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東工大ボート部 第61回五大学レガッタ 優勝

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東京工業大学 端艇部(ボート部)が、4月28日に埼玉県戸田市の戸田ボートコースで開催された、第61回五大学レガッタに出場し、男子エイト、男子舵手付きフォア、男子シングルスカルで優勝、男子ダブルスカルで準優勝しました。

端艇部の集合写真

五大学レガッタは、1919年の東京高等工業学校(現・東京工業大学)と東京外国語学校(現・東京外国語大学)との対校レースを起源とした大会で、1958年から中断することなく毎年開催されている伝統戦です。参加校は東京工業大学、東京外国語大学、東京海洋大学、筑波大学、防衛大学校の五大学です。

今大会では、ボート競技の花形である男子エイトで2年連続の優勝、セカンドクルーである男子舵手付きフォアでも優勝を飾ることができ、今シーズン幸先の良いスタートがきれました。また本大会には、三島良直 前学長と本学のリベラルアーツ研究教育院長の上田紀行教授も会場に応援に駆け付け、OB、OGを含めたくさんの方々と勝利を分かち合いました。

男子エイト

男子エイトの優勝メンバー(上段左から:原さん、井上さん、藤井さん、服部さん、下段左から:中島さん、長谷川さん、舩岡さん、小川さん、村田さん)
男子エイトの優勝メンバー
(上段左から:原さん、井上さん、藤井さん、服部さん、
下段左から:中島さん、長谷川さん、舩岡さん、小川さん、村田さん)

エイトは、両手で一本のオールを持って漕ぐスウィープタイプのボートで、8人の漕手(ローワー)が二手のサイドに分かれ、それとは別に舵手(コックス)が一人乗り、1チーム9人により構成される競技です。優勝したメンバーを紹介します。

  • 中島雪暢さん(工学部 電気電子工学科 学士課程4年)
  • 服部広暉さん(工学院 機械系 学士課程3年)
  • 小川翔太郎さん(工学部 化学工学科 学士課程4年)
  • 長谷川青春さん(工学部 土木環境工学科 学士課程4年)
  • 藤井健人さん(工学部 電気電子工学科 修士課程1年)
  • 井上幸大さん(工学院 経営工学系 学士課程3年)
  • 舩岡知広さん(理学部 地球惑星科学科 学士課程4年)
  • 原哲郎さん(環境・社会理工学院 土木環境工学系 学士課程2年)
  • 村田翔太郎さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)

クルーチーフ 長谷川さんからのコメント

今年の五大学エイトは、昨年に引き続き優勝することができました。これも多くのサポートがあり、部全体が強い組織となってきたことの表れだと思います。この勢いのまま東工大常勝の流れを作っていきます。

男子舵手付きフォア

男子舵手付きフォアの優勝メンバー(左から、奥井さん、阿部さん、奥村さん、中森さん、金子さん)
男子舵手付きフォアの優勝メンバー
(左から、奥井さん、阿部さん、奥村さん、中森さん、金子さん)

舵手付きフォアは、漕手が4人となったエイトともいえる競技で、舵手(コックス)1人が加わるため1チーム5人で構成されます。優勝したメンバーを紹介します。

  • 阿部拓海さん(物質理工学院 応用科学系 学士課程2年)
  • 奥井優さん(理学院 地球惑星科学系 学士課程3年)
  • 金子寛明さん(理学部 地球惑星科学科 学士課程4年)
  • 奥村直仁さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)
  • 中森康友さん(工学院 機械系 学士課程3年)

クルーチーフ 中森さんからのコメント

スタートでリードされる厳しいレースでしたが、最後まで粘り強く漕ぎきり、優勝することができました。サポートしてくれたマネージャー、応援してくださった皆さんに感謝するとともに、これからも高みを目指して日々努力していきます。

男子シングルスカル

男子シングルスカル決勝戦の様子
男子シングルスカル決勝戦の様子

シングルスカルは、オールを2本持ってスカルタイプのボートを一人で漕ぐ、ボート競技唯一の個人種目です。優勝したメンバーを紹介します。

  • 増田大樹さん(工学院 システム制御系 学士課程3年)

増田さんからのコメント

来年も優勝します。

男子ダブルスカル

男子ダブルスカルの決勝戦の様子
男子ダブルスカルの決勝戦の様子

ダブルスカルは、1人2本ずつ両手にオールを持って漕ぐ、スカルタイプのボートを2人で漕ぐ競技です。準優勝したメンバーおよび、出場したメンバーを紹介します。

  • 小木曽喬皓さん(環境・社会理工学院 融合理工系 学士課程2年)
  • 白井威流さん (理工学院 地球惑星科学系 学士課程3年)

クルーチーフの白井さんからのコメント

応援してくださった方ありがとうございました。ダブルスカルは優勝することができず、悔しさが残る大会になりましたが、これからも練習し、来年は優勝できるような実力をつけていきたいと思います。

  • 内田陸さん(物質理工学院 応用科学系 学士課程2年)
  • 鴨下正彦さん(理工学院 化学系 学士課程3年)

クルーチーフの鴨下さんからのコメント

五大学レガッタでは序盤のミスが響き、大きく引き離され4艇中4位という不本意な結果に終わってしまいました。ただミスがなかったとしても3位以上だったかどうかはわからないので、結果は受け止め、ミスをカバーできる体力をつけていこうと思います。

益学長への優勝報告(左から、端艇部部長の小酒英範教授、端艇部主務の海上元輝さん、益一哉学長、端艇部主将の舩岡さん、水本哲弥理事・副学長(教育担当))

益学長への優勝報告
(左から、端艇部部長の小酒英範教授、端艇部主務の海上元輝さん、
益一哉学長、端艇部主将の舩岡さん、水本哲弥理事・副学長(教育担当))

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学端艇部

E-mail : titboat@green.ocn.ne.jp
Tel : 048-442-5581


300 GHz帯で毎秒100ギガビットの無線伝送が可能な超高速ICを開発

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未踏のテラヘルツ波周波数の活用を拓く技術として期待

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)と国立大学法人 東京工業大学(東京都目黒区、学長:益一哉、以下 東工大)は、共同で、テラヘルツ波[用語1]の周波数帯で動作する無線フロントエンド向け超高速ICを開発し、300 GHz帯における世界最高データレートである毎秒100ギガビットの無線伝送に成功しました。

未利用のテラヘルツ波は、周波数帯域を広く確保できることから高速無線への適用が期待されています。今回、独自の高アイソレーション設計技術を適用したミキサ回路を、インジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)[用語2]で実現し、従来の300 GHz帯無線フロントエンドで課題となっていた伝送帯域幅の拡大と信号対雑音比(SNR)の向上とを両立させる技術を創出しました。また、これを用いた300 GHz帯無線フロントエンドモジュールを実現し、毎秒100ギガビットの無線伝送に成功しました。

今回、1波(1キャリア)で毎秒100ギガビットのメートル級無線伝送を実現しましたので、将来的に、300 GHz帯の広い周波数帯域を活かして複数キャリアに拡張したり、MIMOやOAM等の空間多重技術を併用することにより、毎秒400ギガビットの大容量の無線伝送を可能とする超高速IC技術として期待されます。これは、現在のLTEやWi-Fiのおよそ400倍、次世代の移動体通信技術である5Gの40倍に相当する伝送容量です。また、未利用のテラヘルツ波周波数帯の通信分野及び非通信分野への活用を切り拓く技術として期待されます。

本技術の詳細は、6月10日からアメリカ、フィラデルフィアで開催される国際会議IMS2018(2018 IEEE MTT-S International Microwave Symposium)で発表予定です。

研究の背景

ブロードバンドネットワークの普及拡大に伴い、毎秒100ギガビット級の大容量無線伝送技術が世界で注目を集めています(図1)。無線伝送のさらなる大容量化のためには、伝送帯域幅の拡大、変調多値数の増加、空間多重数の増加の3つの方向性があり、将来の毎秒400ギガビット級~毎秒1テラビット級の大容量無線伝送技術を実現するためには、1波(1キャリア)で伝送帯域幅と変調多値数を両立して拡大すること、およびこれらを複数重ねて伝送する空間多重数の増加が必要になります。

大容量無線伝送技術の研究開発状況

図1. 大容量無線伝送技術の研究開発状況

現在研究開発が進んでいるキャリア周波数28 GHz~110 GHzでは、伝送帯域幅に限界がありますので、より伝送帯域を拡大しやすい300 GHz帯をはじめとするテラヘルツ波の周波数帯の利用が検討されています。300 GHz帯は、次世代の移動体通信技術である5Gで検討されている28 GHz帯と比較して10倍以上の高い周波数であることから、広い伝送帯域幅を確保し易い特長を持ちます。一方で、高い周波数であることから、IC内部や実装における各ポート間の不要信号の漏れなどが生じやすく、これまで十分に高い信号対雑音比(SNR)特性[用語3]を得ることができませんでした。このため、300 GHz帯を利用したとしても、広い伝送帯域幅と高い変調多値数とを両立して得ることができず、これまで毎秒数10ギガビット級の無線伝送outerに留まっていました。

研究の成果

今回、独自の高アイソレーション設計技術を考案し、この技術を300 GHz帯無線フロントエンドにおいて周波数変換を担うキー部品であるミキサ回路(図2)に適用し、インジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)でICを実現しました。高アイソレーション設計技術の適用により、IC内部や実装における各ポート間の不要信号の漏れを抑圧することに成功し、従来の300 GHz帯無線フロントエンドで課題となっていた伝送帯域幅の拡大と信号対雑音比(SNR)の向上とを両立させることに成功しました。また、これを用いた300 GHz帯無線フロントエンドモジュールを実現し(図3)、Back-to-backでの良好な16QAM信号の受信を確認するとともに(図4)、300 GHz帯において毎秒100ギガビットの無線伝送に世界で初めて成功しました(図5)。

300 GHz帯無線フロントエンドの構成

図2. 300 GHz帯無線フロントエンドの構成

ミキサICとモジュール

図3. ミキサICとモジュール

Back-to-back伝送による受信コンスタレーション

図4. Back-to-back伝送による受信コンスタレーション

伝送実験の様子

図5. 伝送実験の様子

今後の展開

今回、1波(1キャリア)で毎秒100ギガビットの無線伝送を実現しましたので、将来的に、300 GHz帯の広い周波数帯域を活かして複数キャリアに拡張したり、MIMOやOAM等の空間多重技術outerを併用することにより、毎秒400ギガビット超の大容量無線伝送を可能とする超高速IC技術として期待されます。また、テラヘルツ波の活用が期待されているイメージングやセンシングなど、様々な分野への展開も期待されます。NTTは、パートナとなる皆さまとのコラボレーションを通じて、超高速ICを用いた新サービスや新産業の創出をめざすと共に、超高速IC技術のさらなる進化をめざします。

技術のポイント

独自の高アイソレーション設計技術を考案し、これを適用したミキサ回路を実現しました。ミキサ回路は、局部発振周波数ポート(LO)、無線周波数ポート(RF)、中間周波数ポート(IF)の3つのポートを持ちますが、テラヘルツ波の非常に高い周波数の信号で動作させる場合には、ミキサ回路や外部の実装に寄生する僅かな静電容量を介して、いとも簡単にポート間を不要信号が漏れてしまいます。

本技術では、λ/4線路とシリーズ容量を付加する独自の高アイソレーション設計により、ポート間のアイソレーションを飛躍的に向上させることができます。こうして実現した高アイソレーション特性は、不要信号を抑圧できるためSNR向上に寄与するだけでなく、ミキサICをモジュールに実装する際の周波数特性劣化の防止にも寄与します。以上により、無線フロントエンドモジュールとしての広帯域特性及び高SNR特性の両立を実現しました。

なお本成果の一部は、平成23~27年度総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の成果が使われています。

用語説明

[用語1] テラヘルツ波 : 103を「キロ(k)」と呼ぶのと同様に、109を「ギガ(G)」、1012を「テラ(T)」と呼ぶ。「ヘルツ(Hz)」は交流電気信号や電磁波が、1秒間に何回極性(プラスとマイナス)を変えるかを示す、周波数と呼ばれる物理量の単位。つまり、1テラヘルツ(1 THz=1,000 GHz)は、1秒間に1×1012回極性を変える電磁波の周波数である。一般に、テラヘルツ波は、0.3 THzから3 THzの電磁波を指し示すことが多い。

[用語2]インジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT) : 化合物半導体インジウム燐(InP)を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)。

[用語3] 信号対雑音比(SNR)特性 : 信号と雑音との電力の比を表す。

講演情報

国際会議 :
講演セッション :
Session Th3F: THz and mm-Wave Sensing and Communication Systems
講演時間 :
現地時間6月14日午後2時50分
講演タイトル
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当

