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高大連携サマーチャレンジ 2017 開催報告

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14年目の夏

高大連携サマーチャレンジ(以下、サマーチャレンジ)は、大学レベルの学問や最先端の研究の授業を高校生に体験してもらい、出された課題にグループで、あるいは個人で立ち向かうことによって「未知の分野への挑戦から何かをつかみ、何かを生みだす」ユニークな夏の合宿です。基礎学力の上に培った発想力・独創性・グループワーク力こそが、未来の科学技術を担う人々に必須であると考え、高校生のときからそうした力を身につけてもらうことを意図したものです。

今年のサマーチャレンジは、2004年以来14回目の開催となりました。

迷走する台風に撹乱されて、初日のチャレンジが予定通り行えるか危ぶまれましたが、無事にスタートすることができました。参加した生徒は、初対面の班メンバーとも最初のアイスブレイクで打ち解け合い、その後のチャレンジに好奇心と探究心全開で取り組んでいました。答えが一つとは限らない課題が出された自由研究チャレンジでは、高校生の豊かな発想と着眼点の多様性を感じました。知的探検が多くの出会いをもたらした楽しい3日間でした。

昨年度から東工大が幹事校として加わる新しい大学入試の形を模索する大学入学者選抜改革推進委託事業※が始まりました。今年のサマーチャレンジには多数の委託事業関係者が見学し、忌憚のない意見や感想が多数寄せられました。14年間育んだサマーチャレンジが新しい入試の形として、関係者の心に刻まれたようです。

大学入学者選抜改革推進委託事業とは、文部科学省が委託する事業の一つで、各大学の入学者選抜において、「思考力・判断力・表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に関する評価がより重視されることとなるよう、代表大学と参加大学等がコンソーシアムを組み、人文社会(地理歴史科・公民科、国語科)、理数、情報、面接・調査書等に関する評価手法の開発に取り組み、その成果を普及するものです。東工大は広島大学等と共同で理数分野で委託を受けています。

授業風景

授業風景

2017実施記録

サマーチャレンジ2017 タイムテーブル
サマーチャレンジ2017 タイムテーブルPDF

日時:2017年8月8日~10日

場所:埼玉県比企郡嵐山町 国立女性教育会館

参加生徒:64名(東工大附属35名、お茶大附属8名、学芸大附属10名、協力参加校11名)

参加教員:46名(東工大教員31名、引率高校教員9校15名)

事務職員:9名

合計:119名

チャレンジ1 コラムランド

工学院 経営工学系 山室恭子 教授

事前に各自が執筆してきた短い文章を、匿名の状態でディスカッションして評価し合う、東工大の名物授業をそのまま持ち込み、初対面のメンバー同士のアイスブレイクとしました。

今年のお題は「風」。扇風機や風力発電が個性を競うなか、「ただ前だけを見て進んでいたはずなのに、まわりに振り回されているだけだったんだ」という風見鶏のひとりごとを掬い上げた一文が圧勝しました。高校生とは思えないほどの深い人生観です。

文は人なり。お互いの文章を批評し合うことで、メンバー同士の親しみも湧き、個性を認め合ってのテイク・オフをどの班も達成できたようです。

チャレンジ2 お役立ちポリマー ― ペットボトルの「おへそ」のわけ ―

物質理工学院 応用化学系 石曽根隆 教授

チャレンジ2
チャレンジ2

「高分子」、英語でポリマー。たくさんの分子がネックレスのようにつながったもので、熱するとドロドロの液体になったりもします。いろいろなつながりかた、多様な性質を持っているこのポリマーは、私たちの生活にはとても役立っているんです。

ということで、テーブルの上のペットボトルをまじまじと眺めてみましょう。これって、どんなふうに作るか、分かりますか?「風船みたいに作るのかな?」「つなぎ目が見えるな」「タイ焼きみたいに型で作ってる?」「底のところにおへそがあるよ」「きっと、おへそから型に注入して切り取った痕でしょ」

では、つぎは発泡スチロールを観察してみましょう。「すごく軽いね」「ばらばらにすると均一な大きさにはならないね」「ツブツブをふくらませて作ってるんじゃない?」

見えない高分子の手ざわりを確かめたチャレンジでした。

チャレンジ3 & 4 ボールペンの書き味とは? ― 夏休みの自由研究 ―

物質理工学院 材料系 上田光敏 准教授、篠崎和夫 教授

恒例の長丁場チャレンジ、昨年から始まった新企画「自由研究」の今年の課題は「ボールペンの書き味」です。

用意されたのは13種類のボールペンと5種類の紙。これらを用いて、ボールペンの書き味には、どんな因子が関係しているのかを定義して実験し、考察してください。

ボールペンの太さや重さ、重心はどう関係しますか? 他の要素はありますか? ある班は各人の筆圧を「永」の字をキッチンスケールの上で書いて計測し、別の班は紙を傾けて、それぞれの用紙の摩擦力を測定するなど、独自の発想が遺憾なく発揮されます。

