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ニュースレター「AES News」No.12 2018冬号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.12 2018冬号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する研究拠点である「オープンイノベーション」を推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生することを大きな目的の一つとしています。

本学教員と本センター企業・自治体が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

本センターの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、季刊誌「AES News」を発行しています。今回は第12号となる2018年冬号をご案内します。

ニュースレター「AES News」第12号 2018冬号

第12号・2018冬号

  • 東京工業大学 先進エネルギー国際研究センター 藤田壮特任教授 巻頭記事「気候変動に備えるスマート社会システム・イノベーションへの期待」
  • 浜松市 北村武之 エネルギー政策担当参与「浜松市のエネルギー政策~『浜松市版スマートシティ』に向けた取組みとAESセンターとの関わり~」
  • AES開催報告(2017年10月~12月)
  • 2018年度の活動、今後のスケジュール等

ニュースレターの入手方法

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冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚(※)
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

※博物館(百年記念館)においては、平成29年度において空調機改修工事を予定しております。改修工事の事前準備のため、全面での休館を予定しております。詳細は以下のページをご覧ください。

博物館・百年記念館休館

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429


原子時計をスマートフォンに搭載できるくらいの超小型システムへ

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要点

  • 圧電薄膜の機械振動を利用したシンプルな超小型原子時計システムを提案
  • チップ面積を約30%減、消費電力を約50%減、周波数の安定度も1桁以上の改善を実現
  • GPS衛星レベルの超高精度周波数源を、スマートフォンなどの汎用通信端末へ

概要

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田英幸)電磁波研究所 原基揚主任研究員等は、国立大学法人 東北大学(東北大、総長: 里見進)大学院工学研究科 機械機能創成専攻 小野崇人教授、国立大学法人 東京工業大学(東工大、学長: 三島良直)科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 伊藤浩之准教授と共同で、従来の複雑な周波数逓倍[用語1]処理を必要としないシンプルな小型原子時計[用語2]システムの開発に成功しました。

本研究では、圧電薄膜[用語3] の厚み縦振動を利用し、原子時計の小型化に適したマイクロ波発振器を提案しています。薄膜の厚み縦振動は、高い周波数で機械共振を得ることが容易であり、GHz(ギガヘルツ)帯にある原子共鳴の周波数に対して、そのまま同調動作できます。そのため、今まで必要だった水晶発振器や周波数逓倍回路を完全に省略することができ、大幅な小型・低消費電力化が実現されます。さらに、本システムでは、半導体加工技術を応用し、小型化と量産性に優れる小型のルビジウムガスセル[用語4]を独自に開発、動作パラメータを最適化することで、周波数の安定性を格段に改善しました。

本技術が実用化されれば、これまで人工衛星や基地局に限定的に搭載されていた周波数・時刻標準である原子時計を、スマートフォンなどの汎用の通信端末に搭載することも夢ではありません。

背景

図1. 圧電薄膜共振子を用いた発振器の写真
図1. 圧電薄膜共振子を用いた発振器の写真

高精度で均質な同期網の構築には、NICTが生成する日本標準時にも採用されている原子時計[用語5]の高精度化はもちろんのこと、この原子時計を搭載した通信ノードを拡充していくことも重要です。携帯端末を含む全ての通信ノードへの原子時計の搭載が理想的ですが、原子時計は大きさ、重さ、消費電力において可搬性に乏しいため、GPS衛星や無線基地局など、ごく一部への搭載に限定されています。欧米では、原子時計の小型化の研究も行われているものの、スマートフォンなどの端末に搭載するには、数cm角大とまだ巨大です。

原子時計は、ルビジウムなどのアルカリ金属元素のエネルギー準位差から得られる共鳴現象に、外部のマイクロ波発振器を同調させるように制御することで、安定な周波数を外部に提供します。マイクロ波発振は、低周波の水晶発振器を基に、周波数逓倍処理を行って得るのが一般的ですが、この方式を原子時計に採用すると、ボード面積と消費電力の大部分をマイクロ波発振器に費やすことになります。

今回の成果

今回、我々のチームは、原子時計の小型化に向け、GHz帯で良好な共振が得られる圧電薄膜の厚み縦振動に着目しました。この振動を利用することで、水晶発振器と周波数逓倍回路を必要としないシンプルなマイクロ波発振器の開発に成功しました(図1、2参照)。これにより、原子時計システムの大幅な小型化と低消費電力化が実現され、市販の小型原子時計と比較した場合、チップ面積を約30%、消費電力を約50%抑制することが可能になります。

また、アルカリ金属元素から共鳴を取得する場合、アルカリ金属は気体状態にあることが必要となり、窓の付いたケースに封じ込めて、レーザによる観察を行う必要があります。従来はガラス管を利用しましたが、これでは、小型化と量産性に課題があります。そこで、我々は、ウェハープロセスで製造可能な小型のルビジウムガスセルを独自に開発しました。この小型ガスセルを、先のマイクロ波発振器と組み合わせて同調動作(原子時計動作)させると、1秒間で10-11台の周波数安定度が得られました。これは、市販の小型原子時計と比較して1桁以上の性能改善となり、優れた安定性を示しているといえます。

本成果の実用化は、原子時計システムを大幅に小型・低消費電力化し、今まで人工衛星や限られた通信基地局にのみ搭載されていた原子時計を、スマートフォンなどの汎用通信端末に搭載することを可能にします。これは、単なる通信端末の利便性向上に寄与するだけでなく、高い同期精度が求められるセンサ・ネットワークからの情報取得や、GPS電波が安定しない厳しい環境でのロボット制御(屋内ドローンや潜水システム)にも適しており、新たな市場の創出が期待されます。

図2. 小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成

図2. 小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成

今後の展望

マイクロ波発振回路の簡略化による今回の成果を踏まえ、今後は、ディジタル制御系の簡略・省略化に着手し、更なる低消費電力化を、2019年を目途に実施します。また、高密度実装に適した光学系を有するガスセルの開発も同年を目途に進める予定です。我々は、このような原子時計のチップ化に向けた取組を加速していき、早期のサンプル提案を目指しています。

また、本報告の内容は、世界最大のマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)[用語6]に関する国際学会「The 31st IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS 2018)」(2018年1月21日(日)~25日(木)、英国ベルファスト)にて発表されます。

発表情報

国際会議 :
タイトル :
Micro Atomic Frequency Standards Employing an Integrated FBAR-VCO Oscillating on the 87Rb Clock Frequency without a Phase Locked Loop
(PLL回路を用いないで87Rb時計周波数にて発振するFBAR-VCOを利用した小型原子周波数標準)
著者 :
Motoaki Hara(原基揚, NICT), Yuichiro Yano(矢野雄一郎, NICT), Masatoshi Kajita(梶田雅稔, NICT), Hitoshi Nishino(西野仁, 東北大), Yasuhiro Ibata(井端泰大, 東北大), Masaya Toda(戸田雅也, 東北大), Shinsuke Hara(原紳介, NICT), Akifumi Kasamatsu(笠松章史, NICT), Hiroyuki Ito(伊藤浩之, 東工大), Takahito Ono(小野崇人, 東北大), Tetsuya Ido(井戸哲也, NICT)

用語解説

[用語1] 周波数逓倍 : 基準周波数から、その整数倍の周波数を生成すること。周波数安定度の良い水晶発振器を源振として基準信号を取得、位相ロックループ(PLL: Phase Locked Loop)を用いて発振周波数を高い周波数帯に押し上げるのが一般的である。

[用語2] 小型原子時計 : 原子共鳴をより簡易に取得するCPTの技術(下図参照)を用いて作製される原子時計モジュール。米国を中心に開発され、近年、一部の海洋探査などにも利用され始めている。CPTはCoherent Population Trappingの略で、変調されたレーザ光と気体状態のアルカリ金属元素とを相互作用させ、原子の共鳴を測定する。

Chip Scale Atomic Clock (CSAC)|Miicrosemiouter

小型原子時計

小型原子時計

[用語3] 圧電薄膜 : 電界をかけると歪み、歪ませると電圧を生じるという圧電効果を有する薄膜。窒化アルミニウムや酸化亜鉛は従来の成膜装置による堆積で、良好な圧電効果を得ることが可能で、広く利用されている。

[用語4] ルビジウムガスセル : ルビジウムは、秒の定義に利用されるセシウムと同様に、マイクロ波帯にエネルギー遷移を有するアルカリ金属元素。原子周波数標準にも利用される。今回利用した87Rbと、他の同位体として85Rbも存在する。ルビジウムガスセルは、このルビジウムを微小な容器(セル)に封入したものである。

[用語5] 原子時計 : 原子共鳴を利用した周波数及び時間の標準。アルカリ金属原子の超微細なエネルギー準位差から得られる共鳴現象に、マイクロ波発振器の発振周波数を同調するように制御することで、高い安定度を持つ周波数標準信号を生成する。右図は市販されているラックマウント型原子時計で、日本標準時の生成などにも用いられる。

5071A|Miicrosemiouter

原子時計

[用語6] マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS: Micro Electro Mechanical Systems) : 機構部品、センサ、駆動部品を電子回路と一緒に一つの基板(半導体・ガラス・有機ボード)上に集約・集積した素子、又は、その製造技術を指す。

補足資料:今回開発した原子時計システム

近年、原子周波数標準の小型化が注目を集めている。本研究では、原子時計システムへの組込みを目的として、3.5 GHz帯にて優れた共振動作を示す圧電薄膜共振子(Thin Film Bulk Acoustic Resonator: FBAR)を周波数リファレンスとして採用、水晶発振器を除したマイクロ波発振器の開発を行った。このFBARを用いたマイクロ波発振器の開発は、従来、必須であった外付け部品となる水晶発振器やPLL(Phase Locked Loop)を用いた周波数逓倍処理を不要にし、ボード面積と消費電力との大幅な抑制に寄与する。我々は、さらに、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた小型ルビジウムガスセルの試作を実施し、当該小型セルとFBARマイクロ波発振器とを組み合わせて、短期安定度2.1×10-11@1秒の原子時計動作に成功した。本成果は、原子時計システムを大幅に小型・低消費電力化し、今まで、人工衛星や限られた通信基地局にのみ搭載されていた原子時計を、スマートフォンなどの汎用通信端末に搭載することを可能にする。これは、単なる通信端末の利便性向上だけではなく、高い同期精度が求められるセンサ・ネットワークからの情報取得や、GPS電波が安定しない環境でのロボット制御(屋内ドローンや潜水システム)にも新たな市場創出の機会を与える。

原子時計の小型化は、欧米を中心に各国で検討されている。しかし、これらは単に大量のチップ部品を高密度実装したモジュールであり、スマートフォンやワイヤレスセンサーノードのような汎用無線端末に採用されるチップ部品には、コスト・サイズ・消費電力の観点から遠く及ばない。この小型原子時計の先行研究において、小型化と低消費電力化のボトルネックとなっているのがマイクロ波制御系であり、特に外付け部品となる水晶発振器やPLL(Phase Locked Loop)を用いた周波数逓倍処理はボード面積と駆動電力の大きな消費源である。

本研究では、圧電薄膜の厚み縦振動を利用し、原子時計の小型化に適したマイクロ波発振器を提案する。薄膜の厚み縦振動は高い周波数で機械共振を得ることが容易であり、GHZ帯にある原子共鳴と直接に同調動作させることが可能である。これにより、水晶発振器や周波数逓倍回路を完全に省略することができる。図3は、厚み縦振動を利用した機械共振子であるFBARと、それを連続自立発振させるための半導体チップ(増幅器)とをワイヤ実装したものである。現状、FBARと半導体チップは個別実装されているが、共にシリコン基板上に作製される素子であり、将来的には一つに集積され得る。図4は、上記のマイクロ波発振器の開発に合わせて試作された小型ルビジウムガスセルである。当該セルは、従来のガラス管を利用したセルとは異なり、ウェハープロセスで試作され、小型化と量産性に優れ、製造コストの圧縮に寄与する。

図3. 厚み縦振動の機械共振を用いた発振器
図3. 厚み縦振動の機械共振を用いた発振器

図4. MEMS技術を用いた小型ルビジウムガスセル
図4. MEMS技術を用いた小型ルビジウムガスセル

(a) 発振特性

(b) 位相雑音

図5. 開発したマイクロ波発振器の諸特性

図5は、FBARを用いたマイクロ波発振器の諸特性である。図5(a)において、ピークを示す周波数が発振点であり、ルビジウム(Rb)の遷移周波数に相当する3.4 GHz帯での良好な発振が確認される。位相雑音は、発振周波数を基点としたオフセット周波数での雑音電力であり、発振の質を評価する重要な指標である。図5(b)より、1 MHzオフセットにて位相雑音は、140 dBc/Hz、発振器の性能指数(FoM)に換算して-201 dBの良好な発振を示すことがわかる。

図6. 開発したガスセルより得られる原子共鳴(CPT共鳴) *fclkは87Rbの時計周波数

図6. 開発したガスセルより得られる原子共鳴(CPT共鳴)
*fclk87Rbの時計周波数

図6は、図4に示したガスセルを用いて87RbのCPT共鳴を計測した結果である。共鳴ピークは制御の観点から、細いことが望まれる。図6より、不活性ガス(ここでは窒素)の導入によって、共鳴線幅が大幅に改善されることが確認される。これは、不活性ガスが87Rb原子のセル壁面への衝突を緩和するためである。