Email : science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel : 046-240-5157

東京工業大学 工学院 電気電子系

准教授 岡田健一

Email : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2258

取材申し込み先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当

Email : science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel : 046-240-5157

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

U-ATOMが「第50回日本原子力学会賞」貢献賞を受賞

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本学 グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院(U-ATOM教育院)が実施している原子力の教育に係わる活動が、原子力平和利用の進展に寄与するところが大きいと評価され、第50回日本原子力学会春の年会において、日本原子力学会賞貢献賞を受賞しました。

3月27日に大阪大学で開かれた同学会賞贈呈式において、日本原子力学会の上坂充会長から、U-ATOM教育院代表者である齊藤正樹教育院長の代理として小林能直教授に盾が授与されました。

上坂日本原子力学会長(右)より 日本原子力学会賞貢献賞を授与される小林教授

日本原子力学会賞貢献賞の盾

上坂日本原子力学会長(右)より 日本原子力学会賞貢献賞を授与される小林教授

グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院は、2018年4月からグローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育課程と組織名称が変更されました。

齊藤正樹 教育院長のコメント

本学位プログラム(修士・博士一貫教育プログラム)は、2011年度に、文部科学省の博士課程教育リーディングプログラム(オンリーワン型)として採択されました。

本学位プログラムの目的は、「人類の生存基盤を脅かす核拡散、核テロ、大規模な原子力災害や緊急被ばく問題等のグローバルな原子力危機」(原子力安全・セキュリティ分野)において、高い国際交渉能力を有し、国内外の原子力関連の産官学界で国際的リーダーとして活躍する人材「グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント」を養成することです。

深い専門性はもとより、幅広い社会性や国際性を備え、更に豊かな人間性を養い、時代の流れを俯瞰しながら「高い志を持って、人々のために、社会のために、世界のために、貢献するリーダー」を育成することを教育理念としています。

本学位プログラムに選抜された学生は、お台場の「東京国際交流館」の一部を借り上げて開設した全寮制の「世界原子力安全・セキュリティ道場」に入門し、他の学生と寝食をともにし、また教員も一緒に道場に住み、道場学生の自主的な討議を基本として、リーダーとしての自覚を養っています。

また、原子力の専門科目以外にも、教養科目(国際政治、国際法、経済、哲学、歴史、文化、芸術、英語、フランス語など)や被災地でのボランティア活動等を必須としています。さらに武者修行のために「国内及び国際インターンシップ」に派遣することにより、専門性はもとより「総合的な人間力」を修得する教育環境を構築し、原子力グローバルリーダーを養成しています。

2014年8月には、公益社団法人 日本工学教育協会より「工学教育賞」を頂きました。これに引き続き、この度は一般社団法人 日本原子力学会より「貢献賞」を頂くことになりました。この教育プログラムを一緒に進めてきた「グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院」のメンバーを代表して、これまでに多くのご支援を頂きました方々に御礼を申し上げます。

全寮制は、2017年度末で終了しています。

お問い合わせ先

グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育課程事務室

E-mail : u-atom.suishin@dojo.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3068

分裂酵母の性(接合型)変換を制御する新たな遺伝子を発見

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接合型変換制御にユークロマチンも関与か

要点

  • 接合型の変換は、DNA複製時に染色体構造と共役したDNA組換え反応で起こる
  • 接合型変換機構について蛍光顕微鏡を用いて網羅的解析する手法を開発
  • 組換え修復異常で起こる疾患の発症機構解明や治療法の開発に役立つ可能性

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の真木孝尚特任助教、岩崎博史教授、生命理工学院の小倉尚人大学院生(修士課程2年)、デンマーク・コペンハーゲン大学のジェネヴィーブ・トーン(Genevieve Thon)博士、米国・ブランダイス大学のジェームズ・E・ヘイバー(James E. Haber)博士の国際研究グループは、分裂酵母の接合型変換機構の新たな制御遺伝子を発見した。

酵母の性に相当する接合型(分裂酵母の場合はP型とM型がある)は、細胞分裂に伴い規則的に変換される。これはP型決定遺伝子とM型決定遺伝子の発現が相互に組み換わることで起こるが、その詳細はこれまで不明だった。

本研究では、真木特任助教らがトーン博士と共同で、蛍光顕微鏡を用いた新たな解析手法を開発し、接合型変換に関わる遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、10個の新規接合型変換制御遺伝子を同定した。さらに、同定した遺伝子の遺伝学的解析や相互作用ネットワーク解析から、新たに染色体構造の制御様式が接合型変換に関わることを明らかにした。

この制御様式は、酵母に限らずヒトにも保存されており、エピジェネティクスと深く関わることから、多くの疾病と関連していることが予想される。今回の発見は、関連する疾病の発症機構解明や治療法の開発などに役立つと期待される。

本成果は2018年5月31日付の「PLoS Genetics」に掲載された。

研究の背景

分裂酵母は2つの接合型(PとM)が存在し、細胞分裂に伴いP型からM型、もしくはM型からP型の変換が起こる。接合型は、2番染色体上に存在するmating-type(mat)領域のmat1遺伝子座の遺伝情報によって決定される。すなわち、mat1がPの遺伝情報を有し、それを発現するとき(mat1-P)にはP接合型となり、mat1がMの遺伝情報を有し、それを発現するとき(mat1-M)にはM接合型となる。mat1領域の近傍には、P型遺伝情報をコードするmat2-P遺伝子座と、M型の遺伝子情報をコードするmat3-M遺伝子座が存在するが、この2つの領域はヘテロクロマチン[用語1]化されており遺伝子発現が抑制されている。すなわち、接合型決定遺伝子の発現はmat1でのみ起こる。接合型変換が起こるしくみの根幹は、遺伝子発現が可能なmat1領域に、mat2-Pまたはmat3-Mの情報を写し取るという遺伝子変換[用語2]と言える(図1)。

接合型変換反応は、DNA複製時にmat1近傍に生じるDNA二重鎖切断によって開始され、このDNA二重鎖切断が、mat2-Pまたはmat3-Mの相同配列を利用した相同組換え依存的な修復機構によって治される際に、mat1遺伝子上にmat2-Pまたはmat3-Mの遺伝情報が転移する(遺伝子変換が起こる)ものだ。興味深いことに、mat1がP情報を発現しているときにはmat3-M遺伝情報で、mat1がM情報を発現しているときにはmat2-P遺伝情報で修復され、この制御が厳密に制御されることにより正確な接合型変換が達成される。この制御では、ヘテロクロマチン構造が重要な役割を果たしている。しかしながら、その詳しい反応様式はこれまで不明だった。

図1. mat領域の模式図と接合型変換時のドナー選択様式

図1. mat領域の模式図と接合型変換時のドナー選択様式:

mat1の二重鎖切断はmat2-Pまたはmat3-Mを用いて修復される。この時mat1とは異なる遺伝子座を用いることで接合型が変換される。

研究の経緯と成果

本研究グループでは、この接合型変換機構の全体像を捉えるべく、接合型変換因子の網羅的解析を行った。

これまでの接合型変換能を解析する手法は、複雑なステップを必要としたり、判定に熟練を要したりするなど、様々な問題があった。そこで今回、P細胞とM細胞それぞれが特異的な蛍光を発するように遺伝学的な細工をして、蛍光顕微鏡を用いることで、P細胞とM細胞を1細胞ずつ直接観察して判定するという新たな解析手法を開発した。この手法で、分裂酵母の全ての非必須遺伝子に対して欠損株を作成し、変異株の細胞集団中のP細胞とM細胞の割合を計測し、等分から大きく離れているものを接合型変異体として、その原因遺伝子(欠損遺伝子)を接合型変換関連遺伝子とした。そして、既存の解析方法と組み合わせて、接合型変換関連遺伝子を絞り込み、最終的に10の新規因子を含む26遺伝子を同定した。

得られた因子は、複製、ヘテロクロマチン制御、DNA組換えの大きく3つのカテゴリーに分類できる。ヘテロクロマチン形成関連因子をより詳細に解析していくと、Set1/compass複合体(Set1C)の関与が明らかになった。このSet1Cは、ユークロマチン化かつ抗ヘテロクロマチン化因子として知られている。

今回の研究から、mat領域ではSet1Cがヘテロクロマチン形成を直接制御していることが新たに示唆された(図2)。この発見は、クロマチン構造の制御による、新たな遺伝子機能発現制御機構の片鱗を捉えたもので、今後さらなる研究の深化が期待できる。

図2. Set1Cによるドナー選択制御モデル

図2. Set1Cによるドナー選択制御モデル

M細胞ではmat3-Mの選択がSet1Cにより阻害され、mat2-Pとの遺伝子変換が優先される。P細胞ではSet1Cはmat3-Mにおけるドナー選択性を阻害せず、mat3-Mとの遺伝子変換が優先して起こる。すなわち、Set1CがM細胞特異的にmat3-Mとの遺伝子変換を阻害している。この分子機構の詳細は不明であるが、Set1CがM細胞特異的にmat3-M遺伝子座近傍のヘテロクロマチンの構造変化を引き起こしていることが予想される。

今後の展開

接合型変換機構は、プログラムされた部位特異的な相同組換え機構である。この制御に、ヘテロクロマチンが関与することは古くから知られていたが、本研究はこのヘテロクロマチンの制御にユークロマチンの制御因子が関わることを世界で初めて示したユニークな成果だ。今後は、同定された因子がどのようにヘテロクロマチンを制御しているのかを詳細に解析し、染色体構造と組換え制御の詳細な関係を解明することが課題となる。これらの研究を通して、組換え修復異常やエピジェネティクス異常を起因とする多くの遺伝疾患の分子病態が明らかにされていくことが期待される。

なお、本研究のヘイバー博士は、東京工業大学のWRHIプロジェクトによって招聘された。

WRHI(ワールド・リサーチ・ハブ・イニシアティブ):海外から世界トップレベルの研究者を招聘(または雇用)し、国際共同研究を推進する6年間のプロジェクト。

用語説明

[用語1] ヘテロクロマチン : 染色体の中で非常に凝集している構造。そのため、転写や相同組換え反応が抑制されている。その一方、弛緩した構造はユークロマチンと呼ばれ、転写や組換え反応が活性化している。

[用語2] 遺伝子変換 : 2組のDNAの似た配列でおこる、DNA鎖の交換反応で、相同組換え反応の一つである。相同組換え反応は、遺伝的多様性を生み出すことや損傷DNAの修復に貢献する。

論文情報

掲載誌 :
PLoS Genetics 14(5): e1007424
論文タイトル :
New insights into donor directionality of mating-type switching in Schizosaccharomyces pombe
著者 :
真木孝尚、小倉尚人、James E. Haber、岩崎博史、Genevieve Thon
Cocoresponding authors
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター

岩崎博史 教授

E-mail : hiwasaki@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2588 / Fax : 03-5734-3781

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

貴金属、稀少金属を用いないCO2資源化光触媒を開発

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ありふれた元素だけを用いて人工光合成を実現

要点

  • 地球上に豊富に存在する元素(炭素、窒素、鉄)からなる新しい光触媒を開発
  • 太陽光をエネルギー源としてCO2を有用な炭素資源に変換
  • 貴金属や稀少金属を用いた従来の光触媒と同等の性能を実現

概要

東京工業大学 理学院 化学系の石谷治教授、前田和彦准教授、栗木亮(大学院生、日本学術振興会特別研究員)らは、フランス パリ第7大学のマーク・ロバート教授らの研究グループと共同で、JST 戦略的創造研究推進事業 CRESTの国際強化支援のもと、有機半導体材料と鉄錯体から成る光触媒[用語1]に可視光を照射すると二酸化炭素(CO2)が、有用な一酸化炭素(CO)[用語2]へ選択的に還元されることを発見した。

これまで開発されてきた高効率CO2還元光触媒は、ルテニウムやレニウムといった貴金属[用語3]や稀少金属を用いたものがほとんどだったが、今回開発した光触媒は、これら金属を全く使わずに、ほぼ同等の光触媒性能を示すことがわかった。

本成果により、卑金属[用語4]や有機半導体材料だけを用いた光触媒でも、太陽光をエネルギー源として、地球温暖化の主因であるCO2を有用な炭素資源へと変換できることが明らかになった。

研究成果は2018年6月12日(日本時間) 、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に速報として掲載された。

