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東工大教員8名が平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞

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このたび、東工大教員8名が、平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「科学技術賞」、「若手科学者賞」を受賞しました。

科学技術分野の文部科学大臣表彰には、「科学技術賞」を始め、特に優れた成果をあげた者を対象とする「科学技術特別賞」、高度な研究開発能力を有する若手研究者を対象とした「若手科学者賞」等があります。

「科学技術賞」は科学技術分野で顕著な功績をあげた者を対象としたもので、「開発部門」、「研究部門」、「科学技術振興部門」、「技術部門」、「理解増進部門」に分かれて表彰されています。

「若手科学者賞」は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。

日ごろの研究活動、研究成果を認められ、本学からは1名が科学技術賞を、7名が若手科学者賞を受賞しました。

今年度受賞した本学教員は以下のとおりです。

科学技術賞(研究部門)

淺田雅洋 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授

若手科学者賞

科学技術賞(研究部門)

淺田雅洋 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授

受賞業績:室温半導体テラヘルツ光源の先駆的研究

科学技術創成研究院 淺田雅洋教授
科学技術創成研究院
淺田雅洋教授

電波と光の中間に、テラヘルツギャップと呼ばれる未開拓の周波数帯があります。この周波数帯では、透過イメージングによるセキュリティや食品検査、化学分析、高速無線通信などへの様々な応用が期待されています。これら様々な応用にはテラヘルツ波を発生する光源の開発が必要不可欠で、これまでいろいろな光源が研究されてきましたが、いずれも大型であったり、複数の装置を組み合わせるもの、あるいは低温でしか動作しないものなど、満足できる光源はありませんでした。

本研究では、半導体ナノ構造からなる共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いて、単体の電子デバイスで初めての周波数1 THzを超える室温小型テラヘルツ光源の実現に成功しました。その後も、この光源に新たな構造を導入して周波数を更新し、電子デバイスの最高周波数として1.92 THzの室温発振を達成しました。

この成果がもとになって、RTDを用いたテラヘルツイメージングや高速無線通信などの超小型簡易システムの研究が国内外で始まっています。我々の研究室も、鈴木左文准教授(工学院電気電子系)と協力して、レーダーや無線通信への応用を進めています。本研究は、鈴木准教授と研究室の学生の協力や、多くの方々のご支援で行ってくることができました。関係いただいた方々に感謝申し上げるとともに、引き続き、この光源の高性能化や応用展開を推進していきます。

RTDによる室温テラヘルツ光源
RTDによる室温テラヘルツ光源

RTD光源の周波数の進展
RTD光源の周波数の進展

若手科学者賞

奥住聡 理学院 地球惑星科学系 准教授

受賞実績:ダスト微粒子の衝突合体過程に着目した微惑星形成機構の研究

理学院 奥住聡准教授
理学院 奥住聡准教授

我々の住む地球をはじめとする惑星は、宇宙に存在するミクロンサイズの塵(ダスト)から作られたと考えられています。ダストがどのように合体して天体を形成するのかは多くの謎に包まれており、惑星形成研究における最大の問題の1つと言っても過言ではありません。私はこれまで、若い恒星の周囲に広がるダスト粒子がどのような速度で衝突し、どのような構造の塊を形成していくのかを、理論シミュレーションによって詳しく調べてきました。その結果、ダストが非常に低密度のクラスターを形成しながら急速に成長する未知のメカニズムを特定し、さらに若い恒星の周囲がどのような環境にあればダストが固体天体を形成するのかを明らかにしました。今後は、最新の望遠鏡によって得られている若い星の周囲の非常に詳細な観測データを利用しながら、ダストから惑星ができるまでの全貌を説明する理論を構築していきたいと考えています。

今回受賞対象となった一連の研究は、多くの共同研究者の力があって初めて可能になったものです。この場を借りて共同研究者の皆様に厚くお礼申し上げます。

竹内一将 理学院 物理学系 准教授

受賞実績:非平衡界面ゆらぎの普遍的法則を実証する実験研究

理学院 竹内一将准教授
理学院 竹内一将准教授

熱平衡状態にある物質が従う基本法則は、熱力学、統計力学として確立され、自然科学の諸分野から産業界まで、現代科学技術の1つの基盤となっています。しかし、熱伝導や物質輸送、気象、生命など、熱平衡にない物質や現象にも重要なものは数多あります。そのような非平衡現象を扱う物理法則の解明は、現代科学に課せられた重要課題の1つです。

近年、数理科学分野において、非平衡界面や交通流等に関する複数の問題に共通の分布法則が示されましたが、特殊な性質に基づいており、自然現象を記述する可能性は未知数でした。今回の受賞研究では、液晶の乱流を使って非平衡の界面を実現し、問題の分布法則が実験でも出現する強い普遍性を持つことを発見しました。最近では、実験から新たな統計法則を見出すことにも成功しています。

このたびは栄誉ある賞を賜り、大変光栄です。本成果は、佐野雅己教授、笹本智弘教授をはじめとする国内外の共同研究者・研究協力者の方々、それに研究室メンバーの力なくしては実現しえないものでした。この場をお借りして、心よりお礼を申し上げます。本学から頂戴したご支援にも大変感謝しております。今回の受賞を励みに、一層の挑戦を続けていきたいと思います。

那須譲治 理学院 物理学系 助教

受賞実績:量子スピン液体の熱的性質と磁気ダイナミクスの研究

理学院 那須譲治助教
理学院 那須譲治助教

物質が示す性質のひとつに磁性があり、その微視的起源は主に電子のスピンと考えられています。温度を下げていくと、ある温度で多量に存在する電子スピンが相互作用(多体効果)によって整列し、強磁性といったよく知られた性質が表れます。一方で量子力学的効果はその整列現象を阻害することが知られており、その効果が非常に強ければ、極低温まで電子スピンの整列が起きない量子スピン液体と呼ばれる特異な状態が実現します。この状態は量子多体効果が本質的な系であり、量子計算の実現舞台の有力候補とされていることから、量子情報分野からも注目を集めています。本研究では、量子スピン液体を解析する新しい計算方法を開発することで、この状態の温度変化や動力学的性質を明らかにしました。特に量子スピン液体においてスピンが分裂しマヨラナ粒子として振る舞う様子が、実験的にどのように観測されるかを示しました。

今回、このような名誉ある賞を頂くことができたのは、これまでご指導いただいた先生方や学内外の共同研究者の方々のご支援ご指導の賜物です。この場をお借りして感謝申し上げます。

鎌田慶吾 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

受賞実績:ポリオキソメタレートの構造制御と触媒機能に関する研究

科学技術創成研究院 鎌田慶吾准教授
科学技術創成研究院
鎌田慶吾准教授

目的反応を達成するためには触媒活性点の構造を自在に制御することは重要かつ挑戦的な課題ですが、金属酸化物に代表される従来の固体触媒では均質かつ構造制御された活性点を構築することは非常に困難です。我々は、アニオン性金属酸化物クラスター分子「ポリオキソメタレート」の構造を精密に制御することで、高機能触媒の設計に関する新しいコンセプトの立案と方法論の開拓を行いました。また、これら材料を用いた環境にやさしい実用的触媒反応系の開発に成功しました。今後は、本研究で得られた知見を生かし、現在着手している新しい固体触媒プロセスの開発を進めていきたいと考えています。

今回、このような栄えある賞をいただくにあたり、長年ご指導くださった東京大学の水野哲孝教授をはじめ、研究室スタッフや研究員・学生の皆様、共同研究やプロジェクト等でお世話になった関係者の皆様に、深く感謝いたします。

庄子良晃 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授

受賞実績:ホウ素カチオンの創製と新反応開拓に関する研究

科学技術創成研究院 庄子良晃准教授
科学技術創成研究院
庄子良晃准教授

典型的なルイス酸である中性3配位の(ホウ素が結合の手を本もつ)ボランから手を一本取り去った2配位ホウ素カチオンは「ボリニウムイオン」と呼ばれ、超ルイス酸分子としての反応性が期待できます。

我々は、これまで安定に存在し得ないとされてきた、ホウ素上に芳香環のみが置換したボリニウムイオン(Mes2B+)の単離に世界で初めて成功し、その強いルイス酸性に基づく特異な反応性を明らかにしてきました。例えばMes2B+は、安定な二酸化炭素のC=O二重結合を室温で切断するほどに高い反応性を示します。さらに、Mes2B+が、カーボンナノチューブなどのナノカーボン類に対する優れたホールドーパントとして作用することも見出しています。今後、本研究をさらに発展させ、新物質・新反応の開発を通して社会に貢献する研究を進めていきたいと考えています。

今回、このような栄誉ある賞をいただくにあたり、長年にわたりご指導賜った本学の福島孝典教授をはじめ、研究室の皆様、共同研究でお世話になった学内外の関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。

ボランとボリニウムイオンの構造

ボランとボリニウムイオンの構造

阪口基己 工学院 機械系 准教授

受賞実績:結晶破壊力学に基づく耐熱超合金の変形と破壊に関する研究

工学院 阪口基己准教授
工学院 阪口基己准教授

Ni基超合金は数ある材料の中でも最高の高温強度を誇る耐熱材料のひとつですが、その変形・破壊プロセスには高温環境での複雑な現象が絡み合うため、これまでの破壊力学では体系的な理解が困難でした。

本研究では、高温での材料強度論と組織形成論についての基礎検討を経て、き裂の力学を議論してきたこれまでの破壊力学に、結晶学的変形を特徴づける結晶塑性学と組織形成論を扱う材料物理化学を融合させ、き裂の発生と進展過程におけるさまざまな現象を解明しました。特に、き裂先端の変形を結晶塑性解析により精緻に解析しながら、結晶学的な変形メカニズムと破壊力学的なき裂進展プロセスとの合理的な関連づけに成功しました。

このたびの栄誉ある受賞は、これまでご指導いただいた長岡技術科学大学・岡崎正和教授、本学の井上裕嗣教授、岸本喜久雄教授をはじめ、共同研究やプロジェクトでお世話になった学内外の皆様、ともに研究を進めてくれた学生の皆さんのご支援の賜物です。この場を借りて御礼申し上げます。今回の受賞を励みとして、さらに研鑽を重ね、研究に尽力していきます。

志村祐康 工学院 機械系 准教授

受賞実績:乱流予混合火炎の火炎構造と燃焼振動に関する研究

工学院 志村祐康准教授
工学院 志村祐康准教授

乱流予混合火炎は多くの工業機器で用いられていますが、現在でもその火炎構造や燃焼特性には未解明な点が多く残されています。実機燃焼器内では乱流予混合火炎と燃焼器内を伝播する圧力波が干渉することで、燃焼振動等の不安定現象が発生するため、より高い熱効率を得るには、このような多くの課題を解決しなければなりません。

乱流予混合火炎と燃焼振動に関する研究は長く行われてきておりますが、本業績は、高精度高空間分解能の多平面レーザ計測法と直接数値計算によって、乱流微細渦及び大規模渦が火炎構造及び燃焼特性に与える影響について検討した研究成果及びそれらの知見に基づいた燃焼制御技術開発に対して頂戴したものです。今後、これらをさらに発展させ、次世代の高効率・低環境負荷燃焼器の開発に貢献していく所存です。

この度、名誉ある賞を賜る次第となり、大変光栄に存じます。これまでご指導いただきました本学の宮内敏雄名誉教授、店橋護教授を始め、国内外の多くの先生方、共に研究を遂行した学生の皆さん、多くの支援を頂いた事務の方々に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。今後ともご指導、ご鞭撻下さいますよう、よろしくお願い致します。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


平成30年度 東京工業大学入学式 挙行

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4月3日、大岡山キャンパスにて平成30年度入学式が執り行われました。今年度の入学者数は、学士課程1,139名、大学院課程1,939名(修士課程1,697名(専門職学位課程を含む)博士後期課程242名)の計3,078名です。

平成30年度 東京工業大学入学式 挙行

学士課程入学式は10時30分から、大学院課程入学式は14時から、アカデミックガウンを身にまとった学長、来賓の方々、役員、各学院長、リベラルアーツ研究教育院長、科学技術創成研究院長、附属図書館長の入場で始まりました。末永隆一氏の指揮のもと本学管弦楽団が行進曲を演奏する中、厳かな入場となりました。開式のアナウンス後、本学混声合唱団コールクライネスとともに列席者一同で大学歌を斉唱しました。

学長式辞(益一哉学長)
学長式辞(益一哉学長)

益一哉学長は、学士課程新入生に向けて「『東工大で何をしたいのだろう』、『どうしたら、ここで自分の時間を最大限に生かせるだろう』などと自問をしているかもしれません。もしかしたら、ここから始まる新たな挑戦を前に、緊張し、あるいは、恐れまでも感じているかもしれません。恐れというものは私たちの生活のあらゆる面で関わっていると言えますが、皆さん次第でその影響は変わります。皆さんが積極的に取り組めば、東工大は、あなたが人生を託して未来のビジョンを生み出すことができる場所となります。また、皆さんは、周りの人々から継続的な支援を受けることができるでしょう。新入生が受講する世界トップレベルの研究者による『科学・技術の最前線』の授業は、大きな夢を抱くための科学的なインスピレーションをもたらし、皆さんがまもなく受けることになる『東工大立志プロジェクト』の授業を通してリベラルアーツの専門家が皆さんを導いてくれるでしょう。皆さんが目指す知的な生き方を見出す時に、最も困難な挑戦ほど価値があると思ってくれることを願います。このような挑戦こそが、皆さんがこの世界にどのような革新を起こしインパクトを与えるかを決めていくのです」と話しました。