図7. 周波数安定度の評価結果

図7. 周波数安定度の評価結果

図7は、発振器を図6の狭線なCPT共鳴に同調動作(原子時計動作)させたときの周波数安定度である。ここでは、参考のため、発振器を単純に自立発振させたときの安定度も付記している。原子時計動作により、周波数安定度を示すアラン分散が0(周波数分散の無い状態)に近づいていくことがわかる。実測された平均時間1秒でのアラン分散(短期周波数安定度)は2.1×10-11 であり、これは市販されている小型原子時計と比較して1桁優れた値である。

お問い合わせ先

国立研究開発法人 情報通信研究機構
電磁波研究所 時空標準研究室

原基揚 主任研究員

E-mail : hara.motoaki@nict.go.jp
Tel : 042-327-5476

国立大学法人 東北大学大学院
工学研究科 機械機能創成専攻

小野崇人 教授

E-mail : ono@nme.mech.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5806

国立大学法人 東京工業大学
科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

伊藤浩之 准教授

E-mail : ito@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5010

取材申し込み先

国立研究開発法人 情報通信研究機構 広報部 報道室

廣田幸子

E-mail : publicity@nict.go.jp
Tel : 042-327-6923 / Fax : 042-327-7587

国立大学法人 東北大学 大学院工学研究科 情報広報室

馬場博子

E-mail : eng-pr@eng.tohoku.ac.jp
Tel/Fax : 022-795-5898

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

貴金属を使わない高性能アンモニア合成触媒を開発

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ポイント

  • 金属間化合物LaCoSiが高い触媒活性を実現した。
  • ルテニウムなどの貴金属微粒子の担持を必要としない。
  • 活性化エネルギーが極めて低く新しい反応機構が示唆された。

JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学 細野秀雄教授、多田朋史准教授、北野政明准教授らは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の阿部仁准教授らと共同で、貴金属を使わない高性能のアンモニア合成触媒を開発しました。

温和な条件下でアンモニア合成を可能とする触媒は、オンサイトでの合成プロセスを実現するための鍵となります。高温・高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法には鉄系触媒が工業的に使われ、より温和な条件下での合成にはルテニウム触媒が研究されています。

今回、ルテニウムなどの貴金属の担持[用語1]を必要としない高活性触媒を開発しました。電子が陰イオン(アニオン)として働く“電子化物(エレクトライド)[用語2]”のコンセプトを拡張することで新触媒を検討し、ランタンLaとコバルトCoの金属間化合物[用語3]LaCoSiが貴金属を用いずに高い活性を示すことを見いだしました。

コバルトはルテニウムに次ぐ活性を持つことが知られていましたが、LaCoSiはこれまで報告されてきたコバルト系触媒でアンモニア合成において最高の活性を示します。LaCoSi内でのLaからCoへの電子供与が明らかにされ、それが高活性発現の鍵と考えられます。

また、この触媒を用いた反応の活性化エネルギーは同グループが2012年に開発したルテニウム担持C12A7エレクトライド触媒よりもさらに低いものでした。つまり、LaCoSiは従来の触媒に比べ窒素分子の切断(開裂)をより速やかに行うことができ、より低温でのプロセスに有利です。この低い活性化エネルギーは、第一原理分子動力学計算[用語4]などの解析結果から、窒素分子が触媒表面に吸着した際に窒素分子の振動が励起状態にあり、そこから原子への開裂が生じる、窒素分子の新しい活性化機構が示唆されました。

本研究成果は、2018年1月22日16時(英国時間)に科学誌「Nature Catalysis」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

JST戦略的創造研究推進事業(ACCEL)

研究開発課題名:
「エレクトライドの物質科学と応用展開」
研究代表者:
細野秀雄(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授、元素戦略研究センター長)
プログラムマネージャー:
横山壽治(科学技術振興機構)
研究開発期間:
平成25年10月~平成30年3月

研究の背景と経緯

肥料や多くの化成品に使われるアンモニアは、100年あまり前に確立された鉄系触媒を使うハーバー・ボッシュ法を使って大部分が生産されています。このプロセスは高温・高圧に耐える大型の設備を必要とします。一方、近年アンモニアを欲しい場所で、大型の設備を使わずに生産するオンサイト合成というニーズが出てきています。それを実現するには、温和な条件下で効率的に機能する新しい触媒が必要とされていました。

これまでルテニウムの微粒子を酸化物やカーボン上に担持した触媒がこの目的のためによく研究されてきました。しかし、ルテニウムは貴金属であり、また、ルテニウム系触媒では、水素の圧力が高くなると活性が低下してしまう「水素被毒」と呼ばれる問題が起こります。

研究グループは、2012年に安定な電子化物C12A7:eにルテニウムのナノ粒子を担持したものが、温和な条件下でもアンモニア合成の優れた触媒となることを報告しました。それ以来、この触媒を詳しく解析し得られた知見から、先鋭化できる物質を検討し、新しい触媒を開発してきました。今回報告する触媒もその中の一つです。

研究の内容

アンモニア合成は、窒素分子をバラバラにして電子を与え水素と結合させる反応ということができます。2003年に細野教授らが初めて実現した安定なエレクトライドは、電子を与える物質で、これまでは、エレクトライドから触媒粒子へ電子供与して活性を高めて来ました。このエレクトライドの考え方を拡張することで新触媒を検討し、従来と異なり、ルテニウムなどの貴金属の微粒子を担持しなくても高い触媒活性を示す新しい触媒LaCoSiが開発されました。

金属間化合物LaCoSi(図1)の比表面積は1.8 m2/gと小さいにもかかわらず、図2aに示すように、これまで報告されたコバルト系触媒の中で最高の活性を示します。X線吸収分光法(XAFS)[用語5]実験によって、LaCoSi内でのLaからCoへの電子供与が明らかにされており、この金属間化合物内での電子供与が高活性発現の鍵と考えられます。安定性も高く(図2b)、また、反応の活性化エネルギーは、ルテニウムを担持した触媒を含め最も低い値でした(図2c)。しかも、この触媒では、ルテニウム系触媒で生じる水素の圧力が高くなると活性が低下してしまうという水素被毒は観察されませんでした(図2d)。

アンモニア合成の鍵は窒素分子が持つ強い三重結合をいかに速やかに開裂するかにかかっており、LaCoSi表面ではそれが最も低い障壁で進行するのです。第一原理分子動力学計算によると、窒素分子はこの触媒の表面に吸着した際には、その振動レベルは励起状態にあり、したがってより速やかに原子上の窒素が開裂することが示唆されました(図3)。

LaCoSiの結晶構造

図1. LaCoSiの結晶構造

反応条件 1気圧、400℃での触媒活性

図2. 反応条件 1気圧、400℃での触媒活性


LaCoSiの比表面積 1.8 m2/g。

a)触媒ごとのアンモニア合成率(青)と比活性(赤)。

b)LaCoSiによるアンモニア合成率の時間経過。

c)触媒ごとの反応の活性化エネルギー。

d)αとβは窒素と水素に関する反応次数。

シミュレーションから示唆された反応機構

図3. シミュレーションから示唆された反応機構


下の赤枠内の図:青で描かれた窒素分子N2が、LaCoSi表面に吸着すると赤で表現された励起状態となり、グラフの赤で塗られた谷を埋めるだけのエネルギーを持つので、少しのエネルギーで開裂のためのエネルギーの山を越え、原子2つに分かれることができる。

今後の展開と波及効果

本研究で用いた触媒は比表面積が小さいので、さらなる高活性化を目指すにはナノ粒子化による比表面積増加が最もストレートなアプローチになります。

また、この新しいコンセプトで物質探索することによって、窒素分子や炭酸ガスなどの不活性分子の低温での効率的活性化につながるものと期待されます。

用語説明

[用語1] 担持 : 触媒として機能する貴金属等の粉末や粒子を、取り扱いを容易にする等の目的で、土台となる物質(担体)に固定すること。

[用語2] 電子化物(エレクトライド) : エレクトライドは電子がアニオンとして働く化合物の総称。通常の物質とは異なるユニークな性質を持つのではと関心を集めていたが、あまりに不安定なため、物性がほとんど解明されていなかった。細野教授らは2003年に、酸化カルシウムと酸化アルミニウム化合物からなる安定なエレクトライド、12CaO・7Al2O3(C12A7)を発見している。直径0.5ナノメートル程度のカゴ状の骨格が立体的につながった結晶構造をもち、金属のようによく電気を通し、低温では超伝導を示す。またアルカリ金属と同じくらい電子を他に与える能力を持つにもかかわらず、化学的にも熱的にも安定というユニークな物性を持っている。

[用語3] 金属間化合物 : 周期表上で離れた位置にある元素同士の組み合わせでできる化合物で、簡単な整数比の組成をもち、結晶構造は元の金属とは全く異なる。周期表上で近くにある元素同士でできる通常の合金と区別し、このように呼ばれる。

[用語4] 第一原理分子動力学計算 : 実験から得られた経験的なパラメータを一切用いず、計算対象となる原子の種類と電子数のみを入力パラメータにして、物理・化学現象の素過程を量子力学に基づいて解析する方法。

[用語5] X線吸収分光法(X-ray absorption fine structure、XAFS) : 物質によるX線の吸収の度合いが、X線のエネルギーによってどのように変わるか(スペクトル)を測定する手法。スペクトルの形からそれぞれの元素の化学状態や磁気状態を解析する。

論文情報

掲載誌 :
Nature Catalysis
論文タイトル :
Ternary Intermetallic LaCoSi as a Catalyst for N2 Activation(日本語タイトル:窒素分子の活性化触媒としての3元系金属間化合物LaCoSi)
著者 :
Yutong Gong, Jiazhen Wu, Masaaki Kitano, Junjie Wang, Tian-Nan Ye, Jiang Li, Yasukazu Kobayashi, Kazuhisa Kishida, Hitoshi Abe, Yasuhiro Niwa, Hongsheng Yang, Tomofumi Tada & Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 元素戦略研究センター長

教授 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部

ACCELグループ

寺下大地

E-mail : suishinf@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9130 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

「2030 年に向けての研究企画」集大成となる全学ワークショップを開催

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科学技術が急速に進化、発展する中、本学は2030年に「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」として、教育研究の成果と評価を世界最高水準に引き上げることを目標に掲げています。

「2030年に向けての研究企画」の検討にあたっての基本方針

目標の実現に向け、三島良直学長のもと、大学改革2年目を迎えた2017年4月から、世界トップ10を目指す研究分野について自由な意見交換を行っています。10年後の科学技術の役割を意識した新たな研究領域を創出し、本学の研究力を将来にわたって高めるための「2030年に向けての研究企画」を検討してきました。

第3期中期計画に掲げる「真理の探究・知識の体系化」、「産業への貢献・次世代の産業の芽の創出」、「人類社会の持続的発展のための諸課題の解決」に向け、全学の叡智を結集して社会の想像を超える科学技術を創出し、本学ならではの研究成果を社会に提供するための方策を検討しました。

まず、バックキャストのアプローチを取り入れ、次の1~3について検討することとし、「持続可能な開発目標(SDGs)」を意識しながら、今後の課題や将来の方向性を共有することとしました。

1.
未来社会と研究のつながり(新しい社会を切り拓く科学技術の姿)
2.
1を導き出す新しい研究領域・革新的な研究領域
3.
2の研究領域を包含し、世界トップ10と認知される本学の研究分野

学院等における検討

4月から各学院、リベラルアーツ研究教育院、科学技術創成研究院において個別に検討を開始しました。その結果を研究・産学連携本部 研究・産学連携戦略立案部会、および学長を議長とする戦略統括会議で共有し、改めて学院等において、リサーチ・アドミニストレーター(URA)を加えて検討を重ねました。こうして集約されたアイデアが、全学ワークショップの開催に繋がりました。

リサーチ・アドミニストレーター(URA)とは、大学等において、研究者とともに研究活動の企画・マネジメント、研究成果活用促進を行うことにより、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化等を支える業務に従事する高度専門人材です。

講演会の実施

質問する三島学長
質問する三島学長

9月21日、ワークショップの開催に先立ち、近年の科学技術イノベーション政策を深く理解するため、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究開発戦略センターの倉持隆雄センター長代理をお招きし、「大変革期の科学技術イノベーション政策に向けて 鳥の目、虫の目、つながる目」と題した講演会を開催しました。

講演会には、三島学長をはじめ、ワークショップに参加する役員、教員、URAのほか、事務職員など約70名が参加しました。倉持氏からは、「研究開発の俯瞰報告書(2017年)」について、分野ごとの詳細な説明と、科学技術イノベーション政策に向けた具体的な提案事例の紹介がありました。さらに、社会変革の時代における科学技術イノベーションの役割として、「持続可能な開発目標(SDGs)」を巡る国際動向や、日本での取り組みについても述べました。質疑応答も活発に行われ、参加者一同、翌日のワークショップへの期待と意欲が高まりました。

熱弁をふるう倉持氏
熱弁をふるう倉持氏

熱心に聞き入る聴講者
熱心に聞き入る聴講者

全学ワークショップの開催

ワークショップは、各学院等の長から推薦された教員37名、安藤真理事・副学長(研究担当)から推薦されたURA12名と、三島学長、安藤理事・副学長、岡田清理事・副学長(企画・人事・広報担当)、大竹尚登副学長(研究企画担当)、丸山剛司副学長(特命担当)、屋井鉄雄副学長(産学官連携担当)、佐藤勲副学長(戦略構想担当)、研究・産学連携本部の堀尾容康副本部長、岡本和久副本部長、学長補佐室の伊原学学長補佐、末包哲也学長補佐の11名を合わせた60名で行われました。

ワークショップの冒頭、大竹副学長から、各学院等から提案のあった「未来社会と研究とのつながり」との対応をまとめたイメージ図を示し、ワークショップの趣旨について説明しました。その後、参加者は14のグループに分かれ、リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授のファシリテーションにより、各学院等における検討結果をもとに設定した「目指す2030 年の“仮の”社会像」とともに、今後の課題や将来の方向性を検討しました。

ワークショップの趣旨について説明する大竹副学長
ワークショップの趣旨について説明する大竹副学長

ファシリテーターの伊藤准教授
ファシリテーターの伊藤准教授

伊藤准教授からは、「人間中心」(ヒューメイン)について説明があり、その後、各グループは、以下2点について「えんたくん 」を囲んで議論を交わし、議論の結果を発表しました。

フェーズⅠ:人間中心の観点からベスト・シナリオを1つ~3つ、および検討する過程で見えてきた、社会が人間中心であるための3箇条

フェーズⅡ:人間中心社会実現のための「新研究領域」とは?

