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山口隆夫名誉教授が平成30年春の叙勲を受章

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平成30年春の叙勲において、山口隆夫名誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。長年にわたる、教育と研究への多大な貢献が評価されたものです。

山口隆夫名誉教授

山口隆夫名誉教授

経歴

山口隆夫名誉教授(1999年4月称号授与)は1967年3月、東京大学 大学院 人文科学研究科修士課程を修了後、同年4月から1969年3月まで同大学 教養学部助手を勤めました。

1969年4月に名古屋大学教養部に講師として赴任し、英語教育を担当し19年間在任しました。その間所属する組織の名称が、教養部から語学センター、総合言語センターへと変わりました。1973年助教授に昇任、英国における在外研究(1985年9月-1986年7月)から帰国後の1986年8月、教授に昇任しました。

1988年4月に東京工業大学に一般教育外国語担当教授として赴任後、10年間在任し外国語科主任として大学運営に参加しました。

1998年に電気通信大学に転任、2004年3月同大学で定年を迎えました。長年の外国語教育・研究分野における多大な貢献が評価され、今回の授賞に繋がりました。

コメント

国立大学に通算37年勤務した中、働き盛りの50歳代を東工大で過ごしました。当時、大学は未来に向けて力強く動いていました。ひとつは文化系の学部を創ろうという試みがなされたことであり私は委員のひとりでした。二つ目は生命理工学部の創設です。大隅栄誉教授が2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞したニュースに接した時は、生命理工学部設立祝賀会に招ばれていたことを思い出し感慨も一入でした。

思い起こすと大学の多方面の活動に加わっていたのだと思います。テニスを通じて理工系の先生との交流もありました。

私が叙勲について連絡を受けたのは、昨年(平成29年)の6月5日のことでした。前月の下旬に入院、手術の後、退院したのが6月3日でした。しかも、姉が入院中に亡くなりました。哀しみの中に喜びが生まれ、喜びには姉の願いが実現するという驚きと不思議が混ざり合った受章でした。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975


東京工業大学と川崎市がイノベーション推進に関する連携協定を締結

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東京工業大学と神奈川県川崎市は5月21日、相互の持つ資源やネットワークを活かして、地域発のイノベーションの創出を推進するとともに、多分野での連携・協力を図ることを目的とした連携協定を締結しました。

協定書を取り交わす益一哉学長(左)と福田紀彦川崎市長(右)

協定書を取り交わす益一哉学長(左)と福田紀彦川崎市長(右)

本学と川崎市は2017年、「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」と題する事業プログラムを共同提案し、同プログラムが文部科学省の「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」に採択されました。そしてこの採択を受け2018年3月、川崎市殿町のキングスカイフロントに、スパコンと化学合成技術を融合した世界初となる「中分子IT創薬研究拠点(MIDL:Middle Molecule IT-based Drug Discovery Laboratory)」がオープンしました。協定締結により、本学と川崎市は今後さらに多分野での連携・協力を進め、イノベーション創出に貢献していきます。

連携・協力事項

1. 地域初のイノベーションの創出に関する事項

(1)殿町国際戦略拠点キングスカイフロントにおける中分子IT創薬を中心としたライフサイエンス分野に関する連携・協力

連携例

「中分子IT創薬プロジェクト」の着実な推進、中分子IT創薬研究拠点(MIDL)の保有機器の活用促進・共同利用

(2)臨海部における新産業創出や研究活動の推進に関する連携・協力

(3)新川崎地区における産官学連携によるイノベーション創出に関する連携・協力

2. ベンチャー・中小企業等の育成や技術指導などに関する事項

(1)「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」を通じた中分子創薬・IT創薬分野等の産業振興における連携・協力

連携例

市内企業や産業支援機関等のネットワーク共有

市内IT企業等への情報提供、技術指導、技術移転。市内IT企業等との共同研究

(2)創業支援分野での連携・協力

連携例

大学発ベンチャーや大学出身の起業者等の市内インキュベーション施設への誘導支援

3. 研究成果の実用化に向けた取組に関する事項

(1)基礎研究成果の実証実験、社会実装、事業化における連携・協力

連携例

中分子IT創薬研究拠点(MIDL)を軸とした、医療関係の企業等との共同研究の実施、臨海部など川崎市域をフィールドとする実証プロジェクトの企画・検討

4. 次世代産業や先端研究を担う人材の育成に関する事項

(1)人材育成プロジェクトのプログラム開発に向けた連携・協力

連携例

臨海部企業の参画による、技術継承や即戦力人材の育成に資する講座等の開設

(2)市内企業を対象とした教育プログラムの実施に向けた連携・協力

5. 市民還元・地域貢献に関する事項

(1)市民(学生を含む)向け講座やイベント実施における連携・協力

連携協定の概要

連携協定の概要

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お問い合わせ先・取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ナノ薄膜上に高速応答の温度センサーを製作

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次世代超微細デバイスの熱物性計測が可能に

要点

  • 光や電子線照射による微小領域の高速な温度変化を正確に測定
  • ナノスケールの温度波による熱伝導計測の可能性を提示
  • 500 nmサイズの温度を計測、電子線走査による温度マッピングとして実現

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の森川淳子教授、劉芽久哉(りゅう・めぐや)大学院生らは、スウィンバーン工科大学との国際共同研究の一環として、厚さ30 ナノメートル(nm)の薄膜上に、幅2.5マイクロメートル(μm)の温度センサーを製作することに成功した。電子線リソグラフィー[用語1]リフトオフ[用語2]技術を駆使して実現した。このセンサーを用い、毎秒50万ケルビン(5×105 K/s)の高速な温度変化を測定できることを確認した。レーザー光や電子線照射による微小領域での測定が可能であり、マイクロ・ナノスケールの熱伝導計測への応用展開が期待される。

半導体デバイスの微細化が進み、発熱が大きな問題になっている。しかし、従来の熱計測技術はセンサーの応答速度やナノスケールの熱源への対応などに課題があった。

研究成果は2018年4月20日、英国ネイチャーの「Scientific Reports」(サイエンティフィック・リポーツ)に掲載された。

研究成果

次世代パワーエレクトロニクスなどのデバイス開発における発熱の問題は、依然としてさし迫った課題であり、マイクロ・ナノスケールの熱制御が、フォノンエンジニアリング[用語3] のキーテクノロジーとして注目されている。

従来型の熱計測では、センサーの熱容量による応答速度や、フォト・サーマル効果[用語4]による熱源の測定サイズの限界があることが多く、ナノスケールの熱源や、高速に応答可能な温度計測技術の開発が急務であった。

森川教授、劉院生らは、電子線リソグラフィーとリフトオフの手法を用いて、厚さ30 nmの窒化シリコン(Si3N4)ナノ薄膜上に幅2.5 μmの金・ニッケル(Au-Ni)接合による起電力型温度センサーを作成。(図1(a))直径0.5 μm以下のスポットサイズに絞った電子線照射による温度変化を、毎秒5×105 Kの高速応答により捉える測定に成功した。(図1(b))

この技術を用いて、500 nmサイズの温度を計測し、電子線走査による温度マッピングとして実現した。さらに、電子線照射を変調させることにより、試料内にナノスケールの温度変調を生じさせ、その面内への温度波伝播の位相変化を計測することで熱拡散率を求める方法論を検証した。

バイオメディカル分野では、フォト・サーマル効果を利用した癌治療も行われており、これらナノスケールの熱計測技術の今後の応用が期待される。

研究の背景

デバイス開発における発熱の問題、なかでもナノスケールデバイスの熱制御の可能性については理想的な物質群についての理論的な研究が先行している。一方で、実用に近い系での実験的な検証が求められている。

フォノンエンジニアリングに総称される、これらナノスケールの熱制御技術が、実際のデバイス開発のキーテクノロジーとなり得るかは、実験的検証の成否にかかっているといっても過言ではない。

従来型の熱計測では、センサーの熱容量や、照射する光の波長による限界があることが多く、ナノスケールの熱源や温度計測技術の開発が必須であった。

研究の経緯

電子線リソグラフィーとリフトオフ法により、30 nm薄膜上に形成した2.5 μm幅のAuとNiの起電力型温度センサーは、10 μV/K(マイクロボルト/ケルビン:温度差1ケルビンあたりに生じる電位差) の感度で、近赤外レーザー光や電子線照射による温度上昇を毎秒5×105 Kの応答速度で捉えた。このとき、センサーの基材となる薄膜の熱容量が十分小さいこと(十分薄いこと)が重要である。基材の厚さが30 nm~100 μmと厚くなるに従い、微小照射スポットの温度上昇は微弱になり、観測されなくなることを、実際の起電力測定により確認した。

また、ナノ薄膜では、通常1~2 μm程度の表面付近で発生するとされる2次電子[用語5] の発生を抑制できることから、電子線照射による温度上昇をゼーベック効果[用語6]による起電力の変化として直接捉えることが可能となった。

今後の展開

電子線を用いたナノスケールの空間分解能の温度や熱拡散率の分布画像を得る測定方法論の構築を進めるとともに、従来のAFM(原子間力顕微鏡)型熱顕微鏡やナノスケール赤外分光法と相補して、電子デバイスのほか、バイオメディカル分野など、幅広い分野へのナノスケールの熱計測技術の展開を予定している。

図1. ナノ薄膜上に作成した温度センサーと高速応答

図1.ナノ薄膜上に作成した温度センサーと高速応答

(a)厚さ30 nmの窒化シリコン(Si3N4)ナノ薄膜上に作成した金・ニッケル(Au-Ni)接合による起電力型温度センサーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真。
(b)1.8 mWのレーザー光を2~10 kHzで断続的に照射した場合の温度センサーの時間応答曲線。ナノ薄膜上に作成したセンサーは高速応答を示す。(ΔT : 温度変化, τ : センサーの時定数)

本成果は、文部科学省「研究大学強化促進事業」ならびに科研費NO.16K06768の研究支援により得られた。

用語説明

[用語1] 電子線リソグラフィー : 基板上に微細なパターンを形成する技術をリソグラフィーという。露光装置を用いてパターンを投影転写する方式と、光や電子線を走査してパターンを描画する方式がある。非常に微細な構造を持つ素子の作成には、後者の方式で、細く絞った電子線を用いて微細なパターンを描画する方法が用いられる。この方法を電子線リソグラフィーという。

[用語2] リフトオフ : 溶剤などでレジストを除去する際に、レジスト上に成膜された材料を同時に除去する表面加工法。

[用語3] フォノンエンジニアリング : 格子振動および広義の音波を量子化した準粒子をフォノンという。フォノンを設計・制御することで、熱を効率的に輸送、変換するためのデバイス開発や基盤技術を総称する。

[用語4] フォト・サーマル効果 : 光吸収によるエネルギーが熱に変換する現象。

[用語5] 2次電子 : 電子が固体表面に衝突した場合に放出される電子。入射した電子を1次電子という。

[用語6] ゼーベック効果 : 金属または半導体中の熱の流れと電流が相互に影響を及ぼし合う熱電効果の一種。2種の異なる金属または半導体の両端を接合し、異なる温度に保つと回路に電流が流れるが、この回路を開くと起電力が生じ、これを熱起電力という。この現象はゼーベックによって発見されたため、ゼーベック効果という。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Micro-thermocouple on nano-membrane: thermometer for nanoscale measurements
著者 :
Armandas Balčytis, Meguya Ryu, Saulius Juodkazis and Junko Morikawa
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

森川淳子 教授

E-mail : morikawa.j.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2497 / Fax : 03-5734-2497