大学院課程新入生へは、「私の目の前にいる才能ある皆さんは、基礎科学、材料科学、IoT(Internet of Things)時代のデバイス・システム、エネルギー科学に興味を持っているかもしれません。本学はこれらの分野で長い歴史と数多くの成果を生み出してきました。あるいは、人工知能や深層学習を含んだサーバーフィジカル・ソシアルシステム、持続的社会インフラ、細胞生物学やバイオインフォマティクスを含む生命科学などに興味をもっているかもしれません。本学はこれらの分野に、より注力しようとしています。皆さんが抱いている大志がどんなものであれ、夢を叶えるにふさわしい場所を選ばれました。東工大の最先端の研究はこれまで以上に多様で学際的になっています。そして、今日から皆さんもこの多様な最先端研究を担う一員です。皆さんは東工大の学生として、多様性と自律性を自由に享受できるようになりました。そして、世界は皆さんのリーダーシップを必要としています。皆さんは既にあらゆる意味でリーダーであり、さらにスキルを磨き発揮していかれることと思います。皆さんがそれぞれの情熱を追求し、専門分野を習得して下さい。どのように取り組もうとも、それらは社会にポジティブなインパクト、それも皆さんが想像する以上のポジティブなインパクトをもたらすと思います」と語りました。

その後来賓の方々を代表して、本学同窓会「一般社団法人蔵前工業会」の石田義雄 理事長、株式会社安川電機の津田純嗣 代表取締役会長より祝辞をいただきました。

来賓祝辞(蔵前工業会 石田理事長)
来賓祝辞(蔵前工業会 石田理事長)

来賓祝辞(安川電機 津田代表取締役会長)
来賓祝辞(安川電機 津田代表取締役会長)

続いて来賓紹介、本学役員・部局長紹介が行われ、その後、新入生総代よりこれから始まる東工大生活での抱負が力強く宣誓されました。

新入生総代答辞(学士課程)
新入生総代答辞(学士課程)

新入生総代答辞(大学院課程)
新入生総代答辞(大学院課程)

入学記念ピアノ演奏会
入学記念ピアノ演奏会

学士課程入学式に続いて、同会場で入学記念ピアノ演奏会が開催されました。これは毎年、新入生の門出を祝う意味をこめて、プロのピアニストにお願いして演奏していただく催しです。今年のピアニストは鐵百合奈さんです。鐵さんは、東京藝術大学音楽学部器楽科を経て、同大学大学院音楽研究科修士課程を修了し、今春より同大学院博士課程に在籍されています。修士課程修了時に大学院アカンサス音楽賞及び藝大クラヴィーア賞を受賞、2017年には国内でもっとも伝統のある若手音楽家の登竜門として知られる第86回日本音楽コンクールで第2位を受賞、あわせて聴衆の投票によって決まる岩谷賞(聴衆賞)、特に印象深い演奏をした者に贈られる三宅賞を受賞されています。

大岡山キャンパスは、桜とともに新入生やそのご家族の晴れやかな笑顔で溢れました。

新入生のみなさま、入学おめでとうございます。

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世界最高の理工系総合大学を目指す

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益学長が就任記者会見で表明

4月1日、益一哉学長が就任し、新執行部が発足しました。新執行部は世界最高の理工系総合大学の実現に向けて東工大改革の方向性を継承し、また指定国立大学法人として教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出により、本学をさらに発展させるべく取り組んでいきます。

新体制の発足にあたり4月5日、益学長および理事・副学長4名は東工大大岡山キャンパス東工大蔵前会館で就任記者会見を実施しました。学長就任の挨拶と新執行部紹介の後、益学長が「世界最高の理工系総合大学を目指して-指定国立大学法人として-」と題して、本学の新たな教育・研究・社会連携等の取り組みについて発表しました。さらに出席した記者の質問に答え、具体的な運営方針を明らかにしました。

就任会見にのぞむ、益学長率いる新執行部

就任会見にのぞむ、益学長率いる新執行部

発表のポイント ―東工大の指定国立大学法人構想―

会見で益学長は、まず、本学が進めてきた教育、研究、ガバナンスにおける改革の概略と成果を紹介しました。そしてこの改革を基盤に、更なる飛躍を目指す指定国立大学法人構想について次のように説明しました。

指定国立大学法人構想の概要

指定国立大学法人構想の概要

教育:学生本位の教育体系の進化

今回の教育改革によって気概を持った学生が増えてきており、学生の興味・関心に最大限に応えるべく、教育内容の更なる充実を図ります。具体的には、リーダー人材を育成するための卓越した大学院の形成や産業界との共同研究の場を活用した新しい博士教育を導入します。また、学士課程のうちから博士を目指す特別プログラム「B2D(Bachelor to Doctor、バチェラー トゥー ドクター)プログラム」の構築等により、学生主体の学びを強化し、新しい社会や産業を切り拓くことができる人材を輩出していきます。

研究:科学技術の最前線の開拓

世界の大学に伍するためには、今後より一層の競争力強化、幅広い卓越性が必要です。そのために、本学の底力ともいうべき研究の強みを生かして、「新・元素戦略」「統合エネルギー科学」「ディジタル社会デバイス・システム」の3分野を重点分野と設定し、これらの分野における世界的な拠点の構築を目指します。さらに海外での産学連携や情報発信のための拠点「Tokyo Tech ANNEX(トーキョーテック アネックス)」を世界各地に順次設置するとともに、大学の根本となる基礎研究を推進するため、若手研究者が研究に専念できる「基礎研究機構」を整備します。

社会連携:新たな知の社会実装の推進と定着

本学の研究成果等をもって社会に貢献するための一つの仕組みとして、学外に「Tokyo Tech Innovation(トーキョーテック イノベーション)」を設置し、戦略的な産学連携の推進とコンサルティング機能の拡充を行います。また、ベンチャーキャピタル等と連携したGAPファンドによるベンチャー支援を強化します。さらに、社会の進展に対応した新たな知の獲得を目指す社会人のための、高度リカレント教育を充実していきます。

「未来社会DESIGN機構」の新設

本学の指定国立大学法人構想は、アカデミアとしての教育研究の充実のみならず、「科学技術のファシリテーター」として未来社会像をデザイン・提案していく役割を新たに付加していることが特徴です。その中核を担う組織として、「未来社会DESIGN機構」を設置します。未来社会DESIGN(デザイン)機構では、社会の専門家と連携して、豊かな未来社会像=“ちがう未来”を描き、そして実現するために求められる研究領域の創成に取り組みます。

構想を実現させる戦略的運営

上記の新しい取り組みを進めるため、経営力と財務基盤の強化も行います。産学連携の強化や資産の有効利用による自己収入の増加を図るとともに、学長の業務の一部を代わりに行う「総括理事・副学長」を設置しました。これにより、学長はこれまで以上に学外の業務に時間を充てることができ、組織的な産学連携の推進や同窓会との連携強化など、積極的な社会連携を展開します。そして、得られた資金を教育研究基盤に持続的に投入する好循環を構築します。

ワクワクするキャンパスをつくりたい

Team東工大として、新たな価値を創造する

今後の取り組みとビジョンを語る益学長

今後の取り組みとビジョンを語る益学長

発表の最後に益学長は、「それぞれの自由な発想を尊重し、教職員・学生がそれぞれのベストなパフォーマンスを発揮できるような教育・研究環境を実現し、新しい時代を切り拓く、ワクワクするようなキャンパスをつくりたいと考えています。そして社会が必要とする課題に応え、その向こうにある社会(未来社会)にも貢献しようと考えています」と語りました。

本学はこれから新執行部体制のもと、教職員・学生がTeam東工大として広く社会と連携し、新しい価値の創造に努めていきます。

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サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2018春」開催報告

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3月31日、生命理工学院 生命理工学系の山田拓司研究室は、サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2018春」を開催しました。

学生による腸内細菌の説明

学生による腸内細菌の説明

サイエンスカフェとは、科学技術の分野で従来から行われている講演会やシンポジウムとは異なり、科学の専門家と一般の人々が、比較的小規模な場所で科学について気軽に語り合う場をつくろうという試みです。一般市民と研究者を繁ぎ、科学の社会的な理解を深める新しいコミュニケーションの手法として、世界で注目されている活動です。

ヒトの腸内には、1,000種100兆個体の細菌が共生していると言われています。近年、腸内細菌の解析技術が飛躍的に向上し、これらの細菌を網羅的に調査する事が可能になり、さまざまな発見が相次いでいます。そうした目に見えない細菌たちの活動や仕組みを子どもたちに分かりやすく学んでもらおうと、本サイエンスカフェは学生たちが開発した腸内細菌ボードゲームなどを使って行われています。JCHM学生会員によるサイエンスカフェはすっかり定例化し、地域の子どもたちに広く認知されるようになりました。

ボードゲームに熱中する子どもたちと学生スタッフ

ボードゲームに熱中する子どもたちと学生スタッフ

今回は大岡山キャンパス緑が丘6号館の緑が丘ホールにて開催され、約50名が参加しました。最初に学生が腸内細菌の仕組みについて説明をした後、実際にゲームが行われました。未就学児から中学生まで幅広い年代の子どもたちがボードゲームに参加しましたが、学生スタッフらは、年齢差に関係なく楽しんでもらえるよう工夫し、お互いがコミュニケーションを取れるように努めました。

「腸内細菌ってなんだ?」は今後も定期的に開催し、一般の方々にサイエンスを身近に楽しんでいただく機会を提供し続けていきます。

JCHM : Japanese Consortium for Human Microbiome(腸内環境の全容解明と産業応用のコンソーシアム)

学生スタッフと山田准教授

学生スタッフと山田准教授

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東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

生命理工学院 山田研究室 JCHM事務局

Email : info@jchm.jp
Tel : 03-5734-3629

魚の完全な皮膚再生システムを解明

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脱分化を経ず速やかに組織を修復

要点

  • 両生類や魚類における大きな欠損を完全に再生する仕組みを解明
  • 皮膚再生の過程をゼブラフィッシュで観察
  • ヒトなどの皮膚疾患の治療、再生医療に新たなヒント

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の柴田恵里大学院生(博士後期課程3年・研究当時)と川上厚志准教授らの研究グループは、モデル動物であるゼブラフィッシュを用いて、皮膚が瘢痕[用語1]を残さず、きれいに再生するための細胞群の働きを観察することに成功した。

魚類やイモリなどの両生類は、驚異的な組織再生能力を持っており、四肢やヒレを失っても元通りの組織を再生することができる。今回、研究グループでは、ゼブラフィッシュのヒレが再生する間の表皮細胞に注目。どのようなプロセスを経て、完全にヒレが元通りになり、瘢痕がない皮膚がどう再生されるのかについて、細胞を蛍光標識して追跡する方法で調べた。

その結果、従来考えられていた傷口付近にある皮膚細胞が脱分化[用語2]することで幹細胞になり再生が始まるわけではなく、基底層の幹細胞や表層の分化細胞が、それぞれ増殖して、同じタイプの細胞を生産、それを欠損部に供給して皮膚を再生していることがわかった。さらに再生過程では、皮膚の広範囲で細胞増殖が活性化して細胞を供給することで、新たな皮膚がダイナミックに再構成されることが判明した。

本研究から、完全な皮膚再生は脱分化のような特殊な方法を用いることはせずに、基底層の幹細胞などが自己複製することで、皮膚再生が起きていることが示された。

研究成果は、英国の生物医学・生命科学誌である「ディベロプメント(Development)」のオンライン版に2018年4月3日に公開された。

背景

魚類やイモリなどの両生類は、高い組織再生能力を持っており、手足などの器官を失っても、瘢痕を残さずに完全に元の形状と同じ組織を再生できる。組織の再生や恒常性の仕組みの解明は、ここ最近の生物学における大きな課題の1つで、この解明により、ヒトの再生医療への応用の可能性が期待されている。組織が再生する際、細胞がどのような仕組みで、どのような源から供給されているのか、これまでほとんどわかっていなかった。

近年、遺伝学的な手法を用いて、再生のために働いている細胞を蛍光標識する方法で、組織の修復や再生における細胞系譜の解明が進んできた。

研究成果

研究グループでは、ゼブラフィッシュのヒレの再生をモデルにして、遺伝学的な細胞標識法(Cre-loxP部位特異的組み換え)により、再生組織の細胞を蛍光に標識して(図1)、長期にわたって追跡した。その結果、傷口付近にあった上皮細胞が、いくつかの異なった運命をたどることが判明した。

まず傷口にやってくる上皮細胞の第一群は、傷口を塞いだ後、数日以内に細胞死を起こし消失した。遅れてやって来た第二の上皮細胞群は、再生した皮膚を作る細胞になった。

しかしながら、これらの再生した皮膚細胞の多くは、1週間から2週間程度経つとヒレの末端へ向かって押し出され消失する。皮膚細胞がどこから新たに供給されたのかを調べると、再生過程では、広範囲の皮膚で、幹細胞を含む細胞の増殖が活性化することで新たな上皮細胞が多数供給されていることがわかった。

また、興味深いことに再生過程における皮膚細胞は、脱分化して幹細胞に戻って再生するような特別なプロセスは経ずに、すでにある基底層の幹細胞や表層の分化細胞がそれぞれ、個性を保ったまま増殖して皮膚を再生していくことが明らかとなった。

ゼブラフィッシュのヒレにおける再生上皮細胞の遺伝的標識と細胞追跡

図1. ゼブラフィッシュのヒレにおける再生上皮細胞の遺伝的標識と細胞追跡


細胞標識には、Cre-loxPという方法を用いた。ここでは、フィブロネクチン1bという遺伝子の制御下で発現させたCre組み換え酵素によってEGFP(緑色蛍光タンパク質)の発現のスイッチを入れた。組み換えは、タモキシフェン(TAM)という化合物によって誘導できる。
※dpa:ヒレ切断後の日数。

