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東工大コンサートシリーズ2018春 開催報告

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今年度最初の東工大コンサートシリーズは、4月17日にディジタル多目的ホールで「プーランクの夜会:東工大への招待」と題して行われました。一般にも公開されており、学外からの参加者も含めて300人のホールがほぼ満員になりました。

出演者(左から)黒岩航紀、矢野健太、岸本萌乃加、照沼夢輝、伊藤優里、大内秀介、佐竹真登

出演者(左から)黒岩航紀、矢野健太、岸本萌乃加、照沼夢輝、伊藤優里、大内秀介、佐竹真登

若い才能の紹介と大学ならではの企画

このシリーズは、科学者を触発し続けてきた芸術を愉しむ会であり、実際に研究開発を行っている理工系の教員が企画・運営を行っているところに特徴があります。

また、キャンパスコンサートは、ポピュラーな作品をとりあげる場合が多いのですが、企画・運営側では、東工大を1つの文化の発信拠点とするために、若い才能の紹介と大学だからこそできる尖がった内容を重視しています。過去にはメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」やペンデレッキの作品など現代音楽の傑作、そして、新作の初演も行っています。

今回の演奏会ではプーランクを特集しました。一般には知名度が低い作曲家ですが、20世紀前半にパリで活躍した作曲家です。モーツァルトの再来と評されたように、親しみやすく美しいメロディや踊りたくなるような軽快なリズムが特徴です。20世紀前半のパリを象徴する音楽を今回まとめて聴くことで、その価値を知ってもらいたいと考え、数少ない貸譜しかなく幻の作品である「城への招待」を演奏しました。その中に含まれる「ためらいのワルツの動機」などは、プーランクの粋や美的センスの最上のものです。

当日のプログラム

フランシス・プーランクの作品

  • 愛の小径(フルート、ピアノ)FP106b(1940)
  • オーボエ、ファゴット、ピアノのためのトリオ FP43(1926)
  • ホルンとピアノのためのエレジー FP168(1957)
  • フルート・ソナタ FP164(1956-57)
  • 城への招待(クラリネット、ヴァイオリン、ピアノ)FP138(1947)
  • ヴァイオリンソナタ「アラン・ロルカの思い出」から第2楽章 FP119(1942-43 rev. 49)
  • 六重奏曲(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、ピアノ)FP100(1932)

出演者プロフィール

演奏は、東京藝術大学で同時期に学んだ仲間でもあり、現在はそれぞれがソリストや著名オーケストラの団員として活躍中の20代半ばの若者たちに任せました。

  • 黒岩航紀(ピアノ)

    神奈川県出身。東京藝術大学附属高校から藝大へ進学し、首席で卒業。藝大大学院修士課程を修了。第11回東京音楽コンクールピアノ部門第1位及び聴衆賞受賞。同年第84回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、第4回いしかわ国際ピアノコンクール第1位など受賞多数。国内外のオーケストラと共演している。

  • 伊藤優里(フルート)

    山梨県甲府市出身。東京藝術大学卒業後、修士課程入学後、リヨン地方音楽院に1年間留学、現在、修士課程在籍中、ぱんだウインドオーケストラ団員。第19回日本クラシック音楽コンクール全国大会第2位(最高位)など、受賞多数。

  • 佐竹真登(オーボエ)

    埼玉県出身。東京藝術大学附属高校から藝大へ進学し、修士課程を修了。在学中に神奈川フィル契約団員を経て日本フィル団員となる。第85回日本音楽コンクール・オーボエ部門2位。

  • 矢野健太(ホルン)

    東京都出身。東京藝術大学卒業。現在、ソロの他、読響をはじめ、多数のプロオーケストラに出演中。

  • 大内秀介(ファゴット)

    京都市出身。東京藝術大学卒業および同大学院修士課程修了。在学中に日本フィル団員となる。

  • 照沼夢輝(クラリネット)

    茨城県東海村出身。東京藝術大学を卒業。在学中に日本フィル団員となる。日本クラシック音楽コンクール第2位など。

  • 岸本萌乃加(ヴァイオリン)

    岡山県倉敷市出身。東京藝術大学附属高校から藝大へ進学し首席で卒業。現在、修士課程に在学中。第9回東京音楽コンクール第1位。第86回日本音楽コンクール第3位など受賞多数。

次回開催

次回は、10月15日(月)と10月29日(月)に開催予定です。両日とも17時30分から東工大現役生および卒業生(アマチュアオーケストラ界のレジェンドたち)の演奏会、19時からプロを招聘した演奏会です。15日はリードを使う木管楽器のアンサンブル「トリオ・ダンシュ」、29日は若手ヴァイオリニスト小林美樹さんのリサイタルです。詳細は後日、本学HPにて発表しますので、トップページのイベント新着情報をご確認下さい。

今後も、海外の著名演奏家やマスタークラスの方をお呼びし、東工大コンサートシリーズを盛り上げていきます。お楽しみに!

問い合わせ先

物質理工学院応用化学系 小西玄一准教授

E-mail : gkonishi@polymer.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2321


「一日東工大生2018」開催報告

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6月3日日曜日、おもに女子高生に本学でのキャンパスライフを体験していただくためのイベント「一日東工大生」が開催されました。

東工大の教員有志で始めたこの企画も開催4年目となり、参加校は年々増加しています。今年は首都圏各地の女子校および共学校から計18校の参加がありました。参加生徒数は189名、引率高校教員も13校から17名が参観し、午前・ランチタイム・午後と、それぞれに工夫が凝らされたプログラムを体験しました。

くらまえホールに集まった参加者

くらまえホールに集まった参加者

昨年度と本年度は、新しい入試の枠組みを検討する文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業「高大での教育改革を目指した理数分野における入学者選抜改革」 の一環と位置づけ、グループワークや個別作業の工作実習も盛り込まれています。

水本哲弥理事・副学長(教育担当)のフレンドリーなウェルカムスピーチに迎えられ、理工系総合大学ならではの密度の濃い体験をする一日となりました。

当日のプログラムと参加校は以下の通りです。

一日東工大生プログラム

 
グループ
プログラム
会場
10:00 - 11:30
A
チャレンジA
「シナプスの精妙なるメカニズム」

~からだの中で情報はどう動くのか
一瀬宏先生(生命理工学院教授)
東工大蔵前会館1階
くらまえホール
B
「飛び出せ工学君! 」
~実習:振動を使って走る移動機械を創る!
岩附信行先生(工学院長)
大岡山西2号館 4階
W241講義室
11:40 - 12:40
先輩と語ろう
学校ごと 先輩トーク
総勢51名の先輩がおもてなし

学食体験

お好きなメニューでどうぞ
先輩がエスコートします

大学食堂棟1階
生協第1食堂
12:45 - 13:40
専門ごと 大質問会
専門分野に分かれて
理学/機械/電気/応用化学/情報/生命/建築/経営・融合/未定
13:40 - 14:00
移動、休憩
14:00 - 15:30
A
「飛び出せ工学君! 」
~実習:歩行ロボットの脚機構を作る!
岩附信行先生(工学院長)
大岡山西2号館 4階
W241講義室
B
チャレンジB
「分子建築学」

~自己集合により超分子を設計してみよう
河野正規先生(理学院教授)
東工大蔵前会館1階
くらまえホール
15:30 - 15:40
アンケート提出、東工大セット配布、解散
  • 浦和明の星女子中学・高等学校
  • 浦和第一女子高等学校
  • 桜蔭中学校・高等学校
  • 鴎友学園女子中学高等学校
  • 大妻中学高等学校
  • お茶の水女子大学附属高等学校
  • 川越女子高等学校
  • 吉祥女子中学・高等学校
  • 共立女子中学高等学校
  • 栄東中学・高等学校
  • 渋谷教育学園渋谷中学高等学校
  • 頌栄女子学院中学校・高等学校
  • 女子学院中学校・高等学校
  • 洗足学園中学高等学校
  • 東京学芸大学附属高等学校
  • 豊島岡女子学園
  • 雙葉高等学校
  • 横浜共立学園中学校高等学校
五十音順

プログラムのうち、「飛び出せ工学君」と「先輩と語るランチタイム」の2つのユニークな企画をレポートします。

飛び出せ工学君

岩附信行工学院長から、工学の面白さを女子高生に直接伝える内容で午前と午後と2回に分けて行われました。

まずはプロフィールの紹介や特技披露から入ります。幼稚園生だった娘のために凝りに凝ってミニチュアの机の引出まで動くドールハウスをつくった体験を語ったり、2進法の原理を応用した「心の数字」当てマジックを披露します。聴衆の関心を引き込んで、実習へと進みました。

午前の部は「振動を使って走る移動機械を創る!」。ゼンマイで振動する小さなユニットに4本の針金の脚を付ける工作です。脚の向きや長さをちょっと変えると、ガラッと動きが変化します。岩附研究室の学生6名が、軽やかにフロアを走り回って参加者をサポートします。

20分の工作と試行時間を終えると、壇上にしつらえられたグリーンのミニ競馬場で、いざ真剣勝負。写真判定まで飛び出す僅差のレースを勝ち抜いたのは鴎友学園女子中学高等学校の生徒さんでした。表彰式では、「重心を下げる工夫をしてみました」と、はにかみ笑顔の優勝者コメントが聞かれました。

自作の移動機械で対戦
自作の移動機械で対戦

午後の部で講義をする岩附工学院長
午後の部で講義をする岩附工学院長

ハトメを使って脚機構が完成
ハトメを使って脚機構が完成

午後の部は「歩行ロボットの脚機構を作る!」。すらっとした脚、大根足等、自分の好みでスタイルを選んで、まずはカラフルな型紙を台紙にぺたっと貼り、はさみでジョキジョキ切り分けます。恐らく参加者がこれまで見たこともないと思われるハトメという器具を使って穴を開け、パーツをつないで関節をつくります。留める順番を間違えると、すぐに岩附研究室の学生が駆けつけて直すのを手伝っていました。苦労の末に、たった1カ所を動かすだけであちこちが連動して動く「脚」メカニズムが完成しました。

先輩と語るランチタイム

先輩から専門の話を聞く参加者
先輩から専門の話を聞く参加者

本イベントのメインプログラムの一つ、母校の先輩としっかり語れる長いランチタイムです。

参加校それぞれの高校の卒業生で本学在学中の学生に、「おもてなし先輩部隊」としてランチタイムの運営を担ってもらいました。各校2~3名ずつ総勢51名の先輩が参加し、高校ごとに分かれて後輩たちとテーブルを囲みます。部活が一緒だったり、担任の先生が一緒だったり、最長6年間在籍した母校の話ですぐにうちとけて、受験やキャンパスライフをめぐってガールズトークが弾みます。

ランチタイム後半は、高校ごとのまとまりをほどいて、志望の専門ごとに分かれての質問会にシフトチェンジです。参加者は、理学・機械・電気・応用化学・情報・生命・建築・経営・融合など、自身の興味のある分野のテーブルへと移動します。まだ専門を決めかねている参加者向けに未定コーナーも用意しました。リーダーの誘導のもと、整然と移動して、聞きたい話をたくさん聞いて回っていました。

ランチタイムの先輩企画についての参加者アンケートの結果は、4段階評価で「とても良かった」が65%、「良かった」が33%と高評価が並び、自由記述欄も東工大生への熱いメッセージが隙間なく書き込まれていました。

自分の学校の先輩と話すと、学校の話題から大学でどういった生活をしているかなど、さまざまなことを話せてとても楽しかったです。さらに実際に今大学に通っている人と話せたことで、説明会などでは聞けない詳しいことまで聞くことができ、良かったです。

興味のある分野に分かれて、3対1くらいの割合で先輩方と話せたのが本当に良かったです。

来年、自分がそちら側になれるよう頑張ります!