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第1回インペリアル・カレッジ・ロンドンとの博士後期課程学生交流プログラム (Imperial-Tokyo Tech Global Fellows Programme 2018)を実施

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3月5日から3月9日にかけて、大学セミナーハウス(東京都八王子市)および東工大 大岡山キャンパスにて第1回インペリアル・カレッジ・ロンドン-東京工業大学博士後期課程学生交流プログラム(Imperial-Tokyo Tech Global Fellows Programme 2018)を実施しました。

本プログラムは、博士後期課程学生のリーダーシップ力およびコミュニケーション能力の養成、将来の共同研究に繋がる可能性を秘めた若手研究者間ネットワーク構築等を目的に、東工大と本学協定校のインペリアル・カレッジ・ロンドン(以下、インペリアル)によって共同開催された5日間の合宿型国際交流プログラムです。今回は、両校から選出された博士後期課程学生39名(東工大生19名、インペリアル生20名)および両大学の教職員が参加しました。プログラム期間中、参加学生達は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の17ゴールの1つである「貧困をなくそう(No Poverty)」に関連付けた「貧困撲滅につながるイノベーション(Innovation to Eradicate Poverty)」をテーマに、グループディスカッション、専門家による特別講義の受講、ポスター発表、フィールドトリップ等、さまざまなアクティビティーを行い、分野や国籍の垣根を超えた交流に勤しんでいました。

本プログラムの実施にあたり、教育・国際連携本部 教育推進部門に本プログラムのワーキンググループを設置し、主査の水本哲弥副学長(教育運営担当、当時)、同じく委員の猪原健弘教授、金子宏直准教授(共にリベラルアーツ研究教育院)がメンバーとして参画しました。長年インペリアルが世界のトップクラス大学と合同で行っていた学生交流プログラムを基盤に、リベラルアーツ研究教育院の博士文系教養科目「学生プロデュース科目」と「教養先端科目」の要素を大胆に取り入れて、発展させた形で実施に至りました。また5日間のプログラムには、リベラルアーツ研究教育院の小泉勇人准教授、鈴木悠太准教授、河村彩助教がコーチ役として参加しました。

集合写真

1日目

プログラムはインペリアル講師陣によるユニークなウェルカムアクティビティーで始まりました。ほぼ全員が初対面でしたが、参加者が一体感を感じられるよう工夫されたアクティビティーのおかげで、参加者は皆、程よく緊張がほぐれた様子でした。ウォームアップ後は、水本副学長(当時)から本学紹介およびプログラムテーマに関連する講話により、プログラムテーマへの導入が行われました。続いて、SDGsに関し造詣が深い環境・社会理工学院 融合理工学系の阿部直也准教授による特別講義「貧困とイノベーションの関係に関する批判的総説(Critical Review on the Relationship between Innovation and Poverty)」が行われ、学生達は世界の貧困についての多角的な視点を得ると共に、貧困とイノベーションの歴史から両者の関連性等についてより理解を深めました。

貧困問題について考えるレクチャー
貧困問題について考えるレクチャー

特別講義を行う阿部准教授
特別講義を行う阿部准教授

午後には、参加者が自身の研究内容や本プログラムで活かせる能力、趣味・特技などを事前にまとめたポスターを使い、自己紹介を兼ねたポスターセッションを行いました。その後、理工系学生ならではの方法でペアが組まれ、会場の全員に自分のパートナーを魅力的に紹介するペア紹介が行われた結果、最終日のポスター発表まで共に時間とアイデアを共有する東工大生・インペリアル生混合の4人組の10チームが決定しました。さらに、猪原教授より、「えんたくん」を使ったブレインストーミングとKJメソッドの手法や活用方法が伝授され、翌日から行われるグループディスカッションに向けた準備が整いました。

自己紹介ポスターセッション
自己紹介ポスターセッション

「えんたくん」を使ってアイデアを整理する学生
「えんたくん」を使ってアイデアを整理する学生

ペアを組んだパートナーを他己紹介
ペアを組んだパートナーを他己紹介

グループで行う竹を使ったアクティビティー
グループで行う竹を使ったアクティビティー

2日目

本プログラムの主目的の一つである、多様な学生が集う環境におけるコミュニケーション力向上とチーム力を養うアクティビティーが行われました。チーム・チャレンジと呼ばれるこのアクティビティーは、インペリアルが長年の学生交流プログラムで構築してきたグループワークスキームに則ったもので、頭脳と体を使った5種類のゲーム感覚のチーム対抗アクティビティーです。チームメンバーとの円滑なコミュニケーションやメンバーへの信頼等から生まれるチームワークが各ゲームをクリアするためには必要不可欠であり、学生たちはわかりやすく相手に伝えることの難しさを改めて感じると共に、共通のゴールに向けて互いの得意分野で互いの不得手を補い合うチームの協力体制が次第に出来上がっていく様子が見て取れました。さらに、コーチ役の教員から各グループ対して丁寧にフィードバックが与えられ、それぞれが課題や強みを認識することができました。このように結束力が十分に強まったところで、今度は金子准教授考案のQ&Aカードゲームが行われました。学生達は自ら調べた貧困に関するファクトを材料にカードを作成してプレイするうちに、おのずと貧困問題に関する知識を身に付けていきました。

メンバーで協力して複数のパズルを解く課題に挑戦
メンバーで協力して複数のパズルを解く課題に挑戦

アクティビティーをクリアして喜ぶ学生
アクティビティーをクリアして喜ぶ学生

チーム・チャレンジで勝利したグループ
チーム・チャレンジで勝利したグループ

カードゲームスタイルで貧困について学ぶ
カードゲームスタイルで貧困について学ぶ

3日目

朝一番のセクションで、猪原教授から研究倫理についての講義が行われました。最終日のポスター作成を前に、意図せず研究倫理に違反する作品を作ってしまう危険を回避するために気を付けるべきポイント等について説明があり、皆いつもに増して真剣に受講している様子でした。 

また、プログラム中盤のこの日は、日本への理解を深める企画が行われました。午前中は、八王子の地で発展してきた伝統芸能、西川古柳座八王子車人形のワークショップに参加しました。車人形とは、演者が3つの車輪がついた小さな箱の上に座って縦横無尽に舞台上を移動し、演者1人につき小学校1、2年生ほどの背丈の人形1体を操る独特のスタイルの人形劇です。ワークショップでは、車人形の歴史や日本古来の文化・風習との結びつき等について学ぶと共に、東海道中膝栗毛の一場面などを観劇したうえで、車人形の仕組みや操作の仕方を習って体験するという盛り沢山な内容でした。両手両足、頭までを同時に使って、人間に近いスムーズな動きやコミカルな表情まで表現する車人形に、参加者達はすっかり魅せられていました。

午後は、フィールドトリップを行いました。東工大生が高尾山、お台場、秋葉原等を目的地とした散策プランを計画し、インペリアル生が選択した行き先で東京を案内して過ごしました。

家元・西川古柳氏による車人形ワークショップ
家元・西川古柳氏による車人形ワークショップ

初めての車人形体験に沸く参加者達
初めての車人形体験に沸く参加者達

高尾山散策チームの登頂記念写真
高尾山散策チームの登頂記念写真

散策で体験したことをポスターに
散策で体験したことをポスターに

4日目

ゲストスピーカーに一般社団法人 コペルニク・ジャパンの天花寺宏美代表理事を招き、講演が行われました。コペルニク・ジャパンは途上国の人々の生活向上を目指し、最も支援が届きにくい地域に、非営利とビジネスの両方の手法を組み合わせて革新的なテクノロジーを届ける活動をしている団体です。持続可能な支援とするために、いかにしてビジネスモデルを作り上げたか、さまざまな事例を織り交ぜた紹介があり、貧困問題に対する科学技術とビジネスの関わりについて参加者がイメージしやすいプレゼンテーションでした。学生からの反響が非常に大きく、質疑応答は当初予定していた時間を超えて、休憩時間まで続きました。

その後、チームごとに分かれて貧困問題に対してどのような解決策が考えられるか、ブレインストーミングやディスカッションを入念に行い、必要に応じてコーチ役の教員にアドバイスを仰ぎながら、翌日のポスター作成に向けてドラフト作りに取り掛かりました。

コペルニク・ジャパン天花寺代表理事による臨場感溢れる特別講演

コペルニク・ジャパン天花寺代表理事による臨場感溢れる特別講演

コペルニク・ジャパン天花寺代表理事による臨場感溢れる特別講演

サンプルポスターの問題点を洗い出す
サンプルポスターの問題点を洗い出す

ポスターのドラフト作りの様子
ポスターのドラフト作りの様子

5日目

最終日は、大岡山キャンパスの石川台7号館(ELSI-1)にて朝からポスター作成が活発に行われ、会場は学生の熱気に溢れていました。短時間でこの5日間の集大成となるポスターをグループ内で協力して完成させるため、誰もが真剣です。あっという間に時間が過ぎ、お昼前には5チームずつに分かれてポスター発表の予選会が行われました。各チームの発表後には必ず質問が飛び交い、予選会から接戦を極めました。最終発表会には、岡田清理事・副学長(企画・人事・広報担当、当時)のほか、水本副学長、関口秀俊副学長(国際連携担当)、上田紀行リベラルアーツ研究教育院長が参加し、決勝に進んだ上位4チームがアイデア溢れるポスターと共に渾身のプレゼンテーションを披露しました。岡田理事・副学長、水本副学長、インペリアルのポール・セルドン講師の3名による判定によってナンバーワンが決まり、優勝チームにはトロフィーと両校の大学Tシャツが贈られました。その後、石川台8号館(ELSI-2)にて懇親会が行われ、晴れやかな顔で1週間を振り返りつつ、苦楽を共にした仲間と今後も連絡を取り合うことを約束しながら別れを惜しみました。

グループごとに最終ポスターを作成

グループごとに最終ポスターを作成

グループごとに最終ポスターを作成

最終ポスター発表
最終ポスター発表

優勝チームの表彰
優勝チームの表彰

なお、終了後のアンケートでは、参加者の約95%が「分野横断的なグループの中で協働する能力が身についた」と回答し、また、約97%の参加者から「他の学生にこのプログラムを勧めたい」との回答を得ました。教育的効果の高い有意義なプログラムとなったことから、早くも次回開催を望む声が上がりました。

えんたくんとは、円型の段ボールでできた1枚の板であり、それを参加者の膝に乗せながら自由にアイデアを書き込む対話促進ツール。
KJメソッドとは、本学の川喜田二郎名誉教授(1920年 - 2009年、文化人類学)が考案したデータ整理の手法を指す。カードにデータやアイデアを書き、グルーピングしていきながら、情報や新たな発想をまとめていくもの。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

学務部 留学生交流課 交流推進第1グループ

E-mail : intl.sgu@jim.titech.ac.jp

マグネタイト微粒子の機械操作により氷晶形成をあやつる

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農作物にあわせた氷晶制御システムの開発へ

要点

  • 生体内マグネタイト微粒子を機械操作することで過冷却の促進に成功
  • 過冷却における氷晶の体積膨張が最小になることを検証
  • 個々の農作物にあわせた氷晶制御システム開発の可能性を示唆

概要

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の小林厚子研究員らの国際研究チームは、、凍結過程の水溶液中に分散させたマグネタイト[用語1](磁鉄鉱=Fe3O4)微粒子を外部振動磁場中で回転させ、微粒子の界面付近を乱すことによって、過冷却[用語2]を促進させることに成功した。