各グループの発表内容については、発表と同時並行で、グラフィック・レコーディング により図示化され、その後の議論にも大いに役立ちました。

えんたくんとは、円型の段ボールでできた1枚の板であり、それを参加者の膝に乗せながら自由にアイデアを書き込む対話促進ツールです。

グラフィック・レコーディングにより記録した各グループの発表内容
グラフィック・レコーディングにより記録した各グループの発表内容

検討結果を発表する参加者
検討結果を発表する参加者

真剣かつ和やかなワークショップの様子1

真剣かつ和やかなワークショップの様子2

真剣かつ和やかなワークショップの様子

ワークショップ終了時には、参加者に追加課題が課されました。後日、ワークショップの議論から浮かび上がってきた“仮の”キーワード等についてさらに検討が加えられ、「サイボーグ工学」や「多様な幸福のための調和学」など、夢のある領域が取りまとめられました。

2030年に向けて、今後これらの領域については、単なる「夢」で終わらせることなく、全学の叡智を結集し推進していきます。

Tokyo Tech 2030

ちがう未来を、見つめていく。
役員・教職員・学生の参加によるワークショップを通じて、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Tokyo Tech 2030)を策定しました。

Tokyo Tech 2030

隕石の記憶は容易に消去される

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ポイント

  • 隕石に記録された放射壊変年代(アルゴン年代)は、初期太陽系で起きた出来事を紐解く上で重要である。
  • 隕石のふるさとである小惑星帯での典型的な衝突(およそ5 km/s)ではアルゴン年代はリセットされない、と推定されてきた。
  • 岩石の強度を考慮した数値衝突計算を実施し、衝撃圧縮状態からの減圧中に摩擦や塑性変形に伴う加熱が起こり、低速度衝突(2 km/s)でもアルゴン年代がリセットされることを示した。
  • 初期太陽系の姿は従来推定されていたよりも穏やかであった可能性が高い。

概要

隕石に記録された放射壊変年代(アルゴン年代※1)はその隕石の母天体がその時刻に1,000 Kの高温にさらされた時刻を示します。多くの隕石は初期の太陽系で母天体が冷え固まった時刻、すなわちおよそ45~46億年前の年代を示しますが、一部の隕石は若い年代を示します。母天体を1,000 Kまで加熱する過程は天体衝突しか考えられません。したがって、若い年代を示す隕石群の年代頻度の時間変化は太陽系天体の衝突史とみることができ、初期太陽系の軌道進化史の制約条件として利用されてきました。

アルゴン年代から衝突史の情報を引き出すためには、どの程度の衝突速度の場合に母天体が1,000 Kまで加熱されるか、という「アルゴン年代消去衝突速度」がわかっている必要があります。過去の理論的研究では岩石物質を理想的な流体であると仮定※2し、母天体を1,000 K以上に加熱してアルゴン年代をリセットするためには6~8 km/sという高速度で衝突が起こる必要があると推定されました。この速度は小惑星帯における典型的な衝突速度(およそ5 km/s)よりも高速度です。ところが2010年以降、現実の物質(弾塑性体)への衝突ではこの推定よりも低速度の衝突でも大きな加熱度が達成されるという報告が室内衝突実験/数値衝突計算で報告されるようになってきました。この「追加加熱」の起源は未解明でしたが、アルゴン年代から復元される初期太陽系の姿が大幅に塗り替えられる可能性があります。

千葉工業大学の黒澤耕介研究員、東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の玄田英典特任准教授は数値衝突計算を行い、現実の岩石の弾塑性体挙動を計算に取り入れた場合の加熱度を調べました。その結果、衝撃波の伝播で圧縮・破砕された岩石が膨張して減圧する際に内部摩擦や塑性変形によって追加発熱が起こり(図1)、2 km/sという低速度衝突の場合でも衝突天体質量の10%が1,000 Kまで加熱されることを見出しました。6~8 km/sと考えられていたアルゴン年代消去衝突速度が実際には2 km/sであったことになります。

「追加加熱」によって、隕石のふるさとである小惑星帯の典型的な衝突でアルゴン年代消去が起こることがわかりました。この新発見は初期太陽系の衝突環境は従来推定よりも穏やかであったことを示唆します。

研究成果は、1月25日付の米国科学雑誌「Geophysical Research Letters」の電子版に掲載されました。

数値計算結果例。上2つのパネル(a、b)は衝突後のある時刻のスナップショットです。完全流体の場合(a)と、現実の岩石の弾塑性体挙動を再現できる物質モデルを取り入れた場合(b)を示しています。この例では小惑星帯の典型的衝突を想定し、衝突速度を3 km/s(斜め45度衝突、4.2 km/sの垂直方向速度成分)と設定しています。弾塑性体の場合、1,000 Kまで温度が上がっていますが、理想流体の場合はほとんど温度が上がらないことがわかります。下2つのパネル(c、d)は(a、b)で示した計算中の温度-圧力の時間変化です。パネル(a、b)中で点列で示された追跡粒子の温度-圧力履歴は線で繋いで可視化しています。衝撃波が到達し、圧力が急上昇した直後でなく、1万気圧ほどまで減圧していく際に徐々に温度が上昇していることがわかります。赤いハッチをかけた温度領域ではアルゴン年代がリセットされます。図中の黒線はユゴニオ曲線と呼ばれる衝撃波到達直後に到達する温度圧力を繋いだ理論曲線です。衝突からの経過時刻は衝突天体が地面に埋まるまでにかかる時間(衝突天体直径を衝突速度で割った値)で規格化しています。標的天体表面のごく近傍に位置していた物質は数値計算における信頼度が低いため灰色で示しています。
図1.
数値計算結果例。上2つのパネル(a、b)は衝突後のある時刻のスナップショットです。完全流体の場合(a)と、現実の岩石の弾塑性体挙動を再現できる物質モデルを取り入れた場合(b)を示しています。この例では小惑星帯の典型的衝突を想定し、衝突速度を3 km/s(斜め45度衝突、4.2 km/sの垂直方向速度成分)と設定しています。弾塑性体の場合、1,000 Kまで温度が上がっていますが、理想流体の場合はほとんど温度が上がらないことがわかります。下2つのパネル(c、d)は(a、b)で示した計算中の温度-圧力の時間変化です。パネル(a、b)中で点列で示された追跡粒子の温度-圧力履歴は線で繋いで可視化しています。衝撃波が到達し、圧力が急上昇した直後でなく、1万気圧ほどまで減圧していく際に徐々に温度が上昇していることがわかります。赤いハッチをかけた温度領域ではアルゴン年代がリセットされます。図中の黒線はユゴニオ曲線と呼ばれる衝撃波到達直後に到達する温度圧力を繋いだ理論曲線です。衝突からの経過時刻は衝突天体が地面に埋まるまでにかかる時間(衝突天体直径を衝突速度で割った値)で規格化しています。標的天体表面のごく近傍に位置していた物質は数値計算における信頼度が低いため灰色で示しています。
※1
カリウム(39K)はマグマに集まる性質を持ち、一定の割合で放射性同位体である40Kが含まれます。40Kはおよそ13億年の半減期で40Arに変化します。マグマの冷却によって固化して形成された岩石中では時間とともに40Arが蓄積されます。したがって、隕石試料中の40Arと39Kの量比はその岩片が冷え固まった時刻を記憶していることになります。ところが岩片の温度が1,000 Kまで上昇すると蓄積した40Arが岩片中を高速で拡散し、宇宙空間に失われ、記憶はリセットされます。実際の計測では岩片試料に中性子を照射し、試料中の39Kを39Arに変換し、高精度でアルゴンガスの同位体比(40Arと39Arの比)を計測する方法(アルゴンーアルゴン法)が用いられ、40Ar-39Ar年代と表記されます。
※2
秒速数km/sの衝突で達成される典型的な圧力は10万気圧以上に及びます。それに対して岩石物質の典型的な臨界降伏応力は高々数万気圧です。従って強度を持つ岩石物質であってもあたかも流体のように振る舞うため、完全流体近似は妥当であると考えられてきました。

論文情報

掲載誌 :
Geophysical Research Letters
論文タイトル :
Effects of friction and plastic deformation in shock-comminuted damaged rocks on impact heating
著者 :
Kosuke Kurosawa and Hidenori Genda
DOI :

お問い合わせ先

千葉工業大学 惑星探査研究センター

研究員 黒澤耕介

E-mail : kosuke.kurosawa@perc.it-chiba.ac.jp
Tel : 047-478-4386、047-478-0320 / Fax : 047-478-0372

東京工業大学 地球生命研究所

特任准教授 玄田英典

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

研究者・留学生向け英文メールニュース「Tokyo Tech Bulletin No. 46」を配信

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英文メールニュース「Tokyo Institute of Technology Bulletin」は、この度全面リニューアルを行い、「Tokyo Tech Bulletin(トーキョー テック ブリテン)」第46号として配信を開始しました。当メールニュースは本学が四半期に一度、購読を希望する個人や団体、教育機関を中心に配信しています。

リニューアルした今号から、「研究」「国際」「東工大コミュニティー」を中心として本学の魅力をお伝えしていきます。

Tokyo Tech Bulletin

コンテンツ

  • 社会課題を解決し未来社会に向けた最新の研究成果
  • 気鋭の研究者が語るストーリー
  • 国際交流の取り組みや外国人留学生に向けた情報
  • 海外で活躍する同窓生の投稿記事

また、海外で活躍する本学同窓生からの投稿も募集しています。ブリテンの「Share your story at Tokyo Tech(シェア ユア ストーリー アット トーキョー テック)」のリンク先にある専用フォームから指定のEメールアドレスに投稿することができ、投稿は随時受け付けています。詳細は専用フォームをご覧ください。

メールでの配信をご希望の方は、申し込みフォームからご登録ください。

Tokyo Tech Bulletinは英語で配信を行っていますが、コンテンツは一部を除いてすべて日英両方で掲載しています。

お問い合わせ先

広報・地域連携部門

E-mail : publication@jim.titech.ac.jp

第3回ホームビジットプログラム開催報告

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2017年12月~2018年1月にかけて、留学生の日本文化体験、および東工大生との学生交流を目的としたホームビジット(家庭訪問)が行われました。2016~2017年のウインタープログラムで試行し、2017年のサマープログラムでも継続、今回で3回目の実施となるホームビジットプログラムは、本学学生9名と本学職員3名の協力により、11名の留学生が体験しました。

前2回は東京近郊在住の東工大生とそのご家族のご協力の下行いましたが、今回は、本学学生宅のみでなく、本学職員の協力を得て、本学学生と留学生のペアでの職員の家庭訪問も実施しました。

ホームビジットプログラムでは、これまでに本学学生23名により、合計50名の留学生が家庭訪問を行い、参加者からは学内での交流とは趣が異なるより深い交流ができたとの報告を受けています。

ホームビジット受け入れ家庭の本学学生およびご家族からのメッセージをご紹介します。

ホームビジット受け入れ家庭、東工大生からのメッセージ

東工大生の家庭でのホームビジット

足達哲也さん(工学院 システム制御系 修士課程2年 ミュンヘン工科大学派遣留学2016~2017)

今回、豪州メルボルン大学からの留学生ラドラシシュ(バンドパドヘイ・ラドラシシュ)さんと交流しました。受け入れのお話をいただいたのがちょうど長期留学を終えた後で、今度はぜひ日本に来た留学生を私がおもてなしして、少しでも留学中の貴重な経験を提供できればと思い、受け入れを決めました。

私は日本を代表する観光地に長年住んでいるのですが、こうして海外からのお客さんを案内するのは初めてで、彼との会話の中で自分の街のことや自分自身の昔の記憶を思い出したりすることができ、異文化交流と併せて自分のことや身の回りのこと思い出すきっかけになり、有意義な経験となりました。

足達さん(左)とラドラシシュさん(右)
足達さん(左)とラドラシシュさん(右)

江の島散策(神奈川県藤沢市)
江の島散策(神奈川県藤沢市)

ご両親からのメッセージ

ラドラシシュさんの訪問では、楽しい時間を過ごせました。当初、インド出身の方だということで、食べ物の制約がないのかと心配しましたが、ご本人からのメールで「何でも食べられます」との返事があったので安心しました。手巻き寿司メニューはなるべく沢山の食材を用意するように心がけ、ご本人から「こんなに沢山の魚の種類があるのを、ひとつのお皿で見たのは初めてだ」と喜んでもらえました。すかさず、我が家にあった食材図鑑により日本で食べられる水産物のバラエティを説明したところ、ご本人は大変驚いていました。また、「何でも食べられる」ようにしている理由として「グローバルに活躍する人材になるためには、ローカルな制約を言っている場合ではない」という説明をされたことには、脱帽しました。ただし、「納豆は食べられない」というのはご愛敬でした。日本へのショートステイが決まって、お父様が大変喜んでいるとの話には感銘を受けましたが、お父様は化学会社の技術者とのことで、「日本企業は高い技術力を持っていること」、「日本は誠実な国民性を有していること」がその理由だそうです。ラドラシシュさんが本国に帰って、日本の印象をご両親に報告してくれるのだとしたら望外の喜びです。

