要点
- ビスマスを利用した精密集積型発光分子を開発
- 発光強度が減少する濃度消光[用語1]を抑えることで強度制御と固体発光を達成
- 発光要素の自在な出し入れで発光のスイッチング機能を発現
概要
東京工業大学 科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニットおよび化学生命科学研究所の山元公寿教授、神戸徹也助教らは、発光体を1つの分子内に最大60個まで導入した新たな発光体の開発に成功した。発光体は集積中にある濃度になると濃度消光を起こす問題があったが、これを解決し、発光強度の自在な制御や固体発光、スイッチング特性を持つ機能性の高い発光体を構築した。
この研究は発光分子の精密集積が機能性発光材料に応用できることを実証したものであり、本アプローチは今後の材料設計の有力な手法になると期待できる。
この研究は東京工業大学「ハイブリッドマテリアル研究ユニット(リーダー:山元公寿)」で実施した。研究成果は9月22日(現地時間)発行のドイツ化学誌「Angewandte Chemie, International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)」オンライン版に掲載された。
研究成果
東京工業大学の山元教授らの研究グループは、当グループが独自開発していたデンドリマー[用語2]と呼ばれる規則的に枝分かれを繰り返す樹状構造をした高分子を利用することで、発光体を精密に配置した分子を作ることに成功した。分子内に配置する化学種として塩化ビスマスに着目した。この塩化ビスマスがデンドリマー内に精密に集積され発光特性を発現することで、制御可能な発光デンドリマーの構築が実現した。
このデンドリマーは金属を取り込める場所を予め設計したものであり、塩化ビスマスを中心部から順番に、決められた場所に結合させて作った。これにより濃度消光を抑え、増やした分だけ発光強度を高めることに成功した(図1)。 構成要素であるビスマスの錯体[用語3]は固体状態で濃度消光するのに対し、この発光デンドリマーは固体状態という極限の高濃度状態でも発光を保持した(図2)。
図1.
図2.
この発光はデンドリマー内でビスマスの錯体を形成することで発現する。そのため、ビスマスとデンドリマーを自在に結合/切断することができる。この特性に基づき、ビスマス添加量の調整や酸化還元反応[用語4]を駆使することで、発光強度の自在かつ可逆な制御を可能にした。またこの可逆性にはデンドリマーのカプセル特性が寄与していることが分かった。カプセル特性は内部に取り込んだ物質を外部の物質から保護する効果であり、本研究で利用したデンドリマーが取り込んだビスマスを外部から保護できることを見出した(図3)。
図3.
背景と研究の経緯
発光材料は基礎・応用共に活発に研究されている分野である。これまで様々な発光分子が開発されてきたが、今後はその機能化が求められている。例えば、我々の日常では光を強くしたい場合、光源を複数集めればその発光強度は強くでき、集める個数により強さを制御できる。しかしこれを分子の世界で行うと単純には上手くいかない。望みの場所に配置出来ないことに要因がある。これは発光体それぞれの強度を制御できないだけでなく、発光分子間の距離が近すぎる場合に生じる濃度消光も引き起こす。即ち発光体を一つ一つ適切な場所に配置できれば濃度消光を抑制でき、強度制御可能な機能性発光体の構築が期待できる。
こうした研究背景に対して、山元教授の研究グループは中心部から段階的に精密に金属を配置できる独自開発したデンドリマーが利用できると考えた。当グループはこれまでに白金や鉄、チタンなど様々な金属がこのデンドリマーに精密に配置できることを見出してきた。今回はビスマスの特性を活かすことで、この精密デンドリマーに発光特性を持たせることを目的とした。さらに本デンドリマーは構造を制御して構築した画一的な樹状高分子であるのみならず、剛直な骨格を持っている。従って分子内に1つずつ独立して発光分子を配置できるため濃度消光が抑制でき、発光強度が制御できると期待された。
今後の展開
ビスマスイオンの集積による発光体は、新発光材のみならずセンサーとしても利用できるため、生体の重金属解毒防御機能(メタロチオネイン)などの解明に役立つ。
さらにこの集積手法は種々の発光分子に応用でき、ガラスやポリマーへ塗布することで高輝度発光材料が作成できる。特に魅力的なのは、微弱発光の分子に対しても集積させることで強度を補強できる点である。これは光センサーや光スイッチの新たな構築法として期待できる。
用語説明
[用語1] 濃度消光 : 発光体の濃度を上げていくと、ある一定の濃度以上で発光強度が減少する現象。
[用語2] デンドリマー : コアと呼ばれる中心分子と、デンドロンと呼ばれる側鎖部分から構成される樹状構造をした高分子である。高分子であるが単一の構造を有するという特徴がある。本研究で利用したデンドリマーは、デンドロンが金属を取り込めるように設計したものであり、内部から段階的に金属を取り込むことができる。
[用語3] 錯体 : 金属塩と有機物からなる分子。
[用語4] 酸化還元反応 : 電子の授受を伴う化学変化過程。電子を失う化学反応を酸化、電子を受け取る反応を還元と呼ぶ。
論文情報
掲載誌 : |
Angewandte Chemie International Edition (アンゲヴァンテ・ケミー国際版) |
論文タイトル : |
Bismuth Complexes in Phenylazomethine Dendrimers: Controllable Luminescence and Emission in the Solid State (和訳:フェニルアゾメチンデンドリマーの中のビスマス錯体:発光の制御と固体発光) |
著者 : |
T. Kambe, A. Watanabe, T. Imaoka, K. Yamamoto |
DOI : |
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