といった感想が聞かれました。

実際にこの「一日東工大生」を高校生のときに体験して東工大生となり、今度はおもてなし部隊にまわった先輩も何人もいます。そうして先輩と後輩とのつながりがうまく育ってゆくことを期待しています。

大学入学者選抜改革推進委託事業とは、文部科学省が委託する事業の一つで、高大接続改革により、各大学の入学者選抜において、「思考力・判断力・表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に関する多面的・総合的な評価がより重視されることになることから、代表大学と参加大学等がコンソーシアムを組んで、人文社会(地理歴史科・公民科、国語科)、理数、情報、主体性等に関する評価手法の開発に取り組み、その成果を普及するものです。東工大は副代表校として、代表校の広島大学等の8大学と共同で理数分野で委託を受けています(事業期間は2016年度~2018年度)。

お問い合わせ先

学務部 入試課

E-mail : nyu.event@jim.titech.ac.jp

ロボット技術研究会が第30回知能ロボットコンテストで2つの賞を受賞

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6月16日、17日にかけてスリーエム仙台市科学館にて行われた第30回知能ロボットコンテスト2018にて、ものつくりサークル「東京工業大学ロボット技術研究会」のチームszk^2(すずかけ)技研が、真田賞およびチャレンジ技術賞をダブル受賞しました。

チームszk^2技研のロボット「タイヤ絶対撲滅太郎先輩」

チームszk^2技研のロボット「タイヤ絶対撲滅太郎先輩」

知能ロボットコンテストは、「ロボット競技会実行委員会」および「メカトロで遊ぶ会」が主催し、ロボット・メカトロニクス技術の習得と研究開発能力の向上を目的として開催されています。スタート時を除いて人為的操作をいっさい加えないロボットを用いて、決められた作業を所定の時間内に行い、獲得した点数を競うものです。

チームszk^2技研のロボット「タイヤ絶対撲滅太郎先輩」は75チームが出場するチャレンジャーズコースに参戦しました。チャレンジャーズコースでは、どこに置いてもよいボール1個と競技台上に散乱しているボール3色各5個・計16個のボールを、競技時間内にできるだけ多く選別しそれぞれ指定されたゴールに入れることができるかを競います。また競技点に加え、複数の審査員によりパフォーマンス性、チャレンジ性、芸術性、スピード感などの観点から評価され、チームszk^2技研を含む8チームが決勝戦に勝ち上がりました。

szk^2技研が製作したロボットは、30年行われてきた大会史上類を見ない戦略で競技を行い、審査員の想像を超えたパフォーマンス・速さであったことが評価されました。そして、あっと驚くような非常に面白いロボットを製作したチームに贈る真田賞と、未来の知能ロボットコンテストに新風を吹き込むような革新的な技術に挑戦したチームに贈るチャレンジ技術賞を受賞しました。

授賞式の様子
授賞式の様子

賞状と副賞を手にする仲鉢さん(左)、盾を手にする鈴木さん(右)
賞状と副賞を手にする仲鉢さん(左)、
盾を手にする鈴木さん(右)

受賞者のコメント

仲鉢貴臣さん (工学院 機械系 修士2年)

他の競技チームとは大きく異なるロボットや作戦で競技することが好きなので、審査員や観客の方々が自分達のロボットに驚き、そのパフォーマンスを楽しんでもらえたことは大変光栄です。

鈴木惇之さん (情報理工学院 情報工学系 修士2年)

最速で試合を終えるというコンセプトを掲げてこれまで試行錯誤を重ねてきました。見せたかった動きを会場で披露できて、満足しています。

ロボット技術研究会(ロ技研)とは

日本がその最前線を担うロボット技術(ロボティクス)を中心に、回路技術、ソフトウェア技術などについての研究開発を行う、東工大生184名が所属する公認サークルです。

小さいながらも学内に部室を持ち、フライス盤、旋盤、ボール盤などの工作機械と、オシロスコープやパソコンなどの電子回路・ソフトウェア開発のサポート機材を揃えています。また、ロボットづくりという枠組みにとらわれず、「何をやってもいい」というのがこのサークルの特徴です。

知識がなくても、ゼロから設計に必要な数学的観点と、回路・工作の実学的観点を学べる環境があります。ロボット技術研究会には、研究室と呼ばれるグループがあり、それぞれのテーマを設けるなどして、様々なことを研究しています。

問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に地球生命研究所の井田茂教授と研究員が出演

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地球生命研究所(ELSI)の井田茂教授、藤島皓介研究員、望月智弘研究員がNHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に出演します。同番組はお笑い芸人で作家の又吉直樹さんが、私たちの暮らしに潜むフシギを見つけ出しひも解く教養バラエティです。井田教授は出演だけでなく、監修としても番組制作に携わりました。

コメント

井田教授

井田教授

地球外生命の情報を含んだ観測データが、まもなく次々と届くことになりそうです。そこから、どうやって見知らぬ地球外生命を探しだせばいいのでしょうか。得体の知れない地球外生命の存在が明らかになったら、私たちはどう思うのでしょうか。研究者とは違う感覚を持つ又吉直樹さんと考えてみました。

藤島研究員

藤島研究員

私たちがまだ見ぬ地球外生命に思いを馳せるのは、我々自身が生命だからでしょうか。

又吉直樹さんが思い描く地球外生命は、私たち研究者に「生命とはそもそもなんだろうか?」ということを改めて問いかけてくれたような気がします。地球外生命探査から生命の起源、さらにはウイルスの話まで、後半の座談会は個人的に大変楽しませてもらいました。

望月研究員

望月研究員

Are we alone? 我々はひとりぼっちなのか。

古今東西、人類は常にこの疑問を持ち続けてきました。この数十年、ようやくこの疑問に対して科学的なアプローチが可能となってきました。地球外生命体の探索は、すなわちこの地球の生命の起源の追求にも大いに関連します。様々な視点でみなさんも一緒に考えてみてください。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」
  • タイトル
    星空の向こうに出会いはありますか?
  • 放送予定日
    2018年7月25日(水)22:00 - 22:45
  • (再放送)
    2018年7月27日(金)0:30 - 1:15(木曜深夜)
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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大が、渋谷スクランブルスクエア、東大、慶応大、早稲田大、東京都市大との6者連携事業をスタート 渋谷スクランブルスクエアを拠点として、新たなイノベーションの創出・クリエイティブ人材の育成を行います

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東工大、渋谷スクランブルスクエア株式会社、東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京都市大学の6者は、産学連携でのイノベーション創出や発信およびクリエイティブ人材の育成を目的とした連携事業協定(以下、本協定)を7月11日に締結しました。

東京急行電鉄株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東京地下鉄株式会社の3社は、2019年度開業予定の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア 第I期(東棟)」(以下、本施設)の開発を推進しています。渋谷スクランブルスクエア株式会社は、上記3社が共同で設立した本施設の運営者になります。

本協定の取り組みである「(仮称)渋谷SCSQイノベーションプロジェクト」は、本施設15階に計画する約2,600 m2の産業交流施設を拠点とし、渋谷駅を結節点とする交通機関の沿線に立地する本学を含む全5大学と連携して進められます。大学に集積された知と、渋谷の多種多様なユーザーや民間企業のノウハウなどを組み合わせ、社会課題解決に向けた取り組みや情報モビリティなどの分野において社会実装を行います。このような社会との双方向の交流を通じて、技術分野を超えた新しい発想による知の融合、新しいビジネスモデルの創出、ユーザー目線のアイデアと技術的知見との融合を目指します。

今後も本施設および産業交流施設の開業に向け、産学連携の活動として、大学関係者等による研究発表・プロジェクト紹介やセミナー、ワークショップなどのプレイベントを実施するとともに、渋谷におけるさらなるオープン・イノベーションの実現に向けた検討を推進していきます。

(1列目左から)本学の益一哉学長、早稲田大学の鎌田薫総長、東京大学の五神真総長、慶應義塾大学の長谷山彰学長、東京都市大学の三木千壽学長(2列目左から)渋谷スクランブルスクエア株式会社の堀江正博取締役社長、東京急行電鉄株式会社の野本弘文取締役会長、東日本旅客鉄道株式会社の冨田哲郎取締役会長、東京地下鉄株式会社の安富正文取締役会長

(1列目左から)本学の益一哉学長、早稲田大学の鎌田薫総長、東京大学の五神真総長、慶應義塾大学の長谷山彰学長、東京都市大学の三木千壽学長
(2列目左から)渋谷スクランブルスクエア株式会社の堀江正博取締役社長、東京急行電鉄株式会社の野本弘文取締役会長、東日本旅客鉄道株式会社の冨田哲郎取締役会長、東京地下鉄株式会社の安富正文取締役会長

渋谷の地域特性

渋谷駅は6駅8路線の広域な鉄道ネットワークとともに都内最大級のバスターミナルを有する大規模ターミナル駅として、交通利便性を背景に商業・業務機能を中心に発展してきました。近年においては音楽、ファッション、映像などのクリエイティブ・コンテンツ産業やIT企業の集積が進んでおり、独自の文化や産業を形成・発信しているほか、世界中から非常に高い注目を浴び、国内外から多くの観光客を惹きつけています。

渋谷スクランブルスクエア 第I期(東棟)では渋谷駅を結節点とする交通機関の沿線に立地する東京工業大学、東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京都市大学を中心に、渋谷に集まる多種多様なユーザーや企業などと連携した新たな共創拠点を設置することで、渋谷ならではの地域特性を活かして、イノベーション立国に貢献していきます。

位置図

位置図

「(仮称)渋谷SCSQイノベーションプロジェクト」プレイベント概要

連携イベント第1弾として、5大学教員、行政関係者、投資家などが登壇し、“渋谷ならではのイノベーション”をテーマとしたパネルディスカッションを開催します。

渋谷駅街区開発計画 第I期(東棟)の計画概要

事業主体
東京急行電鉄株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東京地下鉄株式会社
所在
東京都渋谷区渋谷二丁目23番 外
用途
事務所、店舗、展望施設、駐車場など
延床面積
約181,000 m2(参考:全体完成時 約276,000 m2
階数
地上47階 地下7階
高さ
約230 m
設計者
渋谷駅周辺整備計画共同企業体
株式会社日建設計、株式会社東急設計コンサルタント、株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所、メトロ開発株式会社、デザインアーキテクト(駅街区)、株式会社日建設計、株式会社隈研吾建築都市設計事務所、有限会社SANAA事務所
運営者
渋谷スクランブルスクエア株式会社
予定工期
2014年度 - 2019年度
開業時期
2019年度

渋谷駅街区開発計画 第I期(東棟)の計画概要

お問い合わせ先

渋谷各街区プロジェクト PR事務局(株式会社サニーサイドアップ内)

山口、小俣

E-mail : shibuya-project@ssu.co.jp
Tel : 03-6894-3200 / Fax : 03-5413-3050

10年後の東京、ひとは何を着ているか? 東工大xCSMハッカソン ウェアラブル制作ワークショップ開催

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東京工業大学は、ロンドン芸術大学セントラル・セントマーティンズ校(CSM)と協働し、サイエンス×アート産学実験プロジェクト「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」を開始しました。

本プロジェクトの活動の一環として、ロンドン芸大CSMからウルリケ・オバーラック(ジュエリーデザイン)とヘザー・バーネット(粘菌アーティスト)を迎え、ウェアラブルを「実際に作る」ハッカソンワークショップを実施します。それぞれの専門からプロジェクトにご協力いただける方歓迎です!

全日出席できなくとも構いません、お気軽にご参加ください。東工大生は単位履修も可能です、お問い合わせください(「物語のあるものつくり」)。

ロンドン芸大CSM U. Oberlack博士による光のデザイン作品
ロンドン芸大CSM U. Oberlack博士による
光のデザイン作品

光のウェアラブルワークショップ成果物
光のウェアラブルワークショップ成果物

開催概要

日時
7月21日(土)、22日(日 希望者のみ)、 24日(火)、25日(水)、26日(木)、27(金)、28日(土)の7日間
時間

火 – 金: 18:30 - 20:30 (現場で延長可能性あり)

土日: 13:00 - 15:00 (現場で延長可能性あり)

場所
参加費
無料
申込み
DEEP MODE 準備室イベントページouterよりお申込みください。

代表者、登壇者

  • 野原佳代子教授
    東京工業大学 環境・社会理工学院
    野原佳代子教授
  • ウルリケ・オバーラック氏(ジュエリーデザイン)ウルリケ・オバーラック氏
    (ジュエリーデザイン)
  • ヘザー・バーネット氏(粘菌アーティスト)
    ヘザー・バーネット氏
    (粘菌アーティスト)

東工大×ロンドン芸術大学CSM 産学実験プロジェクトとは?

