伝子 : 菌類のMCM1、植物のAGAMOUSとDEFICIENCE、動物のSRF遺伝子の頭文字を取って名付けられた。どの遺伝子も共通の58アミノ酸配列を持つ。遺伝子は会社のように組織だって働くが、MADS-box遺伝子は、課長や部長のように部下の遺伝子を統率し制御する働きを持ち、転写調節因子と呼ばれる。

[用語2] 茎葉体 : コケ植物セン類(庭園に植えるスギゴケなどの仲間)の茎葉を作る植物体。茎葉体の先端に精子と卵を形成し、そこで受精がおこる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Plants (ネイチャー プランツ) 2018年1月3日付け掲載
論文タイトル :
Physcomitrella MADS-box genes regulate water supply and sperm movement for fertilization
著者 :
Shizuka Koshimizu, Rumiko Kofuji, Yuko Sasaki-Sekimoto, Masahide Kikkawa, Mie Shimojima, Hiroyuki Ohta, Shuji Shigenobu, Yukiko Kabeya, Yuji Hiwatashi, Yosuke Tamada, Takashi Murata, and Mitsuyasu Hasebe
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

本研究に関するお問い合わせ先

基礎生物学研究所 生物進化研究部門

教授 長谷部光泰

E-mail : mhasebe@nibb.ac.jp
Tel : 0564-55-7546

取材申し込み先

基礎生物学研究所 広報室

E-mail : press@nibb.ac.jp
Tel : 0564-55-7628 / Fax : 0564-55-7597

総合研究大学院大学 広報社会連携室

E-mail : kouhou@ml.soken.ac.jp
Tel : 046-858-1590 / Fax : 046-858-1632

金沢大学 総務部広報室

E-mail : koho@adm.kanazawa-u.ac.jp
Tel : 076-264-5024 / Fax : 076-234-4015

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

宮城大学 事務部太白事務室 総務・予算グループ

E-mail : f-soumu@myu.ac.jp
Tel : 022-245-1024 / Fax : 022-245-1534

東工大インドネシア留学生協会が論文発表会と特別講演会を開催

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10月28日、大岡山キャンパスの西9号館ディジタル多目的ホールにて、東工大インドネシア留学生協会は、インドネシア大使館の協力のもと、論文発表会と特別講演会で構成されるイベント「東京工業大学 インドネシア コミットメント アワード」(以下、TICA)を開催しました。

TICAは、インドネシアの研究と技術開発の促進を目的に開催するもので、今年で8回目となります。

今年の論文発表会はインドネシアの大学に在学している学生を対象にするだけでなく、日本の大学に在学しているインドネシアからの留学生も参加しました。インドネシアの大学に在学している学生から393本の論文が集まり、その中から選抜された優秀な4名の論文が選ばれました。選ばれた4名の学生を東京に招き、TICAで自身の研究について発表しました。

当日は、本学 国際交流支援部門グループ長の山浦弘教授の開会の挨拶で始まりました。午前の部の論文発表会では、ファイナリスト4名による決勝戦が行われ、その中から最優秀者が選ばれました。会場入口のホールでは、18名の研究ポスターも展示されました。

山浦弘教授による開会の挨拶
山浦弘教授による開会の挨拶

インドネシア大学の学生による研究発表
インドネシア大学の学生による研究発表

発表者にコメントする本学アズイッズ・ムハンマッド特任准教授
発表者にコメントする本学アズイッズ・ムハンマッド特任准教授

研究ポスターの展示
研究ポスターの展示

午後の部は、本学卒業生である、京都大学および名古屋大学の川崎正博名誉教授とインドネシア第3代大統領の息子のイルハム・ハビビー氏による特別講演会が行われました。講演者からは、途上国が自立するために必要な科学イノベーションについて述べられました。

実行委員長のディマス・アルディヤンタ氏は、「日本で得た知識や経験が、将来のインドネシアの発展やインドネシアと日本の友好関係に役に立つことを期待しています」との言葉で会を結びました。本イベントは毎年の開催を予定しています。

京都大学および名古屋大学の川崎正博名誉教授による特別講演
京都大学および名古屋大学の川崎正博名誉教授による特別講演

イルハム・ハビビー氏による特別講演
イルハム・ハビビー氏による特別講演

表彰式
表彰式

参加者全員の集合写真
参加者全員の集合写真

優秀者の研究タイトル

論文タイトル
氏名
大学
井戸水の低燃フィルターを作るためにココアレザー廃棄物(Theobroma cacao L)の利用
アズウィン ハルファンサフ
北スマトラ大学
アロマ品質向上としての不均一触媒を用いたシトロネラ・ワンギ(Cymbopogon winterianus)の老化過程
ヴィナ オクタビア アズザフラ
ブラウィジャヤ大学
ポリウレタン接着剤を用いたバイクブレーキ除去材としてのククイの殻 (Aleurites moluccana)の利用
ワヒッド ヌルヒダヤット
北スマトラ大学
ディープラーニングを用いた無制限文法のインドネシア語読唇術
ムハッマド リズキ アウリア
インドネシア大学
日本の大学に在学するインドネシア留学生
高耐震性能コンセプト:全弾性挙動を考慮したダンパー摩擦を伴うグループシステムを有する鉄筋コンクリート橋梁の柱構造
アンガ ファジャル
京都大学

TAIST-Tokyo Tech 学生交流プログラム2017

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本学では、2007年よりタイ国立科学技術開発庁およびタイのトップクラス大学と連携し、TAIST-Tokyo Tech(以下、TAIST)という修士課程プログラム(自動車工学、組込情報システム、エネルギー資源工学の3分野)をタイで実施しています。

工学院 花村克悟教授の研究室訪問の様子
工学院 花村克悟教授の研究室訪問の様子

このTAISTを活用した学生受入れプログラム「TAIST-Tokyo Tech 学生交流プログラム(TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program)」を今年度も実施しました。実施3年目を迎えた本プログラムは、タイ現地のTAIST学生を本学へ受入れ、修士論文研究における副指導教員の研究室に配置し、研究活動に従事させるものです。今年は6名の学生を9月下旬から2ヵ月超にわたり受入れました。

本プログラムは、本学の優れた研究環境のもと、東工大生と協働しながらTAIST学生に研究活動を行ってもらうことを主目的としています。その他、TAIST協力教員の研究室訪問、キャンパスツアー、工場見学、休日アクティビティなども実施しています。

工場見学では、今年は東洋ガラス株式会社の千葉工場を訪問しました。学生たちは、ガラスびんの製造工程を間近で見学し現場の雰囲気を体感するとともに、作業のほとんどがオートメーション化され工場が少人数で運営されている様子に驚いていました。TAIST事業の目的の一つは、タイをはじめとするアジア諸国での理工系分野におけるものつくり人材の育成です。日本のものつくりの最先端技術と現場を体感することができ、TAIST学生にとって最も印象深い体験の一つとなりました。

休日アクティビティでは、TAISTを活用した学生派遣でタイへ短期留学する予定の東工大生と一緒に、お台場を観光しました。来日してまもなく、このアクティビティが行われましたが、学生同士すぐに打ち解け、とても楽しい時間を過ごしたようでした。

東洋ガラス株式会社千葉工場の皆さんと
東洋ガラス株式会社千葉工場の皆さんと

東工大生との休日アクティビティの様子
東工大生との休日アクティビティの様子

プログラムの最後には帰国前報告会が開催され、TAIST学生はTAIST協力教員、受入指導教員、研究室のメンバーらの前で研究成果の発表を行いました。参加者からそれぞれの発表内容について多くの質問がなされ、中には持ち時間が足りなくなる学生もいましたが、議論を通じて今後の課題が明らかになり、帰国後の研究活動への意欲が高まったようでした。続いて行われた懇親会では、皆でこの2ヵ月間について振り返るとともに、今後の活躍へのエールがTAIST学生に送られました。

参加学生の声

  • 研究活動では思いもよらない実験結果が出たため、苦戦しました。しかし、数週間にわたり副指導教員と議論を重ねたことで、最終的にはその現象を結論づけることができ、非常に興味深い結果を得ることができました。この経験を通じて、物事に対する責任感が増しました。
  • 東工大に滞在中、日本語クラスを履修しました。まさか自分が第3言語を勉強するとは思いませんでしたが、授業がとても面白かったので、帰国後も勉強を継続したいと考えています。
  • プログラムに参加したことで、タイムマネジメントや物事の適切な計画の立案、その他さまざまなスキルを上達させることができ、かけがえのない経験となりました。仕事・日常生活に関わらず、今後のキャリアに役立てたいと思います。

今回受入れた学生たちは、TAISTを修了後、就職や博士後期課程への進学等、それぞれ次のステージへと進みます。本プログラムで得た経験を活かし、今後世界を舞台に活躍することが期待されます。

研究成果が認められ、修了証書を手にした学生たち

研究成果が認められ、修了証書を手にした学生たち

TAIST(タイスト):Thailand Advanced Institute of Science and Technologyの頭文字。タイ政府からの要望により、理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブを目指して設立。タイにおいて、急速な工業化から派生する諸問題の解決や持続可能な発展に資する研究開発、人材育成を目的としています。

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2237

1月10日9:50 問い合わせ先の電話番号に誤りがあったため、修正しました。

留学生向け教室「折り紙」「茶道」「年賀状づくり」開催報告

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東京工業大学 学生支援センター 国際交流支援部門では、第3・4クォーター中の毎月、学生の国際交流支援の一環として、留学生を対象としたイベントを開催しています。

「折り鶴」完成

「折り鶴」完成

2017年9月の新入留学生歓迎イベント「ウェルカム コーヒー アワーズ」に続き、10月には「折り紙教室」、11月には「茶道教室」、12月には「年賀状づくり教室」を開催しました。

10月の折り紙教室と12月の年賀状づくり教室は、大岡山キャンパス 大岡山西1号館の留学生ラウンジで行われました。本学 環境・社会理工学院 社会・人間科学系の大学院生、日本語教育インターン生である留学生が参加し、リベラルアーツ研究教育院 日本語教育セクションの教職員と交流しながら、活動を楽しみました。折り紙や年賀状用の消しゴムはんこづくりでは、和気あいあいとした雰囲気の中、「ものつくり」に集中する静寂の時間も流れ、作品が完成すると学生の笑顔には満足感が溢れていました。

11月の茶道教室では、本学 茶道部と国際交流会館の協力を得て茶会を開催しました。お点前の流れを客として体験するほか、実際に道具を使ってお茶を点てる体験の2部構成でした。積極的な質問や解説が日本語と英語で交わされ、日本文化体験に加えて留学生と茶道部員との国際交流という点でも意義深いイベントとなりました。

留学生・日本人学生を問わず、このような授業外のインフォーマルな学びも、グローバル人材を育む良い機会となります。一連のイベントは、本学同窓生である滝久雄氏からの寄付を原資とする「滝久雄留学生日本語支援プロジェクト」の後援を受けて実施しています。

東工大に在籍する留学生は、授業や研究活動で多忙な生活を送っていますが、日本文化体験や国際交流にも関心を寄せています。2018年も、留学生と日本人学生、教職員や地域住民との交流イベントを継続して開催していきます。