今後の展開

本研究により、瘢痕が残らない、きれいで完全な皮膚再生の仕組みを明らかにすることができた。

ヒトを含む他の脊椎動物でも、基底層の幹細胞の自己増殖を制御することで、皮膚の再生が可能になると考えられる。今回新たにわかった皮膚再生の仕組みは、ヒトでも同じように働いていれば、将来的には、様々な皮膚疾患の原因解明、再生医療研究等で利用されることが期待される。

用語説明

[用語1] 瘢痕 : 創傷や壊死などによって生じた器官の組織欠損が、肉芽組織の形成を経てコラーゲン線維や結合組織に置き換わった不完全な修復状態。皮膚の瘢痕には、いわゆる傷跡から、赤く盛り上がる異常な瘢痕やケロイドなどがあり、正常な皮膚に比べ機能的に劣る。皮膚以外でも、心筋梗塞後の組織は瘢痕を形成し、収縮力は正常の心筋より劣る。

[用語2] 脱分化 : 細胞は、受精卵や胚性幹細胞(ES細胞)などのように、あらゆる細胞タイプになれる状態(全能性)から、発生とともに前駆細胞を経て、様々なタイプの組織特有の細胞に分化していく。完全に分化した細胞は多くの場合、細胞分裂をほとんど行わない。ところが、植物のカルス形成(培地上等で培養されている分化していない状態の植物細胞の塊)や組織培養の際、あるいは細胞を分離し培養した際に、細胞が分化状態を失い無分化や組織幹細胞の状態に戻ることがある。これまで組織の再生過程では、傷口の細胞の脱分化が起こる可能性が考えられてきた。

論文情報

掲載誌 :
Development
論文タイトル :
Heterogeneous fates and dynamic rearrangement of regenerative epidermis-derived cells during zebrafish fin regeneration
著者 :
Eri Shibata, Kazunori Ando, Emiko Murase, and Atsushi Kawakami
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 川上厚志

E-mail : atkawaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5717 / Fax : 045-924-5717

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

都市の活性度を道路網の構造によって評価

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社会的、経済的な指標による分析よりも簡便な手法を開発

要点

  • 道路網情報から、都市の社会的、経済的活性度を表す中心地理論を開発
  • 本理論を世界の92都市に適用し、その妥当性を検証
  • 従来手法と比較し準備が容易であり、今後都市計画などへの適用が期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院のペッター・ホルメ(Petter Holme)特任教授らは、都市と周辺の道路網の構造によって都市の活性度を評価する手法を開発した。幾何学的尺度Innessを定義し、出発点と目的地の最短と最速経路を評価・分析することで、都市とその周辺部の結合度を幾何学的分布で示した。さらに、この手法を世界の92の大都市とその周辺に適用し、都市の発展レベルを3種類に分類、社会経済的な相関を示すことに成功した。これにより、都市の活性度が道路網から容易に分かるようになった。都市とその周辺の活性度は普通、人口や物流、生産高などの社会的、経済的な指標に着目するのに対し、今回開発した手法はより簡便に把握することができる。

本研究成果は2017年12月20日、英国誌「Nature Communications」に掲載された。

研究の背景と経緯

今回の研究成果は中心地理論[用語1]に関するものである。これは、中心都市とその周辺地域の機能と規模を幾何学的な分布で示す地理学上の理論であり、1930年代にドイツの地理学者ヴァルター・クリスタラー(Walter Christaller)によって開発された。日本でも高度成長期には各地の都市計画などに利用された。これには、中心都市とその周辺地に関する多数の経済的、地理的データなどが必要だったが、これらの繁雑な準備が不要となる今回の研究成果は新しい中心地理論として注目される。

研究内容

幾何学的尺度 Inness の導入

都市中心地と周辺部の結合の強さを表現するため、幾何学的尺度Inness を定義した。図1-aで都市の中心地cから半径r(2、5、10、15、20、30 km)の距離にある円周に沿って36点を設け、この中から出発地Oと目的地Dを選ぶ。このODペアに対しインターネット上の地図情報(Open Source Map API[用語2])を参照し、生活道路などの最短経路(赤)と幹線道路などの最速経路(青)を選ぶ(図1-b)。ODペア(測地距離s)は都市中心から半径r、都市中心から見た出発地Oと目的地Dの間の角度をθとする。図1-cで示すように、(赤の内点と直線の測地線[用語3]で区切られたポリゴン[用語4])から(青の外点と測地線で区切られたポリゴン)の差を Inness と定義する。Innessが正の場合はODペアの測地線より経路が内側にあり、負の場合は外側にある。ODペアの経路と測地線の関係から、図1-dに示すようにポリゴンの形状は3つのケースがある。Innessが正であれば赤で塗られた領域が広く、負であれば青で塗られた領域が広くなる。

図1. Innessの定義

図1. Innessの定義

Innessの意味

図2は世界の92都市について、平均的なInnessを示したものである。最短/最速経路について都市中心から見込む角度θについて、Innessの平均値と標準偏差を示す。都市中心地付近(r=2 km)ではInnessはほぼ0であり、これは経路が市中の生活道路であるためと推定される。一方、郊外になると(r=10、30 km)、Innessの変動も大きくなる。これは、中心地に向かう幹線道路や環状道路、バイパス道路などの影響と思われる。

図2. 都市中心地からのr、θを関数とするInnessの平均値と標準偏差

図2. 都市中心地からのr、θを関数とするInnessの平均値と標準偏差

このようにして得られたInnessは靴紐のアルゴリズム[用語5]によって、地図上にポリゴンの集合として配置される。

世界の主要都市を分類

それではInnessを用いて、世界の92都市の分類してみよう。都市の面積は様々なため正規化[用語6]し、Innessの平均値と標準偏差値をプロットすると、3つのグループに分類できた(図3)。2つの値がともに低いLLグループにはベルリン、パリ、東京などの大都市が入る。道路の全長が長く、地理的制約が少なく、周辺との接続性もよく、インフラ整備も進んでいる。図3左中のベルリンでは、Innessが正の領域が偏りなく広がり、うすい赤で表示されている。これから分かるように都市機能は分散し、中心地と見なされる点は見当たらない。一方、平均値と標準偏差値がともに高いHHグループは、図3右のカルカッタを例にすると、中心部のInnessは正でしかも濃い赤の領域が広がっている。これは、道路のインフラ整備が不充分で、周辺部との接続性が限定され、主要な交通経路は都市の中心地を経由することになり、中心地の混雑が予想される。また、平均値が低く標準偏差の高いLHグループは、LLとHHグループの中間的性格も含むが、地理的制約による要因も無視できない。例えば、図3中のムンバイは大陸に隣接した島にあり、中心部はInnessが適度な正でうすい赤の領域が広がっているが、周辺部とは橋で接続されるため遠回りせねばならず、Innessは負で青い領域が広がっている。

図3. 世界の都市のInnessの統計と分布

図3. 世界の都市のInnessの統計と分布

Innessと社会経済的関連性

次に、各都市の最短経路と最速経路について分析した。前者は地理的制約によるが、後者は環状線や高速道路などの社会的発展指標と関連している。ある都市の正規化した最短経路のInnessと最速経路のInnessのピアソン相関係数ρ[用語7]を求めた。道路網が未整備だと、最短経路と最速経路は大差ない経路となり、両者は正の相関がありρは1に近づく。一方、自動車幹線道路が整備されると最短経路と最速経路は別ルートとなり、両者の相関関係は小さくなりρは0に近づく。その値を昇順に並べたものが図4のRank of citiesである。

これらのデータをk平均法[用語8]自然分類法[用語9]によりTYPE I、TYPE II、TYPE IIIに分類すると、TYPE IはグループLL、TYPE IIはグループLH、TYPE IIIはグループHHにほぼ対応している。そして図4右に、相関係数ρと1人当たりGDPの関係を示したように、これらの間には明確な相関があることが分かった。このことから、Innessは都市の地理的な評価のみならず、社会経済的な指標にもなり得ることが確かめられた。

図4. 都市の最短経路と最速経路による分析、及びGDPとの関係

図4. 都市の最短経路と最速経路による分析、及びGDPとの関係

今後の展望

本方式で中心地理論を展開するには、基本的にはインターネット上の最新の地図情報(Open Street Map database)があればよい。従来は地図情報に加えて、社会経済的指標を示すデータ(例えば、地域内の学校数、工場数、余裕電話台数など)が必要であり、これらは時代とともに変化するため、その設定は容易でなかった。本方式は、現状の都市周辺の活性度を評価するだけでなく、将来の道路網整備が地域全体に与える効果を予測する手段となる可能性がある。

本研究の一部は、東京工業大学が展開しているワールド・リサーチ・ハブ・イニシアティブ(WRHI)によって行われた。WRHIは「世界の研究ハブ」を目指す組織として、世界トップレベルの研究者を招へいし、国際共同研究の加速と分野を超えた交流を実施している。

用語説明

[用語1] 中心地理論

都市をある地域の中心地という観点から把握した、都市の分布、数、規模 (大きさ) などの規則性に関する理論。中心地には、都市の機能によって高次から低次への階層性があり、その機能の及ぶ範囲を都市圏と呼ぶ。また機能の大きさ、度合いを中心性と呼んでいる。

[用語2] Open Source Map API

道路地図等の地理情報データのフリーデータベースouter

[用語3] 測地線

曲面上で二点間を結ぶ曲線のうち最短距離のもの。球面上では大円の弧。

[用語4] ポリゴン(polygon)

多角形。三次元のコンピューターグラフィックスにおける立体形状を表現するために使われる多角形を指すことが多い。物体表面を小さい多角形(主に三角形)に分割し、その位置や角度、模様、質感などの見え方を個々に計算して三次元画像を描画する。

[用語5] 靴紐のアルゴリズム(shoelace formula for polygons)

ガウスの面積公式とも呼ばれる。平面において多角形の頂点座標によってその面積を求める数学的アルゴリズム。座標値を直接用いた四則演算のみで面積が求められるため、計算機上での求積に適しており、また余計な誤差が入り込む余地が少ない。

[用語6] 正規化

一定の規則に従い、データを変形し利用しやすくすること。リレーショナルデータベースの設計でよく用いられる。

[用語7] ピアソン相関係数ρ(Pearson's correlation coefficient ρ)

2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標。相関係数が正のとき確率変数には正の相関が、負のとき確率変数には負の相関があり、0の場合は相関はない。

[用語8] k平均法(k-means clustering)

非階層型クラスタリングのアルゴリズム。クラスタの平均を用い、与えられたクラスタ数k個に分類する。

[用語9] 自然分類法(Natural breaks)

データの変化量が比較的大きいところに閾値が設定される分類方法。

論文情報

掲載誌 :
NATURE COMMUNICATIONS | 8: 2229
論文タイトル :
Morphology of travel routes and the organization of cities
著者 :
Minjin Lee, Hugo Barbosa, Hyejin Youn, Petter Holme, Gourab Ghoshal
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

ホルメ ペッター特任教授

E-mail : holme.p.aa@m.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学教室「進化論と利他行動」ほか 2017年度開催報告

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生命理工学院 生命理工学系 基礎生物学教室では、東工大基金による支援事業の一つ「理科教育振興支援」の後援を受け、主に小・中・高校生を対象に、科学に触れ合ってもらう公開教室を不定期で開催しています。昨年度は、大岡山キャンパスにて科学教室を3回開催しました。

「なぜ植物には葉っぱがあるの?」

夏休み中の8月27日に、小学生を対象とした科学教室「なぜ植物には葉っぱがあるの?」を開催し、多くの親子が参加しました。

大岡山キャンパス内で葉を採集し、葉の主な構造である気孔や葉脈を顕微鏡で観察したり、葉脈を蛍光色素で染めたりしました。また、薬品処理をして葉肉を取り除いた葉脈の栞を作って、持ち帰りました。

植物の構造についての講義
植物の構造についての講義

蛍光色素を吸わせた苺の葉脈
蛍光色素を吸わせた苺の葉脈

葉肉を取り除く参加者
葉肉を取り除く参加者

薬剤処理した葉脈で作ったしおり
薬剤処理した葉脈で作ったしおり

「進化論と利他行動」

タカ・ハトゲームの結果例
タカ・ハトゲームの結果例

工大祭(本学の学園祭)開催中の10月7日には、高校生以上を対象とした科学教室「進化論と利他行動」を行いました。

昨年春に続き、コンピュータ・シミュレータをバージョンアップして行いました。目の前の川で溺れてしまった子供を助けるような、自分の命を賭けて他人を助けようとする「利他行動」は、ダーウィン流の古典的な進化論で理解することは困難です。このために考えだされた一つのモデルである「囚人のジレンマ」※1を紹介し、「タカ・ハトゲーム」※2の解説をしました。準備したコンピュータ・シミュレータを参加者に操作してもらい、「利他行動」を生物学的に説明できるかを考察しました。

※1
囚人のジレンマとは、個々にとっての最適戦略が全体にとっての最適戦略にはならない「ジレンマ」状態を表すモデルの一つです。自身の「利益」を最大化するために、あえて自己を犠牲にする利他行動を選択した方が良いケースがあることが示されます。
※2
タカ・ハトゲームとは、ゲーム理論における最も有名なゲームの1つです。このゲームでは、各プレイヤーはそれぞれ鷹戦略(利己行動)と鳩戦略(利他行動)を選択して対戦させます。その対戦結果を各プレイヤーの「利益」とみなし、そこからそれぞれの適応度を求めます。つまり各プレイヤーの適応度は、どのような戦略を取るか(利己行動か利他行動か)で決まってきます。