拙宅を訪問された最初のインド人の方でしたが、こういうかたちで国際交流に貢献できるのなら、次の方の受け入れも大歓迎です。

竹之下眞央子さん(生命理工学部 生命科学科 学士課程3年 韓国KAIST派遣2017参加学生)

ルイユさん(左)と竹之下さん(右)。森美術館「レアンドロ・エルリッヒ展」観覧(港区六本木)にて
ルイユさん(左)と竹之下さん(右)
森美術館「レアンドロ・エルリッヒ展」観覧(港区六本木)にて

我が家で留学生を受け入れるのは初めての試みということもあり、緊張と不安を感じながら当日を迎えましたが、到着とともに見せたメルボルン大学のルイユ(スー・ルイユ)さんの素敵な笑顔と、「コンニチハ!」という明るい挨拶が、それまでの心配を一気に吹き飛ばしてくれました。

ホームビジットが終わった後、この企画に参加することができ、本当に貴重な経験になったと感じました。両親も「視野を広げるよい機会になりました。娘の成長を頼もしく思いました。」と話しています。

どのようなことをしたら留学生に喜んでもらえるだろうと考えるのは大変でしたが、家族や友人、留学生と話し合うなかで、日本の魅力や文化、習慣についても再認識することができました。留学生と一緒に行動をともにし、様々な発見があった一日でした。留学生が「来日してから一番楽しい日だった」と話してくれたことが何より嬉しかったです。日本で楽しい思い出を残してほしい、もっと日本のことを知ってもらって、日本を好きになってほしいという想いで今回の企画に参加しましたが、この言葉を聞いて、そのやりがいがあったと感じました。ルイユさんが私のパートナーで本当に良かったです。

本学職員の家庭でのホームビジット

高田紘克さん(第1類 学士課程1年 スリランカ超短期派遣2017参加学生)

左からドンさん、チーチュンさん、菅原さん、高田さん
左からドンさん、チーチュンさん、菅原さん、高田さん

初めに私がこのプログラムに参加しようと決めたのは夏にスリランカへ行った時に現地の学生たちと交流したのがとても楽しく、もっと世界中の人と仲良くなりたいと思ったからです。今回はメルボルン大学からの留学生2名(ドン(ヌヤン・トロン・ドン)さん、チーチュン(ハン・チーチュン)さん)と日本人学生1名(菅原孝弥さん)とともに参加しました。

後期に入ってから英語の選択授業が取れなくなってしまったためか英語力の低下を感じており、当日も留学生との会話でも言葉が出てこなかったり何を言っているのか聞き取れなかったりといったことが本当に沢山ありました。それでも彼らは優しくて嫌な顔せずに会話を続けてくれたので嬉しかったです。たっぷり時間があったので色々な事を話せました。

彼らが日本に来てから行ったところや東工大での過ごし方、メルボルンの様子など書ききれないほど多くの会話ができたと思います。彼らはたこ焼きや焼きそばなどの日本食や日本の便利さに驚いていて逆に日本の良さも再確認出来ました。

僕が所属する合唱団の演奏会に誘ったところ行きたいと言ってくれて、合唱を披露するのが楽しみになると同時にこれからも連絡を取り合いたいと感じました。

最後に、彼らが語ってくれたメルボルン大学にとても魅力を感じたのでいつか留学したいです。これをモチベーションに英語の勉強を頑張ります!

網崎優樹さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年 2018年2月~中国清華大学へ留学予定)

左から網崎さん、ボさん、ディディさん
左から網崎さん、ボさん、ディディさん

メルボルン大学のボ(ツン・ボ)さんとディディ(ツ・ディディ)さんとともに参加しました。普段から留学生と会話することはあったものの、日本の家庭での交流は過去にしたことがなく、私自身が新鮮さを感じました。大学を外れていつもよりゆっくりとした空間の中で、普通に話すよりもより深く交流できたと思います。

今回のホームビジットにあたり、協力したいと思ったものの、家庭の事情で自分の家に招けなかったことが唯一の心残りです。うまく留学生と交流できたのは、ひとえに職員の方のご一家のあたたかいおもてなしのおかげだと思います。ご家庭にお招きいただき、改めて感謝を申し上げたいと思います。次は是非家族の了承を得て、私の家に招きたいと思います。

東京工業大学は、これからも留学生と本学学生の交流の場を創出するため様々な活動を行っていく予定です。

本学学生のご家族の皆様および教職員の方々にご協力いただければ幸いです。

本プログラムは、「スーパーグローバル大学創成支援事業(Top University Global Project)」による取組みの一環として開始しました。

「スーパーグローバル創成支援事業」は、2015年に文部科学省が開始したプログラムで、日本の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせて重点支援を行うことを目的としています。

お問い合わせ先

国立大学法人 東京工業大学 留学生交流課

E-mail : summer.program@jim.titech.ac.jpwinter.program@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3785 / 3786

髙木泰士准教授が「科学技術への顕著な貢献2017(ナイスステップな研究者)」に選定

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東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系の髙木泰士准教授が、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の科学技術イノベーションの発展に顕著な貢献した「ナイスステップな研究者2017」11名のうちの一人としてして選定されました。

「ナイスステップな研究者」は、科学技術・学術政策研究所が2005 年より科学技術への顕著な貢献をされた方々を選定しているもので、選定の観点としては、優れた研究成果、国内外における積極的な研究活動の展開、研究成果の実社会への還元、今後の活躍への広がりへの期待等となっています。この名称は、すばらしいという意味の「ナイス」と、飛躍を意味する「ステップ」を組み合わせ、研究所の略称 「NISTEP(ナイステップ)」にからめてつけられたものです。

選定理由

「アジアなど開発途上国における沿岸域防災研究とアウトリーチ」

髙木准教授は、開発途上国の沿岸域防災研究という新しく、かつ学際的な研究分野を推進しています。詳細な現地調査を行い、その調査結果と、港湾工学や海岸工学といった個別の工学分野の知見を融合させることで、沿岸域災害の原因究明や具体的な防災対策の提案などを行っています。工学を中心としながらも、災害意識や避難行動など社会学の領域にも果敢にチャレンジしています。

現地調査を精力的に続ける傍ら、多くの国際ジャーナルへの寄稿や書籍出版、国際会議での発表など国際的に顕著な研究業績を残しており、気候変動や急激な都市開発・人口増加で、ますます災害リスクへの対応が求められる中、沿岸域防災研究という学際融合的な研究領域において、リーダーとして研究及びそのアウトリーチ活動の推進が期待されています。

今年度の「ナイスステップな研究者 2017」には、今後の活躍が期待される若手研究者を中心に、新しい領域を先導する研究者、科学技術と社会との共創を推進する研究者、国際的に活動を展開する研究者、日本を拠点に国際的に活躍する外国人研究者、画期的な研究手法・ツールの開発者、研究成果をイノベーションにつなげている研究者など、多岐にわたる分野の研究者が揃っています。

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、国の科学技術政策立案プロセスの一翼を担うために設置された国家行政組織法に基づく文部科学省直轄の国立試験研究機関であり、行政ニーズを的確にとらえ、意思決定過程への参画を含めた行政部局との連携、協力を行うことが期待されています。

ナイスステップな研究者2017選定者の林芳正文部科学大臣表敬訪問(前列右から2番目が髙木准教授、4番目が林文部科学大臣)

ナイスステップな研究者2017選定者の林芳正文部科学大臣表敬訪問(前列右から2番目が髙木准教授、4番目が林文部科学大臣)

髙木准教授からのコメント

髙木泰士准教授
髙木泰士准教授

この度は過分な賞をいただき大変光栄です。

当方の研究室では、地域・住民視点の災害リスク評価をもとに、有効な防災・減災対策の創出に向けて、ボトムアップ型の国際共同研究をアジア諸国で推進しています。格好良く言えばHolistic(全体論的)、簡単に言えば出たところ勝負の研究で、このような賞とは無縁と思っていました。選考いただいた関係の皆様方、ひいては日本の学術風土の懐深さに頭が下がります。また、このような研究は一人ではできませんので、ここまで支えていただいた共同研究者や恩師、先輩、後輩、同僚、多くの方々に感謝申し上げます。

これからも学生と共に、大学ならではの自由で多様なアプローチで開発途上国の防災に貢献していきたいと思います。

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

環境・社会理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975


低温で高効率にアンモニアを合成できる触媒を開発

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現行の工業用触媒に比べて3倍以上

要点

  • 開発した新触媒は従来よりも低温で高効率にアンモニア合成ができる
  • 現在工業的に広く用いられている鉄触媒と比較して数倍高い活性を持つ
  • 新触媒は反応中に自動的に活性構造が形成(自己組織化)される

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)と原亨和教授、元素戦略研究センターの北野政明准教授らは、バリウムを少量加えたカルシウムアミド[用語1](Ba-Ca(NH2)2)にルテニウムのナノ粒子を固定化した触媒が、300 ℃以下という低温で、従来のルテニウム触媒の100倍高い効率でアンモニアを合成できることを発見しました。この触媒は、工業的に用いられている鉄触媒と比較しても数倍高い触媒性能を示しました。

アンモニアは窒素肥料原料として世界中で膨大な量が生産されており、一方で水素エネルギーキャリア[用語2]としても期待が高まっています。そのため、近年では従来のような大型のプロセスではなく、小型のプロセスによるオンサイト[用語3]でのアンモニア合成が求められています。この研究成果は、アンモニア合成プロセスの小型化・省エネルギー化技術を大幅に促進する結果であると言えます。

この触媒は、反応中に約3ナノメートル(nm)程度のルテニウムのナノ粒子の上に薄いバリウム層が形成され、同時にアミド欠損生成による仕事関数の小さな電子と多孔質なカルシウムアミドが形成されることで、高い触媒活性を示します。これら活性構造が自己組織的[用語4]に形成され、反応中安定に保たれるユニークな触媒であることを発見しました。

この研究成果はドイツ科学誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)International Edition」オンライン速報版に2018年1月22日付で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ACCEL

研究課題名:
「エレクトライドの物質科学と応用展開」
代表研究者:
東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
プログラムマネージャー:
科学技術振興機構 横山壽治
研究実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成25年10月~平成30年3月

研究の背景と経緯

アンモニアは、窒素肥料の原料であり食料生産の鍵となります。人類の生活を支えるために最も多く生産されている化成品の1つです。アンモニア分子は、1つの窒素に3つの水素が結合しているため、重量あたりの水素保有量が極めて高い物質です。さらに室温かつ10気圧程度で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源としての“水素”の貯蔵・輸送物質としても期待されています。

現在の工業的アンモニア合成法であるハーバー・ボッシュ法(1913年に確立)では、鉄を主体とした触媒が用いられており、高温(400~500 ℃)かつ高圧(100~300気圧)の条件が必要なため、専用の巨大な工場で生産されています。一方、低温で高効率に作動する触媒があれば、圧力も低減でき、よりコンパクトな小型のプロセスが可能となるため、必要な場所で必要なだけアンモニアを生産するオンサイト合成が実現できます。

研究の内容

研究グループは、バリウムを少量加えたカルシウムアミド(Ba-Ca(NH2)2)にルテニウムナノ粒子を固定化した触媒が、300 ℃以下の低温度領域で、従来のルテニウム触媒の100倍高い触媒活性を示すことを発見しました。さらに、この触媒は、工業的に用いられている鉄触媒と比較しても数倍も高い触媒性能を示しました(図1)。

アンモニア合成活性の比較 (反応温度:260 ℃、圧力:9気圧)

図1. アンモニア合成活性の比較 (反応温度:260 ℃、圧力:9気圧)

ルテニウムの原料には、ルテニウムアセチルアセトナート錯体を用い、Ba-Ca(NH2)2と混合した粉体を、水素雰囲気中で400 ℃に加熱することで、約3 nm程度のルテニウムナノ粒子の上に、薄いバリウム層が形成され、同時に多孔質なカルシウムアミドが形成されます(図2)。触媒の原料であるBa-Ca(NH2)2の表面積は、17 m2/g程度ですが、ルテニウム源とともに水素中で400 ℃に加熱した触媒は、多孔質になるため表面積が約100 m2/gに拡大することがわかりました。また、カルシウムアミド中に添加されたバリウム成分は、この熱処理中に触媒表面へと移動し、ルテニウムのナノ粒子を覆うことで薄い層を形成します。このような活性構造が、自己組織的に形成され、反応中安定に保たれるユニークな触媒であることを発見しました。今回開発した触媒は、近年報告されているどの固体触媒よりも低温で高いアンモニア合成活性を示します。

開発した触媒(Ru/Ba-Ca(NH2)2)の活性構造

図2. 開発した触媒(Ru/Ba-Ca(NH2)2)の活性構造

今後の展開

今回開発した触媒は、既存の触媒材料の限界をはるかに凌駕するアンモニア合成活性を有し、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に大きく貢献できます。そのため、本技術をさらに発展させることで、アンモニアのオンサイト合成のための新しいプロセス構築に繋がると期待できます。