「くす玉」完成

「くす玉」完成

茶席で主人の動作を英語で解説する茶道部員
茶席で主人の動作を英語で解説する茶道部員

年賀状完成
年賀状完成

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 国際交流支援部門

E-mail : ryu.kor@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7645

東工大とMITが先進的原子力システムに関するワークショップを開催

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2004年、2006年の開催に続き、3回目となる「東工大-MIT 先進的原子力システム ワークショップ(MT-INES)」が、10月27日にマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)で開催されました。

本ワークショップには、東工大とMITの双方から原子力分野の第一線の研究者が出席しました。本ワークショップは、最新の原子力技術革新の研究成果と、東工大とMITの研究力を結集した原子力システムおよび廃炉に関する技術及び企業との連携をテーマに、双方から合計11名の研究者の発表が行われました。

東京工業大学 先導原子力研究所の竹下教授、小原教授、加藤教授、MITのボンジョルノ教授、バリンジャー教授、その他参加者

東京工業大学 先導原子力研究所の竹下教授、小原教授、加藤教授、MITのボンジョルノ教授、バリンジャー教授、その他参加者

ワークショップ開催に先立ち、本学の安藤真理事・副学長(研究担当)からのビデオメッセージが放映され、MITに対して開催の謝辞と今後のエネルギー問題解決のための期待が述べられました。また、福島第一原子力発電所の廃炉に係る国際廃炉研究開発機構等の日本企業3社からも研究者が出席し、廃炉に係る発表と問題提起が行われました。それらに対して東工大およびMITの研究者から活発な発言があり、問題解決のための深い議論が展開されました。

ワークショップ前日には、東工大およびMITの博士後期課程学生による学生ワークショップが行われ、互いの理解を深めるとともに、東工大生への高い評価が得られました。また、ワークショップ翌日には、MITの原子炉ツアーが開催され、多くの東工大生が参加し、知見を大きく広げる機会を得ました。双方の学生によるさらなる交流が期待されます。

ワークショップ終了後、福島第一原子力発電所の廃炉に向け、東工大とMITと日本企業の共同研究のテーマが複数提案され、問題解決への道筋が示されました。先進的原子力システムと福島第一原子力発電所の廃炉をさらに推し進める技術の確立に向け、三者による共同研究が、今後推進されることが期待されます。

お問い合わせ先

研究・産学連携本部

E-mail : nmatsuo@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-8734-7637

2017年度博士後期課程全学説明会 開催報告

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2017年10月16日、10月31日に大岡山キャンパス 大岡山西講義棟1のレクチャーシアター及びすずかけ台キャンパス H1・2棟(大学会館)多目的ホールで同時中継を行い「博士後期課程全学説明会」が開催されました。

本説明会は昨年に引き続き、カリキュラムや支援体制などの情報に加え、博士後期課程に在学中の学生や、博士号取得後に活躍している社会人の声を聞くことによって、本学の博士後期課程への進学(入学)に関する理解を深めていただくことを目的としたものです。

参加対象は、主に博士後期課程への進学を考えている(または迷っている)修士課程、学士課程の学生ですが、広く周知を行い、保護者や他大学学生、一般の方も含め、10月16日は115名、10月31日は133名、合計で248名の方に参加いただきました。

会場の様子
会場の様子

説明会は、大きく3つのパートで構成され、1つ目のパートでは、16日は、井村順一理事・副学長特別補佐、31日は、水本哲弥副学長(教育運営担当)が登壇し、東工大の博士後期課程の学生が目指すところや、企業における博士号取得者の国際比較、博士後期課程で身についたこと、教養科目に関すること、経済・キャリア支援、就職状況等の概要について、スライドを用いて説明しました。

井村理事・副学長特別補佐
井村理事・副学長特別補佐

水本副学長(教育運営担当)
水本副学長(教育運営担当)

2つ目のパートでは、各日共に在学生2名、社会人2名による講演が行われました。

両者共通の内容として、博士後期課程に進学した背景や目的、現在(過去)どのような生活を過ごしているか、また、在学生講演者からは、博士後期課程のメリットだけではなく、デメリットやよく聞かれる心配事についても具体的に話がありました。

社会人講演者は、修了後どのようなキャリアを積んだか、また、博士後期課程在学中に身についた力(専門的知識、論理的に物事を考える力、英語を含めたコミュニケーション能力など)を現在の仕事でどのように活かしているかを語り、これから博士後期課程を目指す学生へ貴重なアドバイスを贈りました。

在学生による講演(中村駿介さん)
在学生による講演(中村駿介さん)

社会人による講演(内尾優子さん)
社会人による講演(内尾優子さん)

最後の3つ目のパートでは、在学生及び社会人講演者によるパネルディスカッションが行われました。

学生支援センターの伊東幸子特任教授(学修コンシェルジュ)がファシリテーター役を務め、会場からは多くの質問がでました。その後は、講演を踏まえたディスカッションが行われ、博士後期課程進学のきっかけのヒントとなるような“生の声”が講演者から引き出されていました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

講演者の話の中で共通していたのは、主に下記のような点です。

  • 博士後期課程在学中は、自分の時間を自由に使い、研究を計画的に行うことができる(主体性が大切)
  • 国際的に活躍するためには、博士号取得が必要不可欠である
  • 専門知識を深めると同時に、専門以外の方とも活発な交流をすることも大事である
  • 自分が将来どうありたいのかを考え、今できることを実行し続けることが大切である

これらのアドバイスが参加者の心に届き、より多くの学生が本学の博士後期課程で学び、次世代を牽引する人材となることを期待します。

最後に、来場者アンケートに寄せられた意見・要望の一部をご紹介します。

  • わからなかった博士後期課程について、よりよくイメージがつかめました
  • 博士後期課程を卒業された方からの講演がとても興味深かったです。卒業後就職とどうつながるのかを具体的な進路を交えて紹介して下さったことがすごく参考になりました
  • とても楽しかったです。帰って息子に話します。ありがとうございました
  • 先輩方の生の体験話を伺えてよかったです。子どもが今後選択する方向を見守ろうと改めて認識しました
  • 私自身が既に社会人(会社員)である為、社会人向けの説明や事例がもう少しあると助かります

その他アンケートでいただいた多数のご意見・ご要望については、今後の教育支援に活用していきます。

なお、当日の資料は下記よりご覧いただけます。

在学生による講演資料PDF

  • 10/16 渡邉郁弥(工学院 システム制御系 1年)
  • 10/31 仲谷佳恵(大学院社会理工学研究科 人間行動システム専攻 3年)
  • 10/16、10/31 中村駿介(大学院総合理工学研究科 環境理工学創造専攻 2年)
学年は2017年10月時点

社会人による講演資料PDF

  • 10/16、10/31 独立行政法人 国立科学博物館 内尾優子(2004年3月修了)
  • 10/16、10/31 東京大学 先端科学技術研究センター 鹿野豊(2011年9月修了)

お問い合わせ先

学務部 教務課 教育企画グループ

E-mail : kyo.kyo@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7602

木口学教授が第14回日本学術振興会賞を受賞

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理学院 化学系の木口学教授が、第14回日本学術振興会賞を受賞しました。

日本学術振興会賞とは

同賞は、独立行政法人日本学術振興会が、優れた研究を進めている若手研究者を見い出し、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することにより、我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させることを目的に2004年に創設されたものです。

受賞対象者は、人文・社会科学及び自然科学の全分野において、45歳未満で博士又は博士と同等以上の学術研究能力を有する者のうち、論文等の研究業績により学術上特に優れた成果をあげている研究者となっています。 受賞者には賞状、賞牌及び副賞として研究奨励金110万円が贈呈されます。

記念受賞式は2018年2月7日(水)に日本学士院にて開催される予定です。

木口学教授

受賞研究業績

「単分子接合の計測手法と新規物性・機能の開発」

木口教授は、将来の分子エレクトロニクスの実現で中心的な役割をになう、金属電極に単分子を架橋させた単分子素子の開発において、その性能に決定的な影響をおよぼす単分子接合の原子構造、電子状態を決定する独自の手法を開発しました。また、界面相互作用を積極的に利用して、単分子接合の新たな物性や機能を開拓しました。

木口教授は光増強場を利用した単分子接合の振動スペクトル測定に初めて成功し、接合界面における分子構造を決定するとともに、その電気的特性を複合計測するシステムを構築しました。この計測手法は、接合界面における単分子の構造を界面の電子状態や相互作用まで含めて解明することを可能にし、現在では単分子接合の研究に不可欠な手法として広く使われるようになっています。

このように、木口教授の単分子接合に関する研究は独創的であり、単分子エレクトロニクス分野のみならず、材料科学、電子工学などの周辺分野に大きく貢献しています。

受賞コメント

木口学教授
木口学教授

日本学術振興会賞を受賞することができ、大変光栄に思います。受賞対象となった単分子接合に関する研究では、分子の合成、計測、理論解析の3本の柱が揃って初めて、研究を進めることが出来ます。私達は主に計測法の開発を行ってきましたが、合成、理論の方々との共同研究なしでは、研究を行うことができません。私、そして私達の最大の財産は恵まれた共同研究者だと思っています。心から共同研究者の方々に感謝申し上げます。

私は、研究に対する姿勢を東京大学(当時)の太田俊明先生、横山利彦先生から、研究の進め方を東京大学の斉木幸一朗先生から教えて頂きました。そして、本研究のテーマは北海道大学の村越敬先生から頂いたものです。これらの先生方、そして本学のサポートのおかげで現在も研究を続けることが出来ています。

なお全ての研究は研究室のスタッフ、学生と一緒に行ったもので、私だけが受賞したことを申し訳なく思っています。今後、自分も勉強を続けると共に、私以上の能力をもつ研究室の若いスタッフ、学生が、私以上の活躍をすることを支えていきたいと思っています。このたびは誠にありがとうございました。


少量の大豆イソフラボン摂取で筋萎縮をストップ ―高齢化社会で増える筋減弱症の軽減に期待―

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要点

概要

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院の佐久間邦弘教授、ニチモウバイオティックスの天海智博社長、豊橋技術科学大学 環境・生命工学系の田畑慎平院生らの共同研究グループは、食事の0.6%という少量の大豆イソフラボンをマウスに摂取させることで、除神経(神経の切除)に伴う筋萎縮を軽減することに成功した。大豆イソフラボンの摂取はアポトーシスを軽減し、除神経による筋細胞数の減少を食い止めることで筋萎縮を抑制したと考えられる。

超高齢化社会を迎える我が国では、ロコモティブシンドローム[用語4]の一つである加齢性筋減弱症(サルコペニア)が重要な社会問題になりつつある。サルコペニアを軽減する食品素材として、大豆イソフラボン(AglyMax)が期待できそうだ。

これまでも大豆イソフラボンによる筋萎縮予防効果を報告した研究はあったが、異常な多量(食事の20%)を用いており、人への応用を考える上で問題を抱えていた。

本研究成果は12月13日発行の「European Journal of Nutrition(欧州栄養学会機関誌)」オンライン版に掲載された。

背景

人間の骨格筋は身体の50~60%を占め、運動をするためや、体温を維持するために重要な働きをしている。病気や障害、加齢により骨格筋が萎縮するが、これを軽減するためのサプリメント(食品成分)の探索が行われている。大豆イソフラボンは、筋萎縮を軽減する有効な候補の一つであった。