「海の生物の行動観察」

工大祭2日目の10月8日には小学生の親子を対象に「海の生物の行動観察」を実施しました。

アサリの海水ろ過作用、ムール貝のエラの機能、ヤドカリの引っ越し、ウミホタルの発光を親子で観察しました。直接観て、手で触れることによって、特徴的な海の生物の構造と行動から生息環境を理解することができます。海辺の生物がどのような行動をして、生活をしているのかを知り、様々な環境の中で生活している生き物のためにも自然環境を大事にすることを伝えました。

ムール貝からエラを取り出す
ムール貝からエラを取り出す

ヤドカリの引っ越し
ヤドカリの引っ越し

今年も基礎生物学教室では、小・中・高校生が科学にふれる教室の開催を予定しています。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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お問い合わせ先

生命理工学院 基礎生物学教室

Tel : 03-5734-2700

「サイレントボイスとの共感」

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東京工業大学「革新的イノベーション創出プログラム」COI拠点の新しい研究開発テーマ

東京工業大学では、2015年より文部科学省・国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「革新的イノベーション創出プログラム」COIの『以心電心』ハピネス共創社会構築拠点として研究開発を進めてきましたが、JSTの了承を経て研究テーマを見直し、4月1日より拠点名と組織名を下記のとおり変更しました。

新拠点名:『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点

新機構名:地球インクルーシブセンシング研究機構

新拠点では、「目指すべき将来の姿」として『サイレントボイスとの共感』を新たな目標とし、これまで取り組んできたセンシング技術を中心に、新規に組み込むデバイス技術等の研究開発と組み合わせ「地球インクルーシブセンシング」に対する研究開発を推進し、社会実装を目指す計画です。

「革新的イノベーション創出プログラム」では、ハイリスクではあるが実用化の期待が大きい異分野融合・連携型の基盤的テーマに対して集中的な支援を行い、産学が連携する研究開発チームを形成しています。

COIは、センター・オブ・イノベーション・プログラムの略。10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジング・ハイリスクな研究開発を最長で9年間支援するプログラムです。

拠点名
『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点
プロジェクトリーダー
廣井聡幸(ソニー株式会社)
研究リーダー
若林整(東京工業大学 工学院 電気電子系 教授)
参画機関
  • 東京工業大学(中核機関)
  • 北陸先端科学技術大学院大学
  • 信州大学
  • ソニー株式会社(中心企業)
  • ラピスセミコンダクタ株式会社
  • 株式会社電通国際情報サービス
  • 日産厚生会玉川病院
  • 関東中央病院
  • 大田区
  • 大田区産業振興協会
概要

地球を取り巻く限られた環境の中で経済発展によるQoL向上を目指す人類にとって、地球上における人間以外の生物との共存共栄は今後ますます必要となります。そこで、人と自然が共生していく社会/地球を、人々が明るく助け合い、個々が常に誰かに必要とされる社会の仕組みによって実現します。

そのためには、地球上における人類の枠を超えた様々なサイレントボイスに耳を傾け共感することにより、人・社会・環境の問題に対して、人を通じて低環境負荷/地球に優しい方法で解決していくサイクルを実現します。

「サイレントボイスとの共感」コンセプト

「サイレントボイスとの共感」コンセプト

お問い合わせ先

地球インクルーシブセンシング研究機構

E-mail : coi.info@coi.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3562


平成30年度学士課程一般入試 後期日程における入試ミスについて

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3月13日に実施した平成30年度学士課程一般入試 後期日程(第7類)において、総合問題の問題文中に誤記があったことが判明いたしました。

このことを受け、該当する設問及び関連する設問については満点を与える取扱いとし、その上で、合格者判定を改めて行った結果、新たに4名を合格者といたしました。そのうち、本学入学を希望する合格者については本年度の第7類への入学を認め、すでに開始している授業等に対応できるよう修学上の配慮を行ってまいります。

なお、新たな4名の合格者に対しましては既に連絡を行い、今後のご意向を確認させていただいているところでございます。

学長コメント

入試ミスの防止については、本学においても体制の強化などに努めておりましたが、今回、このようなことが起こったことに対して深く反省するとともに、本学の受験に際して入念なご準備のもと臨まれた受験生及び保護者、関係の皆様に多大なご迷惑をおかけしましたことを心からお詫び申し上げます。

この事実を厳粛に受け止め、影響を受けた受験者への対応と再発防止に全力で取り組んでまいります。

国立大学法人 東京工業大学
学長 益 一哉

総合問題とは、後期日程(第7類)の第2段階選抜において本学が実施する個別学力検査のことであり、高等学校までに学ぶ理系科目(化学基礎及び化学)を中心とした設問により、基礎学力及び論理的な思考力を評価するものです。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「より優れた教育の推進に」平成28年度東工大教育賞授与式を実施

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3月6日に、大岡山キャンパス本館理学院第2会議室において、平成28年度東工大教育賞の授与式が行われました。

この賞は、教員の教育方法及び教育技術の向上を図り、より優れた教育を推進することを目的として制定されたもので、今回で15回目となります。

授与式では、最優秀賞に選ばれたリベラルアーツ研究教育院の三ツ堀広一郎准教授、谷岡健彦教授、弓山達也教授、中野民夫教授のほか受賞者に対して、三島良直学長(当時)から賞状及び報奨金(目録)が授与されました。

三島学長(当時) 挨拶
三島学長(当時) 挨拶

三ツ堀准教授 挨拶
三ツ堀准教授 挨拶

平成28年度東工大教育賞受賞者一覧

教育に関して優れた業績を挙げたとして、次の79名(11件)が選ばれました。

(所属は受賞当時、所属順・敬称略)

最優秀賞

受賞者(所属)
対象業績

三ツ堀広一郎准教授(代表者)

谷岡健彦教授、弓山達也教授、中野民夫教授(リベラルアーツ研究教育院)

「東工大立志プロジェクトの設計と運営」

優秀賞

受賞者(所属)
対象業績
志賀啓成教授(理学院)
「自主性を伸ばす博士課程教育の長期間にわたる実践」
飯島淳一教授(代表者、工学院)、因幡和晃准教授(環境・社会理工学院)
「CBEC : チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム」
波多野睦子教授(代表者、工学院)、岸本喜久雄学院長(環境・社会理工学院)、竹山雅夫教授(物質理工学院)、店橋護教授(工学院)、山田明教授(工学院)、安田幸一教授(環境・社会理工学院)、平井秀一郎教授(工学院)、奥野喜裕教授(工学院)、進士忠彦教授(工学院)、菅野了次教授(物質理工学院)、大和毅彦教授(工学院)、屋井鉄雄教授(環境・社会理工学院)、西方篤教授(物質理工学院)、山中一郎教授(物質理工学院)、吉田尚弘教授(物質理工学院)、神田学教授(環境・社会理工学院)、吉村千洋准教授(環境・社会理工学院)、中川茂樹教授(工学院)、クロス・ジェフリー・スコット教授(環境・社会理工学院)、史蹟教授(物質理工学院)、花村克悟教授(工学院)、小原徹教授(環境・社会理工学院)、伊原学教授(物質理工学院)、木村好里准教授(物質理工学院)、森伸介准教授(物質理工学院)、西條美紀教授(環境・社会理工学院)、斎藤礼子准教授(物質理工学院)、飯島淳一教授(工学院)、後藤美香教授(環境・社会理工学院)、中島秀人教授(環境・社会理工学院)、浅輪貴史准教授(環境・社会理工学院)、山口猛央教授(物質理工学院)、野原佳代子教授(環境・社会理工学院)
「環境エネルギー協創教育院による博士グローバルリーダーの養成」
小寺哲夫准教授(代表者、工学院)、上田光敏准教授(物質理工学院)、斎藤礼子准教授(物質理工学院)、志村祐康准教授(工学院)、秋田大輔准教授(環境・社会理工学院)、前田和彦准教授(理学院)
「学院・系横断型エネルギー協創プロジェクトの企画と実施」
原正彦教授(物質理工学院)
「世界展開力強化事業キャンパス・アジア等による国際教育の高度化」
森川淳子教授(物質理工学院)

「物質理工学院と工系3学院における国際教育活動推進に対する貢献」

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院
田中圭介教授(代表者、情報理工学院)、伊東利哉教授(情報理工学院)、小池英樹教授(情報理工学院)、島川昌也助教(情報理工学院)、首藤一幸准教授(情報理工学院)、デファゴ・クサヴィエ教授(情報理工学院)、増原英彦教授(情報理工学院)、南出靖彦教授(情報理工学院)、横田治夫教授(情報理工学院)、脇田建准教授(情報理工学院)、渡辺治教授(情報理工学院)、渡部卓雄教授(情報理工学院)、尾形わかは教授(工学院)、山岡克式准教授(工学院)、一色剛教授(学術国際情報センター)、友石正彦教授(学術国際情報センター)、西崎真也教授(学術国際情報センター)、松浦知史准教授(学術国際情報センター)
「サイバーセキュリティ特別専門学修プログラムの設計および実施」
クロス・ジェフリー・スコット教授(代表者、環境・社会理工学院)、森秀樹准教授(教育革新センター)
「MOOC(大規模公開オンライン講座)による新しいオンライン教育の展開」
高田潤一教授(環境・社会理工学院)
「国際教育プログラムへの貢献」
小原徹教授(代表者、環境・社会理工学院)、矢野豊彦教授(物質理工学院)、竹下健二教授(環境・社会理工学院)、加藤之貴教授(物質理工学院)、吉田克己准教授(物質理工学院)、塚原剛彦准教授(物質理工学院)、鷹尾康一朗准教授(物質理工学院)、木倉宏成准教授(工学院)、遠藤玄准教授(工学院)、赤塚洋准教授(工学院)
「廃止措置工学高度人材育成教育カリキュラム」

集合写真

集合写真

アパタイト型酸化物イオン伝導体における高イオン伝導度の要因を解明

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定説くつがえす格子間酸素の不在

要点

  • アパタイト型酸化物イオン伝導体[用語1]には格子間酸素が存在せず、Si空孔が存在
  • 高いイオン伝導度の要因は結晶構造中に存在する酸化物イオンの不安定化だった
  • 高性能な燃料電池やセンサー、酸素分離膜などの開発につながると期待

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井孝太郎助教、八島正知教授らの研究グループは、名古屋工業大学 大学院 生命・応用化学専攻の福田功一郎教授、新居浜工業高等専門学校 生物応用化学科の中山享教授、名古屋工業大学の石澤伸夫名誉教授、総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターの花島隆泰研究員、日本原子力研究開発機構 J-PARCセンターの大原高志研究主幹と共同で、アパタイト型酸化物イオン伝導体が示す高いイオン伝導度の要因を原子レベルで初めて明らかにした。この材料は、近年注目されている固体酸化物形燃料電池(SOFCまたはSOFCs)やセンサー、酸素分離膜[用語2]などへの応用が可能で、今後エネルギー・環境問題を解決する糸口になる可能性がある。

従来、アパタイト型酸化物イオン伝導体の高いイオン伝導度は、結晶構造中の格子間酸素[用語3]の存在が要因であると言われてきたが、今回の実験では格子間酸素の存在は確認されず、その代わりにシリコン(Si)空孔があり、結晶構造中に存在する酸化物イオンが特定の方向に広く分布することが高イオン伝導度の構造的要因であることを明らかにした。本成果は、英国王立化学会が発行する材料化学の国際誌Journal of Materials Chemistry. Aに2018年4月16日に先行公開され、電子版と冊子版が刊行予定である。

研究の背景

エネルギー・環境問題を解決するためには、高効率、低予算で安全性の高い次世代のエネルギー源を開発する必要がある。特に固体酸化物形燃料電池は、その中核を担うと期待されている。固体酸化物形燃料電池は高温領域でしか機能しないため、より低温で高効率に動作可能になることが望まれている。そのためには600℃以下の中低温でより高い酸化物イオン伝導度をもつ酸化物イオン伝導体を開発する必要がある。

1995年に中山享教授らは、アパタイト型酸化物イオン伝導体La9.333+xSi6O26+2x/3(La:ランタン、Si:シリコン、O:酸素、xは過剰La量)を発見した[文献1]。このLa9.333+xSi6O26+2x/3は、中低温で非常に高い酸化物イオン伝導度を示すことから固体酸化物形燃料電池の固体電解質やセンサー、酸素分離膜等への応用が期待されている材料だ。特にLaを過剰にした組成(以下La過剰組成)La9.333+xSi6O26+2x/3は、基本組成La9.333Si6O26に比べてより高い酸化物イオン伝導度を示すが、その要因は格子間酸素O2x/3の存在によるとされてきた。しかしながら、実験的な証拠は確かでなく、そのイオン伝導メカニズムはよくわかっていなかった。その後、2008年に八島正知教授らは高温でMgを添加したLa9.333Si6O26の結晶構造と酸化物イオン拡散経路を調べた[文献2]。また、2013年に福田功一郎教授らは、単結晶X線回折実験で、格子間酸素でなくSi空孔があることを見出した[文献3]。しかし、X線回折で格子間酸素を検出するのは困難だった。そのため、結晶構造の格子間酸素モデルLa9.333+xSi6O26+2x/3とSi空孔モデルLa9.333+x (Si6-3x/43x/4)O26(□:Si空孔)のどちらが正しいのかは議論になっており、イオン伝導メカニズムは未解明のままだった。