通勤時にリュックとスニーカーという風景が普通に見られるようになりました。働きやすいウェア、高齢者や子供、障がい者をサポートするウェア、災害時に命を守るウェアなど、社会の問題を反映した、スマートな(=考える)ファッションが求められています。

「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」

このシンプルなテーマを掲げ、生命観、最先端テクノロジー、社会課題を踏まえ、都民、エンジニアや素材開発者たちの声を取り入れて、ロンドン芸術大学CSMアーティスト/デザイナーチームとともに、全く新しい「ウェアラブル・ファッション」のデザインと提案をします。

2018年度の活動計画予定

活動
時期
内容
都民とのサイエンス&アートカフェ
2018年5~6月
「10年後の東京、ひとは何を着ているか?」をテーマとしたカフェイベントや講演
デザイン活動
2018年7月~8月
3名のCSMアーティスト/デザイナーと協働し、10年後、東京で求められる「ウェアラブル・ファッション」をデザイン
ウェアラブル体験ファッションデモンストレーション
2018年9月
「ウェアラブル・ファッション」を発表 渋谷(予定)
(映像によるプレゼンテーションの場合もある)
プロトタイプ制作活動
2018年10月~2019年2月
考案されたウェアラブルアイディアをもとに、UX(ユーザー体験)、UI(ユーザーインターフェース)、SD(サービスデザイン)調査を実施し、製品のプロトタイプを制作(映像によるプレゼンテーションの場合もある)
公開シンポジウム
2019年3月予定
専門家による講演とパネルディスカッション
サイエンス×アートの融合の視点でファッション分野へ提言

本プロジェクトの理念に賛同いただける企業に、プロジェクトへの参加と支援をお願いいたします。

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お問い合わせ先

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系

E-mail : tokyotechxcsm@tse.ens.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3521

幻の粒子「マヨラナ粒子」の発見 トポロジカル量子コンピューターの実現に期待

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概要

京都大学 大学院理学研究科の笠原裕一 准教授、松田祐司 同教授、大西隆史 同修士課程学生(研究当時、現:富士通株式会社)、馬斯嘯 同修士課程学生、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の芝内孝禎 教授、水上雄太 同助教、東京大学 大学院工学系研究科の求幸年 教授、東京工業大学 理学院の田中秀数 教授、那須譲治 同助教、栗田伸之 同助教、東京大学 物性研究所の杉井かおり 研究員らの共同研究グループは、蜂の巣状の平面構造をもつ磁性絶縁体の塩化ルテニウム(α-RuCl3)において熱ホール効果[用語1]が量子力学で規定される普遍的な値をとることを発見し、「マヨラナ粒子[用語2]」を実証することに成功しました。マヨラナ粒子は自分自身がその反粒子[用語3]と同一という不思議な性質を持ち、理論的予言から80年以上もその存在の確証が得られていなかった「幻の粒子」です。素粒子物理学を中心に探索が続けられてきましたが、近年、ある種の超伝導体や磁性体でマヨラナ粒子が出現する可能性が指摘され、大きな注目を集めてきました。本研究により、マヨラナ粒子が存在する決定的な証拠が得られただけでなく、マヨラナ粒子による量子化現象が高い温度で実現することが明らかになりました。マヨラナ粒子の制御法の開発を行うことで、高温でも動作可能なトポロジカル量子コンピューター[用語4]への応用が期待できます。

本成果は、2018年7月12日に英国の科学雑誌「ネイチャー(Nature)」にオンライン掲載されま した。

幻の粒子「マヨラナ粒子」の発見

背景

物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ、通常反粒子が別の粒子として存在します。例えば、電子の反粒子は陽電子であり、異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます。一方で、粒子と反粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が、素粒子の一つとして1937年に予言され、マヨラナ粒子と呼ばれています。現在のところ、ニュートリノがマヨラナ粒子の候補とされていますが、素粒子物理学の実験では未だに確認されていません。最近になって、マヨラナ粒子がある種の超伝導体や磁性体中で準粒子[用語5]として現れる可能性が指摘され、大きな注目を浴びるとともに強い期待が持たれています。その理由は、マヨラナ粒子は非アーベル量子統計[用語6]と呼ばれる特殊な統計に従いますが、この性質を用いることで、環境ノイズに対して強く量子情報を安定に保つことができる、トポロジカル量子コンピューターを実現できると考えられているからです。これまで主に超伝導体の研究から、マヨラナ粒子を観測したという実験結果はいくつか報告されているものの、決定的な証拠が得られたとは言い難く、論争が続いています。そのような中、最近、新しい物質系として磁性絶縁体が注目されています。その契機となったのはキタエフ模型[用語7]と呼ばれる理論模型の提案です。通常の磁性体では温度を下げてゆくと、磁性を担う電子スピン[用語8]は同じ向きに整列し磁石となりますが、この模型では絶対零度においてもスピンは整列せず量子スピン液体[用語9]状態と呼ばれる状態が現れます。この量子スピン液体状態の特筆すべき点は、電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する(図1)ことにより、トポロジーによって保護[用語10]された量子状態が実現することです。最近、このようなキタエフ模型の候補物質がいくつか見つかってきました。

(左)キタエフ模型のイメージ図。蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する。(右)α-RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性。磁場を変化させると、ある磁場範囲で熱ホール伝導度が量子化熱伝導度(= (π/6)(kB2/ħ))の1/2倍で一定となり、半整数量子化が観測された。
図1.
(左)キタエフ模型のイメージ図。蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する。(右)α-RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性。磁場を変化させると、ある磁場範囲で熱ホール伝導度が量子化熱伝導度(= (π/6)(kB2))の1/2倍で一定となり、半整数量子化が観測された。

研究手法・成果

共同研究グループは、キタエフ模型の候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3の量子スピン液体状態において、一定の温度下で磁場を変化させながら熱ホール伝導度を非常に高い精度で測定しました。その結果、ある範囲の磁場で熱ホール伝導度が磁場や温度によらずに量子力学で規定される普遍的な値(量子化値)のちょうど半分の値で一定となることを見出しました(図1)。ホール伝導度が量子化値の整数倍または分数倍となる現象は「量子ホール効果[用語11]」と呼ばれ、ノーベル賞の対象ともなった二次元電子系における整数量子ホール効果と分数量子ホール効果がよく知られています。このとき、試料の端(エッジ)にはエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護された「エッジ流」[用語12]が流れ、整数量子ホール効果では「電子」、分数量子ホール効果では準粒子として現れる「分数電荷」によってエッジ流が運ばれます(図2)。今回、電気が流れない絶縁体において熱ホール効果が量子化していることから、電荷を持たない粒子に由来する量子ホール効果であることが示されます。さらに、熱ホール伝導度が量子化値の1/2倍ということ(半整数量子化)は、熱を運ぶ粒子が電子の半分の自由度を持っていることを示しており、そのような粒子はマヨラナ粒子に他なりません。したがって、整数・分数量子ホール効果に次ぐ「第3の量子ホール効果」を発見したと言えます。半整数量子化は理論的には予言されていたものの観測例はなく、本研究がはじめての実験的証明になります。これまでの超伝導体を用いた研究では、マヨラナ粒子による量子化現象が期待される温度は極低温(1/100ケルビン程度)に限られていましたが、本研究ではそれよりも2桁以上高い温度(5ケルビン程度)で半整数量子化が観測され、高温でマヨラナ粒子にまつわる量子化が出現することが明らかになりました。

(左)電子・分数電荷による量子ホール状態、および(右)マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効果のイメージ図。試料の端(エッジ)に沿ってエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ、電子や分数電荷、または電子スピンの分裂によって生じたマヨラナ粒子によってエッジ熱流が運ばれる。
図2.
(左)電子・分数電荷による量子ホール状態、および(右)マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効果のイメージ図。試料の端(エッジ)に沿ってエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ、電子や分数電荷、または電子スピンの分裂によって生じたマヨラナ粒子によってエッジ熱流が運ばれる。

波及効果、今後の予定

本研究による半整数量子熱ホール効果の発見の重要性は、理論的提案から80年にわたり探索が続けられてきたマヨラナ粒子の決定的証拠を示しただけでなく、新しい量子凝縮体である量子スピン液体のトポロジカルな性質を証明したという点にもあります。今回対象とした物質のように電子同士が強く相互作用し合う物質(強相関電子系)のトポロジカル物性は未開拓であり、今後の研究の展開により新しい量子現象の開拓が期待されます。さらに、量子スピン液体に現れるマヨラナ粒子の制御法を開発することで、高温でも動作可能なトポロジカル量子コンピューターへの応用が期待できます。

用語説明

[用語1] ホール効果 : 金属や半導体中の電子は磁場下で電磁気学的な力(ローレンツ力)を受けて軌道が曲げられ、電流と垂直方向に電圧が、熱流と垂直方向に温度勾配が生じる。前者を電気ホール効果、後者を熱ホール効果と呼ぶ。電気の流れない絶縁体ではローレンツ力によるホール効果は生じないが、電荷を持たない粒子が熱を運び、熱ホール効果を示すことがある。

[用語2] マヨラナ粒子 : イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナによって1937年に素粒子の一つとして理論的に提案された粒子。

[用語3] 反粒子 : 粒子に対し、重さなどの性質は等しいが、電荷など正負の属性が逆の粒子。例えば電子(電荷−eeは電荷素量)の反粒子は陽電子(電荷+e)である。

[用語4] トポロジカル量子コンピューター : 0または1の値をとるビットを用いる従来のコンピューターに対し、0と1の量子力学的重ね合わせ状態を取ることができる量子ビットを用いて超並列性を実現できるとされる計算方式は、量子コンピューティングと呼ばれる。トポロジカル量子コンピューターでは系のトポロジー(後述[用語10])を用いて量子情報を保護することで、環境ノイズに対して安定的に量子コンピューティングを行うことが可能になると考えられている。

[用語5] 準粒子 : 物質が示す最もエネルギーが低い状態(基底状態)から少しエネルギーを与えた状態は、ほとんど相互作用のない仮想的な粒子が付け加えられた状態としてみなすことができる。このような粒子は「準粒子」と呼ばれ、物質の物理的性質の多くはこの準粒子の性質によって決まる。

[用語6] 非アーベル量子統計 : 2つの準粒子を入れ替えたとき、波動関数に1でも-1でもない複素数がかかることがあり、そのような統計性に従う準粒子をエニオンと呼ぶ。2つのエニオンを交換する場合には、交換前後での状態が区別できない場合(可換統計=アーベル統計)と元の状態とは異なる別の状態に変わってしまう場合(非可換統計=非アーベル統計)がある。

[用語7] キタエフ模型 : 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える蜂の巣状の結晶格子構造をもつ磁性体の理論模型。2006年にアレクセイ・キタエフ(米国カリフォルニア工科大)によってトポロジカル量子計算を実現し得る模型として提案された。

[用語8] 電子スピン : 電子の持つ量子力学的な内部自由度(粒子を区別する性質)のひとつ。その性質は磁石と対応する。

[用語9] 量子スピン液体 : 通常、物質の温度を下げると物質を構成する原子や分子が周期的に整列した固体となる。しかし、量子力学的なハイゼンベルグの不確定性原理による量子ゆらぎの影響が顕著な場合、絶対零度まで固体になれずに液体のままでとどまることがある。このような状態は「量子液体」と呼ばれ、液体ヘリウムがよく知られている。量子スピン液体は量子液体のスピン版ともいうべきもので、絶対零度までスピンの向きが揃わず動き回った状態を指す。

[用語10] トポロジーによって保護 : 連続的に変形させても保たれる性質をトポロジー(位相幾何学)と呼ぶ。例えば、取っ手のついたコーヒーカップとボールは穴の数というトポロジーで区別できる状態であり、連続的に移り変わることはできない。この要請により、トポロジカル状態は不純物などの擾乱の影響を受けないという特徴がある。

[用語11] 量子ホール効果 : 試料に強い磁場をかけたとき、電気ホール伝導度や熱ホール伝導度が、物質の詳細によらず量子化値の整数倍(整数量子ホール効果)または分数倍(分数量子ホール効果)となる現象。量子化電気伝導度、量子化熱伝導度はそれぞれe2/h(電気素量e、プランク定数h)、(π/6)(kB2) = 9.5×10-13 W/K2(ボルツマン定数kB、ħ = h/2π)である。