しかし、筋萎縮予防に効果的であるとしたこれまでの研究は、食事中に20%の大豆イソフラボンを含んでおり、多量過ぎるため、人への応用は不可能だった。少量の大豆イソフラボンを摂取することで、筋萎縮が軽減できるのかどうかについては不明だった。

研究成果

佐久間教授らがマウスを用いて実験した結果、除神経により起こった筋細胞の萎縮程度は大豆イソフラボンを摂取した群で有意に小さいことが分かった。除神経を施した骨格筋細胞内ではアポトーシスが起こり、筋細胞数が減ることで筋萎縮につながる。大豆イソフラボンの摂取は細胞内のアポトーシスの割合を有意に減少させた。したがって大豆イソフラボンの摂取はアポトーシスを抑制し、除神経による筋細胞数の減少を食い止めることで筋萎縮を軽減したと考えられる。

除神経筋における大豆イソフラボン(AglyMax)摂取の萎縮軽減効果。2週間の除神経を施した条件において、cの通常餌群の筋細胞よりもdのAglyMax餌群の筋細胞が大きい。
図1.
除神経筋における大豆イソフラボン(AglyMax)摂取の萎縮軽減効果。2週間の除神経を施した条件において、cの通常餌群の筋細胞よりもdのAglyMax餌群の筋細胞が大きい。
除神経筋における大豆イソフラボン(AglyMax)摂取のアポトーシス抑制効果。2週間の除神経を施した条件において、通常餌群のアポトーシス核(a、b)よりもAglyMax餌群のアポトーシス核(c、d)の頻度が少ない。大豆イソフラボンの摂取はアポトーシスを抑制していると考えられる。
図2.
除神経筋における大豆イソフラボン(AglyMax)摂取のアポトーシス抑制効果。2週間の除神経を施した条件において、通常餌群のアポトーシス核(a、b)よりもAglyMax餌群のアポトーシス核(c、d)の頻度が少ない。大豆イソフラボンの摂取はアポトーシスを抑制していると考えられる。

今後の展開

超高齢化社会を迎える我が国では、ロコモティブシンドロームの一つである加齢性筋減弱症(サルコペニア)が重要な社会問題になりつつある。サルコペニアを軽減する薬剤の候補はいくつかあるものの、食品で有効な素材は現在、見当たらない。大豆イソフラボン(AglyMax)の摂取が、サルコペニアを軽減できるのかどうかについて、今後、さらに詳しく検証していく。

用語説明

[用語1] AglyMax : 遺伝子組み換えをしていない良質な大豆胚芽を原料に、独自の麹菌発酵技術でアグリコン化し、体内への吸収性をアップさせた大豆イソフラボン。大豆イソフラボンは通常は糖が結合した構造をしているが、糖がはずれた構造のものを大豆イソフラボンアグリコンという。AglyMaxは発酵大豆胚芽抽出物に関するニチモウ株式会社の登録商標。

[用語2] アポトーシス : 多細胞生物を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺。

[用語3] 加齢性筋減弱症(サルコペニア) : 加齢に伴う骨格筋量の低下。握力や下肢筋・体幹筋など全身の筋力低下がみられ、歩行速度の遅延といった身体機能の低下も起こる。

[用語4] ロコモティブシンドローム : 運動器機能不全のことで、運動器の障害や、衰えによって歩行困難など要介護になるリスクが高まる状態のこと。変形性関節症、骨粗鬆症、加齢筋減弱症(サルコペニア)などが、これに含まれる。

論文情報

掲載誌 :
European Journal of Nutrition
論文タイトル :
The influence of isoflavone for denervation-induced muscle atrophy
著者 :
Shinpei Tabata, Miki Aizawa, Masakazu Kinoshita, Yoshinori Ito, Yusuke Kawamura, Minoru Takebe, Weijun Pan, Kunihiro Sakuma
DOI :

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院

教授 佐久間邦弘

E-mail : sakuma.k.ac@m.titech.ac.jpsakuma@ila.titech.ac.jp
Tel : 03- 5734 -3620

ニチモウバイオティックス株式会社

E-mail : nbkinfo@nichimo.co.jp
Tel : 03-3458-3510(代表) / Fax : 03-3458-4330

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

BSフジ「ガリレオX」に工学院の鈴森康一教授が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授が、BSフジ「ガリレオX」に出演します。

「ガリレオX」はサイエンステクノロジーに関わる新しい動向や注目の研究を、「深く・わかりやすく・面白く」伝える科学ドキュメンタリー番組です。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

鈴森康一教授のコメント

近年世界的に注目を浴びている「ソフトロボティクス」に焦点を当てた内容になっています。

軟体動物のような柔らかい連続体ボディからなるロボットの研究で、古くから日本がリードしてきた分野です。私が30年前に開発したソフトロボットから、最新の研究まで、いろいろと紹介させてもらいました。そして、ソフトロボティクスの先にある「いいかげんロボティクス」という私の夢をお話ししたのですが、番組を通してうまく伝わるか、期待と不安が入り混じっています。

放送予定日

  • 番組名
    BSフジ「ガリレオX」
  • 放送予定日
    2018年1月28日(日)11:30 - 12:00
  • (再放送)
    2018年2月4日(日)11:50 - 12:20

関連動画(字幕:英語)

多繊維型人工筋肉で駆動される筋骨格ロボット

多繊維人工筋肉による首駆動機構の模擬

20mの長いロボットアーム ―バルーン型ジャコメッティアーム―

軽量でスリムな6脚ジャコメッティロボット

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

役員会トピックス:国立台湾科技大学(台湾)と全学協定を新規締結

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

1月12日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

1月12日 役員会

主な審議事項等

  • 国立大学法人東京工業大学学内クロス・アポイントメント制度規則の一部改正について
  • 理学院量子物理学・ナノサイエンス先端研究センターの設置について
  • 国立台湾科技大学(台湾)との全学協定の新規締結について
  • 平成30年度推薦入試及びAO入試出願状況について
  • 2018年度ASPIREリーグ研究グラント募集について

トピック:国立台湾科技大学(台湾)と全学協定を新規締結

国立台湾科技大学は、台湾初の技術職業専門学校として1974年に設立されたナショナル タイワン インスティテュート オブ テクノロジー(National Taiwan Institute of Technology)を前身とした大学です。2018年版のQS世界大学ランキングの創立50年以内の大学ランキングで23位に選出されているほか、台湾技術開発庁によるランキングにおいて技術移転・特許使用許諾による累計収入が台湾の理工系大学で第1位に選出されるなど、産学連携が盛んな大学として広く認知されています。

2015年に大学院理工学研究科が国立台湾科技大学工学院、電気情報学院と部局間協定を締結し、2016年の教育改革以降も工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院において、活発に学生交流を行ってきました。既に両大学の教員が合同で実施する教育プログラムが開始されており、同プログラムと併せて共同研究を推進することで、若手研究者の育成にも繋がる効果が見込まれます。また、国立台湾科技大学では台湾政府の支援によるAIセンターの設置を検討しており、本学の情報理工学院との協働についても進展が期待されています。 この締結により、本学の全学協定の数は109となります。

大学院理工学研究科は、2016年に行われた大学改革により、現在は募集を停止しています。教育体系の移行については、以下をご覧ください。

日中韓ランチ交流会 開催報告

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2017年12月25日、大岡山キャンパス 大岡山西1号館1階ラウンジで日中韓ランチ交流会を開催しました。このランチ交流会は、キャンパス・アジアプログラムにより韓国のKAIST (韓国科学技術院) と中国の清華大学から本学に短期留学をしている留学生と、同大学への派遣経験者および派遣予定者が交流する目的で企画したものです。

当日は、東工大生10名、留学生10名の計20名が参加し、各自ランチを持参して、お互いの情報交換の場として活発な交流を行いました。

キャンパス・アジアプログラム構想責任者の原正彦教授による参加者紹介

キャンパス・アジアプログラム構想責任者の原正彦教授による参加者紹介

キャンパス・アジアプログラム構想責任者の原正彦教授による参加者紹介

日中韓ランチ交流会の様子

日中韓ランチ交流会の様子

日中韓ランチ交流会の様子

日中韓ランチ交流会の様子

日中韓ランチ交流会の様子

日中韓ランチ交流会の様子

キャンパス・アジアプログラムは、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の支援を受けて実施する、留学生の受入れと東工大生の派遣を行うプログラムです。中国の清華大学・韓国のKAIST・本学が連携して、留学生を受入れ、同時に東工大生を派遣します。

キャンパス・アジアプログラム派遣には、以下のプログラムがあります。

KAISTへの派遣(世界大学ランキング2018 QS41位 THE95位)

  • 研究型:学士課程3年目以降博士後期課程までの学生が、KAISTにおいて1ヵ月以上1セメスターの期間、研究を中心とした留学をするプログラム
  • 授業型:学士課程3年目以降から博士後期課程までの学生が、KAISTにおいて1セメスターの期間、授業を中心とした留学をするプログラム
  • サマースクール:学士課程2年目以降の学生が夏休み期間を利用して、授業受講または研究をするプログラム

清華大学への派遣(世界大学ランキング2018 QS25位 THE30位)

  • 研究型:学士課程3年目以降博士後期課程までの学生が、清華大学において3ヵ月以上1セメスターの期間、研究を中心とした留学をするプログラム
  • 授業型:学士課程3年目以降から博士後期課程までの学生が、清華大学において1セメスターの期間、授業を中心とした留学をするプログラム

参加学生からのコメント

竹之下眞央子さん(東京工業大学 生命理工学部 生命科学科 3年)

私は2017年夏、研究型プログラム(Research Oriented Program)で韓国のKAISTに留学しました。このプログラムに応募するまでは、欧米の国々を巡るばかりで、日本以外のアジアを訪れる機会はありませんでした。今回、韓国への留学を決意したのは、新しい世界に飛び込み、韓国やアジアに対する理解を深めたいと思ったからです。また、留学生や海外の友人たちと出会うなかで、多様な環境に身を置き、広い視野を持って世界を知ることの大切さを学んできたからです。

交流会では、KAISTで出会った友人と再会することができ、日中韓の新しい友達も増えました。KAISTに留学していた台湾の友人も、サプライズで日本へ遊びに来てくれ、本当に嬉しかったです。アジアの人々とのコネクションがさらに広がり、強まりました。

今回の留学を通して、自ら道を切り拓いていくことの大切さ、新たな一歩を踏み出す勇気、そして新しい仲間や環境に出会う楽しさを学びました。ここで得た経験は、今後の学生生活や人生をより豊かにし、かけがえのない財産となると思います。これからも人々との絆を大切にし、学業にもより一層励んでいきたいと思います。

ソン・ムジュンさん(韓国KAISTからの留学生)