研究内容と成果

研究グループは、基本組成であるLa9.333Si6O26およびLaを過剰にした組成La9.565(Si5.8260.174)O26単結晶を合成した。単結晶中性子回折と単結晶X線回折[用語4]によりLa9.333Si6O26とLa9.565(Si5.8260.174)O26の結晶構造を解析した。単結晶中性子回折実験には大強度陽子加速器施設J-PARC(ジェイパーク、Japan Proton Accelerator Research Complex)[用語5]の物質・生命科学実験施設にある特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置(SENJU)(図1)を利用した。その結果、過去の多くの文献でその存在が示唆されていた格子間酸素の存在は確認されず、代わりにSi空孔(La9.565(Si5.8260.174)O26の□で表現)が存在していることを示すことができた。さらに研究グループは、量子化学計算により一般的に不安定であると考えられていたSi空孔が安定に存在しうることも示した。

大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設に設置されている特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置(SENJU)の(a)外観図、(b)実際の装置、(c)測定した回折写真
図1.
大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設に設置されている特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置(SENJU)の(a)外観図、(b)実際の装置、(c)測定した回折写真

イオン伝導度を測定した結果、La過剰組成La9.565(Si5.8260.174)O26におけるc軸方向(図2)に沿ったイオン伝導度は基本組成La9.333Si6O26よりも400℃で26倍高かった。このイオン伝導度向上の理由は、活性化エネルギーの低下に起因することが、イオン伝導度の測定によりわかった。活性化エネルギーの低下は結晶構造内でc軸に沿って直線的に並んだ酸化物イオン(図2中でO4とラベルしている酸化物イオン。3個のLaから成る三角形によってO4は囲まれている。)のc軸方向への空間分布が広がっていることと相関があった。La過剰組成では基本組成に比べて、La三角形の中心に存在する酸化物イオンO4とLaとの距離が短くなってO4が不安定化し、c軸方向にO4の空間分布が広がることで、酸化物イオン伝導の活性化エネルギーが低くなり、高いイオン伝導度を引き起こすことを見出した。

これまで、アパタイト型酸化物イオン伝導体の高いイオン伝導度の要因は格子間酸素であると長い間信じられてきた。今回、様々な文献のデータを整理したところ、本研究はこの定説をくつがえし、「結晶構造中にある酸化物イオンの不安定化によるイオン伝導度向上」という新しい概念が成立することがわかった。この新概念は、酸素(酸化物イオン)の高精度の構造情報を正確に引き出すことができる単結晶中性子回折法によって、初めて明らかにすることができた。

単結晶中性子回折法で明らかにしたアパタイト型酸化物イオン伝導体La9.333Si6O26およびLa9.565(Si5.826□0.174)O26の結晶構造と高いイオン伝導度発現の要因
図2.
単結晶中性子回折法で明らかにしたアパタイト型酸化物イオン伝導体La9.333Si6O26およびLa9.565(Si5.8260.174)O26の結晶構造と高いイオン伝導度発現の要因

今後の展望

アパタイト型酸化物イオン伝導体が示す高いイオン伝導度の要因が明らかになったことで、今後のアパタイト型酸化物イオン伝導体の開発が促進され、革新的な燃料電池やセンサー、酸素分離膜などの開発につながると期待される。また、今回判明したイオン伝導に関与する酸化物イオンの不安定化によってイオン伝導の活性化エネルギーが低下するという新しいコンセプトは、今後のイオン伝導体全般の開発に大きく寄与する概念だ。

用語説明

[用語1] アパタイト型酸化物イオン伝導体 : アパタイト型化合物はA10-x(XO4)6Yy(=A10-xX6O24Yy)の化学式を持ち、図2に示すようにXO4X=Si, Mg, Ge, Pなど)四面体と陽イオンAA=La, Caなど)とイオンYY=O, OH, F, Clなど)から成り、六方晶系の基本構造をとる。ここで下付添え字のxyは各々陽イオンAと陰イオンYの空孔量あるいは過剰量を示す。固体または液体中を酸化物イオン(O)が移動可能な物質を酸化物イオン伝導体と呼ぶ。アパタイト型希土類(R)シリケート(A=R, X=Si, Y=O; R10-x(SiO4)6Oy(=R10-xSi6O26±y))が高い酸化物イオン伝導度を示す酸化物イオン伝導体であることが、1990年代に新居浜高専の中山享教授らによって発見された。アパタイト型希土類シリケートは600℃以下の中低温で比較的高いイオン伝導度を有する有望なイオン伝導体である。

[用語2] 固体酸化物形燃料電池(SOFCまたはSOFCs)、センサー、酸素分離膜 : 燃料電池は水素などの燃料から電気化学反応により発電する電池のこと。酸化物イオン伝導体は固体酸化物形燃料電池の固体電解質あるいは電極材料になりうる。センサーは特定の環境変化を認識する装置のことで、酸素量を計測できる酸素センサーは自動車の排気ガス中の酸素量を測定することなどができる。酸素分離膜は酸素のみを透過する膜で、高純度の酸素を生成する材料として利用できる。

[用語3] 格子間酸素 : 結晶構造は周期的に原子が並ぶ構造をしており、その原子配列のすき間(格子間)に存在する酸化物イオンのことを格子間酸素と呼ぶ。

[用語4] 単結晶、単結晶中性子回折と単結晶X線回折 : 数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、X線や中性子によって回折現象を起こす。得られる回折データは、結晶構造の情報を含んでおり、解析することで結晶内の原子配列などを明らかにすることできる。X線回折データは実験室系X線回折装置でも測定できる一方、中性子は原子炉や加速器などで発生させる必要があるため大型の施設を利用する必要がある。本成果では、加速器により発生した中性子を利用できる大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設にて実験を実施した。中性子回折では原子番号の小さい元素(本成果における酸化物イオン伝導体の場合は酸化物イオン)の情報を引き出しやすい。試料のどの部分においても結晶軸の向きが同じ結晶質固体を単結晶という。非常に小さい単結晶の集合体である粉末または多結晶体を使い測定する粉末法に対し、比較的大きな1つの単結晶を使い測定する単結晶法は、より詳細な構造情報を得ることができる。本成果では大きな単結晶をつくることで単結晶中性子回折測定を可能にした。

[用語5] 大強度陽子加速器施設J-PARC(ジェイパーク、Japan Proton Accelerator Research Complex) : 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している先端大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度のミュオンおよび中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

参考文献

[1] S. Nakayama, T. Kageyama, H. Aono and Y. Sadaoka, J. Mater. Chem., 1995, 5, 1801-1805.

[2] R. Ali, M. Yashima, Y. Matsushita, H. Yoshioka, K. Ohoyama and F. Izumi, Chem. Mater., 2008, 20, 5203-5208.

[3] K. Fukuda, T. Asaka, S. Hara, M. Oyabu, A. Berghout, E. BÉchade, O. Masson, I. Julien and P. Thomas, Chem. Mater., 2013, 25, 2154–2162.

論文情報

掲載誌 :
Journal of Materials Chemistry A
論文タイトル :
High oxide-ion conductivity by the overbonded channel oxygens in Si-deficient La9.565(Si5.8260.174)O26 apatite without interstitial oxygens
著者 :
Kotaro Fujii, Masatomo Yashima,* Keisuke Hibino, Masahiro Shiraiwa, Koichiro Fukuda, Susumu Nakayama, Nobuo Ishizawa, Takayasu Hanashima and Takashi Ohhara(* 問い合わせ先著者)
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

教授 八島正知

E-mail : yashima@cms.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2225 / Fax : 03-5734-2225

名古屋工業大学 大学院 生命・応用化学専攻

教授 福田功一郎

E-mail : fukuda.koichiro@nitech.ac.jp
Tel : 052-735-5289

新居浜工業高等専門学校 生物応用化学科

教授 中山享

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名誉教授 石澤伸夫

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研究員 花島隆泰

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日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター

研究主幹 大原高志

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Tel : 029-284-4578 / Fax : 029-284-4854

電力ネットワークの同期は対称性がカギ

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再エネ普及時の安定供給につながる、世界初の理論解明

要点

  • 電力の安定供給に欠かせない、電力ネットワークの発電機群の同期現象を世界で初めて理論解明
  • ネットワークの対称性が発電機群を同期させることを証明し、電力ネットワークの集約モデルを構築。発電機群の振る舞いの効率的解析、制御系の最適設計が可能に
  • 再生可能エネルギーの大量導入にも耐えうる電力網設計への発展に期待

概要

東京工業大学 工学院 システム制御系の石崎孝幸助教と井村順一教授は、ノースカロライナ州立大学のNSF ERC FREEDMシステムセンター[用語1]のアラーニャ・チャクラボッティ准教授との共同研究で、電力ネットワークのモデリング・解析・制御に関する一連の研究成果をグラフ理論[用語2]で検討し、ネットワーク結合された発電機群の同期[用語3]を実現するための基本原理を明らかにしました。この原理に基づき、送電網で複雑に結合された発電機群の振る舞い(回転子の位相角や連結点の電圧値など)を効率的に解析・制御できる、電力ネットワークの集約モデル[用語4]を構築する手法を世界に先駆けて開発しました。

日本では太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電の大量導入が見込まれています。これに伴う課題として、再生可能エネルギーは、天候や気候といった気象条件の変化で発電量が不規則に変動するため、電力系統に組み込まれた際に、電力供給の安定性を損なうと考えられてきました。

発電機群の回転子の位相角が揃う「同期現象」の解析は、電力の安定供給を実現するために不可欠です。再生可能エネルギーの普及が進むと、火力発電など従来型発電機群の同期現象を詳細に解析する必要性はますます高まると予想されます。しかし、これまでの発電機群の同期現象の解析は、数値シミュレーションによるものが主流でした。理想的な送電ネットワークと発電機群の正確な同期について、その原理を理論的に明らかにした研究は、今回が世界初といえます。

本研究では、グラフ理論におけるネットワークの対称性(グラフの自己同型性)[用語5]が発電機群の同期を特徴づけることを理論的に証明しました。さらに、この送電網の解析に基づき、オームの法則やキルヒホッフの法則[用語6]などの物理法則に従う電力ネットワークの集約モデルの構築手法を開発しました。

本成果は、再生可能エネルギーの送電網への大量導入によりさらなる複雑化が予想される将来の電力システムに対応し、電力を安定供給するための解析・制御手法を開発する基盤として、その発展が期待されます。

本研究成果は、2018年4月26日(日本時間)に米国電気電子学会誌「Proceedings of the IEEE」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:

「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」

(研究総括:東京工業大学 工学院 教授 藤田 政之)

研究課題名:
太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築
代表研究者:
東京工業大学 工学院 教授 井村 順一
研究実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
2015年4月~2020年3月

研究の背景

火力発電所など複数の発電機群の回転子の位相角が揃う「同期現象」は、電力の安定供給に深く関係することが知られています。具体的には、ある発電機が同期しなくなると、その発電機や周辺の発電機は安定に運転することができなくなり、最悪の場合、停電などの重大な事象が引き起こされます。このような観点から、電力システムにおける発電機群の同期現象の解析は非常に重要でした。

特に今後、太陽光発電など再生可能エネルギーの大量導入を見据える日本においては、効率的な発電・送電に関わる同期現象の解析の必要性はこれまで以上に高まることが予想されます。再生可能エネルギーは、天候や気候といった気象条件の変化によって発電量が不規則に変動してしまい、発電機群の同期を維持することがより難しくなると予想されるためです。

発電機群の同期現象の解析は従来、数値シミュレーションに基づくアプローチが主流でした。どのような送電ネットワークを構築すれば発電機群が適切に同期するか、その原理を理論的に明らかにした研究はこれまでにありませんでした。

研究成果

本研究では、電力ネットワークのモデリングや安定性解析、安定化制御などに関する一連の研究成果を、グラフ理論という数学理論の観点から検討しました。グラフとは、頂点と辺で構成されるネットワーク構造の概念です。これを電力ネットワークに当てはめると、連結点はグラフの頂点として、連結点の間を結ぶ送電線はグラフの辺として表現できます。解析の結果、グラフ理論におけるネットワークの対称性が、送電網と一体となった(ネットワーク結合した)火力発電所の発電機群の同期を実現する基本原理であることを明らかにしました。

さらに、この基本原理に基づき、複雑にネットワーク結合された発電機群の振る舞い(回転子の位相角や連結点の電圧値など)を効率的に解析・制御するための新たな電力ネットワークの集約モデルの構築手法を世界に先駆けて開発しました。

送電網でネットワーク結合された発電機の振る舞いは、微分方程式と代数方程式をまとめた複雑な方程式(微分代数方程式)により表現されます。このうち、微分方程式はニュートンの運動の第二法則から導かれる“発電機の時間変化”を表現し、代数方程式はオームの法則やキルヒホッフの法則から導かれる“送電網の連結点における電力バランス”を表現します。

この微分代数方程式の解析は、Kron縮約(Kron Reduction)と呼ばれる簡略化手法によって、数学的に等価な微分方程式モデル(Kron縮約モデル)に変形して行われることが一般的でした。しかし、このような既存のアプローチでは、連結点の電圧を表す変数を削除することにより、送電網を表す代数方程式を消去してしまいます。すなわち、Kron縮約モデルは、オームの法則やキルヒホッフの法則などの物理法則を反映した送電網のネットワーク構造が直接的には見えない形式で表現されてしまいます。このため、既存のアプローチは、送電網のネットワーク構造と発電機群の同期現象の関係を解析するのに不向きでした。