[用語12] トポロジカルに保護された「エッジ流」 : 異なるトポロジーで特徴づけられる2種類の物質が接する時、その境界(例えば真空に接するトポロジカル物質の試料端)では擾乱による影響を受けない伝導状態が現れる。

論文情報

掲載誌 :
Nature (London)
論文タイトル :
Majorana quantization and half-integer thermal quantum Hall effect in a Kitaev spin liquid(キタエフスピン液体におけるマヨラナ量子化と半整数熱量子ホール効果)
著者 :
Y. Kasahara, T. Ohnishi, Y. Mizukami, O. Tanaka, Sixiao Ma, K. Sugii, N. Kurita, H. Tanaka, J. Nasu, Y. Motome, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
DOI :
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量子科学技術研究開発機構(QST)と包括連携協定を締結~東工大内にQST量子科学技術 産学協創ラボ開設~ Society5.0を先導し、SDGsの達成を支援する次世代量子センサにフォーカス

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東京工業大学は7月12日、量子科学技術研究開発機構(QST)(以下、量研)と、量子科学技術に関する研究と社会実装を加速することを目指して包括的な連携協定を締結しました。

協定締結式の様子

協定締結式の様子

記者からの質問に応じる益学長(左)、量研の平野理事長(右)記者からの質問に応じる益学長(左)、量研の平野理事長(右)

量子コンピュータ、量子暗号通信、複雑な一分子の分子構造を直接見ることができる固体量子センサといった量子科学技術※1は、世界的に注目を浴び、非常に活発に研究開発が進みつつある技術です。量子科学技術は新たな価値創出・産業創生の重要な基盤技術へと発展し、さらには持続可能な開発目標(SDGs)2030アジェンダ達成を支援することが期待されています。

東工大は、西森秀稔教授outerの量子コンピュータの理論的基礎研究をはじめ、量子慣性センサや固体量子センサなどの量子センサ※2研究で世界的な成果を数多く上げています。量研は、量子科学技術研究のフロンティアとして、放射線医学、量子ビーム科学、核融合理工学などの分野で先端的研究と産業応用を推進しています。本連携協定に基づき、両機関が持つ研究開発力や最先端研究施設・設備などの研究環境、優れた人材を活かして、新たな連携・協力の枠組みを構築することが可能となり、急速に立ち上がりつつある量子科学技術分野において、世界をリードする先端的な研究と応用を推進します。

とりわけ、東工大の有する材料・デバイス科学・量子センサ計測研究と、量研が有する量子ビームを活用した物質・材料科学研究を融合させることで、材料創製から量子デバイス応用までの一貫した総合的研究開発を行います。具体的には、世界的に競争が激しい固体量子センサ分野において、東工大の波多野睦子教授outerと量研の大島武プロジェクトリーダーが協力し、ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタを用いて、ナノからマクロまでのスケーラブルな超高感度・室温動作センサを世界に先駆けて開発します。

このため、量研は、固体量子センサ研究拠点として、東工大大岡山キャンパスに「QST量子機能材料産学協創目黒ラボ」を2018年8月1日(水)付で開設し、双方から約30名の研究者が集結して研究を加速させる環境を構築します。そして量子生命科学等の新しい学術領域の進展や、産業界とも密接に連携することで、固体量子センサの医療、ヘルスケア、車載、社会インフラ応用などの実現、社会実装を目指す計画です。

※1
量子科学技術:量子のふるまいや影響に関する科学とそれを応用する技術。量子とは、ナノあるいはナノより小さい、原子を構成する微細な粒子や光子等。
※2
量子センサ:古典力学ではなく、量子力学的な効果を利用することで、従来技術を凌駕する感度や空間分解能等を得るセンサ。固体量子センサは、特に、ダイヤモンドなどの固体中の原子レベルの空孔に閉じ込められたスピンの量子状態を利用して磁場等を計測するものを固体量子センサと呼びます。室温・大気で動作する点が特徴であり、実社会環境での応用、生体の観察に適しています。磁場・電場・温度等を飛躍的に高い感度で、また高い空間分解能で検出することができます。量子慣性センサは、原子のド・ブロイ波による干渉計を利用することで、従来に比べ飛躍的に高い感度を実現した加速度計・ジャイロスコープの総称。

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硫黄化合物を低温・高効率で酸化する環境型触媒を開発 サルファーフリー燃料ほか有用物合成に威力

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要点

  • 化学工業において重要な選択酸化反応では、酸素分子のみを用いた環境調和型の触媒プロセスの開発が切望
  • ルテニウムを含むペロブスカイト触媒を独自手法で合成。低温・高効率で硫黄化合物を酸化、有用物の合成に成功
  • スケールアップ可能で再利用が容易な固体触媒として、広範な応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の原亨和教授、鎌田慶吾准教授と元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、フロンティア材料研究所の大場史康教授らは、ルテニウム酸バリウム(BaRuO3)菱面体晶ペロブスカイト[用語1]触媒が、硫黄化合物のスルフィド[用語2]から酸素分子(O2)のみを酸素源として有用なスルホキシドやスルホン[用語2]を合成できることを発見した。

酸素分子のみを酸化剤とする選択酸化反応は高難度反応の一つであり、新しい固体触媒の設計と開発が切望されている。原教授らは、実験と理論計算による反応機構を検討し、BaRuO3触媒中の近接する二つのルテニウムを架橋する酸素原子(面共有酸素八面体構造[用語3])が酸化反応に寄与し、温和な条件でも高い触媒性能が発現することを明らかにした。この研究成果は複合酸化物中の反応性の高い特異な酸素原子の活用が高効率酸化反応開発の有用な手法であることを示している。

従来の合成手法では、望みの組成と大きな表面積を併せもつペロブスカイト型酸化物触媒を合成することは困難とされていた。原教授らが独自開発したゾルゲル法[用語4]により、大きな表面積をもつBaRuO3ナノ粒子を合成でき、温和な条件下においても高い触媒性能を発現させることに成功した。

研究成果は2018年7月9日(日本時間16時)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces(エーシーエス・アプライドマテリアルズ・アンド・インターフェイシーズ)」オンライン速報版で公開された。

研究成果

東工大の原教授らは、リンゴ酸[用語5]を用いたゾルゲル法により得られた菱面体晶構造をもつペロブスカイト酸化物(BaRuO3)のナノ粒子が、従来の固体触媒や他のルテニウム酸化物触媒とは異なり、硫黄化合物であるスルフィドの酸化反応を極めて温和な条件で促進する固体触媒として機能することを発見した(図1上)。固体触媒のため、反応後の触媒をろ過により容易に分離回収でき、活性や選択性に変化なく再利用できる。

X線回折を用いた構造解析から、BaRuO3は近接したルテニウムが酸素原子3つで架橋された面共有酸素八面体構造をもっていることがわかった(図1左下)。一方、他のルテニウム酸化物(SrRuO3, CaRuO3, RuO2)では、近接したルテニウムが酸素原子1つで架橋された頂点共有酸素八面体構造[用語3]のみをもっている(図1右下)。また、ゾルゲル法で合成したBaRuO3は従来の合成法よりも大きい比表面積をもち、走査型電子顕微鏡を用いたBaRuO3の観察からも20-50 ナノメートル(nm)程度のナノ粒子の集合体であることがわかった。

(上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応。(左下)BaRuO3の構造(紫色、灰色、赤色の球はそれぞれバリウム、ルテニウム、酸素原子を示している)。(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図。
図1.
(上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応。
(左下)BaRuO3の構造(紫色、灰色、赤色の球はそれぞれバリウム、ルテニウム、酸素原子を示している)。
(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図。

種々の触媒を用いたチオアニソール[用語6]の酸化反応結果を表1に示す。ペロブスカイト型酸化物ARuO3 (A = Ca, Sr, Ba)の中でも、面共有酸素八面体構造をもつBaRuO3が最も高い活性を示した。ルテニウムの単純酸化物や原料である塩は不活性であった。またBaRuO3は、酸化反応に有効なマンガン系酸化物よりも表面積が小さいにも関わらず高い活性を示した。特に、40 ℃という温和な条件下においてスルホキシドへの酸化反応が効率的に進行し、従来の固体触媒では高い反応温度(100-150 ℃)を必要とするのと比較してプロセスの低エネルギー化に成功した。

表1.酸素分子のみを酸化剤としたチオアニソールの酸化反応および触媒効果比較 a

表1. 酸素分子のみを酸化剤としたチオアニソールの酸化反応および触媒効果比較 a
触媒
比表面積 (m2 g–1)
収率(%)
選択率(%)
スルホキシド
スルホン
BaRuO3
25
73
79
21
BaRuO3 b
25
92
84
16
SrRuO3
25
42
90
10
CaRuO3
4
3
>99
<1
RuO2
18
9
95
5
酢酸ルテニウム
3
>99
<1
MnO2
122
23
>99
<1
なし
<1

a 反応条件: 触媒 (50 mg), チオアニソール (0.25 mmol), 溶媒t-BuOH (1 mL), O2圧力 (1気圧), 60 ℃, 10 h.
b BaRuO3は40 ℃という温和な条件で酸化反応を効率的に促進(反応条件:チオアニソール (0.50 mmol), pO2 (1.0 MPa), 40 ℃, 24 h).

詳細な反応機構の検討から、BaRuO3中の酸素原子が直接スルフィドと反応して酸化反応が進行することがわかった。そこで、各ルテニウム酸化物について第一原理計算[用語7]を用いて結晶構造内の酸素の空孔形成エネルギー[用語8]を算出したところ、BaRuO3の面共有酸素八面体構造の酸素が最も空孔になりやすい(=反応しやすい)ことがわかった。また、金属Ruへの還元反応のエネルギー変化はBaRuO3が最も小さいことがわかった。これらの結果は、BaRuO3中の酸素原子が最も反応しやすく、酸素分子により再び活性な酸化状態に戻りやすいことを示しており、このような性質をもつBaRuO3が本反応において従来触媒とは異なる役割を果たしていることがわかった。

BaRuO3の酸化触媒能は、種々の原料(基質)を用いたスルフィドの酸化反応に適用できる。芳香族および脂肪族スルフィド化合物の選択酸化反応を効率的に促進する触媒として機能し、10種の化合物合成に適用できた。また、大きなスケールでの反応にも応用できるため、対応する生成物をグラムスケールで単離回収することができる。水素化脱硫[用語9]が困難なジベンゾチオフェンの酸化反応では、対応するスルホンを高収率で得られることがわかった(図2)。

図2.触媒によるジベンゾチオフェンの酸化反応

図2.BaRuO3触媒によるジベンゾチオフェンの酸化反応

背景と研究の経緯

化学プロセスの3割を占める選択酸化反応は、汎用化成品・プラスチックや医薬品原料などの高付加価値製品の製造において重要な反応である。毒性が高く、廃棄物を大量に副生する酸化剤を用いたプロセスとは大きく異なり、酸素分子のみを酸化剤とした選択酸化反応は最も理想的な反応である。しかしながら、反応制御において今なお多くの課題を抱えている高難度反応の一つであり、温和な条件で選択的に原料を酸化できる新しい触媒の開発が急務となっている。

スルフィドを酸化して得られるスルホキシドやスルホンは、生合成における中間体、不斉反応での配位子、酸素ドナーとして有用な有機硫黄化合物である。しかし、不活性な芳香族スルフィド類を、添加物を用いず酸素分子のみを酸化剤として選択酸化反応させる固体触媒の報告例はほとんどなかった。

このような研究背景のもと、構成元素により化学的性質を制御できるペロブスカイト型酸化物が優れた酸化触媒として機能すると考えた。原教授らが独自に開発したゾルゲル法を用いることで、従来合成法の問題点であった低い表面積・元素適用性を解決することに成功した。ペロブスカイト型酸化物は、電気化学反応、光触媒反応、高温での気相反応の触媒としては研究されているが、環境調和型反応を含む液相反応への応用研究例はほとんどなかった。BaRuO3触媒は、これまでに硫黄化合物の選択酸化反応を含む液相反応における固体触媒としての利用はなく、今回の研究が初めての報告例となる。