東工大への留学を選んだ理由は、韓国と距離が近く、文化も似ている日本の科学研究が知りたいという気持ちがありました。 日本有数の理工系大学である東工大の研究室に直接留学ができ、経済的な支援が充実しているキャンパス・アジアプログラムの研究型プログラム(Research Oriented Program)に参加しました。このプログラムに参加する以前に、同じキャンパス・アジアプログラムで私の大学(KAIST)に留学していた、東工大の竹之下さんと渋谷さんに会ったことがありました。僕は、KAISTで留学生の生活面などを支援する「バディ」として、竹之下さんと渋谷さんと一緒にバディプログラムの旅行に参加したり、韓国料理を食べたりするなどして仲良くなりました。その後、今回のランチ交流会で2人と再会することができました。韓国で「また会いたいですね」と言ったことが実現し、ついに会えた時には本当にうれしかったです。

日本と韓国の学生が留学を通じて友達になれるのは本当にいい機会だと思います。今後も竹之下さん、渋谷さんや日本で会った学生たちと交流を続け、研究も熱心に進め、最高の留学にしたいと思います。

左から竹之下さん、ムジュンさん、渋谷さん
左から竹之下さん、ムジュンさん、渋谷さん

国立台湾大学留学生2名との喜びの再会 左から渋谷さん、国立台湾大学留学生2名、竹之下さん、KAIST留学生
国立台湾大学留学生2名との喜びの再会
左から渋谷さん、国立台湾大学留学生2名、
竹之下さん、KAIST留学生

今回の交流会は、昼休みを利用した1時間という短い時間でしたが、双方の学生らによる積極的な交流が続き、終了の時間になっても帰ることなく、名残惜しそうにする学生の姿がみられました。学生からは、「久しぶりの再会で懐かしい気持ちになった」といった声や、派遣を控えている学生からは「とても親切な現地学生との交流により、派遣がますます楽しみになった」など、様々な感想を聞くことができました。最後にはお互いの連絡先を交換し、また、KAISTからの留学生が中心となってSNSグループを作り、より一層、交流を深めようとしていました。

キャンパス・アジアプログラムでは、今後も学生交流の機会を作っていく予定です。

原正彦教授との集合写真

原正彦教授との集合写真

お問い合わせ先

学務部留学生交流課

E-mail : campusasia@jim.titech.ac.jpp
Tel : 03-5734-3785

「東工大テニュアトラック教員 2017年度研究成果発表会」開催報告

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2017年12月18日、東工大テニュアトラック教員の研究成果発表会が大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルームで開催され、学内外から29名の参加がありました。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

本学のテニュアトラック制度は、2006年度に設立したグローバルエッジ研究院による試行を経て、2011年度から全学的な運用が始まり、文部科学省科学技術人材育成費補助事業「テニュアトラック普及・定着事業」の支援を受けて実施しています。この制度は教員(講師、准教授)を一定の任期(5年)をつけて採用し、その期間内の研究成果と教育成果などが高く評価された場合に、任期の定めのない教員とする雇用形態です。東工大では、一般的な、助教相当を主対象とした制度とは少し異なる特徴を持っています。独立した研究者(PI)として研究を進める機会が十分に得られるだけでなく、所属する学院・系などのメンターや他の教員との積極的な協調が期待されています。2006年度からこれまでに31名のテニュアトラック教員を採用し、うち11名が本学のテニュアポスト(任期の定めのない職)を獲得しました。

各教員の成果を公正に評価することが極めて重要なことから、この研究成果発表会は審査・評価等の一機会として毎年開催されています。成果発表は英語で行われますが、多様な専門分野等を考慮して、司会進行・質疑応答は英語または日本語にて適宜、柔軟に行うことにしています。

発表会ではこの制度の統括責任者である岡田清理事・副学長(企画・人事・広報担当)が開会挨拶と合わせて、テニュアトラック制度全般について話しました。その後、3名のテニュアトラック教員がそれぞれの研究成果について発表しました。

工学院(機械系)、理学院(物理学系)、生命理工学院(生命理工学系)など、専門分野は広範囲に渡っており、いずれもこの1年間にかなりの進展があったことを示す内容でした。

左から 前・総括メンター黒田千秋名誉教授、田中博人准教授、宗宮健太郎准教授小寺正明講師、総括メンター中村聡教授

左から 前・総括メンター黒田千秋名誉教授、田中博人准教授、宗宮健太郎准教授、小寺正明講師、総括メンター中村聡教授

発表者

  • 工学院 田中博人准教授

  • 理学院 宗宮健太郎准教授

  • 生命理工学院 小寺正明講師

お問い合わせ先

テニュアトラック制度事務局

Email : tenure.track@jim.titech.ac.jp

本学教員等4名が第34回井上研究奨励賞を受賞

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理学院 化学系の金子哲助教、日本学術振興会(JSPS)の星野翔麻特別研究員、日本学術振興会(JSPS)のミランダ・マルティン・サンティアゴ外国人特別研究員、科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニットの脇坂聖憲研究員の4名が、公益財団法人井上科学振興財団(以下、井上財団)の第34回井上研究奨励賞を受賞しました。

同賞は、理学、医学、薬学、工学、農学等の分野で過去3年の間に博士の学位を取得した37歳未満(申込締切日時点)の研究者で、優れた博士論文を提出した若手研究者に対して贈呈されます。受賞者には賞状、メダルおよび副賞が贈呈されます。

今回は、候補者の推薦を依頼した関係242大学のうち50大学から157件の推薦があり、選考委員会における選考を経て40件が採択されました。

贈呈式は2018年2月2日(金)に開催される予定です。

受賞者

金子哲 理学院 助教

受賞対象となった研究テーマ

高電気伝導性を示す単分子接合の界面構造の設計と制御

金子哲 理学院 助教

単分子接合は1つの分子が金属電極間に架橋した構造を持ち、次世代の電子素子への応用が期待されています。本研究では金属と分子の接続点に着目して単分子接合系を作製することで、電気伝導度を飛躍的に向上させました。さらに外力による電子輸送特性の制御を行い、単分子接合の実用化に関して有意義な成果を得ることができました。

この度は、このような名誉ある賞をいただき大変光栄です。細やかなご指導をいただきました木口学教授に心より感謝申し上げます。共同研究者の皆様、支えてくださった研究室の方々、また、多数のご助言をいただいた物質・材料研究機構の塚越一仁博士、ライデン大学のヤン ファン ルーティンビーク(Jan van Ruitenbeek)教授に厚く御礼申し上げます。この賞を励みに今後も研究活動に努めてまいります。

星野翔麻 日本学術振興会(JSPS)特別研究員(東京工業大学 理学院)

受賞対象となった研究テーマ

ハロゲン分子の励起状態間緩和ダイナミクスに関する分光学的研究

星野翔麻 日本学術振興会(JSPS)特別研究員(東京工業大学 理学院)

電子励起状態にある分子の反応過程は、光合成過程や光エネルギー変換において非常に重要な役割を果たしています。本研究ではハロゲン分子のイオン対状態と呼ばれる、一連の高励起状態を対象として、それら励起状態の示す反応過程を、分子分光学的手法を用いて詳細に調べました。特に、自然放射増幅過程と呼ばれる、レーザー発振に関わる過程がイオン対状態の反応過程に大きく関与していることを明らかにしました。 ご指導いただきました東京理科大学の築山光一教授、共同研究者の広島市立大学の石渡孝教授、東京学芸大学の中野幸夫准教授をはじめとして、研究生活を支えていただいた多くの方々に感謝しております。

ミランダ・マルティン・サンティアゴ 日本学術振興会(JSPS) 外国人特別研究員(東京工業大学 理学院)

受賞対象となった研究テーマ

イッテルビウム量子気体顕微鏡

ミランダ・マルティン・サンティアゴ 日本学術振興会(JSPS) 外国人特別研究員(東京工業大学 理学院)

本博士論文研究では、極低温にまで冷却したイッテルビウム原子気体を、2次元光格子中に導入し、そこで発現する量子多体現象を、各サイトを分解して観測することに成功しました。このシステムを発展させることで、d波超伝導に代表される理論的取り扱いが困難な物性現象を量子的にシミュレートし、微視的発現機構について理解を深めることが可能になると期待しています。博士後期課程において指導していただいた本学理学院の上妻幹旺教授をはじめ、協力していただいた方々に心より感謝申し上げます。この受賞を励みに今後も研究に精進していきたいと思っております。

脇坂聖憲 科学技術創成研究院 研究員

受賞対象となった研究テーマ

電子・プロトンプーリング配位子を有する非貴金属錯体を基軸とした分子性多電子・プロトン移動系の構築

脇坂聖憲 科学技術創成研究院 研究員

本研究は、レドックス活性配位子と金属イオンから成る錯体を軸とした新しい分子設計の多電子・プロトン移動系を創製しました。その特色は、金属との相互作用や光励起により、配位子上で自在に電子やプロトンが移動する点にあります。うまくいかず苦しんだ期間は長く、論文がまとまり博士号を取得できたときは報われた思いがしましたが、更に今回の受賞は大変励みになります。 基礎研究を積み重ね新しい分野や領域を創り上げることは並大抵ではありませんが、私の信条である「努力」「忍耐」「根性」を胸に、それを目指し熱意を持って精進し続けたいと思います。北海道大学 加藤昌子教授、小林厚志准教授、中央大学 張浩徹教授、松本剛助教を初め、たくさんの方々に大変お世話になりました。御礼申し上げます。

関連リンク

ボルボックスの鞭毛が機能分化していることを発見

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要点

  • 死んだボルボックスに再び鞭毛[用語1]運動させる“ゾンビ・ボルボックス法”を確立
  • ボルボックスの鞭毛運動がカルシウムイオンで制御されることを実証
  • ボルボックスは前端部から後端部にかけて鞭毛の性質を変化させることで、走光性や光驚動反応を効率的に行う

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の植木紀子研究員(現・ニューヨーク市立大学ブルックリン校上級研究員・ロックフェラー大学客員研究員)と若林憲一准教授は、多細胞緑藻であるボルボックスが、走光性[用語2]光驚動反応[用語3]などの光に対する行動を示すために、球形の体の前端部から後端部にかけて鞭毛の性質を変えていることを発見した。

ボルボックスは鞭毛を使って水中を泳ぐ生物で、近縁の単細胞緑藻クラミドモナスに似た祖先生物の多細胞化によって進化したと考えられている。

約2億年前という比較的「最近」分岐したことや、祖先種に近いクラミドモナスが現存していることから、ボルボックスは多細胞化進化の研究の良い材料になっている。ボルボックスの約5,000個の細胞間には情報のやりとりが無いにも関わらず、個体として調和のとれた光行動を示す。

今回、この原理を明らかにするために鞭毛の性質を探ったところ、鞭毛は細胞の光受容に伴うCa2+(カルシウムイオン)の流入によって運動方向を変化させること、さらに、球のような体の前端部から後端部にかけて、その方向変化の角度が180度から0度まで変化することを突き止めた。ボルボックスは、個体前後で鞭毛の機能を変化させることで、前半球を舵取り、後半球を推進専門にと役割分担させ、巨大な体でも効率的な光行動を示すと考えられる。