これに対して、本研究ではグラフ理論に基づき、代数方程式に含まれる送電網のネットワーク構造を対称性の観点から解析しました。代数方程式を消去しないで、送電網の連結点の電圧の同期にも着目して発電機の振る舞いを解析した結果、送電網の対称性(図1)が発電機群の同期を実現する基本原理であることを明らかにしました。

さらに、同期している発電機群とそれらを結合する送電網を同時に集約するという新たな着想を加え、数学的にも物理的にも妥当な集約モデルを構築できました(図2)。従来の集約モデルは連結点の電圧変数が消去されたKron縮約モデルから構築されていたため、現実の電力ネットワークにおいて成り立つ物理法則が反映されていませんでした。本成果は、これまで数学寄りの観点から研究されてきた集約という概念を、電力ネットワークという物理システムにいかに適用すべきかを真に考えることよって実現されたといえます。

図1. バス(連結点)に関して対称な電力ネットワーク例。4つの発電機と6つのバス(連結点)で構成される電力ネットワーク。発電機1と2およびそれらが連結するバス1と2はバス5に関して対称なネットワークとなっている。同様に、発電機3と4およびバス3と4はバス6に関して対称となっている。2組の対称な発電機群とバス群がクラスタ1と2として示されている。

図1.バス(連結点)に関して対称な電力ネットワーク例

4つの発電機と6つのバス(連結点)で構成される電力ネットワーク。発電機1と2およびそれらが連結するバス1と2はバス5に関して対称なネットワークとなっている。同様に、発電機3と4およびバス3と4はバス6に関して対称となっている。2組の対称な発電機群とバス群がクラスタ1と2として示されている。

図2. 集約された電力ネットワーク。図1における2組の対称な発電機群とバス(連結点)群をクラスタとして同時に集約することによって得られる集約モデル。オームの法則やキルヒホッフの法則に従い、数学的にも物理的にも妥当な集約モデルとなっている。なお、従来の集約モデルは連結点の電圧変数を消去したKron縮約モデルから構築されており、現実の電力ネットワークにおいて成り立っている物理法則が反映されていなかった。

図2.集約された電力ネットワーク

図1における2組の対称な発電機群とバス(連結点)群をクラスタとして同時に集約することによって得られる集約モデル。オームの法則やキルヒホッフの法則に従い、数学的にも物理的にも妥当な集約モデルとなっている。なお、従来の集約モデルは連結点の電圧変数を消去したKron縮約モデルから構築されており、現実の電力ネットワークにおいて成り立っている物理法則が反映されていなかった。

今後の展望

本成果は、大規模で複雑な電力システムに対応し、電力の安定供給を実現するための解析・制御手法を開発する基盤として、その発展が期待されます。

今後は、コンバータなどを含めたより複雑な電力システムへの展開や、発電機群の同期現象を近似的に解析する理論の構築を目指します。

用語説明

[用語1] NSF ERC FREEDMシステムセンター : ノースカロライナ州立大学に本部を置く、全米エネルギー技術開発リサーチセンター。米国国立科学財団(NSF)が実施する工学研究センター(ERC)の1つ。再生可能電気エネルギーの未来の供給・管理システム(Future Renewable Electric Energy Delivery and Management Systems)に関する研究を行っている。

[用語2] グラフ理論 : 頂点(ノード)の集合と辺(エッジ)の集合で構成されるグラフ(ネットワーク構造)に関する数学の理論。送電網のネットワークは、連結点が頂点であり、連結点の間を結ぶ送電線が辺であるようなグラフとして解釈される。

[用語3] 発電機群の同期 : 複数の発電機のタービンなどの回転子の位相角が同じ、もしくは十分に近いこと。各回転子は特定の周波数(日本では50ヘルツまたは60ヘルツ)を基準として、その周波数を維持するように回転している。各発電機の周波数の差が位相角の差を生む。

[用語4] 電力ネットワークの集約モデル : 冗長な変数を集約する(1つにまとめて表現する)ことにより得られる、電力ネットワークの縮約された微分代数方程式モデル。ネットワーク結合された発電機の振る舞いは、微分方程式と代数方程式をまとめた複雑な微分代数方程式により表現される。それらの方程式の変数は各発電機の回転子の位相角や連結点の電圧値を表しており、大規模な電力ネットワークの振る舞いを記述するためには一般に多くの変数を必要とする。従って、効率的な解析のために、電力ネットワークの振る舞いへの影響が小さい冗長な変数の削減がしばしば行われる。

[用語5] ネットワークの対称性(グラフの自己同型性) : グラフの頂点の配置位置の入れ換えに関してグラフ構造が不変であることにより定義されたグラフの対称性の概念。

[用語6] オームの法則、キルヒホッフの法則 : 電気回路における電圧や電流などの物理量の関係を表す物理法則。オームの法則は、回路内のある2点間の電圧差がその間を流れる電流に比例することを表す。キルヒホッフの法則は、回路内の分岐点において、その点に流入する電流の和がその点から流出する電流の和に等しいことを表す。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the IEEE
論文タイトル :
Graph-Theoretic Analysis of Power Systems
著者 :
Takayuki Ishizaki, Aranya Chakrabortty, Jun-ichi Imura
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 システム制御系

井村順一 教授

E-mail : imura@sc.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3635

JST事業に関する問い合わせ

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

松尾浩司

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3526 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

超スマート社会推進コンソーシアムを設立

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超スマート社会次世代人材育成への新しい社会貢献を共創

東京工業大学は、指定国立大学法人としての使命を実現するため、超スマート社会(Society 5.0)の実現を推進する「超スマート社会推進コンソーシアム」を設立し、参加機関と連携して人材育成から研究開発までを統合した、新たな次世代型社会連携教育研究プラットフォームを構築します。

従来の共同研究や社会実装を目的としたコンソーシアムとは異なり、オープンエデュケーションとオープンイノベーションの融合を目指しています。今後参加機関を募集し、2018年10月にコンソーシアムを発足する予定です。

本コンソーシアムの趣旨・目的

超スマート社会推進コンソーシアムは、来たる超スマート社会を支えるリーダーを養成するために、人材育成から研究開発までを統合した次世代型社会連携教育研究プラットフォームを、産官学が連携して共創することを目的として設立するものです。具体的には、以下の6項目を本コンソーシアムの目的に掲げています。

(1)
民間企業、政府系団体、アカデミアなど多様な職種・業種間の議論の場を提供し、超スマート社会の実現を産官学が連携して推進すること
(2)
超スマート社会を担う人材を育成するため、産官学が協同で次世代の体系的な教育カリキュラム・教育連携体制を創出すること
(3)
超スマート社会の実現に必要なサイバー空間とフィジカル空間を架橋・融合する教育プログラムを設計し、参加機関の担当者が直接人材育成に携われる機会を提供すること
(4)
超スマート社会時代の企業の人材戦略と学生の学修内容が整合する新たな就業体験(インターンシップ)および就職支援のあり方を提案・実現すること
(5)
企業の人材育成方針を踏まえ、次世代を担うエリート社員や新人社員教育のために多様なリカレント教育プログラムを設計し提供すること
(6)
超スマート社会の構築に必要となる多様な知識・技術・分野に精通した大学教員がコーディネートすることで、教員と複数の参加機関を含めた異分野融合型共同研究を促進すること

本コンソーシアムの組織構成と参加機関との関係

超スマート社会推進コンソーシアムは、コンソーシアム全体の運営を担う全体運営会議に加え、目的(1)を実施する超スマート社会推進委員会、目的(2)から(5)を実施する社会連携教育運営委員会、目的(6)を実施する異分野融合研究推進委員会から構成されています。

超スマート社会推進コンソーシアムの組織構成と参加機関との関係

超スマート社会推進コンソーシアムの組織構成と参加機関との関係

本コンソーシアムに参加する東工大の主な教員

本コンソーシアムには、東工大の4つの学院(理学院、工学院、情報理工学院、環境・社会理工学院)、および科学技術創成研究院から多数の教員が参加します。教員の研究分野は、超スマート社会の実現に必要となる量子科学、サイバー空間、フィジカル空間の全ての分野を網羅しており、民間企業等は本コンソーシアムに参加することで超スマート社会の実現に必要となる技術を先取りできます。また参加機関のニーズに応じて、異分野を融合させた研究チームを構成することで、参加機関と東工大が連携して社会貢献を推し進めます。

超スマート社会推進コンソーシアムに参加する東工大の主な教員

超スマート社会推進コンソーシアムに参加する東工大の主な教員

超スマート社会(Society 5.0):サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が通信ネットワークを介して高度に融合されたシステムに、量子コンピュータと人工知能(AI)から成る頭脳を投入することで実現される、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を指します。

お問い合わせ先

超スマート社会推進コンソーシアム事務局

東京工業大学 工学院 URA 山田良一、情報理工学院 URA 原田隆、科学技術創成研究院 URA 小林義和

Email : application@sss.e.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

声に出してシェイクスピア vol.2『ヘンリー五世』開催報告

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「皆さんの『ヘンリー五世指数』はどのくらいでしょう」。コーディネーターであるリベラルアーツ研究教育院の谷岡健彦教授の問いかけで、ワークショップ参加メンバーの自己紹介がスタートしました。

2018年2月8日~3月8日に大岡山キャンパス西9号館で開催された全5回のワークショップは、昨年の『マクベス』に続く「声に出してシェイクスピア」シリーズの第2弾、史劇編としては第1作にあたります。このシリーズは、レクチャーで学び、自ら声に出して読み、さらに演じるという一連の流れで作品の魅力に迫っていくものです。

今回は、東工大生、教職員、近隣住民を含め39名の参加者が、演劇経験の有無、年齢、性別を問わず、歴史劇『ヘンリー五世』を存分に楽しみました。第1回から第4回にかけては、リベラルアーツ研究教育院の小泉勇人准教授によるシェイクスピアの映画化をめぐってのレクチャーと、俳優の下総源太朗氏のナビゲートによるワークショップの2部編成で行われ、最終回となる第5回は本ワークショップの集大成として発表会を開催しました。

各回のレクチャーでは、『ヘンリー五世』の位置づけ、映画化「オリヴィエ版」と「ブラナー版」の二つの比較などについて考察しました。また、声の強弱やリズム感の指導を受けながら英語での朗読も行われ、参加者から喜ばれました。

テキストの「ヘンリー五世」(小田島雄志訳)を手にする小泉勇人准教授
テキストの「ヘンリー五世」(小田島雄志訳)を手にする小泉勇人准教授

グループで作成した台本の読み合わせをする参加メンバー
グループで作成した台本の読み合わせをする参加メンバー

また、4チームに分かれてのワークショップでは、原作から抜粋されたテキストを、映画の予告編のようなインパクトのある作品を目指し、10分ほどに再構成していきました。主軸としたのは、ヘンリー五世が仲間を鼓舞するシーンで有名な「クリスピアン・スピーチ」です。下総氏のアドバイスによって平板だった芝居が活き活きとしたものに変化し、参加者は芝居の演出の面白さを実感したようです。

そして、最終回の、聴衆を招いての発表会では、チームごとのユニークな演出による作品が上演されました。いずれも、わずか4回のワークショップで作られたものとは思えない完成度で、講師からも聴衆からも高い評価を得ました。

発表会が終わった後には、参加者から「あまり馴染みのない作品でしたが、想像以上に個性的な登場人物が多数登場し、参加メンバーのキャラクターをうまく活かせました」「やはり、声に出して演ずるための作品ですね」「開催時間以外にも連絡を取り、脚本に手を入れるのは大変でしたが、楽しかったです」といった感想を聞くことができました。

下総氏は2018年5月17日(木)からの新国立劇場での『ヘンリー五世』の出演が決定しています。また、5月28日(月)には東工大でこの上演作品をめぐるシンポジウムを開催する予定です。

「声に出してシェイクスピア」シリーズは、第3弾の検討が始まりました。リベラルアーツ研究教育院が提供する、東工大の伝統あるシェイクスピア学が新たな展開を迎えます。今後のワークショップにも、ぜひご期待下さい。

演技指導をする下総源太朗氏
演技指導をする下総源太朗氏

衣装、小道具、音響も用意しての発表会
衣装、小道具、音響も用意しての発表会

外国語便りvol.2(2018年2月発行)掲載記事「声に出してシェイクスピア―悲劇編その1―『マクベス』(全5ページ)

外国語便りvol.2(2018年2月発行)掲載記事「声に出してシェイクスピア―悲劇編その1―『マクベス』(全5ページ)

お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7689(平日 9:30 - 16:00)

平成29年度「東工大の星」支援【STAR】採択者決定

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平成29年度「東工大の星」支援(英語名称:Support for Tokyo Tech Advanced Researchers【STAR】)の採択者2名が決定しました。

「東工大の星」支援とは、東工大基金を活用し、将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者や、基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者へ大型研究費の支援を通じて、次世代を担う本学の輝く「星」を支援するものです。

(前列左から)山田拓司准教授、横井俊之助教(受賞当時)(後列左から)安藤真理事・副学長(研究担当)(当時)、三島良直学長(当時)

(前列左から)山田拓司准教授、横井俊之助教(受賞当時)
(後列左から)安藤真理事・副学長(研究担当)(当時)、三島良直学長(当時)

「東工大の星」支援の概要

目的

東工大基金を活用し、本学における優秀な若手研究者への大型支援を実施することにより、本学の中期目標である基礎的・基盤的領域の多様で独創的な研究成果に基づいた新しい価値の創造を促進し、もって、学長の方針に基づく本学の研究力強化に資することを目的とします。

支援対象者

公募によらず、様々な業績を勘案し、学長及び研究・産学連携本部長の協議により選考します。

観点

  • 将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者
  • 基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者