過冷却水から生成する氷は細胞組織に与える損傷が少ないことが分かっている。このため、過冷却を促進させ、作物にあわせた氷晶[用語3]制御システムを開発することにより、計画的な食糧保存の実現につながる成果といえる。小林研究員らは微量のマグネタイトを含むセロリと牛肉に外部振動磁場をあて、凍結過程がコントロールできることを確認した。

フェリ磁性[用語4]を示すマグネタイトは自然界では大気中のダストとして、また多くの動植物組織内に極微量含有するが、凍結時には氷晶形成核となり、霜害として作物に重大な被害を与えている。

研究成果は日本時間2018年5月7日発行の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

研究成果

米国を拠点とするUS天然資源保護協議会の報告書によれば、世界の食糧の40%以上が、生産現場から台所の間で無駄になっている。生産地での霜害、台所では凍結保存の際の組織損傷も原因となっている。そのほとんどが、氷点下付近で凍結する氷が細胞壁を壊すことによる。

ところが、超純水は通常凍結する温度以下でも過冷却の状態を保つ。最終的には氷になるが、このような氷は細胞壁に与える損傷が小さい。研究チームは過冷却水から生成する氷の体積変化が最小になることを発見した。この原理を食糧の冷凍に応用できれば、凍結損傷を最小に抑えることができる。

小林研究員らはこれまでに、マグネタイト微粒子が多くの動植物組織に存在することを報告してきた。今回は僅かながらのフェリ磁性物質マグネタイト量を検出しているセロリと牛肉片に、地球の磁場より10倍から20倍程度強い磁場を外部振動させ、過冷却を促進した。

その結果、試料ごとに異なる凍結特性は、組織中に含有するマグネタイト含有量の違いによることが明らかになった。外部振動磁場で凍結過程がコントロールできるということは、試料内のマグネタイト含有量にあわせた調整が可能になるという、驚きの実験結果であった。この研究結果は、計画的な食糧保存、原種の長期保存・凍結保存技術に向けた医療への応用が期待される。

背景

水の凍結過程では水分子クラスター[用語5] が氷晶核サイトとなる金属・ミネラルなどの微粒子の表面に集まり、針状に結晶成長し、組織内の細胞膜を破壊する。凍結過程において、細胞組織の破壊を最小限に抑える手法が望まれていた。マグネタイトは、古典的なフェライトで、非常に強い磁性を示す物質である。小林研究員らは“生体内マグネタイト微粒子氷晶モデル説”に基づいて、生体内にあるマグネタイト微粒子のみが、振動磁場下で過冷却操作可能な氷晶核因子となることを解明しつつある。

東京工業大学は当時の電気化学学部の加藤与五郎・武井武の両教授によって築かれたフェライト産業の発祥地である。1930年、両教授が発明したフェライト強磁性物質は、磁気レコード用テープとして初めて使われ、その後、幅広く応用されている。

生体組織内に存在するマグネタイト微粒子の分散状態と異なり、合成マグネタイトを水溶液中に分散させることの困難が予想された。しかし研究チームの使用したマグネタイト微粒子は、国内のフェライト製造会社が湿式沈殿法で製造したもので、今回の実験結果に結びついた。マグネタイトの探索がフェライト専門分野から学際的な研究へと展開している。

今後の展開

氷晶の核形成は、地球・惑星科学においても、その気候・環境を考える上で重要な概念となる。マグネタイト微粒子が大気の構成要素となっている環境下においては、磁性は氷晶形成に影響する。例をあげると、非常に強い磁場[用語6]がある木星では、マグネタイトの果たす役割は大きいが、磁場がない惑星では小さくなる。

また、水が液体状態で存在するハビタブルゾーン[用語7]内の太陽系外地球型惑星では、大気の対流パターンが地球型のものとは全く異なり、マグネタイトが核となってできる氷晶雲対流が生じない。氷晶の核形成過程におけるマグネタイトの役割を理解することは、今後の気候変動モデルを考える上で大いに役立つと考える。

参考図 静磁場中で磁気方向に並んだ磁性細菌の電子顕微鏡画像
参考図 静磁場中で磁気方向に並んだ磁性細菌の電子顕微鏡画像。

磁性細菌内で形成されるマグネタイト微粒子は、強磁性を示すので、外部磁場の方向に応答する。同様に、マグネタイト微粒子は、動植物にも存在することが明らかになっている。本研究の基本となるマグネタイト氷晶核モデルは、この観察結果からヒントを得たものである。並んでいる黒い結晶は、単一磁区マグネタイトを示す。

(画像:小林厚子提供)

用語説明

[用語1] マグネタイト : 磁鉄鉱。鉄の酸化物からなる鉱物で、黒色で光沢があり、強い磁性をもつ。主要な鉄鉱石。

[用語2] 過冷却 : 液体の状態のまま凝固点以下の温度まで冷却されること。

[用語3] 氷晶 : 氷の結晶。特に六角柱、六角板、樹枝状などの形をした、小さな氷の粒子のことを指すことが多い。

[用語4] フェリ磁性 : 結晶中に逆方向やほぼ逆方向のスピンを持つ2種類の磁性イオンが存在し、互いの磁化の大きさが異なるために全体として磁化を持つ磁性のことである。

[用語5] 水分子クラスター : 水分子が水素結合で結びついてできる集合体。

[用語6] 磁場 : 本論における磁場・磁気とは、惑星が持つ磁性をさす。地磁気は、地球により生じる磁場をいう。静磁界普通は静止した磁荷 (磁石) のつくる磁場をいう。

[用語7] ハビタブルゾーン : 宇宙における、生命の生存に適した領域。恒星の周囲をまわる惑星の表面において、水が液体で存在する温度になる領域を指す。

論文情報

掲載誌 :
米国科学アカデミー紀要
論文タイトル :
Magnetic Control of Heterogeneous Ice Nucleation with Nanophase Magnetite: Biophysical and Agricultural Implications
著者 :
Atsuko Kobayashi, Masamoto Horikawa, Joseph L. Kirschvink and Harry N. Golash
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

小林厚子 研究員

Email : atsukoa@elsi.jp, kobayashi.a.an@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2708 / Fax : 03-5734-3416

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

役員会トピックス:スウェーデンのウプサラ大学と全学協定を新規締結

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。

東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

5月11日の会議で承認された新しい取り組みについて、紹介します。

5月11日 役員会

主な審議事項等

  • 東京工業大学学修規程の一部改正について
  • 東京工業大学リーダーシップ教育院規則の一部改正について
  • ウプサラ大学(スウェーデン)との全学・授業料等不徴収協定の新規締結について
  • 平成31年度東京工業大学入学者選抜試験実施日程について
  • 平成30年春の勲章受章者について

トピック:スウェーデンのウプサラ大学と全学・授業料等不徴収協定を新規締結

ウプサラ大学は1477年に設立された、欧州でも最も権威ある高等教育・研究機関の一つです。大学関係者(卒業生・教員等)から多数のノーベル賞受賞者を輩出しており、世界最高レベルの科学者達と頻繁に交流できる極めて恵まれた学術環境にあります。

本学とウプサラ大学は、2014年より毎年合同シンポジウムを開催し、研究交流を深めてきました。また、2014年に大学間交流の進展を約束する基本合意書(Letter of Intent)を交わし、2016年には本学理学院、工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院とウプサラ大学理工学院との間で部局間協定を締結するなど、組織の連携を発展させてきました。このたびの全学・授業料等不徴収協定の締結により、従来の研究交流に加え、学生交流を促進します。

この締結により本学と外国の大学との間の全学協定の数は110となり、東工大の国際化がますます発展することが期待されます。

研究者・留学生向け英文メールニュース 「Tokyo Tech Bulletin No. 47」を配信

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Tokyo Tech Bulletin(トーキョー テック ブリテン)」は、東京工業大学の研究成果やニュース記事、学生の活動などを紹介し国内外へ広く配信する英文メールニュースです。

この度、Tokyo Tech Bulletin No. 47が発行されました。

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SPECIAL TOPICS

Nobuyuki Kawai - Exploring the origins of the Universe and elements with gamma-ray bursts

Nobuyuki Kawai - Exploring the origins of the Universe and elements with gamma-ray bursts

Research

Keeping an eye on the health of structures

Keeping an eye on the health of structures

Scientists at Tokyo Tech used synthetic-aperture radar data from four different satellites, combined with statistical methods, to determine the structural deformation patterns of the largest bridge in Iran.

The physics of finance helps solve a century-old mystery

The physics of finance helps solve a century-old mystery

By unleashing the power of big data and statistical physics, researchers in Japan have developed a model that aids understanding of how and why financial Brownian motion arises.

Tokyo Tech's six-legged robots get closer to nature

Tokyo Tech's six-legged robots get closer to nature

A study led by Tokyo Tech researchers has uncovered new ways of driving multi-legged robots by means of a two-level controller. The proposed controller uses a network of so-called non-linear oscillators that enables the generation of diverse gaits and postures, which are specified by only a few high-level parameters. The study inspires new research into how multi-legged robots can be controlled, including in the future using brain-computer interfaces.

Researchers at Earth-Life Science Institute (ELSI) of Tokyo Tech uncover new mechanism for evolution that helps explain the origin of new functions

Researchers at Earth-Life Science Institute (ELSI) of Tokyo Tech uncover new mechanism for evolution that helps explain the origin of new functionsouter

An often-wondered question about evolution is 'Where do new forms and functions come from?' Understanding the source of novelty in evolution is key to understanding how life got from its simplest precursors to the complex panoply of biodiversity we observe in the world today.

In the spotlight

Tokyo Tech Bulletinは英語で配信を行っていますが、コンテンツは一部を除いてすべて日英両方で掲載しています。

お問い合わせ先

広報・地域連携部門

E-mail : publication@jim.titech.ac.jp

ストレス顆粒の消失促す脱ユビキチン化酵素を発見

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神経変性疾患の新たな治療法開発にヒント

要点

  • 真核細胞の中のストレス顆粒は、異常に形成すると神経変性疾患[用語1]の発症の一因になる
  • 2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促すことを発見した
  • 神経変性疾患の理解を深め、治療法の開拓に貢献する可能性

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの駒田雅之教授、福嶋俊明助教、生命理工学研究科 生体システム専攻の解玄(Xie Xuan)大学院生らの研究グループは、2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促すことを発見した。ストレス顆粒は真核細胞の中に存在するRNA-タンパク質複合体に富む構造体で、細胞が熱などのストレスを受けると形成され、過剰に蓄積すると種々の神経変性疾患発症の一因になる。

研究グループは、タンパク質のユビキチン化修飾を外す2つの脱ユビキチン化酵素(USP5、USP13)が、ストレス顆粒に局在することを見出した。さらに、脱ユビキチン化酵素の機能を調べた結果、ストレス顆粒に含まれているタンパク質のユビキチン化修飾を外すことでストレス顆粒の消失を促す役割を果たしていることを発見した。ストレス顆粒を効率的に消失する手法を見い出せれば、神経変性疾患の新しい治療法開発に貢献できる可能性がある。