この手法では、ボルボックスを界面活性剤処理で形態を保ったまま除膜する。この段階でボルボックスは死に、鞭毛が停止して動かなくなる。ここにATPを添加すると、個体は死んでいるのにも関わらず鞭毛が再び運動を開始して泳ぎだす。この手法は、単細胞生物や多細胞生物から取り出した器官でよく用いられる方法だが、多細胞生物個体まるごとを用いて成功したのは初めてであり、他の多細胞生物の運動メカニズムの検証にも適用できる可能性がある。さらに、鞭毛はヒトの体の様々な器官に生えており、各々は運動調節様式が異なる。この研究成果は、鞭毛運動の異常が原因であるヒトの疾患「原発性不動繊毛症候群」の研究に貢献すると期待される。

この成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に1月8日に掲載された。

背景

ボルボックス(和名:オオヒゲマワリ)は、淡水に棲む多細胞性の緑藻である(図1左上)。その最も大型のグループの1種ボルボックス・ルーセレティ(Volvox rousseletii)は、直径0.3~1 mm程度の球状の体の表面に約5,000個の細胞が一層の細胞層を形成している。1つ1つの細胞の構造は単細胞緑藻クラミドモナス(図1左下)によく似ており、各細胞は1つの光受容装置である眼点と、2本の鞭毛を持っている。ボルボックスには前後軸があり、約1万本の鞭毛は全て前から後ろに向かって運動する。これが原動力となってボルボックスは前進遊泳を行う。なお、「クラミドモナスが集まってボルボックスになる」、「ボルボックスがバラバラになってクラミドモナスになる」という話を聞くことがあるが、これは完全な誤りで、両者は近縁ではあるが別の生物だ。

左上:ボルボックス・ルーセレティの顕微鏡像と模式図。右:ボルボックスの細胞から生える鞭毛は全て後ろに向かって(やや傾いて)打つため、個体は自転しながら前進遊泳する。左下:単細胞緑藻クラミドモナスの顕微鏡像。

図1. 左上:ボルボックス・ルーセレティの顕微鏡像と模式図。

右:ボルボックスの細胞から生える鞭毛は全て後ろに向かって(やや傾いて)打つため、個体は自転しながら前進遊泳する。
左下:単細胞緑藻クラミドモナスの顕微鏡像。

眼点は、赤い色素を豊富に含んだ顆粒が積層しているため赤い点のように見える。その直上の細胞膜に光受容タンパク質であるチャネルロドプシン[用語4]が存在する。これは光を受容すると開く陽イオンチャネルである。この光受容タンパク質と色素顆粒層がペアになっていることで、眼点は非常に指向性が高い光受容を行う(図2)。色素顆粒層は光をよく反射する性質を持つため、細胞の外側から来た光は増幅され、逆に細胞の内側を通ってきた光は遮蔽されて受容体に届かない。さらに、各鞭毛が打つ面は、個体の前後軸に対して少しだけ傾いているため、ボルボックスは遊泳する際にかならず進行方向後方からみて反時計周りに自転する(図1右)。各細胞は光源側を向いたときには光を感受し、個体が半回転して反対側を向いたときには光を感受しなくなる。このように、高指向性光受容と自転遊泳を組み合わせることによって、ボルボックスは光源方向を正確に認識する。

個体前端部付近の細胞(上)と後端部付近の細胞(下)の眼点と、眼点の模式図(右)。チャネルロドプシンとカロテノイド色素層の組み合わせにより、眼点は高い指向性をもった光受容を行う。眼点は前端部細胞では大きく、後端部細胞では小さい。

図2. 個体前端部付近の細胞(上)と後端部付近の細胞(下)の眼点と、眼点の模式図(右)

チャネルロドプシンとカロテノイド色素層の組み合わせにより、眼点は高い指向性をもった光受容を行う。眼点は前端部細胞では大きく、後端部細胞では小さい。

ボルボックスは各細胞の眼点で光を感受したのち、流入した陽イオンがもとになる反応経路によって鞭毛運動調節を行い、2つの光行動を見せる。1つは光驚動反応で、これは急に強い光を浴びたときに遊泳を停止する反応である。もう1つは走光性で、これは光源の方向に向かって、あるいは光源から逃げる方向に向かって遊泳する反応である。ボルボックスは、通常の条件下では主として光源に向かう正の走光性を見せる。これらは最適な光合成環境に移動するための生存戦略であると考えられている。

このとき、鞭毛はどのように動いているのか。以前、植木らは、ボルボックスが光を浴びたとき、前半球の細胞の鞭毛のみが運動方向を逆転させることを見出していた(Ueki et al., 2010 BMC Biol)。光驚動反応を示す際は前半球の鞭毛が前向きに打ち、後半球の鞭毛が後ろ向きに打つことで力が相殺されて個体の遊泳が止まる。走光性を示す際には、前半球かつ光源側の鞭毛だけが運動方向逆転を行うことで光源側と反対側で推進力に不均衡が生じ、光源方向に舵を切ることになる(図3)。

ボルボックス鞭毛が起こす水流の方向。左:通常の遊泳時は全ての鞭毛が前から後ろへの水流を起こし、個体は自転しながら前進遊泳する。中:急に強い光を浴びて光驚動反応を起こすとき、前半球の鞭毛は水流の方向を前向きに逆転させ、後半球の鞭毛は変わらず後ろ向きの水流を起こすため、個体は遊泳を停止し、その場で自転する。右:右から光を浴びて正の走光性を示すとき、前半球の光源側の鞭毛だけが前向きの水流を起こし、他の部分は後ろ向きの水流を起こすため、個体の光源側とその反対側で推進力の不均衡が生じ、個体は右側に舵を切る。

図3. ボルボックス鞭毛が起こす水流の方向

左:通常の遊泳時は全ての鞭毛が前から後ろへの水流を起こし、個体は自転しながら前進遊泳する。
中:急に強い光を浴びて光驚動反応を起こすとき、前半球の鞭毛は水流の方向を前向きに逆転させ、後半球の鞭毛は変わらず後ろ向きの水流を起こすため、個体は遊泳を停止し、その場で自転する。
右:右から光を浴びて正の走光性を示すとき、前半球の光源側の鞭毛だけが前向きの水流を起こし、他の部分は後ろ向きの水流を起こすため、個体の光源側とその反対側で推進力の不均衡が生じ、個体は右側に舵を切る。

この前後半球の鞭毛の光に対する応答性の違いは、これまで眼点の大きさの違いで説明されてきた(図2)。細胞がもつ眼点は、前端部に近いほど大きく、後端部に近いほど小さい。眼点が大きいほど光感受性が高いと考えられるため、後半球に比べて高い光感受性を持つ前半球の細胞の鞭毛だけが光に応答して運動方向を逆転する、という考え方だ。一方で、眼点の光感受の後に生じる鞭毛運動の方向逆転を起こす調節因子は不明だった。

研究成果

今回研究グループは、鞭毛運動方向逆転の分子メカニズムを探るため、ボルボックスを用いた除膜モデルの試験管内での運動再活性化実験、通称“ゾンビ・ボルボックス法”の確立を試みた。まず界面活性剤処理によって細胞膜を溶解する。当然細胞は死ぬが、鞭毛の内部構造や運動するためのモータータンパク質はその形を留める。そして、ゾンビ・ボルボックスに生体エネルギー源であるATPを加えると、細胞は死んでいるが、鞭毛が再び運動を開始し、ボルボックスが泳ぎだす。これは1930年代にハンガリーのノーベル賞学者アルベルト・セントジェルジらによって行われたグリセリン筋の収縮実験に端を発する生物学の伝統的な手法だ。

この手法の最大のポイントはゾンビ・ボルボックスを入れる溶液の条件を自由に変えられることにある。この手法を用いた一連の実験では、筋肉の収縮や鞭毛運動のエネルギー源がATPであることが直接証明されてきた。ボルボックス鞭毛運動調節因子の第一候補はCa2+であり、この手法がボルボックスに適用できればCa2+の効果を直接確かめることができる。しかし、この手法は単細胞生物や多細胞生物から取り出した器官に対して適用されてきたもので、ボルボックスのような多細胞生物個体の場合、均一に界面活性剤処理をすることができなかったり、界面活性剤処理で形が崩れたりなど、技術的な高い障壁があった。

研究グループは、金魚すくいの要領でボルボックスを界面活性剤処理する手法を開発した(図4)。細胞ストレイナー(ふるい)の上で泳がせたボルボックスを持ち上げて、界面活性剤の入った溶液に漬け込む。これで個体全体が温和な条件で除膜される。ボルボックスの運動に関与する体細胞は球形の体の表面にあるので、これですべての体細胞は死に、鞭毛は運動を停止する。さらにふるいを持ち上げて界面活性剤のない溶液に漬け込み、ここにATPを加えると、ボルボックスは死んでいるものの、再び泳ぎだすことになる。研究グループはこのゾンビ・ボルボックス実験をさまざまなCa2+濃度条件下で行い、鞭毛運動を観察した。

ゾンビ・ボルボックス法の概要。細胞ストレーナ(目の細かいふるい)の上でボルボックスを泳がせる。ふるいを持ち上げて界面活性剤入りの溶液に漬け込むと、ボルボックスは除膜されて死に、泳がなくなる(ゾンビ・ボルボックスになる)。再びふるいを持ち上げて、界面活性剤のない溶液に漬け込み、ATPを添加すると、鞭毛が運動を再開し、ゾンビ・ボルボックスは死んでいるにも関わらず泳ぎだす。

図4. ゾンビ・ボルボックス法の概要

細胞ストレーナ(目の細かいふるい)の上でボルボックスを泳がせる。ふるいを持ち上げて界面活性剤入りの溶液に漬け込むと、ボルボックスは除膜されて死に、泳がなくなる(ゾンビ・ボルボックスになる)。再びふるいを持ち上げて、界面活性剤のない溶液に漬け込み、ATPを添加すると、鞭毛が運動を再開し、ゾンビ・ボルボックスは死んでいるにも関わらず泳ぎだす。

Ca2+濃度が高い状態でゾンビ・ボルボックスにATPを加えると、前端部に近い鞭毛は運動方向をほぼ逆転させた(図5上)。これにより、これまで観察されていた鞭毛運動の方向逆転がCa2+によることが初めてはっきり示された。さらに興味深いことに、この運動方向変化の大きさには体の前後で違いがあった。前端部付近の細胞はほぼ180度の逆転、赤道面付近の細胞は90度程度、後端部付近の細胞は0度で、ほとんど逆転しなかった(図5下)。

ゾンビ・ボルボックスは細胞膜とともに光受容体を失っているので、光受容を行わない。そのため、この個体における細胞の位置に応じた鞭毛の運動性の違いは、純粋に鞭毛の性質の違いを反映している。つまり、これまで前半球と後半球で異なるのは眼点の大きさだけだと考えられてきたが、鞭毛の性質も異なることが今回初めて分かった。鞭毛打方向の「逆転」と考えられてきたことは、鞭毛打方向の個体の位置に応じた「回転」であった。これらの発見のためには、球状の個体の形を壊さずに、全体を温和に除膜するゾンビ・ボルボックス法の開発が不可欠だった。