用語説明

[用語1] カルシウムアミド : Ca2+(カルシウムイオン)とNH2-(アミドイオン)から形成されるイオン性化合物。

[用語2] エネルギーキャリア : エネルギーを貯蔵・輸送するための担体となる物質。例えば、アンモニアは、窒素分子1つに水素分子が3つ付いており、多くの水素を貯蔵できます。さらに、水素と比べて、簡単に液化できるため、水素の貯蔵・輸送を行うために便利な物質として注目されています。

[用語3] オンサイト : 従来の化成品は大規模な工場で大量に生産されている一方で、必要としている場所で、必要な分だけ生産する省エネルギー型生産手法。

[用語4] 自己組織的 : 秩序を持った構造が自立的に作り出される様子。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Self-organized Ruthenium-Barium Core-Shell Nanoparticles on a Mesoporous Calcium Amide Matrix for Efficient Low-Temperature Ammonia Synthesis(メソポーラスなカルシウムアミド母体上に自己組織的に形成されたルテニウム-バリウムコアシェルナノ粒子による低温での高効率なアンモニア合成)
著者 :
Masaaki Kitano, Yasunori Inoue, Masato Sasase, Kazuhisa Kishida, Yasukazu Kobayashi, Kohei Nishiyama, Tomofumi Tada, Shigeki Kawamura, Toshiharu Yokoyama, Michikazu Hara & Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 元素戦略研究センター長

教授 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

未来へのものづくりが体感できる!東工大のバイオコン

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港区エコプラザでの出張バイオコン報告

2017年12月2日、港区立エコプラザで開催された講座「未来へのものづくりが体感できる!東工大のバイオコン」に、2017年「東工大バイオコン」で優秀な成績を修めた本学学士課程1年生の8チームが参加し、港区の37名の小学生と保護者の方々と交流しました。

生命理工学院では、学士課程の1年生がバイオに関するものつくりに独自のアイディアで取り組むコンテスト「東工大バイオコン」を毎年開催しており、これは今年度で13回目となる本学の名物コンテストです。今回、バイオに関する様々なイベントを企画する学生サークルBCS(BioCreative Staff)のプロデュースにより、2017年の東工大バイオコンで優秀な成績を修めた8チームが「出張バイオコン」として本講座に出展しました。それぞれのチームが、バイオに関する自分たちのものつくりの成果をもとに発表や展示を行い、港区の小学生らとふれあいました。

学生の説明に聞き入る小学生たち

学生の説明に聞き入る小学生たち

学生の説明に聞き入る小学生たち

本講座では、出展した8チームが、参加した小学生や保護者の方々の投票によって選ばれるワクワク賞、ものつくり賞、エコロジー賞をめぐって各成果を競いました。ワクワク賞は小学生が一番ワクワクするものを作ったと思うチームに、ものつくり賞は保護者の方々がテーマやものつくりが最も興味深いと思うチームに、エコロジー賞は保護者の方々が最も環境にやさしいものつくりを行ったと思うチームに与えられました。会場は小学生やその保護者、出展した学生やBCSのスタッフなど100名を超える参加者で、熱気にあふれていました。

積極的に取り組む小学生の様子

積極的に取り組む小学生の様子

積極的に取り組む小学生の様子

受賞チームは以下の通りです。

  • ワクワク賞:Q班(テーマ「葛と激突!~負けるな、勇者よ~」)
  • ものつくり賞:S班(テーマ「植物発電!?ちょっとなにいってんのかわかんない!」)
  • エコロジー賞:S班(テーマ「植物発電!?ちょっとなにいってんのかわかんない!」)

各チームの展示を見て小学生は楽しそうに現役の東工大生の話を聞き、それぞれのブースでの実験や工作に取り組んでいました。各チームとも扱うテーマがユニークであったため、小学生も様々なジャンルのバイオの面白さに触れることができました。また、どのチームも身近にある「バイオ」を題材として取り上げていて、まだ学校では理科の授業が始まっていないような子供でも興味の湧きやすい内容でした。今回の講座を通して、参加した小学生の科学への関心を高められたのではないかと思います。

会場の様子

会場の様子

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

生命理工学院 バイオ創造設計室

E-mail : biocreat@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2487

2月の学内イベント情報

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2月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2018 EON-ELSI ウィンタースクール in Earth-Life Science

2018 EON-ELSI ウィンタースクール in Earth-Life Science

地球と生命の起源に関連する学際的な研究の基礎を学ぶための2週間のプログラムで、若手・異分野研究者間の交流を促進するものです。関連分野の講義・チュートリアルのほか、伊豆・箱根方面での4日間の野外見学があります。

日時

2018年1月22日(月) - 2月2日(金)

  • 1月22日:オリエンテーション、講義、ポスター発表
  • 1月22 - 26日:野外見学
  • 1月29 - 2月2日:講義およびチュートリアル
詳細はELSI公式サイトouterをご覧ください。
会場
参加費
無料
対象
大学院生および若手ポスドク
申込
受付終了
通訳の有無

東京工業大学 社会人アカデミー主催 講座「コーヒーの科学」(2017)

東京工業大学 社会人アカデミー主催 講座「コーヒーの科学」(2017)

おいしい「コーヒー」はどのようにできあがるのか。

各種メディアでも話題のイグ・ノーベル賞受賞、廣瀬講師ほか7名の講師が、生産から焙煎・抽出の方法、さらには文化や健康などさまざまな観点から、初めての方にもわかりやすく解説します。

日時
2018年1月20日、1月27日、2月3日、2月10日、2月17日(各回土曜日 10:30 - 16:10、2月17日のみ10:30 - 14:30)
会場
参加費
48,228円(税込み)
対象
一般
申込
必要

春のワークショップ2018「声に出してシェイクスピア vol.2-史劇編 その1『ヘンリー五世』-」(全5回)

春のワークショップ2018「声に出してシェイクスピア vol.2-史劇編 その1『ヘンリー五世』-」(全5回)

2017年、リベラルアーツ研究教育院では“夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」”を催し、大変好評をいただきました。続けて第2弾として、『ヘンリー五世』を取り上げます。今回も、レクチャーを聴くだけにとどまらず、プロの俳優とともに脚本を声に出して読み、自ら身体を動かして演じてみる参加体験型のワークショップとなっております。演劇経験の有無や年齢などは問わない内容です。講師は、前回と同じ、俳優の下総源太朗さん、シェイクスピア研究者の小泉勇人准教授、コーディネーターも同様に、現代英国劇研究者で演劇評論家の谷岡健彦教授が務めます。この5回を通じて、シェイクスピアの魅力と、演ずることの面白さをぜひご体験ください。なお、新国立劇場での『ヘンリー五世』をテーマにしたシンポジウムも、5月下旬に企画しております。

日時
2018年2月8日、15日、22日、3月1日、8日(いずれも木曜日、全5回)各回とも18:00 - 20:00
会場
参加費
全5回4,000円(税込み)(本学学生、教職員は無料)
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

歩き走るロボット結晶の開発に世界で初めて成功

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ソフトロボットへの実用化を期待

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構の小島秀子研究院客員教授と、理工学術院の朝日透教授、谷口卓也 同大学 大学院先進理工学研究科4年・日本学術振興会特別研究員(DC2)らの研究グループは、東京工業大学 理学院の植草秀裕准教授らと、加熱・冷却すると尺取り虫のように歩いたり、高速で走る、「ロボット結晶」を開発しました。

2016年に熱や光により分子が回転・伸縮する分子マシンの研究に対してノーベル化学賞が授与されました。しかし、これらの分子マシンの大きさは1ミリメートルの百万分の1程度しかありませんので、小さすぎて肉眼では動く様子を見ることができません。このため次のステップは、分子マシンを集積し、目に見えるマクロな大きさで実際に動く材料を開発することです。今回、本研究では、結晶という材料自体がロボットのように歩いたり走ったりして移動することを見出し、またその推進力の発生メカニズムも明らかにすることができました。

少子高齢化に向かうこれからの社会において、人に寄り添うロボットの必要性が高まっています。とくに最近は、有機材料でできた柔らかくて軽いソフトロボットが注目されるようになってきました。今回開発したロボット結晶を使うことで、新方式のソフトロボットが実現することが期待されます。

本研究成果は、2018年2月7日(水)付の英国Nature Publishing Groupのオープンアクセス科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。

発表のポイント

  • 世界初の「ロボット結晶」を開発しました。
  • 相転移により屈曲した結晶が移動する推進力は、結晶の非対称な形から発生することを明らかにしました。
  • ロボット結晶を使った新方式のソフトロボットが実現することが期待されます。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

結晶[注1]は硬くて割れ易いという既成概念がありましたが、2007年にジアリールエテン結晶が光によって曲がることが初めて報告され[参考文献1]、これまでの結晶のイメージを覆しました。小島秀子研究院客員教授はこの10年間、アゾベンゼンやサリチリデンアニリンなど、光によって曲がる様々な結晶を開発してきました。このようなメカニカル結晶を実用化するに当たっては、屈曲だけでなく多様な動き方をする結晶が必要となります。しかし、メカニカル結晶の開発研究が盛んになった現在においても、屈曲・伸縮といったその場での運動がほとんどで、光照射下で結晶が融解・固化を繰り返しながら這うように進むという報告[参考文献2]以外に、結晶を別の場所に移動させることは実現できていませんでした。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、結晶が尺取り虫のように屈曲を繰り返しながらゆっくりと歩く、また、屈曲した結晶が転がりながら高速で走るという、異なる2つのモードの移動が実現しました。さらに、結晶が移動する推進力は、結晶外形の非対称性から発生することを明らかにしました。

そのために新しく開発した手法

結晶が移動するメカニズムを明らかにするために、顕微鏡下で結晶の動きを高速撮影すると同時に、高精度赤外線サーモグラフィーカメラで結晶表面温度の変化も撮影し、結晶の動きと温度変化の関係を詳細に調べました。

今回の研究で得られた結果及び知見

今回開発したこのロボット結晶は、キラルアゾベンゼン結晶です。2016年に本研究グループは、この結晶に光を当てるとねじれ曲がることは報告しています[参考文献3]。その研究の過程で、このキラルアゾベンゼン結晶が145℃で相転移[注2]し、しかも加熱・冷却を繰り返しても結晶が壊れないことがわかりました。細長い板状結晶をホットプレートに置いて加熱していくと、わずかに屈曲する様子が観察されました。結晶は熱伝導によって下から暖まるので、先に下部が相転移して結晶構造が変化し、この結晶では長さが少し縮みます。一方、結晶の上部はまだ相転移温度に達しておらず、結晶の長さは元のままのために屈曲が生じます。左右で厚みが異なる板状結晶を、相転移点前後で加熱と冷却を繰り返すと、結晶は屈曲を繰り返し、尺取り虫のようにゆっくりと歩いてくことを見いだしました (図1)。さらに、より薄い板状結晶の場合は、加熱あるいは冷却を1回行うだけで、結晶は高速で走りました (図2)。これは、結晶が曲がった時にバランスを保てずに傾いて倒れ込み、勢い余って加速度がつき何回も転がっていくためです。走る速さは秒速15 mmで、歩く速さ(秒速0.0008 mm)の2万倍にも達します。結晶の形と動きの関係を詳細に考察した結果、「歩く」、「走る」の推進力は、結晶の外形が非対称であることから発生することがわかりました。

結晶の尺取り虫歩行

図1. 結晶の尺取り虫歩行

結晶の高速走行

図2. 結晶の高速走行

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、結晶という材料自体が歩いたり走ったりして移動することを見いだしました。移動する結晶は、微小領域での物質輸送などを担うマイクロロボットとして実用化できる可能性があります。また、より広い視点では、自立的に移動できるこの有機結晶は軽くてしなやかで耐久性もありますので、ソフトロボットの材料として有用であると考えられます。現在のロボットは金属部品の組み合わせでできているため、硬くて重いのが欠点です。人とロボットが融和して日常的に触れ合う未来を考えると、柔らかくて軽いソフトロボットの方が身体的にも心理的にも人間に適しています。変形・移動できる結晶を材料に使うことで、そのようなソフトロボットの実現が期待されます。実現すればその波及効果は大きく、少子高齢化に向かうこれからの社会全体に貢献できます。

今後の課題

ソフトロボットへの実用化に当たっては、結晶が移動する方向や速さを精密に制御できるようにする必要があります。また、もう少し低い温度で相転移する新しいロボット結晶を開発することが今後の課題となります。

参考動画

用語説明・参考文献

[注1] 結晶とは、分子や原子が3次元的に周期的に配列した物質です。身近なものには食塩や砂糖、水晶など様々なものがあり、日常生活の中でも食べたり触れたりする機会が多くあります。

[注2] ここでの相転移とは、結晶が異なる結晶構造へと変る現象です。

[参考文献1] Kobatake S. et al., Nature, 2007. : DOI:10.1038/nature05669 outer

[参考文献2] Uchida E. et al., Nat. Commun., 2015. : DOI:10.1038/ncomms8310 outer

[参考文献3] Taniguchi T. et al., Chem. Eur. J., 2016. : DOI:10.1002/chem.201505149 outer

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Walking and rolling of crystals induced thermally by phase transition
著者 :
Takuya Taniguchi1, Haruki Sugiyama2, Hidehiro Uekusa2, Motoo Shiro1, Toru Asahi1, Hideko Koshima1
所属 :
1早稲田大学、2東京工業大学
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究内容に関すること

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

小島秀子

E-mail : hkoshima@aoni.waseda.jp
Tel : 03-5283-8307

東京工業大学 理学院 化学系

植草秀裕

E-mail : uekusa@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3529

配信元

早稲田大学 広報室 広報課

E-mail : koho@list.waseda.jp
Tel : 03-3202-5454

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

平成30年度前期日程試験を受験される方へ

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平成30年度前期日程試験

平成30年2月25日(日) ~ 2月26日(月)