本成果は、2018年4月12日付けの英国の細胞生物学専門誌「Journal of Cell Science」電子版に掲載された。

研究成果

真核細胞は、熱・酸化ストレス[用語2]・低酸素・低栄養・ウイルス感染などのストレスに曝されると、細胞内のメッセンジャーRNA(mRNA)[用語3]の翻訳が停止する。翻訳停止中のmRNAは、RNA結合性タンパク質の一部と結合して集合し、細胞内部に直径1-2 μm(マイクロメートル)の顆粒を形成する。この顆粒は“ストレス顆粒”と呼ばれる。ストレス顆粒は翻訳停止中のmRNAの一時的な保管場所であるのみならず、細胞のストレス応答について必要な様々な反応の場として重要な役割を担っている。細胞が受けているストレスが解消すると、ストレス顆粒は消失し、保管されていたmRNAは再び翻訳に利用されるようになる。しかし、何らかの原因でストレス顆粒が消失せず過剰に蓄積する状態になると、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を引き起こすと考えられている。ストレス顆粒の形成や消失を調節する分子機構は、未だに不明点が多いのが現状だ。

研究グループは、細胞を44 ℃の環境で培養することによって形成されるストレス顆粒を詳細に解析し、多くのユビキチン化タンパク質が含まれていることを見つけた。この熱誘導性のストレス顆粒には脱ユビキチン化酵素であるUSP5とUSP13の2つが引き寄せられており、これらはストレス顆粒内の様々な種類のタンパク質のユビキチン化修飾をはずす役割を担っていた。USP5やUSP13の働きを人為的に抑えると、ストレス顆粒にユビキチン化タンパク質が過剰に蓄積するようになり、ストレスの解消後もストレス顆粒が消失しにくくなった。これら一連の研究から、この2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促す働きをもつことが明らかになった。

USP5やUSP13はストレス顆粒内のユビキチン鎖を分解する。この反応は、ストレス顆粒がストレスの解消後にすみやかに消失するために必要である。

背景と経緯

タンパク質のユビキチン化修飾は、標的タンパク質に小さなタンパク質“ユビキチン”が共有結合する反応である。多くの場合、すでに標的タンパク質に結合しているユビキチンに別のユビキチンが結合することにより、鎖状のユビキチンの重合体(ユビキチン鎖)が形成される。ユビキチン化修飾には標的タンパク質の分解を誘導したり、タンパク質複合体の形成を促進するなど様々な役割がある。

研究グループでは、ユビキチン鎖を分解する “脱ユビキチン化酵素” の研究を長年進めてきた。ヒトには脱ユビキチン化酵素が約90種類存在する。今回、2つの脱ユビキチン化酵素USP5とUSP13がストレス顆粒に局在することを見出し、この2つの酵素がストレス顆粒の調節に重要な役割を果たしていることを発見した。

今後の展開

ALSをはじめ、様々な神経変性疾患でストレス顆粒の構成タンパク質の遺伝子変異が見つかっている。最近の研究から、これらの遺伝子変異によってストレス顆粒が過剰に蓄積するようになり、神経変性疾患発症の原因になっていることが明らかにされつつある。今回、2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失に重要な役割を果たしていることを明らかにした。この発見をもとに、例えばストレス顆粒に局在するこれらの脱ユビキチン化酵素の活性を高めるなどして、過剰に形成されたストレス顆粒を効率的に消失させる手法を開発できれば、神経変性疾患の新しい治療法の開発につながる可能性がある。

用語説明

[用語1] 神経変性疾患 : 脳や脊髄に存在する神経細胞のうち、特定の種類の神経細胞の機能が徐々に低下するあるいは死滅する疾患。ALSや脊髄小脳変性症などが含まれる。

[用語2] 酸化ストレス : 細胞内に過剰な活性酸素が存在することにより、タンパク質やDNAなどの生体成分が過剰に酸化される状態。タンパク質やDNAは過剰に酸化されると本来の機能を果たせなくなる。

[用語3] メッセンジャーRNA(mRNA) : 遺伝子であるデオキシリボ核酸(DNA)の塩基配列を鋳型としてRNA合成酵素により合成され、合成後はリボソームと結合してタンパク質合成(翻訳)に利用される。翻訳により作られるタンパク質のアミノ酸配列を指定する役割を果たす。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Cell Science
論文タイトル :
Deubiquitylases USP5 and USP13 are recruited to and regulate heat-induced stress granules through their deubiquitylating activities
著者 :
Xie Xuan(解玄)、松本俊介、遠藤彬則、福嶋俊明、川原裕之、佐伯泰、駒田雅之
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 助教

福嶋 俊明(ふくしま としあき)

E-mail : tofu@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5702

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


可視光で働く新しい光触媒を創出

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常識を覆す複合アニオンの新材料を発見

要点

  • 酸素とフッ素を構成元素に含む可視光応答型の新しい光触媒を開発
  • アニオン複合化で得られる結晶構造を活用し太陽光の主成分を効率よく吸収
  • 太陽光をエネルギー源に水から水素を製造、CO2も有用化学物質へ変換

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、石谷治教授、栗木亮大学院生・日本学術振興会特別研究員らは中央大学 理工学部の岡研吾助教と共同で、鉛とチタンからなる酸フッ化物[用語1]が可視光照射下で光触媒として機能することを発見した。

酸フッ化物が例外的に小さなバンドギャップ[用語2] を有していることから光触媒の可能性を検討して実現した。可視光照射下で、水からの水素生成や二酸化炭素(CO2)のギ酸[用語3]への還元的変換反応に対して活性となるため、幅広い分野での応用が期待される。

これまで、酸フッ化物はバンドギャップが大きく、可視光応答型光触媒として不向きと考えられていた。今回の前田准教授らの発見により、物質探索の対象にならなかった新たな材料群に、革新的光触媒機能を見い出せる可能性が見えてきた。

研究成果は2018年5月7日、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

研究の背景

太陽光に多く含まれる可視光を利用して、水や二酸化炭素を水素やギ酸などの有用物質に変換する光触媒は、30年以上も前から国内外で精力的に研究されている(図1)。このような可視光応答型光触媒として、同一化合物内に複数の陰イオン(アニオン)種が含まれる“複合アニオン化合物”が注目されている。可視光に応答する複合アニオン光触媒の研究対象は、これまで酸窒化物、酸硫化物、酸ハロゲン化物(Cl=塩素、Br=臭素、I=ヨウ素)にほぼ限られており[参考文献1]、酸素とフッ素をアニオン種として含む酸フッ化物はほとんど検討されてこなかった。

可視光応答型光触媒を用いた有用物質製造

図1. 可視光応答型光触媒を用いた有用物質製造

研究成果

前田准教授らは、酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2(鉛・チタン・酸素・フッ素)が可視光応答可能な狭いバンドギャップを特異的に有し、安定な可視光応答型光触媒となることを見出した。結晶構造解析の結果、Pb2Ti2O5.4F1.2はアニオン複合化により酸化物では安定的に得られないパイロクロア構造[用語4]をとり、その構造の特徴として酸素―鉛結合距離が特異的に短くなっていることが明らかになった(図2)。

さらには、第一原理計算[用語5]によるバンド構造解析により、同材料の価電子帯において酸素成分と鉛成分との混ざり合いが顕著なことを突き止め、この酸素―鉛結合がもたらす強いイオン間相互作用がバンドギャップの縮小に寄与していることがわかった。

パイロクロア型酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2の結晶構造と光吸収特性

図2. パイロクロア型酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2の結晶構造と光吸収特性

今後の展開

電気陰性度[用語6]が最大のフッ素を酸化物に導入しても一般的にはバンドギャップの縮小は期待できない。このため、これまでアニオン種として酸素とフッ素を含む酸フッ化物は可視光応答型光触媒の候補とはなりえなかった。

今回の“常識はずれ”な発見は、アニオン複合化で安定化されたパイロクロア構造中において、イオン間の相互作用が強く働いたことが起源となっている。同様の視点に立ったバンドギャップ縮小・光触媒機能の創出は、他の物質群でも実現可能であると考えられる。つまり、太陽光エネルギー変換を指向した光触媒開発に新たな設計指針を与えるものと期待される。

付記

本研究は東京工業大学すずかけ台分析部門の魯大凌博士、北陸先端科学技術大学院大学の前園涼教授、本郷研太准教授、京都大学大学院工学研究科の陰山洋教授のグループとの共同で行った。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、新学術領域公募研究「簡便かつ安価な合成法を用いた新規Pb、Bi含有酸フッ化物の物質探索」(代表:岡研吾 中央大学 助教)科学技術振興機構CREST「太陽光の化学エネルギーへの変換を可能にする分子技術の確立」(代表:石谷治 東京工業大学 教授)等の助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] 酸フッ化物 : 同一化合物内にアニオン種として酸素とフッ素を含む無機化合物。

[用語2] バンドギャップ : 半導体において電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。

[用語3] ギ酸 : 分子式HCOOHで表されるもっとも単純なカルボン酸。適当な触媒を用いれば、水素(H2)とCO2に分解できるため、貯蔵や輸送に困難をともなう水素のキャリア(エネルギーキャリア)として注目されている。

[用語4] パイロクロア構造 : A2B2X6X'A,Bはカチオン、X,X'はアニオン)の一般式で表される物質の構造の一つ。Aサイトイオン(Pb)とX'サイト(O)の間に二つの短い結合が存在するのが特徴。

[用語5] 第一原理計算 : 量子力学の原理に基づき、経験的なパラメータや実験データに頼ることなく、物質の電子構造や電子物性などを計算する手法。固体の電子状態を司る各元素の軌道成分を明らかにすることができる。

[用語6] 電気陰性度 : 原子核が電子を引き寄せる力の強さを表す数値のこと。

参考文献

[1] Hiroshi Kageyama, Katsuro Hayashi, Kazuhiko Maeda, J. Paul Attfield, Zenji Hiroi, James Rondinelli, Kenneth R. Poeppelmeier, Nature Commun., 2018, 9, 772.

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
A Stable, Narrow-Gap Oxyfluoride Photocatalyst for Visible-Light Hydrogen Evolution and Carbon Dioxide Reduction
著者 :
Ryo Kuriki, Tom Ichibha, Kenta Hongo, Daling Lu, Ryo Maezono, Hiroshi Kageyama, Osamu Ishitani, Kengo Oka, Kazuhiko Maeda
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

准教授 前田和彦

E-mail : maedak@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2239 / Fax : 03-5734-2284

中央大学 理工学部

助教 岡研吾

E-mail : koka@kc.chuo-u.ac.jp
Tel : 03-3817-1905

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

中央大学 広報室広報課

Email : kk@tamajs.chuo-u.ac.jp
Tel : 042-674-2050 / Fax : 042-674-2959

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに

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スピン軌道工学に道

発表のポイント

  • 薄膜のコバルト層とパラジウム層の界面にて、薄膜の面に垂直な方向に磁石の向きが揃うメカニズムを明らかにしました。
  • 薄膜界面のコバルトとパラジウムの電子軌道の形を、放射光[用語1]を用いた磁気分光法(X線磁気円二色性(XMCD)[用語2])による元素別スペクトルの計測と理論計算から明らかにしました。特に、2つの元素に関して同条件で測定できる方法により、精密な測定に成功しました。
  • コバルトとパラジウムの界面でのスピンと軌道の相互作用から垂直に磁化が揃うことを実証しました。本結果は界面原子の中の電子スピンと電子軌道を利用したスピン軌道工学(スピンオービトロニクス)の新しい研究に繋がることが期待されます。

発表概要

東京大学 大学院理学系研究科の岡林潤准教授、物質材料研究機構の三浦良雄独立研究者、東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の宗片比呂夫教授による研究チームは、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)の薄膜界面に膜垂直方向に磁石の性質が生じるメカニズムについて、放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD)と第一原理計算[用語3]により明らかにしました。特に、CoとPd原子内の電子軌道の形を明確にし、元素によって異なる役割を担っていることを実証しました。得られた結果は、磁性体と非磁性体が接合した界面に誘起される磁性に関する基礎物理学の理解を進展させるのみでなく、スピンを操作して低消費電力にて動作するスピントロニクス素子の設計においても重要な役割を果たすことが期待されます。