研究成果

石谷教授らは、炭素と窒素から構成される有機半導体カーボンナイトライド[用語5]を鉄錯体と組み合わせて光触媒として用いることで、二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)へと高効率に還元できることを見出した。この光触媒反応は、太陽光の波長帯でも主成分である可視光を照射することで進行する。カーボンナイトライドが可視光を吸収し、還元剤から触媒である鉄錯体への電子の移動を駆動する。その電子を用いて鉄錯体はCO2をCOへと還元する。性能の指標となるCO生成におけるターンオーバー数[用語6]外部量子収率[用語7]、CO2還元の選択率[用語8]は、それぞれ155、4.2%、99%に達した。これらの値は、貴金属や稀少金属錯体を用いた場合とほぼ同程度であり、すでに報告されている卑金属や有機分子を用いた光触媒と比べて10倍以上高かった。

図1. カーボンナイトライドと鉄錯体を組み合わせた光触媒によるCO2還元反応

図1. カーボンナイトライドと鉄錯体を組み合わせた光触媒によるCO2還元反応

研究の背景

近年、金属錯体や半導体を光触媒として用いてCO2を還元資源化する技術の開発が世界中で行われている。“人工光合成”と呼ばれるこの技術が実用化されれば、地球温暖化の主因とされ、悪者扱いされているCO2を、太陽光をエネルギー源にして有用な炭素資源へと変換できるようになる。

これまでに報告されている高い活性を示す光触媒には、ルテニウムやレニウム、タンタルなどの貴金属や稀少金属を含む錯体や無機半導体が用いられてきた。しかしながら、莫大なCO2量を考えると、地球上に多量に存在する元素だけで構成される新たな光触媒を構築する必要があった。

研究の経緯

石谷教授らは、JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業(CREST「新機能創出を目指した分子技術の構築」)における支援を得て、この課題に挑戦すべく、パリ第7大学のマーク・ロバート教授の研究グループと共同研究を行った。その結果、有機半導体であるカーボンナイトライドを、鉄と有機物で構成される錯体とを融合して光触媒として用いることで、可視光の照射かつ常温常圧という条件でCO2を高効率に資源化することに成功した。

本成果により、卑金属や有機半導体材料だけを用いた光触媒でも、太陽光を有効に活用し、地球温暖化の主因であるCO2を有用な炭素資源へと高効率に変換できることが明らかになった。

今後の展開

今回の研究から、炭素、窒素、鉄といった地球上に多量に存在する材料群を用いても、太陽光をエネルギー源としたCO2還元資源化を高効率に達成できることを初めて実証した。今後は、光触媒としての機能をさらに向上させると共に、地球上に多量に存在し安価な水を還元剤として用いることのできる酸化光触媒との融合を達成することが課題となる。

この国際共同研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST「新機能創出を目指した分子技術の構築」)に加え、日本側での研究の一部は、科学研究費助成事業 (若手研究(A)、新学術領域計画研究「複合アニオン」等)により支援されました。

用語説明

[用語1] 光触媒 : 光を吸収することで、反応を触媒的に進行させる分子もしくは物質のこと。

[用語2] 一酸化炭素 : 分子式はCO。フィッシャー・トロプシュー反応などにより炭化水素を合成できるため、有用な炭素資源として注目を集める。

[用語3] 貴金属 : 8種の高価な金属、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)

[用語4] 卑金属 : 貴金属ではない金属のこと。

[用語5] カーボンナイトライド : 炭素と窒素だけで構成された有機半導体。構造は図1に示されている。

[用語6] ターンオーバー数 : 触媒反応の活性点が何回機能したかを表す指標。例えば活性点が100個あり生成物が10,000個得られた場合、ターンオーバー数は100となる。

[用語7] 外部量子収率 : 照射した光の量に対する反応に用いることができた光の量の割合。例えば、10,000個の光子を照射して、そのうち100個の光子が反応に関与した場合、外部量子収率は1%となる。

[用語8] 選択率 : 化学反応における全ての生成物量に対する目的生成物量の割合。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
A Carbon Nitride/Fe Quaterpyridine Catalytic System for Photostimulated CO2-to-CO Conversion with Visible Light
著者 :
Claudio Cometto, Ryo Kuriki, Lingjing Chen, Kazuhiko Maeda, Tai-Chu Lau, Osamu Ishitani and Marc Robert
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

石谷治 教授

E-mail : ishitani@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2240 / Fax : 03-5734-2284

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部

グリーンイノベーショングループ 中村幹

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3531 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5734-3661

益学長が北京大学創立120周年記念式典に出席し、清華大学協力事務所を訪問

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「世界大学学長シンポジウム&北京フォーラム」の様子

「世界大学学長シンポジウム&北京フォーラム」の様子

益一哉学長は、5月4日~5日に北京を訪問し、本学協定校である北京大学の創立120周年記念式典および関連記念イベント「世界大学学長シンポジウム&北京フォーラム」(以下、記念シンポジウム)に出席しました。

4日に開催された記念式典には、世界44ヵ国・地域の大学の学長、副学長などの代表者、政府高官等が出席しました。続く記念シンポジウムでは、「変化と不変:過去120年間における大学と文明」をテーマに、現代の高等教育及び大学の課題や使命などについて話し合われました。

本学と北京大学は1991年8月に全学協定を締結して以来、継続的に研究者や学生の交流を行っています。また、ともに加盟している東アジア研究型大学協会(AEARU:The Association of East Asian Research Universities)を通じた交流も活発に行われています。

益学長と和やかに対談

益学長と和やかに対談

翌5日、益学長は、清華大学内にある東京工業大学・清華大学協力事務所を訪問し、東京工業大学・清華大学大学院合同プログラム(以下、東工大-清華大プログラム)に参加している学生と、昼食を囲みながら懇談しました。

東工大-清華大プログラムは大学院課程におけるダブル・ディグリープログラムであり、共同で大学院生の教育・研究指導を行い、双方の大学の修士号取得を目指すプログラムとして、バイオテクノロジーコース、バイオコース、社会理工学コースの3つコースを有しています。これにより、日本語、中国語及び英語の素養を持ち、日中双方の文化・習慣に通暁した優れた理工系の人材を養成し、両国の科学技術及び産業経済の発展に資することを目的としています。

本学からの学生派遣は2005年8月からスタートし、毎年2~6名の学生が清華大学で研究を行っています。また清華大学からの学生受入は2006年3月からスタートし、毎年11~12名の学生が来日しています。

益学長との懇談会では、参加した学生がそれぞれの大学を志望した理由や期待などを語りました。昨年9月から清華大学で学んでいる本学の学生からは「清華大学での研究活動、学生生活を満喫している」との話があり、また、清華大学の学生からは「今年9月の渡日に向け、日本語の勉強を頑張っている」との意気込みが聞かれました。

右から由雲峰さん(清華大)、益学長、前田竜さん(東工大)、陳政霖さん(清華大)、谷桃太郎さん(東工大)、盧琛璘さん(清華大)、東工大・清華大協力事務所スタッフの王亜民さん

右から由雲峰さん(清華大)、益学長、前田竜さん(東工大)、陳政霖さん(東工大)、谷桃太郎さん(東工大)、盧琛璘さん(清華大)、東工大・清華大協力事務所スタッフの王亜民さん

お問い合わせ先

国際連携課企画・調整グループ

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3016

東工大デジタル創作サークルtraPが情報危機管理コンテストで1位

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東工大デジタル創作同好会traP(トラップ)のチームが、5月24日~26日に和歌山県田辺市において開催された「第13回情報危機管理コンテスト」において経済産業大臣賞(1位)を獲得しました。

優勝チームのメンバー(左から)高山柊さん、岸本崇志さん、澤田一樹さん、大橋滉也さん

優勝チームのメンバー(左から)高山柊さん、岸本崇志さん、澤田一樹さん、大橋滉也さん

決勝戦の様子
決勝戦の様子

このコンテストでは、参加チームは顧客企業のサーバ管理者という設定で、コンテスト時間内に発生するインシデントに迅速かつ的確に対処することが求められます。具体的には、Webページやネットワーク、その他サービスの異変、外部からの苦情電話等が発生し、それらに対して、各チームは適切な電話対応、サーバ設定の変更、インシデントの原因究明や対処を行い、インシデントを解決する技術力にあわせて、電話対応も含めた現場対応の適切さなどが総合的に評価され、勝者が決定されます。

本コンテストには、過去最多の35チームが参加し、4月の1次予選と5月の2次予選を経て、決勝戦には、5大学が出場しました。東工大からは、サークル「デジタル創作同好会traP」(顧問:情報理工学院情報工学系 石田貴士 准教授)のチームが出場し優勝しました。

集合写真

集合写真

チームメンバー

チームメンバーは以下の4名です。

  • 澤田一樹(工学部 情報工学科 4年)
  • 岸本崇志(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)
  • 大橋滉也(工学院 情報通信系 学士課程3年)
  • 高山柊(情報理工学院 数理・計算科学系 学士課程2年)

デジタル創作同好会traPとは

ゲーム制作を中心に、プログラミング、DTM(音楽制作)、2Dイラスト、3Dモデル、ドット絵、競技プログラミング、CTF(コンピュータセキュリティ技術を競う競技)など幅広く取り組んでいます。デジタルコンテンツのチーム制作や技術共有を目的として、2015年4月に設立したサークルです。また、ゲーム制作者交流イベントや中高生向けのプログラミング教室を主催するなど外部との交流も積極的に行っています。

ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト世界大会2018で好成績!

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本学の学生チーム ニンジャリバトン(ninjaribaton)が2018年ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト世界大会(ACM International Collegiate Programming Contest (ICPC) World Finals 2018)に出場し、140位中31位タイという好成績を収めました。

ACM…Association for Computing Machineryの略称。情報理工学に関する国際的な学会。

世界大会2018は、4月15日から4月20日の6日間、北京市(中国)の北京大学にて開催され、6大陸から勝ち上がってきたチームが世界トップを目指し競い合いました。

世界大会では、3人から構成されるチームが、与えられた11問のプログラムの問題を解き、最も多くの問題を解いたチームが優勝となります。問題数が同じ場合はできるだけ回答時間の総和が短いチームが勝ちとなります。

日本からは東京大学と筑波大学、そして本学の3大学がアジア地区予選を経て選出され、本大会では東京大学の4位入賞など、日本勢が健闘しました。

チーム ニンジャリバトンは、福成理紀さん(工学部 情報工学科 学士課程4年)、太田幹人さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)、吉田拓人さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程2年)の3名のメンバーとコーチの中村誠希さん(情報理工学院 数理・計算科学系 博士後期課程3年)の計4名で構成されています。

左から、太田さん、福成さん、中村さん、吉田さん

左から、太田さん、福成さん、中村さん、吉田さん

また、渡航費用は情報理工学院学院長奨励賞の援助により一部援助されました。


PR動画「Study at Tokyo Tech」を公開―東工大で学ぶ魅力を世界に発信

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東京工業大学は、日本の理工系総合大学で学びたいと考えている世界中の学生に向けて、PR動画「Study at Tokyo Tech(スタディ アット トーキョーテック」を公開しました。

Study at Tokyo Tech

この約2分間のショート動画では、「世界をリードする研究と多彩な研究分野」、「英語で受講できる多様なプログラム」、「世界トップレベルの研究者による直接指導」、「最先端の研究・学びの環境」、「魅力的な留学先都市※1・東京でのキャンパスライフ」など、東工大で学ぶ魅力を鮮やかに発信しています。

さらに、東工大で自分が何を学んでいるのかを、英語で学位を取得できる国際大学院プログラム(IGP)や、交換留学プログラム、短期研究交流・ウィンタープログラムなどで学ぶさまざまな国や地域の留学生たちが紹介しています。

東工大は、世界トップレベルの理工系総合大学として100以上の海外協定校と連携しており、海外大学から東工大への留学の他、東工大からの留学に対しても50種類以上の留学プログラムを提供しています。また、留学生と日本人学生がともに生活する学生寮の整備や、充実した奨学金制度、全留学生へのチューター配置など、留学生に対するきめ細かい生活支援を行っています。

現在、世界の国と地域から全学生の16%にあたる約1,700名強※2の留学生が東工大で学んでいます。今後も、「日本の東工大から、世界のTokyo Techへ」を掲げ、多様性を重視した教育と学生支援を充実させる取り組みを行い、真に国際的なキャンパスを目指します。

※1
参照:QS Best Student Cities 2018outer
※2
2018年5月現在。正規課程および非正規課程の留学生数

お問い合わせ先

学務部留学生交流課

E-mail : ryu.kor2@jim.titech.ac.jp

2018年度大学院全学説明会 開催報告

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5月12日、すずかけキャンパスにおいて、「大学院全学説明会」を開催しました。すずかけ祭と同時開催のオープンキャンパスでは、初めての開催です。本説明会は、主に本学大学院(修士・博士後期課程)に興味のある学生や保護者、一般の方、同時開催のすずかけ祭来場者等を対象とするもので、大学院課程での学修、経済的支援やキャリア支援について理解を深めていただくことを目的として行いました。初めての試みでしたが、約230名と予想より多くの参加があり、急きょ会場を変更して大学会館(すずかけホール)の多目的ホールで行われました。

