東京工業大学グローバルリーダー教育課程(AGL)は3月2日、古井貞煕栄誉教授による特別講演会「日米大学比較と日本の大学への提言」をオンラインで開催しました。アメリカの大学院大学、豊田工業大学シカゴ校(Toyota Technological Institute at Chicago、TTIC)において6年3ヵ月間、学長を務めた古井栄誉教授が、日本の大学の国際的地位を向上させるための提言を語り、全国の教育関係者約130名が参加しました。
講演会の冒頭、益一哉学長からあいさつがありました。
古井栄誉教授は、日本とアメリカの社会が異なることを前提としつつ、グローバル化された現代社会における日本の大学改革をそれぞれが考える機会となるよう、TTICの教育・研究概要や組織について紹介し、アメリカにおいて極めて重要視されている「自律性・自主性」「評価」「専門性」といった3つのキーワードを軸に、講演しました。
はじめに、TTICについて触れ、トヨタ自動車株式会社からの基金により設立されたが、豊田工業大学とシカゴ大学が連携して開学した「独立大学院大学」であるためアメリカにおいては要求水準が高く常に監視されていると話しました。「大学は社会の資産」であり透明性をもって「自主・自律」し、ポリシーやミッションが明文化されていることが重要と説明しました。
続いて、アメリカでは学生による教員評価を含む教職員の評価、学生の評価、授業内容の定期的見直し、大学の評価などが機能しており、このことが大学の進歩に貢献していることが紹介されました。アメリカにおいては監督者である「理事会」と執行機能を果たす「大学」とでは明確な役割分担がある一方、日本においては意思決定・監督・執行機能に関する役割分担が不明確で、監督機能が弱く評価の観点も不明確であることを問題点として挙げました。
さらに、アメリカの大学組織内では責任分担が明確化され(Job descriptionジョブ・ディスクリプション)、事務職員も含めて専門家として社会で認知されていることを指摘しました。日本の大学運営も事務職員が財務、経理、人事、学務などの専門家となり教員へのサポート体制を充実させることによって教職員の全員が主体的に大学運営に参画できる体制にしていくことが、教育・研究のレベル向上に不可欠との見解が示されました。
最後に、世界のトップレベルの学生が入りたくなる大学となるためには、国からの監督は最低限にして各大学の創意工夫を尊重すること、教員個人が指導する研究室を廃止してフレキシブルな体制で指導を行うこと、企業は一括採用を行うことなく学生の能力と実績で採用していくこと、といった改革が望ましいと述べました。今後、サイバーセキュリティの問題が大きくなる時代に向けて計算資源と人的資源を集中することや、AIの研究・開発、大学横断的なデータサイエンス教育がますます重要となるとの認識が示されました。
参加者からの質疑応答の後、佐藤勲総括理事・副学長より、古井栄誉教授の講演を参考としながら、世界の大学が模範とする大学に東工大がなれるよう努力していくとともに、これからの東工大に期待をしていただきたい、とあいさつがありました。
参加者からは、「教職員も学生も本気になる『大学』になるべきと改めて思いました」「今回の講演で自分のやるべきことを改めてしっかりやっていこうと思えました」「ヒントを得ました」「刺激を受けました」などの感想や寄せられました。
なお、本講演の内容を含んだ古井貞煕栄誉教授著「AI時代の大学と社会―アメリカでの学長経験から―」(丸善プラネット)が5月に出版されました。
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