今後の展開

BaRuO3触媒は、様々なスルホキシド・スルホン化合物合成に適用できる優れた固体触媒として機能し、得られた生成物は、溶媒、ファインケミカル(高付加価値の化学物質)、配位子、サルファーフリー燃料など広範な製品への応用が期待される。

今回の結果は、錯体や金属塩では合成困難な特異構造(高原子価金属からなる面共有酸素八面体構造)をもつ固体触媒の開発が重要であることを示している。今後、本アプローチを他の複合酸化物触媒にも応用することで、さらなる活性向上や他の反応への展開が可能となり、温和な条件下での高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待できる。

本成果は、JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業さきがけおよびJSPS(日本学術振興会)の基盤研究(B)によって得られた。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト:一般的にABO3という組成式をもつ遷移金属酸化物などの結晶。元素の構成により物理・化学的性質を制御できるため、圧電体、強誘電体、磁性体、超伝導体、触媒などの分野で広く研究されている。理想的には頂点共有酸素八面体構造[用語3]のBO6の間に12配位のAがある立方晶構造(右図参照)をとるが、Aが大きなアルカリ土類金属イオンの場合に面共有酸素八面体構造[用語3]をもつ六方晶あるいは菱面体晶構造をとることがある。

頂点共有酸素八面体構造のBO6の間に12配位のAがある立方晶構造

[用語2] スルフィド、スルホキシド、スルホン:スルフィドは–2価の硫黄原子が2個の有機官能基と結合した有機化合物である。スルフィドが酸化され、硫黄原子に酸素原子が1および2個結合したものをそれぞれスルホキシド、スルホンという。スルホキシドやスルホンは、溶媒、ファインケミカル(高付加価値の化学物質)合成の中間体、錯体触媒の配位子、酸化反応の酸素源などとして使われる。(図1参照)

[用語3] 面共有酸素八面体構造、頂点共有酸素八面体構造:酸素原子6個に囲まれた金属Mは、頂点と中心にそれぞれ酸素と金属を位置させた正八面体MO6で表すことができる。MO6八面体同士が頂点で結合したもの(金属同士が酸素原子1個で架橋)を頂点共有酸素八面体構造、面で結合したもの(金属同士が酸素原子3個で架橋)を頂点共有酸素八面体構造という。

[用語4] ゾルゲル法:コロイドの一種であるゾルをゲル化する手順を経る、固体材料を液相で調製する手法の一つ。

[用語5] リンゴ酸:ヒドロキシ酸の一種で、右記の構造をもつ。金属酢酸塩と反応させて得られたアモルファス前駆体を焼成することで、高い表面積をもつ多様なペロブスカイトを合成できる。

リンゴ酸の構造

[用語6] チオアニソール:芳香族スルフィドの一種。酸素雰囲気下において触媒を用いなくても酸化反応が進行する脂肪族スルフィドと比較して、一般的に反応性は低い。

[用語7] 第一原理計算:実験で得られた結果を参照しないで構成元素と構造のみをパラメーターとし、系の電子状態やエネルギーなどを求める計算手法。

[用語8] 酸素の空孔形成エネルギー:酸化物の結晶構造から酸素原子が酸素分子として抜けて酸素空孔(本来酸素原子がある場所が空の状態)が形成する際のエネルギー変化。

[用語9] 水素化脱硫:石油製品からに不純物として含まれる硫黄を触媒の存在下 で水素と反応させ、硫化水素として除去するプロセス。燃料燃焼後に生成する硫黄酸化物による大気汚染を抑制する上で重要である。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Heterogeneously Catalyzed Aerobic Oxidation of Sulfides with a BaRuO3 Nanoperovskite
著者 :
Keigo Kamata, Kosei Sugahara, Yuuki Kato, Satoshi Muratsugu, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba, Michikazu Hara
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
准教授 鎌田慶吾

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タイ国立科学技術開発庁のチャダマス・ツバセタクル副長官が東工大を訪問

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ツバセタクル副長官(中央左)、益学長(中央右)、水本理事・副学長(右端)

ツバセタクル副長官(中央左)、益学長(中央右)、水本理事・副学長(右端)

6月7日、タイ国立科学技術開発庁(以下、NSTDA)のチャダマス・ツバセタクル副長官が東工大を訪問しました。

今回の訪問は、本年3月にNSTDAとの連携により本学が設立した「東工大 ANNEX バンコク」を活用した今後の活動や、本学が2007年に同国に設立した連携大学院(「TAIST-Tokyo Tech(以下、TAIST)」)の教育活動の状況について意見交換を行うことを目的としています。

本学からは、益一哉学長、水本哲弥理事・副学長(教育担当)、関口秀俊副学長(国際連携担当)および、本学のTAIST協力教員が一行を迎え、懇談を行いました。

タイ王国側からは、NSTDAのツバセタクル副長官に加えて、TAISTのパートナー機関でもあるNSTDAの研究機関、国立電子コンピューター技術研究センター(NECTEC)から4名、本学の卒業生、タナラック・ティラマヌコン博士(1995年博士課程修了)を含むタマサート大学シリントーン国際工学部(以下、SIIT)の研究者5名が出席しました。

東工大は、NSTDAやSIITなどのタイ王国トップクラスの大学グループと連携して、TAISTで修士課程教育を提供し、同国の高度人材育成に貢献しています。設立11周年を迎えたTAISTでは「自動車工学」「組込情報システム」「エネルギー資源工学」の3つのプログラムを開講しており、卒業生の多くが本学や日本の他大学の博士課程で学んでいます。

ツバセタクル副長官は懇談の中で、タイ王国での高度人材育成への本学の協力に感謝するとともに、TAISTの2018年度の学生応募状況について説明しました。出席者は、TAISTの教育内容や、タイ王国の社会的・経済的発展への貢献が期待される研究者に対する需要の高さについて、意見を交わしました。

懇談の様子

懇談の様子

今後は、東工大ANNEX バンコクの設立をきっかけとした本学とタイ王国の機関・企業との活発な産学連携が期待されています。

サイズアップで光触媒の性能向上 表面構造を主流だったナノメートルからマイクロメートルにするだけ

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要点

  • 可視光で応答する光触媒の性能向上に新手法
  • 従来より2桁以上大きなサイズに作り込んだ構造が効果的
  • 分子構造は変えずに酸化力が向上

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の長井圭治准教授、ファイルス・アーマド大学院生(マレーシア大学ペリルス校講師)、同大学分析部門の鈴木元也氏、弘前大学理工学研究科の阿部敏之教授らの研究グループは、有機半導体のp-n接合[用語1]を基板面方向に形成し、特異な酸化力を持つ領域が形成されることを見出した。

この知見をもとに、表面に“マイクロメートル(µm)”レベルのp-n接合体を形成させることで、通常のp-n接合よりも大きな酸化力をもつ光触媒を得ることに成功した。長井准教授ら研究グループは、有機薄膜太陽電池[用語2]のように遷移金属を全く含まない有機材料で、可視光で応答する光触媒を開発してきた。これまでは、新奇分子の開発やナノメートル(nm)レベルの構造制御により酸化還元力(太陽電池の発生電圧に相当)を向上させる試みがなされてきたが、今回は、マイクロメートルという、従来よりも2桁以上大きなサイズの構造が有効であることを示した。これは光触媒の性能向上のみならず、同じような構造を利用する有機薄膜太陽電池にも応用できる可能性がある。

本成果は 2018年7月17日付けの国際的材料科学専門誌「NPG Asia Materials 電子版」に掲載された。

背景

地球に降り注ぐ莫大な量の太陽光エネルギーの活用が求められており、太陽光発電や光触媒による水素生成などが行われている。

現在、実用的に用いられている酸化チタンを用いた光触媒は、紫外線にしか応答しない。そのため、可視光で応答する光触媒の研究が盛んに行われており、さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。一方で、有機材料は可視光応答化が容易であるが不安定という理由から、これまで、水中や空気中で光触媒として働かせることは困難であった。

研究成果

研究グループでは、フタロシアニン[用語3]という、有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が、光触媒として利用できることを発見し、この10年以上検討を進めている。近年では、欧州のグループもこの分野に本格参入する一方で、長井准教授は、更なる低コスト化を図った大量生産法を開発し、企業に技術移転している。

しかし、このフタロシアニンp-n接合体は、吸収する光子エネルギーにくらべて、利用できる酸化還元力が小さいという欠点があり、これは太陽電池のp-n接合体でも同様であった。

通常、太陽電池などでは、p-n接合は基板面に垂直方向に形成させていく。本研究で取り上げたフタロシアニン(p型)とペリレン誘導体(n型)の接合体は30年前に開発された、初めてのp-n接合型有機薄膜太陽電池の類似体である。

通常、これらのp-n接合は基板と垂直方向に形成されるが、本研究ではn型の上に完全にp型を積層するのではなく、部分的にp型を積層したテラス型p-n接合[用語4]などの方法で基板面方向に形成させた。これをケルビン力プローブ顕微鏡[用語5]という装置により表面電位の表面内分布を計測した。すると、これまで見られなかった表面電位が正である領域が観察された。なお、基板の材料を変えたり、n型半導体材料をフラーレンに変えても、同様のプラス側にシフトした表面電位の極大が観察された。

図1.(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。
図1.
(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。
(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。
(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。
(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。

詳しい機構は未だ不明であるが、テラス型p-n接合領域を積極的に多くしたデバイスに対して、光照射した際の酸化反応を計測すると、通常のp-n接合体よりも酸化力が向上することが明らかとなった。また、同様のテラス構造を高分子膜型の光触媒として用いると、酢酸を酸化してCO2を発生させる反応の外部量子効率が、620 nmの赤色光に対し、3.2%から5.1%に向上した。

図2.左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。左下:光触媒実験の模式図。右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。
図2.
左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。
左下:光触媒実験の模式図。
右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。

今後の展開

新たに提案する、従来より2桁もサイズアップして作り込んだp-n接合は、特殊な分子群を用いることなく、しかも化学構造はそのままに、酸化力を向上させることができた。この成果は、新しい光触媒、太陽電池の設計法として有用と考えられる。

付記

本研究は、文部科学省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス事業」等の助成を受けて実施した。

用語説明

[用語1] p-n接合 : 半導体の導電性はキャリアと呼ばれる不純物の濃度に比例する。キャリアには電子と電子のかけた状態(正孔)があり、正孔がキャリアとなる場合をp型半導体、電子がキャリアとなる場合をn型半導体をよぶ。この2種類を接合させたp-n接合は、電流を一方向に流す整流作用や、光による起電力(太陽電池)などの有用な特性を示す。

[用語2] 有機薄膜太陽電池 : 現在、太陽電池として用いられているシリコンではなくプラスチックなどの有機材料で太陽電池を作る試みは、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士の導電性高分子の発明直後から研究され始めた。p-n接合を精密に制御することにより、著しく効率が上昇することが今世紀に明らかとなり、「軽くて曲げられる太陽電池を塗布プロセスで」行う研究が進められている。

[用語3] フタロシアニン : 新幹線の青色に用いられている有機色素である。青色の飛行機を見てわかるように、紫外線や放射線にも抜群の耐候性を示す。多くがp型半導体となる。

[用語4] テラス型p-n接合 : 本研究で用いられた試料である。n型半導体薄膜に半分の面積だけp型を被覆したものである。境界領域は階段状になっている。二層部分をテラスと呼ぶことができる。

[用語5] ケルビン力プローブ顕微鏡 : 絶対零度の単位でも知られる英国の物理学者・ケルビン卿は、試料に探針を近付けた際の電位差を計測できることを発見した。近年の原子間力顕微鏡の進歩により、カンチレバーと試料の電位を変えて、クーロン力を打ち消すことにより、「接触電位差」を高空間分解に計測できるようになった。これがケルビン力プローブ顕微鏡である。

[用語6] 原子間力顕微鏡 : 微小領域の観察は、不確定性原理の影響を受けるため、(光や電子よりも)重い物体で観察する必要がある。カンチレバーと呼ぶ先端がナノメートルサイズに尖った探針を試料の表面でなぞり、原子間力を検出することにより、ナノレベルの観察が容易に行える。