CoとPdの界面では、両元素の磁気的な相互作用により、膜面に垂直方向に磁化が揃うことが知られています。また、膜に垂直方向に磁化する材料は大容量の磁気記録デバイスには不可欠なものとして、スピントロニクス分野では研究されています。研究チームは、CoとPdの接する界面原子中の電子軌道の形を明確にし、Coでは外殻3d電子軌道の異方性が支配的であり、Pdでは外殻4d電子軌道には異方性がなく、3d系とは異なる四極子相互作用の形をとっていることが判りました。これを調べるためには、元素別に磁気状態を調べる必要があり、放射光を用いた元素選択的な磁性の検出手法が不可欠です。愛知県岡崎市にある分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)のビームラインBL4BにてXMCDの測定を行いました。また、実験の一部は茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構放射光施設(フォトンファクトリー)において、東京大学 大学院理学系研究科 スペクトル化学研究センターが所有するビームライン(BL-7A)にて測定を行うことにより、CoとPdの軌道の異方性を明確にできました。実験結果は、第一原理に基づく理論計算とも一致し、界面に誘起される新しい磁性材料の創出に繋がることが期待されます。

本成果は、2018年5月29日(英国夏時間午前10時)に、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されます。なお、本研究は科研費基盤研究(S)「界面スピン軌道結合の微視的解明と巨大垂直磁気異方性デバイスの創製」、科研費基盤研究(B)「外場摂動印加時の磁気分光を用いた軌道磁気モーメントの操作に関する研究」の助成を受けて実施されました。

(a)設計した構造の模式図。CoとPd層が原子レベルで堆積している。(b)Co、Pdの各元素における円偏光によるX線吸収スペクトル(上段)とX線磁気円二色性スペクトル(下段)。赤(実線)と青(点線)は左右円偏光の違いに相当する。(c)XMCDおよび第一原理計算から得られた界面近傍のCoとPd原子の軌道状態の模式図。
図1.
(a)設計した構造の模式図。CoとPd層が原子レベルで堆積している。(b)Co、Pdの各元素における円偏光によるX線吸収スペクトル(上段)とX線磁気円二色性スペクトル(下段)。赤(実線)と青(点線)は左右円偏光の違いに相当する。(c)XMCDおよび第一原理計算から得られた界面近傍のCoとPd原子の軌道状態の模式図。

発表内容

強磁性体と非磁性体を交互に堆積した構造(磁気接合)は、磁気メモリーなどの記録素子やハードディスク内の磁気センサーとして広く用いられています。特に、薄膜の面に垂直方向に磁化の向きを揃えて磁気記録を行う技術は、高記録密度を達成するために重要です。これらの素子の最適化を進めることは、スピントロニクスの研究分野におけるデバイス開発では最も重要なことの一つです。磁石は本来、膜に平行方向に磁化が揃うことでエネルギーが低くなり安定します。一方、膜に垂直方向に揃う方が安定するCo/Pd界面のような特殊な物質も存在します。Co/Pd界面は、Coの磁石としての性質、Pdの重い元素としての性質が合わさって垂直磁化を示します。しかし、強磁性体Coと非磁性体Pdが接合した界面にて磁化が垂直方向に誘起される電子論的なメカニズムについて、今まで明確ではありませんでした。特に、Pdのスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすとされてきましたが、軌道の役割については詳細については調べられていませんでした。

研究チームは、電子軌道が作る磁気モーメントを調べられるXMCDに着目しました。特に、CoとPdを1回の測定にて、同条件で比較できる特徴があることに着目し、軌道の異方性を詳細に調べました。方位に依存した軌道磁気モーメントの分布をそれぞれの元素について調べ、Coでは異方的な分布をしており、Pdでは等方的な分布であることが判りました。この解釈は、XMCDのみでなく、第一原理計算により明らかになりました。特に、界面のCoとPd原子中の電子の軌道混成により、Coの軌道磁気モーメントが膜垂直方向に大きくなることを見出しました。また、Pd原子中の電子では、スピンが反転した状態が四極子のように分布していることが安定であることを見出しました。これらのことは、FeやCoなどの磁石の性質を持つ3d元素とPd, Ptなどの貴金属の元素の性質が合わさって出現する垂直磁化の起源に迫るものであり、今後のデバイス設計に向けた界面の電子状態の理解に指針を与えるものとなります。

本研究は、磁気記録やスピントロニクスの研究にて広く用いられているCoPdを用いた材料設計、素子設計を行う上で、極めて重要な指針を与えるものです。また、近年注目を集めている界面でのトポロジカルな性質の観測、操作にも有用な研究基盤になりうるものです。垂直磁化を用いた高記録密度を可能にする素子設計、近接効果がもたらす界面での誘起磁性に関する研究の進展が期待されます。今後、界面のスピンと軌道状態を人工的に設計することができ、今までにない新しい磁石の性質の操作に関する研究が拓けるものと期待されます。

用語説明

[用語1] 放射光 : 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。タンパク質の結晶構造解析の分野でも大きな成果をあげている。

[用語2] X線磁気円二色性(XMCD:X-ray Magnetic Circular Dichroism) : 放射光から出る左右円偏光により元素の内殻から遷移する吸収スペクトルを測定する。左右円偏光による各元素の吸収強度の違いがXMCDである。これにより、元素別の磁気状態について知ることができる。

[用語3] 第一原理計算 : 物質を構成する基本粒子である原子核と電子の運動、及びその間に働く相互作用のみを入力パラメータとして物質の性質を探る物理計算手法。実験とは独立して近似の範囲内では非常に高精度に、物質の物性を計算することができる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Anatomy of interfacial spin-orbit coupling in Co/Pd multilayers using X-ray magnetic circular dichroism and first-principles calculations
著者 :
岡林潤、三浦良雄、宗片比呂夫
DOI :

お問い合わせ先

東京大学 大学院理学系研究科 スペクトル化学研究センター

准教授 岡林潤

Email : jun@chem.s.u-tokyo.ac.jp

取材申し込み先

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室

Email : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

100ミリ秒以内に脳波から運動意図を高精度に推定する方法を考案

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脳の予測機能を利用して、動きたい方向を読み取る新しい技術

要点

  • 脳の予測機能を利用し、予測と意図した結果とのずれにより発生する脳波から運動の意図を検出
  • 使用者の負担が小さく100ミリ秒以内の高速度、85%の高精度で意図の読み取りが可能
  • 四肢麻痺患者などが外部機器を操作するインターフェースへの応用に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長 中鉢良治、以下「産総研」)とフランス国立科学研究センター(理事長 Antoine Petit、以下「CNRS」)が共同で産総研 情報・人間工学領域(領域長 関口智嗣)に設置したAIST-CNRSロボット工学研究ラボ(研究ラボ長 Abderrahmane Kheddar)Ganesh Gowrishankar CNRS主任研究員、同領域 知能システム研究部門(研究部門長 河井良浩)吉田英一 副研究部門長は、国立大学法人 東京工業大学(学長 益一哉、以下「東工大」)科学技術創成研究院 小池康晴 教授、吉村奈津江 准教授と国立大学法人 大阪大学(総長 西尾章治郎、以下「大阪大」)大学院情報科学研究科 安藤英由樹 准教授と共同で、脳の予測機能を利用し、脳波から高速・高精度に思い描いた運動(運動意図)を読み取るブレーン・コンピューター・インターフェース(BCI)[用語1]技術を考案した。

脳波から運動意図を直接読み取る従来のBCI技術では、精度を高めるための訓練を要したため、使用者の負担が大きかった。今回考案した技術は、運動を行う際に脳が運動を行った後の体の状態(運動結果)を予測する機能を利用している。運動を錯覚させる刺激を与え、運動意図から予測した運動結果と錯覚した運動結果のずれを脳波から読み取り、そのずれから運動意図を精度良く推定できる。前庭電気刺激(GVS)[用語2]により運動を錯覚させて、脳波から左右への運動意図を推定する実験により、100ミリ秒以内の計測で、平均85%以上の精度で運動意図が推定できることが確認できた。訓練が不要で、負担が小さいため、四肢麻痺患者などが車いすなどの外部機器を操作するインターフェースへの適用が期待される。

なお、この技術の詳細は、2018年5月9日に米国科学雑誌Science Advances誌で発表された。

今回開発したBCI技術の概要

今回開発したBCI技術の概要

開発の社会的背景

脳から信号を読み取り、計算機につなぐインターフェースであるBCIの究極の目標は、思い通りに機械を操作できることである。例えば、腕を失った人がBCIにより義手を思い通りに動かせれば、大きな生活改善につながると期待できる。過去20年に渡り、多くのBCIの方法が提案されてきたが、個々人の脳波の特徴に合わせて装置を設定するための長時間の訓練や、また画像による視覚的な入力に反応して発生する脳波を検出するなど、追加の感覚刺激(認知的負荷)が必要である、という課題があった。

研究の経緯

産総研とCNRSが共同で設置したAIST-CNRSロボット工学研究ラボでは、BCI技術によるヒューマノイド操作や人間・ロボットの身体の共有感覚の解明などの先進的な人間・ロボット調和技術を開発してきた。一方で、東工大では脳信号解析技術を、また大阪大では脳への外部信号入力技術の開発を進めてきた。今回、共同研究により各機関の技術を結集して、長時間の訓練や追加の認知的負荷が不要で、より優れた推定結果を出す新しい運動意図の解析技術を開発することとした。

なお、本研究開発の一部は、産総研・CNRSロボット工学共同研究による支援を受けた。

研究の内容

人間は運動を行うとき、脳が持つ身体モデル(順モデル[用語3])に基づいて運動後の体の状態を予測して、意図した結果との誤差(予測誤差)が小さくなるように筋肉に運動指令を出すと考えられている。今回、この予測誤差が脳波に大きな影響を与えると考え、これを運動意図の推定に利用する新しいBCIの手法を考案した。この手法では、外部から感覚を刺激する装置を用いて錯覚させた運動の結果と、実際の運動意図から脳が予測した運動の結果との予測誤差を脳波から検出する。検出した予測誤差と、刺激によって錯覚させた運動から、運動意図を推定する。従来の手法は、使用者が意図する動きを脳波から直接的に解読する方法が用いられてきたが、開発した手法は解読する対象が予測誤差である点が異なっている。具体的には、錯覚を引き起こす人工的な感覚刺激装置(前庭電気刺激(GVS)) と脳波を用い、使用者が意図した動きと外部刺激によって錯覚した動きとが合致する度合いを評価して識別する。

この手法を実証するため、車いすの操作を想定した左右の移動方向を識別する実験を行った。まず、左右にあるスピーカーのどちらかから、高音ビープ音を鳴らし、脳波を検出するセンサーとGVSを装着し、車いすに乗った被験者に音が来た方向に曲がる動きをイメージさせた。その2秒後に、GVSを用いて、平衡感覚をつかさどる前庭器官に、合図とは関係なく左右どちらかにランダムに曲がる動きを錯覚させる刺激を与え、脳波を測定した。低音のビープ音を合図に、被験者は動きのイメージを止め、一回の測定が終了する(図1)。これを複数回繰り返し、意図した方向と錯覚させた方向が合っているかどうかの正誤情報を、測定した脳波から検出するための統計的な解析を行った。脳波から検出した正誤情報と、GVSからの入力方向を照らし合わせて、被験者がイメージした方向を推定した。すべての被験者について、刺激を与えてから96ミリ秒という短い時間で、高い推定精度(87.2%中央値)で運動意図を推定できた(図2)。なお、刺激は意識しきい値[用語4]以下で、被験者が気づかない程度の弱い刺激であり、脳波から得られた正誤情報は脳により無意識に判別されたもので、被験者には追加の認知的負荷を与えていない。