ゾンビ・ボルボックスにATPを添加して鞭毛を運動させる実験の際、溶液中にCa2+を入れない、または入れる条件下で鞭毛の運動方向を観察し、鞭毛打1回分の波形をトレースした。鞭毛が打った方向を矢印で示した。前端部の鞭毛はCa2+がないとき(上段左)は生きている個体の通常遊泳時と同じく後ろ向きに、Ca2+があると(上段右)生きている個体の光受容時と同じく前向きに打った。一方で、後端部の鞭毛はCa2+の有無に関わらず後ろ向きに打った(下段左右)。

図5. ゾンビ・ボルボックスにATPを添加して鞭毛を運動させる実験の際、溶液中にCa2+を入れない、または入れる条件下で鞭毛の運動方向を観察し、鞭毛打1回分の波形をトレースした。

鞭毛が打った方向を矢印で示した。前端部の鞭毛はCa2+がないとき(上段左)は生きている個体の通常遊泳時と同じく後ろ向きに、Ca2+があると(上段右)生きている個体の光受容時と同じく前向きに打った。一方で、後端部の鞭毛はCa2+の有無に関わらず後ろ向きに打った(下段左右)。

つまり、ボルボックスの細胞は、第一に眼点の大きさ、第二に鞭毛のCa2+応答性という2段構えの前後分化をしている。このことにより、前端部に近い細胞ほど個体に対してブレーキや舵取りを行う機能が高くなり、後端部に近い細胞ほど「何があっても前に進む」という推進力に特化していると言える。もしこの前後分化がなく、全ての細胞が同じ程度の光感受性と鞭毛打方向逆転能しかもっていなければ、横から光を受けた場合、個体はその場で回るだけで走光性は示せない。ボルボックス細胞の前後分化は、多細胞化によって巨大化した体で高い推進力を得ると同時に、単細胞緑藻のように機敏な光行動を行うために獲得した重要な機能であると考えられる。

今後の展開

ボルボックス目の緑藻は、単細胞性のクラミドモナスや約5,000細胞のボルボックス・ルーセレティだけでなく、中間の細胞数の多細胞種が多数現存している興味深い生物群だ。今回の手法を中間細胞数の藻類にも適用することで、多細胞化による光行動システムの変遷を探ることができる。

今回開発した“ゾンビ・ボルボックス法”は、さまざまな多細胞生物を温和に除膜モデル化するのに役立つ。藻類に限らず、多様な生物の運動システムの研究に貢献すると期待される。

Ca2+による鞭毛の運動調節は、ヒトを含めた多様な生物で見られる。ヒトの体内には、脳室、気管上皮、輸卵管上皮、精子など、さまざまな器官に鞭毛(繊毛)が生えている。これらの運動調節が異常になると、慢性呼吸器疾患や不妊症などのさまざまな疾患を誘起する。今後、この手法を用いて鞭毛運動調節の分子機構をさらに詳しく研究することで、鞭毛運動不全によるヒトの疾患である「原発性不動繊毛症候群」などの理解に貢献すると期待される。

用語説明

[用語1] 鞭毛 : 真核生物細胞から生える毛状の運動する細胞小器官。精子のように細胞の推進力を生み出したり、気管上皮のように細胞の周囲に水流をつくったり、生体にとって重要な機能をもつ。ヒト体内には脳室、気管、輸卵管、精子などに鞭毛や繊毛(鞭毛より短く本数が多いが、鞭毛と本質的に同じ)が存在する。それらの運動異常によって生じる疾患は原発性不動繊毛症候群と呼ばれる。

[用語2] 走光性 : 生物が照射される光に反応して移動する性質。光源方向に近づく場合は正の走光性、離れる場合は負の走光性と呼ぶ。光走性(ひかりそうせい)と呼ばれることもある。

[用語3] 光驚動反応 : 生物が強い光強度変化に応答して、運動を止めたり、運動方向を逆転させたりする反応。光忌避反応と呼ばれることもある。

[用語4] チャネルロドプシン : 光を感受するとイオンを透過する膜タンパク質。マウスなどの特定の神経細胞に発現させ、光照射によって興奮させることで神経活動と個体の行動の連関を研究する「光遺伝学」と呼ばれる技術に応用されている。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, in press.
論文タイトル :
Detergent-extracted Volvox model exhibits an anterior–posterior gradient in flagellar Ca2+ sensitivity
著者 :
Noriko Ueki and Ken-ichi Wakabayashi
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

若林憲一 准教授

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東京工業大学社会人アカデミー グローバル産業リーダー育成プログラム 2018年度Enterprise Engineering(Leading Digital)コースのご案内

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東京工業大学 社会人アカデミーでは、産業のグローバル化に対応できる企業人材を育成することを目的として、グローバル産業リーダー育成プログラム(GINDLE-Global INDustrial LEader)を設置しております。

その中のコースとして、情報システムベンダーあるいはユーザ企業の情報システム関連部署の部課長レベルおよびシニアコンサルタントを対象にEnterprise Engineering(Leading Digital)コースを開講いたします。

ICT(情報通信技術)の利活用に焦点を当てた講義・演習を通じて、企業活動におけるICT活用力向上のための、知識とスキルを身につけることができます。以前は英語での講義でしたが、皆様からのご要望にお応えし、今回は日本語で講義が行われます。

開催概要

受講期間
2018年3月15日(木)、16日(金)、17日(土)
定員
10名(※最小開催人数5名)
受講料
121,500円(税込)
受講場所
お申込期間

2017年12月25日(月)~2018年3月1日(木)(締切日必着)

定員に達し次第、募集終了。お申込状況に応じ、締切日を変更することがあります。
申込方法および詳細
東京工業大学 社会人アカデミーWEBサイトouter「願書・志望理由書兼推薦状」をダウンロードし、必要事項を記入・押印の上、記入書類をPDFファイルで、下記の「お問合せ先」まで、メールに添付してお送りください。

「Enterprise Engineering(Leading Digital)コース」ポスター表

お問い合わせ先

東京工業大学 社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8867、03-3454-8722

姉妹染色分体間接着の形成機構を解明

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概要

生命の設計図であるDNAは非常に長い“糸”で、細胞核の中で様々なタンパク質と結合し、染色体を形成しています。染色体は細胞が分裂する毎にコピーされ、分配されます。染色体はコピーされた直後、物理的に接着しています(姉妹染色分体間接着)。この染色体の物理的接着がなくなると染色体が正確に分配されなくなることがわかっています。この染色体の物理的接着には「コヒーシン[用語1]」と呼ばれるリング状のタンパク質の働きが重要です(図1)。コヒーシンはDNAと直接結合することがわかっていますが、姉妹染色分体を接着する仕組みはわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の村山泰斗准教授と東京工業大学の岩崎博史教授らの研究グループは、コヒーシンを細胞から分離精製し、コヒーシンとDNAの複合体の形成を試験管内で再現することにより、コヒーシンによる姉妹染色分体接着の仕組みの一端を明らかにしました。コヒーシンは「結束バンド」のように2本のDNAを束ねることがわかったのです(図1)。

本成果によりコヒーシンの性質を詳細に明らかにしたことが、コヒーシンの機能欠損が原因とされている様々な疾患や不妊の原因解明に繋がると期待されます。

本研究成果は、2018年1月18日 (米国東部時間) に米国科学雑誌「Cell」に掲載されました。

コヒーシンによる姉妹染色分体間接着の形成モデル。

図1. コヒーシンによる姉妹染色分体間接着の形成モデル。


コヒーシンは、自身のリングの一部を開いて、その内側に通すようにしてDNAと結合し、“2本目”のDNAと結合する。これにより、DNA−コヒーシン−DNAの構造をつくって、2つの姉妹染色分体の間に接着を形成すると考えられる。

研究の背景

コヒーシンは、姉妹染色分体間接着をはじめ、染色体の重要な高次構造を形成するうえで中心的な役割を担っています。コヒーシンは大きなリング状のタンパク質複合体です。このリング状のかたちによって、リングの内側に通すようにしてDNAと結合することがわかっています(図1)。しかしながら、コヒーシンがどのようにDNAをリングの内側に通すのか、そしてこの結合を使ってどのように姉妹染色分体間接着を形成するのか、についてはわかっていませんでした。

本研究の成果

コヒーシンを細胞から精製し、コヒーシンとDNA結合の反応を試験管内で再現することによって、そのメカニズムを解明することが、本グループの重要なテーマです。これまでに、コヒーシンがDNAをリングに通す反応と、その後のDNAを放出する反応を再現することに成功し、その分子メカニズムの一端を明らかにしてきました。

本研究では、細胞から分離精製したコヒーシンを使って、コヒーシンとDNAとの結合反応を試験管内で再現し、その過程を詳細に調べました。その結果、コヒーシンはリングの内側に通すようにしてDNAと結合した後、さらにこの状態で別のDNAとも同じようにリングの内側に通すようにして結合することがわかりました。言い換えると、コヒーシンは「結束バンド」のように2本のDNAを束ねるようにしてDNAと結合しうるのです(図1)。このDNA–コヒーシン–DNAのつなぎ留めが2つの姉妹染色分体の間で起これば、姉妹染色分体の間で接着が形成されることになります。

今後の期待

染色体の構造は、コヒーシン以外にも複数種のリング構造をした構造体(SMC複合体[用語2])によって形成されています。これらSMC複合体の機能異常および低下は コルネリア・デ・ランゲ症候群などの難病の原因となる他、がんや不妊の一因であるとも考えられています。今後は、コヒーシンに加え、他のSMC複合体の性質を調べることで、基礎生物学の研究の発展を通して、これらのSMC複合体の機能欠損が原因とされている様々な疾患や不妊の原因解明に貢献することが期待されます。

本研究は、情報・システム研究機構 村山泰斗准教授、黒川裕美子研究員、東京工業大学 岩崎博史教授、英国フランシス・クリック研究所 Frank Uhlmannグループとの共同研究としておこなわれました。

尚、Uhlmann博士は、東京工業大学のWRHI特任教授でもあります。

本研究は、科学研究補助金 (16H06160、16H01404、15H059749)、日本分子生物学会 若手研究助成 富沢純一・圭子基金の支援を受けておこなわれました。

WRHI(ワールド・リサーチ・ハブ・イニシアティブ):海外から世界トップレベルの研究者を招へい(または雇用)し、国際共同研究を推進する6年間のプロジェクト。

用語説明

[用語1] コヒーシン : SMC1、SMC3、Scc1、Scc3の4つのタンパク質からなるリング状構造のタンパク質複合体。姉妹染色体接着をはじめとした染色体高次構造の形成を行う。

[用語2] SMC複合体 : コヒーシンと類似したリング状構造をしたタンパク質複合体。コンデンシンとSMC5/6複合体が知られる。コヒーシンと同じようなかたちでDNAと結合するが、染色体凝縮やDNA修復などコヒーシンとは別の染色体イベントに関わる。

論文情報

掲載誌 :
Cell
論文タイトル :
Establishment of DNA-DNA Interactions by the Cohesin Ring(コヒーシンによるDNAとDNAの間の接着の形成)
著者 :
Yasuto Murayama, Catarina P. Samora, Yumiko Kurokawa, Hiroshi Iwasaki and Frank Uhlmann(村山 泰斗, Catarina P. Samora, 黒川裕美子, 岩崎博史, Frank Uhlmann)
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