論文情報

掲載誌 :
NPG Asia Materials
論文タイトル :
Enhanced oxidation power in photoelectrocatalysis based on a micrometer-localized positive potential in a terrace hetero p-n junction
著者 :
Mohd Fairus Ahmad, Motoya Suzuki, Toshiyuki Abe, Keiji Nagai
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 准教授 長井圭治

E-mail : nagai.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-6255

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

「第54回外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会」開催報告

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東京工業大学は7月2日、外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会を大岡山キャンパス東工大蔵前会館で開催しました。

オリエンテーションで質問を受ける学長と理事・副学長

オリエンテーションで質問を受ける学長と理事・副学長

外国人研究者との懇談会は、学長主催により本学で教育・研究に従事している外国人研究者を招き、本学の教員と各国の研究者の親睦を深めることを目的として、1991年より例年2回開催されているイベントです。2010年1月からは、本学に関する理解を深める機会としてオリエンテーションも併せて実施しています。

今回のオリエンテーションでは、益一哉学長が本学の概要と、東工大が指定された文部科学省「指定国立大学法人」構想について講演を行いました。その後のQ & Aセッションでは、益学長と4名の理事・副学長が参加者から多くの質問を受け、活発な議論がなされました。

続く懇談会では、水本哲弥理事・副学長(教育担当)の開会の辞から始まり、途中、参加者3名によるサプライズスピーチが行われました。終始和やかな雰囲気の中、交流が深められ、最後は渡辺治理事・副学長(研究担当)の閉会の辞をもって、大盛況のうちに終了しました。

懇談する益学長

懇談する益学長

東工大生のリードで理工科系大学学生競技ダンス選手権4種優勝

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5月27日に千葉県千葉市の千葉大学西千葉キャンパスにて、第98回理工科系大学学生競技ダンス選手権大会(東部日本学生競技ダンス連盟主催)が開催されました。本学舞踏研究部からは9組が出場し、佐藤大樹(環境・社会理工学院 融合理工学系3年)と東京理科大学舞踏研究部の川合真桜子(東京音楽大学)の組がラテンアメリカン4種(チャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソドブレ)の部において見事優勝しました。

競技ダンスとは

男女がペアになって踊る社交ダンスとほぼ同じものですが、社交ダンスが社交を目的としているダンスであるのに対し、競技ダンスは競技会にて技術や表現を競うことを目的としています。

学生の競技ダンスには、大きく3つの部門があり、全部で9種目のダンスがあります。

スタンダード

男女が組んで踊ります。

  • ワルツ
  • タンゴ
  • スローフォックストロット
  • クイックステップ

ラテンアメリカン

基本的に男女が離れて踊ります。

  • チャチャチャ
  • サンバ
  • ルンバ
  • パソドブレ

フォーメーション

4~8組が2~4種目のメドレーで隊列を構成しながら踊ります。

今回の理工科系大学大会では開催されません。

今大会の入賞者

ラテンアメリカン

佐藤大樹(環境・社会理工学院 融合理工学系 3年)・川合真桜子(東京音楽大学)組

佐藤大樹(環境・社会理工学院 融合理工学系 3年)・川合真桜子(東京音楽大学)組

ラテンアメリカン4種の部 優勝
佐藤大樹(環境・社会理工学院 融合理工学系 3年)・川合真桜子(東京音楽大学)組
(写真提供/石塚琴音)

スタンダード

石井智(情報理工学院 数理計算科学系 3年)・榮みな美(白百合女子大学)組
ワルツの部 3位入賞
スローフォックストロットの部 準優勝
クイックステップの部 10位入

石井智(情報理工学院 数理計算科学系 3年)・
榮みな美(白百合女子大学)組
(写真提供/ヨシダミキオ)

田中駿介(生命理工学院 生命理工学系 2年)・中坪実織(杉野服飾大学)組
ワルツの部 12位入賞
田中駿介(生命理工学院 生命理工学系 2年)・
中坪実織(杉野服飾大学)組
(写真提供/ヨシダミキオ)

ラテンアメリカン4種の部 優勝 佐藤大樹さんのコメント

今回は運が良く、4種目で優勝することができました。今後もさらなる活躍を目指し、文武両道で頑張ります。

東工大 舞踏研究部について

東京工業大学舞踏研究部は、学生競技ダンス連盟に所属している大学公認の部活です。共同加盟校として、白百合女子大学と杉野服飾大学と共に活動しています。部員数は、東工大生:26人 白百合女子大生:17人 杉野服飾大生:9人(2018年6月現在)です。

競技会にむけて日々練習しています。

東工大基金

舞踏研究部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 舞踏研究部

E-mail : tsubame.buken@gmail.com

2018年度博士文系教養科目講演会「技術・文化の継承」開催報告

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博士後期課程の学生を対象とする文系教養科目は2016年4月から新規開講され、学術学会の運営を学ぶ「学生プロデュース科目」と学術学会の発表を学ぶ「教養先端科目」から構成されています。

本年度第1クォーターの「学生プロデュース科目」において、履修学生は、リベラルアーツ研究教育院の原田大介准教授と金子宏直准教授の進行で、学生同士の自己紹介や、講演会の運営を行う総務・企画・編集の各委員会の編成を行いました。また、同研究教育院の猪原健弘教授が考案した研究者倫理カードを活用してグループワークを通じた研究者倫理を学びました。

また、博士文系教養科目講演会では持続的な社会に必要となる重要な視点として「技術・文化の継承」をテーマとして取り上げました。日本の産業や文化をささえる重要な技術等を世界へ情報発信するため、日本語講演ではあるものの国際会議に見立てて英語資料を準備するなど、企画を進めました。今年度第1回、第2回の博士教養科目講演会について紹介します。

第1回

日時 : 4月28日(土)

場所 : 大岡山キャンパス 西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)

テーマ : 「建築文化財修復の伝統技術」

公益財団法人日光社寺文化財保存会の漆塗管理技術者である佐藤則武氏が建築物漆塗りによる建物修復について講演しました。佐藤氏は日光の国指定重要文化財の建造物約100棟の漆塗り修理工事に従事し、その建物修復の作業は今年2月に放送されたNHK総合「プロフェッショナル 仕事の流儀」で特集され、英語版放送NHK ワールドワイドでも紹介されました。

初めに科目担当教員の金子准教授が博士文系教養科目の概要を説明した後、履修学生が講演会の司会進行を行いました。担当教員が事前に英語の配布資料を準備し、佐藤氏の講演の合間に、英語による補足説明を追加する形で、日本の伝統的な技術を説明しました。

日光の社寺文化の歴史、漆塗りによる修復の専門的技術の工程、日本産漆による修復の重要性、全国の漆塗り技術者への技術継承のための修復技術の研修プログラムが紹介され、講演後の質疑応答では履修学生による通訳がありました。

また、会場では建築漆塗り修復で実際に使われている道具類が展示され、参加者は貴重な資料を間近に見学することが出来ました。

講演する佐藤氏
講演する佐藤氏

修復後の国宝陽明門(日光東照宮)について解説
修復後の国宝陽明門(日光東照宮)について解説

建築物漆塗りに使われる道具類(右から、竹箆(しっぺい)、漆刷毛、麻布)と塗装片

建築物漆塗りに使われる道具類(右から、竹箆(しっぺい)、漆刷毛、麻布)と塗装片

第2回

日時 : 6月2日(土)

場所 : 大岡山キャンパス 西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)

テーマ : 「精密工作機械を支える―きさげ」

講演する石橋氏
講演する石橋氏

DMG森精機株式会社ターニングセンタ基本精度課の石橋一明課長が講演しました。石橋氏はきさげの技術で、厚生労働省が毎年選定している卓越した技能者「現代の名工」として2014年に表彰されており、2016年には黄綬褒章を受章している技術者です。

きさげとは、金属加工機械の組み立てにおいて、部品の接触面・摺動(しゅうどう)面を刃具で削り0.001 mm以下の精度で人為的にくぼみをつけることで潤滑油による金属面の摩擦を抑える精密工作機械に欠かせない技術です。講演では5軸加工機や日本人の体形に合ったきさげの道具の紹介、きさげ技術を若い技術者に継承する研修制度、IoTを使った技術継承の取組み、さらに3Dプリンタのように金属を積層させながら加工する最新工作機械についての説明がありました。

今回は履修学生が事前に技術解説に必要な英語資料を準備し、配布しました。司会進行と日本語による講演の合間の英語による補足説明も学生主導で行われました。質疑応答では、きさげの加工精度が潤滑油の分子サイズのレベルの近くまで人の手によって行われることも取り上げられました。

5軸加工機・・・直交3軸と旋回2軸とを同時に制御することで、更なる複雑形状の加工を可能にする「5軸制御マシニングセンタ」に代表される。マシニングセンタとは、中ぐり、フライス削り、穴あけ、ねじ立て、リーマ仕上げなど多種類の加工を連続で行えるNC工作機械で、それぞれの加工に必要な工具を自動で交換できる機能を備えています。機械の軸構成によって横形、立て形、門形など各種のマシニングセンタが使われています。近年は5軸制御マシニングセンタが普及しています。(日本工作機械工業会のウェブサイトouterより引用)

総評する益学長
総評する益学長

会場では、きさげ作業のほとんどされていない平面、仕上げ加工された平面、そして、三ケ月加工という高度なきさげの技が施された平面のサンプルが展示され、参加者はその粋を尽くした技術を実際に見ることができました。

講演終了後、益一哉学長から次のような総評がありました。

「石橋氏があげる技術者への技術の継承において大切な点、例えば、興味をもってもらう大切さ等は、大学での研究教育にも共通しています。大学は社会にインパクトのある研究を行い、社会に貢献できる人材を輩出する役割があります。現在の高度に専門分化している研究において、革新的・創造的研究に欠かせないこととして、多様性(diversity)、学際性(interdisciplinary)、伝統的技術知識の継承(inheritance of traditional technology) の3つが重要です。本学の教育改革で導入された学士課程から大学院博士後期課程までの教養教育はこれら3つを学ぶ機会でもあります」と述べ、最後に、将来に向けて多様なことを学ぶ大切さを本学学生と参観に来た東京工業大学付属科学技術高等学校生に向けてメッセージを送りました。

講演会修了後には石橋氏、益学長との記念撮影に参観に来ていた付属科学技術高等学校の学生も加わりました。会場退出時には「全員あくしゅ」をして、参加者と教員のコミュニケーションの推進が図られました。

記念撮影

記念撮影

表紙-技術・文化の継承
表紙-技術・文化の継承

博士教養科目講演会で配布された資料は、「日本の技術 バイオレット ブック(Violet Book):技術文化の継承(仮称)」として、今後の講演会資料とともに記録として編纂していく予定です。

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院 事務文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7689

東北大学と量子コンピューティング研究の連携協定を締結

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東京工業大学と東北大学は7月18日、量子コンピューティングを中心とした情報科学の基礎と応用の研究において世界的にリーダーシップを発揮することを目指し、連携協定を締結しました。

(左から)東工大:科学技術創成研究院 西森教授、益学長 東北大:大野総長、大学院情報科学研究科 大関准教授

(左から)東工大:科学技術創成研究院 西森教授、益学長
東北大:大野総長、大学院情報科学研究科 大関准教授

背景

量子コンピューティングは、従来の方法では長い計算時間を要するいくつかの問題をより短い時間で解く可能性を期待されており、各分野で注目されています。

東京工業大学は、最初に商用化されすでに多くのユーザに利用されている装置の動作原理である量子アニーリングの概念を1998年に初めて提唱し、その基礎理論研究において20年にわたり世界のトップを走ってきました。また、東北大学では、量子アニーリングに関するソフトウェア科学とその応用研究で世界を先導しており、産業界と広く連携することによって、各種の重要課題の解決を系統的に推進しています。

趣旨

記者発表の様子
記者発表の様子

このような背景のもと、東京工業大学科学技術創成研究院に7月1日に発足した量子コンピューティング研究ユニット※1と東北大学学際研究重点拠点「Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点」※2で、研究拠点を形成し、両大学の強みを活かして組織的な連携を行います。また、企業と協力して「量子アニーリング研究開発コンソーシアム(仮称)」を組織し、実社会における問題の解決を図ります。

