東京工業大学の未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は5月18日、東工大大岡山キャンパス百年記念館において「未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催しました。DLabは「人々が望む未来社会とは何か」を、東工大と社会が一緒になって考えデザインするための組織で、2018年9月、発足しました。今回のワークショップでは、東工大の教職員、学生、卒業生のほか学外の方の参加もありました。約30人の参加者は4つのチームに分かれて、真剣に未来について語り合いました。
DLabでは、未来を俯瞰できる装置としての「東工大未来年表(仮称)」の作成を通じて、「未来社会像」を検討していきます。今回のワークショップは、「東工大未来年表(仮称)」を構成する数十の未来シナリオの作成にチャレンジしました。その際は、現在から連続するような未来だけではなく、想定外の変化も考えながら未来を発想する方法で行いました。
当日は、DLabや研究者のワークショップなどで出たアイデアを基にした「未来要素」のカードを見ながら、チームごとに意見を交換することから始まりました。未来要素のカード1枚には、たとえば、「覚えていたいことをしっかり記憶し、忘れてしまいたい記憶を選択して消去できるようになる」という未来要素と、その説明が記載されています。各チームは約60枚のカードを確認し、それぞれの未来要素の意味するところや可能性について議論をして、「記憶を作ることもできるようになる」といった新しいアイデアや意見をふせん紙に書き込み、未来要素のカードに貼付けていきます。
次にKJ法(ケージェイ法。多種多様な情報を効率良く整理し、その過程を通じて新たなアイデアの創出や本質的問題の特定を行う手法)を用いて、未来シナリオを作成していきました。複数の未来要素で共通する人々の期待や、社会の変化の兆しなどを見つけ出して、未来の変化の仮説を作成するというものです。たとえば、「学習しなくても知識や記憶が脳にインストール・アンインストールできるようになる」「直接会って話すよりも、お互いに言いたいことや感じていることが分かり合える遠隔コミュニケーションが実現する」などの未来要素からは、「自分の理想の思考をデザインでき、他者への妬みを感じない1億総幸せ社会」というシナリオができました。未来要素を単純な属性だけでまとめず、参加者同士が意見を出し合って新しい未来の在り方を考えることが新しい仮説を導き出すことにつながりました。
チームごとにいくつかの仮説をまとめたら、未来シナリオシートへ記入していきます。あるチームでは「現実・仮想にしばられず、生きる世界を自分で選ぶことができる」との仮説を立てました。未来シナリオシートには、その仮説がどの未来要素のカードから導かれた結果であるか、さらに仮説の概要と変化のポイント、アクションプランと課題を記入します。たとえば、先ほどのシナリオでは「生まれた場所、文化、経済状況、性別などに左右されることなく、自分のやりたいことを自分のやりたい場所で行うことができる」と概要をまとめ、変化のポイントは具体的に「病院で出産していたのが、思い出の場所で出産」としました。さらにアクションプランとして、「行きたい世界と選べない理由・障害の洗い出し」「現実と仮想の境界を良い感じになくす技術の実現」などを挙げました。さらに課題は「境界がなくなったときのリスク洗い出しにある」と指摘しました。
最後に全体共有とシナリオの相関性を検討しました。各チームがシナリオを発表して、それがいつ頃実現しそうかを検討し、壁一面に未来シナリオシートを貼っていきます。たとえばシナリオ毎に、「ホールアース課題解決社会」は2040年、「現実・仮想にしばられず、生きる世界を自分で選ぶことができる」は2050年、「スーパー平等社会」は2100年といった具合です。シナリオ同士の相関性は、健康、教育、資源再生などのキーワードとその方向性によって関連づけられました。
これで完成にこぎつけたわけではなく、ここから既存のシナリオとの統合、さらなる相関性の検討などを行う必要があり、2019年6月16日(日)に再びワークショップを開催し、シナリオの精緻化や新たなシナリオの作成を行います。
当日の参加者からは「あっという間に終わってしまった。楽しかった」「頭を使わずしゃべっている感じが従来の予測とは違っていた」「いろんなメンバーがいて刺激になった。ネットでは得られない情報の広がりがあった」などの感想が寄せられました。