この手法は、操作者の訓練を必要とせず、また操作者に認知的な負荷を強いることなく、従来よりも良好な精度で運動意図を推定できる。さらに、脳波の読み取りから推定までが、刺激を与えてから100ミリ秒未満で行えるため、リアルタイムで利用できる。

意図検出の手順

図1. 意図検出の手順

複数の被験者による意図検出の実験結果

図2. 複数の被験者による意図検出の実験結果

脳信号から直接意図を検出する従来手法による意図の正答率を赤線、今回考案した手法による意図検出の正答率を黒線で示す。点(●)は、合図後の各時間での推定の正答率を示す。各点のボックスは正答率の25~75%の範囲、誤差バーは全範囲を示す。左上の図は脳波の活動部位を示す(上が前頭側)。

今後の予定

今後は、今回提案した手法を運動意図の表明が困難な全身麻痺患者のコミュニケーションツールとして使用できるかどうか、臨床での試験を開始する。また、既存のBCIと併用することで、特に運動制御に関して機能を向上させるための研究を行う。

用語説明

[用語1] ブレーン・コンピューター・インターフェース(BCI) : 脳から信号を計測し、計算機により処理を行い、機器を操作したりするための情報を得るインターフェースのこと。脳からの信号計測には、ヘッドギアやヘルメットに装着した電極により頭皮を通して間接的に計測する非侵襲的な方法や、手術で直接電極を脳に埋め込む侵襲的な方法がある。

[用語2] 前庭電気刺激(GVS) : 頭部に取り付けた電極により電気信号を外部から加え、内耳にあり平衡感覚をつかさどる前庭器官を刺激すること。これにより、動いている方向を錯覚させることができる。今回は、操作者の負担を考慮し、人間が意識しない程度の弱い信号を使用している。

[用語3] 順モデル : 脳神経科学のこれまでの研究から、運動を行った場合の感覚の結果を予測できるように、脳はその内部にシミュレーションするための身体のモデルとして「内部モデル」を持っていると考えられており、小脳にその機能があるとされている。内部モデルは、順モデルと逆モデルに区分される。順モデルは脳から筋肉に送信された運動指令から運動結果を予測し、逆モデルは、所望の運動結果からそれを実現するために必要な運動指令を求める。

[用語4] 意識しきい値 : 外部からの刺激が、感覚として意識されるために必要な最小の強さの値。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Utilizing sensory prediction errors for movement intention decoding: A new methodology
著者 :
Gowrishankar Ganesh, Keigo Nakamura, Supat Saetia, Alejandra Mejia Tobar, Eiichi Yoshida, Hideyuki Ando, Natsue Yoshimura and Yasuharu Koike
DOI :
掲載日:
2018年5月9日

研究内容に関するお問い合わせ

東京工業大学 科学技術創成研究院

バイオインタフェース研究ユニット

教授 小池康晴

E-mail : koike@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5054

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK総合「探検バクモン」に工学院 機械系の鈴森康一教授、システム制御系の中島求教授が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授、システム制御系の中島求教授がNHK総合「探検バクモン」に出演します。「探検バクモン」は爆笑問題が「立ち入り禁止エリア」や「超巨大施設の裏側」など、普段は入れない場所へ訪れ、幅広い探検を繰り広げる番組です。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

塚越秀行准教授
中島求教授

コメント

鈴森康一教授

爆笑問題さん、サヘルさん、品川庄司さんに実験室で実物をお見せしながら、いろいろな話をさせて頂きました。人工筋肉を使った身体サポートスーツ、筋肉ロボット、20mの長いロボットアームといった私の研究室のロボット紹介のほか、研究の面白話や未来のロボットなど話が広がり、楽しい撮影でした。

中島求教授

当研究室の水泳ロボット「スワマノイド」の紹介に始まり、水泳のシミュレーション研究の可能性にまで話が広がりました。ロボットの調整には学生と苦労しましたが、収録当日は爆笑問題のお二人のかけ合いを間近に見られて楽しませてもらいました。

番組情報

  • 番組名
    NHK総合「探検バクモン」
  • 放送予定日
    2018年6月6日(水)20:15 - 20:43
  • (再放送)
    2018年6月13日(水)4:02 - 4:30

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

グローバル産業リーダー育成プログラム 2018年度8月Enterprise Engineering(Leading Digital)コースのご案内

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東京工業大学社会人アカデミー事務室

東京工業大学 社会人アカデミーでは、産業のグローバル化に対応できる企業人材を育成することを目的として、グローバル産業リーダー育成プログラム(GINDLE―Global INDustrial LEader)を設置しております。

その中のコースとして、情報システムベンダーあるいはユーザ企業の情報システム関連部署の部課長レベルおよびシニアコンサルタントを対象にEnterprise Engineering(Leading Digital)コースを開講いたします。

ICT(情報通信技術)の利活用に焦点を当てた講義・演習を通じて、企業活動におけるICT活用力向上のための、知識とスキルを身につけることができます。 以前は英語での講義でしたが、皆様からのご要望にお応えし、今回は日本語で講義が行われます。

開催概要

受講期間
2018年8月23日(木)、24日(金)、25日(土)
定員
10名(※最小開催人数5名)
受講料
121,500 円(税込み)
受講場所
〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6 東京工業大学 田町キャンパス・イノベーションセンター410教室
お申込期間

2018年6月4日(月)~2018年8月3日(金)(締切日必着)

定員に達し次第、募集終了。お申込状況に応じて、締切日を変更することがあります。
申込方法および詳細
東京工業大学 社会人アカデミーWEBサイトouterから申込用紙をダウンロードし、必要事項を記入の上、下記の「お問合せ先」まで、メールに添付してお送りください。

「Enterprise Engineering(Leading Digital)コース」ポスター

お問い合わせ先

東京工業大学 社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp

Tel : 03-3454-8867、03-3454-8722

日本貿易振興機構(JETRO)と包括的連携推進協定を締結

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東京工業大学は5月30日、独立行政法人日本貿易振興機構(以下、JETRO)と、日本経済の発展と国際的に活躍する人材育成を目指した包括的連携推進協定を締結しました。

協定書を取り交わすJETROと東工大 (左から)JETRO:有田雄子アジア経済研究所研究企画部長、藤井真也知的財産・イノベーション部長兼サービス産業部長、石毛博行理事長、東工大:益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、水本哲弥理事・副学長(教育担当)

協定書を取り交わすJETROと東工大
(左から)JETRO:有田雄子アジア経済研究所研究企画部長、藤井真也知的財産・イノベーション部長兼サービス産業部長、石毛博行理事長、 東工大:益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、水本哲弥理事・副学長(教育担当)

本協定は、東工大とJETROが、学術、教育、産業等の分野で相互に連携し、産学連携面、人材教育面、学術研究面等での国際的な展開を推進することで、日本及び地域の発展と人材の育成に寄与することを目的としています。

今回の協定締結を契機として今後東工大とJETROは連携を深め、特に以下のテーマに協力して取り組むことで、日本経済の発展を目指します。

国際産学連携の推進

JETROが有する約70箇所の海外拠点と、東工大が有する海外拠点(東工大 ANNEX)とで連携し、海外企業や在外日系企業との産学連携を推進します。

大学発ベンチャーの支援

「東工大発ベンチャー100社」の実現に向け、大学シーズのビジネス化や、海外展開支援、若手アントレプレナーの育成、国内外のアクセラレーターとの交流機会の創出などに取り組みます。

グローバル人材の育成・定着

東工大の留学生等グローバル人材と、対日投資企業をはじめJETRO支援企業との相互理解・交流促進に取り組みます。

優れた研究力の連携

東工大とJETRO(アジア経済研究所等)という、異なる分野の研究者同士の交流を促進し、新たな研究の創出や、研究の深化を目指します。

お問い合わせ先・取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

放射性同位元素を含む排水の漏えいに対する対応完了について(放射線総合センター大岡山放射線実験施設)

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2017年10月13日に確認された本学放射線総合センター大岡山放射線実験施設における放射性同位元素を含んだ排水の漏えいについて、原因の究明及び再発防止策を講じ、原子力規制委員会に本件に関する最終報告書を提出し、対応を完了いたしました。

なお、汚染した土壌の除去は既に完了しており、汚染の規模及び周辺の状況から、人体、環境への影響がないことを改めて確認しております。

放射性同位元素を含んだ排水の漏えいの確認からこれまでの間、近隣の皆様をはじめ関係者の皆様にご心配をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


生命理工学院 第4回生命理工オープンイノベーションハブ(LiHub)フォーラム ―価値の共有による未来型健康管理社会の実現に向けて― のご案内

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国立大学法人東京工業大学の「生命理工オープンイノ ベーションハブ(LiHub)」では、研究グループが各々に目指している産学連携のビジョンを広く企業の皆様と共有させて頂くだけでなく、さらにそのビジョンに対する企業や社会の皆様からの率直なご意見をフィードバックして頂く協創のファーストステップとして「LiHubフォーラム」を開催しています。

第4回となる今回のLiHubフォーラムでは、価値の共有による未来型健康社会の実現を目指すメンバーで構成されるLiHub 「未来健康科学グループ」、および、東工大イノベーション研究推進体「未来型スポーツ・健康科学研究推進体」が中心となり、そこに産官から同じ志を持つ方々をお招きし、未来型健康管理社会の実現(社会実装)のための異分野協業の雰囲気を作り、キックオフの契機としたいと考えております。

また講演後は、参加者の皆さんが「未来健康科学グループ」を含むLiHub研究グループと意見交換できるポスターパネル発表と交流会を開催し、双方向コミュニケーションの場を設けます。奮ってご参加ください。

開催概要

日時
2018年06月25日(月) 13:00 - 17:00、17:10 - 18:30
会場
参加費

講演会:参加費 無料

ポスターセッション・異業種交流会(参加費2,000円)

登録
参加申し込みフォームouterから事前登録をお願いします。

関連情報

お問い合わせ先

生命理工オープンイノベーションハブ事務局

E-mail : lihubforum@bio.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5941

益学長がAEARU第42回理事会に出席

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全体写真

4月28日~29日に、東アジア研究型大学協会(AEARU:The Association of East Asian Research Universities)の第42回理事会が中国合肥市にある中国科学技術大学で開催され、東工大からは益一哉学長、関口秀俊副学長(国際連携担当)が出席しました。

AEARUは、1996年に東アジアにおける研究型大学間の交流促進を目的として設立されたフォーラムで、日本・中国・韓国・香港・台湾から18の大学が加盟しています。東工大は設立年より同フォーラムのメンバー校であり、2016年~2017年の2年間、理事校を務め、2016年8月には「AEARU第6回エネルギー・環境ワークショップ」を、2017年4月には第40回理事会を、本学で開催しました。また、AEARUメンバー校が開催する学生交流プログラムやワークショップにも本学の学生や研究者を定期的に派遣しています。

理事会には、議長校の筑波大学、副議長校の国立台湾大学、前議長校のソウル大学、及び(4つの理事校のうち)本学を含む3つの理事校からの代表者が出席し、2017年11月から2018年3月前半に実施されたAEARUワークショップ・シンポジウムの活動報告、2018年4月以降のシンポジウム等の活動提案の審議、AEARUの今後の活動方針に関する意見交換が行われました。