全体説明の様子

全体説明の様子

はじめに井村順一副学長(教育運営担当)が、理工系の専門大学として本学が掲げる人材像や教育ポリシーなどの東工大の教育の特徴や、修士・博士後期課程の年間スケジュール、主な活動の例、カリキュラムや修了要件などを、スライドを用いて全体説明を行いました。

続いて、教育・国際連携本部 学生支援部門の岡村哲至部門長による経済的支援とキャリア支援についての説明がありました。経済的支援では、TA(ティーチングアシスタント)・RA制度※1、TA(D)※2や入学料・授業料の徴収猶予や免除の紹介、奨学金についてなどより具体的な話がありました。キャリア支援では、修士・博士後期課程在学生の就職活動のスケジュールや、博士後期課程修了者の進路状況などの説明があり、参加者は東工大大学院生のキャリアパスについて詳細な情報を知ることが出来ました。

※1
TA(ティーチングアシスタント)・RA制度:TAとは教育や授業の補助準備など、教育に関わる業務補助を行う学生。RAとは研究実験の補助など、研究に関わる業務補助を行う学生のこと。
※2
TA(D):博士後期課程の学生に対して、授業料相当額程度を(RAと合わせて)援助する機会のこと。

最後に、来場者アンケートに寄せられた意見・要望の一部をご紹介します。

  • 東工大についてよく知ることができました。
  • カリキュラム、博士後期課程での研究費の制度、進路先は受験の際の重要な指標になりました。
  • 修士課程の学びの概観が得られました。
  • TA・RA制度をあまり知らなかったので参考になりました。
  • 奨学金の種類がどのくらいあるかきちんと把握したかったので、参考になりました。
  • キャリア=就職と決めつけていましたが、より広いものでした。
  • キャリア支援について詳しく教えていただけて参考になりました。

その他アンケートでいただいた多数のご意見・ご要望については、今後の教育支援に活用します。

当日の資料は下記URLよりご覧ください。

お問い合わせ先

学務部 教務課 教育企画グループ

E-mail : kyo.kyo@jim.titech.ac.jp

6月14日14:30 配布資料に訂正があったため、差し替えしました。。

「すずかけ祭2018」開催報告

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5月12日~13日の2日間、すずかけ台キャンパスにてすずかけ祭を開催しました。1日目は爽やかな晴天に恵まれ、2日目はお昼過ぎからやや強い雨に見舞われましたが、終始来場者が途切れることはなく、最終的に過去最多の3,865名をお迎えしました。また、11日~13日には、受験生の方を対象とする生命理工学院等のオープンキャンパスも開催しました。

すずかけ祭は、すずかけ台キャンパスの開設祝賀行事(1979年)を端緒とする学園祭で、今年で40回目を数えます。当初から地域との連携を深めることに重きを置き、研究室公開などにより本学の教育・研究活動を学外に伝えるとともに、文化展やスポーツ大会などを通じて地域の方々との交流を図ってきました。さらに、2003年からはオープンキャンパスを同時開催し、今年は学院・系の個別説明会に加えて大学院全学説明会も行いました。

受付の行列

受付の行列

研究室公開(化学生命科学研究所)
研究室公開(化学生命科学研究所)

すずかけ祭の中心は研究室公開です。本学のなかでも研究を特に強く推進しているすずかけ台キャンパスの特長を活かして、先端材料、エネルギー、建築、メカトロニクス、バイオ・医療、情報サイエンスなど多岐に亘る分野の、50以上の研究室が参加しました。

各研究室では、教員・学生が日々いそしむ研究について、来場者に説明したり質問に答えたりしていました。また、理工系の学問のおもしろさや、その成果が社会でどのように利用されているのかを小・中学生にも理解してもらえるように、体験や実験を交えて説明の方法に工夫を凝らしていました。

例年、地域の方々も企画に携わっています。今年は「東工大周辺の生き物たち」と題して、鳥を中心とした生き物の四季折々の写真が展示されました。なかには、地元住民であっても目にする機会の少ない生き物が撮影されていたようで、「この辺りにこんな鳥がいるのか」と驚きの声が聞かれました。このほか、ゲートボール大会やボーイスカウトの紹介、モトテカコーヒーでのこどもカフェ店員体験、そしてすずかけ祭に先立って実施された駅伝大会の表彰式など、地域の方々が大勢参加する企画が開催されました。

女子美術大学(以下、女子美)との連携企画「東工大で女子美ピクニック♪」は昨年同様、「ギャラリートーク」と「ボディシールアート」の2つの企画を行いました。ギャラリートークは、J3棟のギャラリーに展示されている絵画について、その作者である女子美の学生が解説する企画で、「なぜこの絵を描こうと思ったのですか?」、「タイトルの意味は?」といった質問が参加者から飛び交っていました。また、ボディシールアートは、女子美の学生が来場者の手や顔にシールアートを施す企画です。会場はつねに満員で、子どもだけでなく大人の方も写真を撮り合って、笑いさざめく様子が印象的でした。

「東工大周辺の生き物たち」写真展示
「東工大周辺の生き物たち」写真展示

ギャラリートーク
ギャラリートーク

昨年好評だった、東工大の同窓会組織である蔵前工業会による児童向け体験型理科教室「くらりか」は、今年は規模を拡大し、教室を2つ設けました。それぞれ「カード型顕微鏡」と「スライム」を身の回りにある材料から作るという内容で、約230名の児童が講義に耳を傾け、実験と工作に没頭しました。参加児童の多くは横浜市や町田市から来場していましたが、なかには遠方からの参加者もいて、子どもたちの科学に対する興味や情熱をうかがい知ることができました。

「くらりか」でのスライムづくり
「くらりか」でのスライムづくり

Science Technoの科学実験教室
ScienceTechnoの科学実験教室

また、東工大生主体の企画も数多く催され、学生サークル「SceinceTechno(サイエンステクノ)」、「Bio Creative Staff(バイオ クリエイティブ スタッフ)」による科学実験教室は、約1,000名が訪れ大盛況となりました。ほかにも、「プラタナスの会」、「管弦楽団」によるコンサートや、「ジャグてっく」によるジャグリングパフォーマンス、研究室学生による模擬店などが開かれ、明るくにぎわうすずかけ祭にさらなる活気をもたらしてくれました。

にぎわう模擬店
にぎわう模擬店

すずかけ通り
すずかけ通り

あらためまして、地域の皆様をはじめ、ご来場くださいました皆様に感謝いたします。

最先端の教育・研究をわかりやすくお伝えし、本学に親しみを感じていただけるよう、教職員一同、すずかけ祭のより一層の充実に努めますので、ぜひ来年もご来場ください。

お問い合わせ先

すずかけ台地区事務部総務課総務グループ

Tel : 045-924-5904

アジア主要大学工学関係部局長会議2018を開催

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5月21日から23日にかけて、東工大大岡山キャンパス西9号館ディジタル多目的ホール等においてアジア主要大学工学関係部局長会議(Asian Engineering Deans Summit 2018(以下、AEDS))を開催しました。

AEDS2018 集合写真

AEDS2018 集合写真

この会議は、アジア主要大学の工学の教育・研究を司る学部、研究科などの長が年に1度集まり、工学教育に関する情報・意見交換を行うことを目的として2010年からこれまでに7回開催されています。

第8回目となる今回は、東工大の工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院、及び東京大学大学院工学研究科がホストとして、「工学教育プログラムの多様化について ―将来に向かって―」をテーマに掲げました。

  • session1「学生の流動化に対するダブル/デュアルディグリープログラムの有効性について」
  • session2「産業界と連携した国際インターンシッププログラムについて」
  • session3「留学生や女子学生にとって魅力的な環境づくりについて」
  • session4「革新的な人材育成を目指すアントレプナープログラムについて」
  • session5「工学教育プログラムの多様化のための優れた事例について」

という5つのセッションのもと、32大学から74名もの参加者が集まり、活発な意見交換が行われました。

また、22日の夕刻には八芳園(東京都港区)に場所を移して日本庭園を鑑賞した後、和やかな雰囲気の中で懇親会が催され、相互の交流の輪を大きく広げることが出来ました。

AEDS2018のプログラムや発表者については下記をご覧ください。

お問い合わせ

大岡山第二事務区工系事務第1グループ

水晶発振回路の高速起動化でIoT機器の消費電力を大幅低減 あらゆるものをインターネットでつなげるIoT社会の実現に貢献

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本研究成果のポイント

  • あらゆる電子機器に用いられる水晶発振回路[用語1]の起動時間について、従来比2倍以上の世界最速起動となる64マイクロ秒を達成しました。
  • これは起動時の増幅器のみを3段構成とし、容量フィードフォワードパス[用語2]を追加したことで、理論限界を超える負性抵抗(RN[用語3]を生み出した効果です。
  • 水晶発振回路を安定した周波数維持が必要な無線機器に用いる場合、大きな省エネルギー効果が得られ、大きな社会的インパクトを生むと期待されます。

概要

文部科学省の卓越研究員[用語4]で、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所の宮原正也准教授は、東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一准教授らの研究グループと共同で、高速起動と低電力を同時に実現する水晶発振回路の開発に成功しました。

水晶発振回路は、最小線幅65 nm(ナノメートル)のシリコンCMOSプロセスで試作。発振回路の増幅器を再構成可能な多段増幅器とし、26 MHz(メガヘルツ)および40 MHzで発振させたところ、40 MHz発振時には64 µs(マイクロ秒)で高速起動することを確認しました。これは、これまでに報告された同じ発振周波数の水晶発振回路の半分以下の起動時間です。水晶発振回路を無線機やシステムクロックなどの信号として使う際、非動作時には省エネのため各回路の電源をオフにして運用します。従来の水晶発振回路は電源オン後に発振が安定するまでに数ミリ秒かかり、無駄な電力を消費していましたが、今回開発に成功した水晶発振回路は、起動時間を短くすることで、起動にかかる消費エネルギーを大幅に減らすことが可能です。

水晶発振回路はあらゆるものをインターネットでつなげるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)機器[用語5]に欠かせない部品として知られていますが、近い将来、IoT機器のノード数[用語6]が世界中で1兆個を超えると予測されており、その低電力動作を可能とする開発成果は、社会的に大きなインパクトを生むことが予想されます。

このほど、宮原准教授が筆頭著者となり上記成果をまとめた論文が、2018年6月18日から22日に、米国ハワイ・ホノルルで開催される“2018 Symposium on VLSI Circuits”の発表論文として採択され、現地時間の17日午後7時(日本時間の18日午前11時)に公開されます。同シンポジウムは、集積回路の分野では世界的に著名な学会の一つであり、実験装置を持ち込んで行うDemo Session(デモ・セッション)の一つにも選ばれました。

なお、本研究の成果の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の結果、得られたものです。

背景

私たちの身の回りにはテレビ、携帯電話、デジタルカメラなど様々な電子機器が溢れており、その中には正確な動作の基準となる電気信号を作り出すための水晶振動子、水晶発振器が活躍しています。

水晶は、工芸品や宝飾品としても知られていますが、二酸化ケイ素で形成される無色透明の結晶で、変形させると電圧を発生する圧電物質の一つです。水晶に機械的な圧力をかけると表面に電気を生じます(圧電効果)。これは1880年に、イギリスのピエール・キュリーとジャック・キュリー兄弟による公開実験で明らかになったものですが、その後、逆に電気をかけると水晶が変形する(逆圧電効果)ことも明らかになり、この性質が水晶振動子に用いられるようになりました。

水晶振動子では、特定の角度で切り出した水晶板に電界をかけると起きる、ある一定の振動を利用します。水晶は非常に純粋な結晶体のため、温度や湿度など様々な環境条件にも強く、非常に安定した振動周波数を発生し続けます。この周波数を電気信号として取り出し、各種電子回路に利用します。水晶振動子が電子機器内において果たす用途は、(1)通信のために安定した周波数を維持する、(2)機器を動かすための規則正しい基準信号を作り出す、の二つがあります。

(1)は、ラジオやテレビ、携帯電話など電波を通じて情報をやりとりする電子機器に不可欠な機能です。例えば携帯電話では同時に多くの人が同じ場所で利用できるように、決められた周波数帯を数千チャンネルにも細かく分けて基地局と通信しています。水晶発振器は一定の周波数を維持しながら発振するため、この信号を基準信号として用いることで、通話や複数の機械の間でのデータ通信を可能にしています。(2)も、演算回路のプロセス制御や、機械制御のための正確なタイミングでの同期信号を出す機能のことで、パソコンのクロック周波数を生成したり、モーターを制御したりするのに使われています。また、正確な時間の基準信号のために、時計・電子機器の時計としても使われています。