期間中キャンパス内への関係者以外の立ち入りを制限させていただきます。

注意事項

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的に確認をお願いします。

試験場へのアクセス

試験場は以下の2つの会場があります。先に公表している「(前期日程)試験場、受験上の注意等PDF」にあるとおり、受験番号によって試験場が異なりますので、お間違えのないように今一度ご確認ください。

受験番号 10001 ~ 13619 :東京工業大学 大岡山キャンパス

東急大井町線・目黒線 「大岡山駅」下車 徒歩1分
中央改札を出て左手に進み、マクドナルド前の横断歩道を渡るとすぐに正門があります。

受験番号 13620 ~ 14229 :東京工業大学 田町キャンパス(附属科学技術高等学校)

JR山手線・京浜東北線「田町駅」下車 徒歩2分
芝浦口(東口)方面に進み、右手エスカレーターを降りてすぐ右手に正門があります。

地下鉄都営三田線「三田駅」下車 徒歩5分
A4口を出て、JR田町駅方面へ。以下同上。

なお、試験室等の詳細を記載した試験場案内については、2月23日(金)に「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報に掲載しますので、確認をお願いします。

平成30年度前期日程試験を受験される方へ

東京工業大学 社会人アカデミー開催講座 理工系一般プログラム(4コース)「環境科学」「環境工学リサイクルコース」「環境工学エネルギーコース」「食の安全と安心」

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社会人アカデミーでは、毎年ご好評をいただいている理工系一般プログラムを本年度も開講予定です。

「環境科学」「環境工学リサイクル」「環境工学エネルギー」「食の安全と安心」の4コースで、理工系に基本を置く学問を様々な視点から学びます。

長年、研究・開発に携わってきた講師が基礎からわかりやすく講義します。

受講の動機が明確であれば、年齢等の受講資格は問いません。

各コースへのお申込み方法等はこちらのページouterをご覧ください。

日時
2018年4月18日(水) - 8月10日(金)
場所

各コースの概要

「環境科学(コースレベル:初・中級)

環境科学 パンフレット

“環境”の研究・教育を重ねてきた大学・研究機関のスペシャリストが講義を担当します。文科系や一般市民にもわかりやすい内容で構成されています。地球環境問題についてきちんと学習したい方、環境保全活動等へ参加するにあたり基本的な知識を得たい方、地球環境に関連する科目を専攻する予定で具体的な学習内容をイメージしたい高校生におすすめの講座です。

受講期間:2018年4月21日(土) - 6月23日(土)

環境科学パンフレットのダウンロードPDF

食の安全と安心(コースレベル:基礎)

食の安全と安心 パンフレット

わかりやすさ、丁寧な指導で定評のある講師が、食の安全確保について基礎から講義を行います。食品に潜む危険や問題、その対応策を知っておく必要がある方、食品の善し悪しがきちんと判断できる賢い消費者になりたい方におすすめの講座です。

受講期間:2018年4月18日(水) - 8月1日(水)

食の安全と安心パンフレットのダウンロードPDF

環境工学リサイクル・エネルギー(コースレベル:中級)

エンジニアを長く経験した講師が、地球環境に大きな影響を与えるエネルギーのシステムや問題点、解決策を紹介します。“廃棄物処理” 、“リサイクル” 、“エネルギー”の知識を習得する必要がある方、上記キーワードに関連した学習をしたい方におすすめの講座です。

環境工学①リサイクルコース パンフレット

環境工学②エネルギーコース パンフレット

環境工学リサイクル受講期間:2018年4月20日(金) - 6月15日(金)

環境工学①リサイクルパンフレットのダウンロードPDF

環境工学エネルギー受講期間:2018年6月22日(金) - 8月10日(金)

環境工学②エネルギーパンフレットのダウンロードPDF

問い合わせ先

東京工業大学社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8867/03-3454-8722

世界最高速!毎秒120ギガビットの無線伝送に成功

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5Gの普及を加速

要点

  • 広帯域ミリ波無線送受信機を開発
  • 安価で量産可能なシリコンCMOS集積回路により実現
  • 多値変調を用いた無線伝送実験で毎秒120ギガビットの通信速度を達成

東京工業大学は、株式会社富士通研究所と共同で、70から105ギガヘルツ(GHz)と広い周波数範囲で、高速に信号処理できるCMOS(シーモス;Complementary MOS)無線送受信チップを開発した。独自の広帯域化技術により無線装置の大容量化を実現し、世界最高速となる毎秒120ギガビットの無線伝送に成功した。これにより、光ファイバー通信網の敷設が困難な用途で、屋外設置可能な大容量無線通信が可能になる。

スマートフォンやタブレット端末で利用できる高精細動画サービスなどにより、無線インフラに求められる通信容量が爆発的に増大している。従来、基地局間は光ファイバーにより接続されていたが、建物が密集している都市部や河川、山間に挟まれた地域間など光ファイバー通信網の敷設が困難な地域へのサービス展開が難しいという課題があった。また、数万人の観客が一時的に集まる大規模な競技場やイベント会場、災害復旧時の迅速かつ柔軟な無線ネットワーク敷設のために、基地局間を光ファイバーではなく、無線により接続する要望が高まっている。そのため、大容量の通信が可能なミリ波帯(30から300 GHz)を利用した高速無線送受信技術を開発した。

研究成果の詳細は、2月11日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議ISSCC 2018(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2018)」で発表された。

開発の背景

2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけ、第5世代移動通信システム(5G)の実用化を目指した研究開発が活発化している。この背景には、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、高精細動画サービスなどによるデータ通信量が急激に増大していることや、IoTや自動運転などの新技術により、無線通信に対しても多様な性能が求められるようになっていることがあげられる。 それらを支える無線インフラとして、無線基地局とコアネットワーク、もしくは基地局間を結ぶ基幹ネットワークについても、爆発的な容量拡大に対応するための技術が求められている。また、従来は数キロメートルの広範囲をカバーするマクロセル方式が中心だったが、5Gでは、数百メートル以内の小さいエリアをカバーする基地局を多数設置するスモールセル方式を組み合わせることによって通信量の増大に対応している。

現在、基地局間の通信回線は大容量データを伝送できる光ファイバーが主流だが、建物が密集している都心部や、山間や河川などで隔たれた地域間では新規に光ファイバーを敷設することが困難である。また、一時的に数万人が集まるような大規模イベントにおいても臨時基地局の設置が求められており、屋外に簡便に設置できる大容量無線装置の実現が期待されている。

課題

大容量データを無線伝送するためには、広い周波数範囲を利用することが必要である。そのためには、競合する無線アプリケーションが少なく、広帯域なミリ波帯(30から300 GHz)の利用が適している。しかし、ミリ波帯は周波数が非常に高く、CMOS集積回路の動作限界に近いところで設計する必要があるため、設計の難易度が高く、広帯域な信号を高品質にミリ波帯の周波数へ変復調[用語1]する送受信回路や、回路基板とアンテナを接続するインターフェース回路を低損失に実現することが困難だった。

同研究グループは2016年に毎秒56ギガビットの無線伝送を達成したが、搬送波に含まれる高調波信号により、それ以上帯域が広げられないことが課題となっていた。

研究成果

同研究グループはデータ信号を二つに分け、それぞれを異なる周波数帯に変換してから混合することによって送受信回路を広帯域化する技術を用い、CMOS無線送受信チップ(図1)を開発した。低帯域信号は70.0から87.5 GHz、高帯域信号は87.5から105.0 GHzのそれぞれ17.5 GHz幅ごとに変復調を行う。この技術により、35 GHz幅の超広帯域信号においても高品質な信号伝送を実現することに成功した。 開発したCMOS無線送受信チップには、この際に必要な70 GHzと105 GHzの搬送波発生回路が内蔵されている。従来は搬送波発生回路に含まれる高調波成分により信号品質が劣化していたが、新たに開発した高調波抑圧技術によりこの問題を解決した。逓倍数[用語2]を下げた構成とし、多段の増幅回路と内蔵の高調波抑圧フィルタを組み合わせることで、16 QAM[用語3]の多値変調に必要な信号品質を達成している。

なお、東工大は送受信回路の広帯域化技術を開発し、富士通研はモジュール化技術を実施した。

120 Gbpsの無線通信を実現したCMOS無線送受信チップ

図1. 120 Gbpsの無線通信を実現したCMOS無線送受信チップ

ミリ波無線送受信機の性能競争

図2. ミリ波無線送受信機の性能競争

室内で、20センチメートルの距離を隔てて2台のモジュールを対向させ、データ伝送試験を実施した。その結果、世界最高速となる毎秒120ギガビットのデータ伝送に成功した。このデータ伝送速度は従来、報告されている伝送速度の2倍以上である(図2:集積回路として実現されたミリ波送受信機について記載)。

この際の消費電力は送信時120 mW、受信時160 mWで、従来の約半分だった。35 GHzの基準信号からの搬送波発生において、70 GHz搬送波に対して29 dBc[用語4]の三倍高調波抑圧、105 GHz搬送波に対して38 dBcの二倍高調波抑圧を達成し、16 QAMの多値変調による無線通信を35 GHzの周波数帯域幅で実現することができた。また、今回の開発品は従来に比べ、送信機の出力電力を4.5倍に向上しており、高利得のアンテナを使うことで、600メートル程度の無線通信が可能となる。

今回の成果により、屋外設置可能な無線装置の大容量化が可能になる。これにより、新規に光ファイバーを敷設することが困難な都市部や河川を挟んだ山間部、オリンピックの臨時基地局などへも無線による大容量な基地局ネットワークを容易に展開でき、快適な通信環境を提供することが可能になる。

今後の展開

スマートフォンなどの基地局間通信向けの無線基幹回線をターゲットとして2020年頃の実用化を目指す。

商標について:記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

発表情報

国際会議 :
タイトル :
A 120Gb/s 16QAM CMOS Millimeter-Wave Wireless Transceiver
著者 :
Korkut K. Tokgoz, Shotaro Maki, Jian Pang, Noriaki Nagashima, Ibrahim Abdo, Seitaro Kawai, Takuya Fujimura, Yoichi Kawano, Toshihide Suzuki, Taisuke Iwai, Kenichi Okada, Akira Matsuzawa

用語説明

[用語1] 変復調 : 変調は送りやすくするために信号の周波数を変えること、復調は変調された信号をもとの周波数に戻すこと。

[用語2] 逓倍 : 入力信号に対して整数倍(逓倍比)の周波数の信号を発生させること。

[用語3] QAM : 位相が直交する二つの波を合成して変復調を行う方式。

[用語4] dBc(ディービーシー) : 搬送波に対する電力比を表す単位。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

准教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


世界最小電力で動作するBLE無線機を開発

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デジタル化で実現、IoTの普及を加速

要点

  • 新型デジタル発振器により大幅な低消費電力化を達成
  • IoT機器への幅広い利用を期待

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の松澤昭教授と岡田健一准教授らの研究グループは、世界最小電力で動作するBluetooth Low Energy(BLE、ブルートゥース・ローエナジー)[用語1]無線機の開発に成功した。無線機の大部分をデジタル化することにより実現した。

BLE無線機は最小配線半ピッチ65 nm(ナノメートル) のシリコンCMOSプロセスで試作し、送信時2.9 mW(ミリワット)、受信時2.3 mWの極低消費電力で動作することを確認した。これは、これまでに報告されたBLE無線機の半分以下の消費電力である。長期間にわたり電池交換の必要がなくなり、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)技術の普及を大きく加速させる成果である。

研究成果について、2月11日~15日に米国サンフランシスコで開かれる「ISSCC 2018(国際固体素子回路会議)」で2件の論文を発表する。

本研究開発の成果の一部は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の結果得られたものである。

研究の背景・意義

消費電力の少ない無線技術は、IoT技術の適用範囲を広げる鍵となる技術として、近年盛んに研究開発が行われている。その中でも、BLEは、従来のBluetoothに比べて1桁以上の低消費電力化が可能であり、パソコン周辺機器やスマートフォンを中心に爆発的に利用が広がっている。メッシュネットワーク(端末同士が相互に通信を行う網の目状の通信ネットワーク)にも対応し、より幅広い種類のIoT端末への搭載が期待されている。

現状のBLE無線機はボタン電池1つで2~5年程度の駆動が可能だが、IoT端末の耐用年数中に電池交換を不要とするためには、10年以上の駆動が必要となり、BLE無線機にはさらなる低消費電力化が求められている。

研究成果

今回の研究成果は、大きく2つに分けることができる。1つは新型デジタル時間変換器(DTC : Digital-to-Time Converter)[用語2]により、低ジッタ[用語3]かつ広帯域な特性を実現した低消費電力デジタル位相同期ループ(PLL : Phase-Locked Loop)[用語4]で、もう1つは、そのデジタルPLL回路を用いて実現した世界最小電力で動作するBLE無線機に関するものである。

開発したBLE無線機は、キャリア再生[用語6]アナログデジタル変換[用語7]をPLL回路に担わせることで大幅な消費電力の削減を可能とした(図1)。従来の低消費電力デジタルPLL回路はBLE無線機に必要な低ジッタかつ広帯域な特性を実現できないことが課題だった。これに対し、今回開発したBLE無線機のデジタルPLL回路は、新型DTC(図2)により、低ジッタかつ広帯域な特性を実現し、BLE無線機での利用が可能となった。