形成される拠点では、人材の集中や量子アニーリングマシンの設置など、研究開発環境の整備を行う予定です。研究面では、量子コンピューティング研究ユニットで行われる量子アニーリングの基礎理論の整備・構築と、Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点で行われるソフトウェア科学や具体的な問題への応用が展開されます。さらに、量子アニーリング分野では基礎研究と応用研究の距離は近く相補的であることから、応用研究での様々な分野への量子アニーリングの活用は、ノウハウの蓄積だけでなく基礎研究の発展を促し、その基礎研究の発展がさらなる活用分野の拡大につながるという好循環を生みだします。これにより、日本の量子アニーリング分野の基礎と応用におけるイニシアチブを獲得することを目指します。

実績と強みをそれぞれ有する東京工業大学と東北大学が、密接な連携のもとに共同研究を推進する意義はここにあります。

固く握手を交わす大野総長と益学長

固く握手を交わす大野総長と益学長

連携 ・協力事項

両大学は次の事項等について連携を行います。

1.
幅広い視野を持って統合的な研究を推進すること
2.
研究者の相互交流及び産官学連携の推進に関すること
3.
若手研究者の育成に関すること

連携協定の説明

※1
科学技術創成研究院量子コンピューティング研究ユニットでは、量子アニーリングの基礎理論からソフトウェア、さらには実社会の問題への応用まで幅広く扱う研究を行い、当該分野における日本の拠点としての存在感を確立します。
※2
東北大学学際研究重点拠点「Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点」とは、量子アニーリングを用いた組合せ最適化技術の発展と人材育成、ならびに実社会応用という3本の柱を軸とした研究活動を行います。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


細野秀雄教授が明かすIGZO(イグゾー)薄膜トランジスタ開発物語 Nature Electronics誌に発表

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Nature Electronics誌にはReverse Engineeringというコラムが毎号掲載されてます。実用化されて世の中に普及した電子デバイスを一つずつ取り上げ、なぜ、どのように開発されたかを主な発明者本人が解説する話題のページです。これまでDRAM、DVD、CD、リチウム2次電池などが紹介されてきました。東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)が執筆した IGZO-薄膜トランジスタ(TFT)の開発についてのコラムが同誌2018年7月号に掲載されたので、ご紹介します。

図1. IGZO-TFTの研究の進展とディスプレイへの実装

図1. IGZO-TFTの研究の進展とディスプレイへの実装

インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を含む酸化物(IGZO、通称イグゾー)を使った薄膜トランジスタ(TFT)は、これまでにない高解像・省電力のディスプレイを実現しました。従来、独占的に使われてきた水素化アモルファスシリコンよりも電子の動きやすさ(移動度)が一桁大きく、オフ電流が極めて小さく、しかも、透明で光を通すためです。すでにスマホやタブレットなどの液晶画面の駆動に応用されてきました。本命と考えられていた大型の有機ELテレビの駆動にも3年前、採用されました。韓国と日本の電気メーカーから製品が発売され、テレビ売り場の中央に置かれているように、市場が急速に広がりつつあります。

遷移金属の酸化物が電子伝導性を示すことは古くから知られていましたが、電界による電流の変調はできませんでした。1960年代になると酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムがTFT構造をつくると電流の変調が可能なことが報告されました。ただ、性能が悪く、その後は2000年くらいまで、酸化物TFTの研究は殆ど報告されませんでした。2000年代に入り酸化物を電子材料として見直す「酸化物エレクトニクス」という分野が立ち上がりました。東京工業大学の応用セラミックス研究所(現 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所)はそのメッカです。その中で酸化亜鉛のTFTが世界中で研究されるようになりました。しかし、薄膜が多結晶だったので、特性や安定性などに問題があり実用化に至りませんでした。

CPUと異なり、ディスプレイへの応用にはアモルファスのように大面積の基板上に均質な薄膜が形成でき、しかもその薄膜に電界をかけると低い電圧で電流が飛躍的に増大することが必要です。ところが、均質な薄膜形成には、アモルファスが最適であっても、構造の乱れに起因する高濃度の欠陥などが生成するために、電界によって電流の変調ができないのが一般的でした。唯一の例外は1975年に報告された水素を多量に含んだアモルファスシリコンです。そのTFTは液晶ディスプレイの駆動に応用され、10兆円規模の巨大産業にまで成長しました。しかしながら、その移動度は結晶シリコンより2 - 3桁も低下してしまい、0.5 - 1 cm2/Vsにとどまってしまいます。このように、アモルファス半導体は作りやすいが、電子物性は格段に低下してしまうと捉えられていたのです。

細野秀雄教授が注目したのは、イオン結合性が強い酸化物で、周期律表上のpブロックに属する非遷移金属イオンから構成される系でした。これらの物質系では電子の導電路となる伝導体の底が、金属イオンの空間的に広がった球対称のs軌道から主に構成されます。そのため、電子の動きやすさを決めているその軌道同士の重なりの大きさが結合角によってあまり敏感に変化しないので、アモルファスでも結晶とあまり遜色がない移動度が実現できるのではないかと考えたのです。その発想に従い実験を行い、幾つかの実例を見出すことができました。そして、1995年の第16回アモルファス半導体国際会議でこれらの考えと実例を発表しました(そのプロシーディング論文は翌年に掲載)。この仮説を実験と計算によって実証後、TFTの試作を開始しました。仮説を満たす元素の組み合わせは多数、存在します。その中で、IGZOを選択したのは、容易に作製できる安定な結晶相が存在し、かつ局所構造が特異的でキャリアの生成が抑制できると考えられたからでした。2003年には結晶のエピタキシャル薄膜で移動度~80 cm2/Vsが得られることをScience誌に報告しました。翌年にはアモルファス薄膜でも~10 cm2/Vsという移動度が得られることをNature誌に掲載しました。

国際情報ディスプレイ学会(SID)やアモルファス半導体国際会議などアモルファス酸化物半導体とそのTFTの研究は、この論文以降急速に世界中で立ち上がりました。その活況は現在も続いており、2つの論文は既に他の論文にそれぞれ2,000回と5,000回を超える引用がなされています。また、他の特許にもあわせて引用が9,000回を超えています。実際にこれらのTFTを実装したディスプレイは2012年ごろから製品の一般販売が開始されました。特に2015年ごろから利用が始まった大型有機ELテレビは、アモルファスIGZO-TFTの大きな移動度と大面積で均質な薄膜が容易に形成できるという特徴を活かすことで初めて実現した製品です。実物の一つは、東工大の元素戦略研究センター(S8棟)1Fとフロンティア材料研究所(R3高層棟)玄関に置かれています。今後は高精細な大型液晶テレビへも応用が開始されるようです。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)のERATO「透明電子活性プロジェクト」(1999 - 2004)で得られたものです。関連する知財は日本、米国、欧州、韓国、中国、台湾、インドなど多くの国で成立しており、主な特許権者であるJSTがライセンスの許諾を行っています。

論文情報

掲載誌 :
Nature Electronicsouter 1巻、7月号
タイトル :
How we made the IGZO transistor
著者 :
Hideo Hosono
DOI :
IGZO-TFTの原著論文 :

K.Nomura, H.Ohta, K.Ueda, T.Kamiya, M.Hirano, H.Hosono, Thin-film transistor fabricated in single-crystalline transparent oxide semiconductor. Science, 300, 1269 (2003).

K.Nomura, H.Ohta, A.Takagi, T.Kamiya, M.Hirano, H.Hosono, Room-temperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors. Nature, 432, 488 (2004).

総説 :

H.Hosono, Ionic amorphous oxide semiconductors: Material design, carrier transport, and device application, J.Non-Crystalline Solids,352,851 (2006)

T.Kamiya, H.Hosono, Material characteristics and applications of transparent amorphous oxide semiconductors, NPG Asia Materials,2,15 (2010)

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 教授/元素戦略研究センター長

細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大ヨット部 全日本学生女子ヨット選手権大会に出場決定

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本学体育会ヨット部の女子部員4名が、470級とスナイプ級で6月22日~7月1日に行われた関東水域選考会を勝ち抜き、第27回全日本学生女子ヨット選手権大会に出場します。

ヨットレースは、ディンギーと呼ばれる2人乗りのエンジンのないヨットに乗り、風や潮といった気まぐれな流体の中をどう早く進むか、高度な戦略と戦術が要求される頭脳スポーツです。470級とは艇体の全長が4.7 mであることに由来して命名された、2人乗りで帆が3枚のレーシング・ディンギーを用いて戦われるレースです。オリンピックのセーリング種目にも採用されており、乗員の適正体重は2人の合計で130 kg前後と小柄な日本人の体格に適していることから、国内で最も盛んに行われています。スナイプ級とは、鳥のシギを指す英語名からその名が取られた、2人乗りで帆が2枚のレーシング・ディンギーを用いて戦われるレースです。安定感のある艇体とシンプルな構造が特徴であり、国内外を問わず幅広い年齢層から親しまれているクラスです。

江の島ヨットハーバーで行われた第27回全日本学生女子ヨット選手権大会関東水域選考会では、470級とスナイプ級という2種類それぞれで良い成績を出し、全日本学生大会へと駒を進めました。

全日本学生女子ヨット選手権大会は、2018年9月21日(金)~24日(月・祝)に愛知県蒲郡で開催されます。2種目で全日本大会への出場は2009年以来の快挙です。

出場メンバーとコメント

470級
北島夏実さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士課程4年、体育会ヨット部副将)
三瓶和奈さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程3年)

470級出場の北島・三瓶ペア
470級出場の北島・三瓶ペア

北島・三瓶ペアのコメント

「全日本学生女子ヨット選手権大会関東水域選考会を通過することができました。

支えてくれた皆様に感謝しております。普段の練習と違う海面ではありますが、本戦でも自分たちの走りをしていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。」

スナイプ級
河合亜美さん(工学院 経営工学系 学士課程3年)
津田南美さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)

スナイプ級出場の河合・津田ペア
スナイプ級出場の河合・津田ペア

河合・津田ペアのコメント

「今年の全日本大会は、初めての遠征、そして強風が吹くという蒲郡でのレースとなりますが、この1年培ってきた自分たちのセーリングで昨年より順位を上げて帰ってきたいと思います。応援宜しくお願いします。」

東工大ヨット部とは

ただヨットを進める競技にとどまらず、ヨットを通して自然の豊かさと厳しさを肌で感じとり、社会で生き抜く逞しさを教えてくれるユニークなクラブです。

部活動としても歴史が古く、一般社団法人くらまえ潮会という会員数400名を誇る体育会ヨット部OB/OG会が、「一人前のセーラーを育てることは、すなわち一人前の社会人を育てること」をモットーに、現役部員の活動を全面的に支援しています。今回の大会への出場も、OB/OG会の支援を受けています。

問い合わせ先

東京工業大学体育会ヨット部

E-mail : titech.sailingteam@gmail.com

ナノ電線作製目指すガイドライン 「教師なし機械学習」利用で実現

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  • 微小電線などのナノ材料の開発に必要な、分子が集合体を形成する過程を予測するガイドラインを導き出すことに成功。
  • 「教師なし学習」を用いた画期的な予測方法。

京都大学 高等研究院 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)のダニエル・パックウッド(Daniel Packwood)講師と東京工業大学 物質理工学院の一杉太郎(ひとすぎたろう)教授は、機械学習を使って、金属基板上の分子の配列を予測するガイドラインを作ることに成功しました。機械学習には「教師あり」学習と「教師なし」学習の二通りあり、今回は、正解と不正解のデータを事前に学習しない、「教師なし機械学習」の方法で予測する点で意義があります。この得られたガイドラインは、電気配線や電子回路として利用可能な微小な構造の作製につながり、微小デバイス(ナノエレクトロニクス)開発の加速が期待できます。

基板上に付着した分子は、分子間引力によって集合し、微小な構造(=超分子構造)を自発的に形成します。この現象はナノエレクトロニクス開発に向けて注目を集め、微小な電気配線(ナノ電線)や、電子素子として利用可能な超分子構造を作る際に活用できる可能性があり、研究活動が活発になっています。しかし、分子を望み通りの構造に自発的に集合させるためのガイドラインが存在せず、応用への展開がなかなか進まないのが実情です。

