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原子のようにふるまうナノカプセルを結合―ナノ材料の配列制御へ―

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要点

  • 原子のように振る舞う球状の微小なナノカプセルを結合して、一次元構造体(直線状)と二次元構造体(平面状)を構築
  • ナノカプセル内に金属塩が取り込めることを実証
  • 様々なナノ材料を取り込んで配列するという応用へ期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所のアルブレヒト(山下)建助教、山元公寿教授らの研究グループは、同大学 フロンティア材料研究所の東康男助教、真島豊教授と共同で、原子のように方向性と価数を持つナノカプセルであるデンドリマーをつなぎ役の架橋分子を介して一次元と二次元状に並べることに成功しました。

分子でありながら原子のように振る舞う原子模倣特性(atom mimicry feature)を持つ物質[用語1]の研究が近年盛んになっています。樹木の枝が伸びるように規則正しい分岐を持つ球状の高分子でありながらナノサイズ(10億分の1)のカプセルとしての機能も併せ持つデンドリマーも原子模倣物質の一例として注目されています。

本成果ではこのようなデンドリマー[用語2]を原子のように結合(重合)させて並べることを達成しました。また、このカプセルに金属塩を集積できることを見出しました。金属塩はサイズ制御されたナノ粒子へと変換可能であることから様々な機能を持ったナノ粒子を配列することが可能になります。また、このカプセルには金属塩に限らず様々なナノ材料を取り込めることが知られており、カプセルと架橋分子のデザインによって様々な次元性をもってナノ材料を配列できるテンプレートとなることが期待できます。本成果は、基礎科学的にも、新しい原子模倣物質の科学の開拓へつながると考えられます。

本成果は、2016年12月2日に米国科学雑誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。

研究の背景

特定原子数の金属原子からなる金属クラスターが他の原子のような振る舞いを見せる超原子の研究は1980年代から行われてきました。近年、周期表の元素に対応するようにサイズ変化によって周期的に物性が変化したり、原子が結合を作るときのように結合の方向性や価数を持たせたりするナノ物質も含めて、原子模倣物質という新しいカテゴリーの物質群の概念へと拡張されつつあります。規則正しい分岐を持つ球状の高分子であるデンドリマーもそうした物質の1つと考えられています。しかし、原子軌道に電子が充填されるかのような振る舞いを見せ、結合の方向や価数を持つようなデンドリマーは知られていませんでした。

研究内容と成果

フェニルアゾメチンデンドリマーは金属塩などのルイス酸と錯体を形成して内包することが出来るナノカプセルとして知られています。その内包挙動は内層から外層に段階的に起きるという特徴を持っており、古典的なボーア原子モデル[用語3]の原子軌道に電子が充填する様子を模倣していると捉えることが可能です(図1)。

フェニルアゾメチンデンドリマーの構造とルイス酸の内包挙動及びその原子軌道への電子充填との類似

図1. フェニルアゾメチンデンドリマーの構造とルイス酸の内包挙動及びその原子軌道への電子充填との類似

このように原子模倣物質として捉えることの出来るフェニルアゾメチンデンドリマーを原子のように結合して分子を作ることは可能でしょうか。同グループはあたかも原子が最内層の軌道を使って電子を共有して結合するように原子模倣物質であるデンドリマーを結合することを考えました。そのため、両端に有機ルイス酸を有する架橋分子を合成し、これとデンドリマーを混ぜることで結合を形成できるのではないかと考えました(図2)。

カプセル機能を有する原子模倣デンドリマーと架橋分子から形成される一次元、二次元構造体と金属塩の内包

図2. カプセル機能を有する原子模倣デンドリマーと架橋分子から形成される一次元、二次元構造体と金属塩の内包

本研究ではこのような架橋分子を合成し、実際に一次元及び二次元の構造体が構築可能であることを実証しました。また、塩化スズのようなルイス酸をこの構造体に集積できることを通じて、この構造体がナノカプセルの集合体から出来ていることも実証しました。

今後の展開

ナノカプセルには金属塩以外にも有機金属錯体、有機カチオン、疎水性分子、蛍光色素など様々な分子を取り込むことが可能であり、ナノカプセルと架橋分子の組み合わせによって配列間隔やパターンの制御が可能だと考えられます。ナノ材料を直接並べるのではなく取り込み可能なカプセルを並べることによって様々なナノ材料を配列化させる新手法として開拓していくことが可能だと考えられます。

取り込まれた金属塩はサイズ制御されたナノ粒子へと変換できるため、このナノ粒子を配列化させることが可能になると期待できます。これを例えば「プラズモニック結晶」へと発展させることで生体物質の微量検出や屈折率の制御された物質の創成につながると考えられる他、「ナノ電極アレイ」へと発展させることで高効率な物質変換を可能とする電極触媒や細胞表面の物質分布を可視化するような化学センサーとしてなどナノ物質の配列化によってこれまでにない物性を引き出す端緒となることが期待されます。

用語説明

[用語1] 原子模倣特性(atom mimicry feature)を持つ物質 : 分子や集合体でありながら特定の原子の機能や振る舞いを模倣している物質群。特定原子数の金属原子から構成され他原子のような特性を示す超原子(Super atom)と呼ばれる金属ナノ粒子やフラーレン類、デンドリマーなどが含まれる。安定性や軌道エネルギー、発光や磁性といった模倣の他に結合方向や価数といった振る舞いの模倣を示す物質が当てはまる。
参考文献: Chem. Rev. 2016, 116, 2705-2774, DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00367 outer

[用語2] デンドリマー : 通常の直鎖状高分子と異なり、繰り返し単位ごとに分岐を持った樹状高分子、その形状の特異性や多数の末端を有することなどを利用して基礎から応用まで幅広い研究がなされている。

[用語3] ボーア原子モデル : 原子核の周りに存在する電子が離散的なエネルギーを持った電子軌道を周回しているとする原子モデル

論文情報

掲載誌 :
Science Advances 2 e1601414 (2016)
論文タイトル :
Polymerization of a divalent/tetravalent metal-storing atom-mimicking dendrimer
著者 :
Ken Albrecht1, Yuki Hirabayashi1, Masaya Otake1, Shin Mendori1, Yuta Tobari1, Yasuo Azuma2, Yutaka Majima2, Kimihisa Yamamoto1
DOI :
所属 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.
2Laboratory for Materials and Structures, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5259 / Fax : 045-924-5259

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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