(a) 従来型BLE受信機の構成

(a)従来型BLE受信機の構成

(b)(a)と(c)の中間型

(b)(a)と(c)の中間型

(c)提案型BLE受信機の構成

(c)提案型BLE受信機の構成

図1. BLE受信機の構成

特徴:本開発品である提案型BLE無線機では、キャリア再生やアナログデジタル変換をPLL回路に担わせることで大幅な消費電力の削減を可能とした。低消費電力化が可能なデジタルPLL回路において、BLE無線機に必要な低ジッタかつ広帯域な特性を実現できたことにより(c)の構成を実現可能とした。

図2. 新型デジタル時間変換器(DTC)の構成

図2. 新型デジタル時間変換器(DTC)の構成

特徴:従来のDTCでは、大きな容量の充電が必要なため、消費電力が大きく、また、高速な動作も難しかった。提案する新型のDTCでは、小さな容量の充電で済むため、低消費電力かつ高速な動作が可能である。

これにより、従来のBLE無線機の受信に必要な回路規模を半分にし、またアナログデジタル変換器(ADC : Analog-to-Digital Converter)を不要とすることに成功した。またADCとしての性能向上のために、オフセット分を帰還させることで、大幅な分解能の向上を可能とした。最小配線半ピッチ65 nmのシリコンCMOSプロセスで試作したBLE無線機は、送信時に2.9 mW、 受信時に2.3 mWの消費電力で動作する。

図3にBLE無線機全体の回路ブロック図を示す。送受信回路、局部発振器(PLL)、ベースバンド変復調器などを含み、変復調されたデジタル信号として入出力が可能である。図4にチップ写真を示す。2.26 mm(ミリメートル) x 1.90 mmの小面積で実現した。表1に消費電力の比較を示す。従来、報告があったBLE無線機の半分以下の消費電力で動作を実現した。Bluetooth 4.2(BLE)規格に準拠し、幅広い種類のIoT機器に搭載可能である。

図3. BLE無線機の回路ブロック図。特徴:送受信回路、局部発振器(PLL)、ベースバンド変復調器等を含み、変復調されたデジタル信号として入出力が可能である。

図3. BLE無線機の回路ブロック図

特徴:送受信回路、局部発振器(PLL)、ベースバンド変復調器等を含み、変復調されたデジタル信号として入出力が可能である。

図4. チップ写真。特徴:CMOS 65 nmプロセスにより製造した。

図4. チップ写真


特徴:CMOS 65 nmプロセスにより製造した。

表1. 従来のBLE無線機との消費電力比較


特徴:従来報告のあったものの半分以下の消費電力での動作を実現した。

送信
受信
東工大 ISSCC 2018
2.9 mW
2.3 mW
Renesas ISSCC 2015
7.7 mW
6.3 mW
Dialog ISSCC 2015
10.1 mW
11.2 mW
TI CC2540 *MCU等込み
63 mW
58 mW
Nordic nRF51822 *MCU等込み
32 mW
32 mW

デジタルPLL回路は単独の評価回路も作成し、同じく最小配線半ピッチ65 nmのシリコンCMOSプロセスで試作、消費電力とジッタ特性において、低消費電力無線向けPLL回路として、世界最高性能を達成している。PLL回路には整数分周型PLLと分数分周型PLL[用語5]がある。整数分周型PLLは基準信号に対して整数倍の周波数を出力するが、分数分周型は分数倍の任意の周波数の出力が可能である。無線通信には分数分周型のPLL回路が必要である。アナログPLLでは分数分周型を比較的容易に実現できるが、低消費電力化で有利なデジタルPLLにおいて分数分周型のものはジッタ特性が劣化しやすく実現が難しいことが課題だった。

今回の研究成果におけるデジタルPLL回路では、新型DTCにより、低ジッタかつ広帯域な特性を低消費電力で実現した。ジッタを消費電力で正規化したPLL FoM[用語9]特性において非常に良好な-246 dBの性能を達成した。従来、同様のFoM性能を達成したものは8.2 mWの消費電力を要したのに対し、8分の1以下の0.98 mWでの動作を実現した。また低消費電力モードでは0.65 mWでの動作も可能である。

今後の展開

本開発品のBLE無線機および極低消費電力のデジタルPLLは、広範なIoT機器への組み込みが可能であり、メンテナンスフリーでの動作を実現することで、IoT機器の爆発的普及への足掛かりとなる技術である。また、特許出願中の新型DTCや、それを用いたデジタルPLLは、要素的回路であるため、無線機以外の幅広い回路用途に利用可能であり、それぞれの用途での性能向上や低消費電力化が期待できる。

発表予定

この成果は2月11日~15日にサンフランシスコで開催される「2018 IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2018) : 2018年米国電気電子学会 国際固体素子回路会議」の2セッションで発表する。

デジタルPLL技術は講演セッション「Session 15 – RF PLLs」において、「A 0.98 mW Fractional-N ADPLL Using 10 b Isolated Constant-Slope DTC with FoM of -246 dB for IoT Applications in 65 nm CMOS (0.98 mWで動作する分数分周デジタルPLL -10ビットDTCにより-246 dBのFoMを達成-)」の講演タイトルで、現地時間2月13日午後1時半から発表する。BLE無線機等に利用可能な分数分周型のPLL回路において、世界最小消費電力を実現した。

Bluetooth無線機はセッション「Session 28 –Wireless Connectivity」で、「An ADPLL-Centric Bluetooth Low-Energy Transceiver with 2.3 mW Interference-Tolerant Hybrid-Loop Receiver and 2.9 mW Single-Point Polar Transmitter in 65 nm CMOS(送信2.9 mW、受信2.3 mWで動作可能なBLE無線機)」の講演タイトルで、現地時間2月14日午後2時から発表する。

講演1

講演セッション :
Session 15 – RF PLLs
講演時間 :
現地時間2月13日午後1時半
講演タイトル :
A 0.98 mW Fractional-N ADPLL Using 10 b Isolated Constant-Slope DTC with FoM of -246 dB for IoT Applications in 65 nm CMOS (0.98 mWで動作する分数分周デジタルPLL ー10ビットDTCにより-246 dBのFoMを達成ー)

講演2

講演セッション :
Session 28 –Wireless Connectivity
講演時間 :
現地時間2月14日午後2時
講演タイトル :
An ADPLL-Centric Bluetooth Low-Energy Transceiver with 2.3 mW Interference-Tolerant Hybrid-Loop Receiver and 2.9 mW Single-Point Polar Transmitter in 65 nm CMOS (送信2.9 mW、受信2.3 mWで動作可能なBLE無線機)

用語説明

[用語1] Bluetooth : 2.4 GHz帯の電波を用いる近距離向け無線通信規格。ワイヤレスキーボードなどで幅広く利用されている。旧来のBluetooth規格と、バージョン4.0以降で定義されたBLEは同じ周波数帯で共用できるが互換性を持たない。
Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE, BLE) : バージョン4.0以降のBluetooth規格でサポートされる低消費電力での通信が可能なモード。旧来のBluetooth規格とは互換性を持たず、ほぼ別物の規格である。スマートフォンなどに幅広く搭載されており、IoT向けの近距離無線規格として期待されている。バージョン5.0からはデータレートが2倍の2 Mbpsとなるモードや、通信距離を最大400 mまで伸ばせるモードが規定されている。

[用語2] デジタル時間変換器(DTC : Digital-to-Time Converter) : デジタル制御値により、遅延時間が変化する可変遅延回路。デジタル制御遅延回路(DCDL, Digitally-Controlled Delay Line)とも呼ばれる。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語3] ジッタ : クロックの重要な特性の一つで、クロック信号の立ち上がりまたは立ち下りタイミングが揺らぐ現象で、本来のタイミングからのずれが統計的にどれぐらいの幅を持つかで評価する。ジッタが小さいほど、クロックの揺らぎが小さい状況を示す。クロックを生成している発振器の位相雑音[用語8] に大きく依存し、位相雑音が低いほど、ジッタも小さくなる。

[用語4] 位相同期ループ(PLL : Phase-Locked Loop) : 集積回路中では正確な周波数基準が作れないため、水晶発振器による基準周波数frefを用い、それをN逓倍して所望周波数Nfrefの周波数の信号を得る。PLLには、位相周波数比較器、チャージポンプ、ローパスフィルタを用いるアナログPLLと、時間差デジタル変換器(TDC)とデジタルローパスフィルタを用いるデジタルPLL(オールデジタルPLLとも呼ばれる)が知られている。

[用語5] 分数分周PLL : PLLには、整数分周型と分数分周型がある。整数分周型PLLでは基準信号に対して整数倍の周波数を出力するが、分数分周型では分数倍の任意の周波数の出力が可能である。例えば、水晶発振器から入力される基準クロック周波数が26 MHzの場合、整数分周PLLでは2,418 MHz(93倍)、2,444 MHz(94倍)、2470 MHz(95倍)の生成が可能であるが、分数分周PLLでは2442 MHz(93.923倍)のような任意の小数精度の逓倍動作が可能である。BLE等の無線通信用には、整数分周型ではなく分数分周型のPLLが必要である。アナログPLLでは分数分周型を比較的容易に実現できるが、低消費電力化で有利なデジタルPLLにおいて分数分周型のものはジッタ特性が劣化しやすく実現が難しい。

[用語6] キャリア再生 : 受信機での同期検波による復調動作において、送信機で変調に用いた搬送波(キャリア)に同期した信号が必要である。受信した信号を用いて、そこから同期キャリアを得ることをキャリア再生と呼ぶ。

[用語7] アナログデジタル変換器(ADC : Analog-to-Digital Converter) : 入力されたアナログ値をデジタル値に変換する変換器。変換動作自体については、アナログデジタル変換(AD変換)と呼ばれる。

[用語8] 位相雑音 : 発振器の重要な特性の1つ。必要な周波数の信号に対し、どれだけ不要な周波数のスペクトルを持つかを表す。

[用語9] FoM : FoM(Figure of Merit)の略で、消費電力で規格化したジッタ性能を示す。ジッタと消費電力はトレードオフの関係にあり、発振器の消費電力を増やすとジッタが減少し、消費電力を減らすとジッタが増加する。FoMは、ジッタの標準偏差(δt)と消費電力PDCを用いて、以下の式で定義される。

FoM(Figure of Merit)の定義される式

ジッタ特性が同じでFoMが10 dB小さければ、消費電力が10分の1であることに相当する。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

岡田健一 准教授

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学同窓生 滝久雄氏が紺綬褒章を受章

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紺綬褒章を手にする滝氏(右)と三島学長(左)

紺綬褒章を手にする滝氏(右)と三島学長(左)

このたび本学同窓生 滝久雄氏が紺綬褒章を受章され、三島学長から褒章、褒章の記及び木杯が手交されました。

「外国人留学生と本学学生・教職員が交流を活性化させることが本学の更なる発展、ひいては日本の平和や安定につながる」との滝氏のお考えにより、本学に対し、旧図書館跡地への新棟の建設、および新棟へのパブリックアート設置の費用として多額の寄附をいただきました。

紺綬褒章は、公益のために私財(個人の場合500万円以上、団体の場合は1,000万円以上)を寄附した者を対象に、表彰されるべき事績の生じた都度、各府省等の推薦に基づき審査され授与されるものです。国、地方公共団体または公益団体(公益を目的とし、法人格を有し、公益の増進に著しく寄与する事業を行う団体であって、当該団体に関係の深い府省等の申請に基づき賞勲局が認定した団体)に対する寄附が対象となります。

滝氏は1963年3月に本学理工学部 機械工学科を卒業後、1996年に飲食店情報サイト「ぐるなび」を創業し、現在は株式会社ぐるなびの代表取締役会長をされています。

また、滝氏は第46回運輸省交通文化賞(1999年)、東京都功労賞(2003年)をはじめ数々の賞を受賞しておられます。

お問い合わせ先

広報・社会連携課基金室

E-mail : bokin@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2417

本学学生チームがiGEM世界大会で金賞を受賞し、11年連続受賞の世界記録更新

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本学学生チームが、iGEM世界大会(The International Genetically Engineered Machine Competition)で、今年も金賞を受賞し、金賞制度の創設以来の11年連続受賞の世界記録を更新しました。この連続記録を持つチームは全310チーム中、東工大とフライブルグ大(ドイツ)の2校のみです。

本大会は、国際的な合成生物学の大会であり、高校生や大学生主体(高校生、学部生、大学院生に区分)のチームがBioBrick(バイオブリック)と呼ばれる規格化された遺伝子パーツを組み合わせることにより、新しい人工生命システムの設計・構築 を行い、その成果をプレゼンテーションして審査されます。今年度は11月9日~11月13日に米国ボストンで開催され、マサチューセッツ工科大学(米国)、ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク(ドイツ)、清華大学(中国)など世界各国から310チームが参加し、10の部門に分かれて競い合いました。近年iGEMでは、デザインした生命システムの社会貢献性や製品化なども大きな評価項目になってきており、iGEM活動を通してベンチャー企業を立ち上げる海外チームなども増えてきています。

東工大チーム

東工大チーム

今年度の東工大チームは、生命理工学部・生命理工学院の学生11名、工学部の学生1名で構成されており、ヒト細胞と大腸菌の共培養システムの開発に取り組みました。簡単そうに思われるかもしれませんが、実験において、ヒト細胞培養環境中に細菌が混入してしまうと細菌が急激に増加し、ヒト細胞は死滅してしまいます。しかし、私たちの体内では腸内を始めとして様々な器官で細菌との共生関係が成り立っているように見えます。この共培養技術の開発は、共生関係を「つくる」という視点から解析するだけでなく、より生命らしい生命システムの構築にも貢献できると考えています。また、来年度以降はこの共培養技術を応用したデバイスの開発も計画しており、医療応用も予定しています。先述したようにiGEMでは社会貢献性の高い「もの」の開発が部門賞や特別賞獲得の必要条件になりつつあり、今年度の技術をもとに応用技術・デバイスを開発することで、来年度以降は特別賞の受賞も目指しています。

