東京工業大学 生命理工学院の西原秀典助教が2020年日本進化学会研究奨励賞を受賞しました。授賞式は9月6日、日本進化学会第22回オンライン大会にて行われました。
研究題目:哺乳類の転移因子に関するゲノム進化学的研究
日本進化学会の研究奨励賞は、進化学や関連する分野において、研究業績上大きな発展が期待される若手の学会員に与えられる賞で、毎年それぞれ若干名に授与されます。
西原助教は哺乳類をはじめとする脊椎動物のゲノム解析を通し、多くの転移因子がエンハンサーとして働き遺伝子の機能進化に寄与してきたことを示しました。これにより従来はゲノム内を高頻度に転移する有害因子と考えられていた転移因子の進化学的意義に脚光を浴びせ、その概念の転換に大きく貢献してきました。これらの業績が高く評価されるとともに、今後のゲノム進化研究において更なる発展が期待され、研究奨励賞の授与に繋がりました。
西原助教のコメント
日本進化学会の研究奨励賞という栄誉ある賞の受賞にあたり、これまでにご指導くださった先生方や諸先輩方、そして共同研究者をはじめ普段の研究活動を支えてくださっている多くの皆様に深く感謝を申し上げます。
進化生物学は幅広い生物種を取り扱う分野ですが、私が研究対象とする転移因子(トランスポゾン)もヒトをはじめ様々な生物種のゲノム中に存在します。それらはゲノム上を移動し、時には病気を引き起こす有害変異原として知られています。しかし近年では多くの転移因子が長い生物進化の過程で新規機能を獲得することで良い影響を与えてきたことが明らかになり、私もその一部に貢献することができました。ただしその現象の全体像についてはまだまだ未知の部分が数多く残されています。今回の受賞に恥じぬよう今後も一層研究に精進し、進化生物学の発展に貢献していきたいと思います。
日本進化学会が発表した業績(論文名は省略)
西原 秀典(東京工業大学)「哺乳類の転移因子に関するゲノム進化学的研究」
西原秀典氏は哺乳類を含む脊椎動物のゲノムを解析し、SINE(Short INterspersed repetitive Elements)のような転移因子がエンハンサーとして働き、遺伝子の機能進化に寄与してきたことを示した。高頻度にゲノム内を転移し、標的遺伝子の機能喪失や雑種発育不全等をもたらす有害因子と従来考えられていた転移因子の進化学的意義に脚光を浴びせ、その概念の転換に大きく貢献している。
西原氏は脊椎動物ゲノムに存在するSINE配列を調査する中で、SINE由来の配列の一部が長期にわたる進化過程で保存されており、その配列が生物学的機能をもつことを提唱した。そして、その後の共同研究において、SINE配列がFGF8のエンハンサーとして機能したり、SATB2のエンハンサーとして機能する可能性があることを示し、SINE配列が哺乳類特有の脳形成の進化に関与することを示した。また、SINEを含む複数の転移因子がwnt5a遺伝子のエンハンサーとして機能し二次口蓋の形態形成に関与していることも示した。さらに、哺乳類の乳腺形成に関与するタンパク質ERα、FoxA1、GATA3、AP2γのDNA結合部位がレトロトランスポゾンによって段階的に哺乳類ゲノムに拡張し、複数の転移因子が哺乳類の乳腺の進化に寄与してきたことも示した。
西原氏は、これらの他に転移因子を用いた脊椎動物の分子系統学的研究や動物の転移因子・反復配列に関する研究でも顕著な業績をあげている。分子生物学に基づいた「ウェット」な研究と生命情報学に基づいた「ドライ」な研究を組み合わせた研究において更なる発展が期待され、日本進化学会研究奨励賞を授与するにふさわしいと判断した。
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- 細胞制御工学研究センター 木村研究室
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