一方で伝統の分解チャレンジも健在で、こちらはアナログ・キッチンタイマーを分解して仕組みを解明し、精度を検証します。

2つのミッションを同時にこなし、高度なタイムマネジメントも求められるチャレンジは、翌日の発表フェイズへと結実したのでした。


チャレンジ3-1


チャレンジ3-2

チャレンジ5 電気をどうやって送りますか? ― 直流か交流か、それが問題だ ―

工学院 電気電子系 安岡康一 教授

チャレンジ5
チャレンジ5

知っている単位を全部書いてみましょう! 3分間で書き出したあと、ところで電気の単位はいくつあった、と質問。「電気を送る」授業が始まりました。

約130年前に始まった送電ですが、当時の直流電気は何m届くか計算しましょう。続いて交流が発明されて遠距離送電が可能になった三相交流の利点を数式で説明しましょう。最近、直流送電が増えているのはなぜでしょう。電気製品内部でも直流が使われています。では、みなさんが家を建てるときに配線を直流と交流のどちらにするか、班でまとめて発表してください。

参加した高校生は、日頃意識せずに使っている電気が進化し続けていることを知りました。今度空を見上げたら電線本数を数えてみることでしょう。

チャレンジ6 分子建築学 ― 自己集合により超分子を設計してみよう ―

理学院 化学系 河野正規 教授

チャレンジ6
チャレンジ6

いきなりパズルです。4本の手を持った分子をすきまなく一面に並べるには、どんな構造がありうでしょうか?では、それを立体にしてみたらどうでしょう?

あ、おもしろい! 自己集合できれいに整列してくれる超分子たちと、もっと遊びたくなります。

こんな大きな球体の超分子をつくってみました。どんなふうに使いますか? 「薬?」「検出器?」各班から柔軟な発想がぽんぽん飛び出します。

「うつくしいでしょう?」先生のつぶやきが深く耳に残りました。

分子の世界のうつくしさ。細長い紙をねじって止めて、ハサミでジョキジョキ切るとあらフシギ。ちょっとした手品で体感できる〈結合〉の妙味を帰宅して再現してみた生徒さんは、きっと未来の分子プランナーです。

チャレンジ7 情報をコントロールせよ! ― シナプスの精妙なるメカニズム ―

生命理工学院 生命理工学系 一瀬宏 教授

チャレンジ7
チャレンジ7

身近な疑問から入ります。味って何のために存在するんでしょうか?「毒でないか識別します」そうですね。では、からだのなかでは、「これは毒だぞ」っていう情報はどんなふうに伝達されていると思いますか? 電気か化学物質か。2つの伝達手段の特徴は?「電気は0と1しか伝えられないけど、化学物質にはいろいろな種類があります」

その化学物質による伝達のメカニズムを理解したあと、先生から指令が出ます。「脳の研究によって、どんなことを実現したいか、各班で研究プロジェクトを立ててみて」

レア体験の共有、賢人の智恵のコピーを保存など、ひとしきり議論が沸いたあと、追加の指令として「倫理面での留意点も考慮してみて」。まずは自由に、制約はあとからです。サイエンスの手順も体得できたチャレンジでした。

高校教員の眼

  • コラムランド

    「12の作品について生徒が評価しあう中で、短時間に互いの感性(個性)を理解している様子を見て感心しました。中高でのクラス開きに活用させていただきます」

  • お役立ちポリマー

    「ペットボトルや発泡スチロールという身近な物品に注目するのは、実感があってよかったです」「アイディアが次から次へと浮かぶ生徒を見つけやすい課題でした」

  • ボールペンの書き味とは?

    「ボールペンの書き味という感性の要素が入ったチャレンジをどう生徒達がまとめていくのか大変興味がありました。課題そのものがチャレンジングで素晴らしく思います」「班ごとに視点が異なっているケースが多く見られました。膨大になりがちな因子を切りとって班内で定義をしながら進めていく様子が理にかなっていて、感心しました」

  • 電気をどうやって送りますか?

    「直流と交流、どちらの立場をとるかという討論がおもしろかったです。親近感のわくもので正解はなく、どう説得力を持たせるかを考えるのが良かったです」

  • 分子建築学

    「研究者としての哲学、倫理観が生徒に伝わっていく様子がよくわかりました」「最後の『研究者を目指すために』を含めて、本校理系生徒全員にお話ししていただきたい内容でした。化学クラブの生徒に分子構造を作らせようと考えております」

  • 情報をコントロールせよ!

    「『あんなことができたら…』というのが研究の出発であり、それを徐々に現実問題に即して考えをつめていくという流れを体験できたことが良かったです」「トランスポーターや分解酵素についてあえて説明されずに生徒の気づきをうながされていた点も素晴らしく感じました」


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