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お問い合わせ先

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新分野創造センター

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取材申し込み先

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東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構・東京工業大学地球生命研究所 一般向け講演会「起源への問い」及び記者懇談会を開催

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2018年1月21日(日)、東京工業大学 くらまえホールにて第3回目となる東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)との合同一般講演会「起源への問い」を開催いたします。

宇宙・地球・生命…その起こりはどのようなものだったのでしょう。私たちは歴史のなかで、たえずこの問いに向き合ってきました。

本講演会では宇宙・地球・生命の起源について、今どこまで解き明かされているかその最先端のサイエンスをわかりやすくお話しするとともに、起源を問うとはどういうことなのかという根源的な話題について、サイエンティストと芸術学の専門家が対話します。

日時
2018年1月21日(日) 13:00 - 16:40(開場12:30)
会場
主催
東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)・東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)
対象
高校生以上
参加費
無料
定員

300名

  • 応募多数の場合は、抽選となります。
  • 抽選は、高校生、初回参加者、既参加者の枠を設け、各枠内で行います。
  • 抽選の結果は、当選・キャンセル待ち・落選のいずれかをお知らせいたします。
  • キャンセル待ちでお知らせした方には、当日のキャンセル待ちをご案内いたします。
申し込み
お申し込みは締め切りました。
通知
決定の通知は1月19日(金)にご連絡いたします。

第3回 ELSI/Kavli IPMU 合同一般講演会「起源への問い」ポスター

問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所 ELSI広報室

E-mail : event@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

北極の硝酸エアロゾルはNOx排出抑制に関わらず高止まり

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ポイント

  • グリーンランドで約90 mのアイスコア掘削に成功し、氷床アイスコア最高の年代精度で過去60年の北極大気環境を復元。
  • 21世紀の北極硝酸エアロゾル[用語1] フラックス[用語2]が、周辺国のNOx(窒素酸化物)[用語3]の排出抑制政策による減少割合を反映しておらず、産業革命以後に増大して以来高い値を維持していることを解明。
  • 21世紀の硝酸エアロゾルの状況把握・原因究明は、将来の環境変動への影響評価に重要。

概要

北海道大学 低温科学研究所の飯塚芳徳助教及び東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の服部祥平助教らの研究グループは、21世紀になってからの北極の硝酸エアロゾルフラックス(流束)が、周辺国によるNOx(窒素酸化物)の排出抑制政策を反映せず高い値を維持していることを明らかにしました。

同グループは北極グリーンランド氷床にいくつかある頂上(ドーム)のうち、最も雪が多く降る南東部で約90 mのアイスコア掘削に成功し、氷床ドームアイスコア史上最高の年代精度で過去60年間の北極大気環境を復元しました。このアイスコアに含まれる過去60年間のNO3-(硝酸イオン)の季節フラックスの変動を求め、各国からのNOx排出量の変動割合と比較したところ、両者は一致していませんでした。NOx排出量は1970~80年以降、減少傾向を示していますが、アイスコアのNO3-フラックスは1990年代が最も高く、2000年以降(21世紀)は1960~80年代よりも高いという特徴があります。

今回の結果は、北極大気のNO3-フラックスが周辺国(米国や欧州)における排出抑制政策によるNOxの減少割合を反映せず、高い値を維持していることを示しています。今後、北極NO3-フラックスがNOx排出量と連動せず高い値を維持している原因と、将来の人間活動への影響を評価する必要があります。

本研究成果は2つの論文に分かれています。これらは2017年10月26日と2018年1月4日(Web版)のJournal of Geophysical Research: Atmospheres誌に掲載されました。

グリーンランドでの掘削キャンプ(左)と掘削されたアイスコア(右)

グリーンランドでの掘削キャンプ(左)と掘削されたアイスコア(右)

背景

人間活動とSOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)

大気微粒子(エアロゾル)は、その一部が直径2.5 µm以下の微粒子(PM2.5)として人体に悪影響を及ぼすことが知られています。また、エアロゾルは大きな粒子になると雲の核として作用し、雲を作りやすくする効果があり、結果として雲が日射を遮り地球表面を寒冷化させることが知られています。SOx(硫黄酸化物)[用語4]やNOx(窒素酸化物)は、大気中で酸化され硫酸・硝酸エアロゾルを形成するため、その動態の理解はエアロゾル動態の理解の上で重要です。SOxは海洋生物や火山から、NOxは雷、成層圏、森林火災、土壌生物から放出されてきました。しかし、特に産業革命以後に北半球では人間活動(化石燃料の使用)の増加によってSOxやNOx濃度が上昇したことが知られています。

イギリスに産業革命が起こった1750年から1980年くらいまで、SOxやNOxの排出は右肩上がりに上昇しました。特に、1970年代や80年代は世界的に環境汚染が問題となり、国内でも公害問題などが顕在化した時代でした。この頃、大気汚染だけではなく、増加したエアロゾルにより太陽光が遮られるグローバルディミングと呼ばれる寒冷化が生じていたと言われています。

その後、例えば米国では1963年に定められ、1970年、1977年に改訂された大気浄化法 (Clean Air Act)などによりSOxやNOxの排出規制が強化され、これにより1990年以降SOxやNOxの排出量は減少しています(図1)。これに対し、新興国である中国やインドなどでは近年も減少傾向はみられていません。このように、各国でSOxやNOxの排出量の傾向には差異があり、大気環境問題に大きく関わるSOxやNOxがどのような変遷をたどるかを理解することが重要です。

EDGAR(各国排出量のデータベース)による1970〜2010年の各大陸・地域からのNOx、SOx排出量

図1. EDGAR(各国排出量のデータベース outer)による1970〜2010年の各大陸・地域からのNOx、SOx排出量

アイスコアによる研究とその問題点

これらの動向を評価する有力な取り組みとして、過去から現在までのSOxやNOxの変遷を解読し、そのメカニズムを理解することで将来予測に役立てる方法があります。寒冷圏の雪氷は年々の堆積を通じてSOxやNOxがSO42-(硫酸イオン)やNO3-(硝酸イオン)として保存されている貴重な自然のタイムカプセルです。なかでも北極グリーンランド氷床は欧州や米国などの人為起源SOxやNOx排出地域と近いことから、人為起源エアロゾル変遷の評価に最適な地域です。このような評価をするために、氷床を垂直下向きに掘削して氷を採取しており、この採取された氷をアイスコアといいます(図2)。アイスコアは表面付近が現在に近い降雪で、深い部分がより過去に降った雪からなっており、深部から浅部にむかって解析すると過去から現在まで連続に時系列的な情報(古環境情報)を得ることができます。

しかし、アイスコアから古環境情報を抽出するのには大きく2つの問題があります。一つ目の問題は、ある深さのアイスコアが何年前に降った雪か精度よく知ることが難しい場合があることです。これをアイスコアの年代決定といいますが、これまでは夏に増加(または減少)する成分を数え、その成分が増加(減少)していた深さを夏と決め、夏層を数えて年代を決定する年層カウント法が主に用いられてきました。この年代決定方法は、増加している部分が年に2回生じたり、または1回もなかったりすると年代が1年ずれてしまう欠点があります。二つ目の問題は、NO3-は揮発しやすく長期間の日射で分解してしまうため、積雪が堆積した後にNO3-が変質してしまって降雪時の情報が損失してしまうことがあることです。この変質を再配分過程と呼んでおり、再配分過程はアイスコアから精度よく古環境情報を解読することを妨げる要因でした。

グリーンランド南東ドーム地域でのアイスコア掘削(左)と掘削されたアイスコア(右)

図2. グリーンランド南東ドーム地域でのアイスコア掘削(左)と掘削されたアイスコア(右)

本研究の目的

南極氷床やグリーンランド氷床の標高の高い地域は寒く、雪が融けずに涵養していく場所ですので、雪が降る量を涵養量と呼んでいます。涵養量が多いということは、1年間に降り積もる雪が多いのでアイスコアの1年あたりの長さが長いということになり、精度の良い年代決定を行える可能性が高くなります。さらに、たくさん雪が降るということは、次々と新しい雪が堆積するので、積雪表面に雪が置かれている時間が短いということになります。表面に置かれている時間が短いと、アイスコアに含まれている物質が揮発や日射などの再配分の影響を受ける時間が短くなり、年代決定の高精度化につながります。

そこで、本研究では北極グリーンランド氷床にいくつかある頂上(ドーム)のうちで、最も雪が多く降る地域に着目して、アイスコア掘削を行いました。次に、掘削されたアイスコアに含まれる過去60年間のSO42-やNO3-の年間フラックスを求めました。得られた結果を各国からのSOxやNOxの排出量と比較し、北極大気まで運ばれグリーンランドに堆積したSOxやNOxの動向を追跡しました。

研究手法

グリーンランド南東ドームアイスコア掘削プロジェクト(2014〜2018)

2014年から開始したプロジェクトのもと、人為起源エアロゾル変遷の評価に最適なグリーンランド氷床のなかで、最も涵養量が多いドームを調査し、南東部に位置するドーム地域を選定しました(図3)。本研究グループは、この地域を「グリーンランド南東ドーム」と呼んでいます。2015年にはグリーンランド南東ドームで90 mのアイスコアを掘削し、北海道大学 低温科学研究所の低温室への冷凍輸送に成功しました。2016年からは、グリーンランド南東ドームアイスコアを解析してきました。

本プレスリリースに大きく貢献した解析項目は、水循環のプロセスを反映する「水の安定同位体比」と、「不純物(イオン)濃度」です。イオン濃度はアイスコアを溶かした融解水の中に含まれているイオンの濃度を意味します。イオンの中にはSO42-やNO3-も含まれていて、これらを分析しました。本リリースのもとになる2つの論文に加えて、2018年度のプロジェクトの終了まで、他の指標の分析・研究も継続しています。

グリーンランド南東ドーム地域の地点(左)と掘削キャンプ(右)

図3. グリーンランド南東ドーム地域の地点(左)と掘削キャンプ(右)

研究成果

氷床ドームアイスコアを最高精度で年代決定

グリーンランド南東ドームアイスコアを分析したところ、過去60年間の環境変動を記録していることがわかりました。近年60年間の涵養量は1年に氷の密度換算で約1.01 mであることがわかり、この数値は平均的なグリーンランドドームの5倍、南極ドームの30倍という膨大な量の降雪がある地域であることが判明しました。この膨大な雪のおかげで、過去60年間の水の安定同位体比は極めて良質に保存されていることがわかりました。

水の安定同位体比は、海からの蒸発、降雪などの水循環のプロセスを反映しています。近年、この同位体比を数値計算によってシミュレーションする手法(以下、同位体モデル)が急速に発展してきています。具体的には、海水温・大気場などの情報を基にして、ある地域の降雪の同位体比の値をシミュレーションできます。複数の同位体モデルを用いて、グリーンランド南東ドームの同位体比と比較したところ、モデルとアイスコアの同位体比が極めてよく一致することがわかりました。同位体モデルからいつの降雪であるかがわかりますので、モデルとアイスコアの同位体比をマッチングさせることで、アイスコアの年代を決定することができます。その結果、2ヵ月単位という氷床ドームアイスコアとしての最高精度での年代決定に成功しました。(成果論文1 Furukawa et al., 2017)