役職等

若手研究者は准教授以下(原則40歳以下)とします。

第5回目の今回は、2名の「星」が学長及び研究・産学連携本部長の協議により選考されました。

所属部局
担当系
職名
氏名
准教授
助教(受賞当時、現・准教授)

三島学長(当時)らと懇談
三島学長(当時)らと懇談

和やかに歓談
和やかに歓談

東工大基金

この支援プロジェクトは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7688


デザイン思考ワークショップ d.school comes to Tokyo Tech 2017を開催

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2017年10月28、29日の2日間、米国スタンフォード大学のデザインスクール(Hasso Plattner Institute of Design at Stanford University、通称「d.school」)の講師3名のファシリテーションによるワークショップ「d.school comes to Tokyo Tech (d スクール カムズ トゥー トーキョーテック)2017」を開催しました。本ワークショップは2013年から毎年開催しており、今回で4回目となります。参加者は、本学 グローバルリーダー教育院(以下、AGL)の所属学生に加え、東京大学、一橋大学、大阪大学、東京外国語大学、慶應義塾大学の学生の計40名の学生が参加しました。

ワークショップ概要

  • ファシリテーター : 昨年に引き続き、トーマス・ボース氏、デイヴィット・ジャンカ氏、スコット・ウィットフト氏

  • 使用言語 : 英語

参加者は応募者約68名から、多様性と英語力を考慮し40名を選抜しました。 40名の「出身大学別」「男女別」「大学院生・学部生別」「日本人学生・海外学生別」「専攻別」の内訳は下記の通りです。

グラフ

ワークショップ・テーマ : 「海外旅行者の東京体験を再設計する(Redesign the Tokyo Visitor Experience!)」

東京には国内、海外を含め、毎年数百万人レベルの人々が訪れます。3年後の2020年には東京オリンピックも開催され、より多くの海外旅行者が東京を訪れることと思います。海外からの旅行者は、東京で、どんな経験をしたいのでしょうか?初めての観光客は有名な場所を訪れたいでしょうし、日本文化をより味わいたい人もいるでしょう。また、学生や研究者など勉学に励みたい人もいるでしょうし、仕事で成果をあげたい人もいるでしょう。東京への訪問者は何を求めているのでしょうか。新たな体験を作り出す余地はあるのでしょうか。将来、東京を訪れる意味を再考してみてはどうでしょうか。また、東京に住んでいる人は、ホストとしての役割を改めて考えてみませんか。

ワークショップの様子

第1日目

“Empathy(共感)”をインタビューから探る

2人1組になって、相手の財布の中身を見せ、その理由や意味を説明してもらい、相手の興味や考えを理解する(共感を探る練習)。

ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

チーム分けとテーマの理解

今回のテーマである「海外旅行者の東京体験を再設計する(Redesign the Tokyo Visitor Experience!)」では、海外から東京に来た渡航者のニーズや思いを掘り起こし、東京での体験を再設計することを目的としています。学生は4人1組、10グループに分かれて取り組みます。

チーム分けとテーマの理解

チーム分けとテーマの理解

チーム分けとテーマの理解

フィールドワーク

自由が丘、代官山、渋谷、大井町など海外からの渡航者がいそうな町に行き、東京での新たな体験について質問します。初対面の人に、こちらの意図を説明し、協力してもらうのですが、かれらの本音を引き出し、empathize(共感)に持っていくのは簡単ではありません。

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

インタビュー結果をもとに、チーム内でインタビュー結果の解釈・考察を共有し、課題を設定します。何が問題になっているのか、解決できるとどうなるのかをディスカッションしていきます。

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

問題点の洗い出しとオポチュニティ・ステートメントの作成

第2日目

解決策のアイデア出し

課題を解決するアイデアをできるだけ多く出します。ここでは、実現性や技術的課題はあまり考慮する必要はありません。できるだけ多く案出し、メンバーの投票によってインパクトのあるアイデアを選び出します。

プロトタイプの開発

上記で選定したアイデアを形にして可視化します。模造紙、ボール紙、モール、割り箸などを使って作っていきます。そのアイデアを実際に使うシーンを想定し、誰がどのように使い、どのような効果があるのかを中心に考えます。

検証とブラッシュ・アップ

試作品(サービス)を他者に試してもらい、思索の評価とフィードバックをもらいます。学内外の学生や社会人にテスターをお願いしました。1チームにつき、3~4人のテスターの方から試作品のフィードバックをもらい、そのフィードバックから「ニーズのメカニズム」を検討し、プロトタイプの変更を行います。最終的に、修正したもの(サービス)を寸劇スタイルで発表します。参加した他の学生や講師から、疑問点、さらなる改良点等のコメントをもらいます。

キャプションキャプション

検証とブラッシュ・アップ

検証とブラッシュ・アップ

参加者のコメント

東工大 D2 女性

コーヒーを飲みながらディスカッションできるなどの自由な感覚のワークショップが良かった。1チーム4名はワークショップとしてベストな数だと思う。

東工大 M2 男性

2日間の間に「デザイン思考」の全てのステップを実際に経験できるなどとても有意義で、特に、外へ出て実際にインタビューを行うなど、期待以上のワークショップだった。

慶応義塾 M1 男性

ワークショップの各ステップは細部までとてもよく考えられていて、その役割もよく理解できた。街中へ出て行ってインタビューしたり、プロトタイプを作って第三者にテストしてもらうなどの実体験があるワークショップはこれまでにないもので、多くの示唆や発見があった。

一橋大 B4 女性

指示ややるべきことが明解かつ詳細であり、タスクをしっかり理解した上で行動できた。またどうするのか少々不明な時も、周りにいるスタッフに聞くことができた。思っていたより気軽な感じあり、またブレークも多くとってくれたので、とてもリラックスした雰囲気でできた。講師と学生の距離感が他のクラスより近く感じた。

東京大 B2 男性

ファンクショナル・ニーズとエモーショナル・ニーズがあることに気が付いたことが良かった。

東工大 B2 男性

ワークショップは活動的で楽しく過ごせた。特に、学外に出て、街の人にインタビューしたことは良い経験になった。

東工大 M1 女性

講義が刺激的だった。すべてがスピーディに行われ、時間が短く感じるほと内容が濃かった。

一橋大 B4 男性

プロトタイプは、限られた時間内で、できるだけ完璧なものを作るよりも、仮説の検証に意味があることがわかった。

東工大 M2 男性

ワークショップはとてもリラックスした雰囲気だった。2日間でアイデアを具現化する自信はなかったが、最終的にはできた。

東工大 M2 男性

講師の方が、やるべきことのデモをしてくれたり、一緒に考えてくれるのでタスクを行うことに自信が持てたし、それぞれのステップをよりよく理解できたと思う。教師が学生を教えるのではなく、先輩が後輩を手助けする、というような全体的な雰囲気がいいと思った。

東工大 B3 男性

ユーザーインタビューが良かった。講義の前は、他の人の生活の中に隠れたニーズを聞くのは難しいと感じていたが、限界点を聞く方法でその人のコメントを引き出せることを学んだ。

東工大 M2

学生はこのたった2日間で、デザイン思考の全プロセスを理解することができる。想像していたり素早いアクションによりより積極的な雰囲気をつくりだせることが印象深かった。

東工大 M2 男性

「デザイン思考」の方法論を理解させ実践させるという、ワークショップの進め方がいいと思った。

D=博士後期課程、M=修士課程、B=学士課程

グローバルリーダー教育院 山田圭介特任教授のコメント

“d.school comes to Tokyo Tech”は、d.schoolの講師が日本の大学で行う唯一のワークショップです。

1.
学生に本物に触れさせたい。いわば「デザイン思考」の総本山とも言うべきスタンフォード大学d.schoolでワークショップを運営している講師から、Creative Confidence(クリエイティブ コンフィデンス)というマインドセットとUser Centric(ユーザー セントリック)という考え方と能力を学生に植え付けたい
2.
米国スタンフォード大学d.school流の、リラックスした雰囲気ながらも、スピーディで受講者の裁量で結果を出さざるを得ない切迫感を同時に体感させたい
3.
英語という環境の中で、あまり面識がなく国籍や専攻など多様なバックグラウンドを持ち、且つ優秀で意識の高い学生との協働作業の楽しさを体感させたい

という理由から開催しています。

来年度も開催予定ですので、未体験の方は、このグローバルスタンダードのワークショップに是非参加してほしいし、過去体験した方でも、再度挑戦してもらって構いません。

また、ここで出てきたアイデアを「事業」という形に近づけたい、または、デザイン思考で培ったマインドセットと考え方を、「事業」という実践で試したいという方には、「リーン・ローンチパッド」というワークショップを用意していますので、そちらにも参加してください。

講師からのアドバイスを受ける参加者

講師からのアドバイスを受ける参加者

講師からのアドバイスを受ける参加者

デザイン思考とAGL山田道場

AGLには、選抜試験をクリアした学生が、「リーダーシップ」を身につけるための環境である「道場」に所属します。在籍する学院・系・コースにおける専門分野の高度な知識や能力を修得しつつ、「道場」で、志向や専門分野を異にする学生同士でのディベー卜やグループワークを重ねていくことで、「自主性」を核とするマインドセットを養い、実社会において自身の価値となる発想力や実践力、そして、いかなる場面でも応用の利く対話カや合意形成力を身につけます。

「デザイン思考」は、イノベーションを生み出す「ハウ・ツー」として紹介されたり、理解されたりしているかもしれません。特に「emphasize(共感) - define(問題定義) - ideate(創造)- prototype(プロトタイプ) - test(テスト)」の5 ステップを踏襲することに注目が集まりがちですが、この5 ステップに新規性があるわけではなく、むしろ、新製品開発や新規市場開拓を行っている方は意識せずとも行っている「当たり前」のステップです。

デザイン思考の根幹は、自分は新たな価値を創出できる、という認識を持つこと(マインドセットの構築)と、ニーズを構築する「理由」を探り出す能力の醸成にあり、そこには、論理性は勿論、さらに論理を超えた飛躍力が求められます。

  • Creative Confidence(クリエイティブ コンフィデンス) : 「新たなアイデア(解決策)を出せる」という個人のマインドセットの構築
  • User Centric(ユーザー セントリック) : ユーザーのニーズの「理由」を抽出し課題を設定する考え方と能力の醸成

新たな価値を生み出すためにリーダーシップを重視する山田道場では、その基礎となるコンセプトを体に染み込ませることが重要と考えています。「課題設定」「発想」「仮説検証」を繰り返す「デザイン思考」は格好の題材です。

山田道場では、本ワークショップ以外にも、マクロ的アプローチによる「政策立案シミュレーション」、ウェブ開発をツールにする「プログラミング・ブートキャンプ」、スキャニングと強制発想という手法をとる「未来洞察」、視点を変え発想力を呼び起こす「EGAKU」、そして、それらの要素を使いこなし、課題設定と仮説検証を繰り返し、事業の価値を作り出す「リーン・ローンチパッド」、などのワークショップ群を用意し、所属学生が、自分独自の「リーダーシップ」を身につけられる環境を用意しています。

集合写真

集合写真

お問い合わせ先

グローバルリーダー教育院 人文社会系道場(山田道場)

E-mail : agl.jim@agl.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3116

高大連携授業 タイと日本の高校生によるワークショップ「レッツ カウント!」を開催

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4月19日、東京工業大学附属図書館2階の学習スペースにて、東工大の支援のもと、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)※1プログラムの海外交流事業の一環として数学のワークショップが開催されました。

附属図書館2階の学習スペース

附属図書館2階の学習スペース

本ワークショップは、高大接続教育※2の授業を能動的学習(アクティブ・ラーニング)方式で行うだけでなく、さらにそれを英語で行うという先進的な試みです。

4回目の開催となる本年度は、タイ国プリンセス・チュラポーン・サイエンス・カレッジ・チェンライ校から12名、および東京学芸大学附属高校から13名、合計25名の高校生が参加し、本学 理学院 数学系の山田光太郎教授によるワークショップ「レッツ カウント(Let's count)!」が行われました。

まず「数学」とはなにかを問うことから始まります。数学の研究とは、誰も知らない「定理」を見つけるということです。たくさんの定理や事実のなかで、日本とタイの高校生たちはどのようなものを知っているのかを振り返り、高校で学ぶ数学は1,000年以上も前に先人たちが積み上げてきたものであることを確認しました。

そして本題である「ものを数えること」に移ります。山田教授はりんごとデコポンを取り出してテーブルの上に置き、「テーブルの上にはいくつあるか」と問いました。すると「全部で12個」、「6個のりんごと6個のデコポン」、「2種類の果物」など、答えが分かれました。このように、問の答えは「何を同じものとみなすか」によって変わるのです。

突然デコポンを並べ始める山田教授
突然デコポンを並べ始める山田教授

真剣に数える生徒たち
真剣に数える生徒たち

続いて、座標平面上の円について考えました。座標平面の上に円は無限個存在しますが、そのうちのひとつを決定するにはどのような情報を与えればよいのでしょうか。同じテーブルの生徒同士で議論し、中心と半径を与えればよいという結論を導きました。中心は座標を表す2つのパラメータ、半径はひとつのパラメータを与えればよく、円をひとつに決定するために必要な情報は3つのパラメータであるということがわかりました。すなわち、座標平面上の円を数えるには、3次元の情報が必要であるということです。

さらに、その中で合同な円を同じものとみなすのに必要な情報は何次元か、相似な円を同じものとみなすと必要な情報は何次元か、みんなで考えました。再び高校生の議論は白熱し、それぞれ1次元、0次元という答えにたどり着きました。