AEARU第43回理事会、及び第24回年次総会は、秋に国立台湾大学で開催される予定です。

中国科学技術大学のチェン・ツースン副学長(左)と益学長

中国科学技術大学のチェン・ツースン副学長(左)と益学長

細胞のコラーゲン分泌機構の一部を解明

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小胞体からの輸送に関わる脱ユビキチン化酵素がカギ

要点

  • コラーゲン分泌を抑える脱ユビキチン化酵素USP8-STAM1を発見
  • 巨大なコラーゲンを細胞内で運ぶ輸送体に付くユビキチンに作用
  • 疾患の新たな治療法や産業用コラーゲンの効率生産に貢献する可能性

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの駒田雅之教授、福嶋俊明助教、大学院 生命理工学研究科 生体システム専攻の川口紘平大学院生(博士後期課程3年・研究当時)らの研究グループは、細胞がコラーゲンを分泌する仕組みの一部を解明した。コラーゲンは、私たちの皮膚や骨などほとんどの組織の形成にとって重要なタンパク質だ。細胞の中で合成されたコラーゲンは、他のタンパク質とは異なり専用の輸送体(特殊なタンパク質と脂質膜で覆われた袋)によって細胞内を運ばれ、細胞の外へ分泌されることが知られていた。

研究グループは、このコラーゲンの輸送体を形作るために重要な新しい酵素を発見した。この酵素は輸送体の大きさや細胞内での位置を制御しており、この酵素の働きを抑えると細胞内でのコラーゲンの輸送が活発になり、より多くのコラーゲンが細胞の外に分泌された。今回の発見をもとにコラーゲンの分泌を制御する手法を開発できれば、コラーゲンの異常で起こるコラーゲン関連疾患[用語1]の治療法の開発や、産業用コラーゲンの生産性向上に貢献できる可能性がある。

本成果は、2018年5月15日付けの国際的な生化学専門誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。

研究成果

細胞外マトリックス[用語2]やホルモンなどの分泌タンパク質の多くは、小胞体膜上のリボソームによって合成され、小胞体内で折りたたまれる。その後、小胞体から出芽する直径約60~70 nm(ナノメートル)の小胞に積み込まれる。この小胞は、COPII[用語3]というタンパク質複合体で覆われており、COPII小胞と呼ばれる。積み込まれたタンパク質はCOPII小胞によってゴルジ体へと輸送され、ゴルジ体で成熟したあと細胞外に分泌される。

細胞外マトリックスを構成するコラーゲンは、300~400 nmの巨大な繊維状タンパク質だ。その大きさから通常のCOPII小胞には積み込めないため、より大きなサイズの特別な輸送体によって運ばれる必要がある。このコラーゲンの輸送体もCOPIIで覆われているが、詳しい構造やその形成機構は未だに不明な点が多い。

研究グループは、COPIIに相互作用するタンパク質を調べ、USP8-STAM1複合体という脱ユビキチン化酵素を見出した。この脱ユビキチン化酵素は、COPIIに付加しているユビキチンという小さなタンパク質を取り除く働きをしている。ユビキチンが取り除かれたCOPIIは大きな輸送体を形成できなくなった。一方で、この脱ユビキチン化酵素の働きを抑えると、小胞体からのコラーゲンの運び出しが促進され、コラーゲンの分泌量が増加した(図1)。

脱ユビキチン化酵素の働きを抑えた細胞の電子顕微鏡像

図1.脱ユビキチン化酵素の働きを抑えた細胞の電子顕微鏡像

小胞体(ER)とゴルジ体(Golgi)の間にコラーゲン輸送体と思われる構造(矢印)が多数観察された

最近、米国のカリフォルニア大学バークレー校の研究グループがCOPIIにユビキチンを付加する酵素(ユビキチン化酵素)を同定し、細胞にこのユビキチン化酵素を過剰に発現すると大きなコラーゲン輸送体の形成が促進することを示した。

この米国の研究と本研究の成果から、ユビキチン化酵素と脱ユビキチン化酵素のバランスによってCOPIIへのユビキチンの結合量が増減し、この結合量が増加するとコラーゲン輸送体の形成が促進してコラーゲンの分泌が盛んになるという新しいしくみが存在することを明らかにした(図2)。

COPIIのユビキチン化と脱ユビキチン化によるコラーゲンの細胞内輸送の制御

図2.COPIIのユビキチン化と脱ユビキチン化によるコラーゲンの細胞内輸送の制御

背景と経緯

タンパク質のユビキチン化修飾は、標的タンパク質に小さなタンパク質“ユビキチン”が共有結合する反応である。多くの場合、すでに標的タンパク質に結合しているユビキチンに別のユビキチンが結合することにより、鎖状のユビキチンの重合体(ユビキチン鎖)が形成される。ユビキチン化修飾には標的タンパク質の分解を誘導したり、タンパク質複合体の形成を促進するなど様々な役割がある。

研究グループでは、ユビキチン鎖を分解する “脱ユビキチン化酵素” の研究を長年進めてきた。ヒトには脱ユビキチン化酵素が約90種類存在する。今回、そのうちの1つUSP8に着目して研究を進めた。これまでにUSP8が下垂体ホルモンの分泌に関与することを発見しており、USP8のタンパク質分泌における役割をさらに明らかにするため研究を進めてきた。その過程で、当初予想していなかった、脱ユビキチン化酵素がコラーゲンの分泌の調節に重要な役割を果たしていることを発見した。

今後の展開

コラーゲンには、骨や真皮に大量に含まれるI型コラーゲンや基底膜を構成するIV型/VII型コラーゲンなどがあり、骨や臓器を形成するうえで重要な役割を果たしている。

コラーゲンの分泌が不足すると、骨形成の異常や顔面の異形成を伴う「頭蓋―レンズ―縫合異形成(CLSD)」や「Cole-Carpenter 症候群」が引き起こされる。一方で、コラーゲンが過剰に分泌されると肝臓や腎臓などの組織の繊維化が起こり、機能が低下することが知られている。今回明らかになったメカニズムをもとに、USP8を阻害あるいは活性化することで、コラーゲンの分泌を促進や抑制する技術を開発できれば、これらコラーゲン関連疾患の治療に応用できる可能性がある。

コラーゲンは食品や化粧品、医療用の人工皮膚や人工骨の材料や医薬品安定化剤として産業利用されている。それぞれの用途にあわせて、家畜や魚類から精製されたコラーゲンや、培養細胞を用いて細胞工学的手法で産生されたコラーゲンなどが使われる。培養細胞中のUSP8の作用を阻害することによりコラーゲンの分泌を最大化する技術を開発できれば、新しいアプローチで産業用コラーゲンの産生効率の向上に貢献できると期待される。

用語説明

[用語1] コラーゲン関連疾患 : 文中の「今後の展開」で記した、頭蓋―レンズ―縫合異形成(CLSD)やCole-Carpenter 症候群、各種組織の繊維化など起こす疾患。

[用語2] 細胞外マトリックス : 生体内の細胞と細胞の間の空間を充填したり、骨や基底膜を形成している糖とタンパク質の複合体。コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、エラスチンなどが主成分。

[用語3] COPII : COPII小胞を覆っているタンパク質。小胞体膜を湾曲させて小胞を形成する働きや、小胞に積み込まれる予定の分泌タンパク質を認識している膜受容体を小胞に引き込む働きがある。低分子Gタンパク質であるSar1、Sec23-Sec24複合体、Sec13-Sec31複合体で構成される。

論文情報

掲載誌 :
Biochemical and Biophysical Research Communications
論文タイトル :
Ubiquitin-specific protease 8 deubiquitinates Sec31A and decreases large COPII carriers and collagen IV secretion
著者 :
川口紘平、遠藤彬則、福嶋俊明、円由香、田中利明、駒田雅之
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 助教

福嶋 俊明(ふくしま としあき)

E-mail : tofu@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5702

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

5G向けミリ波無線機の小型化に成功

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安価な集積回路で実現、スマホ搭載に最適

要点

  • 世界初のLO移相方式による28 GHz帯5G向けフェーズドアレイ無線機を開発
  • 安価で量産可能なシリコンCMOS集積回路チップにより実現
  • 毎秒15ギガビットの無線伝送に成功

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一准教授らは、第5世代移動通信システム(5G)[用語1]に向けた28ギガヘルツ(GHz)帯無線機を開発した。新型の位相制御技術により、安価で量産が可能なシリコンCMOS(相補型金属酸化膜半導体)チップで製作し、5G向けフェーズドアレイ[用語2]無線機の小型化に成功した。

開発した無線機は最小配線半ピッチ65 nm(ナノメートル) のシリコンCMOSプロセスで製作し、従来のCMOSチップによる28 GHz帯無線機に比べ、125倍の毎秒15ギガビットの無線伝送を達成した。また、電波の放射方向を0.1度の精度で調整できる高精度ビームフォーミング[用語3]を実現した。スマートフォンに搭載可能な技術であり、5Gの普及を大きく加速させる成果といえる。

研究成果の詳細は、6月10日から米国フィラデルフィアで開催される国際会議RFIC Symposium 2018(IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2018(米国電気電子学会・無線周波数集積回路シンポジウム2018))で発表する。

本研究開発は総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進事業、受付番号175003017)の委託を受けて実施した。

開発の背景

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、第5世代移動通信システム(5G)の実用化を目指した研究開発が活発化している。この背景には、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、高精細動画サービスなどによるデータ通信量が急激に増大していることや、IoT(モノのインターネット)や自動運転などの新技術により、無線通信に対しても多様な性能が求められるようになっていることがあげられる。

このような要求に応えるため、5Gでは、従来用いられているより10倍以上高い周波数帯であるミリ波[用語4]を用いる無線通信技術の導入が計画されている。特に、5G用の周波数帯として、準ミリ波帯の26.5 GHzから29.5 GHz(28 GHz帯)の利用が検討されており、従来の100倍以上速い毎秒10ギガビットのデータ伝送速度が目標とされている。現状、大型の無線装置を用いた実証実験が行われているが、スマートフォンに搭載可能な安価で小型の無線機が期待されている。

課題

5G無線機をスマートフォンに搭載するには、無線機を小型の半導体集積回路チップとして実現する必要がある。安価で量産が可能なため、3G以降の携帯電話で本格的に利用されるようになったCMOS集積回路技術により実現できればコストが大幅に低減され、早期の5G普及が期待できる。

5Gでは電波の利用効率を上げるため、複数のアンテナを用いることで電波の放射方向を絞り込み、なおかつ、その放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの技術に対応したフェーズドアレイ無線機が必要になる。ビームフォーミングを実現するには、高周波帯で位相を制御する方式と、デジタル信号処理により位相を制御する方式がある。後者は回路規模が大きくなり、消費電力も大きくなる欠点がある。前者は回路規模も小さく、消費電力も小さくできるが、位相制御のための移相器[用語5]回路実現の難易度が高いことが課題だった。

高精度なビームフォーミングのためには、移相器による高精度な位相制御が必要になる。なおかつ、伝送速度向上のため、高い信号品質の確保が求められる。CMOS集積回路に移相器を組み込むには、従来方式は信号品質(伝送速度)、位相制御精度、回路面積がトレードオフの関係にあるため、5Gで目標とされる毎秒10ギガビットのデータ伝送速度の実現が困難だった。