本研究では、数理科学・理論化学を専門とするパックウッド講師が、材料科学を専門とする一杉教授と共同研究を行いました。そして機械学習を活用し、基板上の分子を望み通りに集合させるためのガイドラインを作成しました。この機械学習は、分子の化学的特徴とその分子の集合過程がどのように関わっているかを学習して、その結果を図式的にまとめるものです。そして、この図を解析することにより、ガイドラインを導きました。これにより、例えば、電気配線として利用可能な直線状の超分子構造を形成する際に、どのような分子を用いれば良いのか予測することができます。

今回の成果は、微小なデバイスにおいて必要な部品(微小電気配線など)を形成することにつながるので、ナノエレクトロニクス開発の加速が期待できます。将来的に、ロボットや柔らかいディスプレー、または超低消費電力デバイスの実現に寄与することが期待できます。

英国時間2018年6月25日午前10時(日本時間午後6時)に英オンライン科学雑「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」で公開されました。

背景

エレクトロニクスデバイスのさらなる小型化・高集積化が要望される中、分子の「自己組織化」が注目を集めています。分子自己組織化(図1)とは、基板に蒸着した分子が互いに引き合って集合し、微小な構造(=超分子構造[用語1])を自発的に形成することです。この超分子構造は様々な形状になりますが、電気配線や電子回路として利用可能な超分子構造を形成するには、分子を望み通りの形に集合させる必要があります。

(A)分子自己組織化の簡単な説明。基板表面に付着した分子は互いに引き合い(引力相互作用)、集合する。そして超分子構造が形成される。緑色の矢印は分子間の引力相互作用を示す。(B)走査トンネル顕微鏡で観察した超分子構造の例(橙色の部分)。基板として金属銅を用いている。電気配線として利用可能な超分子構造は青色の点線で示す。(C)電子回路のイメージ図。黄色の線が電気配線である。ナノエレクトロニクスでは、電子回路の電気配線を超分子構造で代替することが重要である。例えば、赤色で示す配線を直線状の超分子構造に代替することが考えられる。
図1.
(A)分子自己組織化の簡単な説明。基板表面に付着した分子は互いに引き合い(引力相互作用)、集合する。そして超分子構造が形成される。緑色の矢印は分子間の引力相互作用を示す。(B)走査トンネル顕微鏡で観察した超分子構造の例(橙色の部分)。基板として金属銅を用いている。電気配線として利用可能な超分子構造は青色の点線で示す。(C)電子回路のイメージ図。黄色の線が電気配線である。ナノエレクトロニクスでは、電子回路の電気配線を超分子構造で代替することが重要である。例えば、赤色で示す配線を直線状の超分子構造に代替することが考えられる。

分子自己組織化はナノメートルスケール(ナノは10-9)で起きるので、分子の集合過程を実験機器で制御することが簡単ではありません。例えば、分子を直線状に並べたいとします。その方法として、まずは分子の種類を選び、選んだ分子は、有機合成化学を用いて分子の種類を少しずつ系統的に変え、それらの分子の集合過程を観測することが活発に行われています(図2)。このアプローチで多くのデータが収集されましたが、分子の種類と基板種類の組み合わせは膨大であり、分子集合過程の理解は未解明のままです。したがって、分子種から集合状態を予測するガイドラインの構築が強く求められています。

分子の種類によって基板上の分子集合過程および超分子構造の形状が変わる。この図は二つの分子種類((A) dibromo-bianthracne, (B) dimethyl-bianthracene)の集合過程を比較する。(A)と(B)では赤色の円内の原子種が異なっている(Brは臭素、CH3はメチル基をあらわす)。
図2.
分子の種類によって基板上の分子集合過程および超分子構造の形状が変わる。この図は二つの分子種類((A) dibromo-bianthracne, (B) dimethyl-bianthracene)の集合過程を比較する。(A)と(B)では赤色の円内の原子種が異なっている(Brは臭素、CH3はメチル基をあらわす)。

研究内容と成果

本研究では、「教師なし機械学習」を活かして、金属基板上の分子が望み通りに集合させるためのガイドラインを構築しました。

教師なし機械学習では、様々なオブジェクト(対象物)をコンピュータで比較して、それらを共通の特徴によって分類します(図3)。「教師あり機械学習」とは異なり、事前に準備した正解と不正解のデータを参考にせず、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識します。しかし、教師なし機械学習では、それぞれのオブジェクトがどの程度似ているかを事前に定量化しなければならないので、すぐに使えるものではありません。

教師なし機械学習の簡単な説明。様々なオブジェクト間の類似性がアルゴリズムにインプットされる。アルゴリズムはそれを分析して、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識する。アルゴリズムのアウトプットは、共通特徴によって分類されているオブジェクトである。同じ区分に入っているオブジェクトは近い特徴を持ち、別の区分に入っているオブジェクトは、それらとは異なる特徴を持つ。
図3.
教師なし機械学習の簡単な説明。様々なオブジェクト間の類似性がアルゴリズムにインプットされる。アルゴリズムはそれを分析して、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識する。アルゴリズムのアウトプットは、共通特徴によって分類されているオブジェクトである。同じ区分に入っているオブジェクトは近い特徴を持ち、別の区分に入っているオブジェクトは、それらとは異なる特徴を持つ。

本研究では、オブジェクトを分子の種類とし、特徴を分子集合過程で形成する超分子構造とした。それぞれの分子の種類がどのぐらい似ているかを定量化するために、分子自己組織化に対する数理モデル[用語2]を数学的に分析しました。そして、分子種類に対する距離函数[用語3]を新たに導出することに成功して、教師なし機械学習の実行を可能にしました。

教師なし機械学習を実行すると、分子の種類を集合過程によって分別する図(=デンドログラム)が出力されました(図4)。このデンドログラムにより、基板上の分子を望み通りに集合させるためのガイドラインが浮かび上がります。例えば、デンドログラムの区分iiに分類された分子が望ましいことが分かります。なぜなら、区分iiに入っている分子種類は二つの分子集合過程(直線上の超分子構造、またはV文字に似ている超分子構造を形成する集合過程)が可能であり、どちらの超分子構造も微小電気配線として利用可能です。さらに、区分iiに入っている分子種類のすべては弱電気陰性[用語4]があるので、それが重要ということが分かります。また、デンドログラムの区分ivより、電子回路の一部として利用可能な超分子構造を形成するためには、水素結合[用語5]が形成する分子を利用すれば良いというガイドラインも得られました。この研究成果は、分子が望み通りに集合されるためのガイドラインを理解しやすい形でまとめることであり、ナノエレクトロニクス開発を加速することが期待できます。

教師なし機械学習からアウトプットしたデンドログラム。分子の種類は4つの区分によって分類され、区分中の共通特徴が青文字で示す。すべての分子種類はほぼ同じ構造を持っているが、右上図で示すように赤色のところだけが異なる。区分iiまたは区分ivから形成可能な超分子構造を図中に示した(コンピュータ生成イメージ、灰色の球=炭素原子、白色の球=水素原子、緑色の球=塩素原子、暗赤色の球=臭素原子、赤色の球=酸素原子)。電子回路中でその超分子構造を活用できる場所を下左の赤い四角で示す。
図4.
教師なし機械学習からアウトプットしたデンドログラム。分子の種類は4つの区分によって分類され、区分中の共通特徴が青文字で示す。すべての分子種類はほぼ同じ構造を持っているが、右上図で示すように赤色のところだけが異なる。区分iiまたは区分ivから形成可能な超分子構造を図中に示した(コンピュータ生成イメージ、灰色の球=炭素原子、白色の球=水素原子、緑色の球=塩素原子、暗赤色の球=臭素原子、赤色の球=酸素原子)。電子回路中でその超分子構造を活用できる場所を下左の赤い四角で示す。

今後の展開

今回の成果は、微小デバイスにおいて必要な部品(微小電気配線など)を形成することにつながるので、ナノエレクトロニクス開発を加速することが期待できます。将来的に、ロボットや柔らかいディスプレー、または超低消費電力デバイスの実現に寄与することが期待できます。

研究プロジェクトについて

本成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)およびチーム型研究(CREST)、科研費新学術公募研究(ナノ構造情報のフロンティア開拓)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 超分子構造:数多くの分子が非共有結合によって会合し、独自のまとまった構造・機能を生み出している分子集合体。

[用語2] 分子自己組織化に対する数理モデル:金属上の分子の集合過程(分子自己組織化)を再現できるコンピューターアルゴリズム。

[用語3] 距離函数:集合の二点間の距離を定義する函数。

[用語4] 弱電気陰性:原子が化学結合を作るとき電子対をひきつける強さが弱い性質。

[用語5] 水素結合:電気陰性度の高い二個の原子が水素原子を介して結びつく化学結合。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Materials informatics for self-assembly of functionalized organic precursors on metal surfaces
著者 :
Daniel M. Packwood and Taro Hitosugi
DOI :
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お問い合わせ先

(研究内容について)

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
講師 ダニエル・パックウッド

E-mail : dpackwood@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9771

(京都大学iCeMSについて)

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
パブリックエンゲージメントユニット
髙宮泉水

Email : pe@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9764

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

7月23日15:50 タイトルを修正しました。

NHK Eテレ「サイエンスZERO」に菅野了次教授が出演

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科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次教授がNHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。

「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介するとともに、世の中の気になる出来事に科学と技術の視点で切り込む番組です。この回では新しい、次世代革新電池として全固体リチウム電池を分かりやすく紹介しています。

菅野教授

菅野教授のコメント

スマホやタブレットなどの携帯情報端末が日常生活に不可欠なものになり、電気自動車へのパラダイムシフトがグローバルに加速している中で、注目される次世代革新技術「全固体電池」について取材を受けました。番組を通して全固体電池のキーテクノロジーである、超イオン伝導体研究の「面白さ」を知っていただければ幸いです。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ サイエンスZERO
  • タイトル
    1分で充電完了!?全固体電池が世界を変える
  • 放送予定日
    2018年7月29日(日)23:30 - 24:00
  • 再放送予定日
    2018年8月4日(土)11:00 - 11:30

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「量子コンピューティング研究ユニット」のリーフレット公開

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2018年7月に新たに設置された研究ユニット「量子コンピューティング研究ユニット」のリーフレットが完成しました。

これまでに設置された研究ユニットは本ユニットを含めて13ユニット、現在活動中のユニットは11です。

(なお、細胞制御工学研究ユニットは細胞制御工学研究センターouterに移行しました。)

研究ユニットは、科学技術創成研究院(IIR)のもとに最先端研究を小規模のチームで機動的に推進するために設置され、卓越したリーダーが“尖った”研究を大きく育てるための仕組みです。

設置された各研究ユニットのねらい、特色、具体的な研究目標、それを達成する道筋などをわかりやすく紹介しています(日本語版、英語版)。

新設された研究ユニット

量子コンピューティング研究ユニット

現行の研究ユニット

全固体電池研究ユニット

(リーダー:菅野了次 教授)

全固体電池研究ユニット リーフレット

ナノ空間触媒研究ユニット

(リーダー:横井俊之 助教)

ナノ空間触媒研究ユニット リーフレット

グローバル水素エネルギー研究ユニット

(リーダー:岡崎健特命教授)

グローバル水素エネルギー研究ユニット

ビッグデータ数理科学研究ユニット

(リーダー:高安美佐子教授)

ビッグデータ数理科学研究ユニット

スマート創薬研究ユニット

(リーダー:関嶋政和准教授)

スマート創薬研究ユニット

ハイブリッドマテリアル研究ユニット

(リーダー:山元公寿教授)

ハイブリッドマテリアル研究ユニット

バイオインタフェース研究ユニット

(リーダー:小池康晴教授)

バイオインタフェース研究ユニット

革新固体触媒研究ユニット

(リーダー:原亨和教授)

革新固体触媒研究ユニット

原子燃料サイクル研究ユニット

(リーダー:竹下健二教授)

原子燃料サイクル研究ユニット

クリーン環境研究ユニット

(リーダー:藤井正明教授)

クリーン環境研究ユニット

研究ユニットリーフレット一括ダウンロード

研究ユニットリーフレット一括ダウンロード

お問い合わせ先

研究・産学連携本部

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794

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