ついで、話題は円から三角形に移行します。座標平面の上の三角形を決定するには何次元の情報が必要か、その中で合同な三角形を同じものとみなすと何次元か、相似な三角形を同じものとみなすと何次元か、みんなで議論しました。問題設定が複雑になったため、円のときよりも高校生たちは頭を悩ませていましたが、知恵を出し合って議論を進めてゆくうちに、それぞれ答えを導くことに成功しました。三角形を決定するには3つの頂点を決めればよく、各頂点はその座標を表す2つのパラメータで決定するため、全部で6次元の情報が必要です。

附属図書館の見学
附属図書館の見学

また、合同な三角形や相似な三角形を特定するための情報は、中学校で習った三角形の合同条件や相似条件により、それぞれ3次元や2次元となります。この3や2という数は、三角形を決定する6次元の情報から、平行移動や回転を表す3次元の情報、また縮尺を決定する1次元の情報を引くことで得られることを確認しました。議論の末に苦労して答えを発見したとき、みんな「なるほど!」と納得して楽しそうです。四角形になったらパラメーターはいくつになるんだろう、と発想はどんどん広がります。

「ものを数える」とは「何を同じものとみなすか」であることを、しっかり学べた90分間でした。最後に三角形や四角形であふれる図書館内を英語で案内し、高校生たちは青空のもとへ飛び出して行きました。

※1 スーパーサイエンスハイスクール(SSH) : 高等学校等において、先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続のあり方について大学との共同研究や、国際性を育むための取り組み

※2 高大接続教育 : 高校と大学の接点を増やし、双方の学生の学習意欲向上を図る取り組み

分子ワイヤの長距離共鳴トンネル現象を室温で確認

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分子共鳴トンネルトランジスタの実現に期待

要点

  • 固体基板上のナノギャップ電極と剛直分子ワイヤで長距離共鳴トンネル現象を観察
  • 4ナノメートルを超える分子ワイヤの共鳴トンネル現象を室温で世界で初めて確認
  • 1つの分子で電気信号をON/OFFできる分子共鳴トンネルトランジスタ開発に道

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院/元素戦略研究センターの真島豊教授と東京大学 大学院理学系研究科の中村栄一特任教授、神奈川大学 理学部の辻勇人教授の研究グループは、室温(27℃)での分子ワイヤの長距離共鳴トンネル現象[用語1]を世界で初めて確認した。

固体基板上のナノギャップ電極のギャップ間に剛直な構造の分子ワイヤを導入した素子の微分コンダクタンス[用語2]のピーク電圧の観察から、このギャップ間の電気伝導が分子ワイヤの共鳴トンネル現象で説明できることを明らかにした。これは、1つの分子で電気信号をON/OFFできる分子共鳴トンネルトランジスタなどへの応用を可能にするものだ。

今回用いた分子ワイヤは、4.3ナノメートルの長さを有する炭素架橋分子ワイヤ(COPV6)[用語3]と呼ばれる構造のπ共役系分子[用語4]で、微分コンダクタンスのピークは、この分子の最高被占有軌道(HOMO)[用語5]とHOMO-1、最低空軌道(LUMO)[用語5]とLUMO+1のそれぞれの軌道に対応していることを確認した。

本成果は、半導体量子井戸構造の量子化準位において観察される共鳴トンネル現象が、4ナノメートルを超える分子ワイヤのエネルギー準位でも実現できることを示唆している。今後、分子構造や素子構造を最適化することで、分子軌道を電界変調する分子共鳴トンネルトランジスタの実現が期待できる。

この研究では、剛直分子ワイヤを東京大学と神奈川大学で合成し、長距離共鳴トンネル現象を東京工業大学が確認した。米国の科学誌「ACS Omega(エーシーエスオメガ)」に、5月11日にオンライン公開された。

研究成果

発光材料や電子材料として、有機エレクトロニクスの研究に長年用いられているオリゴフェニレンビニレン(OPV)は柔らかい分子ワイヤだ。一方、辻教授や中村特任教授らが開発した炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPVn)は、炭素原子を用いてOPV骨格を架橋した剛直平面構造を有するπ共役分子ワイヤである。このような剛直分子ワイヤは、最高被占有軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)間のエネルギーギャップ(HOMO-LUMOギャップ)をユニット数で制御でき、剛直性に起因してエネルギー準位が揺らがないために共鳴トンネル現象が観察されると予想されていた。

固体基板上に分子ワイヤを実現するためには、分子ワイヤの長さに合致したギャップ長を持つナノギャップ電極を用意する必要がある。真島教授らは、これまで電子線リソグラフィという手法で25ナノメートルのギャップ長を有する初期金電極構造を作製し、その表面にナノスケールの無電解金めっき(ELGP)[用語6]を行うことにより、めっきの自己停止機能[用語7]でギャップ長を分子長に合わせて無電解金めっきナノギャップ電極を高収率に作製できる手法を開発してきた。この無電解金めっきナノギャップ電極は、ナノギャップ電極として極めて安定な構造を有する。

走査電子顕微鏡(SEM)で、図1にあるような4ナノメートルのギャップ長を有するナノギャップ電極構造を観察した。このナノギャップ電極を有する基板を、両末端にチオール基を有するCOPV6分子溶液中に浸漬して、ギャップ間に分子ワイヤを吸着させる。ギャップ間に分子ワイヤが吸着すると、電流―電圧特性において電流が流れなかった素子に電流が流れるようになる。

ナノギャップ電極間に分子ワイヤが片側のみ化学吸着した状態(図1中に概略図)で、電流―電圧特性を測定したところ、図1に示すような4つの微分コンダクタンスピークを含む電流―電圧特性を低温(9K)で繰り返し観察できた。さらに、室温においても似通った微分コンダクタンスピークを観察できた。

この現象を解析したところ、図2(c)に示すようなバンド図となっていることが明らかになった。これは、分子ワイヤの分子軌道エネルギー準位(HOMMO-1、 HOMO、 LUMO、 LUMO+1)と左側の金電極のフェルミエネルギーが-1.41 V、 -1.16 V、 1.19 V、 1.41 Vで、それぞれ同じレベルに揃った時に共鳴トンネル現象が起き、分子軌道エネルギー準位を介して、左側の金電極に電子が共鳴トンネルし、微分コンダクタンスがピークになる(図1)。

分子ワイヤの共鳴トンネル現象を観察した概念図、走査電子顕微鏡(SEM)像と微分コンダクタンス特性

図1. 分子ワイヤの共鳴トンネル現象を観察した概念図、走査電子顕微鏡(SEM)像と微分コンダクタンス特性

COPV6(SH)2の分子軌道の(a)エネルギー準位と(b)分子軌道の波動関数。(c)4つのコンダクタンスピークに対応する共鳴トンネル現象を観察した際のバンド図

図2. COPV6(SH)2の分子軌道の(a)エネルギー準位と(b)分子軌道の波動関数。(c)4つのコンダクタンスピークに対応する共鳴トンネル現象を観察した際のバンド図

背景

分子トランジスタは、化学合成により一意性のある数ナノメートルサイズのπ共役分子を半導体材料として用いるため、5ナノメートル以下の構造ゆらぎの無い次世代トランジスタとして期待されている。これまでナノギャップ電極は、エレクトロマイグレーション法などを用いて作製されてきたが、電極構造が安定しないため、極低温での特性の報告があるものの、室温動作は難しかった。共鳴トンネル現象は、量子井戸の準位に相当する分子軌道を介したトンネル現象として、本研究グループも含めて報告していたが、より高度な優れた性能としてのトランジスタ動作が期待できる長距離共鳴トンネル現象は、これまで確認されていなかった。

研究の経緯

無電解金めっきナノギャップ電極に、剛直分子ワイヤを化学吸着し、電流ー電圧測定を行ったところ、分子ワイヤのエネルギー準位を介した長距離共鳴トンネル現象として説明でき、室温でも動作することを明らかにした。

本研究は、文部科学省「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」(研究総括:細野秀雄 東京工業大学 科学技術創成研究院/元素戦略研究センター 教授)の一環として行われた。

今後の展開

固体基板上で安定に動作する分子共鳴トランジスタの実現を目指す。真島研究室では最近、無電解めっき技術を用いてナノギャップ電極のギャップ長を分子長にあわせて制御し、ゲート変調を可能とするナノギャップ電極を作製する技術を開発している。このナノギャップ電極間に分子ワイヤを挿入したトランジスタ構造を作製し、1つの分子で電気信号をON/OFFできる分子共鳴トンネルトランジスタを実現していきたい。

用語説明

[用語1] 共鳴トンネル現象 : トンネル効果の一種。二つのポテンシャルの壁(ポテンシャル障壁)をもつ量子井戸構造で、入射してくる電子のエネルギーが、二つのポテンシャル障壁に閉じこめられた電子のとるエネルギーと一致した時、エネルギーの減衰なしに障壁を通り抜ける現象。

[用語2] 微分コンダクタンス : 電流を電圧で微分したもの。共鳴トンネル現象が起きると、ピークが観察される。

[用語3] 炭素架橋分子ワイヤ : 導電性を持つ分子ワイヤに炭素架橋構造を導入することで、分子内運動が抑制され、剛直性が付与される。今回用いた、フェニレンビニレンを剛直化した分子ワイヤは辻教授らが独自開発し、高速電子移動の実現が2014年に報告されている。

[用語4] π共役系分子 : π電子が分子上に非局在化している(拡がっている)分子。

[用語5] 最高被占有軌道(HOMO)、最低空軌道(LUMO) : HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)は電子に占有されている最もエネルギーの高い分子軌道で、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)は電子に占有されていない最もエネルギーの低い分子軌道である。合わせてフロンティア軌道と呼ばれる。

[用語6] 無電解金めっき(ELGP) : 無電解金めっきは、金表面で還元剤により金イオンを還元してめっきを成長させる、古くて新しい手法。

[用語7] めっきの自己停止機能 : ナノギャップ電極におけるギャップ長が数ナノメートルとなると、溶液中の金イオンがギャップ間に拡散する前に電極表面で還元されてめっきの成長が止まる現象。自己停止機能によりギャップ長を3 nmに均一に制御できる無電解金めっき技術を真島研究室では独自に開発してきた。

論文情報

掲載誌 :
ACS Omega
論文タイトル :
Coherent Resonant Electron Tunneling at 9 and 300 K through a 4.5 nm Long, Rigid, Planar Organic Molecular Wire
著者 :
Chun Ouyang, Kohei Hashimoto, Hayato Tsuji, Eiichi Nakamura, and Yutaka Majima
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所/元素戦略研究センター

教授 真島豊

E-mail : majima@msl.titech.ac.jp

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻

特任教授 中村栄一

E-mail : nakamura@chem.s.u-tokyo.ac.jp

神奈川大学 理学部化学科

教授 辻勇人

E-mail : tsujiha@kanagawa-u.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室

Email : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

神奈川大学 研究支援部 平塚研究支援課

Email : hiraken-soudan@kanagawa-u.ac.jp
Tel : 0463-59-4111(代)

ニュースレター「AES News」No.13 2018春号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.13 2018春号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業・行政・市民などが対等な立場で参加する「オープンイノベーション」プラットフォームを推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生し、社会実装することをその大きな目的の一つとしています。

季刊誌「AES News」は、本センターの活動をより多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、年4回発行しています。

ニュースレター「AES News」第13号 2018春号

第13号・2018春号

  • 東京工業大学 先進エネルギー国際研究センター 柏木孝夫センター長 巻頭言「超スマート社会とAESセンター」
  • 富士市役所 環境部環境総務課 赤池慎吾主幹 プロジェクト報告「富士市のエネルギー政策」
  • 研究推進委員会、イブニングセミナ-などの開催報告
  • 2018年度の活動予定

ニュースレターの入手方法

PDF版

資料ダウンロード|先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)outer

バックナンバーもリンク先よりご覧いただけます。
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚(※)
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

※博物館(百年記念館)は、空調機改修工事後の展示準備のため、休館中です。詳細は以下のページをご覧ください。

博物館・百年記念館休館

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3429

松岡聡特任教授が2018年米国計算機学会 高性能並列分散計算 アチーブメント アワードを受賞

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情報理工学院 数理・計算科学系の松岡聡特任教授が、米国計算機学会(ACM)より2018年高性能並列分散計算アチーブメント アワード(2018 HPDC Achievement Award、以下HPDCアチーブメント アワード)を受賞しました。

HPDCアチーブメント アワードは、高性能並列分散計算の分野における、博士後期課程学生を始めとする若い世代の貢献意識を高め、また、コミュニティのイメージ向上に顕著な貢献をしたことに対して与えられる賞です。また、ACM HPDCは最も査読レベルの高い国際会議としても知られています。

今回の受賞は、松岡教授の並列および分散システム用の高性能システムおよびソフトウェアツールの設計、実装、および応用に関する先駆的な研究に対して、授与されました。

2018年6月11日(月)から15日(金)にかけて米国で開催される第27回HPDC国際シンポジウム(ACM HPDC2018)にて、受賞式と記念講演が予定されています。

松岡教授からのコメント

松岡聡特任教授

ACM HPDCは計算機科学・高性能計算の分野におけるトップ国際学会の一つであり、その中で今回日本人として初めてその学会キャリア賞を受賞したのは大変光栄です。これは長年にわたる東工大をはじめ東京大学・国立情報学研究所・理化学研究所(理研)等にて自ら主催した研究のみならず、スパコンTSUBAMEシリーズを含む、数々の国内外の大学・研究機関や企業と行った研究開発に対する評価であり、それ故それらに関わった多数の方々を代表して受賞するといった認識です。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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