東京工業大学は、11月15日に「研究力強化に関するシンポジウム『研究力の展開と創出への道』—研究大学強化促進事業の軌跡とこれから—」を研究大学コンソーシアムと共催しました。このイベントは、かねてより研究力の向上に力を注いでいる本学が、2013年の文部科学省「研究大学強化促進事業」の採択を経てさらなる研究環境の整備を進めるため、国内大学の研究力強化に向けた施策を探るシンポジウムとして、リアルとオンラインのハイブリッド形式で実施したものです。当日は、各大学や研究機関から研究マネジメント人材や研究者など約240人が参加しました。
「研究大学強化促進事業」開始10年の節目に東工大の取り組みを共有
本シンポジウムは、文部科学省が大学などにおける研究マネジメント人材の確保や研究環境改革を支援する「研究大学強化促進事業」の開始から10年目の事業最終年度を節目に実施されたものです。「大学の研究力強化」をテーマに、東工大の過去の取り組み、国内大学の現在の状況、その未来の展望を考える、の3部形式で行われました。
開会のあいさつでは、渡辺治理事・副学長(研究担当)が、大学などの研究機関で研究者の支援、研究資金の調達、研究成果の活用促進といった研究マネジメント活動を行うリサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator、以下URA)の存在について、「URAには研究支援だけでなく、研究を創造する人材になってほしい」と述べました。続いて文部科学省研究振興局学術研究推進課の永田勝課長が、来賓のあいさつとして、国内大学の研究力に関する課題や同省の施策について話をしました。
第1部「東京工業大学における研究大学強化の軌跡」では、東工大から3人が登壇し、講演を行いました。
最初に研究推進部 研究企画課の三原美政課長が、未来社会DESIGN機構や基礎研究機構などの組織の設立やURAの増強など研究環境の整備に向けた取り組みの全体像を紹介しました。次に国際先駆研究機構 国際連携部門の水越達也主任URAが、海外各地の研究拠点「東工大ANNEX」(アネックス)の活動を中心とした国際的な研究推進施策について説明を行い、最後に研究・産学連携本部 研究戦略部門の新田元部門長(上席URA)が、URAによる研究支援の方針や体制と、研究の支援・企画、研究の発信といった活動について紹介しました。
日本の大学における研究力の現状と課題を議論で浮き彫りにする
第2部の「我が国の大学の研究力の現状と課題」と題したパネルディスカッションでは、まず東工大リベラルアーツ研究教育院の調麻佐志教授がプレゼンテーションを行い、国内大学における発表論文の数的・質的な伸び悩み、修士号・博士号取得者の減少、資金など投入リソースの少なさなどの課題を指摘しました。続いて、自然科学研究機構 研究力強化推進本部の小泉周特任教授のファシリテーションにより、世界的な学術出版社であるシュプリンガー・ネイチャー(Springer Nature)でディレクターを務める大場郁子氏、岡山大学の狩野光伸教授、調教授がパネリストとしてディスカッションを行いました。
パネリストによる議論は、トピック「いかにして独自の価値ある研究を創り上げるか」に関してとりわけ白熱し、「多様な研究者による個々の研究を、世の中のニーズに即して適材適所で組み合わせることで新たな価値が生まれる」「そのためには、異能の研究者を評価し、生かしてチームを組んでいける環境が必要」「研究者とは違う客観的な立場から各研究を見られるURAが、連携のつなぎ役として活躍してほしい」などの意見を交わしました。
また、人材の育成や確保については、若手の減少による担い手の先細りや、OECD(経済協力開発機構)で最下位レベルの理系女性学生の少なさなどを課題に挙げ、優秀な人材を獲得するためには金銭的リソースに加えて、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を考慮した環境整備が重要になる点についても指摘しました。加えて、リソース獲得のためにも「適切な科学コミュニケーションを通して、社会の科学に対する理解を高めていく必要がある」という意見が述べられました。
“連携”を通して、社会に資する研究の創出を目指す
第3部の座談会「研究力の展開と創出の新たな局面—“連携”に注目して—」では、導入としてファシリテーターを務める東工大の桑田薫副学長(総括URA)が、“連携”というテーマを設定した理由について「研究の高度化と社会の複雑化が進むなか、連携することで単独では難しかった価値を生み出しやすくなる」と説明し、研究力強化と連携の関わり、多様な連携の在り方、イノベーション創出や効率化といった連携の利点などについて解説しました。
その後、文部科学省 研究振興局大学研究基盤整備課 大学研究力強化室の馬場大輔室長、東工大科学技術創成研究院の大竹尚登院長、再登壇となる小泉特任教授や新田部門長をパネリストとしたディスカッションがスタートし、「テクノロジーと『場』の存在が連携を後押しする」「共同利用・共同研究拠点は安定して連携を保つことができる仕組みで共同研究を活性化する1つの場になったのではないか」などの議論を展開しました。
さらに今後の連携の強化に向け、「より広い分野を取り込んだ連携や国際的な連携を行えることが、“連携の場”としての魅力アップにつながる」「URAには大きなビジョンを持って、大学間や産学官の連携を創出するとともに、社会還元も含めた将来の方向性などのフレームワークづくりも行ってほしい」という提案や、分野や組織を超えた連携支援に携わるURAの活動をDXで支援する研究大学コンソーシアムの取り組み「MIRAI プロジェクト」を紹介しました。また「研究者が好奇心と喜びを持って研究に取り組める環境や恒常的な連携の場づくりが大切」「それを担う研究マネジメント人材こそが大学運営の主役。その重要性を認識し、支援の施策を行っていく」という意見が出されました。
随時、質疑応答なども行われたこのシンポジウムは、共催である研究大学コンソーシアムの幹事機関を務める自然科学研究機構の井本敬二理事による「今後も対話を通して、研究力強化の道を探っていきたい」という閉会のあいさつで締めくくりました。
参加者からは「改めて我が国の研究力強化に関して考えさせられることが多かった」などの感想が寄せられました。
東工大では引き続き学外とも幅広く連携しながら、研究力のさらなる向上と研究を通じた社会貢献を目指していきます。
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