本研究は水晶発振回路にある工夫を施すことで、その起動時間を大幅に短縮化し、低エネルギー消費を実現するもので、主に電源のオン、オフを繰り返す(1)の通信分野で、社会的に大きなインパクトを発揮すると考えられています。

研究内容と成果

従来の水晶発振回路は、図1(a)に示すように電源がオンされてから発振が安定するまでの起動時間に数ミリ秒を要し、この期間に無駄な電力を消費するという課題がありました。本研究では図1(b)のように水晶発振回路を高速起動させ、起動にかかる電力を抑える仕組みを完成させました。より詳しく見ていきます。

(a)従来の水晶発振回路の起動イメージ
(a)従来の水晶発振回路の起動イメージ

(b)本水晶発振回路の起動イメージ
(b)本水晶発振回路の起動イメージ

図1. 従来の水晶発振回路の課題

従来の水晶発振回路は、図2(a)に示すように、水晶振動子と発振回路で構成されています。それぞれを電気的な等価回路で示すと図2(b)のようになりますが、発振を開始させるためには水晶振動子の抵抗(RX)を打ち消すように、発振回路で負性抵抗(RN)を発生させる必要があります。また、RNの絶対値がRXよりも大きければ大きいほど起動時間を短くできることが知られています。

(a)水晶発振回路の構成
(a)水晶発振回路の構成

(b)水晶発振回路の等価回路
(b)水晶発振回路の等価回路

図2. 従来水晶発振回路の構成と等価回路

しかし、水晶発振回路の起動時間を高速化するには、以下の二つの課題がありました。

1.
RNの絶対値を大きくするために消費電力を増やさなくてはならない。
2.
水晶振動子の寄生容量の影響などによって、実現可能なRNの大きさに理論的な限界がある。

1.の課題に対し、本開発では図3(a)のように増幅器を3段縦続接続する構成としました。1段目、2段目の増幅器によって100倍程度の電圧利得を稼ぐことで、わずかな消費電力で大きな負性抵抗を生じさせることが可能となります。しかしながらこの構成だけでは、2.の課題が解決できないため、さらに図3(b)のように容量フィードフォワードパスを追加し、従来の理論限界値を超えられるように工夫しました。その結果、それぞれの回路の負性抵抗は、図4のようになり、従来構成と比べ100倍上大きな値が得られるようになりました。最終的な回路構成としては図5に示すように、水晶発振回路の起動開始後の一定期間のみ負性抵抗を大きくして起動を速め、定常発振時には消費電力を極力抑えられるように、増幅器を3段構成と1段構成の2種類に切り替える再構成を可能にしています。

(a)3段構成
(a)3段構成

(b)3段構成+容量フィードフォワードパス
(b)3段構成+容量フィードフォワードパス

図3. 本開発の増幅器構成

各発振回路の負性抵抗の比較

図4. 各発振回路の負性抵抗の比較

本開発水晶発振回路の動作シーケンス

図5. 本開発水晶発振回路の動作シーケンス

以上の構成について、最小線幅65 nmのCMOSプロセスを用いて試作を行いました。チップ写真を図6に示します。58 µm(マイクロメートル)× 91 µmの小面積で実現しました。図7に40 MHzの発振時において本手法を用いた場合と用いない場合の水晶発振回路の起動時間の測定結果を示しています。本手法を用いることで起動時間を18倍速めることが可能となり、起動時間はわずか64 µsとなりました。

本開発水晶発振回路のチップ写真

図6. 本開発水晶発振回路のチップ写真

水晶発振回路の測定結果

図7. 水晶発振回路の測定結果

図8は他の研究機関の水晶発振回路の高速化手法との性能比較を示しています。各手法を用いる前後の起動時間の比(手法適用前/手法適用後)と、起動にかかる消費エネルギーの比(手法適用前/手法適用後)を表したもので、値が大きければ大きいほど削減効果が高い手法であると言えます。特に26 MHz発振時における起動時間の削減効果は30倍(起動時間を1/30以下に削減)で、これは従来の手法と比べて2倍以上の効果が得られました。また、消費エネルギーの削減効果も高く、本手法を用いることで消費エネルギーを1/9に抑えることが確認できました。

従来研究との性能比較

[2] S. Iguchi, VLSIC, 2014, [3] D. Griffith, ISSCC, 2016, [4] M. Ding, ISSCC, 2017
図8. 従来研究との性能比較

本研究の意義、今後への期待

あらゆるものがインターネットにつながるIoT社会が進展するなか、インターネット上につながるIoT機器は増え続けています。

総務省の情報通信白書(平成29年版)は、IHS Technologyの推定を引用し、2016年時点でインターネットにつながるIoT機器の数は173億個で、2015年時点の154億個から12.8%の増加と堅調に拡大していると報告。2016年を起点に2021年までに年平均成長率(CAGR)15.0%とさらに成長率が加速し、2020年は約300億と現状の数量の2倍に規模が拡大する見通しであると述べています。この調子で増え続ければ、IoT機器は近い将来、1兆個を超えるとも予測されます。

IoT機器の多くは電源として電池または環境発電で賄われるため、低消費電力化技術は、IoT社会を実現する鍵となる技術として、近年盛んに研究開発が行われています。IoT機器の低消費電力化に有効な技術としては、動作時のみ回路の電源をオンにし、動作しない時には電源をオフにするという間欠動作があります。水晶発振回路は、IoT機器を含むあらゆる電子機器のシステムクロックや無線機などの基準信号源として用いられる重要な回路ブロックであり、間欠動作に対応した省エネ対策が求められていました。

本開発品の水晶発振回路は、広範なIoT機器への組み込みが可能です。水晶発振回路の高速起動によりIoT機器の間欠動作を簡便に行えるようにすれば、電池交換など電源メンテナンスの頻度を減らすことが可能となり、IoT機器の爆発的普及のきっかけとなることも予想されます。本開発の水晶発振回路を低消費電力無線機に適用した場合、電池寿命を最大で4倍程度延ばすことが可能であると試算されており、今後、無線機を備えたデータ収集端末に組み込み、効果を実証していく計画です。

用語説明

[用語1] 水晶発振回路 : 水晶振動子と発振回路(IC)を組み合わせた発振回路のこと。水晶振動子、発振回路については、背景を参照。

[用語2] 容量フィードフォワードパス : 水晶振動子の寄生容量に起因した制限をクリアするため、前もってその影響を極力なくすように加えた回路パス。具体的には1段目の増幅器を囲むように容量の回路パスを加えている。

[用語3] 負性抵抗(RN : 局部的に「負性の抵抗値」を持つ素子などの性質。電圧を増すと電流が減る、または電流を増やすと電圧が低下する現象のこと。

[用語4] 卓越研究員 : 文部科学省が2017年度から始めた「卓越研究員事業」により公募され、新たに採用された研究者。同事業の目的は、新たな研究領域に挑戦するような若手研究者が、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関をフィールドとして活躍し得る若手研究者の新たなキャリアパスを提示することなどが挙げられている。詳しくは文部科学省のホームページouterを参照。

[用語5] IoT機器 : 固有のIPアドレスを持ち、インターネットに接続が可能な機器のこと。センサーネットワークの末端として使われる端末から、コンピューティング機能を持つものまで、エレクトロニクス機器を広範囲にカバーするもの。

[用語6] ノード数 : ネットワーク上に接続されているIoT機器の数。

論文情報

掲載誌 :
2018 Symposium on VLSI Circuits
論文タイトル :
A 64 µs Start-Up 26/40 MHz Crystal Oscillator with Negative Resistance Boosting Technique Using Reconfigurable Multi-Stage Amplifier
著者 :
Masaya Miyahara1, Yukiya Endo2, Kenichi Okada2, and Akira Matsuzawa2
所属 :
1 High Energy Accelerator Research Organization, Ibaraki, Japan
2 Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan

講演情報

国際会議 :
講演セッション :
Session 11 – Frequency References
講演時間 :
現地時間6月20日午後1時55分 (PDT)
講演タイトル
A 64 µs Start-Up 26/40 MHz Crystal Oscillator with Negative Resistance Boosting Technique Using Reconfigurable Multi-Stage Amplifier(64 µsで起動する26/40 MHz 水晶発振回路-再構成可能な多段増幅器を用いた負性抵抗ブースト技術により達成-)
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お問い合わせ先

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所

准教授 宮原正也

Email : masaya@post.kek.jp
Tel : 029-864-5382

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大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

広報室長 引野肇

Email : hhikino@post.kek.jp
Tel : 029-879-60475 / Fax : 029-879-6049

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所

広報コーディネータ 中村牧生

Email : nakamu@post.kek.jp
Tel : 029-879-6054 / Mobile : 090-1420-8141

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

炭素と水素から土星形の分子をつくる 弱い相互作用が安定化のカギ

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要点

  • 有機分子の環とフラーレンの球からナノサイズの土星形分子を作製
  • 環の内側に球が取り込まれた構造を結晶の解析により確認
  • 多点の炭素と水素の間の相互作用が土星形構造に重要

概要

東京工業大学 理学院 化学系の豊田真司教授、鶴巻英治助教、山本悠太大学院生(博士後期課程3年)、岡山理科大学 理学部 化学科の若松寛准教授らの研究グループは、球構造のフラーレン[用語1]分子を内側に取り込んだ、炭素と水素だけで構成される土星形分子(ナノ[用語2]土星)の作製に成功した。この分子を解析したところ、多点の炭素と水素の間の相互作用が土星形構造の安定化に寄与することが判明した。この作製手法は、ナノサイズの分子構造体を自在に作製する方法の一つとして、今後幅広く利用される可能性がある。

本研究ではまず、環構造の有機分子として、芳香族化合物であるアントラセン[用語3]を環状に連結した構造を設計。その内部に約1ナノメートル(nm)の空孔をもつ円盤状の有機分子を合成した。この有機分子とフラーレン(C60)を溶液中で混合すると土星のような形の分子が生成することを確認し、結晶として取り出すことに成功した。環の内側のちょうど中央に球が取り込まれた構造は、X線を用いた結晶解析により確認できた。

炭素に結合した水素と芳香環の相互作用は弱いとされているが、構造を適切に設計すると分子の取り込みに重要な役割を果たすことが明らかになった。

これらの研究成果は、ドイツの化学学術雑誌 Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)にHot Paper(注目論文)として2018年5月30日付で掲載された。

研究の背景

球構造の分子が環構造の分子の内側に取り込まれたナノサイズの土星形分子は、「ナノ土星」として超分子化学[用語4]の分野で注目されている構造体だ(図1)。この構造体を実現するためには、環分子と球分子が引きつけあうように分子の大きさや形を適切に設計する必要がある。これまでに報告された大部分のナノ土星では、球分子との接触面積が広いベルト状の環分子が用いられてきた。

しかし、実際の土星の環は非常に薄く(図1:直径28万kmに対し厚さ1 km以下)、これに近い構造体を構築するためには球分子との接触面積が広い円盤状の環分子を精密に設計しなければならない。これまでに理論的な研究により、円盤状の芳香族化合物が球状のフラーレンを取り込むことが予測されていたが、合成が非常に困難なため実験的な研究は限られていた[文献1、2、3]

そこで、本研究では芳香族化合物であるアントラセンを環状に連結した分子を設計し[文献4]、その環分子が球分子を取り込むかどうかを検証した。その結果、実際に合成した円盤状の環分子とフラーレン(C60)から、炭素と水素で構成される土星形分子(直径約2 nm)の作製に初めて成功した。

土星(左)と土星形分子(右)

図1. 土星(左)と土星形分子(右)

研究成果

環分子の設計と合成

まず環分子として、芳香族化合物であるアントラセンを環状に6個連結した円盤状分子を設計した(図2)。化合物の溶解性を向上するために、環状骨格の外周部に置換基を導入。この化合物は、前駆体であるジブロモアントラセンからニッケル試薬を用いたカップリング反応[用語5]を利用して合成し、核磁気共鳴分光法(NMR)や質量分析法、X線結晶構造解析により構造を決定した。結晶構造解析の結果、この分子は比較的平面に近い六角形の環状骨格をもち、内部の空孔の大きさはフラーレンC60分子の直径の約1 nmにほぼ等しいことが明らかになった。

環分子の合成(左)とX線結晶構造(右)

図2. 環分子の合成(左)とX線結晶構造(右)