参加学生

  • 新垣沙希(生命理工学部 生命科学科 生体機構コース 3年)
  • 梅寺倖平(生命理工学部 生命工学科 生体分子コース 3年)
  • 髙木康雄(生命理工学部 生命科学科 分子生命コース 3年)
  • 長谷川葉月(生命理工学部 生命科学科 生体機構コース 3年)
  • 茂田井和紀(工学部 有機材料工学科 3年)
  • 安江卓馬(生命理工学部 生命工学科 生物工学コース 3年)
  • 藤田創(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 井澤和也(第7類 1年)
  • 片岡日向子(第7類 1年)
  • 佐藤多聞(第7類 1年)
  • 髙橋萌(第7類 1年)
  • 中矢光(第7類 1年)

指導陣

田川陽一 准教授(生命理工学院)

林宣宏 准教授(生命理工学院)

中島信孝 准教授(生命理工学院)

山村雅幸 教授(情報理工学院)

太田啓之 教授(生命理工学院)

西田暁史(情報理工学院 情報理工学系 博士後期課程 3年)

安田翔也(情報理工学院 情報理工学系 博士後期課程 3年)

学内サポート(順不同)

グローバル人材育成推進事業

東京工業大学基金

相澤基金

蔵前工業会 本部

蔵前工業会 神奈川支部

バイオ創造設計室

理科教育振興支援

学外サポート(順不同)

株式会社医学生物学研究所(MBL)

Integrated DNA Technologies(IDT)

コスモ・バイオ

プロメガ株式会社-株式会社リバネス

株式会社メタジェン

独立行政法人日本学生支援機構 (JASSO)

プレゼンテーション指導

学外:Robert F. Whittier (順天堂大学 医学部 医学教育研究室 特任教授)

代表者のコメント

長谷川葉月さん

長谷川葉月さん(生命理工学部 生命科学科 生体機構コース 3年)

iGEMの醍醐味は「チームで目標に向けて作り上げていくこと」だと思っています。ただ、学部生だけでは難しい点が多く、指導の先生方始め、本当に多くの方に支えていただきました。実験や発表などの活動を行ったのは2、3年生で、7人という少人数ながら今年度も金賞を獲得できたのは支援してくださった方々、そして何よりチームメンバーのおかげだと思っています。後輩たちにとって、来年度も記録を途絶えさせないようにというプレッシャーはとても大きいと思います。また、東工大チームの支援体制は国内チームの中では非常に恵まれていますが、海外チームではより多くの支援を大学から受けていることや、企業から大きな支援を受けていることもあります。そんな中戦うのは簡単なことではありませんが、何より楽しんで活動してほしいと思っています。

東工大基金

iGEMの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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お問い合わせ先

生命理工学院 准教授 林宣宏

E-mail : nhayashi@bio.titech.ac.jp

2月16日12:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

2017年度 東工大リベラルアーツ ミニシンポジウム年間開催報告

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2017年度に2年目を迎えた博士後期課程の文系教養科目では、年間テーマとしてSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の1つでもある「貧困」を取り上げ、多様な専門領域を学ぶ博士後期課程学生がグループワークを行いました。

博士後期課程学生を対象とする文系教養科目は、最先端の研究の「種」や高度な教養的知識をグループによる研究や発表を通じて共有する「教養先端科目」と、テーマの選定やプログラム等の検討などを行いながら学会運営を学ぶ「学生プロデュース科目」から構成されています。第2クォーター、第3クォーターと第4クォーターの最終回には、各グループが作成したポスターの発表会とテーマに関する専門家の講演を中心としたミニシンポジウムを開催しています。ミニシンポジウムの講演録、およびポスター発表の内容は、学生主体の編集委員会が編纂する東工大リベラルアーツ ミニシンポジウム ジャーナル(Journal of Tokyo Tech Liberal Arts Mini-symposium)として編纂され、学内にて配布される予定です。

今年度の東工大リベラルアーツ ミニシンポジウムは、以下のとおり第4回から第6回まで開催されました。

第4回

日時
2017年7月29日(土)
場所
大岡山キャンパス 大岡山西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)
テーマ
「資源と貧困(Impact Access to Resource)」

特別講演1では、首都大学東京の阿部彩教授が「日本の子どもの貧困の実態(The Reality of Child Poverty in Japan)」と題して、講演をしました。特別講演2では、東工大 環境・社会理工学院 融合理工学系の阿部直也准教授)が、「貧困とSDGsと技術(Poverty, SDGs and Technology)」をテーマに講演しました。

講演終了後、教養先端科目履修者のグループによるポスター発表から参加者の投票で選ばれたグループに対し、本学の大竹尚登副学長(工学院 教授)、科学技術創成研究院の益一哉研究院長(科学技術創成研究院 教授)から表彰が行われました。

第5回

日時
2017年11月18日(土)
場所
大岡山キャンパス 大岡山西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)
テーマ
「貧困と平等(Poverty and Equality)」

特別講演1では、ビヨンド ネクスト ベンチャーズ株式会社の盛島真由マネージャーが、「ベンチャーキャピタルと、タンザニア移動図書館『ウフルー号プロジェクト』での活動を通して(My work in Venture Capital and Tanzania "UHURU" Mobile Library)」をテーマに講演しました。

続いて、教養先端科目履修学生25グループ(1グループ4名)によるポスターセッションがありました。

特別講演2では、慶應義塾大学 理工学部の沼尾恵専任講師から、「貧困と平等?(Enter Equality, Stage Left?: A Reflection on the Role of Egalitarian Politics in the Fight against Poverty)」と題した講演が行われました。

講演終了後には、ポスターセッションに参加した25グループの中から、参加者の投票で選ばれたポスターの表彰と、安藤真理事・副学長(研究担当)から特別表彰が行われました。

第6回

日時
2018年1月20日(土)
場所
大岡山キャンパス 大岡山西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)
テーマ
「健康と貧困(Health and Poverty)」

特別講演1では、笹川平和財団の堀場明子主任研究員が、「紛争地での生活-東南アジアのケースから(Living in the Violent Conflict –Case of Southeast Asia)」について講演しました。

笹川平和財団 堀場主任研究員による講演

笹川平和財団 堀場主任研究員による講演

続いて行われたポスターセッションには、教養先端科目履修学生23グループ(1グループ4名)が参加しました。

東京外国語大学 日下部尚徳講師による講演
東京外国語大学 日下部尚徳講師による講演

メディアホールにおけるポスターセッション
メディアホールにおけるポスターセッション

特別講演2では、東京外国語大学の日下部尚徳講師から、「貧困対策とNGO-イスラームからみたバングラデシュの開発政策-(Poverty and NGOs in Bangladesh –Transition of Perception Toward NGO Activity for Islam)」に関する講演が行われました。

160名を超える講演会参加者

160名を超える講演会参加者

講演終了後、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)から、講演への感謝状の贈呈と、ポスターセッションに参加した23グループの中から参加者投票により選ばれたポスターの表彰が行われました。最後に丸山理事・副学長から特別表彰が行われました。

学生による司会進行と表彰発表前緊張の瞬間
学生による司会進行と表彰発表前緊張の瞬間

丸山理事・副学長(教育・国際担当)からポスター特別賞表彰
丸山理事・副学長(教育・国際担当)からポスター特別賞表彰

各講演はタイトル・内容ともに英語で行われました。講演者の所属等は講演時のものです。
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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院 事務文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7689

高い電子移動度を持つ有機半導体高分子を開発

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全有機高分子型のデジタル回路や太陽電池などへの応用に期待

要点

  • 窒素原子の配置を工夫してエネルギー準位や分子の平面性を最適化
  • アミノアルキル単分子膜で電子のみ輸送可能に
  • この有機半導体高分子[用語1]で高性能な有機トランジスタの開発に成功

概要

東京工業大学 物質理工学院の王洋研究員と道信剛志准教授らの研究グループは、有機半導体高分子の効率的な合成法を確立し、数平均分子量[用語2]105 g mol-1以上の有用な高分子量体を得ることに成功した。電子吸引性のsp2混成軌道[用語3]を持つ窒素原子を、この高分子の主鎖の適切な位置に配置することで、電子を輸送しやすいエネルギー準位を作り出し、高分子薄膜の結晶性を向上させた。

さらに、有機トランジスタを作製したところ、シリコン基板上にアミノアルキル単分子膜を成膜すると、有機半導体中の正孔(プラスの電荷)の輸送を抑制し、電子(マイナスの電荷)のみを選択的に流すことができた。結果、電子移動度が5.35 cm2 V-1 s-1で閾値電圧1 V、オン―オフ電流比107を示す高性能な有機トランジスタを実現した。

この成果は2月12日発行のドイツ科学雑誌「Advanced Materials(アドバンスド・マテリアルズ)」オンライン版に掲載された。

研究成果

有機半導体高分子は通常、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング重合[用語4]により合成される。この研究では、従来から用いられている重合条件に、ヨウ化銅を少量添加することで触媒反応の効率が向上することを見出した。また、溶媒をトルエンからクロロベンゼンに変えると高分子の溶解性が増大し、再現性よく105 g mol-1を超える高分子量体を得ることができた。ヨウ化銅がないと数平均分子量は104 g mol-1桁に留まっていた。

ベンゾチアジアゾールは、有機半導体高分子の主鎖によく用いられるアクセプター性骨格である。この骨格にsp2混成軌道を持つ窒素原子を置換するとアクセプター性が向上し、-3.8~-3.9 eVの深い最低空軌道(LUMO)準位[用語5]を作り出すことに成功した。このLUMO準位は効率的な電子の注入と輸送を実現するのに適している。また、窒素原子の置換によって主鎖骨格の平面性が上がったため、分子間でのπ-π相互作用も強まり、高分子薄膜の結晶性が向上した。

有機トランジスタのシリコン基板上にアミノアルキル単分子膜を成膜すると、半導体中にマイナスの電荷層が生成できるため、正孔がトラップされ、電子のみが流れることが知られている。アミノアルキル単分子膜の従来の成膜法にはディップコート法が用いられていたが、本研究では、より簡便なスピンコート法[用語6]で成膜する手法を開発した。

これら成果の相乗効果によって、ベンゾチアジアゾール型の有機半導体高分子としては非常に大きい電子移動度である5.35 cm2 V-1 s-1を達成した。

電子輸送型有機半導体高分子の設計、合成法および薄膜トランジスタの特性

図. 電子輸送型有機半導体高分子の設計、合成法および薄膜トランジスタの特性

背景

太陽電池などで利用されているアモルファスシリコンを超える高い移動度を実現することが、有機半導体高分子を実用化する際の目安になると考えられている。正孔輸送型半導体高分子では既に10 cm2 V-1 s-1を超える非常に高い移動度が達成されているが、電子輸送型半導体高分子での成功例は限られていた。そのため、高分子の合理的な設計指針とデバイス作製手法の確立が求められていた。

今後の展開

今回の成果は、電子輸送型高分子半導体の明確な設計指針を与えており、効率的な高分子合成法を適用すれば、既存の高分子半導体の性能をさらに向上できる可能性を提示している。また、正孔輸送型半導体高分子と組み合わせることで、全有機高分子型のデジタル回路や熱電変換素子、太陽電池などに応用することが期待される。

用語説明

[用語1] 有機半導体高分子 : 溶液からトランジスタや太陽電池など薄膜デバイスを作製できる有機材料であり、有機エレクトロニクスの鍵になる材料として期待されている。正孔(プラスの電荷)と電子(マイナスの電荷)と呼ばれるキャリアを流すことができ、それにより電流が生じる。半導体高分子の分子量が大きくなるほど結晶性が上がるため、一般的にキャリアの移動度が向上する。

[用語2] 数平均分子量 : 一般的な高分子は分子量が異なる分子の混合物であるため、高分子全体の重さを高分子の数で割ることによって、高分子鎖一本あたりの平均分子量を算出する。

[用語3] sp2混成軌道 : ある原子上の一つのs軌道と二つのp軌道を重ね合わせることで生成する軌道であり、平面性が高い分子構造を設計する際に用いられる。

[用語4] クロスカップリング重合 : 新しい化学結合の反応であるクロスカップリングを用いて高分子の合成を行うことを指す。通常、パラジウムが触媒として用いられることが多い。

[用語5] 最低空軌道準位 : 半導体分子の軌道のうち、正孔の輸送に関連するのは最高被占軌道(HOMO)、電子の輸送に関連するのは最低空軌道(LUMO)である。優れた電子輸送特性を実現するためには、真空準位からより離れたLUMO準位が望まれる。

[用語6] スピンコート法 : 平滑基板上に置いた半導体の溶液を高速で回転させることにより薄膜を作製する方法である。様々な薄膜作製法の中でも低コストで均質かつ大面積な薄膜を作製できる技術であり、特に半導体高分子のデバイス作製では頻繁に用いられる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
High-Performance n-Channel Organic Transistors Using High-Molecular-Weight Electron-Deficient Copolymers and Amine-Tailed Self-Assembled Monolayers
著者 :
Yang Wang, Tsukasa Hasegawa, Hidetoshi Matsumoto, Takehiko Mori, and Tsuyoshi Michinobu
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 道信剛志

E-mail : michinobu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3774 / Fax : 03-5734-3774

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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