過去60年間の北極大気中のSO42-やNO3-の復元

イオン濃度を分析した結果、NO3-が積雪堆積後に変質を受けていないことを確認しました。これは、日射の影響を受けやすい表面20 cm以内にNO3-がさらされる期間が、涵養量が大きいために1ヵ月程度と短かく、日射による分解を受けにくいためです。この結果は、グリーンランド南東ドームアイスコアは他の地域のアイスコアと比べて、NO3-の変遷を高い確度で追跡できることを示しています。

また、2ヵ月という高精度で年代を決定できたので、季節変動を追跡できるようになりました。イオン濃度と季節ごとの涵養量をかけ合わせることで、その季節に堆積するイオンのフラックス(流束)を算出することができます。そこで、過去60年間のSO42-やNO3-フラックスの季節変動を復元しました(図4)。SO42-フラックスは1980年から減少傾向を示しています。他方で、NO3-フラックスは1990年代が最も高く、2000年以降(21世紀)は1960~80年代よりも高いことがわかりました(成果論文2 Iizuka et al., 2018)。

グリーンランド南東ドームアイスコアから復元された北極大気NO3-、SO42-フラックス(黒)と、後方流跡線解析と各地域からの排出量を加味して予測された南東ドームにおけるNOx、SOxの変動割合(赤)の比較
図4.
グリーンランド南東ドームアイスコアから復元された北極大気NO3-、SO42-フラックス(黒)と、後方流跡線解析と各地域からの排出量を加味して予測された南東ドームにおけるNOx、SOxの変動割合(赤)の比較

周辺国からのSOxやNOxの排出量と比較

グリーンランド南東ドームにどこから空気塊がやってきているのかを、後方流跡線解析という手法を用いて計算しました。その結果、北米が最も高い割合で、欧州やロシアからもある程度の割合で大気塊がやってきていることがわかりました。各国ともSOxやNOxの排出量が公開されていますので、各国の排出量と大気塊がやってくる割合を掛け合わせて、グリーンランド南東ドームに到達するであろうSOxやNOxの量を計算しました。

SOx排出量とアイスコアのSO42-フラックスを比較したところ、過去60年間の変動はよく一致していました(図4)。これは、SO42-フラックスがおもに上述した周辺国からのSOx排出量によると考えられます。米国や欧州はSOx排出量の削減に取り組んでおり、その効果が北極大気でもよく表れていることを示しています。しかしながら、NOx排出量とアイスコアのNO3-フラックスの過去60年間の変動はあまり一致していませんでした。特に、NOx排出量は1970~80年以降、減少傾向を示していますが、アイスコアのNO3-フラックスは1990年代が最も高く、2000年以降(21世紀)は1960~80年代よりも高いという特徴があります。米国や欧州はSOxと同様にNOx排出量の削減に取り組んでいるのですが、今回の結果は北極大気のNO3-フラックスが、周辺国のNOxの排出抑制による減少割合を反映せず高い値を維持していることを示しています。(成果論文2 Iizuka et al., 2018)

今後への期待

21世紀の高い北極NO3-フラックスの原因究明

なぜ北極NO3-フラックスが高い値を維持しているのかについて、はっきりとしたことはわかりません。SOx排出量とアイスコアのSO42-フラックスがよく一致しているSOxと比べてNOxは大気輸送中の化学変化がより複雑であるため、というのが最も確からしい回答です。もしくは21世紀以降の中国やインド、船舶(海洋)からのNOxの影響かもしれません。自然由来の森林火災(バイオマスバーニング)によるNOxが関係している可能性もあります。本研究グループは国内の10機関以上の研究室と連携し、たとえば硝酸中の窒素(N)の同位体比やNO3-がどのような化合物で存在しているのかを世界最先端の分析機器を用いて調べ、この謎の解明を続けています。また、エアロゾル輸送モデルなど数値計算によるアプローチでの解決も期待されています。こういった分析結果から新しい視点でSOxやNOxの動向を探ることが、解決につながります。

原因が不明であるにせよ、北極大気のNO3-フラックスが、周辺国のNOxの排出量の減少に単純に比例せず高い値を維持しているという事実が明らかになりました。この結果は、北極のNO3-フラックスの変動を予測するためには、化学反応も含めた輸送プロセスを考慮する必要があることを示唆しています。また今後は、北極NO3-フラックスがNOx排出量と連動せず高い値を維持していることが将来の人間活動にどう影響するのかを評価する必要があります。

謝辞

本研究は2014年度から2018年度(予定)の科学研究費補助金(基盤研究A 26257201)の他、服部助教が代表を務める科学研究費補助金(若手研究A 16H05884)の支援を受けて行われました。また、この成果は北海道大学 低温科学研究所の共同研究費を用いています。

用語説明

[用語1] 硝酸エアロゾル : 硝酸イオン(NO3-)のように酸化窒素の形で存在する窒素が、大気中に微粒子として浮遊している状態のこと。大気中で生成した硝酸は雨等により大気圏から取り去られ、海洋や森林などの生物圏に再び沈着される。

[用語2] フラックス : 流束(単位時間単位面積あたりに流れる量)のこと。

[用語3] NOx : 窒素の酸化物の総称で、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、五酸化二窒素などが含まれる。NOxは工場の煙や自動車排気ガスなどから人為的に排出され、気管支炎、酸性雨、PM2.5、流域の富栄養化など、人間活動や環境に悪影響を与えている。窒素分子そのものは、大気中に最も多く含まれる気体である。

[用語4] SOx : 硫黄の酸化物の総称で、一酸化硫黄、三酸化二硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄、七酸化二硫黄、四酸化硫黄などがある。石油や石炭などの化石燃料を燃焼するとき、あるいは黄鉄鉱や黄銅鉱のような硫化物鉱物を加熱するときに排出される。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research: Atmospheres(大気科学の専門誌)
論文タイトル :
Seasonal-scale dating of a shallow ice core from Greenland using oxygen isotope matching between data and simulation(モデルとアイスコア間の同位体マッチングによる季節スケールのアイスコア年代決定)
著者 :
古川崚仁1、植村立2、藤田耕史3、Jesper Sjolte4、芳村圭5、的場澄人1、飯塚芳徳1
所属 :
1北海道大学 低温科学研究所、2琉球大学 理学部、3名古屋大学 大学院環境学研究科、4ルンド大学(スウェーデン)、5東京大学 生産技術研究所
DOI :

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research: Atmospheres(大気科学の専門誌)
論文タイトル :
A 60 year record of atmospheric aerosol depositions preserved in a high-accumulation dome ice core, southeast Greenland(グリーンランド南東部の高涵養量ドームに保存された過去60年間の大気降下物の記録)
著者 :
飯塚芳徳1、植村立2、藤田耕史3、服部祥平4, 関宰1, 宮本千尋5、鈴木利孝6, 吉田尚宏4, 本山秀明7、的場澄人1
所属 :
1北海道大学 低温科学研究所、2琉球大学 理学部、3名古屋大学 大学院環境学研究科、4東京工業大学 物質理工学院、5東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、6山形大学 学術研究院、7国立極地研究所)
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

北海道大学 低温科学研究所

助教 飯塚芳徳

E-mail : iizuka@lowtem.hokudai.ac.jp
Tel : 011-706-7351 / Fax : 011-706-7142

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

助教 服部祥平

E-mail : hatttori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5419

配信元

北海道大学 総務企画部 広報課

E-mail : kouhou@jimu.hokudai.ac.jp
Tel : 011-706-2610 / Fax : 011-706-2092

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大陸上競技部が2つの駅伝大会で連覇記録を更新

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本学陸上競技部が、1月13日に熊谷スポーツ文化公園で行われた第15回国公立26大学対校駅伝大会 男子対校の部において優勝し、5連覇を達成しました。また、2017年12月17日に荒川河川敷で行われた第18回荒川河川敷大学対校駅伝大会 男子対校の部においても陸上競技部のチームが優勝し、6連覇を達成しています。

東工大陸上競技部 全体集合写真

東工大陸上競技部 全体集合写真

国公立26大学対校駅伝大会は、東北大学や新潟大学など全日本大学対校駅伝にも出場している大学も名を連ねるかなりレベルの高い大会です。東工大チームは1区準エースの塩田匠さん(工学部 化学工学科 学士課程3年)が9.85 kmを快走し、トップと20秒差の4位でタスキをつなぐと、2区(3.12 km)で河合正貴さん(工学部 有機材料工学科 学士課程3年)がトップに躍り出ました。3区(7.57 km)の多田駿介さん(理学院 数学系 学士課程2年)が一時、埼玉大学に先行を許すものの後半に逆転し、4区(5.00 km)で箱崎喜郎さん(工学部 電気電子工学科 学士課程4年)が区間賞を、5区(5.00 km)での井上暁人さん(生命理工学部 生命工学科 学士課程3年)の区間2位の走りで後続を1分以上突き放しました。最終区の6区(8.05 km)で対校戦ラストランとなるエースの松井将器さん(工学院 機械系 修士課程2年)が区間賞の走りで有終の美を飾り、優勝のゴールテープを切りました。2位には横浜国立大学が、3位には埼玉大学が続きました。2度の箱根駅伝出場を果たした松井さんが陸上競技部に入部してから、同大会では初年度こそ2位に甘んじましたが、それ以降の5大会全てで優勝を遂げたことになります。

レース中の様子

レース中の様子

レース中の様子

また、この大会の約1ヵ月前となる2017年12月17日に行われた第18回荒川河川敷大学対校駅伝大会は、東京大学なども名を連ねるレベルの高い大会でしたが、本学陸上部が6連覇を達成しました。このときは、マラソン直後の疲労や故障などにより主力選手が重要区間を担当できない状況があったため、例年に比べると前半は守り、後半に攻めるレース展開となりました。1区(10㎞)の箱崎さんが首位とあまり大きく水をあけられずにタスキをつなぎ、2区(3 km)では新美惣一朗さん(工学部 機械宇宙学科 学士課程4年)が首位との差を維持しました。3区(8 km)で松井さんが首位との差をつめてタスキを繋ぐと4区(8 km)の多田さんが首位をとらえ、5区(5 km)で井上さんがその差を広げて最終区に繋ぎました。6区(約8.2 km)の河合さんが2位をさらに引き離して優勝し、6連覇を飾りました。

ゴール
ゴール

円陣を組む選手たち
円陣を組む選手たち

代表学生のコメント(長距離パートチーフ 阿川陽さん(物質理工学院 材料系 学士課程2年))

中・長距離パートの成長の原点である荒川駅伝、国公立26大学駅伝で今年も勝つことが出来ました。今までの偉大な先輩達の努力によって、今の東工大陸上部には全員で成長することのできる土壌が出来上がっています。また、それにより外部からの評価も変わり様々な方々から応援され、力になっています。この環境に感謝しつつ、さらなる進化を遂げていきたいと思っています。

上記2大会を通じてエースの松井さんに続く若い世代の競技レベルが向上し、選手層も厚くなっていることを実感できる大会となりました。

今後とも、本学陸上競技部に温かいご声援・ご支援をいただきますようお願いします。

お問い合わせ先

東京工業大学 陸上競技部

E-mail : tfclub_hp@titech-tfclub.net

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