土星形分子の作製

合成した環分子とC60分子をトルエン溶液中で混合することで、土星形分子の作製を試みた。環分子に対して球分子を加えていくと環分子のNMRシグナルが移動し、環分子の内部の領域で相互作用があることが確かめられた。詳しい解析により、分子は1:1の比で会合することが明らかになり、その強さを示す会合定数[用語6]を2,300 L mol–1と決定した。

また、この混合溶液から、土星形分子を黒色の結晶として取り出すことに成功した。X線結晶構造解析の結果、環分子の内側のちょうど中央に球分子が取り込まれた土星形の構造をもつことが確認でき(図3)、理論的な予想を実験的に証明することができた。今回作製に成功した土星形分子は炭素と水素だけで構成されており、平面に近い円盤状の環状分子を利用する土星型の構造体としては初めての例である。

環分子とフラーレンC60による土星形分子の形成(環外周部の置換基は省略)

図3. 環分子とフラーレンC60による土星形分子の形成(環外周部の置換基は省略)

土星形分子の特徴

X線結晶構造解析で得られた構造では、環分子の内側に向く水素と球分子の炭素に広がるπ電子間に多数の接触が見られ、多点のCH–π相互作用[用語7]が、この土星形構造を安定化していることが示唆された。モデル分子の理論計算を行うと実測の土星形分子の構造がよく再現されており、CH–π相互作用の重要性が判明した。一般的に個別のCH–π相互作用は弱いが、分子の形と大きさを適合させて多点での相互作用を可能にすると、分子を取り込むための駆動力となりえることを実証できた。

今後の展開

本研究は、多点の炭素と水素の間の相互作用が土星形の構造を安定化する現象を実験的に示したものだ。開発した作製手法は、ナノサイズの分子構造体を自在に作り出す方法の一つとして、今後幅広く利用される可能性がある。本研究で採用した環分子は、次世代の炭素材料として期待されているグラフェン[用語8]の部分構造を有している。そのため、このような炭素材料が、フラーレンなどの球分子を取り込む機能を生み出すためのモデルとして活用されていくだろう。

現在、平面性の高い環分子や大きさの異なるC60以外のフラーレンを用いて、多様なナノ土星を作製するための研究を進めている。

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業および公益財団法人泉科学技術振興財団研究助成の支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] フラーレン : 炭素だけからなる多面体かご型分子の総称。サッカーボール形のC60が最も有名である。

[用語2] ナノ : 分子レベルの長さのスケールを意味する。1ナノメートルは1メートルの109分の1に等しい。

[用語3] アントラセン : 3つのベンゼン環が縮環した長方形の平面状構造の有機分子。

[用語4] 超分子化学 : 分子間の相互作用により集合した分子の構造体の化学を研究する分野。

[用語5] カップリング反応 : 遷移金属を触媒や反応剤に用いて、2つの有機化合物を直接結合させる反応。

[用語6] 会合定数 : 会合の強さを示す指標となる数値。数値が大きいほど会合した構造が有利である。

[用語7] CH–π相互作用 : 炭素に結合した水素と芳香環の炭素のπ電子との間に働く相互作用。

[用語8] グラフェン : 炭素の同素体の一つで、グラファイト(黒鉛)中の単一層からなる炭素のシート状物質。

参考文献

[文献1] H.U.Rehman, N.A. McKee, M.L. McKee, J. Comput. Chem. 2016, 37, 194.

[文献2] S. Kigure, S. Okada, Jpn. J. Appl. Phys. 2015, 54, 06FF01.

[文献3] H. Shimizu, J.D. Cojal González, M. Hasegawa, T. Nishinaga, T. Haque, M. Takase, H. Otani, J.P. Rabe, M. Iyoda, J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 3877.

[文献4] Y. Yamamoto, K. Wakamatsu, T. Iwanaga, H. Sato, S. Toyota, Chem. Asian J. 2016, 11, 1370.

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Nano-Saturn: Experimental Evidence of Complex Formation of an Anthracene Cyclic Ring with C60
(ナノ土星:アントラセン環状リングとC60との錯体形成の実験的証拠)
著者 :
Yuta Yamamoto, Eiji Tsurumaki, Kan Wakamatsu, Shinji Toyota*
(山本 悠太、鶴巻 英治、若松 寛、豊田 真司*
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

教授 豊田真司

E-mail : stoyota@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2294 / Fax: 03-5734-2294

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学教室「棘皮動物の不思議な世界2018」開催報告

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春休み期間中の3月28日、生命理工学院 基礎生物学教室は、中学生以上を対象に大岡山キャンパスにおいて科学教室「棘皮(きょくひ)動物の不思議な世界2018」を開催しました。本科学教室は東工大基金を活用した日本再生プロジェクト事業の後援を受けて行われており、今回で3回目の開催となりました。棘皮動物とはウニ、ヒトデ、ナマコの仲間で、ヒトが属する脊椎動物に比較的近縁でありながら5角形をした変わった動物です。当日、参加者は実際に触れて棘皮動物のデザインを学びました。

生きたウニに触れる参加者
生きたウニに触れる参加者

主な観察と実験の内容は以下の通りです。

  • ヒトデとウニの起き直り行動の観察
    イトマキヒトデとムラサキウニを逆さまにひっくり返し、起き直り行動が決まったパターンで起こるかどうか観察しました。
  • 生きたニセクロナマコの管足、触手の観察
    管足も触手も棘皮動物に独特の水管系という器官系の器官です。
  • ウニの裸殻(らかく)とアリストテレスのランタン(咀嚼器)の観察
    ウニの殻やアリストテレスのランタンが5放射相称をなすことを確かめました。
  • ウニの叉棘(さきょく)を使った観察と実験
    叉棘とは一部の棘皮動物に見られる棘皮動物に独特の器官です。ウニの叉棘は開閉する3本の爪を持つ、ピンセット状の器官です。生きたムラサキウニの殻を実体顕微鏡で観察し、叉棘を確認しました。また機械的刺激を与えたとき、叉棘の爪が開閉する様子も観察しました。

参加者は生きた棘皮動物の観察や実験を楽しみ、棘皮動物の変わった体制や、その独特の器官について理解を深めました。また、化石を含む棘皮動物の標本も観察しました。

今後も地域の方々、とりわけ地域の子どもたちを対象とした科学教室の開催を予定しています。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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お問い合わせ先

生命理工学院基礎生物学教室

Email : 29uni@kisoseibutsu.bio.titech.ac.jp


大隅良典記念奨学金 第1回授与式を開催

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5月26日、大岡山キャンパス70周年記念講堂にて、2018年度以降の学士課程入学者を対象とする「大隅良典記念奨学金」の第1回授与式を開催しました。 同日に開催されたホームカミングデイ2018の大隅良典栄誉教授特別講演会に先立ち行われたもので、この4月に本学学士課程に入学した5名に対し、益一哉学長から奨学生証が授与されました。

大隅栄誉教授(左から4人目)、益学長(同5人目)と一緒に記念撮影に臨んだ奨学生

大隅栄誉教授(左から4人目)、益学長(同5人目)と一緒に記念撮影に臨んだ奨学生

「大隅良典記念基金」は、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅栄誉教授からの多額の寄附を原資として、2017年1月に設置されました。「学生に対する修学支援」「若手研究者に対する研究支援」「基礎研究を実施するための研究環境の整備」に活用され、2018年3月現在において460件、合計2億8,640万円の寄附をいただいています。

そのうちの一つ、「学生に対する修学支援」事業として設立された「大隅良典記念奨学金」は、優れた人材が全国から東工大に集結し、将来のリーダーとして国際的に活躍できる人材を育成することを目的としています。

メッセージを贈る大隅栄誉教授
メッセージを贈る大隅栄誉教授

奨学生5名には、大隅栄誉教授から「奨学金を授与された皆さんおめでとうございます。私が大学に入った時、全国から学生が集まってきていたのが印象的でした。大学に入学した当初は人生にとって非常に大きな時間であり、そこでたくさんの色々なバックグラウンドを持つ人たちと触れ合うのは大学生活においてとても大切なことだと思っています。

また、地方から東工大を目指す人が増えるのは大学の活性化にも繋がるとの思いで本奨学金をスタートさせていただきました。ぜひ東工大で、これまでとは違うことにチャレンジしながらたくさんの人と触れ合って、楽しい学生生活を送ってほしいと思います」とのメッセージが贈られました。

初回募集となった今回は全国の高等学校等※1から多数の推薦があり、無事本学への入学が決まった5名に対し、原則として学士課程の標準修業年限(4年)以内※2で奨学金(月額5万円)が支給されます。

※1
高等学校等の対象所在地域が埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県にある場合を除きます。
※2
ただし、学士課程卒業後に引き続き本学修士課程に入学し、資格を満たす場合は、申請に基づき、修士課程の標準修業年限(2年)以内で支給を継続します。

本奨学金は毎年9月に募集を開始します。詳細は以下のページにてご確認ください。

高等学校等関係者の皆さまからのご推薦をお待ちしています。

2030年に世界トップ10に入るリサーチユニバーシティを目指す東工大のさらなる飛躍に向けて、「大隅良典記念基金」の趣旨をご理解いただき、引き続き、温かいご支援を賜りますようお願いします。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東京工業大学 環境・社会理工学院 東工大×ロンドン芸術大学CSM 産学実験プロジェクト サイエンス&アートカフェ「モードの輪郭」のご案内

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東京工業大学は、ロンドン芸術大学セントラル・セントマーティンズ校(CSM)と協働し、サイエンス×アート産学実験プロジェクト「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」を開始しました。

本プロジェクトの活動の一環として、注目の新鋭ファッションデザイナー長見佳祐氏をお招きし、「モードの輪郭」と題してお話していただくとともに、参加の皆様とのディスカッションを行います。ファッションの多様性、遊び、不気味さなど、未来予測的な視点から、SNS時代以後のファッションの可能性とその見方を面白く語っていただきます。未来モードの輪郭が、光と影を帯びて浮かび上がってくるでしょう。

お気軽にご参加ください。

ロンドン芸大CSM U. Oberlack博士による光のデザイン作品
ロンドン芸大CSM U. Oberlack博士による
光のデザイン作品

光のウェアラブルワークショップ成果物
光のウェアラブルワークショップ成果物

開催概要

日時
2018年6月26日(火)18:00 - 19:30(開場17:45)
場所
参加費
入場無料
申込み
DEEP MODE 準備室イベントページouterよりお申込みください。

モデレーター、登壇者

野原佳代子教授
野原佳代子教授

長見佳祐氏
長見佳祐氏

東京工業大学 環境・社会理工学院 野原佳代子教授
津田広志研究員

ファッションデザイナー 長見佳祐氏

東工大×ロンドン芸術大学CSM 産学実験プロジェクトとは?

通勤時にリュックとスニーカーという風景が普通に見られるようになりました。働きやすいウェア、高齢者や子供、障がい者をサポートするウェア、災害時に命を守るウェアなど、社会の問題を反映した、スマートな(=考える)ファッションが求められています。

「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」

このシンプルなテーマを掲げ、生命観、最先端テクノロジー、社会課題を踏まえ、都民、エンジニアや素材開発者たちの声を取り入れて、ロンドン芸術大学CSMアーティスト/デザイナーチームとともに、全く新しい「ウェアラブル・ファッション」のデザインと提案をします。

本プロジェクトの理念に賛同いただける企業に、プロジェクトへの参加と支援をお願いいたします。

2018年度の活動計画予定

活動
時期
内容
都民とのサイエンス&アートカフェ
2018年5~6月
「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」をテーマとしたカフェイベントや講演
デザイン活動
2018年7月~8月
3名のCSMアーティスト/デザイナーと協働し、10年後、東京で求められる「ウェアラブル・ファッション」をデザイン
ウェアラブル体験ファッションデモンストレーション
2018年9月
「ウェアラブル・ファッション」を発表 渋谷(予定)
(映像によるプレゼンテーションの場合もある)
プロトタイプ制作活動
2018年10月~2019年2月
考案されたウェアラブルアイディアをもとに、UX(ユーザー体験)、UI(ユーザーインターフェース)、SD(サービスデザイン)調査を実施し、製品のプロトタイプを制作(映像によるプレゼンテーションの場合もある)
公開シンポジウム
2019年3月予定
専門家による講演とパネルディスカッション
サイエンス×アートの融合の視点でファッション分野へ提言
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お問い合わせ先

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系

E-mail : tokyotechxcsm@tse.ens.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3521

腰原伸也教授と東工大がフランス・レンヌ市から表彰

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6月12日、フランス・レンヌ市にて開催された国際学会UCM2018(2018年物質の超高速制御に関する国際会議)の歓迎会において、理学院 化学系の腰原伸也教授、東京大学の大越慎一教授、および東工大、東京大学が、レンヌ第1大学等を始めとする日仏研究交流に多大な貢献をしたとして、レンヌ市から表彰を受けました。