研究成果

今回の研究成果はビームフォーミングに必要な移相器の小型化に成功したことによって達成した。28 GHz帯フェーズドアレイ無線機を65 nmのシリコンCMOSプロセスで試作し、4 mm×3 mmの小面積に4系統のフェーズドアレイ無線機を搭載した(図1)。

5G向け28 GHz帯無線機のチップ写真

図1. 5G向け28 GHz帯無線機のチップ写真

高周波帯での位相制御には、高周波(RF)変調波自体の位相を変化させるRF移相器を用いる方式と、搬送波となる局部発振器(LO)の信号の位相を変化させるLO移相器を用いる方式がある。図2のように、RF移相器を用いるフェーズドアレイ無線機は、位相の変化により信号経路での利得変動を起こすため、信号品質の維持が難しい。一方で、LO移相器を用いる無線機は、原理的に位相の変化により利得変動が起こらないため、高い信号品質が維持でき、伝送速度を向上できる可能性がある。表1に各方式の得失をまとめた。どちらの方式にもパッシブ型とアクティブ型があるが、アクティブ型は小型化の可能性がある一方で、LO移相器と組み合わせる場合には面積を小さくできないのが課題だった。

RF移相器とLO移相器(本開発品)によるフェーズドアレイ無線機の比較

図2. RF移相器とLO移相器(本開発品)によるフェーズドアレイ無線機の比較

(RF位相方式では信号品質を維持するのが難しい)

表1. ビームフォーミング方式の比較

 
信号品質
位相制御精度
回路面積
パッシブ型RF移相器
×
(パッシブ型の弱点)
パッシブ型LO移相器

(LO型の利点)
×
(パッシブ型の弱点)
アクティブ型RF移相器
×
アクティブ型LO移相器
(従来)

(LO型の利点)
アクティブ型LO移相器
(本開発品)

(LO型の利点)

今回開発した無線機は、RF位相方式ではなく、LO位相方式を採用し、新型のLO移相器を用いることにより上記の課題を解決した。新型のLO移相器では、ポリフェーズフィルタ[用語6]と共振器を単一の増幅器として実現することにより回路の小型化に成功した。バイアス電圧により共振周波数を調整できるため、微少な位相制御が可能である。LO移相方式による5G向け28 GHz帯無線機の報告は世界初である。

開発したCMOS無線送受信チップは、5Gでの利用が想定されている26.5~29.5 GHzの周波数帯で利用でき、飽和出力電力[用語7]は18 dBm(デシベルミリワット=63 mW)だった。伝送実験のため、図1のCMOSチップを2個搭載した評価基板(図3)を作成した。8個のアンテナの利用が可能である。室内で、5メートルの距離を隔てて2台のモジュールを対向させ、データ伝送試験を実施した。その結果、毎秒15ギガビットのデータ伝送に成功した(表2)。このデータ伝送速度は従来報告されているCMOS集積回路による28 GHz帯無線機によるものの125倍である。

5G向け28 GHz帯無線機チップの評価用基板(基板あたり8素子)

5G向け28 GHz帯無線機チップの評価用基板(基板あたり8素子)

図3. 5G向け28 GHz帯無線機チップの評価用基板(基板あたり8素子)

表2. 無線の伝送速度と変調精度

変調方式
256QAM
64 QAM
256 QAM
伝送速度
6.4 Gb/s
15 Gb/s
12.8 Gb/s
放射方向
20°
50°
コンスタレーション
コンスタレーション
コンスタレーション
コンスタレーション
コンスタレーション
コンスタレーション
変調精度
(送信)
-36.7dB (1.5%)
-36.3dB (1.5%)
-35.9dB (1.6%)
-27.9dB (4.0%)
-30.9dB (2.9%)
変調精度
(5 m OTA、送受信込)
-34.9dB (1.8%)
-33.4dB (2.1%)
-30.7dB (2.9%)
-25.2dB (5.5%)
-29.3dB (3.4%)

この際の消費電力は1チップあたり送信時1.2 W、受信時0.6 Wだった。また、本開発技術であるLO移相器を用いて、各アンテナからの送受信タイミングをずらすことにより、±50度の範囲で電波の放射方向を0.1度精度で調整可能であることを確認した(図4)。0度方向での等価等方輻射電力(EIRP8)[用語8] は40 dBmだった。256素子のアンテナを用いれば、毎秒10ギガビットで15 kmの距離での通信が可能となる。

アンテナ放射パターン

図4. アンテナ放射パターン

今後の展開

スマートフォンや基地局での利用をターゲットとして2020年頃の実用化を目指す。また、今後、5Gでの活用が予想される39 GHz帯や60/70 GHz帯など更なる高周波数帯への対応や、1つの装置に多数の集積回路チップを用いることを念頭に自己診断機能やキャリブレーション(調整)機能の搭載を目指す。

用語説明

[用語1] 第5世代移動通信システム(5G) : 移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーションの頭文字で、現在の携帯電話は4G、5Gは2020年の実用化に向けた開発が行われている。

[用語2] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。 ビームフォーミング(用語3)の実現に利用される。

[用語3] ビームフォーミング : アンテナの指向性パターンを制御する技術。通常、フェーズドアレイ(用語2)を用いて電気的に制御する。

[用語4] ミリ波 : 波長が1~10 mm、周波数が30~300 GHzの電波。自動車レーダで使われる24 GHz帯や、5Gで使われる28 GHzのように近傍周波数である準ミリ波帯も、広義にミリ波と呼ばれることがある。

[用語5] 移相器 : 入力信号に対して、位相が一定量増減した信号を出力する回路。位相の変化量はデジタル信号や電圧により制御可能なものもあり、ビームフォーミング(用語3)の実現に利用される。

[用語6] ポリフェーズフィルタ : 多位相を扱うフィルタで、例えば、0度と180度の信号から、0, 90,180, 270度の信号を生成するために用いる。

[用語7] 飽和出力電力 : 増幅器が最大で出力できる電力。

[用語8] 等価等方輻射電力(Equivalent Isotropic Radiated Power; EIRP) : 指向性のあるアンテナを用いると、放射方向によっては無指向(等方性)のアンテナを用いるよりも強い電力密度を発生させることができる。この時に、指向性のあるアンテナにより生じたものと同じ電力密度を等方性アンテナにより得るために必要となる送信電力を等価等方輻射電力という。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

准教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

温めると縮む材料の合成に成功

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室温条件で最も体積が収縮する材料

要点

  • 市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る8.5%の収縮
  • ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛PbVO3を負熱膨張物質化
  • 光通信や半導体分野で利用される熱膨張抑制材として活用期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の東正樹教授、山本孟大学院生(現:東北大学助教)、今井孝大学院生、神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員らの研究グループは、これまでに発見された材料の中で最大の体積収縮を示す“温めると縮む”負熱膨張材料[用語1]を発見しました。

この負熱膨張材料は、光通信や半導体製造装置などで利用される構造材において、精密な位置決めが求められる局面で熱膨張を補償(キャンセル)することなどに利用されます。

本成果は、ドイツの応用化学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で近く公開されます。

研究の背景

ほとんどの物質は、温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大します。光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では、このわずかな熱膨張が問題になります。そこで、昇温に伴って収縮する“負の熱膨張”を持つ物質により、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)するような設計がなされています。

しかしながら、負の熱膨張を持つ材料の種類は少なく、市販品の負熱膨張材料では体積収縮の割合は1.7%程度と小さいことが問題でした。2016年12月に、名古屋大学の研究グループによって、層状ルテニウム酸化物の焼結体が6.7%の体積収縮を示す事が発見され、注目を集めました。これは空隙の多い材料組織に由来することから、材料自身の本質的な負熱膨張ではありませんでした。

研究成果

今回の研究では、代表的な強誘電体[用語2]であるチタン酸鉛PbTiO3と同じ極性[用語3]ペロブスカイト構造[用語4]を持つ、バナジン酸鉛PbVO3という物質を負熱膨張物質化しました。同じ結晶構造のPbTiO3も強誘電から常誘電転移に伴い負熱膨張を示すことが知られていますが、体積収縮は約0.6%に留まります。PbVO3は、PbTiO3に比べて結晶構造の歪みが大きく、圧力を印加すると10%もの体積収縮を伴って常誘電相に転移しますが、常圧下の昇温ではそうした相転移は起こりません。

2価の鉛イオンを、一部が3価のビスマスイオンとランタンイオンで置換して電子ドープ[用語5]を行い、バナジウムイオンの価数を4価から3.76価に変化させたPb2+0.76La3+0.04Bi3+0.20V3.76+O3にする事で、室温を挟む温度である200 Kから400 Kの温度域で図1の結晶構造変化が起こり、体積が8.5%も収縮する、巨大な負熱膨張を実現しました。この材料について、X線回折実験[用語6]で調べた微視的な格子定数[用語7]の変化、さらに熱機械分析装置[用語8]を用いた巨視的な試料長さの変化から巨大な負熱膨張を確認しました(図2)。これらにより、この材料の特性について材料自身の本質的な負熱膨張であることが確認できました。

Pb0.76La0.04Bi0.20VO3の低温相、高温相の結晶構造

図1.Pb0.76La0.04Bi0.20VO3の低温相、高温相の結晶構造

開発したPb0.76La0.04Bi0.20VO3の単位格子体積(上)と試料長さ(下)の温度変化。

図2.開発したPb0.76La0.04Bi0.20VO3の単位格子体積(上)と
試料長さ(下)の温度変化。

今後の展開

今回開発したPb0.76La0.04Bi0.20VO3は、巨大な負熱膨張を示しますが、環境に有害な鉛を含むという問題を抱えています。本研究で、電子ドープという手法が負熱膨張化に有効である事がわかったためで、PbVO3と同様に巨大な結晶構造歪みを持つPbTiO3型のペロブスカイト化合物である、BiCoO3、Bi2ZnTiO6、Bi2ZnVO6が注目されます。これらの物質を電子ドープによって負熱膨張化すれば、鉛を含まない巨大負熱膨張材料が得られると期待できます。

研究費について

本研究の一部は、神奈川県立産業技術総合研究所・戦略的研究シーズ育成事業「革新的環境調和機能性材料の創出(代表:東正樹 東京工業大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」の助成を受けて行いました。

用語説明

[用語1] 負熱膨張材料 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。

[用語2] 強誘電体 : 誘電体(絶縁体)の一種で、外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、また、外部電場によってその方向を変化できる物質。

[用語3] 極性 : 結晶構造中の陽イオン、陰イオンの変位のため、正の電荷と負の電荷の重心が一致せず、電気分極を持つ事。

[用語4] ペロブスカイト構造 : 一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語5] 電子ドープ : 化合物の物性を変化させるため、電子の数を増やすことで、複数の価数を持つ事ができる遷移金属イオンの価数を絶縁体となる整数価数状態より小さくすること。

[用語6] X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語7] 格子定数 : 結晶構造中の原子の繰り返し周期の長さ。

[用語8] 熱機械分析装置 : 温度変化による試料長さの変化を測定する装置。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Colossal Negative Thermal Expansion in Electron-Doped PbVO3 Perovskites
著者 :
Hajime Yamamoto, Takashi Imai, Yuki Sakai, and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授
東 正樹(あずま まさき)

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

東北大学 多元物質科学研究所 助教

山本 孟(やまもと はじめ)

E-mail : hajime.yamamoto.a2@tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5355 / Fax : 022-217-5353

神奈川県立産業技術総合研究所 戦略的研究シーズ育成事業 常勤研究員
酒井 雄樹(さかい ゆうき)

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342 / Fax : 045-924-5318

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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