左から、レンヌ第1大学のエリック・コレ教授、レンヌ第1大学のダヴィッド・アリス学長、レンヌ市のイザベラ・ペレリン副市長、東大の大越教授、本学の腰原教授、レンヌ第1大学のヘルベ・カイヨ教授

左から、レンヌ第1大学のエリック・コレ教授、レンヌ第1大学のダヴィッド・アリス学長、レンヌ市のイザベラ・ペレリン副市長、東大の大越教授、本学の腰原教授、レンヌ第1大学のヘルベ・カイヨ教授

表彰式では、レンヌ市のイザベラ・ペレリン副市長とレンヌ第1大学のダヴィッド・アリス学長から、まず、レンヌ第1大学と東工大、東大において、学生交流における授業料不徴収を含めた長い交流の歴史があることが触れられました。

こうした交流が、腰原教授がヘルベ・カイヨ教授等と協力して尽力した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国際共同研究や、腰原教授が研究総括としてレンヌに研究拠点を設置した国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)によって進展したこと、その後、人材交流・若手育成面で東工大の榎敏明教授(当時)、森健彦教授がレンヌ第1大学のランセン・オウアハブ、ヘルベ・カイヨ両教授と協力して責任者を務めた2つの事業、日本学術振興会(JSPS)の若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP)と、フランス国立科学研究センター(以下、CNRS)との二国間協定を結んだ先端研究拠点形成事業へと発展したことが紹介されました。

副賞として贈られた品々
副賞として贈られた品々

さらに、EU統合連携プロジェクトであるエラスムス・ムンドゥスの物質・材料 研究プロジェクトMAMASELF(ママセルフ)で、東工大がパートナーに指定されたことも紹介されました。そして最後に、これらの基礎の上に、東工大を含む日仏8大学、CNRSによる国際共同研究所(以下、LIA)が2016年12月に発足したことが語られ、このLIA発足に尽力し、現在日本側責任者を務めている東大の大越教授へも厚い謝辞が述べられました。

続いて、副賞としてシャンパンとレンヌ市公式ガイド本がペレリン副市長とアリス学長から本学の腰原教授、東大の大越教授に手渡されました。

腰原教授のコメント

私は、基礎科学における新分野の発展を目指してレンヌ第1大学との交流を4半世紀近く進めてまいりました。実際、初期に修士学生として私の集中講義を聞いて分野に参加した、エリック・コレ教授(写真左端)が現在ヨーロッパのこの分野での若手重鎮として活躍中です。このような、過分なお褒めの言葉をレンヌ市からもいただき、深い喜びを感じております。この協力関係を支えてきてくださった日仏両国の関係の多くの皆様に改めて厚くお礼を申し上げるとともに、今後も日仏力を合わせて、基礎科学の発展に向けた一層の努力を続けたいと考えております。

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広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : pr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

6月22日10:50 メールアドレスに誤りがあったため、修正しました。

ありふれた元素で高性能な窒化物半導体を開発 安価な薄膜太陽電池開発につながる可能性

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要点

  • 高い伝導キャリア移動度を持つp型およびn型の窒化銅半導体を開発
  • 理論計算に基づいた設計と精緻な合成・評価実験の連携により実現
  • 大面積・安価な窒化物半導体の薄膜形成に応用可能

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)、元素戦略研究センターの松崎功佑特任助教、科学技術創成研究院の大場史康教授、物質理工学院の原田航大学院生(博士後期課程1年)、元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、笹瀬雅人特任准教授らは、物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点の木本浩司副拠点長、越谷翔悟NIMSポスドク研究員、上田茂典主任研究員らと共同で、希少元素[用語1]を含まない窒化銅(Cu3N)を使って、p型とn型の両方で高い伝導キャリア移動度[用語2]を示す半導体を開発しました。

この成果は、新たに考案した窒化物合成法と、第一原理計算[用語3]に基づいた有効なキャリアドーピング法、原子分解能の電子顕微鏡による観察および放射光による電子状態解析を組み合わせることで得られました。本研究により、大面積・低コスト化に適した合成法でp型とn型の窒化銅が実現し、同一材料のp型とn型半導体を使った、希少元素を含まない薄膜太陽電池[用語4]への応用が期待できます。

本研究成果は、ドイツ科学誌「アドバンスト・マテリアルズ(Advanced Materials)」に速報としてオンライン版に6月19日付(現地時間)で公開されました。

本成果は、主に以下の事業・研究課題によって得られました。

文部科学省 元素戦略プロジェクト<拠点型成型>

  • 研究課題名
    「東工大元素戦略拠点」
  • 代表研究者
    東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
  • PM
    元素戦略研究センター 雲見日出也 特任教授
  • 研究実施場所
    東京工業大学
  • 研究期間
    2013年7月~2022年3月

研究の背景

半導体には、電気伝導を正孔が担うp型半導体と、電子が担うn型半導体があり、その接合(pn接合)は半導体デバイスの基本構造として発光ダイオードや太陽電池などに使われています。その中でも、薄膜技術を用いた太陽電池としては、安価かつ高変換効率を追求した化合物半導体系太陽電池であるCIGSや、CdTe太陽電池が実用化され、近年ではペロブスカイト型太陽電池が注目されています。しかし、これらの薄膜太陽電池材料には、希少あるいは有毒な金属が含まれるため、より安価で環境調和性の高い新材料の探索が進められています。またこれらの材料はp型とn型の両方への極性制御が難しく、その太陽電池としては異種材料のp型とn型の半導体を組み合わせたヘテロ接合が使われており、変換効率低下の要因となる接合界面を最適化することが必要となっています。高性能な結晶シリコン(Si)やGaAs太陽電池のように、同一材料のp型とn型の半導体でホモ接合を造ることができれば、高い変換効率を示す太陽電池の作製が容易になると期待されます。

窒化銅(Cu3N)はありふれた元素のみで構成される間接遷移型半導体であり、太陽光スペクトルに適したバンドギャップ1.0 eVと高い光吸収係数をもつことから、新しい薄膜太陽電池材料として注目されています。しかし窒化銅は熱力学的に準安定な物質であり、多くの窒化物と同様に高品質な結晶の作製が難しく、半導体としての特性は明らかになっていませんでした。

研究成果

研究グループは、薄膜を安価・大面積に形成できる窒化物合成法の考案と理論計算を用いたキャリアドーピング[用語5]の設計、原子分解能の電子顕微鏡での観察、放射光による電子状態解析により、高性能なp型およびn型伝導性の窒化銅半導体の開発に成功しました。

窒化物合成の代表的な窒素源である窒素(N2)やアンモニア(NH3)は銅(Cu)と直接反応しないことが知られており、これらの窒素源では高品質な窒化銅の結晶育成は困難です。そこで今回、銅金属の触媒機能に着目し、アンモニア分子の酸化反応により得られる、反応性の高い活性窒素種(NHやNH2など)を窒素源とした銅の直接窒化反応を考案しました。この反応に基づいて、アンモニアと酸化性ガスである酸素(O2)の混合気体を使って、アンモニアを選択的に脱水素化(酸化)できる条件で生成される活性窒素種によって銅から窒化銅を直接合成しました(図a)。合成可能な温度範囲は200~800 ℃と広く、従来のプラズマ窒化法[用語6]の上限温度200 ℃より高温で反応させることができます。

この直接窒化法により、従来困難であった高品質な窒化銅薄膜の作製が可能になりました。得られた純粋な窒化銅薄膜はn型半導体であり、この結果は第一原理計算による予測と一致しました。電子濃度は1015~1016 cm-3に抑制でき、電子移動度が180~200 cm2/Vs まで向上し、高性能な半導体となりました。

次にp型半導体を作製するために、アクセプターとなり得るドーパントの候補を第一原理計算により探索しました。格子の中心に大きな空隙を持つ窒化銅の特徴的な結晶構造に着目し、ドーパントの候補をスクリーニングした結果、フッ素イオン(F)の挿入が有効であると分かりました(図b)。この理論予測を踏まえて、酸化性ガスである三フッ化窒素(NF3)を用いて直接窒化法によってフッ素を添加した窒化銅を作製しました。

そして、電子線エネルギー損失分光[用語7]を使った走査透過型電子顕微鏡で試料を直接観察したところ、フッ素が理論予測通りに格子中心の空隙に存在していることを確認しました(図c)。また硬X線光電子分光[用語8]による電子状態解析とキャリア輸送特性の評価から、フッ素を添加した窒化銅はp型半導体であることが判明しました。正孔濃度は1016~1017 cm-3であり、正孔移動度は50~80 cm2/Vsと代表的な窒化物半導体である窒化ガリウムより高い値です。

図 (a)NH3/O2ガスを使った銅の直接窒化法とその反応原理(b)第一原理計算による予測。格子の空隙にFが入るとp型半導体、Cuが入るとn型半導体(c)Cu3N:Fの原子マッピング像(緑:F、赤:N、青:Cu)。理論予測通りにF原子は格子の空隙に存在(d)直接窒化法で作製したp型、n型Cu3N薄膜の移動度とキャリア濃度
(a)NH3/O2ガスを使った銅の直接窒化法とその反応原理 (b) 第一原理計算による予測。格子の空隙にFが入るとp型半導体、Cuが入るとn型半導体(c)Cu3N:Fの原子マッピング像(緑:F、赤:N、青:Cu)。理論予測通りにF原子は格子の空隙に存在(d)直接窒化法で作製したp型、n型Cu3N薄膜の移動度とキャリア濃度

今後の展望

新しい窒化物合成法の考案と理論計算によるドーピング設計、原子分解能電子顕微鏡観察、放射光電子状態解析の密接な連携により、p型とn型の両方を作り込める高品質な窒化銅半導体を実現しました。アンモニアと酸化性ガスを使ったこの合成法は、低コスト・大面積化に適していることから、窒化銅のpnホモ接合を使った安価な薄膜太陽電池への応用が期待できます。

用語説明

[用語1] 希少元素 : 地球上の存在量が少ないか、技術的・経済的な理由で使用が困難な元素。

[用語2] 伝導キャリア移動度 : 物質中の伝導キャリア(正孔または電子)の移動のしやすさを示す物理量。伝導キャリア移動度は半導体デバイスの特性を決める重要な指標となっている。

[用語3] 第一原理計算 : 量子力学の基本原理に基づいた計算。物質の性質を支配する電子の状態だけでなく、安定性や構造を決定する際の指標となる全エネルギーが得られ、結晶や分子の構造や安定性を予測できる。

[用語4] 薄膜太陽電池 : 光吸収係数の高い半導体薄膜を光吸収層に使った太陽電池。省資源と生産性に有利な薄膜製造法によって、低コスト化と高効率化を両立する。

[用語5] キャリアドーピング : 伝導キャリア(正孔または電子)の濃度を調整するために、純粋な半導体に少量の不純物を添加すること。

[用語6] プラズマ窒化法 : 真空に近い減圧で高電圧をかけてガスを放電させて発生したプラズマを用いて、窒素分子から生成される原子状窒素(ラジカル)と反応させる窒化法。

[用語7] 電子線エネルギー損失分光 : 電子線が薄片試料を透過する際に、試料中に存在する元素固有のエネルギーを電子線が失うことを利用して、試料中の構成元素、電子状態などを調べる分析手法。電子顕微鏡の観察下でも測定が可能なので、局所の分析ができる。

[用語8] 硬X線光電子分光 : 光電子分光は試料に光を照射し、光電効果によって放出される電子のエネルギーを測定することで、物質の電子状態や化学結合を調べる手法。光源に高エネルギーのX線を使うと光電子の脱出深さが数ナノメートルに及ぶので、通常のX線を用いる場合よりも、表面の影響が小さくなり固体内部の電子状態を測定できる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials(アドバンスト・マテリアルズ)
論文タイトル :
High-Mobility p-Type and n-Type Copper Nitride Semiconductors by Direct Nitriding Synthesis and In Silico Doping Design(和訳:直接窒化法および計算機中でのドーピング設計によって得られた高移動度p型およびn型窒化銅半導体)
著者 :
Kosuke Matsuzaki*, Kou Harada, Yu Kumagai, Shogo Koshiya, Koji Kimoto, Shigenori Ueda, Masato Sasase, Akihiro Maeda, Tomofumi Susaki, Masaaki Kitano, Fumiyasu Oba* and Hideo Hosono(松崎 功佑*、原田 航、熊谷 悠、越谷 翔悟、木本 浩司、上田 茂典、笹瀬 雅人、前田 祥宏、須崎 友文、北野 政明、大場 史康*、細野 秀雄)
DOI :

実験に関するお問い合わせ先

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フロンティア材料研究所 教授/元素戦略研究センター長
細野秀雄

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東京工業大学 元素戦略研究センター 特任助教

松崎功佑

E-mail : matsuzaki@mces.titech.ac.jp
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フロンティア材料研究所/元素戦略研究センター 教授

大場史康

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Tel : 045-924-5511

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半導体の少数キャリア寿命を正確に測定する手法開発 シリコンパワーデバイスの製造プロセス評価が可能に

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要点

  • 少数キャリア寿命[用語1]を電気的に評価するテストパターンを提案
  • 少数キャリアの二次元的拡散によるウエハーの抵抗変化量から寿命を抽出
  • IGBT製造工程であるゲート絶縁膜形成プロセスの評価を実施
  • IGBTと同じウエハーに作り込め実デバイスに近い少数キャリア寿命を評価

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の角嶋邦之准教授と科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の筒井一生教授らは、ストライプ状に形成したpn接合ダイオード[用語2]の電流-電圧特性を測定することにより、パワーデバイス用シリコンウエハーの少数キャリア寿命を抽出する新しい評価方法を確立した。

少数キャリアはウエハー内部に2次元的に拡散するため、ウエハー裏面に到達しにくくなるが、pn接合ダイオードの測定からストライプの間隔依存性[用語3]を解析することで、少数キャリアの寿命を得ることができるようになる。この手法では、長寿命のウエハーの評価が可能となる。

この評価方法はプロセス評価のみならず、シリコンパワーデバイス製造ウエハーに同時に作り込むことができるため、実際のデバイスの少数キャリア寿命に近い値が得られる。さらに、量産時のウエハー間の特性変化もモニターすることができるようになる。一方、本手法はシリコンだけでなく、ほかのワイドバンドギャップ[用語4]の半導体デバイスにも応用することができる。

研究成果は米国ハワイで開催される「2018 Symposia on VLSI Technology and Circuits(大規模集積回路シンポジウム)」で、現地時間6月20日に発表された。

従来の評価法

高耐圧で低損失なシリコン絶縁ゲートバイポーラトランジスタ[用語5](Si-IGBT)を実現するためには、基板内の少数キャリア寿命を正確に制御する必要がある。しかし、その製造プロセスによってはシリコンウエハー内に欠陥が発生し、少数キャリア寿命が短くなる課題がある。そのため、少数キャリア寿命の劣化が少ない、適切な製造プロセスを用いる必要があり、その選択をするための評価方法が求められてきた。

従来から用いられている製造プロセス評価は、新たにシリコンウエハーに製造プロセスを施し、光照射による電気伝導度変化を用いて少数キャリア寿命の評価を行ってきた。しかし、長い少数キャリア寿命を有するウエハーでは、ウエハー中ではなく、表面と裏面の再結合が支配的となり、正しく評価することは困難だった。また、パワーデバイスとは別のウエハーを用いるため、実際のパワーデバイスと特性が異なる懸念もあった。

研究成果

Si-IGBTの最適製造プロセスの選択を可能とする少数キャリア寿命の電気的評価手法を提案した。Si-IGBTで要求される少数キャリア寿命は長く、耐圧に必要なウエハーの厚さでは、ショックレーのダイオード方程式[用語6]を用いて導出することは困難である。

そこで、図1のようにストライプ状にpn接合ダイオードを形成し、その電流-電圧特性を測定することで、少数キャリア寿命を抽出するテストパターン(Test Element Group、TEG)を構築した。この構造では先に記したように少数キャリアはウエハー裏面に到達しにくくなるが、pn接合ダイオードの測定からストライプの間隔依存性を解析することにより、少数キャリア寿命を得ることができる。

デバイスシミュレーター[用語7]を用いた数値計算では、電流-電圧特性に明瞭なストライプの間隔依存性が見られた。特性に変化がなくなる十分広い間隔を図2に示すようにWp,maxパラメータ[用語8]と定義したところ、設定した少数キャリア寿命との関係式を得ることに成功した。

以上の知見により、次世代のSi-IGBTに用いるゲート絶縁膜形成プロセスの評価を行った。比較した製造プロセスは、1,050 ℃で13分間と1,100 ℃で5分間の2工程である。また、用いるウエハーの少数キャリア寿命を知るため、ゲート絶縁膜形成プロセスのない試料を参照にした。試作したダイオードを図3に示す。

この手法でpn接合ダイオードの測定と得られたWp,maxパラメータによる解析を行った結果、ダイオード試作のみのウエハーでは少数キャリア寿命が60μ秒だったのに対し、1,050 ℃で13分間の酸化工程では33μ秒、1,100 ℃で5分間の酸化工程は18μ秒と劣化することが分かった(図4)。以上の結果から1,050 ℃で13分間の酸化工程がより適している試作プロセスであることを明らかにした。

同手法の利点として、Si-IGBTと同じウエハーに作りこむことができるため、実デバイスに近い少数キャリア寿命の評価が可能となる点が挙げられる。また、ワイドバンドギャップ半導体で研究されている超高電圧のデバイス評価にも展開が可能である。

この研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「新世代Si-IGBTと応用基本技術の研究開発」(代表:平本俊郎東京大学教授)で行った。

図1. 提案するテストパターンの断面図。ストライプ状のpn接合ダイオードをWpの間隔で形成し、中心のダイオード特性を測定することで、少数キャリア寿命を抽出することができる
図1. 提案するテストパターンの断面図。ストライプ状のpn接合ダイオードをWpの間隔で形成し、中心のダイオード特性を測定することで、少数キャリア寿命を抽出することができる

図2. ストライプの間隔(Wp)を広くすると、Nベース領域の抵抗が小さくなる。縦軸のΔVは十分にWpの幅の広いダイオードと、同じ電流を流した際に必要な電圧の違い
図2. ストライプの間隔(Wp)を広くすると、Nベース領域の抵抗が小さくなる。縦軸のΔVは十分にWpの幅の広いダイオードと、同じ電流を流した際に必要な電圧の違い

図3. 試作したストライプ状のダイオードパターン
図3. 試作したストライプ状のダイオードパターン

図4. 提案する手法で抽出したゲート絶縁膜形成プロセスの少数キャリア寿命
図4. 提案する手法で抽出したゲート絶縁膜形成プロセスの少数キャリア寿命

背景

省エネルギー化を進めるためには、パワーデバイスを用いてインバータなどの電力制御システムを高効率化することが必須である。鉄道や電気自動車など高電圧が用いられる社会インフラ分野ではSi-IGBTが用いられており、今後さらなる高性能化が要求されている。

Si-IGBTはウエハー裏面にあるP型電極から注入された正孔が、ウエハー内部のN型ベース内に少数キャリアとして蓄積されることで、低い抵抗を実現している。N型ベース内の正孔の濃度はN型ベース内の少数キャリア寿命が大きく関与しており、スイッチングを考慮して適切な値に設定する必要がある。

パワーデバイスを製造するプロセスには、少数キャリア寿命を劣化させる原因が存在する。例えば、ウエハー内部に存在する酸素や窒素、炭素といった原子が欠陥となる場合やプロセス装置や環境から入り込んだ重金属汚染による欠陥など多数の要因が存在し、特に熱処理プロセスにおいて入り込むことが知られている。そのため、純度の高いウエハーを用いて、清浄度の高いプロセス装置・環境で製造することが必要である。

少数キャリアの長寿命を実現するためにはウエハー内の欠陥形成を最小化することができるプロセスや装置を用いることが必須である。不純物の少ないウエハーを用いることはもちろん、熱処理温度や時間などのプロセスパラメータを最適な条件にする必要がある。

従来、用いられてきたプロセス評価はデバイスとは別にシリコンウエハーを用意して行ってきた。少数キャリアを発生させるためにウエハーに光照射し、電気伝導度の変化を測定することで、少数キャリア寿命を抽出してきた。しかし長寿命の少数キャリアを有するウエハーでは表面と裏面に存在する欠陥で再結合が起こり、ウエハー内部の少数キャリア寿命を正しく評価することは困難だった。

そのため、ウエハーの表面と裏面の欠陥の影響を受けずに、正確に少数キャリア寿命を測定する手法が望まれていた。一方、パワーデバイスとは別のウエハーを用いるので、実際のパワーデバイスと特性が異なる懸念もあり、パワーデバイスを製造するウエハーで少数キャリア寿命を評価する手法が望まれていた。

研究の経緯

Si-IGBTの高性能化は通電時の抵抗損失とスイッチング損失の低減である。2014年から産学官で開始されたNEDOプロジェクトは、スケーリング技術によって新しいSi-IGBT構造を設計してきた。その結果、ウエハー内部のNベース領域[用語9]に正孔を高密度に蓄積する技術を示し、通電時の抵抗損失を大幅に低減することを実験的に示している。一方のスイッチング損失に関しては、Nベース領域の少数キャリアである正孔の寿命を適切な値に制御する必要がある。

Si-IGBTの製造ではゲート酸化や不純物拡散など高い温度で熱処理を行うプロセスが存在し、ウエハー内部の内因性の欠陥やプロセス装置・環境による外因性の不純物欠陥によって、少数キャリア寿命が低下する。少数キャリア寿命はウエハー内部の欠陥量で劣化するため、製造では長い値を維持しておく必要がある。

特に高耐圧のSi-IGBTでは、100μ秒程度の長い少数キャリア寿命が要求される。そのため、温度や時間などの少数キャリア寿命を劣化させないプロセス条件を選択することが必要である。従来、行われている光学測定でも最適なプロセス条件の探索は可能だが、面積やプロセス互換性から、製造するパワーデバイスと同一のウエハーで評価行うことはできない。

そこで、最適なプロセス条件を探索するために、パワーデバイスを製造するウエハーで少数キャリア寿命を評価する手法の開発に取り組んだ。そのため、少数キャリアを光照射によって励起するのではなく、実際のパワーデバイスと同様にP型電極から注入して拡散させ、その寿命を測定することにした。

今後の展望

今回開発した手法はシリコンだけでなく、炭化シリコン(SiC)やダイヤモンドに代表されるパワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体にも同様に用いることができる。今後は多様な応用が期待される。

用語説明

[用語1] 少数キャリア寿命 : 半導体中で数が少ないほうのキャリアが、多数キャリアと再結合するまでの時間。N型では正孔、P型では電子が少数キャリアとなる。少数キャリアを半導体中に注入、あるいは光によって発生することで、半導体の抵抗を下げることができる。

[用語2] pn接合ダイオード : P型半導体とN型半導体を接合した素子で、整流作用を示す。ここでは、濃度の高いP型半導体とN型半導体を接合しており、N型半導体をNベースと呼ぶ。順方向バイアス時には、P型半導体から正孔がN型半導体に注入され、Nベース領域の抵抗が小さくなる特徴がある。

[用語3] ストライプの間隔依存性 : 順方向バイアス時には、正孔がN型半導体中に広がって伝導する。ストライプの間隔(Wp)が狭いpn接合ダイオードでは、隣同志のpn接合ダイオードから注入された正孔が混ざるが、間隔が広い場合は混ざらすに伝導する。正孔が混ざらなくなる間隔をWp,maxパラメータと定義する。

[用語4] バンドギャップ : 結晶のバンド構造の禁制帯のエネルギー幅で、価電子帯の上部から伝導帯の下部までのエネルギーの差である。バンドギャップの幅が広いと絶縁体、狭いと半導体になる。ワイドバンドギャップの例として炭化ケイ素(SiC)が挙げられる。

[用語5] 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ : IGBT(insulated gate bipolar transistor)ともいう。エミッタ電極とコレクタ電極の間の電流を、絶縁層を介したゲート電極に加える制御電圧信号により制御するトランジスタ。高電圧、大電流を直接オン・オフできる高性能パワートランジスタとして広く用いられている。

[用語6] ショックレーのダイオード方程式 : pn接合ダイオードの電流―電圧特性を示した方程式。少数キャリア寿命が特性に大きな影響を与える。

[用語7] デバイスシミュレーター : 半導体デバイスの内部構造を設定し、数値計算でデバイス動作を確認する手法。

[用語8] Wp,maxパラメータ : 隣同士のpn接合ダイオードから注入された正孔がお互いに混ざらない十分なストライプ間隔。

[用語9] Nベース領域 : 高い電圧に耐えるために導入するN型半導体の領域。IGBTの抵抗の大部分を占めるため、正孔の蓄積を行うことによって、低抵抗化を実現する。

講演情報

国際会議 :
講演セッション :
Session 10, Power Devices and Circuits
講演時間 :
June 20th, 13:55 - 14:20
講演タイトル :
New Methodology for Evaluating Minority Carrier Lifetime for Process Assessment
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授

角嶋邦之

E-mail : kakushima.k.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5148

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授

筒井一生

E-mail : ktsutsui@ep.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5462

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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